親の家の名義や税金、兄弟・姉妹との話し合い、売るか残すかで困っていても、「まず誰に相談すればいいのか」が分からず、最初の一歩で止まってしまう人は多いです。
実家の問題は「名義」「税金」「家族の合意」「出口(売る・貸す・管理する)」の4つに分けると、司法書士・税理士・弁護士・不動産会社のどこへ最初に行くかが決まります。
無料で使える公的な窓口、相談先を間違えたときに失うもの、相談料や「無料相談」「専門家を紹介します」の裏側まで、相談する側に有利な事実を知ったうえで、最初の相談先に予約を入れられる状態を目指します。
実家の問題の4つの分類と、分類ごとの最初の相談先
実家の問題は、次の4つのどれかに当てはまり、分類が決まれば最初の相談先も決まります。
| 分類 | こんな状況 | 最初の相談先 |
|---|---|---|
| 名義・登記 | 家の登記上の名義人が亡くなった親のまま、祖父母のまま | 司法書士 |
| 税金 | 相続税がかかるのか分からない | 税理士(必要な人だけ) |
| 家族の合意・もめごと | 兄弟・姉妹で売る・残すの意見が割れている | 弁護士(争いがある場合) |
| 出口(売る・貸す・管理する) | 空き家のまま、遠方で管理できない、売るか貸すか迷っている | 不動産会社、自治体の空き家窓口 |
自分の実家を「はい・いいえ」で当てはめていくと、最初に行く相手が見えてきます。
ただし、分類をするには、まず名義と評価額を確かめる必要があります。そのための資料から説明します。
分類の前に確認する登記事項証明書と固定資産税の納税通知書
4つに分ける前に手元にそろえる資料は、登記事項証明書と固定資産税の納税通知書の2枚です。
1枚目の登記事項証明書は、法務局で取れる不動産の戸籍のような書類です。登記上の名義人は誰か、共有名義になっていないか、住宅ローンなどの抵当権が残っていないかが分かります。
法務局の窓口のほか、オンラインで請求して郵送で受け取ることもできます。実家がどこにあっても、全国どの法務局でも取れます。
2枚目の固定資産税の納税通知書は、毎年春ごろに所有者あてに届く書類です。土地と建物の「固定資産税評価額」が書かれていて、この金額が相続税の見積もりの手がかりになります。
親が存命なら親の手元に、亡くなっていれば遺品の中にあることが多いでしょう。見つからなければ、市区町村の資産税の窓口で「名寄帳(なよせちょう)」を取ると、親名義の不動産が一覧で分かります。
実家のほかに山林や畑を持っていた、という事実もここで分かります。
紙ではありませんが、「親の意向」と「遺言の有無」も資料のひとつです。親が存命なら家をどうしたいかを聞いておき、亡くなっていれば遺言書が残っていないかを探してみてください。
この確認で、「家族の合意」の分類に入るかが変わります。
名義が親や祖父母のままなら登記の問題として司法書士へ
登記上の名義人が亡くなった親のまま、または祖父母のままなら、「名義・登記の問題」として司法書士に相談します。
名義を相続人に変える手続きを「相続登記」といいます。2024年(令和6年)4月1日から、相続登記は義務になりました。それより前は、相続登記をするかは相続人の判断に任されていました。
不動産を相続で取得したと知った日から3年以内に申請する決まりで、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料(罰金のようなもの)が科される可能性があります。
2024年4月より前に相続した家も対象で、こちらは2027年(令和9年)3月31日が期限です。
司法書士は、相続登記を専門に扱う職種です。戸籍を集めて相続人を確定し、遺産分割協議書(誰が何を相続するかを決めた書面)を作り、法務局に登記を申請するところまで一通り任せられます。相続放棄の書類作成にも対応しています。
相続の手続きの入り口として守備範囲が広いので、「どこに行けばいいか迷う」という人は司法書士から入ると、二度手間がもっとも少なく済むでしょう。
一方で、相続登記は司法書士に頼むことが必須の手続きではなく、法務局の案内窓口を使って自分で申請する人もいます。頼むかは、費用と手間を比べて決められます。
費用の目安は最後の「相談料の相場」の章で、自分で進める方法は「無料の公的窓口」の章で説明します。
出典: 法務省 相続登記の申請義務化について/日本司法書士会連合会 司法書士の業務
相続税がかかるか分からないなら税金の問題として税理士へ(課税は1割弱)
相続税がかかる人は亡くなった人全体の約1割で、税理士が最初の相談先になる人は少数です。
国税庁の公表によると、2024年(令和6年)に亡くなった人のうち相続税の課税対象になった割合は10.4%でした。その前年は9.9%です。つまり、約9割の家庭は相続税の対象外でした。
理由は「基礎控除」です。相続税は、遺産の合計が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超えた部分にだけかかります。
相続人が子ども2人なら4,200万円、3人なら4,800万円までは非課税です。実家と預貯金だけという家庭なら、この範囲に収まることが多いといえます。
かかりそうかを自分で見積もる方法があります。固定資産税の納税通知書の評価額を使いましょう。
建物は固定資産税評価額がそのまま相続税の評価額になります。
土地は「路線価」で評価します。路線価は公示価格の8割程度、固定資産税評価額は公示価格の7割程度を目途に決められているため、固定資産税評価額を1.1〜1.2倍した金額が土地の目安になります。
あくまで概算なので、実際の評価額は国税庁の路線価図か税理士で確かめてみてください。
この金額に預貯金などを足して、基礎控除を超えそうなら税理士に相談しましょう。超えないなら、税理士に行く費用はゼロで済みます。
出典: 国税庁 令和6年分 相続税の申告事績の概要/国税庁 No.4152 相続税の計算/国税庁 No.4602 土地家屋の評価/国税庁 令和3年分の路線価等の補正について/総務省 固定資産税の概要
兄弟・姉妹で争いがあるなら弁護士へ、意見が揃わないだけなら全員で同じ専門家へ
「争っている」のと「意見が揃っていないだけ」では、相談先が違います。
遺産分割の話し合いがまとまらない、一人が書類への署名を拒んでいる、連絡がつかない。こうした「法律上もめている」状態なら、相談先は弁護士です。
相続人どうしの交渉や調停、裁判の代理に入れるのは、法律上、弁護士に限られます(弁護士法72条)。
一方で、「兄は売りたい、妹は残したい、まだちゃんと話し合っていない」という温度差の段階なら、弁護士に行くのは早いといえます。
この段階で役に立つのは、家族全員で同じ司法書士や税理士に相談しに行くことです。同じ専門家から同じ説明を聞くと、「何ができて何ができないか」の認識が揃い、話がまとまりやすくなります。
弁護士については、「相談」と「依頼」を分けて考えましょう。相談だけなら、相手の兄弟・姉妹に通知が届くことはなく、進め方の助言だけを受けられます。
正式に依頼すると、弁護士から相手に「受任通知」という書面が届き、相手は身構えます。話し合いで済んだはずの案件が、調停に進んでしまう例もあります。
もめそうだと感じたら、まず「相談だけ」をして進め方を聞くと安全です。
出典: 日本法令外国語訳データベースシステム(法務省) 弁護士法
売る・貸す・管理するなら出口の問題として不動産会社か自治体の空き家窓口へ
空き家のまま放置している、遠方で管理に通えない、売るか貸すか決めかねている。これは「出口の問題」で、相談先は不動産会社か自治体の空き家相談窓口です。
売ると決めている人にとって、不動産会社は最適な相手です。査定、買い手探し、契約、引き渡しまで、売却の作業は不動産会社に任せられます。
ただし、まだ売ると決めていない段階の「無料査定」については、ひとつ知っておくと役に立つ事実があります。
不動産会社の無料査定や無料相談は、売却を任せてもらう契約(媒介契約)を取るための営業活動です。健全な仕組みですが、「売るか考えたいだけ」の人には、営業の電話が続いたり、話が売却前提で進んだりすることがあります。
また、登記上の名義人が亡くなった親のままの家は、不動産会社に相談しても査定までで止まります。売買契約には相続登記が済んでいることが必要だからです。順番の詳しい決め方は「相談先の順番」の章で説明します。
売るか貸すか管理するか、まだ迷っている人には、自治体の空き家相談窓口という選択肢もあります。営業目的がないので、落ち着いて選択肢を整理できます。
親が存命のときの分類と相談先の違い
親が存命の場合は、4つの分類の中身が少し変わります。
名義・登記の問題は、相続が起きてから始まります。親が元気なうちに名義を変える必要はなく、相続が起きてから3年以内に登記すれば義務を果たせます。
税金の問題は、「相続税の申告」ではなく「生前の対策」になります。基礎控除を超えそうな家庭だけ、税理士に相談する意味があります。
家族の合意の問題は、兄弟・姉妹の話し合いより先に「親の意向を聞く」が来ます。親が家をどうしたいかが決まると、子どもどうしの話も進みます。
親の意向を遺言という形で残すなら、相談先は司法書士か弁護士です。家族信託という仕組みもありますが、相談先は同じです。
出口の問題は、「家を売る」より「親がどこに住むか」が先です。親が住み替えるのか、施設に入るのか、そのまま暮らし続けるのか。それが決まってから、空いた家をどうするかを考えることになります。
親の介護や判断能力の心配から実家の問題が始まっているなら、最初の窓口は「地域包括支援センター」です。高齢者の総合相談や権利擁護を担う公的な窓口で、相談は無料です。
問題を分けきれないときに使える無料の公的窓口の選択肢と限界
4つの分類に自分で当てはめられないときは、公的な窓口で無料で「切り分け」をしてもらえます。
名義が何代も前のまま、相続税がかかるか微妙、実家が遠くて今どうなっているかも分からない。そういう人のための窓口です。
最初に、公的窓口で得られることをはっきりさせておきましょう。得られるのは、次の4つです。
- 自分の問題はどの分類か
- 必要な書類は何か
- 費用の概算はいくらか
- 次にどの職種に行けばいいか
手続きの代行や、あなたの事情に合わせた最善の答えは出てきません。それでも、この4つが分かるだけで、その後の有料相談が1〜2回減ります。
もうひとつ、窓口には「実家の所在地」を基準にするものと「自分が暮らす場所」を基準にするものがあります。この違いを知らないと、「対象外です」と言われて空振りします。
実家の所在地の自治体にある空き家ワンストップ相談窓口
実家が空き家になっている、またはなりそうなら、実家のある都道府県や市区町村の「空き家相談窓口」が最初の候補です。
管理、賃貸、売却、解体、家財の片付け、相続、税金や法律のことまで、空き家に関する相談をまとめて受け付けます。必要に応じて、専門家団体や事業者を紹介してくれます。
東京都の例を挙げると、「東京都空き家ワンストップ相談窓口」は電話(0120-776-735、平日9時〜18時)で相談でき、相談は無料です。
東京都の案内では、対象は都内に暮らす人、都内に空き家を持っている人、都内の空き家を使いたい人です。つまり、自分は地方に暮らしていて実家が東京にある、という人も対象になります。
同じような窓口や相談会を設けている自治体は各地にあるので、実家のある自治体名と「空き家 相談窓口」で探してみてください。
自治体に電話するときは、担当課の名前で聞くと一度でつながります。空き家の担当は住宅課や建築指導課、固定資産税は資産税課です。代表番号に「実家のことで」と言うと、たらい回しになりがちです。
窓口でできるのは整理と紹介までで、紹介された専門家や事業者に実際の作業を頼む段階からは有料になります。
親が存命で介護や判断能力の心配が中心なら、空き家窓口より、実家のある地域の「地域包括支援センター」が入口になります。
出典: 東京都 東京都空き家ワンストップ相談窓口(報道発表)
自分の居住地の市区町村と士業団体の無料法律相談
多くの市区町村は、弁護士・司法書士・税理士などによる無料相談日を設けていて、自分が暮らす市区町村の役所で受けられます。
こちらは「その市区町村に暮らす人(または働く人)」が対象で、実家がどこにあっても使えます。予約制で、1回25〜30分程度が一般的です。
この無料法律相談には、知っておくと安心な特徴があります。多くの自治体で、担当した弁護士がその場で代理人の仕事を引き受けることはできないルールになっているのです。
公平性のための決まりですが、相談する側から見ると、営業される心配のない無料相談ということです。「無料相談に行くと契約を迫られそうで怖い」と感じている人には、ここが一番気楽な入口でしょう。
士業の団体も無料相談をしています。司法書士会の相続登記の相談、税理士会の相談会、弁護士会の法律相談センター(有料のことも多いですが、初回無料の枠がある場合もあります)などです。
自治体の相談日は担当者が当番制で、相続不動産に詳しい人が担当する日は限られます。「相続」「不動産」とテーマが限定された相談会を選ぶと、専門性のばらつきを避けやすくなります。
限界は、一般論にとどまりやすいこと、同じ案件での再相談を制限している自治体があること(千葉市は同一案件につき年度内1回)、平日の昼間が中心なことです。
出典: 大田区 法律相談/千葉市 法律相談(弁護士に相談)をしたいのですが
法テラスの無料法律相談と資力要件
法テラス(日本司法支援センター)では、収入と資産が基準以下の人が、弁護士や司法書士の法律相談を同じ問題について3回まで無料で受けられます。
法テラスは国が設立した公的な法人です。基準は地域と世帯人数で変わります。
たとえば東京都の特別区(23区)や大阪市などでは、1人世帯で手取り月収20万200円以下、資産(現金・預貯金・不動産・有価証券の合計)180万円以下が目安です。
2人世帯なら月収27万6,100円以下、資産250万円以下です。それ以外の地域では、1人世帯の月収は18万2,000円以下になります。住宅ローンや家賃の負担があれば、収入の基準は一定額まで上乗せされます。
ここで知っておくと有利なのは、この資産基準に「親の遺産」を含めない点です。基準を見るのは相談する本人の収入と資産なので、「実家を相続する立場だから無理だろう」と思い込んでいる人でも、要件に収まることがあります。
要件を満たさない人も、法テラスの「情報提供」は無料で使えます。制度の説明や、どの窓口に行けばいいかの案内は受けられ、個別の法律相談は対象外です。
法テラスは、兄弟・姉妹との間にもめごとがある、またはもめそうで、最初に弁護士の意見を聞きたい人におすすめです。
出典: 法テラス 無料法律相談のご利用の流れ(資力基準)/法テラス 無料法律相談に関するよくあるご質問
法務局の相続登記の手続案内と税務署の相続税の要否確認
名義の問題は法務局、税金の問題は税務署が、それぞれ無料の窓口を持っています。
士業に頼むかを決める前に、ここで「自分でできる範囲」を確かめられます。
法務局には「登記手続案内」があります。完全予約制で、1回20分以内。相続登記の申請書の書き方や必要書類を、職員が案内してくれます。
注意点は、これは書類の書き方の案内であって、遺産をどう分けるかの相談や、申請が通ることの保証とは別のものだという点です。
それでも、戸籍がそろっていて相続人の間で合意ができている単純なケースなら、司法書士に頼まずに自分で相続登記を終える人もいます。
同じく法務局で使えるのが「法定相続情報一覧図」です。戸籍の束を一度法務局に出すと、相続関係を1枚にまとめた公的な証明書を無料で発行してもらえます。
その後は、銀行や証券会社、税務署での手続きのたびに戸籍の束を出し直す手間が省けます。司法書士に頼むときも、この制度を使うか聞いてみる価値があります。
もうひとつ、「相続土地国庫帰属制度」の事前相談も法務局で受けています。2023年(令和5年)4月27日に始まった、相続した土地を一定の要件のもとで国に引き取ってもらう制度です。
実家の土地を手放す選択肢を考えている人は、各都道府県の法務局(本局)で、予約制の対面または電話相談ができます。制度の要件や費用はここでは触れず、窓口があるという事実だけ覚えておきましょう。
税務署では、相続税の相談ができます。電話相談センター(0570-00-5901、平日8時30分〜17時)のほか、書類を見てもらう必要がある場合は、電話で事前に申し込んで税務署での面接相談が受けられます。
国税庁のサイトには「相続税の申告要否判定コーナー」もあり、入力すれば申告が必要そうかの判定と税額の概算ができます。自分が「課税される1割」に入るかを、税理士に相談料を払う前に無料で確かめられるということです。
限界ははっきりしています。法務局は「書類の書き方」まで。遺産を誰がどう分けるかの相談は対象外です。税務署は「申告が必要か」と制度の説明まで。節税の助言や申告書の作成代行は範囲外です。
家庭裁判所にも相続放棄や調停の「手続案内」がありますが、同じく申立て書類の書き方の案内で、法律相談とは別です。
出典: 大分地方法務局 登記手続案内/法務局 法定相続情報証明制度について/法務省 相続土地国庫帰属制度/横浜地方法務局 相続土地国庫帰属制度の事前相談/国税庁 電話相談センター/国税庁 相続税の申告要否判定コーナー
公的窓口に共通する限界と、20分の相談で切り分けを終わらせる質問
公的窓口には共通する限界があり、それを知ったうえで質問を3つに絞ると、20分で切り分けが終わります。
共通する限界は次のとおりです。
- 管轄がある(居住地限定、または実家の所在地限定)
- 予約制で、1回20〜30分の時間制限がある
- 回答は一般論や制度の説明が中心
- 書類作成や申請、交渉などの代行はしない
- 担当者が当番制で、相続不動産に詳しいとは限らない
- 同じ案件での再相談を制限している場合がある
「結局、司法書士に頼むようにと言われただけだった」と感じる人もいます。
しかし、そこで「うちは相続税の対象外」「名義変更だけすればいい」と分かったなら、切り分けは成功です。その後に行く有料相談が、1回で済むようになったからです。
限られた時間を使い切るには、質問を絞りましょう。登記事項証明書と固定資産税の納税通知書を持って行き、聞くことを次の3つにします。
- 私の実家の問題は、名義・税金・家族の合意・出口のどれに当たりますか
- 次に進むために必要な書類は何ですか
- 次に相談すべき職種はどれですか
身の上話から始めると、20分はすぐに終わります。資料を見せて、この3つを聞く。それだけで、次の一歩が決まります。
電話相談を受け付けている窓口があれば、平日に休みを取らずに済むので、先にそちらを当たるのも手です。
公的窓口で切り分けを済ませてから有料の専門家に行くと、もうひとつ良いことがあります。「紹介された専門家をそのまま使う」流れに乗らず、自分で専門家を選べることです。紹介の仕組みは最後の章で説明します。
専門家ごとに対応できない範囲と、相談先を間違えて起きる二度手間
「それはうちの範囲外です。〇〇に行ってみてください」と言われるのは、正しい対応です。
士業がしてよい仕事の範囲は法律で決まっていて、範囲外のことは引き受けられないからです。むしろ気をつけたいのは、「全部うちでできますよ」と言ってくる相談先のほうです。
この章では、職種ごとに「できないこと」の境界と、その境界を越えて進めてしまったときに何を失うかを説明します。
失うものは相談料ではなく、売却後に使えなくなる税の特例、できなくなる相続放棄、こじれる家族関係です。後からどの専門家に行っても戻せないものばかりです。
弁護士・司法書士・行政書士の法律上の境界(紛争の代理と登記の申請)
相続に関わる3つの士業の境界は、「争いに入れるか」と「登記を申請できるか」の2点で覚えると分かりやすいです。
弁護士は、相続人どうしの交渉、家庭裁判所での調停、裁判の代理に入れる職種です。弁護士以外の人が報酬をもらって法律事件の代理をすることは、弁護士法72条で禁止されています。
司法書士は、相続登記の申請と、争いがない前提での遺産分割協議書の作成、戸籍の収集、相続放棄の申述書の作成などができます。
一方で、相続人の間の交渉や調停の代理は司法書士の業務の範囲外です。法務大臣の認定を受けた司法書士は簡易裁判所で訴額140万円以下の事件なら代理できますが、遺産分割は家庭裁判所の管轄なので対象外です。
「兄弟・姉妹と話がつかないので間に入ってほしい」は、弁護士に頼む仕事になります。
行政書士は、遺産分割協議書の作成や戸籍の収集、預貯金の解約手続きなどができます。ただし、登記手続の代理は司法書士法で司法書士の業務と定められていて、行政書士の業務の範囲外です。
「相続の手続きを丸ごと」とうたっていても、名義変更の部分は別の司法書士が担当することになります。
ここで、弁護士の「相談」と「依頼」の違いを補足します。相談は、弁護士から意見を聞くだけで、相手に知られずに済みます。依頼は、弁護士があなたの代理人になることで、相手に受任通知が届きます。
通知を受け取った側は「弁護士を立てられた」と受け取り、態度が硬くなりがちです。話し合いで決着できそうな段階なら、相談にとどめて進め方だけ聞くと、関係を保ったまま進められます。
出典: 日本法令外国語訳データベースシステム(法務省) 弁護士法/日本司法書士会連合会 司法書士の業務
税理士の独占業務と、不動産会社・銀行が断言できない税金と登記
あなたの実家について「相続税はかかりません」「売っても税金は出ませんよ」と具体的に答えてよいのは、税理士に限られます。
税理士法は、税務代理・税務書類の作成・税務相談を「税理士業務」と定め、税理士や税理士法人(と国税局長に通知した弁護士)以外がこれを行うことを禁止しています。有償・無償を問わず、違反は税理士法52条で罰せられます。
不動産会社ができるのは、査定、売却や賃貸の仲介、買取、管理です。登記の申請は司法書士の仕事なので、売却時の名義変更は司法書士に依頼する形になります。
税金の個別の断言も、不動産会社の業務の範囲外です。担当者が「税金のことは税理士に確認を」と言ったら、それは逃げではなく誠実な対応といえます。
逆に、税金について断言してくる担当者には、少し注意したほうがいいでしょう。
銀行や信託銀行には「遺産整理業務」というサービスがあります。相続手続き全体の取りまとめで、登記は提携の司法書士、申告は提携の税理士に外注する仕組みです。費用については最後の章で触れます。
税理士にもひとつ補足があります。税理士なら誰でも相続税に詳しいとは限らず、法人の決算や所得税が中心で、相続税の申告はほとんど扱わない税理士もいます。
実家の土地の評価のしかたで税額が変わることもあるので、経験の差は結果に出ます。見分け方は最後の章で説明します。
意見が割れている案件を司法書士や行政書士に持ち込んで止まる二度手間
兄弟・姉妹の意見が割れた状態で司法書士や行政書士に遺産分割協議書を頼むと、作成の途中で止まります。
遺産分割協議書は、相続人全員が合意して、全員が署名・押印して初めて完成します。一人でも「この内容では判を押さない」という人がいれば、そこで止まります。
司法書士も行政書士も、渋っている相続人を説得したり交渉したりすることは業務の範囲外です。結局、弁護士に相談し直すことになり、それまでに払った協議書作成の費用と、集めた戸籍のための時間が宙に浮きます。
司法書士に相続登記の相談に行くと、最初に「相続人の皆さんの合意はできていますか」と聞かれることがあります。合意がないまま進めても止まることを、司法書士が知っているからです。
「まだです」と答えたら、「先に話し合いを」か「弁護士へ」と案内されるはずで、それは正しい案内です。
逆に言えば、「兄弟・姉妹の合意がまだ」という段階なら、家族全員で同じ専門家の話を聞くか、弁護士に相談だけしてみるか、のどちらかが先です。
名義と税の見通しの前に不動産会社へ進んで失う特例と家族の合意
名義も税金の見通しも決まらないうちに不動産会社へ売却の相談をすると、家族の合意と税の特例の2つを失うことがあります。
ひとつ目は家族の合意です。「とりあえず査定だけ」のつもりで不動産会社に連絡すると、担当者から連絡が続き、売却を前提にした話が進みます。
それを知った兄弟・姉妹から「もう売る気なのか」「勝手に決めるのか」と言われて、話し合いがこじれる例があります。査定は売却に向けた行動として受け取られる、と意識しておきましょう。
ふたつ目は、税の特例です。相続した実家を売るときに使える代表的な特例に、「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」があります。
条件を満たせば、売却益から最高3,000万円を差し引けます。
2024年(令和6年)1月1日以後の売却からは、相続人が3人以上の場合の上限が2,000万円に変わりました。それより前の売却では、相続人の数にかかわらず3,000万円でした。
ただし、条件が細かく決まっています。
- 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 売却代金が1億円以下であること
- 建物が一定の耐震基準を満たすか、取り壊して更地にして売ること(売却後、翌年2月15日までに満たす形でも可)
- 区分所有の建物でないこと
- 2027年(令和9年)12月31日までに売ること
つまり、「いつ売るか」「建物を残すか壊すか」という売り方で、3,000万円の控除が使えるかが変わります。
このほか、相続税を払った人が相続税の申告期限の翌日から3年以内に売ると、払った相続税の一部を取得費に加算できる特例もあります。
これらは、売却が終わった後に税理士へ相談しても、取り返せません。不動産会社は税金の個別の助言ができない以上、「税の見通しを立ててから売り方を決める」という順番は、相談する側が守る必要があります。
出典: 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例/国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
相続放棄を迷っている段階で片付けや修繕より先に相談する相手
相続放棄を迷っているなら、家の片付けや修繕より先に、弁護士か司法書士に「何をしてはいけないか」を相談しましょう。
実家に価値がなく、むしろ負担になりそうだから相続放棄も考えている。でも、とりあえず家の中を片付けておこう、傷んでいるところを直しておこう、使わない家財は処分しよう。この順番が危険です。
民法921条は、相続人が相続財産の全部または一部を「処分」したときは、単純承認(すべてを相続すると認めること)をしたものとみなす、と定めています。
家財の売却や廃棄、建物の解体、賃貸に出すことなどが「処分」に当たると判断されると、その後に相続放棄をしようとしても認められなくなるおそれがあります。
保存行為(現状を保つための最低限の行為)や短期の賃貸は除外されていますが、どこまでが保存行為かの区切りは専門家でも慎重に判断します。
相続放棄の期限は、自分のために相続が開始したことを知ったときから3か月以内で、亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所に申し立てます。
この3か月の間に、不動産会社や片付け業者より先に、弁護士か司法書士へ相談することが、損を防ぐ一番の方法です。
出典: 裁判所 相続の放棄の申述/日本法令外国語訳データベースシステム(法務省) 民法(第四編第五編)
「全部できます」と抱え込む相談先と「紹介します」と言う相談先の見分け方
相談先の良し悪しは、業務の境界を越える発言があるかで、初回の会話で見分けられます。
注意したいサインは次の3つです。
- 不動産会社が「税金はかかりませんよ」と断言する
- 行政書士が「登記も含めて全部こちらでやります」と言う
- 司法書士が、兄弟・姉妹の合意ができていないのに「協議書を作れば大丈夫です」と進める
逆に、「それは私の範囲ではないので、〇〇を紹介します」「〇〇に確認を」と言う相談先は、自分の仕事の範囲を正しく分かっている相手です。範囲外を紹介するのは、たらい回しではなく正常な対応です。
相談を始めるときに、こちらから「この相談内容は、先生の範囲で対応できることでしょうか」と一言聞いてみてください。範囲外なら、その場で教えてもらえます。この一言で、二度手間の多くを防げます。
最後に、原則をひとつ。売買契約、家財の処分、建物の解体、賃貸契約、弁護士への正式な依頼。こうした「戻せない行為」は、相談が終わってから行いましょう。
相談先を間違えても、行為さえしていなければ、やり直せます。
問題が重なるときに相談先の順番を決める基準
名義も税金も家族の合意も出口も同時に気になるときは、「期限の近さ」と「依存関係」の2つの物差しで順番を決めます。
依存関係というのは、名義が決まらないと売れない、税の見通しが立たないと売り方を決められない、というように、前のことが決まらないと次に進めない関係のことです。
2つの物差しで並べると、順番は次のようになります。
- 兄弟・姉妹ともめている、相続放棄を迷っている人は、何よりも先に弁護士(放棄だけなら司法書士でも可)
- 相続税がかかりそうな人は、税理士に早めに着手し、司法書士と並行
- 名義を変える人は、司法書士
- 売る・貸す人は、不動産会社を最後に
- 空き家の管理・片付け・活用は、期限がないのでさらに後
以下で、それぞれの理由を説明します。期限の数字は出てきますが、順番を決める材料として使います。
相続人の争いと相続放棄の検討は他のすべてに先立つ(合意の有無と3か月)
兄弟・姉妹の間に争いがある人と、相続放棄を迷っている人は、他のすべてより先に弁護士へ相談します。
争いがある場合の理由は単純です。合意ができないと、遺産分割協議書も、相続登記も、相続税の特例の多くも、全部止まるからです。先に司法書士や税理士に行っても、「合意ができてから」と言われて戻ってくることになります。
相続放棄を迷っている場合は、期限が3か月と一番短く、迷っている間に家財の処分などをしてしまうと放棄できなくなるおそれがあるからです。
放棄だけの相談なら司法書士でも書類作成に対応できます。借金の有無が分からない、他の相続人との関係もからむ、という場合は弁護士のほうが一度で済むでしょう。
もうひとつ、親の遺言で実家が特定の相続人に渡っている場合は注意が必要です。他の相続人には「遺留分」という最低限の取り分を請求する権利があります。
この権利は、相続の開始と遺留分を侵害する遺言や贈与があったことを知ったときから1年で時効になります(相続開始から10年を過ぎたときも同じです)。
遺言があるなら、内容に納得していても、一度は弁護士に相談して自分の立場を確かめておくと安全です。
出典: 裁判所 相続の放棄の申述/裁判所 遺留分侵害額の請求調停
相続税がかかる見込みがあるときだけ税理士を先に、司法書士と並行する(10か月)
基礎控除を超えそうな人は、亡くなってから3か月以内を目安に税理士に着手し、司法書士と並行して進めます。
相続税の申告と納税の期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。10か月と聞くと余裕がありそうですが、かなり短いです。
戸籍を集めて相続人を確定するのに1〜2か月、不動産や預貯金の評価に1〜2か月、そこから遺産分割の話し合いに数か月。葬儀や法要の合間に進めることを考えると、あっという間でしょう。
期限ぎりぎりになると、税理士を比べて選ぶ余裕がなくなり、特例を使うための検討も間に合わなくなります。
税理士と司法書士は、同時に進めるほうが効率的です。戸籍、固定資産税の評価証明書、登記事項証明書は両方の手続きで使うので、どちらかが集めた書類を使い回せば、二度集めずに済みます。
提携している事務所どうしなら、依頼者が間に入らなくても書類が回ります。
逆に、基礎控除を超えない見込みの人は、税理士を飛ばして司法書士から始められます。
なお、亡くなった人に事業所得や不動産所得があった場合は、「準確定申告」という所得税の申告が、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に必要です。該当する場合だけ、税理士に合わせて相談しましょう。
出典: 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税/国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
名義の確定、税の見通し、売却の順で決まる司法書士・税理士・不動産会社の順番
売ることを考えている人は、名義の確定、税の見通し、売却の順に進めます。前が決まらないと次に進めない関係があるからです。
まず名義です。登記上の名義人が亡くなった親のままでは売買契約ができないので、相続登記を先に済ませます。
相続人全員で売って代金を分けるのか、一人が相続してから売るのかで、登記の内容も税金も変わります。ここは司法書士と、必要なら税理士に相談して決めます。
次に税の見通しです。空き家の3,000万円特別控除は、建物を残して売るか、取り壊して更地で売るか、いつまでに売るかで、使えるかが変わります。
不動産会社から入ると、「早く売りましょう」が先に来て、特例の条件を満たさない売り方になることがあります。売り方を決めるのは、税の見通しを立ててからです。
そして最後に不動産会社です。名義が決まり、売り方の条件が決まってから相談すれば、不動産会社は条件に合う形で最善の売却を進めてくれます。順番さえ守れば、不動産会社はもっとも頼りになる相手です。
ひとつだけ例外があります。「机上査定」と呼ばれる、現地を見ずに資料だけで出す簡易な査定は、売るかを家族で考えるための材料として、早い段階で取って大丈夫です。
担当者が家を見に来る訪問査定や、売却を任せる媒介契約は、名義と税の後にしましょう。
空き家の管理、家財の片付け、活用の相談には期限がなく、名義と税が片付いた後で十分です。
先に片付けや解体を進めると、相続放棄や特例の条件を壊すことがあります。自治体の空き家窓口に活用を相談するのも、名義と税の後にしましょう。
親が存命の場合は、この流れの一番上に「親の意向」と「遺言」が来ます。
期限に間に合わないときの未分割申告と相続人申告登記
話し合いが期限内にまとまりそうにないときのために、相続税には「未分割申告」、相続登記には「相続人申告登記」という救済の制度があります。
この2つを知っていると、専門家に「急いでください」と言われても、焦って相談先を決めずに済みます。
ひとつは、相続税の「未分割申告」です。遺産分割がまとまらなくても、法律で決まった相続分で分けたと仮定して、期限内に申告と納税をしておくことができます。
後で分割がまとまったときに、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使い直せます。使い直せるのは原則として申告期限から3年以内に分割できた場合で、「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告時に出しておきます。
分割がまとまった日の翌日から4か月以内に、更正の請求という手続きで税金を戻してもらう形です。
もうひとつは、「相続人申告登記」です。相続登記の義務(3年以内)を果たすための簡易な制度で、「自分がこの不動産の相続人です」と法務局に申し出ると義務を履行したことになります。遺産分割がまとまらなくても使えます。
ただし、本来の相続登記の代わりにはならず、売却や抵当権の設定には通常の相続登記が必要です。遺産分割がまとまった後は、その内容で改めて登記する義務があります。
この2つは、問題を先送りするための制度ではなく、「期限に追われて不利な条件で合意する」ことを避けるための制度です。存在を知っているだけで、相談先の選び方に余裕が生まれます。
出典: 国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告/法務省 相続登記の申請義務化について(相続人申告登記)
相談の窓口を一人にまとめるときに選ぶ職種
問題が重なっているとき、一人の専門家に窓口になってもらう方法は有効で、窓口にする職種は案件の型で決まります。
窓口にする職種を間違えると、紹介が一周して元に戻ってくることがあります。
- 兄弟・姉妹と争いがあるなら、弁護士を窓口に。解決後に司法書士・税理士を紹介してもらう
- 相続税がかかるなら、税理士を窓口に。評価と分割案を作り、提携の司法書士につないでもらう
- 相続税がかからないなら、司法書士を窓口に。登記を進め、売却時に不動産会社につないでもらう
たとえば相続税がかかるのに司法書士を窓口にすると、「税のことは税理士に」と紹介され、税理士側で評価や分割案をやり直すことになります。
逆に相続税がかからないのに税理士を窓口にすると、「申告は不要です」で終わり、結局司法書士を探し直すことになります。
もうひとつ、兄弟・姉妹がそれぞれ別の専門家に相談して、言っていることが食い違い、話がまとまらなくなる例があります。家族で窓口を一人に決め、全員がその人の説明を聞く形にすると、この混乱を避けられます。
窓口の専門家から他の職種を紹介してもらう方法と、自分で探す方法のどちらも選べます。ただし紹介には仕組みがあります。それを知ったうえで判断するために、最後の章を読んでみてください。
相談料の相場と、無料相談・専門家紹介の仕組みと見極め方
相談料そのものは初回無料から1時間5,000円台くらいまでが大半で、本当にお金がかかるのは依頼した後の報酬です。
誰に、どの順番で相談するかが決まったら、最後に残るのが「いくらかかるのか」「無料と言われたけれど大丈夫か」「紹介された人でいいのか」です。
相談先を選ぶときに見るべきは、相談料の安さより「相談の段階で、依頼後の総額の見積もりを出してくれるか」です。
もうひとつ、「無料」と「紹介」は、誰がその費用を負担しているかで読みます。不動産会社の無料相談が仲介手数料で成り立っているのは、健全で分かりやすい仕組みです。売ると決めた人にとっては、むしろ一番頼れる相手です。
この章は、特定の業種を悪く言うためではなく、仕組みを知ったうえで自分で選べるようになるための章です。
弁護士・司法書士・税理士の相談料の相場と初回無料の範囲
弁護士の相談料は30分5,000円前後を目安にする事務所が多く、司法書士と税理士は初回無料の事務所が多数派です。
弁護士の報酬は、かつてあった弁護士会の統一基準が廃止されて以来、各事務所が自由に決めています。それでも、30分5,000円前後という水準を目安に掲げる事務所は今も多く見られます。
一方で、初回相談を無料にしたり、初回30分だけ無料にしたりする弁護士事務所も増えています。司法書士と税理士は、有料でも30分から1時間で5,000円前後が一般的な目安です。
ここで知っておきたいのは、「無料」の範囲です。無料なのは、話を聞いて大まかな方向性を示すところまでです。
書類を精査する、具体的な手続きの見積もりを作る、実際に手続きを始める、という段階からは有料になります。
「初回無料に行ったら、問題点を指摘されただけで、中身の話は依頼してからと言われた」という体験談は、この仕組みを知らなかったために起きます。
無料相談の目的は、「この人に頼むかを判断する」ことだと割り切っておくと、がっかりせずに済みます。
そして、相続税がかからない見込みの人は、税理士への相談料をゼロにできます。
税務署の無料相談や申告要否判定コーナーで要否を確かめれば、税理士に払う費用はゼロで済みます。念のため税理士の意見も聞きたいなら、初回無料の事務所を選べば同じくゼロです。
依頼後の費用の内訳(基本報酬・加算・実費)と見積りで分けて聞く項目
依頼後の費用はどの職種でも「基本報酬」「加算」「実費」の3つに分かれ、見積もりはこの3つに分けて聞きます。
実費はどこに頼んでも同じ金額なので、事務所ごとに比べるのは報酬の部分だけでよいからです。
司法書士の相続登記を例にします。日本司法書士会連合会が2024年に公表した報酬アンケートの標準的なケースは、土地1筆と建物1棟(固定資産評価額の合計1,000万円)を、法定相続人3人のうち1人が相続する形です。
このケースで、戸籍の取得と遺産分割協議書の作成を含む報酬の平均は74,888円、もっとも多い回答は5万円台でした。不動産や相続人の数が増えれば加算されます。
ここに実費が乗ります。一番大きいのは「登録免許税」で、相続による所有権移転登記では固定資産税評価額の0.4%(1,000分の4)です。
計算は「固定資産税評価額×0.4%」です。たとえば評価額2,000万円の実家なら8万円で、報酬と同じくらいの金額になります。自分の実家の額は、納税通知書の評価額を当てはめて計算してみてください。
なお、評価額100万円以下の土地については、2027年(令和9年)3月31日まで登録免許税が免除される措置があります。
「登記費用は20万円です」とまとめて言われたら、「そのうち登録免許税はいくらで、報酬はいくらですか」と分けて聞いてみてください。それだけで、見積もりの妥当性が見えます。
税理士の相続税申告は、「遺産総額の0.5〜1%程度」が目安として挙げられることが多いです。
この目安で計算すると、遺産5,000万円なら25万〜50万円程度になります。土地の数や相続人の数、書面添付の有無などで加算があるので、実額は各事務所の見積もりで確かめます。
弁護士は、依頼時の着手金と、解決時の報酬金の2段階が一般的です。
費用で損をしやすい組み合わせも知っておきましょう。遺産分割協議書を行政書士に、登記を司法書士に、と分けて頼むと、戸籍の収集や説明が二重になり、司法書士に一本化するより高くつきやすいです。
銀行や信託銀行の遺産整理業務は、最低手数料が110万円(税込)に設定されている例があり、そこに提携の司法書士や税理士への報酬、登録免許税などの実費が別途かかります。
相続手続きの中では、もっとも総額が高くなりやすい選び方です。
相続人が多く、全員が遠方で誰も動けない、という場合には遺産整理業務に価値があります。実家と預貯金くらいの相続なら、司法書士に直接頼むほうがはるかに安く済みます。
出典: 日本司法書士会連合会 司法書士の報酬アンケート結果(2024年)/国税庁 No.7191 登録免許税の税額表/りそな銀行 相続手続代行サービスの手数料
不動産会社と銀行の無料相談が成り立つ仕組み(仲介手数料と遺産整理業務の報酬)
不動産会社の相談や査定が無料なのは、売却が成立したときに受け取る仲介手数料で費用を回収する仕組みだからです。
仲介手数料は宅地建物取引業法にもとづく告示で上限が決まっています。800万円以下の低額な物件については、2024年(令和6年)7月1日から上限が33万円(30万円の1.1倍・税込)に引き上げられました。
それより前は、対象が400万円以下の物件で、上限は19万8,000円(18万円の1.1倍)でした。地方の空き家など安い物件を、不動産会社が扱いやすくするための改正です。
この仕組みは健全で、分かりやすいものといえます。だからこそ、使い分けがはっきりします。
売ると決めた人にとって、不動産会社は無料で相談でき、成功したときだけ報酬を払う、理想的な相手です。一方、売るか決めていない人にとっては、不動産会社は「売る方向」で話を進める相手なので、相談のタイミングとしては早すぎます。
銀行の無料相談も、仕組みを知っておくと落ち着いて使えます。銀行の相続相談は、遺産整理業務や遺言信託、提携する不動産会社への売却の仲介、相続した預金の運用商品の提案につながる入口です。
相談は無料でも、その先にある商品やサービスには、それぞれ費用がかかります。「無料で相談に乗ってもらったから」という義理で、総額の高いサービスを選ぶ必要はないといえます。
出典: 大阪府 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(建設省告示)令和6年6月21日改正/国土交通省 「不動産業による空き家対策推進プログラム」の進捗状況について
専門家紹介と紹介料の慣行、紹介された専門家をそのまま使うかの判断基準
「司法書士を紹介しますよ」「提携の税理士がいます」という紹介は便利ですが、仕組みを知ったうえで使うかを決めます。
紹介をめぐる決まりは、職種によって違います。弁護士は、弁護士職務基本規程13条で、依頼者を紹介してもらったことへの謝礼や対価を支払うことも、紹介したことへの対価を受け取ることも禁止されています。
一方で、士業の中には紹介業者や紹介サイトを通じて依頼を受ける形が広く成り立っている職種もあります。紹介する側に手数料が入る仕組みの場合、その分が最終的に依頼者の報酬に上乗せされていることがあります。
もうひとつ知っておきたいのは、継続的に紹介を受けている専門家は、紹介元の意向を意識しやすいということです。
たとえば不動産会社から紹介された専門家は、「早く売却が進む」方向で助言しやすい立場にあります。悪意があるわけではなく、その立場に置かれた人なら誰でもそうなりやすい、ということです。
判断の基準はシンプルです。紹介先を1つだけ指定され、「ここに頼んでください」という流れなら、少し立ち止まる。複数の候補を示されたり、「ご自身で探されてもかまいません」と言われたりするなら、健全な紹介です。
実家の売却で役立つ知識をひとつ。売買の決済に立ち会う司法書士は、買主側(住宅ローンを組む銀行)が指定する慣行があり、売主が選べないことが多いです。
しかし、その前に行う売主側の相続登記は、売主が自分で選んだ司法書士に頼めます。不動産会社の提携司法書士に流れやすい場面ですが、自分で選ぶ権利があります。
「実家の相談窓口」「相続診断士」といった民間の窓口やサービスも増えています。相談は無料のことが多いですが、提携する事業者や士業への紹介で成り立っている形が一般的で、士業のような業務独占の資格とは別の、民間のサービスです。
使うことは自由ですが、公的窓口とは性質が違うことは知っておきましょう。「お祝い金」や「紹介料のキャッシュバック」をうたうサービスも、費用が安く見えるだけで、総額は変わりません。
出典: 法務省掲載 弁護士職務基本規程(日本弁護士連合会 会規第70号)
初回相談で確認する5つの質問と、複数の見積りの比べ方
初回相談で次の5つを聞くと、相談先を選ぶための判断材料がそろいます。
- 依頼した場合の総額の見積もりを、書面でいただけますか
- 加算になる条件と、実費の内訳を教えてください
- 先生の範囲でできないことは何で、その部分の費用は別にかかりますか
- 他の専門家を紹介される場合、紹介料のやり取りはありますか
- 相続税の申告(または相続登記)は、年間どのくらい扱っていますか
1と2で費用の全体像、3で業務範囲の境界、4で紹介の仕組み、5で経験が分かります。
初回で概算を出せる事務所は、似た案件を数多く扱っている事務所です。「まず戸籍を集めてからでないと分かりません」と見積もりを出さない事務所は、着手してから費用が膨らみやすい傾向があります。
見積もりは、2〜3件取って比べましょう。相見積もりを取るのは失礼にはあたらず、士業の側も、比べられることを前提に見積もりを出しています。
比べるポイントは、安さより次の4つです。
- 実費はどこも同じなので、報酬の部分を比べる
- 内訳が透明か
- できない範囲をはっきり言うか
- 担当するのが本人か
税理士については特に、土地の評価のしかたで納税額が大きく変わるため、報酬が少し高くても経験のある税理士のほうが結果的に得になることがあります。
不動産会社なら、売却を前提に話すのか、売らない選択肢も含めて話してくれるのかを見てみてください。
最後に、お金の桁を整理します。相談料は数千円です。紹介を経由した報酬の上乗せは、数万円から十数万円になることがあります。
銀行経由で手続きを進めたときの費用の差は、数十万円単位です。税理士の選び方による納税額の差は、数十万円を超えることもあります。
「相談料を節約する」より「依頼後の報酬を比べる」ほうが、はるかに大きな節約になります。
まとめ:実家の問題は4つに分ければ最初の相談先が決まる
いちばん重い答えは、「相談先は職種の説明ではなく、自分の問題の分類で決まる」という点です。名義は司法書士、税金は税理士、争いは弁護士、売却は不動産会社に当てはめれば、最初の一人が決まります。
次の一歩は、登記事項証明書と固定資産税の納税通知書の2枚をそろえることです。この2枚を飛ばすと「名義を確かめてから」と出直しになり、名義が決まらないまま売却へ進めば家族の合意と税の特例を失うおそれがあります。
2枚がそろったら、自分の実家が4つのどれに当たるかを確かめて、最初の相談先に予約の電話を一本入れてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、実家の問題の相談先の選び方も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。

