誰も住まない実家を相続したときの初動|最初に確かめる項目と管理の始め方

親が亡くなり、実家に誰も住まないと決まったとき、相続の手続きと家の扱いが頭の中で混ざって、何から手を付ければよいか分からなくなる人は多くいます。

実は、相続直後の数か月には、片付けから始めると相続放棄ができなくなる、親戚に貸すと売却時の税金の特例が消える、といった初動の段階で防げる損がいくつもあります。

誰も住まない実家を相続した人が最初に確かめる項目、見落とせない期限、管理の始め方、売るか残すかを決める材料の集め方を順に整理します。

誰も住まない実家を相続したら最初に確かめる項目

売る・残すを考える前に、確定させておく事実が3つあります。

実家が誰の名義で何が付いているか。相続して大丈夫な財産か(借金の有無)。そして、誰が決める権利を持つかです。この3つが宙に浮いたままでは、不動産会社に相談しても自治体の窓口に行っても、話が前に進みにくくなります。

もう一つ、最初に知っておく前提があります。遺産分割が終わるまで、実家は相続人全員が共同で持つ状態(民法898条の共有)です。売る・貸すには相続人全員の合意が要ります。

一方で、雨漏りの応急修理や見回りのような現状を保つ行為は、共有者の一人が単独でできます(民法252条5項)。管理は一人で始められ、処分は全員で決める。この区別を覚えておくと、後に出てくる行動の順番が整理しやすくなります。

遺言書の有無を公証役場と法務局で照会する

遺言書は、実家の引き出しや仏壇を探して「無かった」で終わらせず、公証役場と法務局にも照会しておきましょう。

本人以外が知らない場所に預けられている場合があるためです。

公正証書遺言なら、日本公証人連合会の遺言検索システムで調べられます。平成元年以降に全国の公証役場で作られた公正証書遺言の情報が一元管理されていて、相続人などの利害関係人が最寄りの公証役場で無料で照会できます。

必要なのは次の3点です。

  • 亡くなった人の除籍謄本
  • 自分が相続人だと分かる戸籍謄本
  • 本人確認書類

自筆の遺言書は、法務局で預かる制度(自筆証書遺言書保管制度)があります。相続人は法務局に「遺言書保管事実証明書」(1通800円)を請求すれば、預けられている事実の有無が分かります。

預けられていれば「遺言書情報証明書」(1通1,400円)で内容を確認でき、家庭裁判所の検認は不要です。逆に、保管制度を使っていない自筆の遺言書が家の中から出てきたら、開封せずに家庭裁判所へ検認を申し立てます(民法1004条)。

遺言書があれば、実家を誰が引き継ぐかはそこで決まります。無ければ相続人全員で遺産分割協議を行います。どちらになるかで以降の手続きの相手が変わるので、照会を一番最初に済ませておくと後の手戻りを防げます。

出典: 日本公証人連合会「Q1. 亡くなった方について、公正証書遺言が作成されているかどうかを調べることができますか?」出典: 東京法務局「遺言者が亡くなられた後に行う手続」出典: 札幌法務局「1 制度の概要(自筆証書遺言書保管制度)」

登記事項証明書で実家の名義と借地・未登記建物を確かめる

実家の登記上の名義人は、現物の登記事項証明書で確かめておきましょう。

「親に決まっている」と思い込みがちですが、祖父母の名義のままという家が珍しくないためです。親が相続登記をしていなければ、今回の相続は祖父母からの相続(数次相続)も含めて片付けることになり、相続人の数も必要な戸籍も一気に増えます。

登記事項証明書は、不動産登記法119条により誰でも取れます。法務局の窓口なら1通600円、オンライン請求で郵送受取なら520円です。土地と建物それぞれの証明書を取り、次の4点を見てみてください。

  • 所有者の氏名
  • 土地と建物の所有者が同じ人か
  • 権利部(乙区)に抵当権などの担保が残っていないか
  • 建物の床面積や構造が現況と合っているか

所有者の欄では、親か祖父母か、親以外の共有者がいないかを見ます。土地が他人名義なら借地で、地主との契約を引き継ぐことになります。抵当権は完済済みでも抹消登記がされていない場合があります。増築部分が未登記だと、売却時に表題変更登記が必要です。

ここで、売れる土地か売りにくい土地かを左右する事実が出てきます。借地であれば売却には地主の承諾が要り、未登記の増築部分は買主の融資審査で問題になります。早く分かるほど、対応の選択肢が残ります。

出典: 法務局「登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続が便利です」出典: e-Gov法令検索「不動産登記法」第119条

課税明細書と名寄帳で実家以外の不動産を洗い出す

親名義の不動産は、実家の土地と建物だけとは限らず、課税明細書と名寄帳で全部を洗い出しておきましょう。

私道の持分、農地、山林、離れた場所の物置の敷地など、本人も忘れていた不動産が後から出てくると、相続登記も遺産分割協議もやり直しになります。

最初に見るのは、毎年春に届く固定資産税の納税通知書に同封される課税明細書です。そこに載っている土地と家屋が、その市区町村で課税されている親名義の不動産の一覧になります。

ただし、課税明細書は非課税の私道や評価額が低い土地を省く場合があります。市区町村の税務課で「名寄帳」(固定資産課税台帳の写し)を取ると漏れが減ります。名寄帳は法定相続人であれば請求でき、必要書類は法定相続情報一覧図、または親の除籍謄本と自分の戸籍謄本です。

別の市区町村にある不動産は、名寄帳の対象外です。親宛に届いていた他の自治体からの納税通知書、権利証(登記識別情報)、金融機関の貸金庫の中身で当たりを付けます。

法定相続情報一覧図は、戸籍の束を法務局に一度出せば認証付きの写しを無料で発行してもらえる制度です。名寄帳、銀行の解約、相続登記、相続税の申告と、相続人であることを証明する場面は何度も来ます。最初に作っておくと戸籍を何通も取り直さずに済みます。

出典: 東京都主税局「【土地・家屋】相続人・受遺者|固定資産に関する証明等(23区内)」出典: 法務局「法定相続情報証明制度」について

借金と保証債務を信用情報機関と郵便物で確かめる

実家を相続するか放棄するかは、不動産と借金を合わせた全体で決めるため、負債の確認を片付けより先に終えておきましょう。

相続は財産も負債もまとめて引き継ぎます。借金が財産を上回るなら、相続放棄や限定承認を考えることになります。

借入の有無は、信用情報機関に相続人が開示請求できます。

  • CIC(クレジット会社系)は法定相続人が郵送で請求できる
  • JICC(消費者金融系)は法定相続人または2親等以内の血族が請求できる
  • 全国銀行協会(銀行系)は法定相続人が請求できる

3機関それぞれに請求して、カードローン、クレジット、銀行融資の残高を突き合わせます。

注意が必要なのは、信用情報に載らない負債です。親が誰かの連帯保証人になっていた保証債務、個人間の借金、税金や社会保険料の滞納は、信用情報の対象外です。

こうした負債は、実家に届いている郵便物(督促状、金融機関からの通知、税の滞納通知)、通帳の引落の履歴、金銭消費貸借契約書や保証契約書の控えから見つかります。遺品の中の書類は、捨てる前に一度目を通しておくと安心です。

出典: CIC「亡くなった家族(被相続人)の情報開示をすることはできますか?」出典: JICC「二親等以内の血族 法定相続人等による開示」出典: 全国銀行協会「【1】本人開示の手続きについて」

相続放棄を決めるまで家財の処分をしない

相続直後に一番やりたくなるのが家の片付けで、一番やってはいけないのも家の片付けです。

民法921条1号は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは単純承認をしたものとみなす、と定めています。単純承認とは、借金も含めて全部相続すると認めたという扱いです。

価値のある家財や貴金属を売る、捨てる、形見分けで持ち帰るといった行為は、この「処分」に当たるおそれがあります。後から借金が見つかっても相続放棄ができなくなる可能性があるわけです。

除外されているのは「保存行為」です。腐る食品を捨てる、雨漏りの応急修理をする、家の見回りをする、といった現状を保つ行為は処分に当たらないと整理されています。片付け業者を呼んで家財を一括処分するのは、保存行為の範囲を超えます。

片付けを先に始めた例

父が亡くなり、実家に誰も住まないと決まった長女は、四十九日の前に片付け業者を呼び、家具や家電をまとめて処分しました。

その後、父が知人の借金の連帯保証人になっていたことが督促状で分かりました。相続放棄を相談した専門家からは、家財の処分が「相続財産の処分」に当たるおそれがあると指摘され、放棄が認められるか不安を抱えたまま手続きを進めることになりました。

片付けを負債の確認の後に回していれば、避けられた不安です。

相続放棄の可能性が少しでもあるなら、負債の確認が終わって「相続する」と決めるまで、家の中は触らずに写真だけ撮っておきましょう。放棄の期限は3か月ですが、調査が終わらなければ家庭裁判所に期間の伸長を申し立てられます(期限の章で詳しく扱います)。片付けは、その後でも遅くありません。

なお、相続放棄をした後でも、その時点で実家を現に占有していれば、次の相続人や相続財産の清算人に引き渡すまで自分の財産と同じ注意で保存する義務が残ります(民法940条)。放棄すれば翌日から無関係になる、というわけではない点も頭に入れておくと安心です。

出典: e-Gov法令検索「民法」第921条出典: e-Gov法令検索「民法」第940条

相続した空き家で見落とせない期限

誰も住まない実家の持ち主にとって結果が大きく変わる期限は4本です。

急ぐ順に並べると、相続放棄の3か月、準確定申告の4か月と相続税の10か月、相続登記の3年、そして空き家の3,000万円特別控除が使える「相続から3年目の年末」です。

期限起算点間に合わなかった場合
3か月自分のために相続が始まったと知った時相続放棄・限定承認ができなくなる(単純承認)
4か月相続の開始を知った日の翌日準確定申告の期限超過(必要な人のみ)
10か月亡くなったことを知った日の翌日相続税の申告・納付の期限超過(基礎控除を超える人のみ)
3年不動産を相続で取得したと知った日相続登記の義務違反で10万円以下の過料のおそれ
3年目の12月31日相続開始の日空き家の3,000万円特別控除が使えなくなる

このうち、初動の行動次第で結果が変わるのは「3か月」と「3年目の年末」です。3か月は家庭裁判所で延ばせる一方、片付けで消えます。3年目の年末は、親戚に貸した時点で消えます。

相続放棄と限定承認は3か月以内

相続放棄も限定承認も、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述します(民法915条)。

親が亡くなったことを知った日が起算点になるのが普通です。

3か月で借金の全体像が分からないときは、諦めて放棄する・諦めて相続するの二択のほかに、期限そのものを延ばす方法があります。裁判所は、3か月以内に相続財産を調査してもなお承認か放棄かを判断する資料が得られない場合、「相続の承認又は放棄の期間の伸長」の申立てにより期間を伸ばせると案内しています。

信用情報機関からの回答待ちや、保証債務の有無の確認に時間がかかるなら、期限が来る前に伸長を申し立てておきましょう。

限定承認は、相続で得た財産の範囲でだけ借金を引き継ぐ方法で、相続人全員で申述する必要があります。実家を残したいが借金がどれだけあるか分からない、という場面で使われます。

出典: 裁判所「相続の放棄の申述」出典: 裁判所「相続の限定承認の申述」

準確定申告は4か月以内・相続税の申告は10か月以内

準確定申告は、亡くなった人のその年の1月1日から死亡日までの所得について、相続人が代わりに行う確定申告です。

相続の開始を知った日の翌日から4か月以内が期限です。親に不動産所得や事業所得があった場合や、年の途中で退職した場合などに必要で、年金収入だけで源泉徴収されていた人なら不要な場合もあります。

医療費が多ければ還付になるケースもあります。「申告は不要」と決める前に、税務署か税理士に確認してみてください。

相続税の申告は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。相続税がかかるのは、遺産の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合に限られます。相続人が子ども2人なら、4,200万円までは申告も納税も不要です。

実家の土地の評価は、路線価を基に計算します。国税庁は路線価を地価公示価格等の8割程度を目途に定めているため、売買価格より低くなるのが普通です。

ただし、特例を使って基礎控除内に収める場合は申告が必要です。誰も住まない実家では小規模宅地等の特例の適用条件が細かく、当てはまらない人も多いため、期待して計算に入れる前に確認しておきましょう。

出典: 国税庁「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」出典: 国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」出典: 国税庁「No.4152 相続税の計算」

相続登記は3年以内

2024年4月1日から、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記をすることが義務になりました。

正当な理由なく登記しないと、10万円以下の過料が科される可能性があります。2024年4月1日より前に相続した不動産で登記がまだのものも、2027年3月31日までに登記が必要です。祖父母名義のままの実家なら、この期限がそのまま当てはまります。

遺産分割がまとまらず3年以内に相続登記ができそうにないときの逃げ道が、相続人申告登記です。法務省の案内では、特定の相続人が単独で申し出ることができ、自分が登記上の所有者の相続人だと分かる戸籍の証明書を添付すればよく、登録免許税も不要です。

これで申し出をした相続人については相続登記の義務を果たしたものとみなされ、過料を避けられます。

ただし、相続人申告登記は「自分が相続人の一人だ」と登記簿に記しておくだけの手続きです。実家を売ったり抵当権を設定したりするときには、別途正式な相続登記が必要です。売ると決めたら、遺産分割協議を終えて本登記に進みます。

出典: 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」出典: 法務省「相続人申告登記について」

空き家の3,000万円特別控除は相続から3年目の年末まで

相続した実家を売ったときに、売却益から最高3,000万円を差し引ける制度が「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」です。

国税庁の案内に沿って、主な要件を挙げます。

  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋で、区分所有建物(マンション)ではない
  • 相続の開始の直前に、亡くなった人が一人で住んでいた(要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所していた場合も、一定の要件を満たせば対象)
  • 相続の時から売る時まで、事業・貸付け・居住に使われていない
  • 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る
  • 2027年12月31日までの売却である
  • 売却代金が1億円以下である

初動で知っておく価値があるのは、3番目の要件です。「空き家にしておくのはもったいないから、とりあえず親戚に貸そう」「民泊に出そう」と一度でも貸付けに使うと、この特例は対象外になります。売る可能性が残っているうちは、貸さずに置いておく方が得になる場合があります。

もう一つは、2024年1月1日以後の売却から、買主が売却の翌年2月15日までに耐震改修か取壊しをすれば売主側で特例を使えるようになった点です。以前は売主が自分で壊してから売るか、耐震改修をしてから売る必要がありました。

古い実家を更地にする費用を先に出さなくても、売買契約の中で買主に取壊しを引き受けてもらう形で特例を狙えます。

相続人が3人以上で実家を取得した場合は、控除は1人2,000万円までに下がります。期限の起算は「相続開始の日」なので、遺産分割協議が長引いても期限はそのままです。

出典: 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」

空き家になった実家の管理を始める手順

空き家の管理の初動は、家を傷ませない工夫より先に、責任と名義の宙吊りを解くことから始まります。

火災保険、固定資産税の通知、郵便物、近所の連絡先。この4つが亡くなった親に向いたままだと、何かが起きても誰も気づかず、気づいても補償されない状態が続きます。

見回りや換気のような現状を保つ行為は、共有者の一人が単独でできます(民法252条5項)。国土交通省の空き家管理のガイドラインでも、定期的な巡回による建物や敷地の状況確認、通風・換気は民法上の「保存行為」に当たると整理されています。遺産分割が終わっていなくても、管理は誰か一人が始められます。

鍵と貴重品を回収し家の中を写真で記録する

最初に家へ入る日にやることは、鍵の所在を確定させることと、部屋ごとに写真を撮ることの2つです。

合鍵は、親族、近所の人、介護のヘルパー、リフォーム業者などに渡っていることがあります。誰が何本持っているかを確認し、分からなければ錠を交換しておきましょう。空き家だと分かった家に合鍵が出回っている状態は、防犯上の穴になります。

写真は、家財を動かす前に、部屋ごと、引き出しの中まで撮っておくと役に立ちます。

目的は2つあります。相続人同士で「あれが無くなった」「勝手に持ち出した」という争いが起きたときの記録になること。そして、相続放棄を検討する場合に「何も処分していない」ことを示す材料になることです。

権利証(登記識別情報)、通帳、保険証券、年金関係の書類、印鑑は、一か所にまとめて持ち出します。これは財産の処分ではなく保管なので、放棄の判断に影響しないと考えられます。

出典: 国土交通省「不動産業者による空き家管理受託のガイドライン」

電気・ガス・水道の契約を止めるか最小で残すかを決める

ガスは止め、水道と電気は見回りの頻度と使う設備で決めるのが目安です。

使わない家でガスの契約を残す理由はほとんどなく、ガス漏れが起きたときの責任は所有者に向きます。

水道は判断が分かれます。止めれば基本料金がかからなくなりますが、排水管のトラップに溜まっている水(封水)が蒸発すると、下水の臭いと虫が家の中に上がってきます。

国土交通省のガイドラインでは、管理に使う水量がトラップの封水程度であれば、水道を止めていても巡回時に水を持参すれば対処できると整理されています。月1回の見回りで各排水口に水を流せるなら止める。見回りの頻度が低いなら残す。この分け方が目安になります。

寒冷地では冬の凍結による水道管の破裂が多く、自治体は水抜き栓で水を抜く、長期不在なら水道使用中止届を出すよう案内しています。

電気は、使う設備があるかで決めます。防犯用のセンサーライト、換気扇、遠隔のカメラを使うなら契約を残し、何も使わないなら止めます。ガイドラインでは、通電や通水を続ける場合は漏電や漏水のリスクと料金の支払いが伴うと注意されています。契約を残すなら、ブレーカーは使う回路だけ上げておくと安心です。

出典: 国土交通省「不動産業者による空き家管理受託のガイドライン」出典: 日高市「空き家・空き部屋をお持ちの人、冬季に長期間家を留守にする人へ」

火災保険の名義と用途を保険会社に申し出る

親が入っていた火災保険は、契約者の名義変更と「空き家になった」という用途の申し出を、保険証券に載っている代理店へ早めに伝えておきましょう。

大手損害保険会社の案内では、契約者が亡くなった場合は相続人への契約名義の変更手続きが必要で、解約する場合でも一度名義変更をしてからになります。

次に、建物が空き家になったことを伝えます。ここが要注意です。住宅向けの火災保険は「住居として使われる建物」を対象にしているため、空き家は契約の対象外と明記している保険会社が複数あります。

例外として、自分が住む予定がある、賃貸の入居者を募集している、といった一時的な空き家なら継続できる場合があります。黙って放置すると、更新時に引受不可になる、または事故のときに「空き家だった」として支払いが争いになるおそれがあります。継続できない場合は、空き家向けの保険を扱う会社や共済を探すことになります。

名義を変えずに台風を迎えた例

母の死後、実家の火災保険をそのままにしていた長男は、翌年の台風で屋根が飛んだ後に代理店へ連絡しました。

契約者は亡くなった母のままで、建物が空き家になっていたことも伝えていませんでした。保険会社から求められたのは、まず相続人への名義変更の手続きで、空き家としての扱いをめぐるやり取りも重なり、修理の着手が大きく遅れました。

名義変更と用途の申し出を相続直後に済ませていれば、請求はもっと早く進んでいたと考えられます。

もう一つ確認するのが賠償責任の補償です。屋根瓦が落ちて通行人がけがをした、塀が倒れて隣の車を傷つけた、庭木が倒れて隣家を壊した。こうした事故では、土地の工作物の設置や保存に瑕疵があれば占有者が、占有者が注意を尽くしていれば所有者が賠償責任を負います(民法717条)。竹木についても同じです。

誰も住んでいない家では占有者がいないため、責任は所有者である相続人に向きます。個人賠償責任の特約が空き家にも適用されるかを、名義変更のときに一緒に確かめてみてください。

出典: 東京海上日動「【火災保険】契約者が亡くなりました。手続きは必要ですか?」出典: 東京海上日動「【火災保険】空家でも「トータルアシスト住まいの保険」を契約することはできますか。」出典: 三井住友海上「【火災保険】空家でも契約できますか?」出典: e-Gov法令検索「民法」第717条

固定資産税の通知先と郵便物の行き先を変える

固定資産税の納税通知書と親宛の郵便物は、どちらも自動では相続人に届かないため、宛先を自分で切り替えておきましょう。

固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者に課税されます。相続登記が済むまでは、登記上の名義人は亡くなった親のままなので、納税通知書は親宛に実家へ届き続けます。相続人は納税義務を引き継いでいるので、届かないまま放置すると滞納になります。

市区町村の税務課に「相続人代表者指定届」を出すと、納税通知書を受け取る相続人を指定できます。神戸市の案内では、納税義務者が亡くなったとき、代わって納税などを管理する相続人代表者を相続人の中から指定し、その人に納税通知書を送る、とされています。

届出書、本人確認書類、相続関係が分かる戸籍の写しが必要です。これは相続を確定させる手続きではなく、通知の宛先を決めるだけなので、遺産分割の前でも出せます。

郵便物は、意外な落とし穴です。日本郵便は、亡くなった受取人宛の郵便物は家族から申し出があっても転送できず、差出人に返還すると案内しています。転居届は本人の引っ越しのための制度で、亡くなった人には使えません。

年金事務所、金融機関、保険会社、自治体、通販、サブスクリプションなど、親宛に郵便を送ってくる相手に一つずつ連絡して、解約か送付先の変更をします。郵便受けが溢れている家は、外から見て空き家だと分かります。

出典: 総務省「固定資産税」出典: 神戸市「相続人の代表者の指定(変更)届出」出典: 日本郵便「死亡した受取人あての郵便物等を家族に転送してもらえますか?」

近所に連絡先を伝え月1回の見回りを決める

近所への連絡先の共有と月1回の見回りは、空き家の異変に最初に気づく仕組みになります。

両隣と向かい、町内会や自治会の役員に、自分の連絡先と「何か気づいたら連絡をもらいたい」旨を伝えておきましょう。雨漏りで外壁が変色した、庭木が隣地に越境した、知らない人が出入りしている。こうした変化は近所の人が最初に気づきます。

連絡先を知らなければ、苦情は自治体に行き、自治体からの連絡が来る頃には状態が進んでいます。

見回りは月1回を目安に決めます。やることは次のとおりです。

  • 通風と換気
  • 各排水口への通水
  • 雨漏りや壁のひびの確認
  • 庭木と雑草の手入れ
  • 郵便受けの中身の回収
  • 敷地内への不法投棄の有無

国土交通省のガイドラインでも、空き家は不具合が発見されにくく傷みが早く進むため、一定の頻度で点検し、破損があれば修繕することが必要とされています。

遠方で月1回が難しいなら、自治体のシルバー人材センターや、不動産会社などの空き家管理サービスに委託する方法があります。委託するときは、作業の内容と回数、報告の方法(写真付きか)、料金を契約書で確認してみてください。ガイドラインでも、作業の回数や頻度を明示して管理委託契約に定めるよう事業者に求めています。

出典: 国土交通省「不動産業者による空き家管理受託のガイドライン」

放置して管理不全空家の勧告を受けると固定資産税の軽減が外れる

管理をしないまま放置すると、2023年の法改正により、倒壊の手前の段階で固定資産税の軽減が外れるようになりました。

住宅が建っている土地には、固定資産税の課税標準を小規模住宅用地で6分の1、一般住宅用地で3分の1にする軽減(住宅用地特例)があります。空き家でも建物が建っていればこの軽減は続きます。

2023年12月13日に施行された改正空家法で、市区町村は、放置すれば特定空家等になるおそれがある空き家を「管理不全空家等」として指導・勧告できるようになりました。国土交通省の資料では、特定空家等に加えて、勧告を受けた管理不全空家等の敷地も住宅用地特例が解除されると明記されています。

改正前(2015年施行の空家法)は、倒壊のおそれがあるような段階(特定空家等)で勧告を受けて初めて解除されていました。改正後は、窓ガラスの破損や庭木の繁茂を放置した段階で解除されるようになったわけです。解除されれば、土地の固定資産税は6分の1の軽減がない額に戻ります。

さらに状態が進んで特定空家等に認定されると、助言・指導、勧告、命令、代執行と段階が進みます。命令に従わない場合は50万円以下の過料のおそれがあり、代執行で解体された費用は所有者に請求されます。

ここまで行く空き家は、最初の1年で管理の形を決めなかった家です。月1回の見回りと近所への連絡先の共有は、この流れの入り口を塞ぐための最低限の手当てといえます。

出典: 国土交通省「「空家法」と「2023改正空家法」」出典: 国土交通省 報道発表資料「「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律案」を閣議決定」出典: 総務省「固定資産税」

売るか残すかを決めるために調べる項目

売るか残すかを決める材料は、3種類の数字に絞れます。

売れる土地か(権利・接道・境界)。いくらで売れそうか(相場・特例)。残すと年にいくらかかるか(維持費)。この3つを数字で揃えると、相続人同士の話し合いが感情論から離れます。

集める前に一つだけ、相続人全員の意向を揃えておきましょう。誰も使わないのか、将来誰かが使う可能性があるのか、売るとしたら急ぐのか。ここが揃っていないと、調べた材料がそのまま無駄になります。遺産分割協議の場で「実家をどうするか」を議題にするのが、一番自然な揃え方です。

取引価格情報と路線価で実家の相場を自分で調べる

不動産会社に査定を頼む前に、国土交通省と国税庁の公開情報で相場を自分で見ておくと、査定額の高い低いを判断できます。

どちらも無料で、営業が付かず、売る前提の数字ではない点が強みです。

一つは国土交通省の「不動産情報ライブラリ」です。実際に取引された不動産の価格情報、地価公示、都道府県地価調査を地図から検索できます。実家の近くで最近取引された土地や中古住宅の価格を見れば、おおよその相場感がつかめます。

もう一つは国税庁の路線価図です。路線価は相続税の計算に使う土地の評価額で、国税庁は地価公示価格等を基にした価格の8割程度を目途に定めています。

実家の前の道路に付いている1平方メートル当たりの路線価に土地の面積を掛け、0.8で割ると、公示価格ベースのおおよその土地の値段が出ます。相続税の申告が必要になるかの目安にも、売却価格の下限の目安にもなります。

この2つで出した数字を持って不動産会社に会えば、提示された査定額が高すぎるか低すぎるかを自分で判断できます。

出典: 国土交通省「不動産情報ライブラリ」出典: 国税庁「令和7年分の路線価等について」

接道・用途地域・境界で売れる土地か確かめる

値段の前に、売れる土地か売りにくい土地かを決める要素を自治体の窓口で確かめておきましょう。

相場が高い地域でも、ここで引っかかると買い手が極端に減ります。

接道は最初に見ます。建築基準法43条により、建物の敷地は建築基準法上の道路に2メートル以上接している必要があります。実家の前の道が建築基準法上の道路に当たらない、または接している幅が2メートル未満だと、建て替えができない「再建築不可」の土地になり、買主は住宅ローンを組みにくくなります。

自治体の建築指導課で、前面道路の種別と接道の状況を無料で教えてもらえます。

都市計画も同時に聞きます。実家が市街化調整区域(都市計画法7条3項で「市街化を抑制すべき区域」)にあると、原則として新たに建物を建てられず、売却先は限られます。用途地域によっては建てられる建物の種類や大きさに制限があり、買主の使い道を狭めます。

境界は、隣地との境界が確定しているかを見ます。確定測量図があれば、売却時にそのまま使えます。なければ売る段階で測量が必要になり、隣地所有者全員の立会いが要ります。

隣人との関係が良いうちに、親の代から続いていた境界の認識を確認しておくと、後の測量がスムーズに進みます。私道の持分や、塀や屋根が隣地にはみ出していないかも、この段階で確かめておくと安心です。

出典: e-Gov法令検索「建築基準法」第43条出典: e-Gov法令検索「都市計画法」第7条

建築年で空き家特例の対象と解体費用の見込みを確かめる

登記事項証明書の建物の「新築年月日」で、空き家特例の対象になるかと、売り方の方向が見えてきます。

昭和56年5月31日以前の建築なら、空き家の3,000万円特別控除の対象になり得ます。一方で、同じ建物は旧耐震基準で建てられているため、買主の住宅ローン審査で不利になる場合があり、中古住宅としてではなく「古家付き土地」や更地として売る前提になることが多くなります。

更地で売るなら解体費用が要ります。解体費は建物の構造と大きさ、道路の幅、アスベストの有無で大きく変わるので、早めに複数の解体業者から見積を取ってみてください。2024年以降は買主側で取壊しをしても特例が使えるので、自分で壊してから売る以外の選択肢も、不動産会社との相談の中で確かめられます。

自治体の支援も調べます。自治体によっては、空き家の解体や改修に補助制度を設けている場合があります。

また、国土交通省が整備した全国版の空き家・空き地バンクでは、各自治体が把握している空き家の情報を自治体を横断して検索できます。実家のある自治体がバンクに参加していれば、通常の市場に出しにくい土地の買い手や借り手と出会う入り口になります。

出典: 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」出典: 国土交通省「空き家・空き地バンク総合情報ページ」

残した場合の年間維持費を課税明細書と保険証券から計算する

残す選択肢を正しく比べるには、残した場合に年にいくらかかるかを手元の書類で数字にしておきましょう。

  • 固定資産税と都市計画税(課税明細書)
  • 火災保険料(保険証券か、空き家向け保険の見積)
  • 管理費(自分で見回るなら交通費、委託するなら契約の料金)
  • 電気・水道の基本料金(契約を残す場合)
  • 修繕の積立(屋根や外壁の補修、庭木の伐採を年割りにした額)

これを10年分に伸ばして、解体費や売却した場合の手取りと並べてみてください。「残す」は何もしないことではなく、毎年お金を払い続ける選択だと分かります。

逆に、年間の維持費が小さく、将来誰かが使う見込みがあるなら、残す判断にも根拠ができます。

出典: 総務省「固定資産税」

不動産会社の査定は複数社に頼み媒介契約を急がない

査定は複数社に頼み、根拠を聞いてから媒介契約を結ぶ会社を選ぶと、根拠の薄い高値で売り出す失敗を避けられます。

知っておく仕組みが2つあります。

一つは、査定額は「売れる額」の保証とは別物だという点です。不動産会社は売却の依頼(媒介契約)を受けて初めて報酬が発生するため、査定額が他社より高いほど依頼を取りやすい構造にあります。これは会社の良し悪しではなく、仕組みの問題です。

複数社に机上査定を頼み、それぞれに「根拠になった成約事例」を出してもらうと、自分で調べた取引価格情報と照らし合わせて妥当な額が見えてきます。

もう一つは、媒介契約を初回の訪問で結ばないことです。専任媒介契約や専属専任媒介契約は、1社にだけ売却を任せる契約で、宅地建物取引業法34条の2により有効期間は3か月が上限で、更新には依頼者からの申出が要ります。

期間の上限があるので取り返しはつきますが、最初の3か月を根拠の薄い高値で始めると、売れ残って値下げに回る時間が無駄になります。査定の根拠を聞き、取引価格情報と路線価で自分が出した数字と比べてから、契約を結ぶ会社を選んでみてください。

仲介のほかに、不動産会社が直接買い取る「買取」もあります。価格は仲介より下がるのが普通ですが、短い期間で手放せます。遠方で管理が続けられない、空き家特例の期限が迫っている、といった事情があるときの選択肢として、査定の際に両方の額を聞いておくと比べられます。

出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」第34条の2

まとめ:誰も住まない実家の初動は「片付けより先に確かめる」

相続直後の実家で一番重いのは、負債の確認が終わる前に家財を処分すると、民法921条の単純承認とみなされて相続放棄の道が閉じるおそれがある点です。後から借金が見つかっても、元には戻せません。

次の一歩は、遺言書の照会、登記事項証明書の取得、信用情報機関への開示請求の3つを、最初の1か月で終えることです。ここを飛ばすと、3か月の期限が来たときに放棄も期間の伸長も選びにくくなり、火災保険や固定資産税の名義も宙に浮いたまま空き家の1年目が始まります。

手元の書類が揃ったら、火災保険の名義と固定資産税の通知先を切り替え、月1回の見回りを決めてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、誰も住まない実家を相続した直後に確かめる項目と管理の始め方も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。