親が亡くなったり施設に入ったりして、実家の問題がある日突然「自分の番」になると、やることの多さに手が止まりがちです。
片付けや売却の相談より先に確かめておく項目があり、その順番を誤ると相続放棄ができなくなるなど、後から取り戻せない損につながります。
最初に確認する項目、片付けより先に決める判断、兄弟・姉妹と決める順番、親の状況ごとの最初の一手まで、取りかかる順序に沿って整理しました。
実家の問題の全体像と大枠の順序|人・家・お金・手続きの4領域
実家の問題が進まない理由は、やることの多さより、「人・家・お金・手続き」のどこが決まっていないのか見えていない点にあります。
4つに分けて、決まっていない場所を見つける。そのうえで確認 → 話し合い → 方針 → 手続きの順に動くと、取りかかる順序はほぼ自動的に決まります。
実家の問題が止まる原因|「売るか残すか」から考え始めている
多くの人が最初に考える「実家を売るか、残すか」は、いちばん最後に決まる結論です。
結論から考え始めると、その前に確かめておくべきことを全部飛ばすことになります。
家は誰の名義か。ローンは残っているか。遺言書はあるか。これが分からないまま「売ろう」「残そう」と議論しても、誰も判断の材料を持っていないので話は堂々めぐりになります。
止まる原因は、だいたい次の3つに集まります。
- 「売るか残すか」という結論から考え始め、その前の確認を飛ばしている
- 4つの領域が混ざって見えていて、どれが決まっていてどれが未決なのか分からない
- 誰が仕切るのか決まっておらず、兄弟・姉妹の全員が様子見になっている
実家の問題を扱う多くのサイトは、「まず家族で話し合いましょう」を最初に置いています。
けれど、名義もローンも遺言書も分からないまま集まると、話し合いは思い出話と感情論で終わってしまうでしょう。話し合いは大事です。ただし、材料が揃ってからです。
人・家・お金・手続きの4領域で起きる問題の内訳
「実家の問題」とひとくくりにされているものを、4つの領域に分けると、何が未決なのかが見えてきます。
| 領域 | ここで起きる問題 |
|---|---|
| 人 | 親はどうしたいのか/親は自分で判断できる状態か/兄弟・姉妹それぞれの立場と希望/誰が窓口になって動くか |
| 家 | 名義は誰か(親・祖父母のまま・共有名義)/住宅ローンや抵当権は残っているか/土地の境界や建物の傷み/家の中の荷物の量 |
| お金 | 空き家のまま置いておく維持費/片付け・解体・修繕の費用/相続税や売ったときの税金と、それを減らす特例/費用を誰が払うか |
| 手続き | 相続放棄・申告・相続登記の期限/遺言書の確認/売る・貸すときの契約 |
押さえておきたい点が2つあります。
1つ目は、お金の領域で先に重くなるのが相続税より「維持費」だという点です。
相続税がかかる家庭は多数派とはいえず、一方で固定資産税・火災保険・電気や水道の基本料金・庭の手入れは、空き家にしておくだけで毎年かかり続けます。
2つ目は、人の領域で最優先なのが「親の意思」だという点です。
親が存命で自分の考えを話せるうちは、親の意思がほかのすべてに優先します。聞き方は「最初に確認する項目と調べ方」の章で扱います。
4領域の依存関係|名義が分からないと方針も費用負担も決まらない
4つの領域は鎖のようにつながっていて、前の輪が決まってはじめて次の輪が決まります。
名義が分からなければ、誰が決める権利を持つのか分からず、方針(住む・貸す・売る・残す)を決められない。
方針が決まらなければ、誰がいくら費用を負担するのかも決められない。
費用負担が決まらなければ、登記や契約といった手続きに入れない。この順で詰まります。
ここを飛ばすと、こんなことが起きます。
珍しい話ではなく、相続の相談ではよく出てくる流れです。
もうひとつ、「とりあえず不動産会社に査定を頼んでみよう」から入る人も多くいます。
方針が決まっていない段階で査定を頼むと、売る前提の提案が始まり、兄弟・姉妹の間で「勝手に売る気か」とこじれる原因になります。不動産会社が悪いわけではなく、順序の問題です。査定は方針を決めるための材料として、兄弟・姉妹に一声かけてから使うと安全です。
取りかかる流れ|確認 → 話し合い → 方針 → 手続きの4段階と時間の目安
4つの領域を、動く順番に並べ直すと次の4段階になります。
| 段階 | 何をするか | 時間の目安 |
|---|---|---|
| 1. 確認 | 親の意思・名義・ローン・遺言書の有無を確かめ、材料を揃える | 数日〜数週間 |
| 2. 話し合い | 兄弟・姉妹や親族で、窓口・費用負担・方針の順に決める | 3か月以内(相続放棄の判断期限まで) |
| 3. 方針 | 住む・貸す・売る・残すのどれにするかを決める | 1年以内を目安に |
| 4. 手続き | 相続登記・契約・申告など | 方針が決まってから |
全部を一度にやる必要はなく、最初に取りかかるのは「確認」だけで十分です。
3か月以内に決めなければならないのは「相続を放棄するか」に限られます。
方針そのものは1年くらいかけて決めても、多くの場合は間に合います。期限の中身は「期限のある手続きの順番と失敗例」の章で扱います。
逆に、確認を飛ばして方針から入ると、後の段階がすべて止まります。順序を守ることが、遠回りに見えていちばんの近道です。
最初に確認する項目と調べ方|親の意思・家の名義とローン・遺言書の有無
確認は「親の口から聞く」と「紙で裏を取る」の2系統で進めます。
紙のほうは、家族でなくても、親の同意がなくても取れる書類から始められます。
数千円と1週間ほどで、話し合いに必要な材料はほぼ揃うでしょう。遺言書だけは、探しても「開けない」が鉄則です。
親の意思の確認項目と聞き方|住み続けたいか・手放してよいか・判断できる状態か
親が存命なら、どんな書類より先に、親本人の考えを聞きます。
確認する項目は3つです。
- この家に住み続けたいか
- 将来、家を手放すことに抵抗はないか
- 親は今、自分でそれを判断できる状態か
3つ目が意外に重要です。
親の判断能力(自分で契約や意思表示ができる力)が落ちると、親名義の家は売ることも、人に貸すことも、遺言を書くこともできなくなります。親が元気なうちにしか打てない手があるので、最優先で確認しておきましょう。
聞き方にはコツがあります。
「家をどうするつもり?」と切り出すと、親は「自分が死んだ後の話か」と身構えがちです。代わりに「これからどこでどう暮らしたい?」という暮らし方の話から入ると、家の話に自然につながります。
兄弟・姉妹が一緒にいる場で聞く、一度で全部聞こうとしない、も大切です。
親が入院中や認知症で話を聞けない場合は、順序が変わります。「状況別の取りかかる順序」の章の「親が住めなくなった場合」で扱います。
名義とローンの調べ方|登記事項証明書は家族でなくても取れる
家の名義は、法務局で「登記事項証明書」(いわゆる登記簿謄本)を取ると分かります。
この書類は、所有者本人でなくても、家族でなくても、誰でも請求できます。
法務省も「何人も請求できる」と明記しています。親に黙って調べる必要はないものの、親の同意や委任状がなくても取れる、という意味です。
取り方は3通りあります。
- 法務局の窓口で請求する(1通600円)
- オンラインで請求して郵送で受け取る(1通520円)、または窓口で受け取る(1通490円)
- 「登記情報提供サービス」でパソコンから閲覧する(1件330円。証明書ではなく画面上の確認用)
請求には「住所」ではなく「地番」が必要です。
地番は固定資産税の納税通知書や権利証に書いてあります。分からなければ、法務局に電話すると住所から地番を調べてもらえます。
取った登記事項証明書で見る場所は2か所です。
- 甲区(こうく)。所有者が誰か。親か、祖父母のままか、兄弟・姉妹との共有名義か
- 乙区(おつく)。抵当権が付いているか。住宅ローンなどの借入があると、金融機関の名前が載る
ローンの残りを調べる順番は、乙区で抵当権を見つける → その金融機関の返済予定表や残高証明書を探す → 団体信用生命保険(団信)に入っているか確認する、です。
団信に入っていれば、親が亡くなったときに保険金でローンが完済されます。
ただし自動では処理されず、金融機関に連絡して請求する手続きが要ります。完済後の抵当権の抹消登記も、相続人が別に行います。
乙区に古い抵当権が残っているケースもあります。
ローンはとっくに完済しているのに、抹消登記をしていなかった場合です。この状態では売却の前に抹消が必要になるので、早めに見つけておくと後が楽になります。
金融機関は、本人の同意なしには家族であっても残高を教えない決まりです。
親が元気なら本人に聞くか委任状をもらい、亡くなった後なら相続人として戸籍を示して照会します。権利証(登記識別情報)が見つからなくても売却はできるので、費用と手間は増えるものの、焦らずに進められます。
出典: 法務省 登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続が便利です/登記情報提供サービス サービス概要
親が持つ不動産の一覧は固定資産税の納税通知書と名寄帳で調べる
実家の土地と建物だけが親の不動産とは限らず、山林、農地、月極駐車場、私道の持分など、子どもが知らない土地が出てくることはよくあります。
全体像を知るための書類が2つあります。
1つ目は「固定資産税の納税通知書」です。
毎年春に所有者(親)宛てに届く紙で、同封の課税明細書に、その市区町村内で親が持っている土地・建物と、それぞれの評価額が一覧で載っています。
実家の書類箱や引き出しに、過去の分がまとめて入っていることが多い書類です。
まずこれを探してみてください。紙1枚で、その市区町村内の不動産の全体像が見えます。
2つ目は「名寄帳(なよせちょう)」です。
市区町村の税務課が所有者ごとに固定資産をまとめた台帳で、納税通知書には載らない非課税の土地(私道など)も載っている場合があります。
不動産がある市区町村の窓口か郵送で、所有者本人または相続人が請求できます。
相続人として請求するときは、親との関係が分かる戸籍と本人確認書類が必要です。手数料は数百円程度です。
課税明細書や名寄帳の「評価額」を見ると、相続税の計算のもとになる額や、売ったときの相場のおおよその桁感が分かります。
「この家はだいたいこれくらいの規模の話なのだ」と分かるだけで、兄弟・姉妹と話すときの土台になります。
出典: 千葉市 固定資産の評価証明書、税額証明書、公課証明書、名寄帳を取得したいのですが、どこで取得できますか
遺言書の有無の調べ方|自筆・公正証書・法務局保管の探し先と開封禁止
遺言書があるかないかで、その後の手続きの順序は大きく変わります。
遺言書には3種類あり、探す場所がそれぞれ違います。
| 種類 | 探し先 |
|---|---|
| 自筆証書遺言(親が自分で書いたもの) | 本人に聞く/自宅の金庫・仏壇・書類箱/銀行の貸金庫 |
| 公正証書遺言(公証役場で作ったもの) | 最寄りの公証役場で「遺言検索システム」に照会する。相続人なら、親の死亡後に戸籍を示せば無料で全国分を検索できる |
| 法務局保管の自筆証書遺言 | 法務局に「遺言書保管事実証明書」を請求する(1通800円)。あれば内容の証明書も取れる |
いちばん大事なルールは、自筆の遺言書を見つけても封を開けないことです。
封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人が立ち会って開封する決まりになっています。
見つけた人は家庭裁判所に「検認」を申し立てます。先に開けてしまうと、ほかの相続人から「書き換えたのでは」と疑われる原因になります。
公正証書遺言と、法務局に保管されていた遺言書は検認が不要で、すぐに手続きに使えます。
親が元気なら、内容までは聞かなくても大丈夫です。
「遺言書があるなら、どこにあるかだけ教えておいて」と聞いておくだけで、後の手続きが大きく変わります。
出典: 裁判所 遺言書の検認/日本公証人連合会 遺言/法務省 自筆証書遺言書保管制度 手数料
確認段階で発覚しやすい落とし穴|祖父母名義・共有名義・借地・未登記建物
ここまでの確認で、思わぬ事実が出てくることがあります。
よくある4つと、それぞれで以降の順序がどう変わるかをまとめます。
| 落とし穴 | 以降の順序がどう変わるか |
|---|---|
| 祖父母の名義のまま | 祖父母の相続手続きが終わっていない状態。祖父母の相続人(親の兄弟・姉妹やその子)全員の同意が要り、相続登記を2代分進めるところから始まる |
| 兄弟・姉妹や親族との共有名義 | 売るにも貸すにも共有名義人全員の同意が要る。共有名義人が誰で、連絡が取れるかの確認が先 |
| 土地が借地(地主が別にいる) | 建物は親の名義でも土地は他人のもの。売るにも建て替えるにも地主の承諾が要り、地主との関係の確認が先 |
| 建物が未登記 | 古い家では建物の登記がされていないことがある。建物の登記をするところから始まる |
このほか、納税通知書や名寄帳から「知らなかった山林や農地、私道の持分」が出てくることもあります。
これらは実家本体と一緒に相続の対象になるので、一覧に加えておきましょう。
落とし穴が見つかっても、見つかったのが早いほど順序を組み直す余裕があります。
すでに空き家のまま時間が経っている場合の組み直し方は、「状況別の取りかかる順序」の章で扱います。
確認が終わったら、分かったことを1枚の紙にまとめておくと、兄弟・姉妹と話し合うときの全員共通の材料になります。
名義、ローンの有無、遺言書の有無、不動産の一覧。この4つで足りるでしょう。
期限のある手続きの順番と失敗例|片付けより相続放棄の判断が先
実家に関わる期限はいくつもあるものの、本当に取り返しがつかないのは「相続放棄の3か月」に限られます。
残りの期限は、守れば税金が安くなり、過ぎると損をする「お金の期限」です。
登記にかかる時間を見込んで早めに動けば、多くの場合は間に合います。
もうひとつ、期限の数え始めが「亡くなった日」ではなく「知った日」のものがあります。
遠方に住んでいる人、親と疎遠だった人ほど、早めに確認しておきましょう。
実家に関わる期限の一覧|3か月・4か月・10か月・3年・3年10か月の起算日
実家に関わる期限を、数え始めの日と一緒に一覧にします。
| 手続き | 期限 | 数え始め | 自分に関係するか | 過ぎるとどうなるか |
|---|---|---|---|---|
| 相続放棄・限定承認 | 3か月以内 | 自分のために相続があったと知った日 | 親に借金や、売れず貸せない不動産がある可能性があるなら全員 | 原則として放棄できなくなり、借金も引き継ぐ |
| 準確定申告(親の最後の所得税の申告) | 4か月以内 | 相続があったと知った日の翌日 | 親に家賃収入や事業収入などがあった場合 | 延滞税などの対象 |
| 相続税の申告・納付 | 10か月以内 | 親が亡くなったと知った日の翌日 | 遺産の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合 | 無申告加算税・延滞税。特例の適用に手間が増える |
| 相続登記(名義変更) | 3年以内 | 相続で不動産を取得したと知った日 | 不動産を相続した人は全員(2024年4月から義務) | 正当な理由なく放置すると10万円以下の過料 |
| 空き家特例(売ったときの3,000万円控除) | 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで | 親が亡くなった日 | 親が一人暮らしだった古い実家を売る場合 | 控除が使えず、売却益に税金がかかる |
| 取得費加算の特例 | 相続税の申告期限の翌日から3年以内(亡くなってから3年10か月) | 相続税の申告期限 | 相続税を払った人が、その不動産を売る場合 | 売却時の税金を減らせなくなる |
補足が3つあります。
- 相続登記は、2024年3月31日以前に相続した不動産も対象で、この場合の期限は2027年3月31日まで
- 相続税は、遺産の合計が基礎控除の範囲内なら申告も納税も不要。相続人が子2人なら、基礎控除は3,000万円+600万円×2=4,200万円
- 準確定申告は、親が年金だけで暮らしていた場合は不要なことが多く、家賃収入があった、個人事業をしていた、という場合に関係する
表には載せていないものの、期限はなくても早めにやっておきたい手続きが3つあります。
- 固定資産税の「相続人代表者指定届」を市区町村に出す(出さないと納税通知書が届かず、気づかないうちに滞納になる)
- 火災保険会社に、空き家になったことを連絡する(放置すると補償の対象外になる契約がある)
- 電気・ガス・水道の名義を変えるか、解約する
出典: 裁判所 相続放棄の申述/国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)/国税庁 No.4205 相続税の申告と納税/国税庁 No.4152 相続税の計算/法務省 相続登記の申請義務化について/国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例/国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例/箕面市 固定資産税・都市計画税の納税通知書が亡くなった父の名前で送られてきました。何か手続きは必要ですか
片付けより先に相続放棄を判断する手順|負債の調べ方と単純承認に当たる処分の範囲
家財を処分する前に、相続を放棄するかを決めておくと、後から借金が出てきても対応できます。
まず、実際にある失敗例から。
これは民法921条の「法定単純承認」という決まりによります。
相続人が相続財産の全部または一部を「処分」すると相続を承認したとみなされ、原則として相続放棄ができなくなります。家財の処分や売却は、この「処分」に当たる可能性があります。
つまり順番は、片付けより先に「放棄するか」を判断する、です。3か月以内にやることを順に並べます。
- 借金の有無を調べる。親宛ての郵便物(督促状・請求書)、通帳の引き落とし、保証人になっていないかを確認する
- 放棄を検討する基準に当てはめる。借金が財産を上回りそうか、実家が売れず貸せず維持費だけがかかり続ける土地か
- 迷っている間は、家財に手を付けない
1の借金調べでは、住宅ローンの抵当権は登記事項証明書で確認済みのはずです。
それ以外の借入は、信用情報機関(CIC・JICC・全国銀行個人信用情報センター)に相続人として開示請求すると、カードローンや消費者金融の借入が一覧で分かります。手数料は1機関あたり500〜1,000円程度です。
「形見分け」はどこまでなら大丈夫なのか、気になる人も多いでしょう。
経済的な価値がほとんどない物(写真、手紙、古着など)を持ち帰ることは、一般に単純承認には当たらないとされています。ただし、どこからが「価値がある」かの範囲は曖昧で、裁判で争われた例もあります。放棄の可能性が少しでもあるなら「迷ったら触らない」が安全です。
もうひとつ知っておきたいのは、相続放棄は「実家だけ放棄する」形では使えない点です。
放棄すると、預貯金も含めた親の財産すべてを受け取れなくなります。実家がいらないという理由だけで放棄を選ぶと、ほかの財産まで手放すことになります。
片付け業者や買取業者は「相続放棄するか、もう決めましたか」とは聞かないのが普通です。
業者の仕事は片付けることだからです。順序の判断は、相続人自身が行うことになります。
出典: 裁判所 相続放棄の申述
相続登記3年と売却時期の関係|登記が終わらないと売却契約を結べない
実家を売る予定があるなら、相続登記は「3年以内」の期限よりずっと前に動く必要があります。
理由は単純で、名義が亡くなった親のままでは売買契約を結べないからです。
売主になれるのは、登記上の名義人に限られます。
失敗例を2つ。
相続登記にかかる時間の目安は、戸籍集めに数週間から数か月、法務局への申請から完了まで1〜2週間程度です。
親の出生から死亡までの戸籍をすべて集める必要があり、本籍地を何度も移している人ほど時間がかかります。司法書士に頼むと手間は減りますが、戸籍集めの時間そのものは残ります。
売却を考えるなら「いつまでに売りたいか」を先に決め、そこから戸籍集めと登記の時間を差し引いて、登記を先に動かします。特例の期限が近い場合はなおさらです。
注意点がひとつあります。
2024年4月から「相続人申告登記」という簡単な手続きができました。「私はこの不動産の相続人です」と法務局に申し出るだけで登記の義務を果たしたことになり、過料を避けられます。
ただしこれは権利の登記ではないため、相続人申告登記だけでは売却も担保設定もできない仕組みです。
「登記は済ませた」と誤解しやすいので、売る予定があるなら正式な相続登記が必要になります。
出典: 法務省 相続登記の申請義務化について/法務省 相続登記の申請義務化について(相続人申告登記)
空き家特例と取得費加算の期限|売る前に貸すと特例が使えない
実家を売るときに大きく働く税金の特例が2つあり、使えると納める税金が数百万円単位で減ることがあります。
ここでは「順序を間違えると使えなくなる」点に絞って説明します。
1つ目は「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」、いわゆる空き家特例です。
売却益から最大3,000万円を差し引けます(相続人が3人以上の場合は2,000万円)。主な条件は次のとおりです。
- 昭和56年5月31日以前に建てられた家
- マンションなど区分所有建物でないこと
- 亡くなる直前、親が一人で住んでいたこと
- 相続のときから売るときまで、人に貸したり、誰かが住んだり、事業に使ったりしていないこと
- 売却代金が1億円以下
- 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る(制度自体は2027年12月31日までの売却が対象)
- 売る時点で耐震基準を満たしているか、建物を取り壊している。2024年以降の売却では、買主が売却した年の翌年2月15日までに耐震改修か取り壊しをする形でも認められる
順序の観点でいちばん大事なのは「人に貸したら使えない」です。
「売るまでの間、もったいないから誰かに貸そう」と考えると、この特例の資格を失います。特例を使う予定なら、売るまで貸さない・住まわせない、が原則になります。
2つ目は「取得費加算の特例」です。
相続税を払った人が、その不動産を相続税の申告期限の翌日から3年以内(亡くなってから3年10か月以内)に売ると、払った相続税の一部を取得費に加えて売却益を小さくできます。相続税がかかった家庭では、売る時期の判断に関わります。
住む・貸す・売る・残すのどれにするかは「兄弟・姉妹や親族と決める順序」の章で扱います。
「貸す」を選ぶ前に、この特例を手放すことになると知っておくと、判断の材料が揃います。
出典: 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例/国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
期限に間に合わないときの延長手段|相続放棄の期間伸長・相続人申告登記・分割見込書
期限に間に合いそうにないときも、取り返しがつかなくなる前に使える手段が3つあります。
- 相続放棄の期間伸長の申立て。3か月以内に借金の有無を調べきれない場合、家庭裁判所に申し立てると放棄を決める期間を延ばしてもらえる。申立て自体は3か月以内に行う
- 相続人申告登記。遺産分割の話し合いがまとまらず相続登記ができない場合でも、これをしておけば登記の義務違反(過料)を避けられる。売却には使えないので、時間を作るための手段
- 申告期限後3年以内の分割見込書。相続税の申告期限までに遺産分割がまとまらないとき、この書類を申告書に添えて出しておくと、後で分割がまとまった時点で特例(小規模宅地等の特例など)を使って税金を計算し直せる
期間伸長で大事なのは、「調べきれないから放置」ではなく「調べきれないから延長を申し立てる」という動き方です。
どの手段も、期限そのものをなくすものとは違います。
期限が迫っているのに材料が揃わないとき、取り返しがつかなくなるのを防ぐための手段です。
出典: 裁判所 相続の承認又は放棄の期間の伸長/法務省 相続登記の申請義務化について(相続人申告登記)/国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
兄弟・姉妹や親族と決める順序|窓口 → 費用負担 → 実家の方針(住む・貸す・売る・残す)
兄弟・姉妹との話し合いは、「売るか残すか」から入ると噛み合わなくなりやすく、「誰が進めるか」→「維持費を誰がいつまで払うか」→「住む・貸す・売る・残す」の順に決めると前に進みます。
全員が同じ材料を見たうえでこの順に決めると、費用と期限の現実が全員に見え、方針は消去法で自然に絞れます。
決められないからといって共有名義で先送りしない、決めた内容は文書に残す。この2つも順序の一部です。
親が存命で判断できる状態なら、この順序の前に「親の意思」が入り、親を交えて決めます。
その違いは「状況別の取りかかる順序」の章で扱います。
話し合いの前に揃える材料|確認結果・維持費の年額・査定で見る相場の幅
話し合いが空転するいちばんの原因は、参加者の持っている情報がバラバラなことなので、最初に全員へ同じ材料を配ります。
材料は3つです。
1つ目は、確認した結果を1枚にまとめた表です。
| 項目 | 確認結果(記入例) |
|---|---|
| 土地・建物の名義 | 土地・建物とも父名義 |
| ローン・抵当権 | 乙区に〇〇銀行の抵当権あり。団信で完済見込み |
| 遺言書 | 公証役場に照会済みでなし。自宅からも自筆のものは見つからず |
| 親が持つ不動産の一覧 | 実家の土地建物のほか、〇〇市に山林1筆 |
2つ目は、空き家のまま置いておく場合の維持費の年額です。
- 固定資産税・都市計画税(納税通知書に金額が載っている)
- 火災保険料
- 電気・水道の基本料金
- 庭木の剪定や草刈り
- 遠方なら帰省の交通費
足し合わせると、小さな家でも年に十数万円から数十万円になることが多いです。
「置いておくだけでこれだけかかる」が数字で見えると、話が具体的になります。
3つ目は、売った場合のおおよその相場です。
ここで不動産会社の査定を使います。査定は、家を片付ける前でも、相続登記が終わる前でも頼めます。
「机上査定」(訪問なしで、住所と面積などから出す概算)なら、電話やネットで数日で出ます。
1社だけだとその数字に判断が引っ張られるので、2〜3社に頼んで幅で見るのがおすすめです。訪問査定や、売却を正式に依頼する媒介契約は、方針が「売る」に決まってからで間に合います。
ここでの査定は「売るための査定」ではなく「決めるための材料」です。
不動産会社にもそう伝えておきましょう。多くの会社は、相続の相談で査定だけ先に頼まれることに慣れています。
材料が揃ったら、全員に同じものを渡します。
疎遠な兄弟・姉妹や遠方の相続人には、手紙やメールで同じ表を送っておくと、当日は「どう思うか」から始められます。
窓口を1人に決める理由と決め方|進める人と決める人を分ける
材料が揃ったら、最初に決めるのは方針ではなく「窓口を誰にするか」です。
理由は、外部の人は「誰と話せばいいか」が決まらないと動けないからです。
不動産会社も、役所も、司法書士も、兄弟・姉妹の全員からバラバラに連絡が来ると対応に困ります。
売却を依頼する媒介契約や売買契約には、共有名義人(相続人)全員の署名が必要で、その取りまとめ役がいないと手続きが止まります。
窓口が1人に決まっている案件は進み、決まっていない案件は止まる。相続の現場では、ほぼ例外なく当てはまります。
決め方で大切なのは、窓口を「決める人」ではなく「進める人」と定義することです。
窓口になった人が勝手に方針を決めるわけではなく、連絡を受け、情報を集め、兄弟・姉妹に伝え、全員で決めたことを外部に伝える役割です。これをはっきりさせておくと、「兄が勝手に進めている」という不信感が生まれにくくなります。
もうひとつ、窓口の手間と実費を先に認めておきます。
実家に通う交通費、郵送費、役所に行くための休暇。これらを窓口が自腹で負担し続けると不公平感が溜まります。「実費は遺産や売却代金から精算する」「手間賃として〇万円は認める」といった取り決めを最初にしておくと長続きします。
窓口を決めたら、固定資産税の「相続人代表者指定届」の代表者も同じ人にしておくと、納税通知書の受け取りと費用の管理が1か所にまとまります。
出典: 箕面市 固定資産税・都市計画税の納税通知書が亡くなった父の名前で送られてきました。何か手続きは必要ですか
費用負担の決め方|維持費と片付け費を誰が立て替え、どう精算するか
方針が決まるまでの間も固定資産税や保険料はかかり続けるので、誰がいつまで払い、最後にどう精算するかを方針より先に決めておきます。
順番は4つです。
- 年額を出す。揃えた維持費の年額を、全員で確認する
- 誰がいつまで立て替えるかを決める。「方針が決まるまでは窓口が立て替える」「一周忌までは兄弟・姉妹で等分する」など、期間とセットで決める
- 精算の方法を決める。売却したら売却代金から先に精算する、遺産の預貯金から精算する、法定相続分で按分する、のどれかを選ぶ
- 領収書と記録を残す。立て替えた人は領収書を取っておき、いつ・何に・いくら払ったかを一覧にする
片付け・解体・修繕の費用も同じ枠で決めます。
片付けは業者に頼むと数十万円になることが珍しくなく、「誰が払うか」を決めないまま進めると揉め事のもとになります。
よくある失敗が、次のパターンです。
最初に記録と精算の約束をしておけば、起きずに済む揉め事です。
実家の方針を消去法で絞る順番|住む → 貸す → 売る → 残す
窓口と費用負担が決まってようやく方針の話になり、「住む・貸す・売る・残す」の4つは同時に比べるのではなく順番に消していきます。
- 住む人がいるか。兄弟・姉妹の誰かが実家に住む予定があるか。いなければ「住む」は消える。いる場合は、ほかの兄弟・姉妹にお金で埋め合わせる(代償)かが次の論点になる
- 維持できるか。「貸す」「残す」は家を維持し続ける選択。修繕費を誰が出すか、管理を誰がするか、遠方からでも続けられるか。難しければ「貸す」「残す」は消える
- 手放せる状態か。「売る」には、相続登記が整うこと、相続人全員が同意すること、境界や残置物の問題がないことが必要。当面整わないなら、すぐには売れない
- どれも難しければ「期日付きで残す」。「一周忌までに再判断する」「それまでの維持費は〇〇が立て替える」「管理は〇〇が担当する」と決めて残す
2で「貸す」を選ぶと、空き家特例は使えなくなります。「売る前に貸すと特例が使えない」の節を参照のうえで判断しておきましょう。
それぞれの選択肢について、「何が決まっていないと選べないか」を押さえておくと議論が具体的になります。
| 方針 | これが決まらないと選べない |
|---|---|
| 住む | 誰が住むか。ほかの相続人への埋め合わせをどうするか |
| 貸す | 修繕費と管理を誰が担うか。空き家特例を使わないと割り切れるか |
| 売る | 登記が整うか。いつまでに売るか。全員が同意するか |
| 残す | いつまで残すか。誰が維持費を払うか。次にいつ再判断するか |
「期日付きで残す」と「放置」は違います。
放置は、誰も決めず、誰も払わず、家が傷んでいく状態です。期日付きで残すのは、再判断の日と、それまでの担当と費用を決めたうえで待つ状態です。決められないときは、後者を選んでおくと家の傷みと揉め事の両方を抑えられます。
話し合いで揉める原因と避け方|共有名義での先送り・勝手な査定・立て替えの放置
話し合いで揉める原因はいくつかの型に収まり、それぞれに避け方があります。
| 揉める原因 | 避け方 |
|---|---|
| 決められないので、とりあえず兄弟・姉妹の共有名義で相続登記する | 共有名義にしない、を原則にする。共有名義にすると、後で売る・貸す・建て替えるたびに全員の同意が要り、誰かが亡くなればその配偶者や子も共有名義人に加わる。決められないなら「期日付きで残す」 |
| 一人が兄弟・姉妹に相談せず、査定や片付けを進める | 動く前に一声かける。「査定を頼んでみるけどいい?」の一言で、疑いはほぼ防げる |
| 一人が維持費を立て替え続け、不満が溜まる | 最初に記録と精算の約束をする |
| 「売るか残すか」から議論を始めて、いつまでも結論が出ない | 維持費・相場・期限を先に並べ、方針は最後に消去法で決める |
場の作り方でも、揉め方は変わります。
- 全員が集まれる機会(四十九日、一周忌、お盆や年末年始)を話し合いの期日にして、「その日までに材料を揃える」と決める
- 決める場には相続人だけが参加し、兄弟・姉妹の配偶者の意見は参考にとどめる
- 決めた内容は、その日のうちにLINEやメールで全員に送り、「言った・言わない」を防ぐ
方針が決まった後の手続きとして、「遺産分割協議書」(誰が何を相続するかを全員で署名して残す書面)、「代償分割」(一人が家を相続し、ほかの相続人にお金を払う)、「換価分割」(売ってお金で分ける)という言葉が出てきます。
ここでは名前だけ挙げておきます。中身は方針が決まってから調べれば間に合うでしょう。
状況別の取りかかる順序|親が亡くなった/住めなくなった/まだ元気/空き家のまま放置中
「確認 → 期限 → 話し合い → 手続き」の順序がそのまま当てはまるのは「親が亡くなった」場合で、ほかの入口では順序の一部が変わります。
「住めなくなった」「まだ元気」の場合は、親の判断能力が順序を決めます。
「空き家のまま放置中」の場合は、登記上の名義人と残り期限の確認から組み直します。
ここでは、標準の順序と「変わる場所」と、それぞれの「最初の一手」に絞って書きます。
共通する手順は、それぞれの章を参照してみてください。
自分の状況を判定する4問|親は存命か・判断できるか・住んでいる人はいるか・相続発生から何年か
次の4つの問いに答えると、自分がどの入口にいるかが分かります。
| 問い | 答え | 状況 |
|---|---|---|
| 1. 親は存命か | いいえ → 問い4へ/はい → 問い2へ | |
| 2. 親は自分で判断できる状態か | いいえ(入院中・施設入所・認知症の兆候) | B 住めなくなった |
| 3. 親は実家に住んでいるか | はい、元気に住んでいる | C まだ元気 |
| 4. 相続発生から何年か | 数か月以内 | A 亡くなった |
| 1年以上経ち、家はそのまま | D 放置中 |
状況が重なることもあります。
施設に入所中の親が亡くなった(B → A)、亡くなって数年経っている(A → D)などです。
その場合は「今の入口」を優先します。
前の入口で打てなかった対策には、諦めるしかないものも含まれます。今から取れる手に集中するのが、結果として損の少ない進み方です。
親が亡くなった場合の順序|家財に手を付ける前に負債と遺言書を確かめる
標準の順序がそのまま当てはまる入口で、変わる場所は5つに絞られます。
- 「3か月の壁」が最初に来る。葬儀、四十九日、役所の手続きで、3か月はあっという間に過ぎる。片付けや形見分けの前に、借金の有無を調べ、相続放棄するかを判断する(手順は「片付けより先に相続放棄を判断する手順」の節)
- 遠方に住んでいた人、親と疎遠だった人は、「知った日」の記録を残す。訃報を受けたメールやメッセージ、連絡を受けた日付のメモを取っておく。相続放棄や相続登記の期限は「知った日」から数えるので、後で証明できることが大切になる
- 遺言書の有無を先に確かめる。見つけても開けない
- 期限はないが早めの届出を3つ済ませる。固定資産税の相続人代表者指定届、火災保険会社への空き家になった旨の連絡、電気・ガス・水道の名義変更
- 四十九日の集まりを話し合いの期日にする。兄弟・姉妹の全員が顔を合わせる機会は、意外とこの日くらいしかない。それまでに材料を揃えて、当日は「窓口と費用負担」だけでも決めておく
最初の一手は、家財に手を付けず、親宛ての郵便物と通帳で借金の有無を確かめ、遺言書があるかを探すことです。
出典: 裁判所 相続放棄の申述/法務省 相続登記の申請義務化について
親が住めなくなった場合の順序|判断能力があるうちの対策を先に置く
親が入院した、施設に入った、認知症の兆候が出てきた。この入口では、標準の順序の前に「親の判断能力の確認」が入ります。
前提として、親名義の家は、子どもが代わりに売ることも貸すこともできない決まりです。
「親が施設に入って空き家になったから、子どもが売ればいい」とはなりません。売買契約では司法書士が売主本人の意思を確認するため、親の判断能力が落ちているとここで止まります。
判断能力があるうちと、なくなった後では、できることがまったく変わります。
| 判断能力があるうち | 判断能力を失った後 |
|---|---|
| 親本人が売る。自分が住んでいた家なら、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却で、3,000万円の特別控除が使える | 法定後見(成年後見)に限られる。家庭裁判所に申し立てて後見人を選ぶ |
| 遺言書を書く(公正証書か法務局保管が安心) | 遺言は書けない |
| 任意後見契約を結ぶ(将来判断能力が落ちたとき、誰に何を任せるかを本人が決めておく) | 任意後見は結べない |
| 家族信託を組む(家の管理や処分を家族に託す契約) | 家族信託は組めない |
| 名義・ローン・権利証・遺言書の場所を本人に聞く | 本人に聞けず、書類探しから始まる |
判断能力を失った後の「法定後見」については、知っておきたい現実があります。
後見人が親の住んでいた家を売るには、家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。
許可なく売った契約は無効になります。許可が出るかは「本人のために必要か」で判断されるため、「施設の費用を作るために売りたい」という理由でも、認められる場合と認められない場合があります。
後見人に専門職(司法書士や弁護士)が選ばれると、報酬が親の財産から毎月払われ、親が亡くなるまで続きます。
「後見人を付ければ売れる」という単純な話とは違う、と考えておくと判断を誤りにくくなります。
空き家になった実家の維持も、この段階で担当を決めておきます。
- 火災保険会社に「空き家になった」と連絡する(連絡しないと補償の対象外になる契約がある)
- 水道を時々流し、窓を開けて風を通す
- 郵便物を回収する
施設入所中に親が亡くなると、入口は「亡くなった場合」に移ります。
このとき空き家特例は、親が要介護認定などを受けて施設に入っていて、入所後に家を人に貸したり親族を住まわせたりしていなければ、使える余地があります。「住めなくなった」段階で「貸さない・住まわせない」を守っておくと、後で選択肢が残ります。
最初の一手は、主治医やケアマネジャーに親の判断能力の状態を確認し、判断できるうちに「家をどうしたいか」を聞いて書面に残すことです。
出典: 裁判所 居住用不動産処分許可の申立て/国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例/国税庁 No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋
親がまだ元気な場合の順序|親の意思 → 名義の整理 → 遺言書 → 兄弟・姉妹に伝える
親が元気で実家に住んでいる入口には急ぐ期限がない代わりに、親が主役になります。
子どもが勝手に決めるのではなく、親の希望を聞き、親と一緒に準備する順序です。
順番は、親の意思 → 名義の整理 → 遺言書 → 兄弟・姉妹に伝える、になります。
- 親の意思。住み続けたいか、将来手放してよいかを聞く
- 名義の整理。登記事項証明書を取ってみて、祖父母の名義のままなら、親が元気なうちに相続登記を済ませる。親が亡くなってから2代分やるより、相続人が少ないうちのほうが手間が小さい
- 遺言書。親に書く気があるなら、公正証書遺言か、法務局保管の自筆証書遺言をすすめる。どちらも検認が不要で、紛失や偽造の心配が小さい
- 兄弟・姉妹に伝える。分かったこと(名義・ローン・遺言書の場所)を兄弟・姉妹に伝えておく。「兄だけが知っている」状態は、後の不信感のもとになる
この入口でだけ使える選択肢もあります。
親が元気なうちに、親本人が実家を売って住み替える道です。
自分が住んでいる家を売る場合、売却益から3,000万円を差し引ける特別控除があり、所有期間が10年を超えていれば税率も軽くなります。
相続後に空き家特例を使うには「昭和56年5月31日以前の建築」などの条件がありますが、本人が売る場合はその条件が外れます。家が比較的新しい場合は、相続後より本人が売るほうが税金で有利になることがあります。親が住み続けたいなら、無理にすすめる話とは別です。
逆に、安易に進めないほうがいいのが生前贈与です。
親から子へ家の名義を移すと、贈与税と不動産取得税がかかります。「今のうちに名義を変えておこう」は税金面で相続より不利になることが多いので、専門家に確認してからにしましょう。
この入口でいちばんの落とし穴は、時間があるからこそ放置されることです。
「まだ早い」と思っているうちに、気づけば次の入口(住めなくなった)に移っています。
帰省のたびに、納税通知書の場所、権利証の場所、遺言書の有無、ローンの残り、の4つだけ確認する習慣をつけておくと、いざというときの確認が一瞬で終わります。
最初の一手は、次の帰省で、固定資産税の納税通知書と権利証がどこにあるかを親に聞くことです。
出典: 国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例/国税庁 No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例
空き家のまま放置中の場合の順序|登記上の名義人と残り期限の確認から組み直す
親が亡くなって1年以上経つ、あるいは親が施設に入ったまま実家が空き家になって久しい。この入口では、登記上の名義人と残り期限の確認から順序を組み直します。
まず名義です。登記事項証明書を取って、登記上の名義人が誰になっているかを見ます。
| 登記上の名義人 | 以降の順序 |
|---|---|
| 亡くなった親のまま | 相続登記がまだ。相続人全員で遺産分割を決めて登記する、標準の手順に戻る |
| 祖父母のまま | 2代分の相続。放置した年数が長いほど相続人が増えている。会ったこともない親戚十数人に手紙を書くところから始まる例もある。早く動くほど人数が少なくて済む |
| 兄弟・姉妹などの共有名義 | 売る・貸すには共有名義人全員の同意が要る。共有名義人が誰で、連絡が取れるかの確認から始める |
次に残り期限です。
相続登記は、2024年3月31日以前に相続した不動産なら2027年3月31日までが期限です。空き家特例は、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る必要があります。
亡くなった日から数えて、まだ間に合うのか、もう過ぎているのかを確かめます。
過ぎていれば、その特例は諦めて、残っている手段で順序を組みます。
放置している家には、放置特有のリスクもあります。
2023年12月に空き家の法律が改正され、管理が行き届いていない「管理不全空家」や、倒壊の危険がある「特定空家」として自治体から勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例が外れます。
住宅用地特例は、200平方メートル以下の部分の課税標準を6分の1にする軽減です。
外れると、土地の固定資産税が大きく跳ね上がります。
自治体からの助言・指導・勧告は段階を踏むので、通知が届いた時点で動けば、ここまでは避けられます。
親宛て・実家宛ての郵便物に自治体からの通知が混ざっていないか、確かめておきましょう。
火災保険が切れていないか、水道・電気の契約がどうなっているかも、この段階で見直します。
保険が切れたまま火事や台風の被害が出ると、全額自己負担になります。
最初の一手は、登記事項証明書を取って登記上の名義人を確認し、親が亡くなった日から数えて、相続登記と空き家特例の期限が残っているかを数えることです。
出典: 法務省 相続登記の申請義務化について/国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例/国土交通省 空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報/総務省 固定資産税(住宅用地に対する課税標準の特例)
まとめ:実家の問題は、片付けより先に「確認」から始める
実家の問題で本当に取り返しがつかないのは、相続放棄を判断する前に家財を処分してしまうことです。片付けは手が動きやすい作業ですが、順番としては、名義・ローン・遺言書の確認と、借金の有無の確認が先に来ます。
次の一歩は、法務局で登記事項証明書を取り、実家の書類箱から固定資産税の納税通知書を探すことです。これを飛ばして「売るか残すか」から話し始めると、材料のないまま兄弟・姉妹の話し合いが空転し、相続登記や特例の期限だけが過ぎていきます。
自分がどの入口にいるかを「状況別の取りかかる順序」の4問で確かめ、その入口の最初の一手から始めてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、実家の問題に取りかかる順序や、最初に確認する名義・ローン・遺言書の調べ方、片付けより先に判断する相続放棄の期限も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。

