帰省のたびに親の歩き方が気になり、「この家は将来どうなるのだろう」と考えながらも、親に実家の話を切り出せずにいる人は多く、株式会社すむたすの2025年7月の調査では、実家の処分について親子で「会話したことがない」人が72.1%でした。
実家をめぐる時間切れは、親が亡くなる日ではなく、親が判断できなくなる日に来ます。
親が元気な今だからこそできる準備と、今はまだ決めなくてよい判断を分けておくと、売る・貸す・住むの結論を急がずに、親との関係を保ったまま備えを進められます。
親が元気なうちに実家の準備を始める理由
実家を動かせなくなる期限は、親が亡くなる日ではなく、親が判断できなくなる日に来ます。
「相続が起きてから考えればいい」と思っていると、その手前で手が打てなくなります。理由は次の5つです。
- 認知症になると親名義の実家は売却も賃貸もできない
- 成年後見を付けても実家は自由に売れない
- 家族信託・任意後見・遺言は判断能力があるうちしか結べない
- 実家を動かせないと施設費用の原資にできない
- 近隣との取り決めや実家への思いは親本人からしか聞けない
認知症になると親名義の実家は売却も賃貸もできない
親が認知症になると、親名義の実家は売る契約も貸す契約も結べなくなります。
実家の名義が親なら、売る、貸す、大きな修繕を頼むといった契約を結ぶのは親本人です。契約書にサインできるのは、親本人に限られます。
民法には「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」(民法3条の2)という決まりがあります。意思能力とは、自分の行為の意味を理解して判断する力です。
つまり、認知症が進んでこの力を失うと、親が契約書にサインしても契約は無効になります。実家は売れず、貸せず、直せない状態に変わります。
認知症は突然やってくるというより、軽度認知障害(MCI)という手前の段階を経てゆっくり進みます。「まだ大丈夫」と思っているうちに、契約を結べる状態を過ぎていた、という例もあります。
厚生労働省の研究班(九州大学・二宮利治教授)の推計では、2025年の認知症の高齢者は約471.6万人で、65歳以上の12.9%にあたります。MCIの高齢者は約564.3万人(15.4%)で、合わせると高齢者の4人に1人を超えます。
出典: e-Gov法令検索 民法/厚生労働省 認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究(資料)
成年後見を付けても実家は自由に売れない
成年後見人を付けても、実家を売るには家庭裁判所の許可が要ります。
「親が認知症になったら成年後見人を付ければ売れる」と考える人は多いでしょう。確かに成年後見制度を使えば、後見人が親に代わって契約を結べます。ただし、実家については大きな制限があります。
民法859条の3は、成年後見人が本人の住んでいる建物や土地を売却・賃貸・抵当権の設定などをするには「家庭裁判所の許可を得なければならない」と定めています。裁判所の案内でも、許可を得ないで処分した場合はその処分は無効になるとされています。
許可が下りるのは、その処分が本人のために必要だと認められた場合に限られます。「空き家になるから売りたい」「子が相続税を心配している」といった家族の都合では、許可が下りない例もあります。
さらに、後見人には報酬がかかります。横浜家庭裁判所が公表している目安は次のとおりです。
- 基本報酬は月額2万円
- 管理する財産が1,000万円を超え5,000万円以下なら月額3万〜4万円
- 5,000万円を超えると月額5万〜6万円
この報酬は親が亡くなるまで続き、一度始めた後見は家族の都合では終えられず、そのまま続きます。生前贈与や資産運用も、本人の財産を守る観点から原則として止まります。「後見があるから大丈夫」とはいえない仕組みです。
出典: 裁判所 成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産の処分についての許可/横浜家庭裁判所 成年後見人等の報酬額のめやす
家族信託・任意後見・遺言は判断能力があるうちしか結べない
家族信託、任意後見、遺言は、親に判断能力があるうちだけ結べます。
認知症に備える方法として、よく挙がるのがこの3つです。
- 家族信託は、親の財産の管理を家族に託す契約
- 任意後見は、将来の後見人をあらかじめ親自身が選んでおく契約
- 遺言は、財産の分け方を親自身が決めておく書面
契約や遺言を作るときには、公証人や司法書士が本人の意思を確認します。判断能力に疑いがあれば、作成を断られます。認知症が進んでからでは、どれも使えなくなります。
ただし、「今すぐ契約しましょう」という話とは別です。契約が要るかは家庭の事情で変わり、今決めなくてよい判断に入ります(「今は決めなくてよい判断と、急がない理由」で説明します)。知っておきたいのは「結べる期限がある」という事実です。
実家を動かせないと施設費用の原資にできない
実家を動かせないと、施設の費用を実家の売却でまかなう計画が崩れます。
親が施設に入るとき、入居一時金や毎月の費用を実家を売ったお金で払う予定の家庭は多くあります。ところが、施設に入ったあとで認知症が進むと、前の項目で見たとおり実家は売れなくなります。
空き家になった実家は、時間がたつほど売りにくくなります。家財が残ったまま、雨漏りや庭木の放置で傷み、管理のために通う交通費もかさみます。
国土交通省の「令和元年空き家所有者実態調査」では、空き家を取得した経緯の54.6%が相続でした。要するに、空き家の半分以上は、親が元気なうちに方針が決まらないまま相続を迎えた家です。
親が元気なうちなら、「住みながら売る」「住み替え先を決めてから売る」といった選び方を親自身の意思でできます。売るよう勧めたいのではなく、選べる幅が元気なうちは広いという話です。
近隣との取り決めや実家への思いは親本人からしか聞けない
ご近所との約束や実家への思いは、親本人だけが知っています。
実家には、書類に残っていない情報が多くあります。
隣の家との境界はどこか。隣の木の枝が越えてきているのを黙認しているのか。前の道は誰の土地で、どう使う約束か。
こうした近隣との口約束は、親が亡くなると消えてしまいます。いざ売るときに、境界や道路の承諾でつまずくのはこのためです。
実家への思いも同じです。「この家を誰に、どうしてほしいか」を親の口から聞いていないと、相続のときに「お父さんはこう言っていた」「そんなことは言っていない」と兄弟・姉妹の間で解釈が割れます。
親が元気なうちは、親の意思を中心に兄弟・姉妹が話をまとめられます。亡くなったあとは、相続人それぞれの利害が前に出ます。同じ話でも、もめやすさがまるで違います。
親本人に確認しておきたい質問
親本人にしか答えられない質問に絞ると、聞く内容は次の5つにまとまります。
- この家に住み続けたいか、住めなくなったらどう暮らしたいか
- 家と仏壇・お墓を誰に託したいか、売ってもよいか
- 家を建てた経緯、増改築、ローン、不具合の有無
- 境界・越境・私道・配管について近所と交わした取り決め
- 兄弟・姉妹への援助の経緯と、親が考える「平等」
一方で、次の内容は親に聞かなくてもほかの方法で確かめられます。
- 名義や面積は、登記簿で分かる(「親に聞かずに子が自分で調べる方法」で説明)
- 書類の保管場所は、別にまとめて確かめる(「親の手元で保管場所を確認しておく書類」で説明)
- 相続税や節税は、子があとから調べられるので聞かずに済ませる
聞き方や順番の工夫は最後の「親への切り出し方のコツと、兄弟・姉妹へ伝える情報」にまとめました。
この家に住み続けたいか、住めなくなったらどう暮らしたいか
最初に聞きたいのは、親自身がこの家でどう暮らしていきたいかです。
- いつまでこの家に住むつもりか
- 足腰が弱ったり配偶者に先立たれたりしたあと、どこで暮らしたいか(施設・子との同居・小さな家への住み替え)
- 父か母のどちらかに介護が必要になったとき、この家で介護するつもりか
- 介護や施設の費用を、実家を売ったお金でまかなうつもりか、年金と貯蓄で足りる見込みか
段差の多い家、二階に寝室がある家、浴室が狭い家では、在宅介護は難しくなります。親がそれをどう考えているかで、準備の方向が変わります。
費用の質問は少し踏み込んだ内容です。この答えで、「将来売れる状態を保っておく準備」がどれだけ必要かが分かります。ここで売る・売らないを決める必要はなく、親の見込みを聞けば十分です。
家と仏壇・お墓を誰に託したいか、売ってもよいか
次は、家そのものをどうしてほしいかです。
- 家を残してほしいのか、売ってもよいのか、貸してもよいのか
- 仏壇や位牌、お墓をどうしたいか
- 遺言を書いているか、書くつもりがあるか(中身は聞かずに済ませる)
- 父と母で考えが一致しているか
- 認知症になったとき、財産の管理を誰に任せたいか
実家を手放すとき、仏壇とお墓の行き先が決まっていないと話が止まります。遺言は、あるかないかとどこに預けているかが分かれば十分です。
財産の管理を誰に任せたいかは、家族信託や任意後見を結ぶときの前提になります。親の指名がないまま判断する力が落ちると、兄弟・姉妹の間で誰が担うかを決められなくなります。
ここで、ほかではあまり書かれていない事実をひとつ。将来、子が実家を売るときにいちばん重くのしかかるのは、税金でも手続きでもなく「親は本当は残したかったのではないか」という迷いです。そして兄弟・姉妹からの「勝手に売った」という非難です。
親が元気なうちに「売ってもいいよ」という一言を聞いておくと、この迷いと非難は消えます。逆に「残してほしい」なら、その理由ごと聞いておけば、あとで判断の材料になります。
家を建てた経緯、増改築、ローン、不具合の有無
実家がどうやって今の形になったかも、親の記憶の中にだけある情報です。
- 親が建てたのか、買ったのか、祖父母から相続したのか
- もともと農地だった土地か、土地は親の所有か借地か
- 増築や改築はいつ、どの部分を、建築確認を取って行ったか
- 住宅ローンやリフォームローンは残っているか、家を担保にした借入はないか、他人の連帯保証人になっていないか
- 雨漏り、シロアリ、床の傾き、床下浸水、過去の火災や事故はあるか
- 図面や経緯を知っている工務店、付き合いのある不動産会社や司法書士はいるか
来歴の答えで、権利関係の複雑さと、あとで調べる先が変わります。届け出をせずに増築した部分は登記されていない例が多く、将来の売却や相続登記で問題になります。
お金については、親が「もう払い終わった」と言うローンでも、あとで登記簿を見ると担保が残っている例があります(確かめ方は「親に聞かずに子が自分で調べる方法」で説明します)。
家の不具合は、将来売るときに買主へ伝える義務がある事柄です。親が亡くなると、誰も知らない状態になります。
境界・越境・私道・配管について近所と交わした取り決め
実家の売却で止まりやすいのが、隣近所との関係です。
- 境界の杭はどこにあるか、過去に境界で隣ともめたか
- 隣の木の枝や塀、屋根のひさしがこちらの敷地に越えていないか、逆にこちらの物が隣に越えていないか
- 前の道が私道なら、持分を持っているか、通行や工事の約束はどうなっているか
- 水道管やガス管が他人の敷地を通っていないか、他人の管がこちらの敷地を通っていないか
- 井戸や浄化槽はあるか
越えていても「お互い様」で黙認している場合、その黙認は親と隣人の間だけの約束です。
こうした取り決めは、売るときに境界の確定、私道の通行や掘削の承諾、配管の承諾という形で必ず表に出ます。親が元気なうちに聞いておけば、問題があっても今のうちに整えられます。亡くなってから隣人に「お宅のお父さんとはこういう約束だった」と言われても、確かめようがなくなります。
兄弟・姉妹への援助の経緯と、親が考える「平等」
最後は、聞きにくい質問です。
- これまでに親が子どもたちにどんな援助をしてきたと認識しているか(学費・住宅資金・事業の資金・同居や介護の負担)
- 親の言う「兄弟で平等に」は、金額の平等か、気持ちの平等か、実家を継ぐ人への配慮を含めた平等か
親の中では「長男には家を建てるときに出した」「次女は結婚のときに」といった記憶があります。それが子どもたちの認識とずれている例もあります。「平等」の定義も、親が口に出して初めて子に伝わります。
相続では、生前に受けた援助は「特別受益」、親への貢献は「寄与分」という名前で、分け方に影響する仕組みがあります。細かい計算より大事なのは、こうした火種になりやすい事柄を親の言葉で聞いておくことです。
親が元気なうちに「自分はこう考えている」と語った言葉は、あとで兄弟・姉妹の間に立つ強い歯止めになります。聞き方は、最後の「親への切り出し方のコツと、兄弟・姉妹へ伝える情報」で説明します。
親の手元で保管場所を確認しておく書類
親の手元にしかない書類は、中身を調べずに「どこにあるか」だけ確かめておくと十分に役立ちます。
- 固定資産税の納税通知書(評価額と課税対象が1枚で分かる)
- 権利証・登記識別情報(紛失しても再発行されない)
- 住宅ローンの返済予定表と抵当権の抹消書類
- 購入・建築・リフォームの契約書と領収書(取得費の証拠)
- 測量図・境界確認書・建築確認済証・検査済証
- 遺言書の保管先と貸金庫の有無
中身を見ようとすると、親は「財産を調べられている」と感じて口を閉ざしがちです。場所だけなら、親も教えやすくなります。
登記簿や公図のように子が自分で法務局から取れる資料は、「親に聞かずに子が自分で調べる方法」にまとめました。
固定資産税の納税通知書(評価額と課税対象が1枚で分かる)
最初に場所を確認したいのが、固定資産税の納税通知書です。
多くの自治体では毎年4月から6月ごろに所有者へ届きます。この通知書には「課税明細書」が付いていて、実家の情報がここにまとまっています。
- 土地と建物の評価額と、課税の基準になる金額
- 課税されている土地の筆数と建物の棟数
- 共有名義になっている場合は、ほかの名義人
ここで思わぬ発見をする家庭も多くあります。親も忘れていた裏の畑や道路の持分、届け出をしていない増築部分が建物として載っている、といった事柄です。
この書類は毎年届く紙で秘密性が低く、親が最初に見せやすいのも利点です。「固定資産税って今いくらくらい払ってるの」という何気ない質問が、ほかの書類の場所を聞く入口になります。介護サービスや施設の手続きで提出を求められる場面もあります。
権利証・登記識別情報(紛失しても再発行されない)
実家を売る、贈与する、担保に入れるといった登記の手続きには、権利証の現物が要ります。
古い家なら「登記済証」と書かれた書類、新しい方式で登記した不動産なら「登記識別情報通知」という12桁の符号が書かれた書類です。
この書類は、なくしても再発行されません。紛失した場合は、司法書士に本人確認情報という書類を作ってもらうか、法務局からの事前通知という手続きで代える方法があります。
ただし、どちらも親本人の意思を確認することが前提です。親の判断する力が落ちてからでは、この代わりの手続き自体が難しくなります。探すなら、親が元気なうちです。
「コピーを取ってあるから大丈夫」と親が言う例もありますが、登記に使えるのは現物に限られます。現物がどこにあるかを確認しておきましょう。
住宅ローンの返済予定表と抵当権の抹消書類
住宅ローンの書類は、残っている分より「払い終えたあとの分」を探しておくと役立ちます。
住宅ローンが残っているなら、返済予定表で残りの金額と完済の時期が分かります。これは比較的見つけやすい書類です。
見落とされがちなのが、完済したあとの書類です。住宅ローンを組むと、金融機関は実家に「抵当権」という担保の権利を登記します。ローンを払い終えると、金融機関から抵当権を消すための書類(弁済証書、登記原因証明情報、委任状など)が渡されます。
この「抹消登記」を自分で法務局に申請しないと、登記簿には担保が残ったままです。
払い終えたのに抹消登記をしていない家も多く見られます。そのままでも住む分には困らないからです。
けれど、売るときには必ず消す必要があり、金融機関からもらった書類が手元にあるかで手間が大きく変わります。親に「ローンを払い終えたとき、銀行から書類をもらわなかった?」と聞いてみてください。
購入・建築・リフォームの契約書と領収書(取得費の証拠)
買ったときや建てたときの契約書と領収書は、将来の税額を大きく左右します。
実家を売ったときにかかる税金は、「売った金額」から「買ったときや建てたときにかかった費用(取得費)」などを引いた利益に対してかかります。取得費が大きいほど、税金は少なくなります。
ところが、取得費を証明する書類が見つからないと、国税庁の決まりで「売った金額の5%」を取得費として計算します。
つまり、3,000万円で売れた家なら、取得費は150万円とみなされます。実際には2,000万円かけて建てた家でも、書類がなければ150万円扱いです。その差額に税金がかかると考えると、この書類の重さが分かります。
- 土地や家を買ったときの売買契約書
- 家を建てたときの請負契約書
- それぞれの領収書
- リフォームをしたときの契約書と領収書(取得費に加えられる)
親が「もう捨てた」と思っている書類が、押し入れの奥から出てくる例もあります。親の記憶を頼りに探せるのは、元気なうちです。
出典: 国税庁 タックスアンサー No.3258 取得費が分からないとき
測量図・境界確認書・建築確認済証・検査済証
土地の形と広さを示す書類と、建物が決まりどおりに建てられた証明も、場所を確認しておくと売却のときに時間を節約できます。
土地については、測量図と境界確認書です。隣地の所有者と「ここが境界です」と確認した書面があれば、売るときの測量を省けたり、短く済ませたりできる例があります。「親本人に確認しておきたい質問」で聞いた越境の覚書や、私道の通行・掘削の承諾書も、同じ束に入れておくとまとまります。
建物については、建築確認済証と検査済証、そして図面です。
- 建築確認済証は「この計画で建ててよい」という役所の確認
- 検査済証は「決まりどおり建った」という完成後の検査の証明
検査済証がない家は、増改築や買主の住宅ローン審査で不利になりやすいので、あるかないかを知っておくと安心です。見つからなければ、役所で有無を確認する方法があります(「親に聞かずに子が自分で調べる方法」で説明します)。
このほか、借地なら借地契約書と地代の領収書、もともと農地だった土地なら農地転用の許可書、祖父母から相続した家ならそのときの遺産分割協議書も、同じ場所にある例が多い書類です。
遺言書の保管先と貸金庫の有無
遺言書は、中身を聞かずに「あるか、どこにあるか」だけ確かめておくと十分です。
公正証書遺言なら公証役場に原本があります。自筆の遺言なら、自宅のどこかか、法務局の保管制度に預けている可能性があります(法務省の案内では、保管の申請手数料は1件3,900円)。
ここで、意外と知られていない壁をひとつ。親が銀行の貸金庫を借りているなら、その中に権利証や遺言書を入れていないかを確かめておきましょう。
親が亡くなったあとは、多くの金融機関で貸金庫を開けるのに相続人全員の同意や立ち会いを求められるのが一般的です。権利証や遺言書が貸金庫に入っていると、それを取り出すこと自体が最初の関門になります。
親の「大事な引き出し」は、仏壇の引き出し、たんすの奥、手提げ金庫、貸金庫と、分散しているのが普通です。一度に全部を聞き出そうとせず、帰省のたびにひとつずつ確認していくくらいでちょうどよいでしょう。
施設への入居や片づけで書類がまとめて捨てられてしまう前に、場所だけは知っておけると安心です。
親に聞かずに子が自分で調べる方法
名義や担保、土地の条件に「地雷」がないかは、親に頼まずに子が自分で確かめられます。
- 法務局で登記簿・公図・地積測量図を取る
- 役所で道路種別・用途地域・検査済証の有無を確認する
- 公開データと匿名の机上査定で相場を知る
- 調べた結果と親の記憶の食い違いを確認する
ここでの目的は、実家の値段を正確に出すことより、問題の種を先に見つけておくことです。子が自分で取れるのは、法務局の登記簿や図面、役所の都市計画や道路の情報、国などが公開している取引価格のデータです。
一方で、固定資産評価証明書や名寄帳(その人が持つ不動産の一覧)は、所有者本人か相続人に限って取れます。こちらは納税通知書で代えられます。
調べた結果を親にどう伝えるかには注意が要ります。黙って調べて結論だけ言うと、親は「財産を探られた」と感じます。伝え方は最後の「親への切り出し方のコツと、兄弟・姉妹へ伝える情報」で説明します。
法務局で登記簿・公図・地積測量図を取る
登記事項証明書(いわゆる登記簿謄本)は、所有者でなくても誰でも取れます。
法務局の窓口で請求すると1通600円です。オンラインで請求して法務局の窓口や法務局証明サービスセンターで受け取ると480円に下がります。閲覧だけでよければ、登記情報提供サービスというインターネットのサービスで1件330円で見られます。
ひとつだけ事前に要るのが「地番」です。普段使う住所(住居表示)と登記上の地番は別物で、請求には地番のほうが要ります。法務局に電話で地番を照会するか、納税通知書に載っている地番を使います。
取った登記簿で見るのは3か所です。
- 甲区(所有者の欄)は、登記上の名義人が親か、亡くなった祖父母のままか
- 乙区(担保の欄)は、親が「払い終えた」と言うローンの抵当権が残っていないか
- 表題部は、土地なら地目(宅地か農地か)と面積、建物なら登記があるか
甲区が祖父母名義なら、相続登記が終わっていない状態です。相続登記は以前は義務ではなく、長く放置された家が多くありました。法務省の案内では、2024年4月1日から申請が義務になり、相続を知った日から3年以内、2024年4月1日より前の相続分は2027年3月31日までに登記する必要があります。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象です。
乙区に抵当権が残っていれば、抹消登記がまだという合図です。表題部の地目が農地のままだと、売るときに農地法の手続きが絡みます。増築した部分が登記されていない例も、ここで分かります。
登記簿と一緒に、公図と地積測量図も取っておきましょう。公図は土地の形と並びを示す図で、前の道が私道なら道路部分にも地番が振られています。その地番の登記簿を取ると、私道の持分が誰にあるかが分かります。
地積測量図は境界を測った図面です。これが無い、あっても古くて精度が低いという場合は、売るときに改めて境界確定の測量が要る見込みです。実家の敷地が複数の筆に分かれていないかも、ここで拾えます。
出典: 法務省 相続登記の申請義務化について/横浜地方法務局 オンラインで請求した登記事項証明書等の受取(手数料)/登記情報提供サービス サービス概要・利用料金
役所で道路種別・用途地域・検査済証の有無を確認する
実家が「売れる土地か」「建て替えられる土地か」は、相場よりも先に、土地の条件でほぼ決まります。
それを調べる先が市区町村の役所です。確認する内容は3つに分かれます。
- 建築指導の部署で、前の道が建築基準法上どの種類の道路か
- 都市計画の部署か自治体の都市計画図で、用途地域、建ぺい率と容積率、市街化調整区域か
- 建築確認済証や検査済証が見つからないとき、「台帳記載事項証明書」(自治体により呼び方が異なります)で建築確認と完了検査の記録があるか
建築基準法43条では、建物の敷地は道路に2メートル以上接していなければならないのが原則です。幅が4メートル未満の古い道でも、法律上の道路と扱われる場合があり、その場合は建て替えのときに敷地を後退させる(セットバック)条件が付きます。
接している部分が2メートルに足りない、あるいは接している道が法律上の道路と認められていない場合は、原則として建て替えができない「再建築不可」の土地になります。
市街化調整区域は建物を建てることが原則として制限される区域で、買い手が限られます。がけ条例の対象地、土砂災害警戒区域、埋蔵文化財包蔵地といった規制も、同じ部署で分かります。あわせて、国土交通省のハザードマップポータルで浸水や土砂災害の想定も見ておくとよいでしょう。
ここまで調べて何も引っかからなければ、実家は「売ろうと思えば売れる土地」です。引っかかる点があれば、親が元気なうちに整えられるかを考える材料になります。どちらにしても、売る判断はここで下さずに進められます。
出典: 東京都都市整備局 第43条第2項に基づく認定・許可の取扱い(接道義務)
公開データと匿名の机上査定で相場を知る
相場は、不動産会社に頼む前に、国などが公開しているデータでおおまかにつかめます。
- 国土交通省の「不動産情報ライブラリ」で、実際に取引された価格を地域ごとに見られる
- 不動産流通機構の「レインズ・マーケット・インフォメーション」で、成約した物件の価格帯が分かる
- 国税庁の路線価図で、土地のおおまかな評価の目安がつかめる
そのうえで、もう少し具体的な数字が欲しければ、不動産会社の机上査定(訪問せずに資料だけで出す査定)を使う手があります。匿名で使えるAI査定のサービスもあります。
会社に頼むなら、最初に「売る予定はなく、相場を知りたいだけです」と伝えて1社に机上査定を頼むのが現実的です。一括査定サイトに個人情報を入れると複数の会社から連絡が来るので、情報収集の段階では避けたほうが落ち着いて進められます。
不動産会社は敵ではありません。相場と「この土地は売れるか」の判断を、いちばん持っている相手です。
訪問査定や媒介契約(売却を正式に依頼する契約)に進まなくても、情報収集の相手として付き合えます。売る・売らないは、ここでは決めずに済みます。
調べた結果と親の記憶の食い違いを確認する
登記簿や役所で調べた内容を親の話と突き合わせ、ずれを埋めるところまでが仕上げです。
よくある食い違いは、次のとおりです。
- 親は「ローンは払い終えた」と言うが、登記簿の乙区に抵当権が残っている
- 納税通知書や公図を見たら、親が話していない筆(道路の持分や裏の畑)があった
- 地積測量図が無く、境界の経緯が分からない
- 地目が農地のままの土地がある
こうした点は「調べておいたよ」ではなく、「登記簿にこう書いてあったんだけど、合ってる?」と確認の形で親に戻してみてください。すると、「抹消の書類は銀行からもらったけど、登記はしていなかった」「あの畑は祖父の代に隣から譲ってもらった」といった理由が出てきます。
この理由を聞けるのは、親が元気なうちです。公的な資料と親の記憶を突き合わせておくと、相続が起きたあとに「誰も分からない」という状態を防げます。
今は決めなくてよい判断と、急がない理由
親に聞き、書類と登記簿を確かめたあとも、売る・貸す・住むの結論は出さずに進められます。
- 売る・貸す・住むの結論は親が住んでいる間は決まらない
- 遺産の分け方と誰が継ぐかは親が決める
- 片づけの完了と家族信託の契約は急がない
- 動く前に確認したい選択(同居・持ち家購入・賃貸・名義変更・解体)
- 決めないのは結論だけで、情報集めは止めない
今は決めなくてよい判断は3つあります。それぞれ急がない理由を説明したうえで、「結論を出していなくても、動いてしまうと選択肢を潰す行動」を5つ挙げます。
子が親の前で結論を口にすると、親は「追い出される」「財産を狙われている」と感じて、以後の協力を失います。結論を急がないのは、親との関係を守るためでもあります。
売る・貸す・住むの結論は親が住んでいる間は決まらない
実家を売るか、貸すか、誰かが住むかは、親がその家に住んでいる間は保留にしておけます。
売却も賃貸も、親が別の場所に移ることとセットで初めて成り立ちます。しかも前提は変わり続けます。
親の希望、介護の状況、建物の傷み具合、不動産の市況。どれかが変われば、今出した結論は作り直しです。
相場を知っておくのはよいことです。ただし、それはまだ「決断の材料」ではなく「選択肢の幅を知る材料」です。
「空き家にするくらいなら貸せばいい」という考えも、慎重に扱いたい判断です。貸せば借主の権利が発生し、親が戻りたくなっても簡単には戻れなくなります。
借地借家法28条では、貸主から更新を断ったり解約を申し入れたりするには「正当の事由」が必要とされています。退去の交渉、原状回復、修繕の負担も、相続した子が引き継ぎます。
出典: e-Gov法令検索 借地借家法
遺産の分け方と誰が継ぐかは親が決める
「実家は長男が継いで、次女には預金を」といった分け方を決めるのは、子ではなく親です。
子どもたちの間で先に決めてしまう家もあります。けれど、親が遺言を書くなら、それが親の意思です。子が先に決めると、親の意思を飛び越えることになります。
それに、前提が変わります。配偶者が先に亡くなるか、兄弟・姉妹の転勤や離婚、介護を誰がどれだけ担うか、施設の費用でどれだけ財産が減るか。早い時期に「誰が継ぐ」を固めたせいで、状況が変わったあとに「あのとき決めたじゃないか」と火種になった例もあります。
ひとつ、注意したい考え方があります。「とりあえず兄弟で共有名義にしておこう」という結論です。これは先送りに見えて、いちばん動かなくなる結論です。
共有名義の不動産は、売るにも貸すにも名義人全員の同意が要ります。一人が反対したり、連絡が取れなくなったりすれば、そこで止まります。共有名義を前提に話を進めるのは避けておきましょう。
片づけの完了と家族信託の契約は急がない
実家の片づけも、家族信託などの契約も、今は途中のままで進められます。
片づけについて目指すのは「完了」ではなく、書類と貴重品の場所を知っておくところまでです。親が暮らしている家ですから、捨てるか残すかは親が決めます。子が急いで片づけて親の大切な品を捨ててしまい、関係が悪くなった例はよく聞きます。
家族信託や任意後見、遺言も同じです。「結べる期限がある」ことは知っておきたい事実ですが、「今すぐ結ぶ」とは別の話です。
必要性は、財産の種類(不動産が多いか、預金が多いか)、親の健康状態、家族の関係で変わります。不要な家庭が契約すれば、費用と手間が残ります。今の段階では、「親はどうしたいか」を聞いておけば十分です。
動く前に確認したい選択(同居・持ち家購入・賃貸・名義変更・解体)
結論を出していなくても、次の5つの行動は、将来使える税の優遇や実家を動かせる余地を変えてしまいます。
- 親と同居を始める
- 子が自分の持ち家を買う
- 実家を賃貸に出す
- 名義を子に移す
- 建物を解体して更地にする
実行する前に、税理士か不動産会社に一度確認してみてください。制度の細かい要件はここでは省きます。「方向が変わる」という事実だけ押さえておけば、相談のときに話が早くなります。
親と同居を始める
相続した空き家を売ったときに利益から最高3,000万円を差し引ける特例(国税庁タックスアンサー No.3306)は、相続の直前に親が一人で住んでいたことなどが条件です。子が同居を始めると、この条件から外れます。
この特例は、以前は相続人の数にかかわらず最高3,000万円でしたが、2024年1月1日以後の譲渡では相続人が3人以上の場合は最高2,000万円に変わりました。適用は2027年12月31日までの譲渡が対象です。
一方で、同居していた子が実家の土地を相続すると、相続税の計算で土地の評価額を330平方メートルまで80%減らせる特例(小規模宅地等の特例)が使いやすくなります。どちらが有利かは家庭によって違います。「親孝行だから」という気持ちだけで同居を決めず、動く前に確認したい選択です。
子が自分の持ち家を買う
小規模宅地等の特例には、別居の子でも使える「家なき子」と呼ばれる要件があります。その条件のひとつが、相続開始前3年以内に自分や配偶者の持ち家に住んでいないことです。つまり、子のマイホーム購入が、親の実家の相続税に跳ね返る場合があります。
実家を賃貸に出す
賃貸に出すと、親が住んでいる家として受けられる優遇や、先ほどの空き家の特例から外れます。前の項目で見たとおり、親が戻れなくなり、売りにくくもなります。
名義を子に移す
「今のうちに名義を変えておいたほうがいい」と勧められる場面があります。けれど、生前に贈与で名義を移すと、贈与税のほか不動産取得税や登録免許税の負担が、一般に相続のときより重くなります。
親が自分で住んでいる家を売るときに使える3,000万円の特別控除も、名義が子に移れば使えなくなります。そもそも相続税の基礎控除の範囲に収まる家庭なら、節税のための名義変更自体が不要です。
建物を解体して更地にする
住宅が建っている土地には、固定資産税の課税標準を200平方メートルまで6分の1、それを超える部分を3分の1にする特例があります。建物を壊すとこの特例が外れ、土地の固定資産税が大きく上がります。「古いから先に壊しておこう」は、慎重に考えたい選択です。
出典: 国税庁 タックスアンサー No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例/国税庁 タックスアンサー No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)/総務省 固定資産税の概要(住宅用地の特例)
決めないのは結論だけで、情報集めは止めない
「決めなくてよい」のは結論だけで、情報を集めることは親が元気なうちに進めます。
親への質問、書類の場所、自分で調べる資料は、ここまでに挙げたとおりです。では、結論はいつ出すのか。目安になる合図があります。
- 親に介護認定が下りたとき
- 施設への入居を検討し始めたとき
- 入院したとき
- 親自身の希望が変わったとき
こうした変化が起きたら、それまでに集めた情報を土台にして、初めて売る・貸す・住むを考え始めれば間に合います。
その間、外から急かされる場面があります。不動産会社から「今が売り時です」、親戚から「空き家にすると価値が下がるよ」と言われる場面もあるでしょう。
けれど、親が住んでいる家は、親の住み替えとセットで初めて売れます。親の意思がないまま動く必要はなく、動くべきでもないと考えられます。
不動産会社は、情報収集の相手として付き合えばよく、決断を促してもらう相手とは別です。
親への切り出し方のコツと、兄弟・姉妹へ伝える情報
ここまでの質問や書類の確認を進めるには、切り出す言葉、聞く順番、聞く人、兄弟・姉妹への伝え方の4つを押さえると親が構えずに済みます。
- 「自分が困らないための確認」として切り出す
- 聞く順番は秘密性の低い納税通知書から
- 兄弟・姉妹全員で囲まず、一人が聞いて伝える
- 兄弟・姉妹へ伝えるのは名義の資料・書類の場所・親の言葉
「自分が困らないための確認」として切り出す
切り出すときの主語は、親ではなく自分にすると親が応じやすくなります。
切り出せずにいる家庭は多く、株式会社すむたすの2025年7月の調査では、実家の処分について親子で「会話したことがない」人が72.1%でした。理由で多かったのは「まだ具体的に考えていないから」です。
「お母さんのために」と言うと、親には押しつけがましく聞こえます。「もしものときに、私が慌てないように教えてほしい」と、自分の都合として頼むほうが自然です。
入口におすすめなのが、親の「迷惑をかけたくない」という気持ちです。多くの親は、片づけ、介護、お金のどれかで「子どもに迷惑をかけたくない」と思っています。「いちばん心配しているのはどれ?」と聞いて、親の優先順位から入ると、こちらが聞きたいことにも自然につながります。
聞き方は「どうするの?」ではなく「どうしたい?」です。前者は親に決断を迫る響きがあり、後者は親の希望を尊重する響きがあります。
使う言葉にも気を配りましょう。
- 最初は使わない言葉は、売る・相続・財産・処分・名義
- 代わりに使う言葉は、書類・家の手入れ・ご近所・この先の暮らし
同じ中身でも、言葉が違えば返ってくる答えが変わります。介護の話題から入るのも自然です。足腰や一人暮らしの不安を話しているうちに、「この先どこで暮らしたい?」と住まいの希望に移れます。
きっかけは、帰省や法事、親戚が相続や施設入居で苦労した話題、固定資産税の通知が届く時期、相続登記の義務化のようなニュース、自分が家を買うタイミングなどです。一度で終わらせず、帰省のたびに少しずつ聞いていくくらいが、親にも自分にも負担が軽く済みます。
出典: 株式会社すむたす 実家じまいに関する親子間コミュニケーション実態調査(PR TIMES配信・リセマム掲載)
聞く順番は秘密性の低い納税通知書から
何から聞くかで、話が続くか止まるかが決まります。
順番は、秘密性の低いものから高いものへ、です。
- 固定資産税の納税通知書(毎年届く紙で、親も見せやすい)
- ほかの書類の保管場所
- 家を建てた経緯やご近所との取り決めといった「家の話」
- 住み続けたいか、住めなくなったらどうしたいかという「暮らしの希望」
- 家を誰に託したいか、遺言はあるか
- 兄弟・姉妹への援助の経緯と「平等」の考え方
逆の順番、つまり「兄弟で平等ってどういう意味?」から始めると、最初の一言で親は口を閉ざしてしまいます。
書類については、「中身は見ないから、場所だけ教えて」と最初に宣言しておきましょう。「なくしてない?」と聞くと親は責められたと感じるので、「どこにあるか教えて」と頼むほうが答えが返ってきます。
自分で調べたこと(登記簿や役所の情報)は、「調べておいたよ」と結論から言わず、「登記簿にこう書いてあったけど、合ってる?」と確認の形で戻すのがコツです。
親が「売ってもいいよ」「あなたが継いで」と結論めいたことを口にしても、その場で決めずに「分かった、覚えておく」と受け止めて、記録に残しておくと後で役立ちます。
専門家への相談は、ここまでの事実を家族で把握してからのほうが、相談料が無駄になりにくくなります。「専門家に聞いてみよう」を切り出しの口実にすると、親は「もう売る話になっているのか」と構えてしまいます。
兄弟・姉妹全員で囲まず、一人が聞いて伝える
親に聞くのは一人にして、聞いた内容をほかの兄弟・姉妹へ伝える形にすると、親も兄弟・姉妹も安心できます。
兄弟・姉妹が全員そろって親を囲み、一斉に質問すると、親は尋問を受けているように感じます。ただし、聞く前に「聞いたことは兄弟みんなに伝えるから」と約束しておきましょう。この約束がないと、「一人で聞いて何を企んでいるのか」という疑いが生まれます。
自分の親には、自分が聞くのが基本です。配偶者が同席しても構いませんが、口は出さないのが原則です。義理の実家の問題に配偶者が踏み込むと、ほぼ必ずこじれます。
もうひとつ、親に聞く前に知っておきたいのが、「親が誰の意見を気にしているか」です。本家と分家の関係が残っている地域や、親の兄弟・姉妹(叔父や叔母)が強い発言力を持つ家では、親の意思がその人たちの意見で覆る場合があります。先にそれを把握しておけば、話が後でひっくり返るのを防げます。
不動産会社の無料相談やセミナーを「第三者の言葉」として親と一緒に使う手もあります。
ただし営業が入る前提で距離を保ち、「住みながら売る」といった具体的な選択肢は、親が自分から言い出したときに受け止めるくらいでちょうどよいでしょう。子から持ち出すと、「売らせたいのか」と受け取られます。
兄弟・姉妹へ伝えるのは名義の資料・書類の場所・親の言葉
聞いた内容を兄弟・姉妹へ伝えるときは、「事実」に限ると争いの種になりにくくなります。
- 名義の資料は、登記簿の写しそのもの
- 書類の保管場所は、そのまま
- 親の言葉は、日付と、親の言い回しのまま(要約や解釈を加えずに)
記録はLINEのグループや皆が見られるメモに残しておくと、あとで「言った・言わない」になりにくくなります。
ただし、こうしたメモは遺言の代わりにはなりません。遺言には法律で決まった形式があるからです。親の意思を法的に残すなら、それは親自身が遺言という形で行います。
伝えるのを避けたいのは、自分の解釈、「平等」についての評価、援助の額についての判断、そして「だから売るべきだ」という結論です。これを混ぜた瞬間に、伝える内容は情報から主張に変わり、争いの種になります。
聞いた側が先に動くのは禁物です。査定を取る、業者を呼ぶといった行動を一人で起こせば、ほかの兄弟・姉妹の不信は決定的になります。親が「あなたに任せる」と言ったときも、自分の言葉で伝えるのではなく、できれば親から直接、ほかの兄弟・姉妹にも言ってもらいましょう。
遠方に住む兄弟・姉妹ほど、帰省の回数が少なく、情報の差が疑いに変わりやすくなります。近くに住む子が聞いた内容を、こまめに流し続ける。それが、親が元気なうちにできる、兄弟・姉妹の間の備えになります。
まとめ:売るか決める前に、親が元気なうちに聞いておく
実家の時間切れは親が亡くなる日ではなく親が判断できなくなる日に来るため、親名義の実家を売る・貸す・直す契約も、家族信託や遺言といった備えも、親に判断能力があるうちに限って進められます。
次の一歩は、次の帰省で固定資産税の納税通知書の場所を一つ聞いてみることで、これを飛ばすと、名義が祖父母のままだった、払い終えたローンの担保が残っていた、知らない筆があった、といった食い違いに相続が起きてから気づき、関係者が増えた状態で手続きを始めることになります。
売る・貸す・住むの結論は親が住んでいる間は保留のままで構わないので、まずは納税通知書と登記簿という2枚から、親の記憶と公的な資料のずれを確かめてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、親が元気なうちにしておく実家の準備も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。

