「実家に誰が住んでいるか」は、相続税の特例、遺産分割、売却の可否をまとめて左右する事実です。
ところが、別世帯の兄弟・姉妹の住民票は本人の同意がなければ取れず、住民票の住所と生活の拠点もしばしばずれています。
相続人が自分で取れる書類、外から見える痕跡、近隣への聞き取りを組み合わせて居住の実態を確かめる手順と、法律に触れずに進める注意点をまとめました。
実家に住んでいる人の確認が必要になる理由
実家に誰が住んでいるかは、相続税・遺産分割・売却や賃貸の3つに直結します。
住民票と居住の実態がずれる理由と、確認が要る3つの場面を順に見ていきます。
- 住民票の住所と生活の拠点は一致しない
- 相続税の特例は同居の実態で判定される
- 遺産分割では居住中の相続人の扱いが争点になる
- 居住者がいる実家は売却も賃貸も進められない
住民票の住所と生活の拠点は一致しない
住民票は、その人が実際にどこで生活しているかを示す書類とは別物です。
民法22条は「各人の生活の本拠をその者の住所とする」と定めています。住所とは、その人が実際に生活している場所を指し、住民票は役所に届け出た登録にとどまります。
引っ越したのに住民票を動かしていない人も、住んでいないのに住民票だけ実家に置いている人もいます。
このズレを、税務署も裁判所も知っています。そのため、どちらも住民票の場所ではなく「実際にどこで生活しているか」で判断します。
相続税の調査で居住の実態を見るときに材料にされると言われているのは、次の6つです。
- 電気・ガス・水道の使用状況
- 郵便物の宛先
- 運転免許証の住所
- 勤務先に届け出た住所
- 通勤定期の区間
- 近隣への聞き込み
裏を返せば、相続人も同じ材料を使えば、住民票に頼らずに誰が実家で生活しているかを確かめられます。「実家に住んでいる人の確認方法」の章で紹介する手順は、この材料をそのまま使います。
相続税の特例は同居の実態で判定される
実家にかかる相続税は、誰が住んでいたかで大きく変わります。
代表的な特例が2つあり、どちらも居住の実態が判定の土台です。
1つ目は、小規模宅地等の特例です。亡くなった親と同居していた相続人が実家を引き継ぐと、土地の評価額を大きく下げられる仕組みです。
ここでいう同居は、住民票が実家にあることではなく、実際に親と一緒に暮らしていたことを指します。住民票だけを実家に移して「同居していた」と申告しても、生活の実態が別の場所にあれば、税務署は同居と扱わず、特例の対象から外します。
2つ目は、相続した空き家を売ったときの特例(いわゆる空き家特例)です。国税庁の案内では、相続が始まる直前に、亡くなった人以外に住んでいた人がいなかったことが要件とされています。
つまり、親が一人暮らしだった家が対象で、誰かが同居していたと分かった時点で、この特例は使えなくなります。
どちらの特例も要件は細かいため、ここでは接点だけを押さえます。誰が住んでいたかが確定しないと、どちらの特例を検討すればよいかすら決まらない点です。確認が税額を左右します。
出典: 国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)、国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
遺産分割では居住中の相続人の扱いが争点になる
実家に相続人の一人が住んでいる場合、遺産分割の話し合いでは、ほぼ必ずその人の扱いが論点になります。
住んでいる兄弟・姉妹は「自分が親の世話をしてきた」「家を守ってきた」と考えます。離れて暮らす兄弟・姉妹は「ただで住んでいる」「家賃相当分は払うべきだ」と考えます。どちらの言い分にも、もっともな部分があります。
ただ、どちらの主張も土台は同じで、「本当に、いつから、どのように住んでいたのか」という事実です。
親が元気なころから同居して介護をしていたのか、親が施設に入った後に移り住んだのか、荷物を置いているだけで生活の拠点は別なのか。
この事実によって、「実家に住んでいる人が分かった後の対応」の章で説明するように、法律上の扱いがまったく変わります。
事実を確かめないまま話し合いに入ると、お互いの印象だけでぶつかり合い、感情のもつれになりやすいでしょう。先に事実をそろえておくと、話し合いを穏やかに進められます。
居住者がいる実家は売却も賃貸も進められない
実家を売る、または貸すことを考えているなら、居住者の確認が最初の工程になります。
不動産会社が売却の仲介や賃貸の募集を引き受けるには、買主や借主に家を引き渡せる状態であることが前提です。
誰かが住んでいて、その人が出る見込みが立っていない家は、引き渡しの時期を決められないため、仲介を依頼しても「居住者の問題が整理されてから」と言われるのが普通です。
これは不動産会社の都合ではなく、買主や借主を守るための当然の区切りです。
逆に言えば、「誰が住んでいて、その人は今後どうするつもりか」が整理できていれば、売却も賃貸も具体的に動き出せます。実家の活用を考えるなら、査定を頼む前に、まず居住者を確定させておきましょう。
実家に住んでいる人の確認方法
確認は「書類→現地の痕跡→人からの聞き取り→代行」の順で進めると、手戻りが減ります。
書類で分かる範囲を先に押さえ、書類で分からない部分を現地と人で埋め、現地に行けなければ第三者に頼む、という流れです。
| 手段 | 分かること |
|---|---|
| 書類(除票・附票・登記事項証明書・納税通知書・名寄帳) | 死亡時の世帯、住所の履歴、登記上の名義人、役所が窓口と見ている相続人 |
| 現地(メーター・郵便物・表札) | 生活の有無、住んでいる人の名前 |
| 人(近隣・自治会・地域包括支援センター) | いつから、どのくらいの頻度か、親の居所 |
| 代行(空き家管理サービス) | 遠方からの定点の現況 |
もう一つ大事なのは、一つの材料だけで決めつけないことです。平日と休日、昼と夜では、家の様子は変わります。
たまたま訪ねた日に誰もいなかった家にも人が暮らしている場合があり、車が停まっていた家が荷物置き場だけの場合もあります。複数の材料を組み合わせて、全体として判断しましょう。
住民票の除票と戸籍の附票で死亡時の同一世帯を確認する
親がすでに亡くなっている場合、相続人が取れる書類で最初に押さえたいのが、親の「住民票の除票」と「戸籍の附票」です。
住民票の除票は、亡くなった人や転出した人の住民票の記録です。相続人は、親との関係を示す戸籍謄本を添えて請求できます。
住民基本台帳法12条の3は、本人や同じ世帯の人以外が住民票の写しを請求できる場合として「自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために住民票の記載事項を確認する必要がある者」などを定めており、相続手続きはこれに当たります。
除票には、亡くなった時点の住所のほか、世帯主の氏名と続柄が載ります。親が世帯主だったのか、別の人が世帯主だったのかが分かります。
あわせて、亡くなった時点で同じ世帯に誰がいたかを調べたいときは、役所の窓口で「死亡時の世帯全員分が欲しい」と相談してみてください。
残っている世帯員の住民票は本人のものになるため、自治体によって出し方が異なります。相続の手続きで必要な理由を説明すれば、取れる範囲を案内してもらえます。
戸籍の附票は、本籍地の市区町村が管理している住所の履歴です。親がいつどこに住所を移したかが時系列で分かるため、「施設に住所を移していたのか」「最後まで実家に住所を置いていたのか」を確認できます。附票も、相続人なら親の分を請求できます。
保存期間は、除票も附票の除票も、除かれた日から150年です。令和元年(2019年)6月20日の改正で、それまでの5年から延びました。
ただし、改正前に5年の保存期間を過ぎて役所が廃棄した分は取れません。保存期間を過ぎた後も残していた分を出す自治体もあるため(横浜市は平成25年4月1日以降の除票を交付)、古い記録は役所に残っているか聞いたうえで、手元の書類で補うつもりでいましょう。
はっきりさせておきたい点が一つあります。生きている兄弟・姉妹が別の世帯であれば、その人の住民票は原則として取れず、「兄弟・姉妹が実家に住民票を置いているか」を役所で調べる手段はないと考えておきましょう。
詳しくは「別世帯の親族の住民票は本人の同意なしに取得できない」の項で説明します。
出典: e-Gov法令検索 住民基本台帳法 第12条の3、e-Gov法令検索 住民基本台帳法施行令 第34条、横浜市 住民票の除票の写しは何年前までのものの交付を受けることができますか。
登記事項証明書と固定資産税の納税通知書で管理者を確認する
次に押さえたいのが、実家の「名義」と「管理者」です。
居住者そのものは分かりませんが、実家を実質的に誰が取り仕切っているかを知る手がかりになります。
登記事項証明書は、法務局で誰でも取れます。不動産登記法119条が「何人も」請求できると定めており、本人確認も理由の説明もいらず、オンラインで請求して郵送で受け取ることもできます。
ここで確認するのは、登記上の名義人が親のままか、抵当権や賃借権の登記がされていないか、の2点です。勝手に名義が変わっていたり、知らない担保が付いていたりすれば、それ自体が大きな情報です。
ただし、登記簿に載るのは名義人と権利であり、「誰が住んでいるか」は登記では分からないと承知しておきましょう。
固定資産税の納税通知書は、毎年春ごろに役所から送られてきます。親が亡くなった後、役所は相続人の中の代表者に通知書を送ります。
この送付先が誰になっているかで、役所が「この家の窓口」と見ている相続人が分かります。相続人の一人が代表者の届出(地方税法9条の2の相続人代表者の指定)を出していれば、その人に届いています。
相続人は、役所の資産税の窓口で「名寄帳」も請求できます。名寄帳は、その市区町村内で親が持っていた不動産の一覧です。請求には、親の死亡と相続関係が分かる戸籍と、本人確認書類がいります。
実家以外に知らない土地がないか、課税状況はどうなっているかを一度に確認できます。納税通知書の送付先も、相続人であれば同じ窓口で相談できることが多いので、あわせて聞いてみましょう。
出典: e-Gov法令検索 不動産登記法 第119条、法務局 登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続が便利です、e-Gov法令検索 地方税法 第9条の2、焼津市 固定資産課税台帳(名寄帳)の閲覧と交付
電気・ガス・水道のメーターで生活の痕跡を確認する
書類で分からない「生活の有無」は、メーターを見ると分かります。
税務署が居住の判定に使うのと同じ材料で、しかも誰でも外から確認できます。
電気のメーターは、昔ながらの円盤が回るアナログ型なら、回っていれば電気が使われています。今はスマートメーターへの置き換えが進んでおり、液晶に使用量の数値が表示されます。
この数値をメモしておき、日をまたいで(できれば1週間ほど空けて)もう一度見ると、その間にどれだけ使われたかが分かります。冷蔵庫だけが動いている家と、人が生活している家では、増え方がまったく違います。
水道とガスのメーターも同じ考え方です。水道は、人が住んでいれば毎日必ず使います。ガスは、お風呂や台所を使えば動きます。
注意点が一つあります。契約者でない人が電力会社や水道局に問い合わせても、使用量は個人情報として教えてもらえないため、メーターを自分の目で見るのが現実的な方法です。
現地に行ったときは、日付と数値を写真に残しておきましょう。記録の残し方は「確認した事実は日付と写真で記録する」の項で詳しく触れます。
郵便物と表札で居住者の名前を確認する
メーターが「生活の有無」を教えてくれるのに対し、郵便物と表札は「誰が」を教えてくれます。
郵便受けを見てみてください。チラシが溢れていて、郵便物が何週間も取り出されていなければ、少なくとも日常的に出入りしている人はいないと考えられます。逆に、郵便受けが整理されていれば、誰かが定期的に来ています。
親以外の宛名の郵便物が入っていれば、それがそのまま居住者の手がかりです。表札に親以外の名前が加わっていないか、玄関の様子が変わっていないかも見ておきましょう。
親宛の郵便物が届かなくなっている場合は、郵便局に転送届が出ている可能性があります。転送届は、本人や同居人が生活の拠点を移したときに出す届出です。
親が施設に入ったのか、兄弟・姉妹が親の郵便を自分の家に回しているのか、いずれにせよ「親の生活の拠点が実家から動いた」手がかりになります。
なお、封をしてある他人宛の郵便物を開けると、刑法133条の信書開封に当たります。宛名と差出人を外から確認するにとどめましょう。
近隣と自治会への聞き取りで生活の実態を確認する
現地の痕跡だけでは分からない「いつから」「どのくらいの頻度で」を埋めるのが、近隣への聞き取りです。
知っておくと差が出る点があります。隣の家より、自治会長や民生委員のほうが答えてくれます。
隣家は、兄弟・姉妹との関係を気にして言葉を濁しがちです。自治会長や民生委員は、地域の世帯の状況を把握するのが役割の一部ですし、「相続人として実家の状況を確認している」という立場を理解してくれます。
訪ねるときは「○○(親の名前)の子の△△です」と名乗り、連絡先を書いたメモか名刺を渡しておくと、相手も安心して話せます。
聞く内容は次の3点に絞ると、居住の実態がほぼ見えてきます。
- 誰が出入りしているか
- それはいつごろからか
- 車・洗濯物・ゴミ出しがあるか
兄弟・姉妹への不満や家庭の事情を話し始めると、相手は距離を置きますし、後で兄弟・姉妹の耳にも入ります。事実だけを聞く姿勢を守りましょう。
地域包括支援センターで親の居所を確認する
親が存命の場合は、実家の利用状況とは別に、親本人の居所も確かめる必要があります。
「親はどこで生活しているか」と「実家は誰が使っているか」は、別々の問いです。
親が施設に入っているのか、病院から実家に戻っているのか、兄弟・姉妹から正確な情報が得られないときは、実家のある地域の地域包括支援センターに相談してみてください。
地域包括支援センターは、市区町村が設置している高齢者の総合相談窓口で、介護サービスを使っている高齢者の状況を把握しています。担当のケアマネジャーがついていれば、親族として事情を説明すると、親の今の状況について相談に乗ってもらえます。
本人の個人情報なので、教えてもらえる範囲には限りがあります。それでも、「親が施設に入所しているか」「在宅でサービスを使っているか」という方向性は、ここで確かめられる場合が多いでしょう。
親の居所が分かれば、実家の利用状況の見え方も変わります。
出典: 厚生労働省 地域包括ケアシステム(地域包括支援センターについて)
空き家管理サービスで遠方から現況を確認する
実家が遠く、何度も足を運べない人は、第三者に現地を見てもらう手があります。
空き家管理サービスは、月に1回程度、現地を訪問して、建物の外観の目視点検、郵便物の確認、写真付きの報告をしてくれます。
もともとは空き家の管理のためのサービスですが、「今、家がどういう状態か」を定点で知る目的にも使えます。郵便受けの状態、メーターの数値、車の有無などを、頼めば報告に含めてもらえます。
不動産会社に査定を頼んで現地に行ってもらう方法もあります。査定では担当者が実際に家を見に行くので、現況を把握できます。
ただし、これは売却も視野に入れている場合の手段です。売る意思がないのに査定だけ頼むと、相手の時間を使うだけになり、いざ売るときの関係を損ねます。「近い将来、売却も検討している」と正直に伝えられる段階で使いましょう。
実家に住んでいる人を確認するときの注意点
確認の手段によっては、相続人自身が法律に触れたり、後の話し合いで不利になったりします。
気をつける点は、次の4つです。
- 別世帯の親族の住民票は本人の同意なしに取得できない
- 居住中の実家への無断立ち入りは住居侵入になる
- 鍵の交換や荷物の搬出は自力救済として禁止される
- 確認した事実は日付と写真で記録する
別世帯の親族の住民票は本人の同意なしに取得できない
「住民票を取れば誰が住んでいるか分かる」と考えて役所に行き、断られて帰ってくる人もいます。
先に正確なところを知っておきましょう。住民基本台帳法12条の3は、本人や同じ世帯の人以外が住民票を請求できる場合を、次の3つに限っています。
- 自己の権利を行使し、または自己の義務を履行するために、住民票の記載事項を確認する必要がある人
- 国または地方公共団体の機関に提出する必要がある人
- そのほか、住民票の記載事項を利用する正当な理由がある人
いずれも、請求の理由を具体的に書き、それを裏づける資料(疎明資料)を添える必要があります。
「兄弟・姉妹が実家に住んでいるか知りたい」「遺産分割の参考にしたい」という理由では、この3つに当たるとは認められないのが通常です。兄弟・姉妹であっても、別の世帯である以上、本人の同意がなければ住民票は取れません。
嘘の理由を書いて請求するのはやめておきましょう。同法46条は「偽りその他不正の手段により」住民票の写しなどの交付を受けた人を、30万円以下の罰金の対象にしています。
兄弟・姉妹との関係が壊れていないなら、素直に同意をもらうのが一番早い方法です。委任状があれば、代理人として住民票を取れます。「相続の手続きで住所の確認がいる」と伝えれば、応じてくれる例が多いでしょう。
出典: e-Gov法令検索 住民基本台帳法 第12条の3・第46条
居住中の実家への無断立ち入りは住居侵入になる
実家の鍵を持っていると、「自分の実家だから入ってもいい」と考える人もいます。
しかし、他の相続人が現に住んでいる家に、その人の承諾なく入ると、刑法130条の住居侵入に問われる可能性があります。鍵を持っていても同じです。相続人であることと、その家に自由に出入りできることは別です。
ここで混同しやすいのが、「相続人の一人が住んでいる状態」そのものの評価です。民法249条1項は、共有者は共有物の全部について持分に応じた使用ができる、と定めています。
遺産分割が終わるまで、実家は相続人全員で共有している状態です。したがって、相続人の一人が実家に住んでいること自体は、法律上あり得る状態です。
つまり、「兄弟・姉妹が住んでいるのはおかしい」ではなく、「住んでいること自体は法律上あり得るが、その扱いを話し合いで決める必要がある」と理解しておくと、相手への接し方も変わります。
現地で確認するときは、敷地の外から見える範囲にとどめましょう。メーター、郵便受け、表札、駐車場は、公道や共用部分から見えることがほとんどで、それだけで居住の有無は判断できます。
出典: e-Gov法令検索 刑法 第130条、e-Gov法令検索 民法 第249条
鍵の交換や荷物の搬出は自力救済として禁止される
確認の結果に納得がいかなくても、次の行為は避けましょう。
- 鍵を交換して相手を締め出す
- 相手の荷物を勝手に運び出す
- 電気・ガス・水道の契約を止める
- 相手が留守の間に自分が住み始める
これらは「自力救済」と呼ばれ、法律上の手続きを踏まずに自分の力で権利を実現しようとする行為として、原則として禁止されています。最高裁は昭和40年12月7日の判決で、法律の手続きによったのでは間に合わない緊急やむを得ない特別の事情がある場合に、必要な限度でのみ例外として許される、と判断しています。
たとえ自分に正当な言い分があっても、行った本人が損害賠償を請求される立場に回ります。相手の居住を実力で妨げた事実は、後の遺産分割の話し合いでも、調停でも、不利に働きます。
どうしても明け渡しを求めたい場合は、話し合いか、家庭裁判所の調停や訴訟の手続きによります。手続きの中身には立ち入りませんが、「実力行使ではなく手続きで」という原則だけは覚えておきましょう。
出典: 裁判所 裁判例検索 最高裁判所第三小法廷 昭和40年12月7日判決(昭和38(オ)1236)
確認した事実は日付と写真で記録する
確認した内容は、その場で記録に残しておきましょう。
記憶は曖昧になりますし、後で「そんなことは言っていない」と言われたときに、記録がなければ何も示せません。
残すものは、次の4つです。
この記録は、遺産分割の調停で「いつから誰が住んでいたか」を示す材料になりますし、相続税の申告で居住の実態を説明するときの裏づけにもなります。
兄弟・姉妹が「ずっと同居していた」と主張しているのに実態がないと感じたときも、記録があれば冷静に話ができます。
記録するときに、一つ気をつけたいのが、外から見える痕跡だけで断定しないことです。
水道だけが動いているのは、荷物置き場として通っているだけの場合があります。郵便受けが整理されているのは、親の施設入所中に兄弟・姉妹が月に数回、換気と郵便物の回収に来ているだけの場合もあります。
記録には「見た事実」と「そこから考えたこと」を別の欄に書き、推測を事実のように扱わない形にしておきましょう。
最後に、兄弟・姉妹本人に直接聞く順番についてです。聞くのは、ここまでの材料をそろえた後にしましょう。
材料がないうちに「実家に住んでいるのか」と聞くと、相手は身構えますし、その後に住民票を移すなどして「同居していた」形を整えられてしまう例もあります。
事実を先に押さえ、そのうえで穏やかに聞く。それが、関係を壊さずに確認を終える順番です。
実家に住んでいる人が分かった後の対応
確認の結果は大きく4通りに分かれ、それぞれ最初に押さえる論点が違います。
- 相続人の一人が住んでいる
- 相続人以外が住んでいる
- 親本人が施設と実家を行き来している
- 誰も住んでいない
相続人の一人が住んでいる場合は使用貸借の推認を前提に協議する
相続人の一人が実家に住んでいる場合、家賃の話から入る前に知っておきたい判例があります。
最高裁は平成8年12月17日の判決で、親(被相続人)の許しを得て親と同居していた相続人がいる場合、特別の事情がない限り、親の死後も遺産分割が終わるまでは、その相続人が無償で家を使える使用貸借の合意があったと推認される、という判断を示しました。
親が「ここに住んでいいよ」と認めて一緒に暮らしていたのなら、親が亡くなったからといって急に家賃が発生するわけではない、という考え方です。
この判例があるため、親と同居していた兄弟・姉妹に「家賃を払え」と求めても、通らない例が多いのが実情です。この点を知らずに家賃の話から入ると、話し合いは最初からこじれます。
一方で、事情が違う場合もあります。親が亡くなった後に(あるいは親が施設に入った後に)兄弟・姉妹が実家に移り住んだ場合、親の許しを得て同居していた場合とは扱いが変わります。
このケースでは、令和5年(2023年)4月1日に施行された改正民法249条2項が根拠になります。この条文は、共有物を使う共有者は、別段の合意がなければ、自分の持分を超える使用の対価を他の共有者に償還する義務を負う、と定めています。改正前の249条は持分に応じた使用を認めるだけで、使っている共有者が他の共有者にどんな義務を負うかは書かれていませんでした。
つまり、相続開始後に住み始めた相続人には、持分を超えて使っている分の対価を求める根拠があります。
| 住み始めた時期 | 根拠 | 論点 |
|---|---|---|
| 親の生前から、親の許しを得て同居 | 最高裁平成8年12月17日判決 | 遺産分割までは無償で使える使用貸借が推認される |
| 親の死後(または施設入所後)に入居 | 改正民法249条2項 | 持分を超える使用の対価の償還 |
「いつから住んでいたか」の確認を重ねてきたのは、このためです。親の生前からの同居なら使用貸借の推認が働き、相続開始後の入居なら使用対価の償還が論点になります。
知っておきたい判例がもう一つあります。最高裁は昭和41年5月19日の判決で、持分の合計が過半数を超える共有者であっても、現にその家に住んでいる少数持分の共有者に対して、当然に明け渡しを求めることはできない、と判断しています。
「自分たちのほうが持分が多いから出て行け」という主張は、それだけでは通りにくいといえます。
では、どう着地させるか。住み続けたい相続人がいるなら、その人が実家を取得し、他の相続人に持分相当の代償金を払う「代償分割」が基本形になります。家を売らずに済み、他の相続人も取り分を受け取れます。
遺産分割の進め方そのものは別の話になるので、入り口は「家賃請求ではなく、取得と代償金の話から」と覚えておくと、話し合いの出だしでこじれずに済みます。
出典: 裁判所 裁判例検索 最高裁判所第三小法廷 平成8年12月17日判決(平成5(オ)1946)、裁判所 裁判例検索 最高裁判所第一小法廷 昭和41年5月19日判決(昭和38(オ)1021)、e-Gov法令検索 民法 第249条、法務省 民法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について
相続人以外が住んでいる場合は契約の有無と家賃の行き先を確認する
親の知人、内縁の相手、賃借人など、相続人でない人が住んでいた場合、まず確かめたいのは「どういう約束で住んでいるのか」です。
最初に見るのは、賃貸借契約の有無です。親が家を貸していて契約書があれば、その人は借主として借地借家法で保護されます。
相続人は民法896条により親の貸主の立場をそのまま引き継ぐだけで、貸主の都合だけで契約を終わらせることはできません。更新を断ったり解約を申し入れたりするには、借地借家法28条の正当事由がいります。売却するなら「賃借人付き」の物件として売ることになり、価格も買い手の層も変わります。
次に見るのは、家賃の行き先です。親の通帳を確認し、毎月同じ額の入金があるか、それが誰からかを見ておきましょう。
家賃が親の口座に入っていれば、親が貸主として契約していたと考えられます。もし家賃が兄弟・姉妹の口座に入っていたなら、誰が貸主として振る舞っていたのか、その家賃は遺産に含まれるべきものではないか、という論点が出てきます。
通帳は、相続人であれば金融機関で取引履歴を取り寄せられます。
契約書がなく、親の知人や内縁の相手が住んでいる場合は、「誰の許しで、いつから、どういう条件で住んでいるのか」を本人に確かめることになります。
親が口約束で住まわせていたケースは多いため、相手を責めるより、今後も住み続けるのか、いつまでに出るのかを話し合うところから始めましょう。
話し合いで決まらないときは、法的な手続きによることになります。交渉の進め方は別の話になるため、ここでは入り口までにとどめます。
出典: e-Gov法令検索 民法 第896条、e-Gov法令検索 借地借家法 第28条
親が施設と実家を行き来している場合は介護の方針を先に決める
親が存命で、施設に入ったり実家に戻ったりしている場合は、実家の扱いを決める前に、介護の方針を決めましょう。
理由は単純で、親が施設に定着するのか、在宅に戻すのかが決まらないと、実家を「空き家」として扱うのか「親の住まい」として扱うのかが決まらないからです。
親の荷物を片づけるのも、住民票を施設に移すのも、売却の相談をするのも、すべて介護の方針が先です。方針が決まらないまま実家を動かすと、親が戻る場所がなくなるか、逆に空き家の管理費用を払い続けることになります。
税の面から知っておきたい点が一つあります。小規模宅地等の特例は、親が老人ホームに入所していた場合でも、入所前に実家で暮らしていて、要介護認定などの要件を満たしていれば、使える可能性があります。
国税庁の案内でも、要介護認定を受けて有料老人ホームなどに入所した場合の実家は「被相続人の居住の用」に含まれるとされています。
要件の詳細はここでは扱いませんが、「施設に入ったから特例は関係ない」と決めつけて、住民票を安易に施設へ移したり、実家を貸したりする前に、一度確認してみてください。
出典: 国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
誰も住んでいない場合は空き家の特例と管理の分担を決める
誰も住んでいないと分かった場合も、やることがあります。
「住んでいない」と分かること自体に意味があります。まず、親が亡くなる直前まで一人暮らしだったなら、「相続税の特例は同居の実態で判定される」の項で触れた空き家特例の対象になり得ます。
この特例を使うには、家のある市区町村が発行する「被相続人居住用家屋等確認書」が必要です。その申請では、相続後に住んでいなかったことを示す書類として、電気・ガス・水道のいずれかの使用中止日(閉栓日や契約廃止日)が分かる書類の提出を求める市区町村が一般的です。
相続後に空き家のままにしていたことを示すためです。
光熱費の契約を止めるときは、使用中止日が記載された書類を捨てずに保管しておきましょう。要件や期限の詳細は、申告の前に国税庁の案内か税理士で確認しておきましょう。
次に、管理の分担です。誰も住んでいなくても、固定資産税、最低限の光熱費、火災保険料はかかり続けます。建物は換気をしなければ傷みますし、庭の草は伸びます。
誰が何を負担し、誰がどのくらいの頻度で見に行くのかを、相続人の間で決めておきましょう。
このとき、立て替えた管理費用は、遺産分割のときに精算できます。領収書と支払いの記録を残しておけば、「自分だけが払い続けた」という不満を数字で示せます。
管理の方法や売却の進め方は別の話になるため、まずは負担を決めて記録を残すところまで進めておくと、後の精算がすんなり進みます。
出典: 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例、国土交通省 空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)、八王子市 被相続人居住用家屋等確認書の発行
まとめ:実家に住んでいる人は住民票ではなく除票・メーター・聞き取りで確かめる
実家に誰が住んでいるかは、住民票の住所ではなく、実際に生活している場所で決まります。税務署も裁判所もその基準で見るため、相続人も親の除票や附票、メーターの数値、近隣の話を重ねて居住の実態を確かめるのがいちばん近道です。
次の一歩は、親の住民票の除票と戸籍の附票を取り、現地のメーターと郵便受けを日付入りの写真に残すことです。これを飛ばして兄弟・姉妹に「住んでいるのか」と聞くと、相手が身構え、話し合いが印象のぶつけ合いになります。
居住者が分かったら、いつから住み始めたかによって、使用貸借の推認と持分を超える使用の対価のどちらが論点になるかを確かめてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、実家に住んでいる人の確認方法も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。

