親が亡くなった後、実家の引き出しや仏壇の奥から「遺言書」と書かれた封筒が出てきたとき、開けてよいか、兄弟・姉妹に言う前に中身を見てよいか、内容どおりに実家を動かしてよいかは、遺言書の種類と家庭裁判所の検認が済んでいるかで変わります。
見つけた直後の扱い方、手元の1通の見分け方、ほかに遺言書がないかを公的に確かめる方法、検認の流れ、検認を待つ間に実家へしてよいこと、内容を読むときの確認項目までをまとめました。
上から順にたどると、実家の手続きを進めてよいかを自分で判断できます。
遺言書を見つけた直後の禁止行為と初動の手順|封印があるなら開けない、捨てない・隠さない・書き換えない
見つけた遺言書は、封印があれば開けず、原状のまま保管して、相続人全員にその日のうちに伝えるのが初動です。
- 封印のある遺言書は開けない
- 捨てない・隠さない・書き換えない
- 見つけた状態を記録して原状のまま保管する
- 相続人全員と遺言執行者にその日のうちに伝える
封印のある遺言書は開けない|封がなければ読んでよく、うっかり開けても遺言は無効にならない
法律で開封が禁じられているのは、封をして印が押してある「封印のある遺言書」に限られます。
民法1004条(遺言書の検認)3項は、封印のある遺言書は家庭裁判所で相続人またはその代理人の立会いがなければ開封できないと定めています。封筒の閉じ目に印鑑が押してあるなら、その場では開けず、封のまま家庭裁判所へ持っていきましょう。
一方、封筒の表に「遺言公正証書」と印刷されているなら話は別です。公正証書で作った遺言は民法1004条2項で検認の対象から外れていて、家にあるのは公証役場が渡した正本や謄本です。これは開けて読めます。
では、封がされていない自筆の遺言書はどうでしょうか。封筒に入っていないもの、封が閉じられていないものは、読むこと自体に罰則がなく、安心して読めます。
ただし、「封がないから検認もいらない」とは別の話です。民法1004条1項は、保管者や発見した相続人に検認の請求を義務づけていて、封印の有無とは無関係に検認を求めています。読んでよいことと、検認が要ることは別です。
もう1つの不安が「もう開けてしまった」という場合です。家庭裁判所の外で封印のある遺言書を開封した人は、民法1005条(過料)で5万円以下の過料の対象になり得ます。それでも、開封は過料の問題で、遺言そのものの効力とは別に扱われます。
開封後も検認は必要なので、申立てのときに「いつ、誰が開封したか」をそのまま伝えましょう。名古屋家庭裁判所の申立書には封筒の状況を書く欄があり、「密封されていたが開封した」という選択肢と、開封した日と人を書く場所が用意されています。隠さず、ありのまま書く欄が最初からある書式です。
出典: e-Gov法令検索「民法」第1004条・第1005条 / 名古屋家庭裁判所「遺言書の検認申立書」(PDF)
捨てない・隠さない・書き換えないが最優先の理由|相続人の資格を失う
遺言書を捨てる・隠す・書き換える行為は、相続する資格そのものを失う行為です。
民法891条(相続人の欠格事由)5号は、被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した者は相続人になることができないと定めています。開封は最大5万円の過料で済みますが、こちらは相続人の資格を失います。同じ「うっかり」でも重さがまったく違います。
封のない遺言を読んでみたら、自分に不利な内容だった。そういうときも、「見なかったことにする」より残る選択肢があります。後で遺留分を請求する、相続人全員の合意で遺言と違う分け方をする、という2つです(内容を読む章の最後で説明します)。
反対に、自分に有利な内容でも、検認が終わる前に名義変更や預金の払戻しを進めるのは過料の対象です。検認前にできることとできないことは、実家の扱いの章で整理します。
見落としがちなのが、遺言書に破れや線引き、修正の跡があるときです。民法1024条(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)は、遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その部分について遺言を撤回したものとみなすと定めています。
つまり、破れや線引きが「本人が自分の意思で消したもの」か「後から誰かが加えたもの」かが、後で争点になります。
見つけた人が手を加えると、本人の撤回なのか他人の改変なのかが分からなくなり、自分が疑われます。破れをテープで直す、薄い文字をなぞる、といった善意の行為も同じです。
見つけた状態を記録して原状のまま保管する|写真・日時・場所・一緒にあった書類
やることは、スマホで写真を撮る、日時と場所を控える、そのまま保管する、の3つです。
写真は、封筒の表と裏、封印の部分を撮っておきましょう。封がされていない場合や封筒に入っていない場合は、中身の全ページも撮っておくと、後で原状と比べられます。
あわせて、見つけた日時、場所(どの部屋のどこか)、その場にいた人を控えておくと、兄弟・姉妹に伝えるときも、検認の申立書に発見の状況を書くときも、そのまま使えます。
一方で、次の行為は避けます。
- ホチキスを外す
- コピーのために分解する
- 付箋を貼る
- ラミネートする
- 封筒から出し入れする
どれも「手を加えない」の具体的な中身です。コピーが必要なら、分解せずに撮影で代えましょう。
一緒にあった書類も残しておきます。古い日付の遺言書、走り書きのメモ、エンディングノートなどです。
遺言書が複数あるとき、内容がぶつかる部分は後の日付の遺言が優先します(民法1023条)。古く見えても、新しい遺言と重ならない部分は生きている可能性があり、どれが最新かを判断するのは検認と内容確認の場です。
保管は、見つけた人が鍵のかかる場所で行い、兄弟・姉妹の間で預け回さないようにしましょう。転々とさせると「誰がいつ手を加えたか分からない」状態を自分で作ることになります。
兄弟・姉妹に見せようとホチキスを外してコピーを取る、中身だけ取り出して封筒を捨てる。遺言書を大事にしようとしての行動ほど、後から「原状と違う」と言われる原因になります。
相続人全員と遺言執行者にその日のうちに伝える|検認で全員に通知されるので先に自分から
記録と保管が済んだら、相続人全員にその日のうちに伝えましょう。
民法1004条1項は、保管者や発見した相続人は、相続の開始を知った後「遅滞なく」検認を請求しなければならないと定めています。「落ち着いてから」「法事のときに」という先延ばしは、この「遅滞なく」に反します。
言い出すきっかけを探しているうちに、数週間が過ぎることもあります。ただ、検認を申し立てると、家庭裁判所から相続人全員に検認期日の通知が届きます(裁判所「遺言書の検認」)。自分が伝えなくても裁判所から全員に知れる仕組みです。
裁判所からの通知で初めて知るのと、発見した本人から先に聞くのとでは、その後の兄弟・姉妹の関係がまるで違ってきます。
遺言書の表書きや、封がない場合の本文に「遺言執行者」の名前が書かれていれば、その人にも伝えておきましょう。執行者は遺言の内容を実現する役目の人で、相続人の一人のこともあれば、士業や信託銀行のこともあります。
伝える中身は、「見つけた事実」と「撮った写真」の2つにとどめます。封がなく中身を読んでいても、「お兄さんが家をもらうみたい」といった分け方の話は、検認が終わってからです。この段階で評価を口にすると、まだ本物か確かめていない紙をめぐって感情だけが先に動きます。
出典: e-Gov法令検索「民法」第1004条 / 裁判所「遺言書の検認」
遺言書の種類の見分け方と検認の要否の判定基準|公正証書・法務局保管なら検認は不要
手元の1通の型が見た目で分かれば、検認が要るか要らないかはそれだけで決まります。
- 自筆・公正証書・秘密証書・法務局保管の4つを見た目で見分ける
- 検認が要るか要らないかを型で判定する
- 法務局保管と公正証書は、手続きに使う書類を窓口から取り寄せる
自筆・公正証書・秘密証書・法務局保管の4つを見た目で見分ける基準|表題・印字か手書きか・公証人の記載・保管証
実家で見つかる遺言は、自筆証書遺言(自宅保管)、公正証書遺言、秘密証書遺言、自筆証書遺言(法務局保管)の4つのどれかです。
ふつうの方式で作られる遺言は、自筆証書遺言(民法968条)、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類です。このうち自筆証書遺言には、2020年7月に始まった「法務局に預ける型」があり、家に残るものがまったく違います。
| 型 | 表題・表紙 | 本文 | 末尾の記載 | 家にある形 |
|---|---|---|---|---|
| 公正証書遺言 | 「遺言公正証書」「令和〇年第〇号」 | 印字 | 公証人の署名押印と公証役場名、証人2名の署名 | 正本か謄本(原本は公証役場) |
| 自筆証書遺言(自宅保管) | 「遺言書」「遺言」など自由 | 手書き | 日付・氏名・押印 | 原本そのもの |
| 秘密証書遺言 | 封紙に公証人と証人の署名と日付 | 印字や代筆でもよい | 封紙の記載のみ外から見える | 封印された封書 |
| 自筆証書遺言(法務局保管) | 「保管証」と書かれた1枚の紙 | 家にはない | 遺言者の氏名・生年月日・遺言書保管所の名称・保管番号 | 保管証だけ(本体は法務局) |
公正証書遺言は、公証役場で公証人が作り、証人2名が立ち会います(日本公証人連合会)。本文は印字で、作成時に遺言者へ正本1通と謄本1通が渡されるのが通常です。実家にあるのはこの正本か謄本で、原本は公証役場にあります。
自筆証書遺言は、本人が全文・日付・氏名を手書きして押印した遺言です(民法968条1項)。財産目録に限っては手書きでなくてもよく、パソコンで打ったものや通帳のコピーでも認められますが、各ページに署名と押印が要ります(968条2項)。本文が手書きなら、まずこの型と考えられます。
秘密証書遺言は、本人が署名押印した書面を封筒に入れて封印し、公証人と証人2名の前に出して、公証人が封紙に日付などを記載し、全員が封紙に署名押印して作ります(日本公証人連合会)。
本文は印字や代筆でもよいので、封を開けるまで中身の形は外から見えないままです。件数は少ないものの、封筒の表に公証人の署名があるのが目印です。
法務局保管の自筆証書遺言は、本体が法務局(遺言書保管所)にあり、家に残るのは「保管証」という1枚の紙です。保管証には遺言者の氏名、生年月日、遺言書保管所の名称、保管番号が書かれています(法務省「遺言者の手続」)。
「保管証」「保管番号」の文字が見えたら、原本探しはやめて、法務局への請求に切り替えましょう。
出典: e-Gov法令検索「民法」第968条 / 日本公証人連合会「遺言」 / 法務省「02 遺言者の手続」(自筆証書遺言書保管制度)
検認が要るか要らないかの判定基準|公正証書と法務局保管は不要、自宅保管の自筆と秘密証書は封がなくても必要
検認が要るのは、自宅や貸金庫で保管されていた自筆証書遺言と、秘密証書遺言の2つです。
| 型 | 検認 | 根拠 | 次に進む手続き |
|---|---|---|---|
| 公正証書遺言 | 不要 | 民法1004条2項 | 内容の確認へ |
| 自筆証書遺言(法務局保管) | 不要 | 法務省「相続人等の手続」に「家庭裁判所における検認の手続は不要です」 | 遺言書情報証明書を取ってから内容の確認へ |
| 自筆証書遺言(自宅・貸金庫などで保管) | 必要 | 民法1004条1項 | 検認の申立てへ |
| 秘密証書遺言 | 必要 | 民法1004条1項(公証人は中身を見ていない) | 検認の申立てへ |
ここで多くの人が誤解するのが、「封がされていないから検認はいらないのでは」という点です。民法1004条1項は封印を条件にしていないため、封筒に入っていない1枚の便せんでも、クリアファイルに挟んであっただけでも、自宅保管の自筆証書遺言なら検認が必要です。
もう1つ、押さえておきたい原則があります。検認は、遺言書の存在と内容を相続人に知らせ、形や状態を記録して偽造・変造を防ぐための手続きで、遺言が有効か無効かの判断は別の手続きに委ねられています(裁判所「遺言書の検認」)。「検認が不要だから有効」も「検認が済んだから有効」も、どちらも成り立たない理屈です。
法務局保管の型も、預けるときに遺言書保管官が民法の方式に合うかを外形的に確認するだけで、法務省は「本制度は、保管された遺言書の有効性を保証するものではありません」と明記しています。そのため、検認の要否とは別に、方式を満たしているかを内容の確認の章で見ます。
なお、書いたときに判断能力があったか(遺言能力)という争いは、方式や検認とは別の問題で、ここでは扱わない範囲です。
出典: e-Gov法令検索「民法」第1004条 / 法務省「04 相続人等の手続」(自筆証書遺言書保管制度) / 裁判所「遺言書の検認」 / 法務省「01 遺言書保管制度とは?」(自筆証書遺言書保管制度)
法務局保管と公正証書は手元に原本がない|保管証から遺言書情報証明書、正本・謄本は公証役場から取り直せる
公正証書遺言と法務局保管の遺言は、手続きに使う書類を公的な窓口から取り寄せます。
法務局保管の場合、相続人が取るのは「遺言書情報証明書」です。遺言書の画像がすべて印刷されたもので、原本の代わりに相続登記や預金の手続きに使えます。手数料は1通1,400円です(法務省「手数料」)。
全国どこの遺言書保管所でも請求でき、法務省は郵送での請求を勧めています。来庁には予約が必要で、郵送なら予約なしで済みます。
必要書類は、遺言者の死亡が確認できる戸籍(除籍)謄本、請求者の住民票の写し、相続人であることを示す戸籍謄本などです(法務省「相続人等の手続」)。家にある保管証の保管番号を請求書に書くと、法務局での特定が早まります(法務省は「保管番号が分かると…便利です」と案内しています)。
証明書のほかに閲覧もできます。モニターでの閲覧は全国どこの遺言書保管所でも1回1,400円、原本の閲覧は保管している遺言書保管所に限って1回1,700円で、どちらも予約が要ります。手続きに使うのは証明書なので、閲覧は「まず中身を見たい」ときの選択肢です。
知っておきたいのは、相続人の誰か一人が証明書の交付を受けたり閲覧したりすると、ほかの相続人全員に「関係遺言書保管通知」が届く仕組みです(法務省)。発見者が黙っていても全員に知れる点は、法務局保管の型でも同じです。
公正証書遺言の場合、原本は公証役場に保管されています。家にある正本や謄本が破れていたり、コピーしか見つからなかったりしても、原本から謄本を取り直せます。郵送での請求もできます(日本公証人連合会「遺言」)。
必要書類は公正証書の遺言検索と共通なので、そちらでまとめます。
出典: 法務省「04 相続人等の手続」(自筆証書遺言書保管制度) / 法務省「09 手数料」(自筆証書遺言書保管制度) / 法務省「01 遺言書保管制度とは?」(自筆証書遺言書保管制度) / 日本公証人連合会「遺言」
他の遺言書の有無を確かめる方法と、動く前に探す理由|後の日付の遺言が優先する
手元の1通が本物でも、それが「最後の1通」かは、公証役場と法務局で確かめて初めて分かります。
この2つの窓口で、ほかの遺言書の有無を確かめられます。実家の中のどこを探すかは別の話なので、ここでは公的な窓口に絞ります。
動く前に他の遺言書を探す理由|抵触する部分は後の日付の遺言が優先し、複数あれば全部を検認に出す
前の遺言と後の遺言の内容がぶつかる部分は、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法1023条1項)。
遺言は、本人が生きている間はいつでも、遺言の方式に従って全部または一部を撤回できます(民法1022条)。新しい遺言を書くとき、古い遺言を回収したり破いたりしなくても撤回は成立します。ぶつからない部分は、前の遺言もそのまま生きています。
組み合わせはどちらもあり得ます。自筆で書いた後に公証役場で公正証書を作る人もいれば、公正証書を作った後に気が変わって自筆で書き直す人もいます。「公正証書があるから、それが最終版」と決めるには早すぎます。
手元の1通だけを根拠に名義や分け方を動かした後で別の遺言が出てくると、後の遺言が優先するので、進めた手続きはやり直しになります。すでに受け取った人と本来受け取るはずの人との間で、争いにもなります。
「自筆の遺言で検認まで進めた後に、兄が公証役場に問い合わせて公正証書が出てきた」と振り返る経験者もいます。「父は公証役場に行ったと言っていた気がする」という記憶があるなら、動く前に確かめる価値があります。
複数見つかったときの扱いも決まっています。日付の新旧を自分で判断して古い方を出さない、という選択は避けましょう。日付が新しくても方式を満たしていなければ効力がなく、古い方が生きることもあります。
見つかったものはすべて検認に出し、どの部分がぶつかっているかは内容確認で整理します。
探す先は2つで済みます。公正証書なら公証役場、法務局保管なら遺言書保管所です。
どちらも請求には遺言者の死亡が分かる戸籍と、自分が相続人であることが分かる戸籍が要ります。この1組は検認の申立てでも使うので、先にそろえれば3つの窓口で使い回せます。
出典: e-Gov法令検索「民法」第1022条・第1023条
公証役場の遺言検索で公正証書遺言の有無を確かめる方法|相続人なら全国どこでも無料
平成元年以降に作られた公正証書遺言は、日本公証人連合会がまとめて管理していて、「遺言検索」で有無を調べられます。
検索を申し出られるのは、相続人などの利害関係人です(遺言者が生きている間は本人に限られます)。費用は無料で、全国どこの公証役場でも申し出られます(日本公証人連合会「遺言」)。遺言を作った役場が分からなくても、近所の公証役場で済みます。
必要書類は3つです。
- 遺言者が亡くなったことを示す除籍謄本など
- 自分が相続人であることを示す戸籍謄本
- 申出人の本人確認書類
本人確認書類は、運転免許証やマイナンバーカードなどの顔写真付きの公的身分証、または実印と発行後3か月以内の印鑑登録証明書の組み合わせです。
検索で保管している公証役場が分かったら、その役場に謄本を請求できます。謄本の請求は郵送でもでき、顔写真付きの身分証で本人確認する場合は、補充としてテレビ電話での確認が行われます(日本公証人連合会)。遠方の役場で作られていても、出向かずに取れます。
家に正本・謄本のコピーだけが見つかった場合も、ここで原本の所在を確かめ、謄本を取り直す流れです。
「遺言検索は本人しかできない」という思い込みで調べずにいる人もいますが、それは生前の話で、亡くなった後は相続人が調べられます。
親が「公証役場で作った」と言っていたのに家に控えがないときも、「結局作らなかったのだろう」と決めるのは早すぎます。正本や謄本を別の場所に預けていることも、処分してしまっていることもあり、原本は公証役場に残っているので検索すれば分かります。
出典: 日本公証人連合会「遺言」
法務局の遺言書保管事実証明書で保管の有無を確かめる方法|1通800円・全国どこの遺言書保管所でも・郵送可
法務局に預けられた自筆証書遺言は、「遺言書保管事実証明書」で有無を確かめます。
これは、自分に関係する遺言書が遺言書保管所に保管されているかを証明する書類で、手数料は1通800円です(法務省「手数料」)。全国どこの遺言書保管所でも請求でき、法務省は郵送を勧めています。
必要書類は、遺言者の死亡が確認できる戸籍(除籍)謄本、請求者の住民票の写し、相続人であることを示す戸籍謄本などです(法務省「相続人等の手続」)。公証役場の遺言検索と同じ1組の戸籍で済みます。
保管されていることが分かったら、遺言書情報証明書(1通1,400円)の請求に進みます。保管事実証明書は「あるかないか」を証明する書類で、中身は遺言書情報証明書で初めて読めます。
もう1点、通知との関係です。遺言者が預けるときに通知先を指定していれば、亡くなった後に法務局からその人へ「指定者通知」が届きます(法務省)。
指定は任意なので、通知が来ていなくても保管されている場合があります。通知の有無にかかわらず、この証明書で確かめておくと取りこぼしがなくなります。
出典: 法務省「09 手数料」(自筆証書遺言書保管制度) / 法務省「04 相続人等の手続」(自筆証書遺言書保管制度) / 法務省「01 遺言書保管制度とは?」(自筆証書遺言書保管制度)
検認の申立てから検認済証明書を受け取るまでの流れ|申立人・申立先・費用・期間
検認は、保管者か発見した相続人が、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に申し立て、期日を経て検認済証明書を受け取る流れです。
- 申し立てる人と申立先
- 費用・戸籍・かかる期間
- 検認期日の流れと検認済証明書
検認を申し立てる人と申立先|保管者か発見した相続人が、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所へ
申立てができるのは、遺言書の保管者か、遺言書を発見した相続人です(民法1004条1項、裁判所「遺言書の検認」)。
親から生前に預かっていた人、金庫や引き出しから見つけた人が、そのまま申立人になります。名古屋家庭裁判所の書式も、遺言書の保管者が申立人になるよう注意書きを付けていて、見つけた人・持っている人が出すのが原則です。
申立先は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。相続人の住所ではなく、亡くなった親の最後の住所で決まります。実家が遠方なら、申立先も遠方の家庭裁判所です。
東京家庭裁判所と京都家庭裁判所のように、管轄の内訳や提出方法を個別に案内している裁判所もあるので、申立先が決まったらその裁判所のページを見ておきましょう。
申立書の書式と記載例は、裁判所のサイトにあります。提出は窓口のほか、郵送で受け付ける裁判所もあります(京都家庭裁判所は郵送提出の宛先を案内しています)。遠方なら、まず郵送の可否を申立先に聞いてみてください。
遺言書そのものは、申立てのときには提出せず、手元に置いたままです。東京家庭裁判所の案内では「遺言書の原本は検認期日当日の提出となります」とされ、封印されていない遺言書の場合は申立時に写しを添付するよう求めています。
封印がある遺言書は開封できないので写しも作れず、添付の要否は裁判所によって扱いが違うため、申立先に確認しておきましょう。
出典: 裁判所「遺言書の検認」 / 名古屋家庭裁判所「遺言書の検認申立書」(PDF) / 東京家庭裁判所「遺言書検認」(PDF) / 京都家庭裁判所「遺言書検認」(PDF)
申立てに必要な費用と戸籍、かかる期間|収入印紙800円、戸籍は法定相続情報一覧図の写しで代えられる場合がある
費用は、遺言書1通につき収入印紙800円分と、裁判所が相続人に通知を送るための郵便切手です。
切手の額は裁判所ごとに違い、東京家庭裁判所では110円切手を「申立人+相続人数×2」枚、京都家庭裁判所では110円切手を「当事者数+1」枚としています。郵便料は保管金として納め、電子納付もできる裁判所があります(裁判所「遺言書の検認」)。
費用の面で負担になるのは印紙や切手より、次に述べる戸籍の取得です。
必要書類は、申立書のほか、遺言者の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍を含む)と、相続人全員の戸籍謄本です。相続人の構成によって次の追加があります。
- 亡くなっている子がいれば、その子の出生から死亡までの戸籍と代襲者の戸籍
- 親や祖父母が相続人なら、直系尊属の死亡の記載がある戸籍
- 兄弟・姉妹が相続人なら、遺言者の父母の出生から死亡までの戸籍と、亡くなった兄弟・姉妹とその代襲者の戸籍
申立前に取れない戸籍は、申立後に追加で出せる場合があります。東京・京都の家庭裁判所は、戸籍は3か月以内に発行されたものを求めています。
ここで知っておくと手間が大きく減るのが、法定相続情報一覧図です。法務局が相続関係を1枚の図にして認証した写しで、交付は無料です(法務局「法定相続情報証明制度」)。
裁判所のページには、戸籍に代えて一覧図の写しを提出できる場合があるので申立先に確認するようにと書かれていて、京都家庭裁判所は一覧図の提出に協力を求めています。一覧図は相続登記、預金の払戻し、相続税の申告などにも使えます。
先に作っておけば、検認・公証役場・法務局・登記・銀行のそれぞれで戸籍の束を出し直さずに済みます。戸籍をそろえる作業を一度で終わらせ、その結果を一覧図にしておきましょう。
申立てから検認期日までの期間は、申立先の家庭裁判所が混み具合を見て決めます。1〜2か月を目安に予定を組んでおくと動きやすく、実際に時間がかかるのは申立ての前、つまり戸籍集めです。
遺言者の出生までさかのぼる戸籍は、本籍地を転々としていれば複数の市区町村に請求することになり、兄弟・姉妹が相続人の場合は父母の分まで要るので、さらに長くなります。この期間中も相続放棄や相続税の期限は進み続けます(実家の扱いの章の最後で説明します)。
出典: 裁判所「遺言書の検認」 / 東京家庭裁判所「遺言書検認」(PDF) / 京都家庭裁判所「遺言書検認」(PDF) / 京都家庭裁判所「遺言書の検認」 / 法務局「法定相続情報証明制度」について
検認期日の流れと検認済証明書|欠席者がいても手続きは進み、証明書は当日に申請する
申立てが受け付けられると、家庭裁判所から相続人全員に検認期日の通知が届きます。
期日には、申立人が遺言書の原本を持参します。封印があれば封のままです。東京家庭裁判所の案内では、遺言書のほか申立人の印鑑と、担当者から指示されたものを持参します。
期日では、出席した相続人の立会いのもと、裁判官が封のある遺言書を開封し、形状、加除訂正の状態、日付、署名などを確認します。
申立人以外の相続人が出席するかは各人の判断に任されていて、全員がそろわなくても手続きは行われます(裁判所)。立会いは義務ではなく機会で、遠方の兄弟・姉妹が来られなくても、その人の取り分が減るといった不利益はなく、検認は予定どおり進みます。
期日で相続人が筆跡や遺言書の状態について意見を述べれば、その要旨は検認調書に記録されます(家事事件手続規則114条は、調書に当事者本人の陳述の要旨や事実の調査の結果を記載すると定めています)。
ただ、検認は有効・無効を判断する場とは別で、筆跡が違うと思ってもここで結論は出ず、争うなら別の手続きになります。異議があれば記録にとどめ、期日の場で兄弟・姉妹と言い合わずに済ませましょう。期日で初めて内容を聞く相続人がその場で異議を言い出すと、裁判所が言い争いの場に変わります。
検認が終わったら、検認済証明書を申請します。遺言書1通につき収入印紙150円分が要ります。東京家庭裁判所の案内にあるとおり、遺言を執行するには遺言書に検認済証明書が付いている必要があり、これがないと登記も預金の払戻しも止まります。
期日の後にその場で申請できるかは裁判所に確認し、できるならその日のうちに取って帰りましょう。検認は済んだのに証明書を取っておらず、登記の相談で初めて「証明書がない」と言われる人もいます。
出典: 裁判所「遺言書の検認」 / 東京家庭裁判所「遺言書検認」(PDF) / 裁判所「家事事件手続規則」第114条(PDF)
検認が終わるまでに実家に対してできる行為とできない行為|片付け・管理はできる、売却・解体・名義変更はしない
検認を待つ間、施錠や通風のように実家を守る行為はできますが、売却・解体・名義変更は受け取る人が確定してからです。
戸籍集めを含めれば、検認済証明書を受け取るまで数か月かかることがあります。その間の実家と家財について、してはいけないこととしてよいことを分けます。
検認前にしてはいけない行為|遺言に沿った名義変更や払戻しは検認を経ないと過料、売却や解体は後から覆る
民法1005条(過料)は、検認を経ないで遺言を執行した者を5万円以下の過料の対象にしています。
「遺言を執行する」とは遺言の内容を実現する行為で、遺言に沿った相続登記、預金の払戻し、遺贈された物の引渡しがこれにあたります。もっとも、検認済証明書がなければ登記も払戻しも窓口で止まるので、やろうとしても進みようがなく、そこで気づきます。
次に、条文では直接止められていないものの、検認前には避ける行為があります。実家の売却、不動産会社との媒介契約、解体、リフォーム、家財の大量処分です。これらは遺言の「執行」そのものとは違うので1005条の過料の対象とは言い切れず、それでも避ける理由が3つあります。
1つ目は、売れないことです。買主に引き渡すには名義を移す登記が要り、検認前にはその登記が止まります。売買契約を結んでも履行できず、違約の問題になります。
2つ目は、覆ることです。後から別の遺言が出れば受け取る人が変わります。遺言執行者がいれば、相続人が勝手にした処分は無効になります。
解体やリフォームは元に戻せないので、受け取るはずだった人との間で損害の話になります。
3つ目は、相続放棄ができなくなることです。家財の処分は相続を承認したとみなされる行為にあたり得ます(放棄の期限の項目で説明します)。
条文が過料の対象にするのは執行に限られます。売却・解体・大量処分は過料とは別の理由で、検認が終わって受け取る人が確定するまで待つ行為です。
実家に住んでいた相続人がリフォームや解体を先に進め、遺言で受け取る人と対立する例も同じ構図です。
検認前でもできる行為|施錠・通風・応急処置・草刈り・公共料金の精算は保存行為、相場を聞くのは情報収集
止まるのは遺言の内容を実現する行為に限られ、実家を守るための行為は検認前でもできます。
相続人が数人いるとき、相続財産は相続人の共有になります(民法898条)。共有物については、各共有者が単独で保存行為をすることができます(民法252条5項)。保存行為とは、財産の現状を保ち、価値を減らさないための行為で、遺言の内容が決まるまでの間も、相続人の一人として自分の判断でできます。
具体的には次のとおりです。
- 施錠と鍵の管理
- 郵便物の回収
- 通風と換気
- 雨漏りや倒木の応急処置
- 庭木や雑草の手入れ
- 電気・水道を止めるか、最低限の契約を維持するかの手配
- 公共料金の精算
- 火災保険を続けるための保険会社への連絡
- 固定資産税の納税通知書の受け取り先を決める届出
最後の届出は「相続人代表者指定届」といいます。固定資産税は1月1日時点の所有者に課税され、登記が済むまでは相続人の代表者宛てに通知が送られるよう市区町村に出す届けで、箕面市の案内では、納税のためのもので登記名義人を変更する手続きとは別とされています。
不動産会社に相場を聞くことや、机上査定を頼むことも、情報収集であって処分とは別です。家の価値の桁を知っておくと、後で兄弟・姉妹と話すときにも役立ちます。
ただし、媒介契約や売買契約は処分なので、そこで止めておきましょう。査定を取ると売却前提の連絡が続くこともありますが、契約するまでは情報収集の範囲にとどまります。
片付けは、「家を保つために必要な範囲」と「全員が合意した範囲」の2つに分けて考えます。腐るものの処分、害虫や臭いの原因になるものの撤去は前者です。家具や思い出の品を運び出すのは後者で、遺言で実家を受け取らない相続人が一人で進めると、後で「勝手に処分した」と言われます。
逆に、「検認まで何も触れない」と思い込んで通風も草刈りもせずにいると、数か月で家が傷み、受け取る人から「なぜ放っておいたのか」と言われます。守る行為は、むしろ進めておきましょう。
出典: e-Gov法令検索「民法」第252条・第898条 / 箕面市「固定資産税・都市計画税の納税通知書が父の名前で送られてきました。何か手続きは必要ですか」
遺言執行者が指定されているときの制限|相続人の処分は無効になり、執行者から内容の通知が届く
遺言書に遺言執行者の指定があると、相続人が動ける範囲はさらに狭くなります。
民法1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止)1項は、遺言執行者がある場合、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為ができないと定め、2項はこれに違反した行為を無効としています。「自分は相続人だから実家を売れる」という理屈は、執行者がいる場合には通らず、売却そのものが無効です。
同じ2項のただし書きで、この無効は善意の第三者には対抗できないとされています。執行者がいることを知らずに買った相手からは、無効を主張して取り戻せない場合があります。「無効なのだから後で戻せばいい」と考えて処分すると、取り戻せないまま終わることがあります。
執行者側の義務も決まっています。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために、相続財産の管理その他執行に必要な一切の行為をする権利義務を持ち(民法1012条1項)、任務を開始したときは遅滞なく遺言の内容を相続人に通知する義務を負います(民法1007条2項)。
執行者がいるなら、この通知を待ってから動くのが順序です。
執行者の指定がなければ、検認が終わった後は、遺言で実家を受け取る相続人が自分で手続きを進められます。誰がどう進めるかは、内容の確認の章で説明します。
出典: e-Gov法令検索「民法」第1007条・第1012条・第1013条
検認を待つ間も相続放棄3か月と相続税申告10か月は止まらない|放棄を考えるなら家財を処分しない
検認を待っている間も、相続放棄の3か月と相続税申告の10か月は進み続けます。
1つ目は相続放棄の期限です。相続を承認するか放棄するかは、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内に決めることになっています(民法915条1項)。検認にかかる期間は、この3か月から差し引かれず、そのまま消費されます。
実家に借金が残っていそうなとき、親の事業の保証が気になるときは、検認と並行して判断を進める必要があります。期間は家庭裁判所に申し立てて伸ばしてもらえます(915条1項ただし書)。
承認や放棄をする前に相続財産を調べることは認められているので(915条2項)、検認を待つ間に通帳や借入の有無を確かめるのは問題なく進められます。
ここで、できる行為と結びつく注意があります。相続放棄を考えている人は、家財を処分しないでおきましょう。相続人が相続財産の全部または一部を処分すると、相続を単純承認したものとみなされます(民法921条1号)。
保存行為と短期の賃貸は除かれているので、施錠や通風、応急処置は放棄の妨げにならずに済みます。しかし、遺品整理業者に家財を一括で引き取らせる、形見分けの範囲を超えて物を持ち帰る、売却した代金を受け取る、といった行為は処分にあたる可能性があります。
放棄の可能性が少しでもあるなら、迷ったものは触らずにおきましょう。
片付けを急いで業者に家財を一括で出した後に借金が判明すると、放棄したくても処分済みで身動きが取りにくくなります。検認が終わってから放棄を考え始めると、3か月を過ぎていることもあります。放棄は、遺言の内容が分かる前から考えておく事柄です。
2つ目は相続税の申告期限です。相続税の申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条1項)。国税庁の案内では、1月6日に亡くなった場合、その年の11月6日が期限です(タックスアンサーNo.4205)。
検認を待っても、この期限はそのまま進みます。申告が必要かの計算や特例は、別の手順になります。
3つ目として相続登記の3年がありますが、これは内容の確認が済んだ後の行動なので、内容の確認の章の最後で説明します。
出典: e-Gov法令検索「民法」第915条・第921条 / e-Gov法令検索「相続税法」第27条 / 国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」
遺言の内容を読むときの確認項目|実家は誰に・「相続させる」か「遺贈」か・執行者はいるか
内容は、①方式を満たしているか、②実家が誰にどう書かれているか、③執行者はいるか、④自分の立場でできること、⑤登記、の順に読むと、感情の動く部分より先に事実を確認できます。
検認が済んだ遺言書、または検認の要らない公正証書遺言や遺言書情報証明書が手元にそろってから読み始めましょう。読み終えた後の最初の行動である登記まで、この章で扱います。
自筆証書遺言の方式を満たしているか|全文・日付・氏名の自書と押印、財産目録は毎葉に署名押印
自筆証書遺言は、遺言者が全文・日付・氏名を自分で書き、押印して初めて方式を満たします(民法968条1項)。
財産目録は自書しなくてよい代わりに、各ページ(両面に記載があれば両面)に署名と押印が要ります(968条2項)。書き直しや書き足しは、その場所を示し、変更した旨を付記して署名し、変更した場所に押印して初めて効力が生じます(968条3項)。
手元の遺言書を、次の表で確かめてみてください。
| 確認する点 | 見るところ |
|---|---|
| 日付が特定できるか | 年月日まで書かれているか。「〇月吉日」のように日が特定できない書き方は、法務省の遺言書保管制度の注意事項でも「不可」とされている |
| 押印があるか | 氏名の横などに印があるか。条文は印の種類を限定していない |
| 財産目録の各ページに署名押印があるか | 目録がパソコン打ちや通帳のコピーなら、その全ページ |
| 訂正が方式どおりか | 訂正箇所に押印があり、どこをどう直したかの付記と署名があるか |
| 複数枚なら契印があるか | ページのつなぎ目の印。必須の要件ではないが、一体性の確認に使う |
方式に不備がありそうでも、自分で「無効だ」と決めるのは早すぎます。日付や押印の扱いには裁判例の積み重ねがあり、素人目に不備に見えても有効とされるものも、その逆もあります。
不備が疑われるなら、弁護士や司法書士に遺言書を見せると判断が早く付きます。書いた当時に判断能力があったかという問題も、専門家の領域です。
公正証書遺言と法務局保管の遺言は、この項目を飛ばせます。検認が不要でも有効が保証されるわけではないものの、公証人が作る公正証書で方式の不備が起きることはまずなく、法務局保管も預けるときに外形的な確認を受けています。
出典: e-Gov法令検索「民法」第968条 / 法務省「03 遺言書の様式等についての注意事項」(自筆証書遺言書保管制度)
実家が誰にどう書かれているか|「相続させる」か「遺贈する」か、土地と建物が登記簿と一致するか、書かれていない財産はないか
実家の記載で見るのは、物件の特定、「相続させる」か「遺贈する」か、書かれていない財産の3つです。
1つ目は、実家の特定です。遺言書に書かれた所在・地番・家屋番号を、法務局で取った登記事項証明書と突き合わせます。
- 土地と建物の両方が書かれているか
- 私道の持分、隣の土地、ほかの人との共有持分が漏れていないか
- 「自宅」「家」のような書き方なら、どの不動産を指すか特定できるか
「自宅を長男に相続させる」とだけ書かれ、前面の私道の持分が載っていないと、その部分だけ別の手続きになって登記が二段階になります。
2つ目は、「相続させる」と「遺贈する」のどちらで書かれているかです。相続人に対して「相続させる」と書かれていれば、相続による所有権の移転登記として、受け取る人が単独で申請できます(不動産登記法63条2項)。相続人に対する「遺贈する」でも、法改正で単独申請ができるようになっています(同63条3項)。
一方、相続人でない人への遺贈は、遺言執行者か相続人全員との共同申請になります。この違いは、執行者の指定の項目で述べる「自分で登記できるか」に直結します。
3つ目は、遺言に書かれていない財産です。私道の持分、後から見つかった預金、遺言を書いた後に取得した財産などです。書かれていない財産は、相続人全員の遺産分割協議で分けることになります(民法907条1項)。
遺言の末尾に「その他一切の財産を〇〇に相続させる」という包括的な条項があれば、その人のものになり、協議なしで済みます。受け取るはずの人が遺言者より先に亡くなっていて、「その場合は〇〇に」という予備の指定がなければ、その部分も協議の対象です。
最後に「付言事項」です。遺言の末尾に、感謝の言葉や、なぜこう分けたかの理由が書かれていることがあります。法的な効力はないものの、家族が納得して合意するための材料になるので、読み飛ばさずに目を通しておきましょう。
出典: e-Gov法令検索「不動産登記法」第63条 / e-Gov法令検索「民法」第907条
遺言執行者の指定の有無|指定があれば執行者が進め、なければ受け取る相続人が単独で登記できる
執行者の指定があれば執行者が進め、指定がなければ「相続させる」と書かれた実家を受け取る相続人が自分ひとりで登記できます。
確認するのは、指定の有無、指定された人が生きていて引き受けているか、その人が相続人の一人か、士業や信託銀行などの第三者か、です。
執行者がいる場合、遺贈の履行は執行者に限って行えます(民法1012条2項)。相続人が勝手に処分すると無効になることと、執行者から内容の通知が届くことは、実家の扱いの章で述べたとおりです。
執行者が兄弟・姉妹の一人に指定されていると「自分は何もできない」と思い込む人がいますが、執行者はあくまで遺言の内容を実現する役目です。自分の立場で取れる選択肢は、次の項目で説明します。
執行者がいない場合、「相続させる」と書かれた実家を受け取る相続人は、自分ひとりで相続登記を申請できます(不動産登記法63条2項)。ほかの相続人の印鑑も協力も不要です。
執行者の指定がなくても、必要なら利害関係人が家庭裁判所に執行者の選任を申し立てられます(裁判所「遺言執行者の選任」)。相続人でない人への遺贈がある場合など、執行者がいた方が進めやすいときの選択肢です。
出典: e-Gov法令検索「民法」第1012条 / e-Gov法令検索「不動産登記法」第63条 / 裁判所「遺言執行者の選任」
自分に不利な内容だったときの選択肢|遺留分侵害額請求は知った時から1年、全員合意なら遺言と違う分け方もできる
取り分が少ない、あるいは実家をもらう立場なのに負担が重すぎるときの選択肢は、遺留分と全員合意の2つです。
1つ目は遺留分です。配偶者や子などには、遺言でも奪えない最低限の取り分(遺留分)があり、足りない分を金銭で請求できます。この請求権は、相続の開始と、遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年で時効にかかり、相続開始から10年を過ぎても消滅します(民法1048条)。
大事なのは、遺留分は金銭の請求であって、実家そのものを取り戻す権利とは別だという点です。計算方法や請求の手順は、別の手順になります。
2つ目は、全員の合意です。相続人全員(執行者がいれば執行者も含めて)が合意すれば、遺言と異なる分け方ができます。
これは不利な人に限った選択肢ではなく、遺言で実家をもらう立場でも、住む予定がなく手放したいなら、同じ合意で兄弟・姉妹に渡したり売って分けたりできます。協議書の作り方は、別の手順になります。
「誰も住まない実家を遺言どおりに一人で受け取り、固定資産税と管理を背負い続けた後で『全員で合意すれば変えられた』と知った」という声が、経験者から上がります。逆に、遺留分という言葉を知らないまま1年が過ぎ、請求できなくなる例もあります。どちらも、内容を読んだ段階で選択肢を知っていれば避けられます。
確認が済んだ後に先に行う登記|取得を知った日から3年以内、登記するまで第三者に対抗できない
内容の確認が済んだら、最初にやる行動は実家の登記です。
相続で所有権を取得した人は、相続が始まったことと自分が所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転登記を申請する義務があります(不動産登記法76条の2第1項)。相続人への遺贈で取得した場合も同じです。
この義務は2024年4月1日に始まったもので、それより前に相続したと知った実家で登記が済んでいないものは、2027年3月31日までに登記することになっています(法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」)。義務化の前は期限のない手続きだったため、「登記はいつでもいい」という古い記憶のままだと期限を過ぎます。
もう1つ、3年の期限より先に動く理由があります。法定相続分を超える部分は、登記などの対抗要件を備えて初めて第三者に対抗できます(民法899条の2第1項)。
たとえば、遺言で実家を全部もらうことになっていても、登記をしない間にほかの相続人の債権者がその人の法定相続分を差し押さえると、その部分を失います。検認済証明書か遺言書情報証明書を受け取ったら、登記を先に済ませておきましょう。
検認が終わった安心感から登記を数年放置する人もいます。3年を過ぎれば登記の義務に違反する状態になり、その間に差押えが入れば、遺言どおりの結果を失います。
登記に必要な書類、実家の売却、空き家の特例、相続税の計算は、それぞれ別の手順になります。ここまでの確認が済んでいれば、どの手順に進むかは自分で決められます。
出典: e-Gov法令検索「不動産登記法」第76条の2 / e-Gov法令検索「民法」第899条の2 / 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」
まとめ:遺言書は封印があれば開けず、検認が済むまで実家は守るだけにとどめる
見つけた遺言書は、封印があれば開けず、原状のまま保管して、その日のうちに相続人全員へ伝えます。検認が要るのは自宅保管の自筆証書遺言と秘密証書遺言で、封がなくても必要です。検認が済んで受け取る人が確定するまで、実家の売却・解体・名義変更は止め、施錠や通風のように守る行為に絞ります。
次の一歩は、手元の1通の型を表で見分け、公証役場の遺言検索と法務局の遺言書保管事実証明書で、ほかに遺言書がないかを確かめることです。これを飛ばして名義や分け方を動かすと、後の日付の遺言が出てきたときに進めた手続きがやり直しになり、受け取った人との争いにもなります。
検認を待つ間も相続放棄の3か月と相続税申告の10か月は進むので、家財を処分する前に、借金の有無と期限を確かめてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、遺言書を見つけた直後の扱い方、検認の流れ、検認を待つ間の実家の管理、遺言の内容の読み方も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。

