実家の相続放棄を検討するときの確認|失うもの・期限・借金・放棄以外の選択肢

誰も住む予定のない実家が残り、固定資産税や草刈りの負担を何十年も背負いたくなくて「相続放棄」を調べ始めた人に向けた、放棄を決める前の確認の手順です。

相続放棄は実家だけを手放す手続きではなく、親の預貯金も、実家が売れたときの代金も、まとめて受け取れなくなります。

放棄で失うもの、3か月の期限の数え方、実家の価値と負担、親の借金、決めるまでに避ける行為、放棄以外の選択肢、放棄後に残る義務、相談に持っていく情報を順に確かめると、自分の場合は放棄が合うのか、別の選択肢が合うのかの見当が付きます。

実家の相続放棄で最初に押さえる前提|実家だけは放棄できない

実家だけを放棄して預貯金だけを受け取ることは、相続放棄ではできない仕組みです。

相続放棄は、亡くなった親の財産と借金のすべてについて「初めから相続人ではなかった」ことにする手続きです(民法939条)。実家が重いという理由だけで選ぶと、実家と一緒に親の預貯金まで手放すことになります。

相続放棄は実家も預貯金も含めた全財産を手放す手続き

放棄で免れるもの、失うもの、放棄しても残るものは次のとおりです。

区分具体例
免れるもの親の借金・保証債務/実家の固定資産税/実家の管理の負担/遺産分割の話し合いや相続争い
失うもの親の預貯金・有価証券/実家を売れた場合の代金/死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)
放棄しても残るもの受取人が自分に指定された死亡保険金/遺族年金/未支給年金

見落としやすいのが、「失うもの」に親の預貯金が入っている点です。親の口座に数百万円が残っていても、放棄すれば1円も受け取れません。

一方、受取人が自分に指定された死亡保険金や遺族年金は受取人自身の財産なので、放棄しても受け取れます。

借金の心配がなく「実家が負担なだけ」なら、放棄のほかに、遺産分割で兄弟・姉妹に引き継いでもらう、相続して売る、土地だけ国に引き渡すという選択肢があります。この中で預貯金まで一緒に失う手段が、放棄です。

経験者の声:実家を手放したいだけだったのに、親の預金も受け取れなくなった

「田舎の実家を誰も使わないので、放棄すれば楽になると思って手続きしました。受理された後で、母の口座の預金も一緒に放棄したことになると知りました。実家だけ手放す方法が他にあると、先に知りたかったです」(母の相続で放棄をした方)

出典: e-Gov法令検索 民法(939条) / 国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金

家庭裁判所への申述で成立し、受理後は原則取り消せない

相続放棄と呼べるのは、親の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄の申述」をして受理されたものに限られます(民法938条)。

兄弟・姉妹の間で「自分は何も相続しない」と遺産分割協議書に判を押すのは「相続分の放棄」で、相続放棄とは別の行為です。この形では、親の借金は免れないまま残ります。

いちど受理された放棄は、原則として撤回できない定めです(民法919条1項)。放棄した後に親の預貯金や株が見つかっても「やめます」とは言えないため、確認してから決める順番になります。

手続きそのものは、それほど難しくないといえます。費用は収入印紙800円(申述人1人につき)と連絡用の郵便切手で、期限は原則3か月です。

家庭裁判所の審査は、要件を欠くことが明らかな場合だけ却下し、それ以外は受理する運用が主流とされ、期限内に書類をそろえて自分で申述する人も多くいます。難しいのは手続きより、「放棄すべきか」の判断のほうです。

出典: 裁判所 相続の放棄の申述 / e-Gov法令検索 民法(919条・938条)

自分が放棄すると相続権は他の兄弟・姉妹や親の兄弟・姉妹へ移る

相続放棄は相続人ごとに1人で決めてできるので、自分だけが放棄すると残った人に影響が出ます(全員でそろえて行う限定承認とは、ここが違います)。

誰が放棄したか実家と借金はどこへ行くか
兄弟・姉妹のうち1人だけが放棄残った兄弟・姉妹に、実家も借金も集まる
子が全員放棄親の親(存命なら)へ。親の親もいない、または放棄すれば、親の兄弟姉妹へ(民法889条)
放棄した人の子移らない。放棄では代襲相続は起きない(民法887条2項)
相続人になり得る人が全員放棄実家は自動的に国のものにはならない。家庭裁判所が相続財産清算人を選ぶまで、管理する人がいない状態になる

「兄弟・姉妹の全員で放棄すれば終わり」と思いがちですが、実際には叔父・叔母に相続権が移り、そこへ借金の督促や固定資産税の通知が向かいます。叔父・叔母も放棄すれば、実家は誰のものでもない状態になります。

兄が先に1人で放棄を済ませ、気づいたときには残った弟が実家も固定資産税も1人で引き受ける形になっていた、という家もあります。放棄を決める前に、兄弟・姉妹と「誰が放棄し、誰が残るのか」をそろえておきましょう。

出典: e-Gov法令検索 民法(887条・889条・951条・952条) / 裁判所 相続財産清算人の選任

相続放棄の期限の数え方と伸長の申立て

「3か月以内」の期限は、数え方と延ばし方を知っていれば味方になる仕組みです。

葬儀、役所の手続き、法事と続くと、落ち着いて財産を確認できる期間は1か月半ほどになりがちです。そこで、まず自分の起算日を書き出し、「3か月では調べきれない」と思ったら、確認を続けながら先に期限を延ばす申立てを出す、という順番で進めます。

3か月の起算点は亡くなった日ではなく自分が相続人と知った日

民法915条1項は、相続の承認や放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」にすると定めています。

出発点は「親が亡くなった日」ではなく、「親が亡くなり、自分が相続人になったと知った日」です。

自分の状況起算日
同居・近居で、亡くなった日にそれを知った実質的に亡くなった日
疎遠で、死亡を後から知った知った日(親戚からの連絡・役所や債権者からの通知など)
次の順位の相続人(親の兄弟姉妹など)先順位の人が全員放棄したと知った日

疎遠だった場合や、親の兄弟姉妹として相続人になった場合は、起算日がずっと後になります。「亡くなってから3か月過ぎたからもう無理」と決める前に、「自分の起算日は○月○日。期限は○月○日」と1行書き出してみてください。この1行が、この後の確認の予定表の土台になります。

出典: e-Gov法令検索 民法(915条1項)

調べきれないときは期限内に家庭裁判所へ期間伸長を申し立てる

財産や借金を調べきれないときは、「相続の承認又は放棄の期間の伸長」の申立てで期限を延ばせます。

項目内容
申立先親の最後の住所地の家庭裁判所
申立てができる人利害関係人(相続人を含む)・検察官
期限自分の起算日から3か月以内
費用収入印紙800円(相続人1人につき)+連絡用の郵便切手
添付書類の概要親の住民票除票または戸籍の附票、伸長を求める相続人の戸籍謄本など。立場によって親の死亡が分かる戸籍などが追加される
理由の書き方の例財産が各地にあり調査中/借金の有無を信用情報機関に照会中/相続人が遠方で確認に時間がかかる

添付書類の細部は申立先の家庭裁判所の案内で確かめておきましょう。戸籍の取り方は近接記事「実家の相続に必要な資料の集め方」で扱っています。

知っておくと差が出る点が3つあります。

  • 伸長は相続人ごと。兄の期限が延びても自分の期限は延びないので、自分の分は自分で申し立てる
  • 審理に日数がかかるので、期限の直前ではなく「調べきれないかもしれない」と思った時点で出す
  • 延びる期間は家庭裁判所が決める。1〜3か月ほどの例が多いと言われるが事情で変わり、足りなければ再度の伸長を申し立てられる場合がある
経験者の声:兄弟の1人が「伸長した」と言うので安心していたら、自分の期限は延びていなかった

「弟が『家裁で期限を延ばしてもらった』と言ったので、自分も延びたと思っていました。専門家に、伸長は申し立てた人の分だけだと聞き、期限の数日前に慌てて自分の申立てを出しました」(母の相続で兄弟と放棄を検討した方)

出典: 裁判所 相続の承認又は放棄の期間の伸長 / e-Gov法令検索 民法(915条1項ただし書)

期限を過ぎると全財産を相続した扱いになる|借金を知らなかった場合の例外

起算日から3か月の間に放棄も限定承認もしないと、法律上は「単純承認をした」とみなされます(民法921条2号)。

実家も借金も、すべて引き継いだ扱いです。

ただし、例外があります。親の借金の存在を知らず、「相続財産は全く無い」と信じていたことに相当な理由がある場合、3か月の起算点を「財産や借金の存在を知った時(または通常知ることができた時)」まで遅らせることができる、とした最高裁の判決があります(最高裁昭和59年4月27日第二小法廷判決)。

たとえば、親が亡くなって1年後に初めて銀行から督促状が届いた場合です。「もう3か月を過ぎているから無理」と諦めず、届いた時点で急いで弁護士に相談してみてください。認められるかは、親との付き合いの深さや財産を知り得た事情で個別に判断されるので言い切れませんが、相談せずに諦める理由はないといえます。

もう1点あります。家庭裁判所に放棄が受理されても、効力がそこで確定するわけではなく、後から債権者が「期限を過ぎていた」「財産を処分していた」と裁判で争う余地は残ります。期限内に、処分行為をせずに申述するという基本を守ることが、争いを招かない一番の方法です。

出典: e-Gov法令検索 民法(921条2号)

実家の資産価値と維持負担の見積もり方

実家の価値は、「税金の計算に使う評価額」と「実際に売れる値段」を切り分けて考えると見えてきます。

路線価や固定資産税評価額は、相続税や固定資産税を計算するための数字で、その値段で売れるかとは別の話です。放棄を判断するときに見るのは、「実際に売れるか」「持ち続けるといくらかかるか」「手放すのにいくらかかるか」の3つで、借金は別に確かめてこの数字から引きます。

売れるかは複数の査定と買取・空き家バンクで確かめる

「田舎だから売れない」と決めている人の多くが、査定を1回も取らずに判断しています。

査定は無料で、親が存命のうちでも取れます。次の順で当たってみてください。

手段分かること
仲介の不動産会社の査定(2〜3社)買い手を探した場合の売れそうな値段
買取業者の査定業者が直接買う場合の値段(仲介より低いが、早く話がまとまる)
自治体の空き家バンク値段が付きにくい家でも、住みたい人・使いたい人が現れることがある
隣地の人への打診隣の土地なら欲しい、という買い手は意外に多い

仲介と買取の両方を取るのがポイントです。近所の不動産会社に「難しい」と言われた築50年の古家でも、買取業者3社に当たって1社が数十万円で引き取った例があり、固定資産税を払い続けるよりはるかに良い結果になりました。

売れにくい条件は、書類からおおよそ見当が付きます。再建築ができない土地(道路に接していない)、市街化調整区域、農地、隣地との境界が確定していない土地で、登記事項証明書、公図、自治体の都市計画図を見れば分かります。当たる場合でも「売れない」と決まるわけではなく、値段と時間がかかる、という理解でよいでしょう。

持ち続ける負担と手放す費用を積み上げる|解体すると土地の税が上がる

持ち続けた場合の年間負担は、想像ではなく、実家に届いている固定資産税の納税通知書の実額で積み上げましょう。

年間の負担確かめ方
固定資産税・都市計画税納税通知書の年額
火災保険保険証券・引き落とし額
草刈り・庭木の手入れ業者の見積もり、または自分で行く回数×交通費
点検に行く交通費・宿泊費年に何回行くか×往復の費用
水道・電気の基本料止めない場合の年額
マンションなら管理費・修繕積立金管理組合の請求額

手放す場合の費用も見ておくと比べられます。建物の解体は、木造で1坪あたり3〜5万円程度が民間の目安としてよく示されます。30坪なら本体だけで90万〜150万円で、残った家財や庭木の処分が加わると増えるので、実額は解体業者の見積もりを複数取って確かめます。

隣地との境界が確定していなければ、測量に数十万円かかる例があります。昔の「確定測量図」や「境界確認書」が実家に残っていれば、やり直さずに済むことがあります。

見落としやすい点が2つあります。1つ目は、解体すると土地の固定資産税が上がることです。住宅が建っている土地は、200平方メートルまでの部分の課税標準が6分の1になる特例(住宅用地の特例)を受けていて、更地にするとこの特例が外れ、土地の税額が数倍になります。

「売れないから、とりあえず解体して管理を楽にする」と動くと、売れないまま高い税金を払い続けることになります。

2つ目は、放置しても特例が外れる場合があることです。2023年12月13日施行の改正空家法で、「管理不全空家」として市区町村から勧告を受けると、特定空家と同じく特例が外れます。持ち続けるなら「管理し続ける前提」で数えることになります。

仮の数字で例を示します。固定資産税が年10万円、草刈りと点検が年10万円と仮定すると、年20万円×10年で200万円。最後に解体すればさらに90万〜150万円が加わり、合計は290万〜350万円です。自分の数字に置き換えるときは「年間の負担×持ち続ける年数+解体費」で計算し、年間の負担には納税通知書と業者の見積もりの実額を入れます。売れない家の負担は、10年単位で数えるとはっきりした数字になります。

出典: 国土交通省 空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和5年法律第50号)について / e-Gov法令検索 地方税法(349条の3の2)

受け取れる財産と負担の累計を比べる|死亡保険金と遺族年金は失う側に入れない

ここまでの数字を次の2つの列に並べると、放棄で手放す額が見えます。

受け取れる財産(実家以外)実家の負担の累計
親の預貯金の概算持ち続ける年数×年間の負担
有価証券+手放すときの費用(解体・測量)
実家が売れた場合の代金(査定額)(借金は別に確かめて、左の列から引く)

左の列の合計が右の列より大きければ、「実家が負担」という理由だけで放棄すると、差額を手放すことになります。右の列が大きく、兄弟・姉妹の誰も実家を欲しがらず、売れもしないなら、放棄が選択肢に入ってきます。

「不動産が全体の2割を超えたら放棄」「金融資産が500万円未満なら放棄」といった数字の目安は、状況で答えが変わるため、ここでは比べ方だけを示しています。

この比較で間違えやすいのが、「失う側」に入れなくてよい財産です。

放棄しても受け取れる(失う側に入れない)放棄すると受け取れない(相続財産)
受取人が自分に指定された死亡保険金受取人が親本人になっている保険金(入院給付金など)
遺族年金所得税の還付金(準確定申告の還付)
未支給年金(亡くなった月までの未払い分)親名義の預貯金・有価証券
死亡退職金(規程で受け取る人が決まっているもの)実家と、実家を売った代金

受取人が自分に指定された死亡保険金は受取人固有の財産、遺族年金と未支給年金は遺族が自分の権利として受け取るもので、いずれも相続財産の外にあります(未支給年金は受け取った人の一時所得として扱われます)。

ただし、死亡保険金の「500万円×法定相続人の数」の非課税枠は、放棄した人が受け取る保険金には使えず、保険金が大きい場合は受け取れても税の負担が変わります。一方、所得税の還付金は親の財産なので、放棄すれば受け取れない側です。企業年金の未払い分は規約で扱いが分かれるので、勤め先の制度に確かめておきましょう。

経験者の声:父の保険金は受取人が自分だったので、放棄しても受け取れると知り、判断が変わった

「実家の負担が重く、放棄するつもりでした。父の生命保険の受取人が自分だと分かり、専門家に『それは放棄しても受け取れます』と言われました。保険金で解体費を出し、相続して売る方向に切り替えました」(父の相続で放棄を検討した方)

出典: 国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金 / 国税庁 相続税の申告のためのチェックシート 誤りやすい事例集(準確定申告の還付金・未支給年金) / 厚生労働省 未支給年金の請求できる遺族の範囲

親の借金と保証債務の調べ方

「親に借金はないと思う」という状態から確かめる手段は4つあり、一通り見るのに1〜2か月が目安です。

親が存命なら、本人に借入と保証の有無を聞くのが一番早い方法です。

安心してよい点を先に書きます。残高証明を取る、信用情報を開示する、登記を調べるといった行為は「調査」であって、財産の「処分」とは別です(民法915条2項は、承認や放棄の前に相続財産を調査できると定めています)。放棄の妨げにならずに進められます。

ただし、見つかった借金を親の口座から返してしまうのは別で、処分に当たるおそれがあります。

郵便物と通帳の引き落としで借入先を洗い出す

郵便物は止めず、実家に届くものを集めておくと借入先の手がかりになります。

督促状、請求書、クレジットカードの明細、税の催告書がその手がかりです。亡くなった直後は届かなくても、1〜2か月遅れて届く明細もあるので、しばらく集め続けましょう。

通帳は直近12か月分で、見るところは次の3つです。

通帳で見るもの疑われるもの
毎月同じ日に同じ額の引き落としローンの返済・リボ払い・分割払い
金融機関・保証会社・貸金業者名の入出金借入と返済
年に1回の大きな引き落とし固定資産税・自動車税・保険料

ネット銀行やネット証券は紙の通帳がないので、親のメール、郵便物、スマートフォンのアプリの一覧から探すことになります。

税や保険料の滞納も借金と同じです。固定資産税、住民税、国民健康保険料の滞納は、市区町村の納税の担当課で相続人が確かめられます。滞納分は相続人に引き継がれ延滞金も付きますが、放棄すれば免れます。

借入先が分かったら、親の死亡と自分が相続人であることが分かる戸籍を添えて、その金融機関に残高証明を請求できます。戸籍の取り方は近接記事で扱っています。

出典: e-Gov法令検索 民法(915条2項) / e-Gov法令検索 地方税法(9条) / e-Gov法令検索 国税通則法(5条)

登記事項証明書の乙区で抵当権と根抵当権を確かめる

実家の登記事項証明書は相続人でなくても誰でも取れ、見るのは「乙区」の欄です。

法務局の窓口や郵送なら1通600円、オンラインで請求して郵送で受け取るなら520円です(2025年4月改定)。

乙区の記載意味次にすること
抵当権住宅ローンなど、特定の借入の担保記載の金融機関に残高を問い合わせる
根抵当権枠を決めて繰り返し借りる担保。事業資金の目印記載の金融機関に残高と、他の借入の有無を問い合わせる
古い抵当権が残っている完済したが抹消の登記をしていないだけの場合がある金融機関に完済済みか確認。完済なら借金ではない

住宅ローンの抵当権が残っていても、慌てずに団信の有無を先に確かめてみてください。住宅ローンの多くは団体信用生命保険(団信)が付いており、借りた人が亡くなると保険金でローンが完済されます。ローンが保険で消えれば、実家は「借金のない不動産」になり、放棄の判断は大きく変わります。

経験者の声:住宅ローンが残っていると思って放棄を考えていたが、団信で完済されていた

「登記簿に銀行の抵当権があり、ローンが何百万円も残っていると思って放棄を考えていました。銀行に問い合わせたら、団信で全額返済されるとのことでした。借金が消えたので、相続して売ることにしました」(父の相続で住宅ローンを調べた方)

出典: 法務局 登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続が便利です / 福岡法務局 登記事項証明書の手数料はいくら必要?

信用情報機関3社に相続人として開示請求する

郵便物と通帳で見つからない借金を拾う手段が、信用情報機関への開示請求です。

CIC、JICC、KSC(全国銀行個人信用情報センター)の3社があり、法定相続人(JICCは2親等以内の血族も)が亡くなった親の情報を開示してもらえます。手続きは郵送が基本です。

用意するもの内容
開示申込書各機関の「亡くなった方・法定相続人用」の書式
親の死亡と相続関係が分かる書類戸籍謄本一式、または法務局の「法定相続情報一覧図」(一覧図があると書類が減る)
請求者の本人確認書類2点(住民票などの原本1点を含む)
手数料1機関あたり1,000〜2,500円程度。コンビニで買う利用券で払う方式が中心。時期により改定される

結果は10日〜20日ほどで、本人限定受取郵便で届きます。細部と最新の手数料は、各機関の案内で確かめておきましょう。

3社で分かるものと分からないものは、はっきり分かれます。

分かるもの分からないもの
銀行・信用金庫のローン個人の間の貸し借り
カードローン・消費者金融他人の借金の連帯保証
クレジットカードの利用残高・分割払い会社の借入の経営者保証
携帯電話の端末の分割払い税・保険料の滞納、家賃・医療費の未払い

3社とも「登録なし」と出ても、「借金ゼロ」とは限りません。右の列のものは、別の手段で探すことになります。

出典: CIC よくあるご質問 亡くなった家族(被相続人)の情報開示をすることはできますか? / JICC 二親等以内の血族 法定相続人等による開示 / 全国銀行協会 郵送による開示手続(全国銀行個人信用情報センター)

保証債務は契約書と親の会社の借入から探す

連帯保証は信用情報に出てこない借金で、相続され、放棄すれば免れます。

探す場所は2つです。

  • 経営者保証。親が自営業や会社経営なら、会社の借入で社長個人が連帯保証人になっているのが普通で、決算書の注記、借入契約書、取引銀行への問い合わせで分かる
  • 親戚や友人の借金の連帯保証。実家の書類に保証契約書や金銭消費貸借契約書の写しが残っていないか探す

ただし、保証は相手が返済を止めて初めて通知が来ることが多く、書類にも残っていないことがあります。信用情報3社とも登録がなく相続した半年後に、父が友人の借入の連帯保証人になっていたという通知が届いた人もいます。

これが「3か月で全部は分からない」最大の理由で、調べきれないと感じたら伸長の申立てに進みましょう。

放棄を決めるまでに避ける行為と差し支えない行為

放棄を考えているなら、原則は「片付けてから考える」ではなく「決めてから片付ける」です。

民法921条1号は、相続人が相続財産の全部または一部を「処分」すると、単純承認をしたものとみなす、と定めています(保存行為と、短い期間の賃貸は除きます)。処分したと評価されると、その後に放棄の申述をしても、債権者から「もう承認している」と争われます。

実家の換金できる品の処分・解体・売却・相続登記は相続を承認したとみなされる

実家の片付けは、放棄を考えているなら手を付けずにおきましょう。

貴金属、骨董、着物、自動車、換金できる家電を、売る・持ち帰る・捨てるのは、いずれも処分行為に当たるおそれがあります。「捨てただけで売っていない」でも、価値のある物を自分の判断で無くしたことになるので同じです。

建物の解体は、処分行為に当たるおそれが大きいうえに、住宅用地の特例が外れて土地の税金も上がります。実家の売却、自分の名義への相続登記も、「自分が相続した」と公に示す行為なので避けたいところです。

放棄するなら、片付けは次の順位の相続人か相続財産清算人に任せることになります。

経験者の声:兄弟で実家を片付けて骨董をリサイクル店に売った後で借金が見つかり、放棄できないと言われた

「葬儀の後、兄弟で実家を片付け、父の骨董をリサイクル店に売りました。数か月後に借金の督促が届き、放棄しようとしたところ、専門家から『売却が処分行為と見られる可能性が高い』と言われました。片付けは決めてからにすべきでした」(父の相続で片付けを先にした方)

出典: e-Gov法令検索 民法(921条1号)

親の口座からの支払い・借金の返済・遺産分割協議への署名も避ける

お金に関する行為も同じで、放棄を考えているうちは次の行為を避けておきましょう。

  • 親の預貯金を引き出して自分のために使う
  • 親の口座から、入院費・公共料金・固定資産税・借金を支払う
  • 遺産分割協議に参加し、協議書に署名・押印する
  • 預貯金や車の名義を自分に変える
  • 親の携帯電話や車を解約・処分する

兄弟・姉妹から「とりあえず協議書に判を押して」と言われても、放棄を考えているなら署名は保留です。署名は、相続人として財産を分けることに同意した、という意味になります。

借金の督促が届いたときに、自分の財産から立て替えて返すのは、見解が分かれる場面です。自分のお金なら処分ではないという考え方もありますが、「債務を認めた」と評価されるおそれを指摘する見方もあります。債権者には「相続放棄を検討中」と伝え、支払いは保留にしておくと争いを招きにくくなります。

親の口座からの引き落としを止めたいときは、契約を自分が解約するのではなく、金融機関に死亡を届ける方法があります。金融機関は死亡を知ると口座を止めるので、引き落としも止まります。契約の解約は、相続人として契約をどうするか決める行為に当たるおそれがあります。

葬儀費用・形見分け・雨漏りの修理は差し支えない|固定資産税は払う前に確認する

反対に、差し支えない行為もあります。

葬儀費用は、社会的に相当な範囲であれば、親の財産から支出しても処分行為に当たらないとした裁判例があります(大阪高裁平成14年7月3日決定)。ただし、華美な葬儀や、墓石・仏壇の購入費は争いになり得ます。心配なら自分の財産から払い、領収書を残しておくと後から説明できます。

身の回り品の形見分けは、衣類・日用品・写真など経済的な価値のないものなら差し支えなく、価値のある物(貴金属・骨董)は避ける側です。

雨漏りの応急修理、戸締まり、最低限の庭木の手入れは「保存行為」として、民法921条1号の除外に当たります。放っておくと傷む・近所に迷惑がかかる、という範囲で手当てすることは問題ないといえます。

受取人が自分に指定された死亡保険金、遺族年金、未支給年金を受け取ることも、相続財産の処分とは別です。

固定資産税は、見解が分かれます。自分の財産から払うことを「保存行為」と見る解説と、「債務の承認」と見る解説の両方があります。納税通知が届いても、払う前に専門家に確認してみてください。払うと決めるなら自分の財産から払って領収書を保管し、親の口座から払うのは処分に当たるおそれがあります。

避ける行為と差し支えない行為の一覧です。

行為扱い理由
貴金属・骨董・車・換金できる家電を売る・持ち帰る・捨てる避ける処分行為に当たるおそれ
建物の解体避ける処分行為に当たるおそれが大きい。土地の税も上がる
実家の売却・相続登記避ける相続したと公に示す行為
親の預貯金の引き出し・親の口座からの支払い避ける処分行為に当たるおそれ
遺産分割協議への参加・協議書への署名避ける相続人として分けることへの同意
名義変更・親の契約の解約や処分避ける相続人としての行為に当たるおそれ
自分の財産からの借金の返済見解が分かれる債務の承認と評価されるおそれを指摘する見方がある。払わないのが安全
自分の財産からの固定資産税の支払い見解が分かれる保存行為と見る解説と債務の承認と見る解説がある。払う前に専門家に確認
相当な範囲の葬儀費用差し支えない処分に当たらないとした裁判例がある。華美な葬儀・墓石・仏壇は争いになり得る
衣類・日用品・写真の形見分け差し支えない経済的価値がない
雨漏りの応急修理・施錠・最低限の庭木の手入れ差し支えない保存行為
受取人指定の保険金・遺族年金・未支給年金の受取差し支えない相続財産ではない

出典: e-Gov法令検索 民法(921条1号・602条)

相続放棄以外で実家を引き継がない選択肢

「実家が負担」という理由なら、相続放棄は預貯金まで失う重すぎる手段になり得ます。

実家だけを引き継がない選択肢は、放棄のほかに3つあります。先にその3つを見て、どれも使えないときに放棄を考える順番です。

期限の面でも違いがあります。3か月の期限があるのは放棄(と限定承認)だけで、遺産分割、売却、国庫帰属は期限なしで進められます(相続登記は取得を知ってから3年以内の義務、相続税の申告は10か月以内、という別の期限はあります)。

つまり考えるべきことは「3か月以内に放棄を決める」ではなく、「3か月以内に、放棄を選ばないと決められるか」です。

遺産分割で実家を他の相続人に引き継いでもらう

実家に住みたい、または近くに住んでいて管理できる兄弟・姉妹がいるなら、その人が実家を取り、自分は預貯金を受け取る(または何も受け取らない)という分け方ができます。

遺産分割協議と呼び、家庭裁判所を通さず、期限もなく進められます。

項目内容
必要なこと相続人全員の同意(誰も実家を要らなければ成立しない)
借金免れない。債権者には法定相続分で責任を負う
実家を取る人から金銭を受け取る形代償分割。実家を取る人に資金がないと成立しない

協議書に「何も相続しない」と書くのは「相続分の放棄」で、家庭裁判所の「相続放棄」とは別です。借金が後で見つかれば法定相続分の責任は残るので、借金の心配が消えていることがこの選択肢の前提です。

経験者の声:放棄するつもりだったが、妹が実家に住むと言ったので遺産分割で預金だけ受け取った

「実家の管理が無理だと思って放棄する準備をしていました。兄弟で話したところ、妹が『住みたい』と言い、妹が実家、自分が預金という分け方にしました。放棄していたら預金も受け取れず、妹も実家を相続しにくくなっていたはずです」(母の相続で遺産分割を選んだ方)

出典: 法務省 相続登記の申請義務化に関するQ&A

相続して売却し代金を分ける

実家を欲しい相続人がいないが、売れる見込みがある場合の選択肢です。

いったん相続登記をして売却し、代金から費用を引いて相続人で分けます(換価分割)。査定で値が付いていれば候補に入ります。

相続した空き家を売ったときには、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります(適用には売却の時期や建物の要件があり、2027年12月31日までの売却が対象です)。要件と売り方は別記事で扱います。

全員で放棄する寸前に買取業者に出したところ値が付き、売却して代金を3人で分けて終わったケースもあります。売れるなら、放棄より手元に残るものが多いことがあります。

出典: 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例 / 法務省 相続登記の申請義務化に関するQ&A

建物を解体して土地だけ国に引き渡す(相続土地国庫帰属制度)

2023年4月27日に始まった、相続した土地を国に引き取ってもらう制度で、放棄との一番の違いは「他の財産は相続したまま、土地だけを手放せる」ことです。

項目内容
前提建物がある土地は申請できない(解体が前提)
申請できない・承認されない土地の例境界が明らかでない/担保権や使用権が付いている/崖がある/地上・地下に撤去が必要な物がある/管理に過分の費用や労力がかかる
審査手数料1筆につき1万4,000円(却下・不承認でも返らない)
負担金原則20万円。市街化区域や用途地域内の宅地は面積に応じて増える(法務省の例で100平方メートル約55万円、200平方メートル約80万円)
その他の費用解体費・測量費は別
期間申請から承認まで半年〜1年程度かかった例が多い
窓口法務局で事前相談ができる

「審査が厳しくて使えない」という評価も目にしますが、法務省の統計では、2026年8月31日時点で申請5,997件のうち3,119件が国庫に帰属し、却下85件・不承認100件、取下げ1,139件です。要件を満たせば通る制度といえます。

一方、解体費と負担金を合わせると100万円を超えることも多く、「売れない土地に、手放すための費用をかける」判断になります。それでも放棄ではないので、親の預金はそのまま相続できます。

出典: 法務省 相続土地国庫帰属制度の概要 / 法務省 相続土地国庫帰属制度の負担金 / 法務省 相続土地国庫帰属制度に関するQ&A / 法務省 相続土地国庫帰属制度の統計

放棄が合うのは借金が財産を上回るか、全員が実家も財産も要らず売れない場合

放棄と他の選択肢を並べると、次のように違います。

選択肢対象期限主な費用借金を免れるか実家は誰に移るか合う状況
遺産分割で引き継がない実家だけなし相続登記の費用免れない実家を取る相続人住む・管理できる兄弟・姉妹がいる
売却して分ける実家だけなし相続登記・仲介手数料・譲渡の税免れない買主誰も要らないが売れる
国庫帰属土地だけなし解体費・手数料1万4,000円・負担金20万円〜免れない国売れないが要件を満たす土地
限定承認全財産3か月手続きが重い。相続人全員で申述。実家にみなし譲渡所得税が生じ得る財産の範囲まで相続人(清算後)借金の額が読めないが財産も残したい
相続放棄全財産3か月収入印紙800円+切手免れる次の順位の相続人→全員放棄なら清算人下の2条件

放棄が合うのは、次の2つのどちらかに当たる場合です。

  1. 借金や保証債務が、受け取れる財産を上回る。または、上回るおそれが調べても消えない。
  2. 相続人全員が実家も他の財産も要らず、実家は売れず、国庫帰属も使えない。

それ以外の状況では、放棄より他の3つの選択肢で解決することが多いです。「兄弟・姉妹の全員で放棄すれば終わり」は、親の兄弟姉妹へ負担を移すだけで、全員が放棄すれば今度は相続財産清算人の問題が残ります。全員で放棄すると決めたなら、相続権が移る叔父・叔母には手続きの前に事情と期限を伝えておきましょう。

出典: 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税 / e-Gov法令検索 所得税法(59条) / 裁判所 相続の放棄の申述

相続放棄をした後に残る実家の管理義務と対応

「放棄しても、次の相続人が管理を始めるまで実家の管理義務が続く」という説明は、改正前の民法940条のもので、今は違います。

2023年4月1日施行の改正で、放棄した後に保存の義務が残るのは「放棄の時に、その財産を現に占有していた人」だけになりました。遠方に住んで実家に関わっていなかった人には義務が残らず、同居や管理をしていた人には引き渡しまで義務が続きます。

保存義務が残るのは放棄時に実家を現に占有していた人だけ

改正後の民法940条1項は、放棄した人が「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」に限り、次の相続人か相続財産清算人に引き渡すまで、「自己の財産におけるのと同一の注意」でその財産を保存しなければならない、と定めています。

区分例
占有に当たる実家に同居していた/実家に住んでいる/鍵を預かって出入りや管理をしていた/家財を自分の管理下に置いていた
占有に当たらない遠方に住み、出入りも鍵の管理もしていない
個別の判断になる近所に住んでいるだけ/月に1回見に行っていた/鍵は持っているが使っていない

「個別の判断になる」行に当たる人は、専門家に確認する価値があります。義務の有無で放棄後の負担がまったく変わるからです。

義務の内容は「保存」で、自分の持ち物と同じ程度に気をつけて傷まないようにすることです。修繕や片付けを積極的に行う義務とは別です。

同居していた兄弟・姉妹がいる家では、放棄しても義務が偏ります。遠方の自分は放棄すれば義務なし、同居していた兄は放棄しても引き渡しまで保存義務あり、となります。放棄を決める前に「占有者は誰か」を確かめる理由はここにあります。

経験者の声:母と同居していた兄は占有者として清算人への引き渡しまで管理が残り、予納金も兄が出した

「兄弟全員で放棄しましたが、母と同居していた兄だけは実家を占有していたとして、相続財産清算人に引き渡すまで保存の義務が残りました。清算人の選任を申し立てたのも、予納金を納めたのも兄です。同じ放棄でも立場で負担が違いました」(母の相続で全員放棄した方の弟)

出典: e-Gov法令検索 民法(940条1項) / 法務省 民法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について

義務は次の相続人か相続財産清算人に引き渡すまで続く

占有していた人の義務は「引き渡すまで」です。

次の順位の相続人が相続するなら、その人に実家と鍵を引き渡して終わります。全員が放棄した場合は引き渡す相手がいないので、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立て、選ばれた清算人に引き渡します。

項目内容
申立先親の最後の住所地の家庭裁判所
申立てができる人利害関係人(放棄した元相続人・債権者など)・検察官
申立ての費用収入印紙800円、連絡用の郵便切手、官報公告料5,582円
予納金相続財産から清算の費用や清算人の報酬が出せない見込みのとき、申立人が納める。額は家庭裁判所の判断で、数十万円〜100万円程度の例がある。実家が売れる見込みがあれば少なくなる場合がある
期間選任から清算の終了まで1年以上かかる例が多い

査定で実家に値が付いていれば、清算人が売って費用に充てられるので、予納金は軽くなる方向に働きます。予納金の額は申立先の家庭裁判所が事案ごとに決めるので、申し立てる前に家庭裁判所の窓口で確かめておきましょう。

放棄した後に、実家を売る・解体する・片付けて処分するのも避けたい行為です。放棄後でも財産を隠したり勝手に使ったりすれば単純承認とみなされる定めがあり(民法921条3号)、処分行為と争われるおそれが残ります。保存義務のある人は「傷まないようにする」だけにとどめ、それ以上は清算人に任せます。

なお、危険な空き家を自治体が略式代執行で解体し費用を請求する例もあり、「放置しておけば得」という計算は成り立たないといえます。

出典: 裁判所 相続財産清算人の選任 / e-Gov法令検索 民法(921条3号・940条)

固定資産税の納税通知への対応と次の順位の相続人への連絡

放棄した翌年の春に親宛てや自分宛てに固定資産税の納税通知が届いても、放棄が受理された人に納税義務はなく、受理証明書の写しを市区町村に出せば済みます。

固定資産税は、毎年1月1日時点で登記簿や課税台帳に所有者として載っている人に課税され、名義人が亡くなっていれば、市区町村は相続人を「現に所有している者」として課税します。放棄が受理された人は初めから相続人ではなかった扱いなので、納税義務の外にいます。

通知が届いたら、市区町村の固定資産税の担当課に、家庭裁判所の「相続放棄申述受理証明書」または「受理通知書」の写しを出しましょう。同封の「相続人代表者指定届」は相続人が出す書類で、放棄した人は代表者指定届を出さずに受理証明書等の写しを提出するよう案内している市もあります。

放置は避けたいところです。市区町村には届出がないときに相続人の中から代表者を指定できる定めがあり、放棄を伝えていないと手続き上の宛先として扱われ続けることがあります。

次の順位の相続人への連絡に法律上の義務はなく、それでも伝えないと、相手には何の心当たりもないまま銀行から督促状が届きます。相手の3か月は「先順位の人が全員放棄したと知った日」から数えるので、早く伝えるほど相手に調べる時間ができます。叔父に伝えるのを先延ばしにし、半年後に督促が届いた叔父から「なぜ先に言ってくれなかったのか」と強く言われた家もあります。

伝える内容は次の4つです。

  • 自分(と兄弟・姉妹)が放棄した事実と、受理通知書の写し
  • 実家の所在と状態、分かっている借金の概要
  • 放棄するなら、相手の期限の数え方と、家庭裁判所への申述という方法
  • 自分が調べた資料(査定・登記・信用情報の結果)を渡せること

出典: e-Gov法令検索 地方税法(343条・9条の2) / 多摩市 固定資産税 相続人代表者指定届のご案内

専門家に相談する前にそろえる情報

専門家への相談で1回で方向を出してもらうには、「放棄したい」という結論ではなく「確認した事実」を持っていくことです。

初回相談は30分〜1時間で、無料のところや、30〜45分で5,000〜6,600円程度の弁護士会の相談センターなどがあります。事実がそろっていれば、1回で方向が出ることが多いです。

相談の前に、3つの判断だけ自分の中で決めておくと話が早く進みます。

  1. 自分は「放棄したい」のか、「実家を手放したい」のか(後者なら放棄以外の選択肢がある)
  2. 兄弟・姉妹の誰かが実家を取る可能性があるか
  3. 全員で放棄する場合、実家を占有していたのは誰か

事実がそろっていなくても、期限が迫っているなら先に相談してみてください。「そろえてから相談しよう」として期限を過ぎるのが、いちばん大きな損です。その場合は、伸長の申立てを最初に頼みます。

無料で相談できる窓口(法テラス、自治体の法律相談、司法書士会など)もあり、相談先の選び方は近接記事で扱います。

亡くなった日・知った日・相続人の関係と意向をまとめる

専門家が最初に聞くのは「期限」と「人」です。

期限の情報書き出す内容
亡くなった日死亡診断書・戸籍の日付
自分が相続人になったと知った日起算日。同居なら亡くなった日
今日までの日数期限まで残り何日か
伸長を申し立てたか申し立てた日・延びた期限
人の情報書き出す内容
相続人の関係図配偶者・子・前婚の子・養子を全部書く
各人の意向放棄したい/実家を欲しい/未定
次の順位の相続人親の親・親の兄弟姉妹の生存と、連絡が取れるか

意向は「未定」のままでも大丈夫です。ただ、兄弟・姉妹に一度も聞いていない状態で相談に行くと、「お兄さんは実家をどうしたいとおっしゃっていますか」に答えられず、「ご兄弟と話してから」で終わります。電話1本でよいので、「放棄を考えているか、実家を欲しいか」だけ聞いておきましょう。

実家の登記・税額・査定額と預貯金・借金・保険の受取人を一覧にする

次に聞かれるのが財産と借金の全体像で、1枚の一覧表にして持っていくと話が早く進みます。

原本は不要で、写しや、スマートフォンで撮った写真で十分です。

項目確認した内容持っていく写し未確認なら
実家の所在地・名義登記事項証明書の表題部・甲区登記事項証明書未
実家の抵当権乙区の記載・団信の有無登記事項証明書未
固定資産税年額・滞納の有無納税通知書未
査定額仲介○社・買取○社の額査定書・メール未
築年・状態・住んでいる人・鍵の所在空き家か、誰が住んでいるか、鍵は誰が持つか写真未
預貯金口座ごとの概算通帳の写真未
有価証券証券会社・概算取引残高報告書未
保険契約の有無・受取人が誰か保険証券未
借入借入先・残高・督促の有無督促状・残高証明未
保証心当たりの有無契約書の写し未
信用情報の開示結果CIC・JICC・KSC開示報告書未

「未」の行があっても大丈夫で、「ない」「分からない」と言えば、取り方や調べ方を教えてもらえます。空欄のまま持っていくのが一番です。

経験者の声:固定資産税の通知と登記簿の写し、通帳の写真を持っていったら、30分で放棄ではなく売却を勧められた

「納税通知書と登記事項証明書、通帳の写真、買取業者の査定のメールを一覧にして持っていきました。借金の心当たりはないと伝えると、30分で『この内容なら放棄ではなく、相続して売る方が残ります』と方向が出ました」(父の相続で相談した方)

実家を占有していたかと放棄前にした行為を書き出す

最後に書き出すのは自分自身のことで、専門家が「放棄がまだ可能か」「放棄後に義務が残るか」を判断するために必ず聞く項目です。

項目書き出す内容
占有の状況同居していたか/鍵を持っているか/出入りの頻度/家財を管理しているか
葬儀費用誰の財産から、いくら払ったか
片付け処分した品があるか。売った・捨てた・持ち帰った物
親の口座引き出し・支払いをしたか。何に、いくら
協議書遺産分割協議書に署名・押印したか
契約解約・名義変更した契約があるか(携帯・車・保険・公共料金)

「もうしてしまった行為」を隠すと、助言が誤ります。専門家は、した行為を前提に「放棄がまだ可能か」を判断します。

葬儀費用を親の口座から払った、形見分けをした、という程度なら問題ない範囲と確認してもらえることが多く、隠すほうが損です。領収書を見せて最初に伝えれば、その場で範囲を確認してもらえます。

まとめ:実家が負担なだけなら放棄の前に3つの選択肢を確かめる

相続放棄は実家だけを手放す手続きではなく、親の預貯金も実家を売った代金も一緒に手放します。放棄が合うのは、借金や保証債務が受け取れる財産を上回る場合と、相続人全員が実家も他の財産も要らず、実家は売れず国庫帰属も使えない場合の2つで、「実家が負担なだけ」なら遺産分割・売却・国庫帰属で解決することが多いといえます。

次の一歩は、自分が相続人になったと知った日から3か月の期限を1行書き出し、調べきれないと感じた時点で家庭裁判所に伸長を申し立てることです。これを飛ばすと、期限を過ぎた時点で実家も借金もすべて相続した扱いになり、後から借金が見つかっても放棄を選べなくなります。

期限を書き出したら、実家の査定と登記事項証明書の乙区、信用情報の開示結果の3つから確かめてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、相続放棄で失うものと期限、放棄を決めるまでに避ける行為、放棄以外の選択肢も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。