親が亡くなり、実家をどうするか決めようとしたら、兄弟・姉妹の一人と連絡が取れない。あるいは海外に住んでいて、判子一つもらうにも往復で何週間もかかる。
金融機関や法務局で「相続人全員の署名が要ります」と言われて手が止まっている人に向けて、相手の状況を「避けられている」「所在不明」「海外在住」の3つに分けた進め方をまとめました。
区分ごとに使う手続きと自分の持ち出し、相手を待つ間も進む10か月・3年・10年の期限、相談先の選び方が分かると、待つだけの日々を終えて次の一手を打てます。
連絡が取れない相続人がいると実家の相続が止まる理由と、相手の状況の3区分
止まるのは「遺産をどう分けるかの合意」だけで、相続そのものと税金や管理の義務は、親が亡くなった日から動いています。
合意が止まっている間も、固定資産税と空き家の管理は連絡の取れる側に集中します。待ち続けるほど持ち出しが増えるので、相手の状況を早めに見分けることが出発点です。
相続人全員の協議がないと預金の解約も登記も実家の処分も進まない
遺産の分け方を決める話し合い(遺産分割協議)は、相続人が一人でも欠けると、法律上の協議にあたらず無効です。
民法907条1項は、遺産分割協議を共同相続人が行うと定めています。「共同相続人」は相続人全員を指すので、残りの人だけで協議書を作って署名しても、その協議書は無効です。
無効な協議書は、金融機関でも法務局でも差し戻されます。金融機関の相続手続きは、相続人全員の署名と印鑑証明書をそろえる様式が基本です。法務局の相続登記も、協議で実家を取得した人を登記するには、有効な協議が前提になります。
実家そのものも同じです。分割が終わるまで、実家は相続人全員の共有で(民法898条1項)、各人の持分は法定相続分どおりです(同条2項)。
共有物に変更を加えるには、他の共有者全員の同意が要ります(民法251条1項)。売却や解体はこの「変更」にあたるため、不動産会社は売る約束(媒介契約)を結べず、解体業者も相続人全員の同意書を求めるのが通常です。
一方で、所有者の一人としてできることもあります。不動産会社に査定を頼むことや、売れる見込みを聞くことは、相続人の一人でも問題なくできます。「一人くらい欠けても大丈夫だろう」が通らなくなるのは、分ける・売る・壊すという段階からです。
出典: e-Gov法令検索「民法」第907条・第898条・第251条
協議が止まっても続く固定資産税と空き家の管理責任
協議が止まっていても、実家の固定資産税と空き家の管理は、親が亡くなった日から相続人の負担です。
相続は死亡によって開始します(民法882条)。共有物にかかる税金は共有者が連帯して納める義務を負うため(地方税法10条の2第1項)、市区町村は相続人の誰か一人に全額を請求できます。
納税通知書は相続人のうち代表者に届く仕組みです(地方税法9条の2)。実家に近い人や親の家に出入りしていた人が代表者になりやすく、結果として立て替えが続きます。
空き家の管理も同じです。空家等対策の推進に関する特別措置法5条は、空き家の所有者や管理者に、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう適切に管理する努力義務を置いています。
建物の不備で誰かにけがをさせれば、所有者が賠償責任を負います(民法717条)。連絡が取れない人は近所からの苦情にも出てこないので、草刈りや雨漏りの対応は連絡の取れる側に集中します。
放置が長引いた人に、起きがちなことが3つあります。
- 相続人の一人が亡くなり、その配偶者や子が新しい相続人として加わる(数次相続)。話し合う相手が増え、面識のない人も混ざる。
- 電気・水道・火災保険を止められず、固定費が積み上がる。解約にも相続人としての手続きが要るため、後回しになりやすい。
- 建物の傷みが進み、売るときの価格が下がる。
相手を待つ間も、自分の財布から出ていくお金があります。待ち続けるより、次に説明する仮払いや相続人申告登記のように、一人でできる手続きから手を付けた方が負担は軽く済みます。
出典: e-Gov法令検索「民法」第882条・第717条 / e-Gov法令検索「地方税法」第9条の2・第10条の2 / e-Gov法令検索「空家等対策の推進に関する特別措置法」第5条
合意がなくても相続人の一人でできる預金の仮払い
立て替えの負担には、預貯金の仮払い制度(民法909条の2)が使えます。
相続人の一人が、他の相続人の同意なしに、亡くなった人の預金の一部を払い戻せる制度です。協議が止まっていても使えます。
払い戻せる額は、相続開始時の預金残高×3分の1×自分の法定相続分です。ただし同じ金融機関からは150万円までと法務省令で決まっています(法務省「相続法の改正」案内)。
たとえば残高600万円の口座で自分の法定相続分が4分の1なら、600万円×3分の1×4分の1=50万円まで単独で引き出せます。
葬儀費用や固定資産税の立て替え分に充てられるので、「自分だけが払い続けている」状態を少し和らげられます。払い戻した分は、後の遺産分割で自分が先に受け取った分として扱われます(同条後段)。
登記で一人でできる手続き(相続人申告登記・法定相続分での登記)は、期限の話とあわせて「相手を待つ間に実家側で進められる手続きと3つの期限」で説明します。
出典: e-Gov法令検索「民法」第909条の2 / 法務省「相続法の改正」
相手の状況は避けられている・所在不明・海外在住の3つに分ける
相手の状況を3つに分けると、使う手続きと自分の持ち出しの桁が決まります。
| 区分 | 相手の状況 | 主に使う手続き | 自分の持ち出しの目安 |
|---|---|---|---|
| (a)避けられている | 住所は分かるが返事がない・拒んでいる | 手紙→内容証明→遺産分割調停 | 郵便代と調停の実費(数千円) |
| (b)所在不明 | 住所も生死も分からない | 不在者財産管理人・失踪宣告 | 予納金(数十万円)と管理人の報酬 |
| (c)海外在住 | 海外にいて連絡は取れる | 在外公館の署名証明・在留証明 | 相手の交通費と手数料、往復の日数 |
境界の決め方を2つ添えます。海外にいるが連絡が取れない相手は、(c)ではなく(b)として扱います。(c)の署名証明は相手本人が在外公館へ出向いて署名するのが前提なので、連絡がつかないと使えないためです。
逆に、親の兄弟・姉妹や甥・姪、前婚の子のように「連絡先を知らないだけ」の相続人は、次に説明する戸籍の附票で住所が取れれば(a)です。
区分を決める判定材料は戸籍の附票と郵便の戻り方
区分を決める材料は3つあり、戸籍の附票、郵便の戻り方、親族への聞き取りの順に使います。
1つ目は戸籍の附票です。本籍地の市区町村が管理していて、その人の住民票上の住所の履歴が載っています。
相手の附票を取るので「第三者請求」になりますが、自分の権利を行使するために附票の記載を確認する必要がある人は請求できます(住民基本台帳法20条3項)。大阪家庭裁判所の案内でも、共同相続人の立場で相手方の戸籍や住民票を取得できるとされています。
窓口では「亡くなった親の相続人として、遺産分割のため他の相続人の住所が必要」と、相続関係が分かる戸籍を添えて伝えましょう。
附票に出るのは住民票上の住所であって、実際に住んでいる場所と違うこともあります。「国外転出」と記載があれば、(c)の可能性が高いと分かります。
国外転出のまま連絡先が分からないときは、外務省の所在調査に頼めます。海外にいる可能性が高く、おおむね半年以上所在が確認できていない日本国籍者について、配偶者と三親等内の親族が郵送で依頼できる仕組みです。
在留届や旅券の情報から連絡先が分かっても、相手が同意しなければ連絡先は教えてもらえず、回答まで数か月かかることもあります。親族や知人に聞き尽くしてからでないと受け付けてもらえないので、3つ目に挙げる親族への聞き取りを先に済ませておきましょう。相続手続のための調査なら、親族関係を示す戸籍の代わりに法定相続情報一覧図の写しで済む場合もあるので、事前に電話で確かめておくと書類集めが減ります。
2つ目は郵便の戻り方です。附票の住所に、転送されないよう「転送不要」と書いた郵便を送ります。
- 届けば(a)
- 「あて所に尋ねあたりません」で戻れば、そこに住んでいない(b)の可能性
- 受け取られずに「留置期間経過」で戻れば、住んではいるが受け取らない(a)
留置期間経過で戻った場合に居住の可能性があるとする見方は、大阪家庭裁判所の手引きにも書かれています。戻った郵便は捨てずに保管しておくと、後の手続きで「不在の事実を証する資料」として使えます。
3つ目は親族や知人への聞き取りです。地味に見えて、実はここで解決することが多くあります。親が連絡先を知っていたのに聞きそびれていた、親の兄弟が年賀状のやりとりを続けていた、という例もあります。
注記を一つ。住民票の除票や戸籍の附票の除票の保存期間は、2019年6月20日から150年に延びました(横浜市・箕面市の案内)。
ただし、延長前に5年の保存期間を過ぎて廃棄されたものは取れないままです。自治体によって「いつ以降なら取れるか」が違うので、取れないときは窓口でその日付を確認してみてください。附票の請求手順の詳細は「相続人確認に必要な戸籍の集め方」で説明しています。
出典: e-Gov法令検索「住民基本台帳法」第20条 / 大阪家庭裁判所「相手方の戸籍謄本・住民票の写しの取得について」(PDF) / 大阪家庭裁判所「不在者財産管理人選任申立ての手引き」(PDF) / 横浜市「住民票の除票の写しは、何年前までのものの交付を受けることができますか」 / 箕面市「除住民票の写し」 / 外務省「所在調査(三親等内の親族からの依頼)」
住所は分かるが返事がない相続人に対応する手順
相手の無視は、法律上「協議が調わない」状態にあたり、それだけで遺産分割調停を申し立てる要件を満たします。
民法907条2項は、協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、各共同相続人が家庭裁判所に分割を請求できると定めています。返事が来るまで待ち続ける義務はありません。
ただ、いきなり裁判所に行くより、手紙から始めた方が結果として早く着地する例が多いので、手紙、内容証明、調停の順で進めます。
1通目の手紙は相続の報告と希望を伝え、書類の要求から入らない
1通目の目的は、書類をもらうことより先に「返事をもらうこと」です。
入れる項目は6つです。
- 相続が起きたことの報告(亡くなった日と、葬儀を済ませたこと)
- 相続人の一覧(相続関係図を1枚添える)
- 遺産の概要(実家の所在と評価額の目安、預金のおおよその額)
- こちらの希望(実家を誰が取り、代わりの現金(代償金)をどうするか)
- 返信の期限(2〜3週間程度)
- 返信の方法(選択式の回答欄と、切手を貼った返信用封筒)
6番目が要です。「この案でよい/話を聞きたい/別の考えがある」の三択に丸を付けて返すだけにしておくと、相手は長い手紙を書かずに済み、返事が来やすくなります。
避けたいことも3つあります。
- 「印鑑証明を送ってほしい」から入る。何に使われるか分からない書類を求められ、相手が警戒する。
- いきなり訪問する。関係が薄い相手ほど身構え、その後の協議が難しくなる。
- 電話やLINEで何度も連絡する。拒まれた記録だけが積み上がり、相手の態度を硬くする。
手紙と、必要なら裁判所を介した連絡の方が、結果として進みやすいでしょう。
架空の文例を一つ置きます。名前や日付は入れ替えて使えます。
〇〇さんへ
ご無沙汰しています。△月△日に父が亡くなり、葬儀は近親者で済ませました。お知らせが遅くなったことをお詫びします。
父の遺産は、実家(□□市の土地と建物)と預金です。相続人は母と私と〇〇さんの3人で、相続関係図を同封します。
母が実家に住み続けられるようにしたいと考えています。〇〇さんの取り分は、預金から法定相続分どおりにお渡しする形を考えていますが、まずは〇〇さんの考えを聞かせてください。
同封の回答用紙に丸を付けて、返信用封筒で△月△日までにお返しいただけると助かります。
(差出人の氏名・住所・電話番号)
1通目は普通郵便か簡易書留で送り、内容証明は2通目まで取っておきます。
返事がなければ2通目は内容証明で調停の予定を告げる
期限を過ぎても返事がなければ、2通目で「△月△日までに返事がなければ、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます」と期限を区切って伝えます。
1通目と同じ内容を繰り返す必要はなく、責める言葉も不要で、淡々と書く方が伝わります。
送り方は、配達証明を付けた内容証明郵便です。内容証明は「いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたか」を日本郵便が証明する制度で、配達証明は「配達したという事実」を証明するサービスです(日本郵便の案内)。
この2つがそろうと、「協議を試みたが相手が応じなかった」という経緯を、調停の申立て時に書面で示せます。
最初の手紙から内容証明にしないのは、相手が身構えて弁護士を立てることがあるからです。1通目は普通の手紙、2通目で内容証明、という順にする人が多くいます。
出典: 日本郵便「内容証明」 / 日本郵便「配達証明」
相手の手間を減らす同封書類は相続分の譲渡証書と協議書の案
1通目か2通目に、署名と印鑑証明だけで済む書類を同封しておくと、相手が「関わりたくない」「遺産は要らない」と思っているときは、その日のうちに返ってくることがあります。
借金を抱えている相手や、遺産に関心がない相手ほど、この形で片づきやすいです。
一つは相続分の譲渡証書です。自分の相続分を他の相続人(たとえば差出人である自分)に譲る書面で、民法905条はこの譲渡を前提にした制度を置いています。譲渡を受けた側は、相手の持分を含めて協議に臨めます。
なお、第三者に譲渡された場合は他の相続人が1か月以内に取り戻せる定めがあるので(同条)、譲渡先は相続人同士にしておくのが無難です。
もう一つは相続分の放棄です。家庭裁判所での相続放棄とは別物で、「遺産の取り分は要らない」と表明する書面です。
大阪家庭裁判所の案内では、相続分譲渡証書または相続分放棄証書(署名と実印の押印があるもの)と印鑑登録証明書の写しがそろっていれば、その人を調停の当事者に含めずに申し立てられる場合があるとされています。
ここで一つ注意があります。相続分の譲渡や放棄をしても、亡くなった親に借金があれば、その人の返済義務は残ります。
借金まで断ち切るには、家庭裁判所での相続放棄(民法915条・知った時から3か月以内)が別に要ります。相手に借金のことを伏せて書類だけ取ると、後で争われます。
同封するのは、譲渡証書と放棄証書の案に加えて、遺産分割協議書の案と、印鑑証明書の取り方のメモです。協議書の案は、法定相続分どおりか、相手に不利でない内容にしておきましょう。相手の取り分を削った案に署名させると、後から「だまされた」と無効を主張される火種になります。
出典: e-Gov法令検索「民法」第905条・第915条 / 大阪家庭裁判所「遺産分割調停に関するよくある質問」(PDF)
遺産分割調停を申し立てれば相手が来なくても審判で決まる
2通目の期限も過ぎたら、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。
「調停=争い」「裁判所に訴えた」と受け取って申立てをためらい、1年止まる人がいます。けれども調停は裁判所を間に入れた話し合いであって、相手を裁く手続きとは別物です。
申立先は、相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で決めた家庭裁判所です。費用は、亡くなった人1人につき収入印紙1,200円分と、連絡用の郵便切手(裁判所ごとに異なる)です(裁判所「遺産分割調停」)。
弁護士に頼まず本人で申し立てられ、申立書は裁判所のサイトに書式があります。
添付書類は、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍一式、相続人全員の戸籍と住民票(または附票)、相続関係図、遺産目録、実家の登記事項証明書、固定資産評価証明書、預金の残高証明書などです。法定相続情報一覧図があれば戸籍の束を省ける場合があります(「法定相続情報一覧図の作成と使い方」)。
申立て後の流れが、この区分の出口です。相手が調停に来なくても、来ないこと自体への罰則はなく、裁判所が合意の見込みがないと判断すれば調停は不成立となり、自動的に審判手続が始まります(家事事件手続法272条4項・裁判所の案内)。
審判では、裁判官が法定相続分を基準に、遺産の種類や事情を考慮して分け方を決めます。新たに審判を申し立て直す必要はありません。
ここが大事なところで、相手が一度も来なければ、来て争う場合よりも早く不成立になります。結論が出るまでの時間は、相手が争うケースより短くなるでしょう。
実家を自分が取りたいなら、審判で代償金を払う分割が選ばれるよう、代償金を用意できることを示しておくと有利です。
もう一つ、調停や審判を申し立てておくと、相続開始から10年の期限が止まります(民法904条の3第1号)。この期限の中身は「10年の期限までに家庭裁判所へ請求し寄与分と特別受益の主張を残す」で説明します。
出典: 裁判所「遺産分割調停」 / e-Gov法令検索「家事事件手続法」第272条 / 大阪家庭裁判所「遺産分割調停に関するよくある質問」(PDF) / e-Gov法令検索「民法」第904条の3
所在が分からない相続人に対応する選択肢と使い分けの基準
所在不明の相続人の取り分は、どの手段を使っても削れず、自分の持ち出しは裁判所に納める予納金と管理人の報酬です。
不在者財産管理人を付けても、失踪宣告を受けても、その人の法定相続分はその人(または代わりに相続する子)のものとして残ります。相手の取り分を自分のものにする手段とは違う、と分かったうえで選びましょう。
使い分けの基準は生存の見込みと7年の空白
選択肢は3つで、不在者財産管理人、失踪宣告、そして相続開始から10年たった後の持分取得です。
3つ目は長期の話なので最後に触れ、まず前の2つの使い分けを書きます。
基準は「最後の音信からの年数」と「生きている可能性」です。最後の音信から7年未満、あるいは7年以上でも生きている可能性が高いなら、不在者財産管理人(民法25条)です。
生死が7年間分からないなら失踪宣告(民法30条1項)が選べます。災害や事故などの危難に遭った人は、危難が去ってから1年で申し立てられます(同条2項)。
両方を同時に申し立てる進め方もあります。管理人を付けて遺産分割を進めつつ、失踪宣告が確定したら清算する形です。札幌家庭裁判所の案内も、不在者財産管理人の選任は失踪宣告までの暫定的な手続きだと説明しています。
「失踪宣告の方が費用が安いから」で選ぶと、遠回りになることがあります。失踪宣告は公告の期間が必要で時間がかかり、確定すると相続人の顔ぶれが入れ替わるからです(「失踪宣告の費用と公告期間」で説明します)。
出典: e-Gov法令検索「民法」第25条・第30条 / 札幌家庭裁判所「不在者財産管理人選任事件手続案内シート」(PDF)
不在者財産管理人の申立てと予納金の目安
不在者財産管理人の申立ては、収入印紙800円と郵便切手で始められますが、予納金として30万〜50万円程度を求められることがあります。
申立てができるのは利害関係人で、他の相続人はこれにあたります。申立先は不在者の従来の住所地(居所地)の家庭裁判所です(裁判所「不在者財産管理人選任」)。
管理人の候補者は申立人が推薦できます。利害関係のない親族か、司法書士・弁護士です。
遺産分割を目的とする場合、共同相続人である申立人自身は利益相反になるため管理人になれない扱いです(大阪家庭裁判所の手引き)。大阪家庭裁判所本庁のように、原則として申立人の推薦を受けず弁護士を選任する運用の裁判所もあります。
ここからが持ち出しの話です。管理人の費用や報酬が不在者の財産から払えない見込みのときは、申立人が予納金を納めます。
東京家庭裁判所の案内では、不在者の流動資産(預貯金・現金)が十分にない場合には原則として30万円から50万円、大阪家庭裁判所の手引きでは50万円程度とされています。金額は申立て後に裁判所が事案に応じて決めるので、申立て前に「いくらになるか」は分からない仕組みです。
予納金が戻るかは、不在者の財産の形で決まります。
- 遺産分割の結果、不在者の取り分が預貯金の形で管理人の手元にできれば、そこから管理費用と報酬が払われ、予納金は返ってくる
- 不在者の持分が実家の共有持分だけで現金がなければ、管理費用と報酬は予納金から払われ、その分が差し引かれる
「実家しか遺産がない」事案で予納金が要るのは、この後者の形です。逆に、申立人が不在者の持分を代償金で買い取る前提にしておけば、不在者の財産に現金ができるので、予納金なしで進んだ例もあります。
管理人の報酬は、不在者の財産の中から家庭裁判所が決めます(民法29条2項)。親族が管理人なら報酬を取らないことが多いです。
管理は遺産分割が終わっても続きます。不在者が現れるか、失踪宣告が確定するか、管理する財産がなくなるまで、管理人は裁判所に報告を続けます。
出典: 裁判所「不在者財産管理人選任」 / 東京家庭裁判所「不在者財産管理人選任」(PDF) / 大阪家庭裁判所「不在者財産管理人選任申立ての手引き」(PDF) / e-Gov法令検索「民法」第29条
管理人を協議に加えるには不在者の法定相続分の確保が要る
管理人は選任されただけでは遺産分割協議に参加できず、家庭裁判所の権限外行為許可が要ります。
管理人の権限は、財産を保存すること、性質を変えない範囲で利用・改良することに限られます(民法103条)。遺産分割協議や売却はこの範囲を超えるので、許可が必要です(民法28条・東京家庭裁判所の案内)。
許可には条件があります。大阪家庭裁判所の手引きは、特別受益や寄与分が認められるような例外的な事案を除き、不在者の法定相続分が確保されていなければ許可は出せないと書いています。
札幌家庭裁判所の案内も、申立て前に他の相続人で協議案を作り、不在者の法定相続分を確保しておくことを求めています。管理人は不在者の代理人であって、残った相続人の味方ではありません。
通りやすい形は決まっています。実家は申立人が取得し、不在者の法定相続分に相当する現金(代償金)を管理人の口座に置く案です。
実家しか遺産がなく代償金も用意できないなら、売って現金で分ける換価分割を検討することになります(札幌家庭裁判所の案内)。「不在者が現れたら払う」という帰来時弁済型の案は、裁判所によって扱いが分かれるため、申立て前に家庭裁判所に相談しておきましょう。
出典: e-Gov法令検索「民法」第28条・第103条 / 大阪家庭裁判所「不在者財産管理人選任申立ての手引き」(PDF) / 札幌家庭裁判所「不在者財産管理人選任事件手続案内シート」(PDF)
失踪宣告の費用と公告期間
失踪宣告は費用こそ1万円未満ですが、公告に3か月以上かかり、確定すると相続人の顔ぶれが入れ替わります。
申立ては、不在者の従来の住所地(居所地)の家庭裁判所に、利害関係人が行います。費用は収入印紙800円、連絡用の郵便切手、官報公告料5,298円(失踪に関する届出の催告3,359円と失踪宣告1,939円)です(裁判所「失踪宣告」)。
時間がかかる理由は公告です。裁判所は、不在者が生存の届出をすべき期間などを公告し、その期間が過ぎてから宣告します。この期間は普通失踪で3か月以上と決まっています(家事事件手続法148条3項)。
申立てから確定までの所要期間は裁判所の資料に数値がなく、公告の3か月以上に審理や官報掲載の手配が加わるため、半年以上かかることが多いです。
宣告が確定すると、不在者は7年の期間が満了した時に死亡したものとみなされます(民法31条)。ここが遠回りになる原因です。
不在者に子がいれば、その子が代わりに相続人となり、今度はその人に連絡を取る手続きが始まります。不在者に配偶者がいれば、不在者本人の相続も別に発生します。後で生存が分かれば、宣告は取り消されます(民法32条)。
出典: 裁判所「失踪宣告」 / e-Gov法令検索「家事事件手続法」第148条 / e-Gov法令検索「民法」第31条・第32条
相続開始から10年後は所在不明者の持分を裁判所の決定で取得できる
最後の選択肢は今すぐの手段というより、長く放置した実家の最終的な出口です。
民法262条の2は、共有者の所在が分からないとき、裁判所の決定で他の共有者がその人の持分を取得できる制度を置いています。ただし遺産として共有している不動産については、相続開始から10年を経過して初めてこの決定ができます(同条3項)。
取得した側は、所在不明者から持分の時価相当額の支払いを請求される立場になります(同条4項)。手続きの詳細は、ここでは省きます。
海外にいる相続人に用意してもらう書類と段取り
この区分は裁判所の費用がかからず、かかるのは相手の交通費と手数料、翻訳費、そして日数です。
所在が分かっていて協力もしてもらえるので、段取りを固めて「一度で済ませる」ことに集中すると、持ち出しが日数ごと減ります。
印鑑証明と住民票の代わりになる署名証明と在留証明
海外に住民登録を移した人は印鑑登録ができないため、在外公館(日本大使館・総領事館)の署名証明を、実印と印鑑証明書の代わりに使います。
日本での住民登録を抹消して海外に住むと、印鑑登録も同時に抹消されます。そのため法務局や銀行は、海外に住む日本人には印鑑証明の代わりに署名証明を求めています(外務省「在外公館における証明」)。
署名証明には2つの形式があります。
- 形式1。在外公館の証明書と、領事の面前で署名した書類(遺産分割協議書など)を綴り合わせて割印する
- 形式2。署名だけを単独で証明する
どちらの形式にするかは提出先の意向で決まります。申請前に、法務局と金融機関のそれぞれに必要な形式を確認しておきましょう。
申請は本人が在外公館へ出向いて行うもので、代理人や郵便による申請は対象外です。持参するのは有効な日本国旅券などの本人確認書類と、形式1なら日本から送られてきた署名すべき書類です。署名は領事の面前で行うので、日本から送るときは署名欄を空けたまま送ります。手数料は1通につき1,700円相当です。
在留証明は住民票の代わりで、手数料は1通につき1,200円相当です。現地に3か月以上滞在して住んでいること(3か月未満でも、今後3か月以上の滞在が見込まれれば対象)と、原則として日本に住民登録がないことが条件です。
相続登記では、実家を取得する相続人の住所を証明するために使います。実家を取得しない相続人には要らないこともあるので、要否を法務局に確認してから申請してもらうと、取り直しを防げます。
在留証明は原則として本人が出向いて申請するので、要るなら署名証明と同じ来館で申請してもらうと、出向く回数を減らせます。住所の表記を協議書とそろえておくと、照合の手間も減ります。
相続分の譲渡や放棄で相手が手を引く場合も、印鑑証明を添える書面には署名証明で代えることになります。
出典: 外務省「在外公館における証明」 / 法務省「外国に居住しているため印鑑証明書を取得することができない場合の取扱いについて」
在外公館に行けないときは居住国の公証人の署名証明
在外公館が遠いときは、相続登記に限って、居住国の公証人が作った署名証明で代えられます。
法務省は、居住地が在外公館の所在地と離れているなど領事の署名証明を取ることが困難なときは、外国の公証人が作成した署名証明を添付して登記申請することも認めています。法務省が示す先例では、その署名証明は外国語で作られたものでもよく、署名も日本文字かローマ字のどちらでもよいとされています。
ただし、これは不動産登記についての取扱いです。銀行など登記以外の提出先が公証人の署名証明を受け付けるかは、提出先ごとに確かめておきましょう。外国語の書面を出すときは、日本語訳を付ける必要があるかも、あわせて提出先に確認しておくと差し戻しを防げます。
一時帰国中に日本の公証役場で署名認証を受ける方法を司法書士が解説していることがありますが、受け付けるかは法務局や金融機関の判断なので、事前確認なしに当てにするのは避けましょう。海外転出中は、一時帰国しても印鑑登録ができない点も同じです。
出典: 法務省「外国に居住しているため印鑑証明書を取得することができない場合の取扱いについて」
外国籍に変わった相続人は現地の公証人と宣誓供述書で補う
相続人が居住国の国籍を取得していると、在外公館の署名証明は原則として使えず、居住国の公証人による証明が中心になります。
居住国の国籍を自分の意思で取得した人は、日本国籍を失っています(国籍法11条1項)。在外公館の署名証明・在留証明は日本国籍を持つ人が対象で、外国籍の人は現地の公証人に依頼することになります(外務省「在外公館における証明」)。
ただし外務省は、元日本人でも、失効した日本国旅券や除籍謄本を持参すれば、遺産相続の手続に限って署名証明を発給できるケースもあるとしています。住所についても、在留証明の代わりに「居住証明」で対応する場合があるとされています。まず相手の居住地を管轄する在外公館に問い合わせてもらうと、公証人を探す手間が省けることがあります。
在外公館で対応できないときは、本人が戸籍上の人物と同じ人であることや今の住所を宣誓した宣誓供述書(Affidavit)を作り、現地の公証人の認証を受ける形が取られています。親子関係そのものは、亡くなった親の戸籍でたどれます。宣誓供述書が補うのは、国籍を変えた後の氏名や住所のように戸籍に載らない事実です。
現地の公証人の手配が加わるので、日本国籍者より時間がかかります。戸籍を集めて初めて兄弟・姉妹が国籍を変えていたと分かることもあるので、戸籍に「国籍喪失」の記載が出てきたら、この手順に切り替えます。
出典: e-Gov法令検索「国籍法」第11条 / 外務省「在外公館における証明」
書類を一度で済ませる送付の順序
送付は、協議書の内容を確定してから一式を送り、相手の在外公館行きを1回で済ませる順序に固定します。
- 協議書の内容を確定する。後で1か所でも直すと、署名証明の取り直しになり全部やり直しになる。
- 提出先(法務局・金融機関)に、署名証明の形式と在留証明の要否を確認する。
- 一式を送る。署名欄を空けた協議書、署名の仕方(どこに・どの表記で署名するか)の説明、在留証明の申請用紙、返送用の国際郵便ラベル。
- 相手が在外公館に出向く。これを1回で済ませる。
在外公館は予約制が多く、管轄が広い国では片道数時間かかります。往復の国際郵便を含めて、2〜3か月は見ておきましょう。
次の3つは、どれも取り直しの原因になります。協議書の内容を後から変えた、提出先が求める形式と違う形式で取った、在留証明と協議書で住所の表記が違う。金融機関は独自の様式を求めることがあるので、2の確認を法務局と金融機関の両方に行っておけば、様式違いの差し戻しを防げます。
費用の負担も先に決めておきます。署名証明の手数料、交通費、翻訳費を遺産から出すのか、実家を取得する人が持つのか。小さな金額でも、後から言い出すと争いの種になります。
相続税がかかるときは国内に納税管理人を置く
相続税の申告が必要で相続人が日本に住所を持たない場合、その相続人は国内に納税管理人を定めて申告・納税します。
納税管理人は国内に住所か居所のある人から選び(国税通則法117条1項)、国内の親族や税理士がなれます。定めたら納税管理人届出書を納税地の所轄税務署に出します(同条2項・国税庁タックスアンサーNo.4138)。
海外在住の相続人が国内の財産だけに課税されるのか、全世界の財産に課税されるのかは、その人の住所や国籍、過去の居住歴で変わります。この判定は税理士の持ち場です。相続税がかからない見込みなら、納税管理人の届出自体が不要です。
出典: e-Gov法令検索「国税通則法」第117条 / 国税庁「No.4138 相続人が外国に居住しているとき」
相手を待つ間に実家側で進められる手続きと3つの期限
10か月・3年・10年の3つの期限は、相手が動く動かないに関係なく進みます。
相手を待つ間に守るのは自分の期限で、期限ごとに一人でできる手続きがあります。
10か月の期限までに未分割でも申告し分割見込書を添付する
相続税の申告と納税は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内で、遺産が未分割でも延びない期限です(国税庁タックスアンサーNo.4205)。
未分割のときは、各相続人が法定相続分で取得したものとして計算し、申告・納税します。
ここで損をしないための一手があります。未分割のままの当初申告では、小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減が使えない扱いです。
ただし、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、申告期限から3年以内に分割されたときに特例を適用でき、分割の日の翌日から4か月以内に更正の請求をして納めすぎた税金を取り戻せます(国税庁タックスアンサーNo.4208)。
3年以内に分割できないときは、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を出して承認を受ければ、さらに延ばせます(同)。調停や審判が続いている場合がこれにあたります。
見込書を付け忘れて特例を失う人がいます。税理士に頼むなら「未分割申告で見込書を付ける」と伝えるだけで済みます。相続税がかからない見込み(基礎控除内)なら申告自体が不要で、その計算は税理士の領域です。
出典: 国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」 / 国税庁「No.4208 相続財産が分割されていないときの申告」(Q&A)
3年の期限までに相続人申告登記を一人で申し出る
相続登記は2024年4月1日から義務になり、分割がまとまらなくても、相続人申告登記を一人で申し出れば義務を果たせます。
不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記を申請する義務があり(不動産登記法76条の2第1項)、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です(同法164条1項)。施行前に相続した不動産も対象で、こちらは2027年3月31日が期限です(法務省の案内)。
相続人申告登記(同法76条の3)は、「登記名義人について相続が開始し、自分がその相続人である」と登記官に申し出るだけで、申し出た人は登記の義務を果たしたとみなされます(同条2項)。相続人それぞれが単独で申し出られ、他の相続人の同意も、連絡が取れない相続人の分の申出も不要です(法務省の案内)。
分割がまとまったら、その日から3年以内に分割の内容で登記します(同条4項)。手順は「相続人申告登記の使い方」で説明しています。
出典: e-Gov法令検索「不動産登記法」第76条の2・第76条の3・第164条 / 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」 / 法務省「相続人申告登記について」
法定相続分での登記は相手の持分も登記される
法定相続分どおりの相続登記も一人で申請できますが、連絡が取れない相続人の持分まで、その人の名前で登記簿に載ります。
相続による所有権移転の登記は登記権利者が単独で申請でき(不動産登記法63条2項)、共有物の保存行為は各共有者が単独でできる(民法252条5項)ため、相続人の一人が全員分をまとめて申請できます。
ただし、その人に借金があれば債権者がその持分を差し押さえられ、競売で第三者が共有者に入ってくる可能性が生まれます。分割がまとまった後には、分け直しの登記がもう一度要ります。
登記の義務を果たすだけなら、相続人申告登記の方が影響が小さいです。法定相続分の登記は、登記簿に持分を載せる必要があるときに使います。
出典: e-Gov法令検索「不動産登記法」第63条 / e-Gov法令検索「民法」第252条
10年の期限までに家庭裁判所へ請求し寄与分と特別受益の主張を残す
相続開始から10年を過ぎると、特別受益と寄与分の主張ができなくなり、原則として法定相続分どおりでしか分けられなくなります(民法904条の3本文)。
損をするのは2種類の人です。親の介護や実家の維持費を負担してきた人は、その分を上乗せして受け取る主張(寄与分)を失います。相手が生前に親から多く受け取っていたと主張したい人も、その分を差し引く主張(特別受益)を失います。
連絡が取れない相手を待っているうちに、自分の主張が消える構図です。
止める手は一つです。10年を経過する前に家庭裁判所に遺産分割の請求(調停か審判の申立て)をしておけば、10年を過ぎても特別受益と寄与分を主張できます(同条1号)。
期間満了前6か月以内にやむを得ない事由があった場合は、事由が消えてから6か月以内の請求も認められます(同条2号)。申立ての手順は「遺産分割調停を申し立てれば相手が来なくても審判で決まる」のとおりで、費用は収入印紙1,200円と郵便切手です。
この規定は2023年4月1日に施行され、それより前に開始した相続にも適用されます。経過措置として、相続開始から10年と、施行から5年(2028年3月31日)のいずれか遅い方まで猶予されます(民法等の一部を改正する法律附則3条・法務省の案内)。
たとえば2016年に亡くなった親の相続なら、2026年ではなく2028年3月31日まで請求できます。逆に、自分が生前贈与を受けている側なら、10年経過後は法定相続分で分けられます。
出典: e-Gov法令検索「民法」第904条の3 / 法務省「遺産分割に関する民法改正の概要」(PDF)
状況別の相談先と依頼する範囲
相談先は「相手との交渉が要るか」で決まり、要るなら弁護士、要らないなら書類の種類で司法書士・行政書士・税理士に分かれます。
費用の相場はここでは扱わず、誰に何を頼めるかに絞ります。
相手との交渉や調停の代理ができるのは弁護士だけ
相手方との交渉、調停や審判の代理ができるのは弁護士だけです。
弁護士でない人が報酬を得て法律事件の代理や和解を扱うことは禁じられています(弁護士法72条)。
他の専門家の持ち場は次のとおりです。
- 司法書士。登記の代理と、家庭裁判所に提出する書類の作成(司法書士法3条1項)
- 行政書士。遺産分割協議書や宣誓供述書のような権利義務に関する書類の作成(行政書士法1条の3)
- 税理士。相続税の申告と納税管理人の届出(税理士法2条1項)
ここでつまずく人が多いです。司法書士や行政書士に「相手と話をつけてほしい」と頼んでも、法律上できない相談です。行政書士に相談してから弁護士を探し直し、同じ説明を二度する人もいます。
相手の現住所を弁護士会照会(弁護士法23条の2)で調べる方法も、弁護士に依頼して初めて使えます。
全部を一か所に頼むなら、相続案件を扱う弁護士か、司法書士・税理士と連携している事務所です。ただし、交渉が要らない事案で弁護士に頼む必要は薄いでしょう。
出典: e-Gov法令検索「弁護士法」第72条・第23条の2 / e-Gov法令検索「司法書士法」第3条 / e-Gov法令検索「行政書士法」第1条の3 / e-Gov法令検索「税理士法」第2条
避けられている相手は手紙と調停の申立てまで自分でできる
区分(a)は、附票の請求、手紙、内容証明、調停の申立てまで自分でできます。
裁判所の書式と案内がそろっているからです。
弁護士に替える目安は3つあります。
- 相手が弁護士を立てたとき
- 審判で代償金の金額や実家の評価を争うとき
- 弁護士会照会で現住所を確かめたいとき
手紙の段階から弁護士名で送ると、相手も弁護士を立てて関係が硬くなりやすいので、最初は自分の名前で出した方が進みやすいでしょう。
実家を売る前提なら、不動産会社に査定と売れる見込みを相談して、代償金の当たりを付けておけます。査定は一人でも頼めます。媒介契約は、相続人全員の意思確認が済んでからです。
所在不明と海外在住は申立書類と協議書を司法書士・行政書士に、税は税理士に頼む
区分(b)は申立書類を司法書士か弁護士に、区分(c)は協議書と在外公館向けの書類一式を司法書士か行政書士に頼みます。
区分(b)で司法書士か弁護士に頼むのは、所在調査の記録や不在の事実を証する資料の整え方に慣れているからです。申立ての依頼先と管理人の候補者が同じ事務所だと、利益相反として避けられることがあります。管理人との協議は自分で行うか、弁護士に頼みます。
区分(c)は、登記まで任せるなら司法書士、協議書・宣誓供述書までなら行政書士です。相続税がかかるなら、税理士に納税管理人の届出と未分割申告を頼みます。相続税がかからない見込みなら税理士は不要です。
どの区分でも、相続登記の最終段階は司法書士に頼む人が多いです。相続人申告登記だけなら自分でできます。
相談前に用意する資料は相続関係図・遺産目録・やりとりの記録
初回相談で区分と手続きが一度で決まるかは、持っていく3点の資料で決まります。
- 相続関係図(亡くなった人の出生から死亡までの戸籍一式と、相続人全員の戸籍)
- 遺産目録(実家の登記事項証明書・固定資産評価証明書・預金の残高が分かるもの)
- 相手とのやりとりの記録(手紙の控え・内容証明の謄本と配達証明・戻ってきた郵便)
資料なしで行くと、「まず戸籍をそろえてから」で終わります。
区分を決めるまでは、無料相談で十分に進みます。法テラスは収入と資産が一定基準以下の人が対象です(法テラスの案内)。自治体の無料法律相談、法務局の登記手続案内(多くの法務局で予約制)、税務署の相談(面接相談は事前予約制)も使えます。
区分が決まり、依頼する範囲が見えたところで有料の依頼に切り替えれば、費用を抑えられます。
出典: 法テラス「無料法律相談のご利用の流れ」 / 長野地方法務局「登記手続案内は完全予約制です」(PDF) / 名古屋国税局・税務署「税務署での面接相談は事前予約をお願いします」(PDF)
まとめ:相手の状況を3つに分ければ、使う手続きと守る期限が決まる
連絡が取れない相続人がいて止まっているのは遺産の分け方の合意で、相続と税金・空き家の管理の義務は親が亡くなった日から動いています。相手の状況を「避けられている」「所在不明」「海外在住」の3つに分ければ、手紙から調停、不在者財産管理人、在外公館の署名証明と、使う手続きと自分の持ち出しが決まります。
次の一歩は、相手の戸籍の附票を取り、その住所へ転送不要の郵便を1通送ることです。これを飛ばして待ち続けると、固定資産税と空き家の管理が自分に集中したまま、10か月の相続税の申告期限と3年の相続登記の期限が過ぎ、10年を超えれば寄与分や特別受益の主張も消えます。
郵便の戻り方で区分が決まったら、調停の申立て、不在者財産管理人の申立て、在外公館へ送る書類の準備のどれに進むかを確かめてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、連絡が取れない相続人や海外にいる相続人がいるときの手続き・期限・相談先も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。

