相続が重なって相続人が増えた実家の整理|死亡の順序で図を描き相談先を決める

実家の名義が祖父のまま父も叔父も亡くなり、久しぶりに実家の話をしようとしたら、会ったこともない叔父の妻やいとこの名前が「相続人」として出てきた方に向けて、整理の順番をまとめました。

決め手は「誰がいつ亡くなったか」という死亡の順序で、順序が分かれば誰が当事者かは機械的に決まり、会ったことのない人がなぜ出てきたのかも説明がつきます。

死亡の順序で図を描いて今の当事者一覧を作り、放棄や譲渡で人数を減らす余地、書類を集める順番、連絡の形、登記の期限と免税、相談先まで分かると、相続人が10人を超える実家でも進められます。

相続人が増える原因になる死亡の順序と、代襲・数次・再転の見分け方

叔父の奥さんが実家の当事者になるのは、叔父が「祖父より後に」亡くなったからです。

血のつながりがないのになぜ、と思う方もいるでしょう。もし叔父が「祖父より先に」亡くなっていれば、奥さんは当事者から外れます。

同じ「叔父が亡くなった」でも、祖父との前後で結果がまったく変わります。死亡の順序を手がかりに、自分の家で起きていることに名前を付けていきましょう。

被相続人より後に亡くなった相続人は配偶者と子に置き換わる(数次相続)

実家の名義人が亡くなった時点で、相続人は確定します。

亡くなった持ち主を、法律では「被相続人」と呼びます。祖父が亡くなった時点で生きていた祖母と3人の子(父・叔父・叔母)が相続人なら、その4人が祖父の相続人です。

このあと、遺産の分け方を決めないうちに叔父が亡くなったとします。叔父が持っていた「祖父の相続人としての立場」は消えず、叔父の財産の一部として、叔父の相続人全員、つまり叔父の配偶者と子にそのまま引き継がれます。

これが「数次相続」です。叔父の奥さんは祖父と血縁がなくても、叔父の相続人として祖父の実家の話し合いに加わります。

「相続人が増えた」の正体はこれです。亡くなった相続人が1人で持っていた立場が、その人の家族数人に分かれて移るので、人数が増えて見えます。

ただし、増えた人たちが持っているのは、叔父が持っていた分を分け合った取り分にとどまります。叔父の系統全体で見れば、祖父の相続における取り分は叔父1人のときと同じです。

1つだけ、図に印を付けておきたい場合があります。祖父が亡くなってから3か月以内に叔父が亡くなったときです。

相続人は、自分が相続人になったことを知った時から3か月以内に、相続するか放棄するかを決めることになっています(民法915条1項)。この期間が終わる前に相続人が亡くなると「再転相続」と呼ばれ、承認や放棄の扱いが通常の数次相続と変わります。

民法916条は「相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する」と定めています。扱いの違いは「一次相続を承認した後は一次の放棄が原則できない」で説明するので、ここでは「3か月以内なら印を付ける」とだけ覚えておきましょう。

出典: e-Gov法令検索「民法」第915条・第916条

被相続人より先に亡くなった相続人は子だけが引き継ぐ(代襲相続)

叔父が祖父より先に亡くなっていた場合は、叔父の子(あなたから見ていとこ)だけが叔父の代わりに相続人になります。

民法887条2項は、被相続人の子が「相続の開始以前に死亡したとき」は「その者の子がこれを代襲して相続人となる」と定めています。これが「代襲相続」です。

数次相続との最大の違いは、配偶者が入らないことです。叔父が祖父より先に亡くなっていれば、叔父の奥さんは祖父の相続の当事者から外れます。子の系統は、いとこも先に亡くなっていればその子(孫・ひ孫)へと続きます(民法887条3項)。

ただし、兄弟姉妹の系統には止まる場所があります。名義人に子も親もおらず兄弟姉妹が相続人になる場合、兄弟姉妹が先に亡くなっていればその子(甥・姪)が代襲します。甥・姪も先に亡くなっていたときは、代襲はそこで止まります。

民法889条2項が兄弟姉妹について準用しているのは887条2項だけで、再代襲を定めた3項は準用されていないからです。子どものいない叔父や叔母の実家で甥・姪が何人も当事者になるのは、この仕組みによります。

もう1つ、同じ事故や災害で家族が亡くなり、どちらが先かはっきりしない場合があります。このときは同時に亡くなったものと推定され(民法32条の2)、互いに相続しない扱いになります。「先」でも「後」でもない第3の扱いがあると知っておくと、図を描くときに迷わずに済みます。

出典: e-Gov法令検索「民法」第32条の2・第887条・第889条

増える人数は後に亡くなった相続人の家族構成で決まる

相続人が「増える」のは数次相続のときで、しかも後に亡くなった相続人に「子以外の相続人」がいるときです。

たとえば、祖父が亡くなった後に祖母が亡くなったとします。祖母の相続人が父・叔父・叔母の3人(祖母の子)だけなら、祖母が持っていた祖父の相続人としての立場は、もともと相続人だった3人に移るだけです。人数は3人のままです。

ところが、叔父が後に亡くなり、叔父に配偶者と子がいれば、叔父の系統が丸ごと加わります。叔父1人だったところに配偶者1人と子2人が入れば、当事者は3人増えます。

人数が最も膨らみやすいのは、子のいない夫婦の片方が後に亡くなったときです。祖父の相続人だった叔父に子がおらず、叔父が後に亡くなると、叔父の相続人は配偶者と、叔父の親(すでにいなければ)叔父の兄弟姉妹です。

叔父の奥さんがさらに後に亡くなれば、今度は奥さんの兄弟姉妹、つまり祖父とまったく血縁のない家系の人たちが実家の当事者に入ってきます。「親戚の親戚」が当事者になるのは、この型です。

「叔父の奥さんは血がつながっていないから関係ない」と考えて、血縁の相続人だけで話し合いを済ませる家もあります。その協議には当事者が欠けているので、登記や売却の段階で通らず、最初からやり直しになります。配偶者を入れるか入れないかは、気持ちではなく死亡の順序で機械的に決まります。

なお、遺言書があれば、ここで整理する顔ぶれより先に遺言の内容が優先されます。遺言の有無と確かめ方は「遺言書が見つかったときの確認手順」の記事で扱っています。

出典: e-Gov法令検索「民法」第887条・第889条・第890条

実家で多い4つの型と増える人の早見表

実家の相続で特に多い4つの型を、加わる人と加わらない人で整理します。

型の名前は、相続関係図を描くときの見出しにもなります。

型加わる人加わらない人型の名前
祖父名義のまま父が後に死亡母(父の配偶者)と、あなたたち兄弟祖父より先に父が亡くなっていたなら母は加わらない数次相続(父が祖父より先なら代襲相続)
両親が相次いで死亡父の相続人は母と子。母の相続人が子だけなら、人数は増えない母に前の結婚の子がいなければ、新しく加わる人はいない数次相続。間隔が3か月以内なら再転相続になり得る
話し合いの途中で兄弟が死亡亡くなった兄弟の配偶者と子(系統がまとめて加わる)兄弟の配偶者の親や兄弟姉妹は、兄弟に子がいれば加わらない数次相続。3か月以内なら再転相続になり得る
子のいない夫婦の片方が後に死亡残った配偶者と、亡くなった人の親または兄弟姉妹(甥・姪)兄弟姉妹の系統は甥・姪で止まる数次相続。配偶者側の家系まで広がる

自分の家を当てはめて、該当する行に印を付けてみてください。2つ以上の行に当てはまる家も多く、その場合は相続の回数ぶん、図を分けて描くことになります。

相続を1回ずつ分けた図から今の話し合い相手の一覧を作る流れ

自分の家の型が分かったら、それを紙に落とします。

やることは3つです。相続を1回ずつ分けて図を描き、亡くなった相続人をその人の相続人に置き換え、今の当事者一覧を作る。

この順で進めると、会ったことのない人が「どの相続を通じて」当事者になっているかが一目で分かります。手書きで十分で、様式は自由です。

例として、架空の家族を使います。祖父名義の実家で、祖父の後に祖母・叔父・父が順に亡くなり、叔母だけが存命という家です。自分の家に置き換えながら読み進めてみてください。

1回目の図は被相続人の死亡時点の相続人を死亡年月日つきで描く

最初の図は、実家の名義人(1回目の被相続人)を中心に、その人が亡くなった「時点」で生きていた相続人を描きます。

【図1】被相続人:祖父(死亡 2008年3月10日)

続柄相続人今の状態
配偶者祖母死亡 2012年6月2日
子①父死亡 2024年1月15日
子②叔父死亡 2015年9月30日
子③叔母存命

ここで大事なのは、祖父の死亡時点で生きていた相続人は、その後に亡くなっていても消さないことです。祖母も父も叔父も、祖父の相続人であることは変わらないためです。消す代わりに、その人の名前の横に「死亡 年月日」を書き残します。

死亡年月日は全員分、月日まで入れましょう。1回目の死亡から3か月以内に相続人が亡くなっていれば再転相続になり、承認や放棄の扱いが変わります。「2015年ごろ」という年だけの記憶では判断がつかず、月日まで書いて初めて3か月の期限を越えているかが分かります。

逆に、書かなくてよいものもあります。法定相続分の割合や、実家の評価額、預金の額です。

この図は「誰が当事者か」を決めるための図で、分け方を決める図とは別物です。割合を書き込むと、後に亡くなった人の分を置き換えるときに計算が混ざって間違えやすくなります。

出典: e-Gov法令検索「民法」第915条・第916条

後に亡くなった相続人を中心にした2回目の図を別に描き肩書を添える

図1で「死亡」と書いた相続人が出てきたら、その人を新しい中心にした図を別の紙に描きます。

1枚にまとめたくなりますが、分けて描くほうが後で楽です。

【図2】被相続人:祖母(死亡 2012年6月2日)/肩書:祖父の相続人

続柄相続人今の状態
子①父死亡 2024年1月15日
子②叔父死亡 2015年9月30日
子③叔母存命

【図3】被相続人:叔父(死亡 2015年9月30日)/肩書:祖父の相続人・祖母の相続人

続柄相続人今の状態
配偶者叔父の妻存命
子①いとこA存命
子②いとこB存命

【図4】被相続人:父(死亡 2024年1月15日)/肩書:祖父の相続人・祖母の相続人

続柄相続人今の状態
配偶者母存命
子①あなた存命
子②弟存命

分けて描く理由は2つあります。1つは、後で提出用の書類に清書するとき、描き直しが要らないことです。

法定相続情報一覧図を裁判所に出す場面でも、数次相続の場合は「亡くなった方ごとに順次、法定相続情報一覧図を作成ください」という運用になっています(神戸家庭裁判所「法定相続情報一覧図の提出にあたっての留意事項」)。手書きの段階から同じ単位で描いておけば、そのまま清書できます。

もう1つは、同じ人が複数の図に出てくるからです。父は図1では祖父の相続人、図2では祖母の相続人、図4では被相続人です。どの図でも同じ「父」なのに立場が違うので、「誰の相続人として」ここにいるのかを肩書として書き添えます。

叔父の妻なら「祖父の相続人(叔父の相続人として)」と書けば、血縁がないのに当事者である理由がその場で読めます。相続が3回重なっていれば図は3枚以上になりますが、枚数が増えるのは整理ができている証拠です。

経験者の声:1枚の家系図は描き直しになった

「親戚全員を1枚の家系図にして司法書士に持っていったら、『亡くなった方ごとに分けてください』と言われて、その場で3枚に描き直しになりました。最初から分けておけば、戸籍のどこを見ればよいかもすぐ伝えられたと思います」(祖父名義の実家を整理した方)

出典: 神戸家庭裁判所「法定相続情報一覧図の提出にあたっての留意事項」(PDF)

亡くなった相続人を引き継ぎ先に置き換えて今の当事者一覧を作る

図がそろったら、図1の相続人のうち「死亡」と書いた人を、その人の図に出てくる相続人に置き換えます。

これが、図から今の当事者一覧へ移す操作です。

例の家族でやってみます。図1の祖母は、図2の父・叔父・叔母に置き換わります。父は図4の母・あなた・弟に、叔父は図3の叔父の妻・いとこA・いとこBに置き換わります。

叔母は存命なので、そのまま残ります。置き換えた結果、祖父の実家について今話し合う相手は、叔母、母、あなた、弟、叔父の妻、いとこA、いとこBの7人です。

図は「死亡時点」、一覧は「今」を表していて、この2つはずれていて当然です。裁判所も、法定相続情報一覧図は被相続人の死亡時点の相続人を一覧にしたもので、現在の相続関係と一致するとは限らないと注意しています(神戸家庭裁判所・同留意事項)。図だけ見て相手を決めると、死亡時点の相続人に手紙を出してしまいます。

この置き換えをすると、書き忘れが見つかります。特に見つかりやすいのが、亡くなった兄弟の配偶者です。「叔父の家」とひとまとめに考えていると叔父の妻を書き落としますが、図3で叔父の相続人を1人ずつ並べると、この抜けに気づけます。

出典: 神戸家庭裁判所「法定相続情報一覧図の提出にあたっての留意事項」(PDF)

今の当事者一覧は系統ごとにまとめて数える

一覧は表にして、列は「氏名」「系統」「引き継いでいる相続」の3つに、後で埋める「住所」を加えます。

系統とは、亡くなった相続人ごとのまとまりのことです。

氏名系統引き継いでいる相続住所
叔母叔母(本人)祖父・祖母(後で記入)
母父の系統父を通じて祖父・祖母(後で記入)
あなた父の系統父を通じて祖父・祖母(後で記入)
弟父の系統父を通じて祖父・祖母(後で記入)
叔父の妻叔父の系統叔父を通じて祖父・祖母(後で記入)
いとこA叔父の系統叔父を通じて祖父・祖母(後で記入)
いとこB叔父の系統叔父を通じて祖父・祖母(後で記入)

住所の列は、この段階では空けておきます。親戚の記憶で埋めたくなりますが、住所は戸籍の附票から確かめて埋めます。空欄のまま残しておくと、「まだ確かめていない」ことが一覧の上で見えます。

系統でまとめると、人数と連絡先の数が別だと分かります。例の家族は7人ですが、系統は叔母・父・叔父の3つです。連絡は系統ごとに窓口を立てて行うので、最初にやり取りする相手は3人で済みます。

この一覧は、戸籍を集めるときの「誰の戸籍が要るか」のリストにもなり、司法書士に相談するときにそのまま渡せる資料にもなります。

出典: 埼玉県「相続人の調査方法マニュアル」(PDF)

相続人の数が減る原因と、外れる人・降りてもらえる人の確かめ方

死亡の順序で決まった顔ぶれは、そのまま固定ではなく、減らす余地があります。

一覧に7人、10人と並ぶと、全員の印鑑が要るのか、と思うところでしょう。相続放棄をした人は最初から外れていますし、遠い相続人には「相続分の譲渡」で協議から降りてもらう方法があります。この2つは、借金から逃れる手段というより、顔ぶれを確定させる材料として使えます。

相続放棄で外れる人と次の順位に移って増える場合

相続放棄をした人は、「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」とされています(民法939条)。

最初からいなかった扱いなので、代襲は起きず、その人の子が代わりに入ることもない仕組みです。たとえば叔父が祖父の相続を放棄していれば、叔父の系統(叔父の妻・いとこ)は丸ごと一覧から外れます。

ただし、放棄は減る方向にだけ働くとは限らず、増える方向にも働きます。同じ順位の相続人が全員放棄すると、相続権は次の順位に移るからです。

子が全員放棄すれば親(直系尊属)へ、親もいなければ兄弟姉妹へ、兄弟姉妹が先に亡くなっていれば甥・姪へ、という順です。顔ぶれが入れ替わり、結果として人数が増えることもあります。

放棄が分かったときは「1人減った」で終わらせず、図に戻って反映しておきましょう。放棄した人を消し、同じ順位に誰も残らないなら次の順位の人を描き足す。この手順を飛ばすと、一覧から抜けた人が後で出てきます。

出典: e-Gov法令検索「民法」第889条・第939条

放棄の有無は家庭裁判所への照会で確かめる

相続放棄は、戸籍に一切出てきません。

戸籍を全部集めても、誰が放棄したかは分からないということです。

「放棄した」という言葉には、2つの意味が混ざっています。法律上の相続放棄は、家庭裁判所に申述して受理されて初めて成立します。

親戚の集まりで「自分はいらない」と言った、手紙で「放棄します」と書いた、というだけでは、法律上は相続人のままです。口頭の意思表示と家庭裁判所の放棄を、相手も自分も混同している例もあります。

確かめる方法は決まっています。亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、「相続放棄・限定承認の申述有無についての照会」をします。照会できるのは相続人と、債権者などの利害関係人です。

照会手数料は不要で、郵送でやり取りするなら返信用の切手を同封します(名古屋家庭裁判所「相続放棄・限定承認の申述の受理の有無の照会について」、福岡家庭裁判所「相続放棄・限定承認の申述有無についての照会」)。照会は書面で行い、被相続人の氏名・最後の住所・死亡年月日と、照会したい相手の氏名を戸籍の記載どおり正確に書く必要があります。名古屋家裁は、戸籍どおりに書かれていない場合は申述の受理がないものとして取り扱うと案内しています。

費用がかからず、相続人なら自分で出せる手続きです。一覧に「放棄したと聞いている」人がいるなら、信じる前に照会しておきましょう。

経験者の声:「放棄した」は言葉だけだった

「叔父は『自分は放棄した』と言っていたので一覧から外していました。念のため家庭裁判所に照会したら、申述の記録はないという回答でした。叔父の中では『いらないと言った』ことが放棄だったようです。照会していなければ、叔父抜きで協議書を作るところでした」(祖父名義の実家の協議をまとめた方)

出典: 名古屋家庭裁判所「『相続放棄・限定承認の申述の受理の有無の照会』について」(PDF) / 福岡家庭裁判所「相続放棄・限定承認の申述有無についての照会」

一次相続を承認した後は一次の放棄が原則できない

一度した相続の承認と放棄は、撤回できない決まりです(民法919条1項)。

この原則が、相続が重なったときに意外な形で働きます。

父が祖父の相続について、3か月の期間を過ぎたり、祖父の財産を処分したりして承認したことになっていたとします。その後に父が亡くなると、父の相続人であるあなたは、祖父の相続を放棄することが原則できなくなります。父がすでに承認した結果を、父の相続人として引き継いでいるからです。

逆に、父の相続だけを放棄するとどうなるでしょうか。あなたは父の相続人でなくなるので、父が持っていた「祖父の相続人としての立場」も引き継げなくなります。父の相続を放棄しつつ祖父の実家の分だけ受け取る、という組み合わせは成り立たないということです。

例外が、図に印を付けた再転相続です。祖父が亡くなってから3か月以内に父が亡くなった場合は、父は祖父の相続について承認も放棄もしていない状態です。このときは、あなたが祖父の相続と父の相続をそれぞれ別に判断できます。

祖父の相続について考える期間は、「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」から数えます(民法916条)。最高裁は、父の相続を放棄していない間は祖父の相続を先に放棄でき、それが父の相続の承認・放棄の妨げにならないこと、他方で父の相続を先に放棄すると祖父の相続について承認・放棄はできなくなることを示しています(最高裁昭和63年6月21日判決)。

放棄を考えるなら、まず死亡の順序と日付を見る理由がここにあります。何を放棄できて何をできないかは、図に書いた日付で決まります。期間や組み合わせの判断は個別性が高いので、放棄を使う場合は図を持って司法書士か弁護士に確かめておきましょう。

出典: e-Gov法令検索「民法」第916条・第919条

相続分の譲渡で協議から降りてもらう方法

放棄とは別に、相続人の側で使える手段が「相続分の譲渡」です。

相続人が遺産分割の前に自分の相続分を他の人に譲るもので、民法は他の相続人が譲り受けられる取り戻しの仕組みを置いているため、譲る人と受け取る人の合意だけで成立し、他の相続人の了承は要らないとされています。

相続分の全部を譲れば、譲った人は遺産分割の協議に加わる立場を失うとされています。つまり、会ったこともない遠い相続人から「相続分をあなたに譲ります」という書面をもらえれば、その人は協議から降りられます。全員の印鑑を集めるのではなく、協議に残る人数を減らすという発想です。

書面は一般に「相続分譲渡証明書」と呼ばれ、登記や金融機関の手続きで使うには、譲る人の実印と印鑑証明書を添えるとされています。書式や添付書類は司法書士に確認してみてください。

注意点は3つあります。譲っても相続した借金の責任は消えないこと、無償で譲ると贈与として扱われる可能性があること、他の相続人は譲渡から1か月以内なら相続分を取り戻せること(民法905条)です。誰から誰へ譲るかの組み立ては、司法書士に相談してから進めましょう。

似た言葉に「相続分の放棄」があります。協議の中で「自分は何も取得しない」と合意するもので、こちらは当事者のまま残るとされています。協議書への署名と印鑑証明書も引き続き必要になるため、協議から外れてもらいたいなら、放棄ではなく譲渡の書面をもらうことになります。

「印鑑を押すだけなら協力する」と言ってくれる遠い相続人には、協議書ではなく相続分譲渡証明書をもらうと、その後の協議を近い親族だけで進められます。人数を減らす手段は、死亡の順序を整理した人だけが使えます。

出典: e-Gov法令検索「民法」第905条

名義・死亡の順序・戸籍・所在を確認する順番

相続が重なった実家では、戸籍を集める前に「誰の相続から整理が始まるのか」を名義で確かめます。

相続の相談をすると、まず「戸籍を集めましょう」と言われます。1回の相続ならそれで合っていますが、相続が重なった実家では起点が名義で決まり、名義は登記で分かります。順番は、名義、死亡の順序、戸籍、所在です。

役所が空き家の所有者を調べるときも、登記事項証明書から始めて戸籍、戸籍の附票へと進みます(埼玉県「相続人の調査方法マニュアル」の調査フロー)。順番を逆にすると取り直しになる理由も、それぞれ添えておきます。

登記事項証明書で名義がどの代で止まっているかを確かめる

最初に取るのは、実家の土地と建物の登記事項証明書です。

法務局の窓口、郵送、オンラインで請求でき、所有者本人でなくても誰でも請求できます(不動産登記法119条1項)。手数料は窓口で600円、オンライン請求で郵送受け取りなら520円、最寄りの法務局などで受け取るなら490円です(法務局「オンラインによる登記事項証明書の交付請求について」)。

見るのは「権利部(甲区)」の所有者欄です。名義が祖父なら祖父の相続から、父なら父の相続から整理が始まります。曾祖父のままということもあり、その場合は図がもう1枚増えます。

名義が父になっていても、「原因」欄と持分まで見ておきましょう。祖父から父への登記が「相続」で父の単独名義なら、祖父の相続は済んでいます。しかし父と叔父と叔母が3分の1ずつの共有名義になっていれば、祖父の相続は法定相続分で登記されただけで、分け方は決まっていない状態です。

この場合、今の当事者には父の相続人に加えて、叔父と叔母の系統も入ったままです。名義が「誰」かに加えて「どういう形で」移っているかが、当事者を変えます。

固定資産税の納税通知書の宛名は、名義人と別人のこともあります。所有者が亡くなって登記がそのままのとき、市町村は相続人の中から通知書を受け取る代表者を申告してもらい、その代表者に通知書を送るからです(鹿児島市「固定資産の所有者が死亡した場合、固定資産税はどうなりますか」など各市町村の案内)。父宛てに来ているから父の名義、とは言い切れないわけです。

土地と建物で名義が違うこともよくあります。土地は祖父のまま、建物は父が建てて父名義、という形です。両方の証明書を取って、別々に確かめておきましょう。

建物が登記されていないこともあり、その扱いは「実家の名義の調べ方」の記事で扱っています。名義を確かめずに父の戸籍を出生から死亡まで集め終えると、名義が祖父だと分かった時点で祖父の戸籍から集め直すことになります。

出典: e-Gov法令検索「不動産登記法」第119条 / 法務局「オンラインによる登記事項証明書の交付請求について」 / 鹿児島市「固定資産(土地・家屋)の所有者が死亡した場合、固定資産税はどうなりますか。」

死亡年月日は家族の記憶ではなく戸籍で確定する

名義で起点が決まったら、死亡の順序を亡くなった人の除籍や戸籍に記載された死亡年月日で確定します。

家族の記憶は、年単位では合っていても月日が曖昧です。3か月以内に亡くなっているかで再転相続になるかが変わり、放棄の組み立ても変わります。年だけの記憶では、この期限を見落とします。

戸籍の日付が出そろったら、図に書いた日付を書類の値に差し替えておきましょう。「前か後か」で見分けた型は、この時点で確定します。記憶と書類が食い違ったら、書類が正しいものとして図を直します。

「叔父は10年ほど前に亡くなった」と聞いていたのに、戸籍を見ると祖父の死亡の2か月後だった、という家もあります。この2か月の差で叔父の系統は再転相続として扱われ、放棄できる範囲が変わります。

出典: e-Gov法令検索「民法」第915条・第916条 / 埼玉県「相続人の調査方法マニュアル」(PDF)

戸籍は被相続人ごとに範囲を決めてから請求し自力の限界を見きわめる

戸籍は、被相続人ごとに「出生から死亡まで」をひとまとまりとして集めます。

相続が重なっていれば、被相続人の数だけこのまとまりが要ります。

ここで、二重に取らない工夫をします。父は、祖父の相続では相続人、父自身の相続では被相続人です。祖父の相続で「相続人である父の現在の戸籍」として取るものと、父の相続で「被相続人である父の出生から死亡まで」として取るものは重なります。

請求の前に、当事者一覧をもとに「被相続人ごとに必要な範囲」を書き出し、重なる部分は1通で済ませましょう。戸籍の種類や請求先、通数と費用は「相続人確認に必要な戸籍の集め方」の記事に任せます。

自力で集められる範囲には、はっきりした限界があります。2024年3月1日から、本籍地が遠くても最寄りの市区町村の窓口でまとめて戸籍を請求できる「広域交付」が始まりました。ただし、請求できるのは本人と配偶者、父母・祖父母などの直系尊属、子・孫などの直系卑属の戸籍だけです。

法務省のリーフレットも、兄弟・姉妹の戸籍証明書は請求できないと明記しています(法務省民事局「戸籍の証明書の請求が便利になります」)。コンピュータ化されていない古い戸籍も対象外です。

相続が重なった実家で当事者になる人の多くは、叔父、叔母、いとこ、亡くなった叔父の妻など、自分から見て直系でない人たちです。こうした人の戸籍は本籍地の市区町村に個別に請求するか、司法書士に職務上請求で取ってもらうことになります。直系でない相続人の戸籍が3通、4通と要るようになった時点が、自分で集めるのをやめて司法書士に切り替える目安です。

範囲を決めずに取り始めると、同じ戸籍を2通取ったり、取れない戸籍で止まったりします。

出典: 法務省民事局「令和6年3月1日から戸籍の証明書の請求が便利になります」(PDF)

今の相続人の住所は戸籍の附票で最後に確かめる

相続人が確定したら、最後に住所を戸籍の附票で確かめます。

附票には、その戸籍に入っている間の住所の履歴が記録されています。年賀状の住所や親戚の記憶は何年も前のことが多く、転居していれば手紙はそのまま戻ってきます。届かない手紙を出してから調べ直すより、先に附票で確かめるほうが早く済みます。

ただし、他人の附票を取るには制限があります。附票の写しを請求できるのは、その戸籍に記載されている本人と配偶者、直系尊属、直系卑属です。それ以外の人は、自分の権利を行使するために必要であることなど正当な理由を示して申し出る形になり、市町村長が相当と認めたときに交付されます(住民基本台帳法20条1項・3項)。

相続人であることを戸籍で示せば認められることが多いものの、断られることもあります。取れない人の分は、司法書士に職務上請求で取ってもらいます。

住所が分かって初めて、手紙での連絡に進めます。相続人が確定する前に住所を調べると、調べた人が当事者でなかった、ということが起きます。

出典: e-Gov法令検索「住民基本台帳法」第20条 / 埼玉県「相続人の調査方法マニュアル」(PDF)

系統ごとに窓口を立てる方法と、会ったことのない相続人への連絡のコツ

住所まで確かめたら連絡に進みますが、相手もまた「相続人が増えた側」です。

叔父の妻やいとこから見れば、会ったこともない親戚の実家の相続人に、ある日突然なっているわけです。同じ不安を持つ相手に、専門家に頼む前の段階で家族側からできる連絡の形をまとめます。最初の連絡に税や金額の話を入れないことが、全体を通した約束です。

系統ごとに窓口を1人決めるが合意は相続人全員で行う

一覧を系統に分けたのは、連絡の窓口を系統ごとに1人決めるためです。

連絡を窓口同士に絞ると、例の家族なら叔母、父の系統、叔父の系統の3つで、やり取りする相手は3人になります。

自分の系統の窓口は、「実家に一番関わっている人」ではなく「相手から見て正当な立場の人」で選ぶと話が通ります。亡くなった父の配偶者である母、あるいは長子です。子であるあなたが手続きを全部やっていても、相手にとっては「なぜこの人が」という見え方になり、警戒を招きます。

手紙の差出人を母の名前にして、実際の連絡先はあなたにする、という分け方で十分です。子である自分の名前で出した手紙には返事がなく、母の名前で出し直したら返事が来た、という例もあり、内容が同じでも差出人で受け取られ方が変わります。

相手の系統には、手紙の中で「ご家族の代表の方からご返事をいただけますと助かります」と頼みます。相手の系統の中で誰が動くかは、相手に決めてもらいましょう。

ただし、窓口は連絡役であって、決定権はありません。

遺産分割は共同相続人全員の協議で決めるものなので(民法907条1項)、協議書には全員の署名と印鑑証明書が要ります。相手の窓口に「そちらの系統の分はまとめておいてほしい」と頼んでも、法的には1歩も進まないままです。窓口は「話を通す相手」であり「決めてもらう相手」とは別だと覚えておくと、後で揉めずに済みます。

出典: e-Gov法令検索「民法」第907条

最初の手紙は相続関係図と実家の現状だけを伝える

最初の連絡は、電話でも訪問でもなく手紙にします。

相手が自分のペースで読み、家族と相談してから返事ができるからです。

書く内容は、事実だけに絞ります。

  • 誰がいつ亡くなり、戸籍で確かめた結果、相手が相続人に当たること
  • 実家の所在と建物の状態
  • 固定資産税の年額
  • 空き家であるか、誰かが住んでいるか
  • このまま放置したときに起きること(相続登記の期限、固定資産税の負担、空き家の管理責任)
  • 返事の宛先

描いた相続関係図のコピーも同封しましょう。「なぜ自分が相続人なのか」を文章で説明するより、図を見てもらうほうが早く伝わります。

ただし、戸籍の写しや、他の相続人の住所や連絡先は載せずにおきます。相手の個人情報を別の相手に渡すことになるからです。

こちらの希望も、最初の手紙には書かずにおきます。「売りたい」「放棄してほしい」「相続分を譲ってほしい」を入れると、相手は「何かを取られる」と身構えます。希望を伝えるのは、返事が来て状況を共有できた後です。

経験者の声:写真と税額を入れたら相手から手放す話が出た

「実家の外観の写真と固定資産税の年額、空き家になって何年かを手紙に入れました。こちらの希望は何も書かなかったのに、相手の方から『負担があるなら手放す方向で構いません』と返事が来ました。先に状況を見せたのがよかったのだと思います」(空き家になった実家を手放した方)

訪問・内容証明・押印の催促から入らない

最初の連絡で避けたい入り方を、理由とともに挙げます。

  • 事前連絡なしの訪問
  • 内容証明郵便
  • 協議書や印鑑証明書の依頼
  • 相続人本人ではない家族への連絡
  • 不動産会社や役所からの連絡が先に届く状態

訪問は相手に逃げ場がなく、内容証明は「争いの準備」と受け取られます。どちらも、最初の連絡としては相手を身構えさせるだけです。

協議書や印鑑証明書の依頼を最初の手紙に入れると、相手はまだ自分が相続人である理由も分かっていない段階で押印を求められることになります。「内容を理解しないまま判を押させようとしている」と見え、相手が弁護士を立てて話が止まったケースもあります。弁護士が入ること自体は悪いことではなく、ただ、手紙1通で済んだはずの共有に数か月と費用がかかります。

押印を頼むのは、相手が状況を理解し、分け方に納得した後の最後の段階です。

連絡は相続人本人に送ります。相続人の配偶者や親に先に話を通すと、本人が「自分抜きで決められた」と感じてこじれます。一覧に載っている人だけが宛先です。

不動産会社や役所からの連絡が、家族からの手紙より先に相手へ届かないようにしておきましょう。固定資産税の相続人代表者の届出や空き家の相談を役所にすると、役所から他の相続人に通知が行くことがあります。不動産会社に査定を頼めば、会社が相続人に接触することもあります。

家族からの手紙より先にそれらが届くと、相手は「売らされる」「勝手に進められている」と警戒します。

返事の期限は切らず、2〜3週間たっても返事がなければ、同じ内容をもう一度送ります。1通目は見落とされることもあり、2通目で初めて読まれることもよくあります。

返事がない相続人は図と戸籍を持って専門家へ

2通送っても返事がない、あるいは附票をたどっても住所が分からない相続人がいれば、家族側でできることは終わりです。

その時点で、相続関係図と一覧、集めた戸籍を持って、弁護士か司法書士に相談しましょう。

連絡が取れない相続人がいても、実家の整理を進める裁判所の手続きはあります。ただし、どの手続きが使えるかは状況によって変わるので、図と戸籍を見せて専門家に判断してもらうほうが早く進みます。相談先の使い分けは「司法書士へ先に、争いや連絡不能は弁護士へ」の節にまとめます。

相談の順番を左右する期限と、数次相続の当事者だけが使える制度の種類

古い相続が重なった実家で先に押さえる期限は、相続税の申告より、登記の期限と遺産分割の10年の区切りです。

図と一覧ができ、連絡の形も決まったら、残るのは「いつまでに、何を、誰に相談するか」です。相続の期限と聞くと相続税の申告を思い浮かべる方が多いのですが、祖父の代から止まった実家で先に迫るのは登記の期限です。その期限と、相続が重なった当事者だけが使える制度を、相続人側の実益が大きい順に並べます。

古い相続も相続登記の期限は2027年3月31日

相続登記は2024年4月1日から義務になり、それより前に起きた相続にも及びます。

法務省は「令和6年4月1日より前に相続したことを知った不動産も、相続登記がされていないものは、義務化の対象になります」と明記しています(法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」)。

期限は、不動産を相続で取得したと知った日から3年以内です(不動産登記法76条の2第1項)。施行前の相続については、「取得を知った日から3年」と「2027年(令和9年)3月31日」の遅いほうが期限になります。祖父の代から止まっている実家は、ほぼ例外なく2027年3月31日が期限です。

正当な理由なく放置すると、10万円以下の過料の対象になります(不動産登記法164条1項)。ただし、いきなり科される仕組みではなく、登記官が義務違反を把握したらまず登記をするよう催告し、催告書の期限内に登記がされない場合に裁判所へ通知し、裁判所が過料を決める流れです(同Q&A)。

相続人が極めて多数で、戸籍の収集や他の相続人の把握に多くの時間がかかる場合は「正当な理由」の例に挙げられています(同Q&A・Q5)。一方で、何もしていない状態は正当な理由に当たらないと考えられます。

「祖父の相続は20年前だから義務化の対象外」という思い込みは、この点で外れます。古い相続ほど、期限は2027年3月31日に固定されていると考えておきましょう。

出典: 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」 / e-Gov法令検索「不動産登記法」第76条の2・第164条

相続人申告登記は1人で出せて自分の過料だけ先に止められる

協議が2027年3月までにまとまりそうにないとき、使えるのが「相続人申告登記」です。

登記名義人に相続が起きたことと、自分がその相続人であることを法務局に申し出るだけで、相続登記の義務を果たしたものとみなされます(不動産登記法76条の3第1項・2項)。

この制度は1人で単独に申し出られ、他の相続人の合意も協議書も不要です。そして、義務を果たした扱いになるのは申し出た人だけです。

法務省も「相続人申告登記は、申出をした相続人についてのみ、相続登記の義務を履行したものとみなされます」としています(同Q&A)。全員の足並みがそろうのを待たずに、まず自分の過料の心配だけを止められる、ということです。

相続が重なっている場合も使えます。法務省が公開している申出書の記載例には、登記名義人の相続人(第一次相続人)が亡くなり、その相続人(第二次相続人)が申し出る場合の書き方が載っています(法務省「相続人申告登記について」の記載例、数次相続のケース)。図3や図4の立場にいる人、つまり「叔父の相続人として祖父の相続人になった人」も、自分の立場で申し出られます。

限界も知っておきましょう。相続人申告登記は「不動産についての権利関係を公示するものではなく」(同Q&A)、誰が所有者かを示す登記とは別物です。実家を売る、担保に入れるといった場面では使えず、遺産分割がまとまったら、そこから3年以内に別途、分割の内容に応じた相続登記が要ります(不動産登記法76条の3第4項)。

申告登記を済ませて安心していたところ、売却の話が決まった段階で「名義が祖父のままでは売れない」と言われ、相続登記からやり直す例もあります。申告登記は過料を止める手段で、売るための準備ではありません。

出典: e-Gov法令検索「不動産登記法」第76条の3 / 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」 / 法務省「相続人申告登記について」

登録免許税の免税と中間省略で登記は実質1回分

相続が重なった実家の登記は「2回分の費用がかかる」と思われがちですが、多くの場合は実質1回分で済みます。

見積もりに登録免許税が2回分載っていることもあります。理由は2つあり、どちらも自分から確かめないと出てこないことがあります。

1つ目は免税です。相続で土地を取得した人がその登記をしないまま亡くなった場合、その人を名義人にするための登記は登録免許税が免除されます(租税特別措置法84条の2の3第1項)。相続による移転登記の登録免許税は、通常は土地の価額の0.4%です(登録免許税法別表第一)。

条文は「当該個人が当該相続による当該土地の所有権の移転の登記を受ける前に死亡したときは、平成三十年四月一日から令和九年三月三十一日までの間に当該個人を当該土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については、登録免許税を課さない」と定めています。例の家族なら、祖父から父への登記がこれに当たります。

対象は土地に限られ、建物は対象外です。期間は2027年3月31日までで、相続登記の義務の期限と同じ日です。

この免税は、申請書に根拠条文を書いて初めて受けられます。法務局の案内では、申請書に「租税特別措置法第84条の2の2第1項により非課税」と記載するとされています(法務局「相続登記の登録免許税の免税措置について」)。e-Gov法令検索の現行条文では84条の2の3第1項に当たるので、記載する条番号は申請時に法務局か司法書士に確かめてみてください。

見積もりに父名義への登記の登録免許税が載っていたら、「免税の対象ではないか」と自分から聞いてみましょう。

2つ目は中間省略です。中間の取得者が1人に確定している場合、中間の登記を飛ばして、最初の名義人から最終の取得者へ1件で登記できるとされています。

司法書士の解説では、中間の相続人が最初から1人だった場合に加え、相続放棄や遺産分割で結果的に1人になった場合も含まれ、最終の取得者は複数でもよいとされています。中間の取得者が複数のままなら、一次と二次の2件の登記が要るとされます。司法書士の解説に基づく整理なので、確定的な条件は司法書士に確かめてみてください。

この2つを合わせると、土地については、中間省略ができれば中間名義の登記そのものがなく、できなければ中間名義の登記が免税になります。登録免許税は実質1回分になることが多く、「相続が重なったから2倍かかる」は、多くの場合は誤解だといえます。

相続分の譲渡や放棄で中間の取得者を1人にできれば、中間省略の条件にも近づきます。登記の申請方法と費用の全体は「実家の相続登記の進め方」の記事で扱います。

経験者の声:見積もりの登録免許税が2回分だった

「司法書士の見積もりに、祖父から父、父から自分の2回分の登録免許税が載っていました。免税の制度を聞いたら、祖父から父への分は非課税に訂正されました。聞かなければそのまま払っていたと思います」(祖父と父の相続をまとめて登記した方)

出典: e-Gov法令検索「租税特別措置法」第84条の2の3 / 法務局「相続登記の登録免許税の免税措置について」 / e-Gov法令検索「登録免許税法」別表第一

相続開始から10年で寄与分・特別受益の主張ができなくなる

相続が重なった実家で、もう1つ関わってくるのが遺産分割の10年の区切りです。

民法904条の3は「前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない」と定めています。前三条とは、特別受益(生前に家を建ててもらった、まとまった援助を受けたなど)と寄与分(同居して介護した、家業を支えたなど)の規定です。

つまり、相続開始から10年を過ぎた後の遺産分割では、「兄は生前に援助を受けていたから取り分を減らすべきだ」「自分は介護をしたから多くもらうべきだ」という主張を反映させず、法定相続分で分けることになります。例外は、10年を過ぎる前に家庭裁判所へ遺産分割を請求していた場合です(同条ただし書1号)。

この規定は2023年4月1日に施行され、それより前に始まった相続にも適用されます。ただし猶予があり、施行前の相続については「相続開始から10年」と「施行から5年(2028年3月31日まで)」の遅いほうまでが期限です(民法等の一部を改正する法律〔令和3年法律第24号〕附則3条)。祖父の相続が2008年なら、相続開始から10年はとうに過ぎていますが、猶予により2028年3月31日までは主張できます。

なお、相続人全員が合意すれば、10年を過ぎても法定相続分と違う分け方はできます。10年で変わるのは、合意できなかったときに裁判所がどう分けるか、です。

この区切りは、立場によって有利にも不利にも働きます。同居して親を看た兄弟、生前に援助を受けた兄弟がいる家では、言い分を通したい側が2028年3月31日までに協議をまとめるか、家庭裁判所に申し立てる必要があります。逆に、そうした主張をされる側は、この日を過ぎれば法定相続分で分ける前提に立てます。

古い相続ほど早く動く理由は、ここにもあります。

出典: e-Gov法令検索「民法」第904条の3・附則(令和3年法律第24号)第3条

司法書士へ先に、争いや連絡不能は弁護士へ

最初に行くのは司法書士です。

相続関係図と一覧、集められた範囲の戸籍を持って行き、直系でない相続人の戸籍の補完、相続人申告登記、相続登記、免税と中間省略が使えるかの確認を頼みます。期限と制度の話は、すべて司法書士の持ち場です。

弁護士に行くのは、争いの芽があるとき、手紙を2通送っても返事のない相続人がいるとき、10年の区切りに関わる寄与分や特別受益の主張をしたい、あるいはされそうなときです。交渉や裁判所の手続きが絡む場面は、弁護士だけが代理できます。

税理士は、相続税の申告が要るかを確かめたい人だけが行きます。申告の要否は「実家の相続税の申告が必要かの確認」の記事で確かめてみてください。

どの専門家に行くにしても、図と一覧があれば、相続関係の説明は1回で済みます。相談の時間を説明に使うか判断に使うかは、その準備で決まります。

まとめ:相続人が増えた実家は死亡の順序で図を描けば当事者が決まり人数も減らせる

会ったことのない叔父の妻やいとこが当事者になるのは、叔父が祖父より後に亡くなったからで、先に亡くなっていれば配偶者は外れます。誰が当事者かは気持ちではなく死亡の順序で機械的に決まり、相続を1回ずつ分けた図を描いて亡くなった相続人をその人の相続人に置き換えれば、今の話し合い相手と系統の数が決まります。

次の一歩は、実家の登記事項証明書を1通取って名義がどの代で止まっているかを確かめ、亡くなった人全員の死亡年月日を戸籍で確定することです。これを飛ばすと、父の戸籍を集め終えてから名義が祖父だと分かって集め直しになったり、3か月以内に亡くなった再転相続を見落として放棄の組み立てを誤ったりします。

図と一覧ができたら、相続分の譲渡で協議から降りてもらえる人がいないか、2027年3月31日の登記の期限に相続人申告登記で間に合うか、祖父から父への登記が免税の対象に当たるかを確かめてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、相続が重なって相続人が増えた実家の当事者の確かめ方・人数の減らし方・連絡の形・期限と登記の費用も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。