実家を誰が相続するかの決め方|住む人・払う人・名義人を分けると話が進む

親が亡くなった実家を兄弟・姉妹の誰が引き継ぐのか、その話になると誰も手を挙げず、「売ろう」とも言い出せないまま時間だけが過ぎていく家は多くあります。

実家を誰が相続するかは、「実家に住む人」「実家の費用を払う人」「実家の名義を持つ人」の3つに分けて考えると、住みたい人・払える人・持つ人が見えてきて、代償金の額も費用の分担も数字で話せるようになります。

同居している人の立場、代償金の評価額の決め方、介護や援助の反映、取得者で変わる税など、知っていると話し合いが進む事実を、そのまま話し合う順番で判断材料として並べます。

実家を誰が相続するかを決める前に揃える前提

誰が相続するかを決める前に、兄弟・姉妹全員が同じルールと事実を持っておくと、「長男だから」「介護したから」の話に入っても噛み合います。

前提は5つです。住む人・払う人・名義人は別でよいこと、遺言がなければ全員の合意で決められること、相続人・財産・名義の確定、決まるまでの共有のルール、そして期限です。

住む人・費用を払う人・名義人は同じ人でなくてよい

実家を相続する人・住む人・費用を払う人は、別の人が担ってかまいません。

最初につまずくのは、「実家を相続する人=そこに住む人=固定資産税や修繕費を払う人」と一体で考えてしまうことです。この考え方では、相続する人が住まいも費用も全部背負う形になり、誰も手を挙げられなくなります。

逆に、手を挙げた一人に「全部やってもらえるならお願い」と任せきりにすると、後で「こんなに大変だとは思わなかった」と不満が出ます。

3つの役割を分けた組み合わせの例を挙げます。

  • 兄が住み、名義も兄にする。固定資産税は兄弟・姉妹全員で分担する
  • 母が住み続け、名義は子にする。母には「配偶者居住権」(民法1028条)を設定し、終身無償で住める権利を持たせる
  • 誰も住まないので、名義は窓口になる一人に集め、売却した代金は全員で分ける
「相続する人が全部背負う」から抜けると手が挙がる

住む・払う・持つを一人にまとめると、引き受ける人の負担が重すぎて手が挙がらなくなります。「住むのは兄、固定資産税は3人で分担、名義は兄、代償金は査定を基準に計算」のように分けて並べると、それぞれの条件だけを見て判断できます。

分けて考えると、「住みたいが代償金は払えない」「名義は要らないが帰省先は残したい」のような希望も、条件として同じ机に並べられます。

出典: e-Gov法令検索 民法(1028条)

遺言がなければ全員の合意で自由に決められる

遺言がなければ、法定相続分にとらわれず、相続人全員の合意で分け方を自由に決められます。

決め方のルールは、遺言があるかないかで変わります。遺言があれば、遺言の内容が優先です。親は遺言で相続分や分け方を指定できます(民法902条・908条)。

遺言の有無は、次の方法で確認できます。

  • 公正証書遺言は、公証役場の遺言検索で調べる
  • 法務局に預けた自筆証書遺言は、「遺言書保管事実証明書」の交付を請求する(相続開始後に相続人等が請求できます)
  • 自宅で自筆の遺言書を見つけたときは、開封せず家庭裁判所で「検認」を受ける(民法1004条)

遺言がなければ、相続人全員の協議で決めます(民法907条1項)。ここで知っておきたいのは、法定相続分(民法900条。子だけが相続人なら全員同じ割合)は「合意できないときの目安」で、強制ではないことです。

全員が合意すれば、「兄が実家を取り、代わりに弟と妹に代償金を払う」「実家は妹、預貯金は兄と弟」のように自由に組めます。

話し合いの前に全員で確認しておきたい事実が3つあります。

  1. 「長男が継ぐ」という決まりは今の法律になく、長男が家を継ぐ「家督相続」は1947年(昭和22年)の民法改正で廃止され、子は性別や生まれた順に関係なく同じ相続分になる
  2. 親の「この家は長男にやる」という口約束や手紙は、法律の方式(民法960条)を満たしていなければ遺言ではなく法的な効力を持たず、「親の意向」として話し合いの材料になるにとどまる
  3. 「介護したから多くもらうべき」「長男だから当然」「出ていった弟に権利はない」は、いずれも法律上そのままでは相続分を動かす理由にはならず、合意で調整する対象になる

3つめは冷たく聞こえるかもしれませんが、そのために「法律で争う」ではなく「合意で調整する」話になります。介護や援助の扱いは、代償金の章で額の調整材料として扱います。

一方で、法律は実態も考慮します。遺産分割は「各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情」を考慮して行うと定められています(民法906条)。実家に住んでいるという実態は、法律上も考慮される事情です。

口約束は、双方の記憶が食い違うのが普通です。「父が生前に『家は長男に』と何度も言っていたので兄は約束だと受け取っていたが、妹は『そんな話は聞いていない』と言い、そこから話が進まなくなった」という声は多く聞かれます。

遺言がない以上、親の言葉は「材料」として全員で共有し、決めるのは全員の合意だと最初に確認しておくと、この種の対立を避けられます。

出典: e-Gov法令検索 民法(900条・902条・906条・907条・908条・960条・1004条)、法務省 自筆証書遺言書保管制度 相続人等の手続

相続人・財産全体・名義を先に確定する

相続人の範囲・実家以外の財産・実家の名義の3つを確定してから話し合うと、後のやり直しを防げます。

1つめは、相続人の範囲です。母が存命か、兄弟・姉妹は何人か、先に亡くなった兄弟・姉妹がいればその子(代襲相続人・民法887条2項)、前婚の子や認知した子はいないか。相続人が一人でも欠けた協議は無効です。

疎遠や音信不通の兄弟・姉妹がいると協議自体を始められず、所在が分からない場合は家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる(民法25条)などの手続きが必要になります。

2つめは、実家以外の財産です。預貯金・保険・株、そして借入です。実家以外の財産が少ないほど、実家を取る人と取らない人の差が埋まらず、揉めやすくなります。

逆に預貯金が十分あれば、「実家は兄、預貯金は弟と妹」で代償金なしに収まることもあります。「協議が終わりかけたところで父の別の口座が見つかり、代償金を計算し直して最初からやり直した」という例もあるので、財産は最初に全部出しそろえておきましょう。

3つめは、実家の名義です。登記事項証明書(法務局で誰でも取れます)で、父の単独名義か、父母の共有名義か、祖父の名義のままか、抵当権が残っていないかを確認します。

父母の共有名義なら、今回の遺産分割の対象は父の持分だけです。祖父名義のままなら祖父の相続人全員が関わる話になり、兄弟・姉妹だけでは決められなくなります。

母が存命(一次相続)なら、まず母の住まいをどうするかを前提に考えます。子だけで「実家は兄に」と決めたら、母が「この家で暮らし続けるつもりだった」と言って話が止まった例もあります。母の意向は最初に聞いておきましょう。

出典: e-Gov法令検索 民法(25条・887条)

決まるまで実家は兄弟・姉妹全員の共有になる

遺産分割が終わるまで実家は相続人全員の共有で、一人でできることと全員の同意が要ることが法律で決まっています。

根拠は民法898条です(2023年4月1日の改正で、その持分は法定相続分と明文化されました)。この区分を知っておくと、無用な衝突を避けられます。

行為必要な同意根拠
修繕・草刈り・雨漏りの応急処置(保存行為)一人でできる民法252条5項
短期の賃貸など(管理行為)持分の過半数民法252条1項
売却・大規模な改築(変更行為)全員の同意民法251条1項

「兄が勝手に住んでいる」「弟が勝手に売ろうとしている」という争いの多くは、このルールを知らないために起きています。兄が住むのは直ちに違法とはいえず(住む人の章で詳しく扱います)、弟が一人で売ることはできない仕組みです。全員の同意がなければ売れないので、「勝手に売られる」心配は無用です。

もう一つ大事なのは、名義が親のままの実家は、売れない・貸せない・担保にできないことです。決まらない期間は何もできない期間で、兄弟・姉妹の誰にとっても得のない状態です。住んでいる人に家賃を請求できるかは、住む人の章で扱います。

出典: e-Gov法令検索 民法(251条・252条・898条)、法務省 不動産を相続した方へ ~相続登記・遺産分割を進めましょう~

期限は相続登記の3年と寄与分・特別受益の10年

話し合いそのものに期限はなく、関係する法律上の期限は相続登記の3年と寄与分・特別受益の10年です。

1つめは相続登記です。相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記を申請する義務があり(不動産登記法76条の2、2024年4月1日施行)、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です(同法164条1項)。2024年4月1日より前の相続も対象で、その場合は2027年3月31日が期限です(法務省)。

2つめは寄与分と特別受益です。「介護した分を多く」「生前にもらった住宅資金を差し引く」といった主張を反映した分割は、相続開始から10年を過ぎるとできなくなります(民法904条の3、2023年4月1日施行。施行前の相続にも適用され、経過措置があります)。10年を過ぎると、法定相続分で分けるのが原則になります。

3年の期限に追われて名義を引き受ける必要はない

相続登記の3年の義務は、「相続人申告登記」(不動産登記法76条の3)で果たせます。相続人の一人が単独で法務局に申し出ることができ、登録免許税もかからない手続きです(法務省)。遺産分割が決まっていなくても、申出をした人は義務を履行したことになります。ただし相続人申告登記は名義変更ではないので、売る・貸す・担保にするには遺産分割後に本来の相続登記が必要です。

「3年以内に登記しないと罰金と聞いて焦り、本当は売りたかったのに『とりあえず名義は兄で』と不利な条件で引き受けてしまった」という声もあります。期限が迫っているなら、相続人申告登記で義務だけ果たし、中身の話し合いは落ち着いて進めましょう。

補足として、相続税がかかる見込みの家庭だけに関係する期限があります。相続税の申告は相続開始を知った日の翌日から10か月以内(相続税法27条)で、申告時点で未分割だと小規模宅地等の特例は使えない扱いです。

ただし「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えて申告し、3年以内に分割すれば、後から特例を適用して還付を受けられます(国税庁 No.4208)。相続税がかからない家庭は、この期限を気にせず進められます。

出典: e-Gov法令検索 不動産登記法(76条の2・76条の3・164条)、法務省 相続登記の申請義務化について、法務省 相続人申告登記について、e-Gov法令検索 民法(904条の3)、e-Gov法令検索 相続税法(27条)、国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告

実家に住む人の決め方

実家に住む人は、「権利」ではなく「希望と条件」で決めます。

「長男だから住む権利がある」「介護したから住んでいい」ではなく、「住みたいか」「住む条件を引き受けられるか」で決めるということです。費用の分担は費用の章で、代償金の額と名義人は代償金の章で扱い、ここでは誰が住むかだけを決めます。

状況は3つに分かれます。すでに住んでいる兄弟・姉妹がいる、住みたい人がいる、誰も住まない、の3つです。

母が存命なら、まず母の住まいを決めてからです。母には相続開始から最低6か月は無償で住み続けられる権利があり(配偶者短期居住権・民法1037条)、終身住める配偶者居住権(民法1028条)も設定できます。

すでに住んでいる兄弟・姉妹は遺産分割まで無償で住み続けられる

親と同居していた兄弟・姉妹は、特段の事情がなければ、遺産分割が終わるまで無償で住み続けられます。

最高裁は、相続人の一人が相続開始前から親の許諾を得て同居していた場合、相続開始時から遺産分割時までを期間とする使用貸借(無償で借りる契約)が成立していたと推認されると判断しました(最高裁平成8年12月17日判決・民集50巻10号2778頁)。他の相続人は、この期間の家賃相当額を原則として請求できない立場です。

また、共有者の一人が共有物の全部を使っていても、他の共有者が当然に明け渡しを請求できるわけではなく、明け渡しを求める理由を主張・立証する必要があります(最高裁昭和41年5月19日判決・民集20巻5号947頁)。

これを両方の立場から言い直します。住んでいる人は、「出ていけ」「家賃を払え」と言われても法律がそのまま認めているわけではないので、落ち着いて話し合いに臨めます。

住んでいない人にとっては、「出ていけ・家賃を払え」は通りにくい要求です。そのため、交渉の中心をそこに置かず、代償金の額と費用の分担に移すほうが、結果として自分の取り分を確保できます。

注意が1つあります。同居していなかった相続人が、親が亡くなった後に実家に入り込んだ場合は、この推認の対象外です。この場合は、持分を超えて使っている分の対価を他の相続人から求められることがあります(民法249条2項、2023年4月1日の改正で明文化)。「空いているから住んでしまおう」は、後で請求の対象になり得ます。

「同居していた兄に『出ていってほしい、嫌なら家賃を払って』と言ったら、兄が弁護士に相談して『払う義務はない』と返され、そこから一切話ができなくなった」という例があります。最初の一手で法律上通らない要求をすると、相手の態度が固まり、本来取れたはずの代償金の話まで止まります。住んでいる人が払う費用については、費用の章で整理します。

出典: e-Gov法令検索 民法(249条2項)

住みたい人は代償金・維持費・期間の条件とセットで決める

住みたい人がいるなら、「住みたいか」ではなく「4つの条件を引き受けられるか」を全員に同じ質問で聞くと決まりやすくなります。

住みたい人がいる場合、その人が実家を取得し、他の相続人に代償金を払う形が入口になります(分割方法の比較は別の記事で扱います)。

全員に同じ形で聞く条件は、次の4つです。

  1. 代償金を払えるか(額の決め方は代償金の章)
  2. 維持費(固定資産税・修繕・保険)を持てるか(費用の章)
  3. いつまで住むか(終身か、子が独立するまでか、数年後に売却か)
  4. 他の兄弟・姉妹が帰省で使う余地を残すか

条件を先に出すと、手を挙げる人は「引き受ける中身」が分かるので挙げやすくなり、他の兄弟・姉妹も「条件を引き受けるなら」と認めやすくなります。条件なしに「住みたい」と言うと、他の兄弟・姉妹には「タダで家を取るつもりか」と聞こえてしまいます。

住みたい人が複数いるときは話し合いで決めるのが基本ですが、調停・審判になれば、現に住んでいる実態や生活の状況(民法906条)が重く見られます。

もう一つ、「とりあえず住む」は固定化しやすい点に注意しておきましょう。「数年住んで様子を見る」と始めると、そのまま10年経ち、売るタイミングも代償金の話も消えてしまいます。

期限と、期限が来たときの扱い(査定を取り直して取得か売却を決める)を先に決めておくと、固定化を防げます。住む人が日常の修繕を担うという管理責任も、条件に入れておくと後の行き違いが減ります。

実際の声を3つ挙げます。

  • 「弟が住みたいと手を挙げたが、代償金の話になると払えないと分かり、1年遠回りしてから結局売却になった」
  • 「兄が帰省用に残すと言っていた部屋を自分の荷物で埋めてしまい、妹たちの反発を招いた」
  • 「『下の子が高校を卒業するまで』と期限を決めて姉が住むことにした家族は、他の兄弟・姉妹も納得が早かった」

条件を先に出した家族ほど、合意が早いのが実際です。

出典: e-Gov法令検索 民法(906条)

名義を持たずに住む選択肢もある

住みたいけれど代償金を払えない人には、「名義は別の兄弟・姉妹が持ち、住む人はその人から借りる」形があります。

住む=名義を取る、と決まっているわけではなく、「住む人・払う人・名義人は別でよい」の応用です。

借り方は2つあります。無償で借りる使用貸借(民法593条)と、低額の家賃を払う賃貸借(民法601条)です。使用貸借なら住む人の負担は軽く、賃貸借なら名義人に家賃が入るので他の兄弟・姉妹が納得しやすくなります。

名義を持つ兄弟・姉妹の利点は、売却の判断を自分が持てることです。住む人の事情が変わったときや、将来まとまったお金が必要になったときに、自分の判断で売却に動けます。

住む人の利点は、代償金を払わずに住めることです。まとまった資金がなくても、実家で暮らし続ける道が残ります。

固定資産税を誰が持つかは費用の章で整理します。なお、名義を複数の兄弟・姉妹で持つ共有名義は別の記事の主題なので、ここでは触れずにおきます。

出典: e-Gov法令検索 民法(593条・601条)

誰も住まないなら管理する人と売却の窓口を決める

誰も住まない実家は、「誰が住むか」ではなく「誰が管理し、誰が売却の窓口になるか」を決めると動き出します。

誰も住む予定がないのに、「売るのは忍びない」「親の思い出がある」で止まる。この状態がいちばん長引きます。誰も住まない実家は、放っておくほど傷み、費用だけがかかります。

管理する人は、実家に近い人・時間が取れる人から一人に決めておきましょう。売却の窓口も一人に絞ると、査定の依頼も内見の調整も進みます。不動産会社とのやり取りを全員でやろうとすると、連絡が錯綜して止まります。

管理と窓口を引き受ける人の労務は、費用として数えます(費用の章の最後で扱います)。

「週末だけ使いたい」「一部を貸したい」という中間の使い方も、結局は「誰が管理するか」の問題です。使う人が管理するのか、別に管理者を置くのかを決めれば整理できます。

一つ知っておきたいのは、相続後に誰かが住むと使えなくなる売却時の税の控除があることです(代償金の章の最後で扱います)。誰も住まないなら、空き家のまま早めに売ったほうが税の面で有利になる場合があります。

「3人とも住む気はなかったのに、誰も『売ろう』と言い出せず、5年間空き家にした。その間の固定資産税と草刈りの費用で、売ったときの手取りが減った」という声があります。「売ろう」とは言い出しにくい場面でも、「管理する人と窓口を決めよう」なら切り出せます。

実家の費用を払う人の決め方

実家の費用の分担は、名義から切り離して先に決めます。

「名義人が全部払うのが当然」と決めつけると、誰も名義を引き受けなくなるからです。

実家にかかる費用は、固定資産税・都市計画税、火災保険、水道・電気の基本料、草刈り・庭木の手入れ、修繕、通いの交通費などです。「誰が払うか」の原則は、親名義のうち、相続開始から決まるまで、名義が決まった後、の3つの時期で変わります。

親名義のうちは親が払うのが原則

親が存命で実家が親名義のうちは、固定資産税を払う義務は登記上の所有者である親にあります(地方税法343条1項・2項)。

子に支払義務はなく、親の年金や預金から払えるなら、まずそれを確認しておきましょう。子が「親孝行だから」と払い続け、後で「あれは自分の負担だった」と相続時に持ち出すと、話がこじれます。

親名義の実家に無償で住んでいる子が固定資産税を払っている場合はどうでしょうか。これは、使用貸借(無償で借りる関係)の借主が負担する「通常の必要費」(民法595条1項)に当たるのが一般的です。

つまり法的にも自然な負担で、親の生活費の範囲なら贈与税の問題にもなりにくい支出です(扶養義務者間の生活費は贈与税の対象外・相続税法21条の3第1項2号)。

ただし、一つ押さえておきたいことがあります。住んでいる子がこれまで固定資産税を払ってきたことは、住む対価の範囲なので、相続のときに「家への貢献」として代償金の減額理由にはなりにくいという点です。この点は代償金の章で詳しく扱います。

出典: e-Gov法令検索 地方税法(343条)、e-Gov法令検索 民法(595条)、e-Gov法令検索 相続税法(21条の3)

決まるまでの固定資産税と維持費は法定相続分で負担する

遺産分割が決まるまでの実家の費用は、各相続人が法定相続分に応じて負担するのが原則です。

親が亡くなり、遺産分割が決まるまでの実家は全員の共有です。共有物の管理費用は各共有者が持分に応じて負担し(民法253条1項)、持分は法定相続分なので、兄弟・姉妹3人なら3分の1ずつになります。

固定資産税も同じです。親が納めるべきだった税金は相続人が承継し、相続人が複数いれば法定相続分で按分して納める義務があります(地方税法9条1項・2項)。「誰が払う」を決めていなくても、法律上は全員に分かれて義務がかかっています。

自治体には「相続人代表者指定届」を出せます(地方税法9条の2)。これを出すと、納税通知書の宛先を相続人の一人に決められます。

ただし、宛先を決めただけで「その人が全額払う」合意ができたことにはならないので、分担は別に決めておきましょう。届を出した人が、気づけば一人で全額払い続けていた、という例もあります。

「父の死後、誰も固定資産税を払わず滞納になり、督促状が長男の家に届いてから慌てて3人で分担を決めた。督促が来るまで、全員が『誰かが払っているだろう』と思っていた」という声があります。相続開始後の最初の納期までに分担を決めておくと、滞納も「誰かが払っているだろう」のすれ違いも防げます。

出典: e-Gov法令検索 民法(253条)、e-Gov法令検索 地方税法(9条・9条の2)

住んでいる人が持つ費用と全員で持つ費用を切り分ける

住んでいる兄弟・姉妹がいる場合、費用を「住む対価として住む人が持つ費用」と「資産価値を保つために全員が持つ費用」に切り分けると納得が得やすくなります。

費用の種類誰が持つのが自然か例
住む対価として住む人が持つ費用住んでいる人固定資産税、光熱費、日常の小修繕(蛇口・網戸など)
資産価値を保つために全員が持つ費用全員(持分で分担)屋根・外壁・給湯器などの大きな修繕、火災保険

法律上のルールも添えておきます。修繕は保存行為として一人でできます(民法252条5項)が、その費用は持分で負担します(民法253条1項)。大規模な改築は変更行為なので、全員の同意が必要です(民法251条1項)。

これを知っていると、「勝手に直したから払わない」が通る範囲と通らない範囲が分かります。雨漏りの修理を住んでいる人が一人で発注しても、それは保存行為なので費用は全員で持つのが原則です。一方、キッチンを全面リフォームするなら全員の同意が要り、同意なしにやれば他の兄弟・姉妹に費用を持つ義務は生じない仕組みです。

名義が決まった後に、住む人と名義人が別の兄弟・姉妹になる場合(住む人の章で触れた「名義を持たずに住む」形)も、同じ切り分けです。使用貸借なら、借主である住む人が固定資産税相当を持つのが自然です(民法595条1項)。

双方の立場を整理します。住んでいる兄が「固定資産税を払ってきたのは貢献だ」と主張しても、それは住む対価の範囲なので、代償金の減額理由にはなりにくいといえます。逆に、住んでいない弟が固定資産税を払っていたなら、それは兄に求償できる対象です。どちらの立場にも、知っておくと交渉の見通しが立つ事実です。

「住んでいる兄が屋根の修繕を勝手に発注して、後で『3分の1ずつ払え』と言われて揉めた」「兄が『20年固定資産税を払ってきたから代償金を減らせ』と主張し、妹が『住んでいたんだから当然でしょう』と返して紛糾した」という声を聞きます。どちらも、費用の種類と性質を事前に切り分けておけば避けられた対立です。

出典: e-Gov法令検索 民法(251条・252条・253条・595条)

一人が立て替えた費用は記録して遺産分割協議書で精算する

一人が実家の費用を立て替えたら、記録を残しておき、遺産分割協議書の清算条項で代償金とまとめて精算すると一度に片付きます。

立て替えた費用は、他の共有者に持分に応じて求償できます(民法253条1項)。この求償は遺産分割そのものの対象から外れますが、全員が合意すれば、遺産分割協議書に清算条項として書き込めます。「立替金○円を代償金から控除する」の形です。

問題は、立て替えた事実を証明できるかです。記録の残し方を3つ挙げます。

  • 立て替える前に、LINEやメールで「固定資産税○円はいったん自分が払います」と全員に送り、了解をもらう
  • 領収書・振込記録を保管する
  • 誰に頼まれて払ったかを残す(「兄から頼まれて」など)
経験者の声:頼まれていない立て替えは請求が通らない

「父の死後10年、長男として固定資産税をずっと払ってきました。遺産分割のときに全額を請求したら、弟から『頼んでいない。勝手に払ったのは兄さんの判断でしょう』と言われました。領収書はあっても、頼まれた記録も了解を取った記録もなく、半分あきらめる形で合意しました」(父の実家の遺産分割を10年越しで終えた方)

法律上は求償できる権利があっても、記録がなければ主張が通りにくくなります。払う前の一言が、後の数十万円を守ります。協議書に書く項目は、話し合いの進め方の章で整理します。

出典: e-Gov法令検索 民法(253条)

誰も住まない実家の管理の手間も費用に数える

誰も住まない実家には見える費用と見えない費用がかかり、どちらも分担の対象に数えます。

桁感としては、地域と規模によりますが、年10万円から数十万円が目安です。

見える費用の中身を押さえておきます。固定資産税・都市計画税は、住宅が建っている土地なら「住宅用地の特例」で課税標準が6分の1または3分の1に軽減されています(地方税法349条の3の2)。

ただし、放置して「管理不全空家等」や「特定空家等」として自治体から勧告を受けると、この軽減が外れて土地の税額が跳ね上がります(同条・空家等対策特別措置法13条2項・22条2項)。

火災保険は、空き家になると住宅用の保険に入れず、割高な保険になるか、引受を断られる例があります。空き家管理サービスを使うなら月5,000円から10,000円程度が相場の目安で、遠方なら通いの交通費と比べて選びます。

見えない費用もあります。通いの交通費、草刈り・換気・郵便物処理の労務、近隣からの苦情への対応です。これらは金額に換算して分担するか、担っている人に代償金の調整で配慮するか、どちらかを決めておきましょう(調整は代償金の章で扱います)。「近いから」「時間があるから」と一人に任せたまま何も配慮しないと、その人が疲弊して話し合い自体が壊れます。

費用の分担表を1枚作ることをおすすめします。縦に費用項目(固定資産税・保険・草刈り・交通費・労務…)、横に時期(決まるまで/決まった後)を並べ、各欄に誰が払うかを書きます。この1枚が、話し合いの進め方の章で紙に残す材料になります。

「遠方に住む妹が毎月実家に通って草刈りと換気をしていたが、交通費も労務も誰も認めてくれず、2年で疲れ切って『もう売ってほしい』と言い出した」「空き家にしたことを保険会社に伝えたら、火災保険の更新を断られた」という声があります。管理の手間を最初から費用として数えておくと、担う人の不満がたまる前に調整できます。

出典: e-Gov法令検索 地方税法(349条の3の2)、e-Gov法令検索 空家等対策の推進に関する特別措置法(13条・22条)

実家を相続する人と代償金を決める判断材料

代償金の額は法定相続分どおりでなくてよく、全員の合意で決まります(民法907条1項)。

「3人兄弟・姉妹だから評価額の3分の1ずつ」は出発点であって、答えではないということです。前提として、住みたい人がいれば取得者が他の相続人に代償金を払い、誰も住まなければ売却して代金を分ける、という形を置きます(分割方法の比較は別の記事で扱います)。

「誰が名義を持ち、いくら払うか」を決める材料は、評価額の基準、査定の取り方、払える人と払い方、介護・援助の反映、取得者で変わる税の5つです。

代償金の評価額は売却後の手取りを基準にする

代償金を計算する実家の評価額は、「売却後の手取り」を全員共通の基準にすると対立が解けます。

実家の評価額に法律上の基準はなく、相続人の合意で決めます。合意できず調停・審判になれば、時価(実勢価格)が基準です。

評価額の候補は3つあります。固定資産税評価額は公示価格の7割程度、相続税の路線価は8割程度が目安で、いずれも実勢価格とは差があります。

ここで対立の構造が生まれます。実家を取得する人は代償金を安くしたいので低い評価額(固定資産税評価額)を主張し、受け取る人は高い評価額(実勢価格)を主張します。どちらが正しいかで争っても終わらない対立です。

代償金の基準は「売ったら結局いくら残るか」

手取り = 査定額 − 仲介手数料 − 譲渡所得税 − 解体費・測量費・残置物処分費 − 登記費用この額を法定相続分で割った金額が、「売っても結局これだけしか受け取れない」という全員共通の数字になります。受け取る人は「売ったときの手取りと同じ」なら納得しやすく、取得する人は査定額そのままより低い額で済みます。

差し引く項目の根拠を押さえておきます。仲介手数料は、売買価格が400万円を超える場合「売買価格の3%+6万円+消費税」が上限です(宅地建物取引業法46条・国土交通省の報酬告示)。

譲渡所得税は、親が買ったときの契約書が残っていないと取得費が分からず、売却価格の5%を取得費とみなす「概算取得費」(国税庁 No.3258)で計算することになり、税額が重くなります。たとえば2,000万円で売れて取得費が分からなければ、取得費は100万円とされ、差額の大部分が課税対象です。

相続した不動産は親の所有期間を引き継ぐので(国税庁 No.3270)、多くは長期譲渡所得として所得税15%・住民税5%(ほかに復興特別所得税)がかかります(国税庁 No.3208)。

取得する人が知っておきたいのは、取得者が後で売ると譲渡所得税は取得者だけが負う点です。代償金を査定額ベースで払い、数年後に売ったら譲渡所得税を一人で払う。これでは取得者が二重に損をします。そのため、代償金から譲渡所得税の見込み額を差し引くのは、受け取る人に対しても説明できる正当な理由です。

評価額3パターン(固定資産税評価額・路線価・実勢)それぞれについて、法定相続分で割った代償金を並べて1枚にしてみてください。差がどれだけあるかを全員が見ると、「手取り基準で」という提案が受け入れやすくなります。

売れにくい実家にも触れておきます。解体費が土地価格を上回る、再建築不可、買い手がいない。こうした実家は手取りがマイナスになり得ます。

この場合、「取得して引き受ける人に、他の兄弟・姉妹が費用を払う」という逆の発想も、合意があれば可能です。実家は資産ではなく負担だ、という共通認識を先に持っておくと話が進みます。残置物や仏壇の処分の費用と労務も、手取りの計算に織り込みます。

「姉は固定資産税評価額、弟は不動産会社の査定額を主張して1年揉めた。手取りで計算し直したら、どちらの主張とも違う数字になり、そこで初めて折り合えた」「実家を取得して兄が代償金を払い、3年後に売ったら譲渡所得税で思ったより残らず、代償金を払いすぎたと感じた」という声を聞きます。

出典: e-Gov法令検索 宅地建物取引業法(46条)、国税庁 No.3258 取得費が分からないとき、国税庁 No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期、国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算

査定は複数取り合意できなければ鑑定を使う

査定は3社程度から直接取り、それでも合意できなければ不動産鑑定士の鑑定を全員で分担して使います。

査定は、売る意思がなくても無料で取れます。3社程度の不動産会社に直接依頼し、中央値か平均を使うのが穏当です。一括査定サイトは便利ですが、複数社から一斉に電話が来るので、各社に直接依頼する方が落ち着いて進められます。

査定額の読み方に注意があります。査定額は「この金額で売り出しましょう」という提案で、実際の成約価格はそれより下がることが多いです。査定書に成約想定価格が書かれていれば、そちらを見ておきましょう。

周辺の成約事例は、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」(取引価格情報を誰でも検索できます)や、不動産流通機構の「レインズ・マーケット・インフォメーション」で裏を取れます。

固定資産税の納税通知書に書かれた評価額は、手元ですぐ分かる桁感の材料になります。ただし建物の評価額は時価とずれが大きく、古い家でも評価額が残っている一方、売却時には建物の値段がつかないことがよくあります。

査定を見ても合意できなければ、不動産鑑定士の鑑定を使います。費用は20万円から30万円程度が目安で、兄弟・姉妹全員で分担すれば中立な数字として受け入れやすくなります。調停でも、評価で争いになれば鑑定が使われます。

いずれにしても、全員が同じ査定書を見ることが前提です。一人だけが査定を取って口頭で伝えると、「本当はもっと高いはず」という疑いが残ります。査定書はコピーして全員に渡しておきましょう。

出典: 国土交通省 不動産情報ライブラリ

代償金を払える人と払い方を確かめ協議書に明記する

代償金は、払える人が取得者になることを確かめ、額・期限・払い方を遺産分割協議書に明記します。

代償分割は、取得者に代償金を払う能力があることが前提です。審判でも、特別の事情があると認められる場合に代償分割が選ばれます(家事事件手続法195条)が、支払能力が認められなければ換価(売却)に切り替わり得ます。

ここで「住みたいから取得する」と「払えるから取得する」を分けて考えてみてください。住みたいけれど払えないなら、取得者を変える方法(払える人が取得し、住む人はその人から借りる)と、売却に切り替える方法があります。払えない人が取得すると、代償金の支払いが滞り、兄弟・姉妹の関係が壊れます。

払い方の選択肢は4つあります。

  1. 一括で払う
  2. 分割で払う(協議書に期限・回数・遅れたときの扱いを書く)
  3. 他の財産と組み合わせる(預貯金や保険金を代償金の代わりに受け取る)
  4. 金融機関の融資を使う(代償金を目的にした融資は取り扱いが限られます)
協議書に「代償分割」と書かないと贈与税のおそれがある

代償金を払っても、遺産分割協議書に「代償分割である」ことと額・期限が明記されていないと、兄弟・姉妹間の贈与と扱われて贈与税の対象になるおそれがあります。相続税の計算では、代償金を払った人は取得財産から代償金を引き、受け取った人は加えて課税価格を計算します(国税庁 No.4173、相続税法基本通達11の2-9・11の2-10)。この扱いを受けるためにも、協議書への明記が前提になります。

「代償金を口約束で払い、協議書には『実家は兄が取得』としか書かなかったため、後で贈与税の指摘を受けた」「分割払いにしたが、協議書に期限も遅延時の扱いも書いておらず、2年目に止まったときに何も言えなかった」という声があります。

出典: e-Gov法令検索 家事事件手続法(195条)、国税庁 No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算、国税庁 相続税法基本通達 第11条の2(11の2-9・11の2-10)

介護・同居・生前の援助は代償金の額で調整する

介護や生前の援助は、法律で争うより、合意で代償金の額に反映するほうが全員にとって得な進め方です。

「法律上はそのままでは相続分を動かさない」とした感情の論点を、ここで数字に変えます。

まず法律の現実です。寄与分(民法904条の2)は「特別の寄与」が必要で、親子の扶養義務の範囲とされる介護は認められにくいのが実際です。特別受益(民法903条)は生前贈与や遺贈が対象で、親と同居していたことによる家賃相当額は特別受益に当たらないとされています。一方、一人だけが受けた住宅資金の援助などは特別受益になり得ます。

これらを法的に争うと、時間がかかり、認められる額も小さいことが多いです。そのため「合意で代償金の額に反映する」のが、全員にとって得な進め方になります。例を3つ挙げます。

  • 介護した人が実家を取得するなら、代償金を法定分の7割から8割にする
  • 住宅資金の援助を受けた人の取り分から、その額を差し引く
  • 遠方から通って管理した人の労務を、取り分に加算する(費用の章の最後で数えた費用)

この調整は「法律上の権利」ではなく「兄弟・姉妹の合意」です。金額に正解はなく、全員が「それなら納得できる」と言える額を探します。

介護した人は「全部もらう」ではなく「少し多く」で、介護しなかった人は「法律上は平等」ではなく「少し譲る」で、歩み寄れる余地が生まれます。

なお、寄与分や特別受益を法的に主張するなら、相続開始から10年という期限があります(民法904条の3)。

「介護した姉は『多くもらうべき』、弟は『法律上は同じ』で決裂していたが、専門家から『寄与分は認められにくいが合意で調整はできる』と聞いて、代償金を少し減らす形で合意できた」という声を聞きます。法律の現実を全員が知ったとき、初めて歩み寄りが始まります。

出典: e-Gov法令検索 民法(903条・904条の2・904条の3)

取得者で変わる相続税の特例と売却時の税負担

誰が取得するかで税が変わるので、名義人を決める前に試算しておくと納税額の差を避けられます。

要件の細かい解説は省き、押さえておきたい点を3つに絞ります。

1つめは、相続税がかかる見込みの家庭に関係します。相続税は、財産の合計が基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人の数」(国税庁 No.4152)を超える場合にかかります。

この場合、小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4、国税庁 No.4124)で納税額が大きく変わります。親と同居していた子、または一定の要件を満たす持ち家のない子(いわゆる「家なき子」)が実家の土地を取得して申告期限まで持ち続けると、330㎡まで土地の評価額を80%減らせます。

別居で自宅を持っている子が取得すると、この特例は使えない扱いです。誰が取得するかで、納税額が数百万円単位で変わることがあります。

2つめは、相続後に誰も住まず、取得者が売る場合です。空き家の3,000万円特別控除(租税特別措置法35条3項、国税庁 No.3306)が使える可能性があります。

1981年5月31日以前に建てられた家であること、相続から売却まで誰も住まず貸さずにいることなど要件があり、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る必要があります。2024年1月1日以降の売却では、取得した相続人が3人以上だと一人あたり2,000万円になります。つまり取得者の人数で控除の総額が変わります(複数で取得する形は別の記事の主題なので、人数の論点だけ触れます)。

相続後に誰かが住むとこの控除は使えなくなる点は、住む人の章で触れたとおりです。

3つめは、取得者が後で売ると譲渡所得税は取得者だけが負うことです。売却して分けるなら、各自が自分の取り分に応じて負います。この違いは代償金の額に織り込みます(手取り基準の見出しで扱いました)。

相続税がかからない家庭は、3つめだけ見ておけば十分です。1つめと2つめは、相続税がかかる見込みの家庭と、空き家を売る予定の家庭が、決める前に税理士に試算を頼む材料です。

「別居で持ち家のある弟が実家を取得したため小規模宅地等の特例が使えず、同居していた兄が取得していれば数百万円違ったと後から税理士に言われた」という声を聞きます。名義人を決める前に、税の試算を一度挟んでおきましょう。

出典: 国税庁 No.4152 相続税の計算、国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)、国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例、e-Gov法令検索 租税特別措置法(35条・69条の4)

兄弟・姉妹で決まらないときの話し合いの進め方

兄弟・姉妹で決まらないときは、中身より運び方を変えると動きます。

運び方は、順番・場・記録・区切り・第三者の5つです。ここまでの前提・住む人・費用・代償金の並びが、そのまま話し合いの順番になります。

事実を揃えてから住む希望・代償金・費用の順に話す

「誰が相続するか」から話し始めると感情で止まるので、事実の共有から始める順番に変えます。

  1. 事実の共有(遺言の有無・相続人の範囲・財産全体・名義)
  2. 住みたい人と、その条件
  3. 売却後の手取りと査定
  4. 払える代償金と、介護・援助の調整
  5. 決まるまでの費用分担
  6. 名義人

名義人は最後に自然に決まります。住む人が決まり、代償金が決まり、費用の分担が決まれば、「では名義は○○で」はほとんど議論にならないでしょう。

もう一つのコツは、「事実をそろえる会」と「決める会」を分けることです。1回目は何も決めず、登記事項証明書・納税通知書・財産の一覧・査定書・費用の一覧を配って、全員が同じものを持ち帰る。それだけで終わります。「今日は決めない」と最初に宣言すると、全員が構えずに資料を見られます。

スケジュールの例を1つ置きます。1か月目に事実と資料の共有、2か月目に住む希望と費用分担、3か月目に代償金と名義人を決めて協議書へ。3か月で終わらなくても、この順番を守るだけで堂々巡りは避けられます。

「お盆に全員が集まった席で兄が突然『実家は俺が継ぐから』と切り出し、その場で決裂した。資料も何もなく、感情だけがぶつかった」という声を聞きます。集まる機会に話すなら、事前に「今回は資料を見るだけ」と伝えておくと、同じ決裂を防げます。

相続人だけで集まり中立の進行役を決める

話し合いの当事者を相続人に絞り、取り分と切り離して進め方だけを仕切る進行役を一人決めると、対立の数が減ります。

遺産分割協議の当事者は相続人です(民法907条1項)。兄弟・姉妹の配偶者は当事者ではなく、最初の話し合いには同席させず、意見は各相続人が持ち帰って伝える形にしておきましょう。配偶者が入ると、利害を持つ人が倍になり、「うちの家計では」という別の論点が混ざります。

進行役は一人です。進行役が「取り分とは切り離して、進め方だけを仕切る」と最初に宣言すると、「自分に有利に仕切っている」と見られずに済みます。

全員の目標も最初に口に出しておくと効果があります。「誰が得をするか」ではなく「誰も損をしない」です。この一言があると、相手の提案を「自分を損させようとしている」と疑う回数が減ります。

全員が同じ場所に集まれないなら、オンラインの会議と書面の郵送を組み合わせるか、持ち回りで進めます。遠方の兄弟・姉妹を置いて進めると、後で「聞いていない」と一からやり直しになります。

「兄嫁が同席して『うちは子どもの学費があるから代償金はもっと必要』と口を挟み、話が倍にこじれた」「進行役を引き受けた長女が『仕切っている』『自分に有利にしている』と言われ、途中で投げ出した」という声を聞きます。当事者を絞り、進行役の立場を宣言する。この2つで避けられる対立があります。

出典: e-Gov法令検索 民法(907条1項)

同じ資料を見て合意は遺産分割協議書に残す

数字は全員が同じ資料を見て、合意した内容は合意メモと遺産分割協議書に残します。

同じ資料とは、査定書・納税通知書・費用の分担表・代償金の試算表の4つです。一人が持っていて口頭で伝える形は疑いを生むので、コピーを全員に配るか、データで共有しておきましょう。

やり取りの手段も分けます。数字の共有は文字(メール)で、感情のやり取りは対面か電話で。数字は後で見返せる形で、感情は残らない形で、が原則です。

合意できたら、協議書を作る前に「合意メモ」を全員にメールで送っておくと、「そうは言っていない」が出ても協議書を作る前に直せます。「実家は兄が取得。代償金は一人○円。支払期限は○月末。固定資産税の立替分○円は代償金から控除」のように、同じ文面を全員が見る形です。

遺産分割協議書に書く項目は4つです。

  • 誰が実家を取得するか
  • 代償金の額・支払期限・支払方法
  • 立て替えた費用の清算
  • 売却する場合の、費用と代金の分担

相続人全員が署名し、実印を押し、印鑑証明書を添えれば、この協議書はそのまま相続登記に使えます。司法書士に頼めば、協議書の作成から登記まで一括で進みます。登記の手順そのものは別の記事に委ねます。

「兄弟・姉妹のLINEグループで代償金の話をしたら感情的なやり取りがそのまま残り、合意した後も読み返して関係が修復できなかった」という声を聞きます。数字と感情の手段を分ける理由はここにあります。

出典: 法務省 不動産を相続した方へ ~相続登記・遺産分割を進めましょう~

先送りせず期限付きの仮合意で区切る

決め切れないときは「決めない」のではなく、期限付きの仮合意で「決め方を決める」形に区切ります。

「とりあえず今は決めない」は、誰にとっても損になります。理由は3つあります。期限(相続登記の3年と寄与分・特別受益の10年)が全員にかかり続ける。維持費が全員にかかり続ける。そして、兄弟・姉妹の誰かが亡くなると、その配偶者や子が相続人として加わり、合意がさらに難しくなります。

「とりあえず共有名義にしておく」も先送りの一つです。共有名義で相続する判断は別の記事に委ねますが、一度共有名義にすると、売るときも貸すときも全員の同意が要る状態が固定される点だけは注意しておきましょう。

「決めない」ではなく「決め方を決める」

たとえば「2年間は兄が住み、固定資産税と修繕費は兄が持つ。2年後の○月に査定を取り直し、兄が取得して代償金を払うか、売却するかを決める。代償金の基準は売却後の手取りとする」という形です。これなら、今すぐ名義も代償金も決めなくても、「いつ・何を基準に・何を決めるか」が全員で合意できています。期限が来たときに、話し合いをゼロからやり直さずに済みます。

登記の期限が気になるなら、相続人申告登記で義務だけ先に果たせます。

「父の相続で『とりあえず母の名義に』と一次相続を済ませ、安心していたら、母の相続で同じ問題がそのまま出た。兄弟・姉妹はそれぞれ10年分の事情を抱えていて、父のときより難しくなっていた」という声を聞きます。先送りは問題を消さず、難しくして次に回します。

出典: 法務省 相続人申告登記について

第三者は中立の専門家から入れ弁護士と調停は最後にする

兄弟・姉妹だけで決まらないときの第三者は、全員の共通の数字を作る専門家から入れ、弁護士と調停は最後にします。

順番を間違えると、対立が固まります。

順番第三者役割費用の目安
1不動産会社査定・売れるかの見当無料
2司法書士相続人の確定・協議書・登記数万円〜十数万円
3税理士相続税・売却時の税の試算(相続税がかかる家庭)内容による
4弁護士会の紛争解決センター・法テラス・自治体の無料相談中立な助言無料〜低額
5弁護士代理・交渉着手金20万〜50万円程度が多い
6家庭裁判所の遺産分割調停調停委員を介した話し合い収入印紙1,200円(被相続人1人につき)と郵便切手

1から3は、「全員の共通の数字を作る道具」として入れます。誰かの味方ではなく、全員が同じ数字を見るための第三者です。4は、法律の現実(寄与分は認められにくい、使用貸借の推認、など)を中立の口から全員に聞かせる役割です。兄弟・姉妹の一人が言うより、専門家が言った方が受け入れられます。

5の弁護士は、相手も弁護士を立てる対立構造になりやすいのが現実です。頼む前に「ここから先は会話ではなく交渉になる」と理解しておきましょう。

6の調停は、協議がまとまらないときに家庭裁判所に申し立てます(民法907条2項、家事事件手続法244条)。月1回程度のペースで進み、1年前後かかることが多いです。

調停の現実も知っておきたいところです。調停委員は不動産の専門家でないことが多く、査定書や納税通知書を持ち込んで数字を示す人が議論を主導しやすくなります。審判になれば、現に住んでいる相続人に取得させる判断もあれば、支払能力がなければ換価(競売を含む)の判断もあります。住んでいる人にも、住んでいない人にも、有利とは限らない結果です。

そのため、協議の段階で「売却後の手取りを基準にした代償金」に応じる方が、全員の得になります。調停で1年かけて競売になれば、住んでいた人は住まいを失い、他の兄弟・姉妹の手取りも市場で売るより少なくなります。

「弁護士に頼んだ瞬間に兄も弁護士を立て、兄弟・姉妹の会話が完全になくなった」「調停で2年かかり、結局換価になった。住んでいた兄は住まいを失い、他の兄弟・姉妹の手取りも思ったほどではなかった。協議の段階で手取り基準に応じていれば、全員がもっと受け取れていた」という声を聞きます。第三者は、対立を深める順ではなく、数字をそろえる順に入れると、話し合いが壊れずに済みます。

出典: e-Gov法令検索 民法(907条2項)、e-Gov法令検索 家事事件手続法(244条)、裁判所 遺産分割調停

まとめ:実家の相続は住む人・払う人・名義人を分けると決まる

実家を誰が相続するかは、住む人・費用を払う人・名義人を一人に背負わせず、別の人が担ってよいと全員で確認したところから決まり始めます。遺言がなければ法定相続分は目安にとどまり、全員の合意で分け方を自由に組めます。

次の一歩は、登記事項証明書・財産の一覧・査定書を全員にそろえて配る「今日は決めない会」を1回開くことです。これを飛ばして「誰が相続するか」から話し始めると、「長男だから」「介護したから」の感情でぶつかり、代償金の基準も費用の分担も数字にならないまま止まります。

実家の名義が親のままか、相続登記の3年の期限がいつ来るかを、登記事項証明書と相続開始日でまず確かめてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、実家を誰が相続するかの決め方も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。