実家の遺産分割方法の比較|現物・代償・換価・共有を条件と資金で絞る

親が残した財産のほとんどが実家で預金は少なく、兄弟・姉妹で公平に分けたいけれど、家は切って配れません。

「現物分割」「代償分割」「換価分割」「共有」という名前を知っただけでは、自分の家でどれが現実的かまでは見えにくいところです。

ここでは4つの方法を同じ条件で並べ、成立する条件、必要になるお金、売るか売らないか、税金の違いを比べたうえで、評価額の基準で代償金がいくら動くか、売る側が知っていると損をしにくい期限の扱いなど、相続人の側に立って知っておくとよい事実を優先しました。

実家の遺産分割に使える4つの方法の比較

4つの方法は、実家を残すか売るかと、取り分の差額を何で埋めるかの2点で分かれます。

比べる材料は、次の5つです。

  • 実家を残すかと差額を何で埋めるかで4つの方法が分かれる
  • 成立する条件で並べた4つの方法の比較表
  • 協議で決めるなら法定相続分どおりに分けなくてよい
  • 4つの方法は組み合わせて使える
  • 協議がまとまらないときに裁判所が検討する順番

実家を残すかと差額を何で埋めるかで4つの方法が分かれる

4つの方法の違いは、「実家を残すか売るか」と「取り分の差額を何で埋めるか」の2点で決まります。

  • 現物分割は、実家を残し、差額を遺産の中の他の財産(預金や有価証券など)で埋める方法です。
  • 代償分割は、実家を残し、差額を実家を取る人の自分のお金(代償金)で埋める方法です。
  • 換価分割は、実家を売って代金を分ける方法です。代金を分けるので、差額を埋める手順そのものが要らなくなります。
  • 共有分割は、実家を残し、差額を埋めずに、持分という形で全員が持ち続ける方法です。

この2点で見ると、実家が1つしかなく預金が少ない家では、現物分割が成立しにくいとすぐに分かります。実家以外に、差額を埋める財産がないからです。

そのため多くの家は、実家を1人が取って代償金を払う代償分割か、売って分ける換価分割に落ち着きます。現物分割がどんな条件なら成立するかは、「現物分割が実家で成立する条件」で説明します。

経験者からは「4つの名前は知っていたが、自分の家でどれが現実的かは分からず、先に不動産会社の査定だけ取った」という声をよく聞きます。査定は役に立ちますが、その前に4つの条件を知っておくと、査定の数字の使い道が決まります。

成立する条件で並べた4つの方法の比較表

4つの方法を成立する条件で並べると、次の表になります。

現物分割代償分割換価分割共有分割
実家を売るか売らない売らない売る売らない
住み続ける相続人がいても成立するか成立する成立する成立しない(退去が前提)成立する
取得者に手元資金が要るか要らない(他の遺産で埋める)要る(代償金)要らない要らない
相続人全員の同意がどこまで要るか分け方に全員評価額と代償金に全員売ること・分け方に全員共有にすることに全員。解消時にも全員
分割が終わるまでの期間分筆するなら測量・登記の期間を足す評価と資金の手当てができれば短い売れるまで決まらない登記は早いが、解消は先送り
裁判所が検討する順番1番目2番目3番目最後

税金の違いは、表の列から外しました。贈与税がかかるか、売ったときの譲渡所得税がどうなるか、相続税を減らす小規模宅地等の特例が使えるかは、方法そのものより、誰が取るかと協議書の書き方で変わるからです。それぞれの税金は、代償分割と換価分割の条件の中で取り上げます。

表を見るときの注意は2つあります。

1つ目は期間の列です。相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月(相続税法27条1項)、相続登記は不動産を相続したと知った日から3年以内が義務です(不動産登記法76条の2)。

相続登記の義務は2024年4月1日に始まった制度で、それより前に相続した実家も対象になり、その場合の期限は2027年3月31日です。

換価分割で売れるまで時間がかかる場合や、現物分割で分筆が長引く場合は、この期限との関係を先に考えておくと、期限に追われずに済みます。

2つ目は実家の評価額です。実家には、路線価、固定資産税評価額、不動産会社の査定、不動産鑑定士の鑑定という複数の値段があり、どれを使うかで代償金の額も「釣り合っているか」の答えも変わります。この違いは「代償金の基準にする評価額」で説明します。

出典: e-Gov法令検索 相続税法、e-Gov法令検索 不動産登記法、法務省 相続登記の申請義務化に関するQ&A、e-Gov法令検索 家事事件手続法

協議で決めるなら法定相続分どおりに分けなくてよい

相続人の間で話し合って決める遺産分割協議では、法定相続分と違う割合でも成立します。

「公平に分ける」と聞くと、法定相続分(たとえば子3人なら3分の1ずつ)で割ることだと考えがちです。しかし、協議は法定相続分に縛られません。全員が納得すれば、どんな割合でも成立します。

民法907条1項は、遺言で禁じられていない限り、共同相続人はいつでも協議で遺産の全部または一部を分割できると定めています。法定相続分(民法900条)は、協議がまとまらず裁判所に持ち込まれたときの基準です。

さらに民法906条は、遺産の分割は「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮」して行うと定めています。

つまり、次のような事情を取り分に反映させることは、法律が予定している分け方です。

  • 親と同居して介護をしていた
  • 実家の固定資産税や修繕費を長年負担していた
  • 住宅購入のときに親から援助を受けた人がいる(特別受益)
法定相続分は「協議がまとまらないときの基準」

協議で決めるなら、同居・介護・維持費の負担・生前の援助を金額に乗せてよいというのが民法の立場です。「3分の1ずつが公平」と決めてかかると、負担してきた人が納得せず、かえって協議が止まります。ここでいう「公平」は、法定相続分で割った額ではなく、こうした事情を考慮して全員が納得できる配分を指します。

期限が1つあります。寄与分(介護などの貢献)や特別受益(生前の援助)を主張して取り分を調整することは、相続開始から10年を過ぎると原則としてできなくなります(民法904条の3)。長く放置した実家ほど、早めの確認が要ります。

この10年の期限は2023年4月1日に始まった改正民法の制度で、それより前に始まった相続では、相続開始から10年か2028年3月31日のどちらか遅いほうまで主張できます。

「法定相続分で機械的に割ったら、同居して介護していた姉が納得しなかった」と話す経験者もいます。これは姉が欲張りなのではなく、民法906条の考え方からすれば自然な反応です。

出典: e-Gov法令検索 民法、法務省 不動産を相続した方へ

4つの方法は組み合わせて使える

比較表は4択に見えますが、実際には組み合わせて使えます。

民法907条1項が「遺産の全部又は一部の分割」と定めているとおり、財産ごと、あるいは段階ごとに違う方法を選べるからです。よくある組み合わせは次の3つです。

  • 実家は代償分割、預金は現物分割にする。実家を取る人が代償金を払い、預金は他の相続人が取って差額を小さくする組み合わせです。
  • 他の不動産(駐車場や別の土地など)を換価して、その代金を実家の代償金に充てる。実家は残し、残したくない不動産だけ売る組み合わせです。
  • 期限を決めて当面は共有にし、その期限が来たら換価する。「3年後に売る」と協議書に書き、それまでは親の遺品整理や住む人の引っ越しの時間に充てる組み合わせです。

組み合わせを考えるときも、当てはめるのは4つの方法それぞれの条件です。条件を一つずつ当てはめると、どの組み合わせが自分の家で成立するかが見えてきます。

出典: e-Gov法令検索 民法

協議がまとまらないときに裁判所が検討する順番

協議がまとまらず家庭裁判所の審判になると、裁判所は現物、代償、換価、共有の順に検討します。

この順番を知っておくと、比較の目安になります。

審判では、まず現物分割が検討されます。次に代償分割ですが、家事事件手続法195条は、代償分割を「特別の事情があると認めるとき」に限って認めると定めています。

代表的な特別の事情は、取得する相続人に代償金を払う能力があることです。払えない人に実家を取らせて代償金を命じると、受け取る側が困るからです。

代償分割も難しいときは換価分割です。家事事件手続法194条により、裁判所は相続人に遺産の競売を命じることができます(同条1項)。任意の売却を命じることもできますが(同条2項)、競売になると一般に任意売却より売却額が低くなり、手取りが減ります。

そして、どの方法も取れなければ共有のまま終わります。つまり、決めずにいると、最後は「共有名義の登記」か「競売」のどちらかに着地する見通しです。

この着地点と比べれば、協議で選べるどの方法も相続人の側に有利だと分かります。調停や審判の進め方そのものは、別の記事に譲ります。

出典: e-Gov法令検索 家事事件手続法

現物分割が実家で成立する条件

実家1つで取れる現物分割は、土地の分筆か、他の遺産との組み合わせの2通りです。

実家の現物分割は土地の分筆か他の遺産との組み合わせに限られる

建物は物理的に分けられないため、実家1つで取れる現物分割は次の2通りに限られます。

  • 土地を分筆(1つの土地を登記上2つ以上に分けること)して、各自が1区画ずつ取る
  • 実家は1人が取り、他の相続人は預金など他の遺産で残りを埋める

「売らず、払わず、そのまま分けられないか」という問いへの答えは、この2通りです。

ときどき「建物は長男、土地は次男」という分け方が現物分割として提案されます。しかし、これは勧めにくい分け方です。

他人の土地に自分の建物が載る状態になり、土地を無償で使わせてもらう使用貸借(民法593条)か、地代を払う借地の関係ができます。建物を売るにも建て替えるにも土地の持ち主の同意が要り、土地を売るにも建物がある限り買い手がつきにくくなります。

どちらも自分だけでは動けない点で、損得としては共有より不利です。

したがって、ここで見るのは、土地の分筆が成立するか(接道と面積、土地の価値、期間)と、他の遺産で埋められるかの2つです。

出典: e-Gov法令検索 民法

分筆後の区画が接道義務と最低敷地面積を満たす

分筆した区画は、それぞれが「家を建てられる土地」になって初めて、取った人が損をせずに済みます。

条件は2つです。

1つ目は接道義務です。建築基準法43条1項は、建物の敷地は道路に2メートル以上接しなければならないと定めています。ここでいう道路は、原則として幅員4メートル以上の道路を指します。

分筆した奥側の区画が道路に接していない、または接している幅が2メートルに満たないと、その区画には新しく家を建てられなくなります。再建築ができない土地は、売るときも値段が大きく下がります。

2つ目は敷地面積の最低限度です。建築基準法53条の2は、自治体が都市計画で建物の敷地面積の最低限度を定めた場合、敷地はそれ以上でなければならないと定めています。最低限度は200平方メートルを超えない範囲で自治体ごとに決められます。

たとえば最低限度が100平方メートルの地域で、180平方メートルの土地を2つに分けると、どちらの区画にも家を建てられなくなります。

極端に小さい区画ができる分割は、裁判所も認めにくい傾向があります。共有物分割の裁判例では、分けた後の土地が6坪から7坪程度になる分割を、宅地としての価値を損なうとして退けたものがあります。

「分筆した区画が道路に2メートル接しておらず、家が建てられないと言われた」という声もあります。自分の実家の地域で最低敷地面積が定められているか、どの道が建築基準法上の道路かは、市区町村の建築指導課で無料で確認できます。

分筆を考えるなら、測量を頼む前にここを確認しておきましょう。

出典: e-Gov法令検索 建築基準法

分筆で土地全体の価値が下がらない

接道と面積を満たしても、分けた2つの土地の価値の合計は、元の1つの土地より下がるのが普通です。

土地の値段は、面積のほかに形や位置でも決まるからです。

  • 角地を分けると、角地の価値が片方だけに残る
  • 間口(道路に接する幅)が半分になり、使いにくい細長い土地になる
  • 奥の区画が通路でつながる旗竿地になり、単価が下がる
  • 建物が敷地の中央にあり、建物を残す限り残りの土地が使えない

「土地は広いが建物が真ん中にあり、片方が旗竿地になって値段が合わなかった」と振り返る経験者もいます。

相続税の評価でも、不合理な分割は分割前の1つの土地として評価されます。

財産評価基本通達7-2(1)の注は、遺産分割などで宅地を親族間で分割した場合に、分割後の区画が「宅地として通常の用途に供することができないなど、その分割が著しく不合理であると認められるとき」は、分割前の土地を1つとして評価すると定めています。

国税庁の質疑応答事例では、無道路地や帯状地、著しく狭い区画を生む分割が例に挙げられています。分筆で評価額を下げようとしても、この形では通らないということです。

逆に、戸建用地として2区画以上取れる広さと形があれば、分筆したほうが1区画あたりの単価が上がることもあります。広い土地は買い手が限られ、戸建1軒分の土地のほうが売りやすいからです。

「分けた後に売れる土地になるか」は、不動産会社に無料で聞ける質問です。査定を取るときに「2区画に分けた場合の評価も見てほしい」と伝えておくと、分筆が得か損かの材料がそろいます。

出典: 国税庁 財産評価基本通達 第1節 通則、国税庁 質疑応答事例 宅地の評価単位-不合理分割(1)

境界確定と分筆登記が申告期限までに終わる

分筆には土地家屋調査士による境界確定測量が要り、ここで時間がかかります。

隣の土地との境界を確定するため、隣地の所有者に立ち会ってもらい、境界に同意してもらう作業です。隣地の所有者が遠方に住んでいたり、すでに亡くなって相続人が分からなかったり、境界に納得しなかったりすると、数か月から年単位で止まります。

筆界特定制度(不動産登記法123条以下)という、法務局に境界の位置を特定してもらう仕組みもありますが、こちらも時間がかかります。「境界が決まらず測量に半年かかった」という経験談もあります。

相続税の申告期限は10か月です(相続税法27条1項)。分筆が終わらず分け方が決まらないまま期限が来ると、法定相続分で分けたものとして一度申告する「未分割申告」になります。

未分割申告の手当ては「申告期限と空き家特例の期限」で説明しますが、分筆を前提にするなら、測量にかかる期間を先に見積もり、期限に収まるかを確かめておきましょう。

測量と分筆登記の費用は、土地の広さ、隣地の数、境界標の有無で大きく変わります。相場を一つの数字で示すのは難しいため、複数の土地家屋調査士に見積もりを取ってみてください。

出典: e-Gov法令検索 不動産登記法、e-Gov法令検索 相続税法

預金など他の遺産で差額を埋められる

分筆しない現物分割は、実家の評価額と他の遺産の額が釣り合うかで成立が決まります。

形としては、実家を1人が取り、預金や有価証券を他の相続人が取る分け方です。

ここで評価額の基準が問題になります。実家を路線価で2,400万円と見るか、査定で3,000万円と見るかで、釣り合うかの答えが変わります。

協議の前に「実家の評価はどの基準で見るか」を先に決めておくと、金額の話で止まらずに済みます。基準の種類と選び方は「代償金の基準にする評価額」で説明します。

他の遺産で埋めきれない差額を、実家を取る人が自分のお金で渡す場合、その部分は代償分割です。協議書には「代償分割」として、代償金の額と支払方法を書いておきましょう。

現物分割の名目のまま、協議書に書かずにお金を渡すと、相続による取得ではなく贈与と見られ、贈与税の問題が生じます。実家を取る人と預金を取る人の組み合わせに代償金を足した形は、先に挙げた組み合わせの一つです。

出典: 国税庁 相続税法基本通達 第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》関係

代償分割が成立する条件

代償分割は、払える人がいること、評価額に合意できること、協議書に書けること、誰が取るかで税金が変わることの4つで決まります。

代償金を払える相続人がいる

代償分割の最初の条件は、代償金を自分のお金で払える相続人がいることです。

代償分割は、実家を取る人が他の相続人に代償金を払う方法で、払う側と受け取る側の両方に関わります。裁判所の審判では、支払能力などの特別の事情がある場合に限って代償分割が認められます(家事事件手続法195条)。

協議でも同じで、払えない人が実家を取ると約束しても、受け取る側が困ります。

代償金の資金として考えられる手段は、主に次のとおりです。

  • 自己資金(自分の預金)
  • 相続した実家を担保にした不動産担保ローン
  • 銀行の相続関連の融資
  • 親が掛けていた生命保険の死亡保険金
  • 分割払い(受け取る側の同意が要る)

住宅ローンは自分が住む家を買うための融資なので、代償金の支払いには原則として使えないと考えておきましょう。「住宅ローンで払うつもりが銀行に断られた」という経験談もあります。

融資を使う場合は、協議書の作成、相続登記、融資の実行という順番になります。協議の前に金融機関へ「相続した実家を担保に代償金の融資を受けられるか」を確認しておくと、協議の途中で前提が崩れずに済みます。

生命保険については、受け取る側に有利な事実があります。親が掛けていた死亡保険金で、受取人が特定の相続人に指定されているものは、その受取人の固有の財産であり、遺産分割の対象から外れます。

最高裁は、死亡保険金の請求権は民法903条の特別受益に当たらず、相続人の間の不公平が到底是認できないほど著しい特段の事情がある場合に限って持戻しの対象になると判断しています(最高裁平成16年10月29日決定)。

つまり、実家を取る人が受取人になっている保険金は、原則としてその人が自由に使えるお金で、代償金の原資にできます。

出典: e-Gov法令検索 家事事件手続法、裁判所 裁判例結果詳細(最高裁平成16年10月29日決定)

代償金の基準にする評価額に全員が合意できる

代償金の額は「実家の評価額×相手の取り分」で決まり、評価額の基準には4つあります。

どれを使うかで、代償金が大きく動きます。

基準水準の目安費用使いどころ
固定資産税評価額地価公示価格の7割程度(固定資産評価基準の経過措置)無料(課税明細書に記載)最も低く出やすい
路線価(相続税評価額)地価公示価格を基にした時価の8割程度(国税庁)無料(国税庁の路線価図)相続税の申告で使う額
不動産会社の査定売れそうな価格無料時価に近いが会社ごとに幅がある
不動産鑑定士の鑑定時価有料調停・審判での基準になる

協議では、どの基準を使っても成立します。ただし、立場によって有利な基準が逆になります。

評価額の基準は、払う側と受け取る側で有利が逆になる

受け取る側は時価(査定・鑑定)で計算したほうが代償金が多くなります。払う側は路線価や固定資産税評価額で計算したほうが少なくて済みます。

仮に、固定資産税評価額2,100万円の実家を子3人で相続し、1人が取って他の2人に法定相続分で代償金を払う場合を考えます。路線価が2,400万円なら代償金は2,400万円×3分の2=1,600万円(800万円ずつ)、査定が3,000万円なら3,000万円×3分の2=2,000万円(1,000万円ずつ)です。

基準の違いだけで400万円動きます。仮定の数字ですが、どの基準を使うかを決めないまま金額の話に入ると、ここで止まります。

査定を使うときの注意は2つあります。

1つは、不動産会社の査定は、売却の依頼を受けるために高めに出ることがある点です。「3社に頼んだら査定が500万円以上ばらついた」という経験談もあります。

査定は1社で決めず、「代償金の基準にするために知りたい」と目的を伝えて複数社に頼み、中央値で見ると偏りが小さくなります。

もう1つは、鑑定は有料ですが、必ず高く出るとは限らない点です。「時価で払えと言われて鑑定したら、路線価より低い額が出た」という声もあります。建物が古く、土地の形が悪い実家では、鑑定が路線価を下回ることもあります。

評価する時点は、相続開始時ではなく、遺産分割をする時点の価格が原則とされています。亡くなってから何年も経ってから分ける場合は、その時点の価格で見直す必要があります。

最後に、代償金は法定相続分で機械的に計算しなくてよい点も確認しておきましょう。同居や介護、維持費の負担は、協議の金額に乗せられます。

たとえば「同居して介護した人が実家を取り、代償金は法定相続分で計算した額から介護の分を差し引く」という決め方は、民法906条の考え方に沿っています。

出典: 総務省 固定資産税の概要、国税庁 令和3年分の路線価等の補正について、e-Gov法令検索 民法

協議書に代償分割と支払条件を明記できる

代償分割は、協議書の書き方で税金と回収のしやすさが変わります。

協議書に「代償分割として、実家を取得する長男は、代償債務として長女に金1,000万円を支払う」のように明記しないと、渡したお金が相続による取得ではなく贈与と見られ、贈与税の問題が生じます。

相続税法基本通達19の2-8の注も、代償分割を「現物を取得した者が他の共同相続人に対して債務を負担する分割の方法」と定義しています。債務として協議書に残しておくと、相続による取得だと説明できます。

分割払いにする場合は、受け取る側の立場で考えてみてください。分割払いは、受け取る側から見れば「払う側への貸し」です。

「代償金が10年の分割払いになり、途中で滞った」という経験談もあります。回収の手段を先に作っておくと、滞ったときに動けます。

  • 協議書に、金額、支払期日、遅れたときの扱い(遅延損害金や残額の一括払い)を書く
  • 実家に抵当権を設定して担保を取る
  • 協議書を公正証書にして、強制執行認諾文言(払わないときは直ちに強制執行を受けてよいという陳述)を入れる

公正証書に強制執行認諾文言があると、民事執行法22条5号の執行証書になり、裁判をしなくても強制執行ができます。

払う側にとっては重い条件に見えますが、「払う」と約束している以上は受け入れられる条件で、受け取る側が分割払いに応じる前提として求めてよい内容です。

もう1つ、代償金を払うために実家を売る予定があるなら、最初から換価分割で組んでおきましょう。

「実家を取ってすぐ売り、その代金で代償金を払う」という形は、売ることが前提になっている以上、税務上は換価分割と見られることがあります。換価分割の条件は「換価分割が成立する条件」で説明します。

出典: 国税庁 相続税法基本通達 第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》関係、e-Gov法令検索 民事執行法

小規模宅地等の特例を使える相続人が取得して相続税を減らす

誰が実家を取るかで、家族全体の相続税が変わります。

租税特別措置法69条の4の小規模宅地等の特例は、親が住んでいた土地を一定の相続人が取ると、330平方メートルまでの部分の相続税評価額を80%減額する制度です。

使える相続人は限られています(国税庁タックスアンサーNo.4124)。

  • 配偶者
  • 親と同居していた親族で、申告期限まで住み続け、かつ土地を持ち続ける人
  • 親に配偶者も同居の相続人もおらず、相続前3年以内に自分や配偶者などが持つ家に住んだことがないなどの要件を満たす別居の親族(いわゆる家なき子)

仮に、実家の土地の相続税評価額が2,400万円で面積が330平方メートル以下なら、要件を満たす人が取ると評価額は480万円になり、課税価格が1,920万円下がります。

相続税は遺産全体の課税価格から計算されるため、下がった分は、実家を取った人に限らず相続人全員の税額を減らします。

経験者の声:同居していた人が取ると相続税が下がる

「同居していた妹が実家を取ると相続税が大きく下がると、申告の直前に知った。先に知っていれば代償金の話の進め方が変わった」(父の相続で実家を代償分割した方)

特例が使えるかは、取る人の条件で決まります。兄が取ると特例なし、妹が取ると特例あり、という家では、妹が取って浮いた税額の一部を代償金に上乗せするほうが、全員の手取りが増える計算になることがあります。浮いた税額は、代償金の交渉材料です。

代償金を時価で決めた場合の相続税にも、知っておくとよい計算があります。

相続税の課税価格を計算するとき、代償金は原則として額面で引き算しますが、代償金が分割時の時価を基に決められている場合は「代償金×(相続税評価額÷時価)」に置き換えて計算できます(相続税法基本通達11の2-9、11の2-10、国税庁タックスアンサーNo.4173)。

仮に、時価3,000万円の実家を基に1,000万円の代償金を払い、相続税評価額が2,400万円なら、1,000万円×(2,400万円÷3,000万円)=800万円が課税価格上の代償金の額です。受け取る側の課税価格が200万円下がります。

なお、代償金の支払期日が申告期限より後になっても、協議書で分割が確定していれば、分割済みとして特例を使えると考えられます。特例の要件は申告期限までに分割されていることであって、代償金の支払いが終わっていることまでは求められていないからです。

出典: e-Gov法令検索 租税特別措置法、国税庁 タックスアンサーNo.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)、国税庁 タックスアンサーNo.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算、国税庁 相続税法基本通達 第11条の2《相続税の課税価格》関係

換価分割が成立する条件

換価分割は、全員の売却同意、期限内に売れる見込み、登記の名義の決め方、手取りの計算の4つで成立と損得が決まります。

相続人全員が売却に同意している

換価分割の最初の条件は、相続人全員が売ることに同意していることです。

「売って分けるのがいちばん公平」とよく言われます。代金を分けるので差額の問題は起きず、その点では公平です。ただ、成立する条件があり、損をしない書き方もあります。

ここでは売却活動の進め方や不動産会社の選び方には入らず、換価分割が自分の家で成り立つか、損をしないかに絞ります。

相続した実家は、分割が終わるまで相続人全員の共有です。共有物を売ることは共有物の「変更」にあたり、他の共有者全員の同意が要ります(民法251条1項)。

1人でも反対すれば、協議で売ることはできません。住み続けたい相続人がいる場合は、その人が退去することと、いつ退去するかの合意が前提になります。ここで合意できなければ、換価分割は候補から外れます。

合意できないまま審判になると、裁判所が換価を命じることができ(家事事件手続法194条)、競売になる可能性があります。競売は任意売却より手取りが下がるのが一般的です。

売ることに大筋で合意できるなら、協議の段階で任意売却に合意しておくほうが、全員の手取りが多くなります。

なお、売るには先に相続登記を済ませる必要があります。親の名義のままでは買い手に所有権を移せないからです。誰の名義で登記するかは、空き家特例の控除との関係で決めます(「代表者名義と共有名義のどちらで売るか」で説明します)。

出典: e-Gov法令検索 民法、e-Gov法令検索 家事事件手続法

申告期限と空き家特例の期限内に売れる見込みがある

換価分割は売れるまで分割が終わらず、2つの期限が関わります。

1つ目は相続税の申告期限10か月(相続税法27条1項)です。期限までに売れず分け方が確定しない場合は、法定相続分で分けたものとして一度申告します(国税庁タックスアンサーNo.4208)。

このとき申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておくと、申告期限から3年以内に分割できた時点で更正の請求をして、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使えます(相続税法19条の2第2項、租税特別措置法69条の4第4項)。

更正の請求は、分割を知った日の翌日から4か月以内です。

「売れるまで1年かかり、未分割で申告した」という声もよく聞きます。この手当てを知っていれば、申告期限に追われて安く売らずに済みます。

2つ目は、売ったときの譲渡所得から最高3,000万円を控除できる空き家特例(租税特別措置法35条3項、国税庁タックスアンサーNo.3306)の期限です。主な要件は次のとおりです。

  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋で、区分所有建物(マンション)でない
  • 相続の直前に親が1人で住んでいた(他に同居者がいない)
  • 相続から売るまでの間、貸したり住んだりしていない
  • 売却代金が1億円以下
  • 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ2027年12月31日までに売る
  • 家屋を耐震基準に適合させて売るか、取り壊して売る。2024年以降の売却は、売った後、翌年2月15日までに耐震改修か取り壊しが行われる場合も可
  • 取得費加算の特例など他の特例を受けていない
期限を売却の現場で前面に出さない

申告期限や空き家特例の期限は、売る側の事情です。買い手や仲介の現場で「期限が近いので急いでいる」と伝えると、値引きの材料になります。「期限が近いと言ったら値引きを求められた」という声もあります。期限は税理士と共有して管理し、売却の現場では出さないほうが、売る側に有利です。未分割申告の手当てを知っていれば、申告期限は売り急ぐ理由から外せます。

期限内に売り切りたい場合は、不動産会社に直接買い取ってもらう買取もあります。買取は早い反面、仲介で一般の買い手に売るより安くなるのが一般的です。期限との兼ね合いで選ぶ選択肢の一つとして覚えておくと、判断の幅が広がります。

出典: e-Gov法令検索 相続税法、国税庁 タックスアンサーNo.4208 相続財産が分割されていないときの申告、e-Gov法令検索 租税特別措置法、国税庁 タックスアンサーNo.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

代表者名義と共有名義のどちらで売るかを控除で決めている

売るための相続登記は、代表者1人の名義にするか相続人全員の共有名義にするかを、空き家特例の控除で決めます。

空き家特例は、売った名義人ごとに適用されます。代表者1人の名義で売ると、控除を使えるのはその1人だけで、最高3,000万円です。全員の共有名義で売ると、相続人それぞれが控除を使えます。

ただし、相続人が3人以上の場合は1人あたり2,000万円に下がります(2024年以降の売却)。「3人で相続して、控除が2,000万円ずつに下がった」という声も聞きますが、合計で見れば6,000万円で、代表者名義の3,000万円より多くなります。

共有名義で売る場合は、全員が売主として契約と決済に関わります。委任状で代表者に任せることはできますが、本人確認は全員に必要です。遠方に住む相続人がいる場合は、この手間を見込んでおきましょう。

代表者名義にしたときに心配されるのが贈与税です。「兄の名義で売って代金を分けたら、贈与にならないか不安だった」という声をよく聞きます。これは、協議書の書き方で解決します。

国税庁の質疑応答事例「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」は、1人の名義で相続登記をしたことが単に換価のための便宜であり、代金が分割の内容に従って実際に分配される場合には、贈与税の課税が問題になることはないとしています。

協議書に「換価分割とし、売却の便宜上、長男の単独名義で登記する。売却代金から費用を引いた残額を、長男が3分の1、長女が3分の1、次男が3分の1の割合で取得する」と書き、そのとおり分配すれば、相続による取得として扱われます。

「単独名義にすると贈与税がかかる」という説明は単純化しすぎで、正しくは「協議書に書かずに分けると贈与と見られることがある」です。

出典: 国税庁 質疑応答事例 遺産の換価分割のための相続登記と贈与税、国税庁 タックスアンサーNo.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

売却費用と譲渡所得税を引いた手取りで比べる

換価分割で各自が受け取る額は、売却代金ではなく手取りです。

手取りは次の順で計算します。

手取り=売却代金−仲介手数料−測量費−解体費−残置物の処分費−譲渡所得税

仲介手数料の上限は宅地建物取引業法46条に基づく国土交通省の告示で決まっており、売買価格が400万円を超える場合は「価格×3%+6万円」に消費税を足した額です。

なお、2024年7月からは、価格800万円以下の物件は上限が30万円に消費税を足した額に引き上げられています。安い実家ほど手数料の割合が高くなる点は、手取りの見積もりに入れておきましょう。

費用と税金は、代金から先に引いて全員で負担する旨を協議書に書いておきましょう。書いておかないと、立て替えた人と他の相続人の間で精算が揉めます。「解体費を兄が立て替えて、精算で揉めた」と話す経験者もいます。

譲渡所得税は、売却代金から取得費と譲渡費用を引いた譲渡益にかかります。親が実家を買ったときの契約書がなく取得費が分からない場合は、売却代金の5%を取得費とみなす概算取得費(租税特別措置法31条の4、国税庁タックスアンサーNo.3258)になります。

古い実家ほど取得費が小さく、譲渡益が大きく出ます。「取得費が分からず税金が多かった」という声もあります。親の売買契約書を実家の中で探す価値は、ここにあります。

譲渡益を減らす特例は2つあり、どちらか一方だけ使えます。

  • 空き家特例は、譲渡所得から最高3,000万円を控除する
  • 取得費加算の特例(租税特別措置法39条、国税庁タックスアンサーNo.3267)は、払った相続税の一部を取得費に加算する。相続税を払った人が、申告期限の翌日から3年以内に売った場合に使える

相続税を払っていなければ取得費加算は使えないので空き家特例を選び、相続税を多く払っていて空き家特例の要件を満たさない場合は取得費加算を検討する、という分かれ方です。

仮定の数字で手取りを計算してみます。売却代金3,000万円、取得費不明、相続人3人、売却した年の1月1日時点で所有期間5年超(長期譲渡所得。税率20.315%=所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)とします。

項目金額(仮定)
売却代金3,000万円
仲介手数料(3,000万円×3%+6万円=96万円、消費税10%込み)105.6万円
解体費150万円
測量費50万円
残置物の処分費30万円
費用の合計335.6万円
概算取得費(3,000万円×5%)150万円
譲渡益(3,000万円−150万円−335.6万円)2,514.4万円

空き家特例が使えれば、譲渡益2,514.4万円は3,000万円の控除の範囲に収まり、譲渡所得税は0円です。手取りは3,000万円−335.6万円=2,664.4万円、3人で割ると1人約888万円です。

空き家特例が使えなければ、譲渡所得税は2,514.4万円×20.315%≒510.8万円です。手取りは2,664.4万円−510.8万円=2,153.6万円、1人約718万円です。特例の有無で1人あたり約170万円変わります。

ここで代償分割と比べてみます。同じ実家を査定3,000万円で評価して1人が取り、他の2人が法定相続分で代償金を受け取ると、1人1,000万円です。換価分割では、特例が使えても約888万円、使えなければ約718万円です。

「売って分けるのが公平」と言われますが、費用と税金を引くと、受け取る側は代償分割のほうが多くなることがあります。もちろん、代償分割には払える人がいることという条件があるため、どちらが多いかは家ごとに違います。

同じ評価額で2つを並べて比べる手順は「残った候補を同じ評価額で並べて査定と税額の試算を取る」で説明します。どの費用が譲渡費用として認められるかや税額の詳細は、売る前に税理士に確認しておきましょう。

出典: e-Gov法令検索 宅地建物取引業法、国土交通省 参考資料集(不動産・建設経済局、令和6年6月)、国税庁 タックスアンサーNo.3258 取得費が分からないとき、国税庁 タックスアンサーNo.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例、国税庁 タックスアンサーNo.3208 長期譲渡所得の税額の計算、国税庁 タックスアンサーNo.3255 譲渡費用となるもの

共有分割が選択肢になる条件

共有分割は、他の3つが成立せず、解消の期限と方法を全員で決めている場合に限って選択肢になります。

共有を解消する期限と方法を全員で決めている

共有は、他の3つの方法が成立しないと確認したうえで、次の2つがそろった場合に限って選択肢になります。

  • 全員が実家の使い方(住む・貸す・そのまま置く)と売る時期で一致している
  • 「いつまでに売る」または「いつまでに誰が買い取る」を協議書に書いている

共有にした後の売却や管理、費用負担の問題は別の記事に譲り、ここでは「共有を選んでよい条件」と「分け方が決まっていないときの登記」に絞ります。

理由は、共有が「決めること」ではなく「決めるのを先送りすること」だからです。共有している実家を売ることや建て替えることには共有者全員の同意が要り(民法251条1項)、管理に関することは持分の価格の過半数で決めます(民法252条1項)。

「公平だから共有に」という選び方は、全員に同意待ちの状態を配ることと同じです。固定資産税や修繕費を誰がどの割合で負担するかも、共有を選ぶなら決めておく項目ですが、中身は別の記事に譲ります。

1つ注意があります。換価分割で触れた「売る前に全員の共有名義で登記して売る」のは、換価分割のための手段であって、ここでいう共有分割とは別です。売ることが決まっていて登記の名義だけ共有名義にするのと、売るかを決めずに共有で持ち続けるのとでは、意味が違います。

出典: e-Gov法令検索 民法

次の相続が起きる前に解消できる見込みがある

共有の最大の問題は、時間とともに共有者が増えることです。

共有者の1人が亡くなると、その持分はその人の子に分かれ、相続人同士でなく、会ったことのないおい・めいの同意が要るようになります。「とりあえず共有にしたら、10年後に売るときに兄の子の印鑑が必要になった」という経験談は、共有を選んだ家でよく出てきます。

解消したくなったときの手続きも知っておきましょう。共有者はいつでも共有物の分割を請求できますが(民法256条1項)、協議がまとまらなければ裁判になります。

裁判所は、現物分割か、共有者に代償金を払わせて持分を取得させる賠償分割を命じ(民法258条2項)、それができないか価格を著しく下げるおそれがあるときは競売を命じます(同条3項。2023年4月施行の改正民法で順番が明文化されました)。

結局、共有を解消するときには、代償か換価に戻ることになります。

高齢の共有者がいる家では、次の相続が起きる前に解消できるよう、期限を短く置いておきましょう。「5年後に売る」ではなく「2年以内に売るか、誰かが買い取る」のように、見通しの立つ期間にするのが目安です。

出典: e-Gov法令検索 民法、法務省 所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)

決められないだけなら共有登記ではなく相続人申告登記を使う

「分け方が決まらないから、とりあえず法定相続分で共有名義の登記(共有登記)をしておく」という進め方は、相続人の側に不利です。

知っておくとよい事実を2つ挙げます。

1つ目は、相続登記の義務は共有名義の登記でなくても果たせることです。

相続登記は不動産を相続したと知った日から3年以内が義務ですが(不動産登記法76条の2第1項)、「相続人申告登記」(同法76条の3)という、自分が相続人であることを法務局に申し出るだけの手続きで、この義務を履行したことになります(同条2項)。

法務省の案内によると、相続人申告登記は特定の相続人が単独で申し出ることができ、法定相続人の範囲や相続分を確定する必要がなく、登録免許税もかからない手続きです。協議がまとまったら、その日から3年以内に相続登記をすればよい仕組みです(同条4項)。

2つ目は、先に共有名義で登記すると費用が二重になることです。相続による所有権移転の登録免許税は、固定資産税評価額の1,000分の4です(登録免許税法別表第一、国税庁タックスアンサーNo.7191)。固定資産税評価額2,100万円の実家なら8.4万円です。

法定相続分で共有名義の登記をした後に、協議で1人の単独名義に変えると、その持分の移転にも登録免許税と司法書士の費用がかかります。「登記の義務があると聞いて急いで共有名義で登記したが、後で分け方を変えるのに費用がかかった」という経験談もあります。

決まっていないだけなら、共有名義の登記は要らない

相続登記の義務は、相続人申告登記で履行できます。共有名義の登記は、共有分割の条件を満たして共有を選んだ場合に限って行い、協議がまとまってから1回の登記で済ませると、費用も手間も少なくなります。

出典: e-Gov法令検索 不動産登記法、法務省 相続人申告登記について、国税庁 タックスアンサーNo.7191 登録免許税の税額表

実家に合う分割方法を絞る手順

自分の実家の条件を3つの問いで順に当てると、候補は2つ程度まで絞れます。

ここでは「おすすめ」を1つに決めず、候補を2つ残します。査定と税額の試算という確認の結果で決めるほうが、相続人の側に有利だからです。1つに決めてから査定を取ると、その数字に引きずられて他の方法と比べにくくなります。

各方法の条件の中身はそれぞれの章で説明したので、ここでは繰り返さず、どの条件を当てるかを示します。兄弟・姉妹への提案の仕方や、決めた後の手続きの進め方は、別の記事に譲ります。

住み続けたい相続人がいるかを確認する

最初の問いは、実家に住み続けたい相続人の有無です。

  • いる場合、候補は現物分割、代償分割、共有分割です。換価分割は、その人の退去が前提になるため、本人が退去に同意した場合に限って残ります。
  • いない場合、換価分割が中心です。現物分割と代償分割は「誰かが実家を取る」方法なので、取りたい人がいて初めて成立します。

この問いは税金にもつながります。親と同居していた相続人が住み続けて実家を取るなら、小規模宅地等の特例が使える可能性が高く、家族全体の相続税が下がります。

住み続けたい人の有無は、感情の問題であると同時に、税額の問題でもあります。

出典: 国税庁 タックスアンサーNo.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

評価額を概算して代償金を払えるかを確認する

2つ目の問いは、代償金を払える人の有無です。

多くの家がここで止まります。「兄が代償で払うと言ったが、いくら要るのか誰も概算していなかった」という声をよく聞きます。

査定を取る前に、自分で時価の目安を出してみてください。方法は2つで、どちらも無料で、その日のうちにできます。

  • 固定資産税の課税明細書(毎年春に届く納税通知書に付いています)に載っている土地の評価額÷0.7
  • 国税庁の路線価図で実家の前の道路の路線価を調べ、路線価×土地の面積÷0.8

固定資産税評価額は地価公示価格の7割程度、路線価は8割程度を目安に決められているため、割り戻すと時価の目安になります。仮に課税明細書の土地の評価額が2,100万円なら、2,100万円÷0.7=3,000万円が目安です。

路線価が1平方メートルあたり16万円で面積が150平方メートルなら、16万円×150÷0.8=3,000万円です。建物は古ければ評価額が小さいので、土地の額に建物の固定資産税評価額を足す程度で十分です。

目安が出たら、それを法定相続分で割った額が、代償金の上限の目安です。子3人で1人が取るなら、3,000万円×3分の2=2,000万円が他の2人に払う額の上限の目安になります。同居や介護の事情で減らせますが、まずは上限で見ておきましょう。

この額を、自己資金、融資、生命保険金を合わせて払えるなら代償分割が候補に残ります。払えなければ、候補は換価分割か、預金など他の遺産で埋める現物分割に移ります。

この概算は、不動産会社にも税理士にも頼まない自分用の数字です。相手の数字を見る前に自分の数字を持っておくと、査定が高いか低いかを判断できます。

出典: 総務省 固定資産税の概要、国税庁 令和3年分の路線価等の補正について、国税庁 財産評価基準書(路線価図)

売却の同意と分筆の可否を確認する

3つ目の問いは、全員が売ることに同意できるかです。

  • 同意できるなら換価分割が候補に残ります。
  • 同意できないなら、代償分割(払える人がいる場合)か、期限付きの共有分割です。

これに加えて、土地が分筆できる広さと形なら、現物分割も残します。判定の材料は、接道義務と最低敷地面積、分筆で価値が下がらないかの2つです。

ここまでの3問で、候補は2つに絞れます。たとえば次のような絞り方です。

第1問第2問第3問残る候補
住みたい人がいる払える売却に同意なし代償分割、期限付きの共有分割
住みたい人がいる払えない売却に同意なし他の遺産で埋める現物分割、期限付きの共有分割
住みたい人がいない払える売却に同意あり代償分割、換価分割
住みたい人がいない払えない売却に同意あり換価分割(分筆できるなら現物分割も)

残った候補を同じ評価額で並べて査定と税額の試算を取る

残った2つの候補は、同じ評価額で並べると比べられます。

代償分割なら「受け取る側がもらう代償金の額」、換価分割なら「手取り÷人数」を、同じ基準の評価額で計算し、どちらが受け取る側に多いかを見ます。評価額の基準が違うと比べられないので、まず基準をそろえておきましょう。

確認の順番は、無料で早いものから有料で時間のかかるものへ進みます。

  1. 課税明細書と路線価で自分の概算を出す(無料・即日)
  2. 不動産会社の査定を、目的を伝えて複数社から取る(無料。1社の数字で決めない)
  3. 税理士に税額の試算を頼む(有料。実家を取る候補者ごとに出してもらう)
  4. 相続人の間で評価額に対立があるときだけ、不動産鑑定士の鑑定を取る(有料)

3の税額の試算は、「誰が取るか」の案ごとに出してもらいましょう。小規模宅地等の特例は取る人で有無が変わるため、1案だけの試算では比べようがなくなります。

「税理士に1案だけ試算してもらい、妹が取った場合の税額を知らないまま決めた」という声もあります。「兄が取る案」「妹が取る案」「売る案」の3つを並べて初めて、家族全体の手取りが見えます。

「最初に査定だけ取って、結局どの方法にするかは決まらなかった」と振り返る経験者もいます。査定は4つの確認のうちの1つで、候補を絞った後に、絞った候補を比べるために使う数字です。

申告期限と相続登記の期限から決める日を置く

最後に置くのは、決める日です。

期限から日を数えて決めておかないと、相続から1年が過ぎ、未分割のまま申告することになりがちです。「決める日を置かずに1年過ぎ、未分割で申告した」という声もあります。

基準は相続税の申告期限10か月(相続税法27条1項)です。ここから、評価額の確認、協議、協議書の作成、相続登記に要る期間を引いた日を「決める日」にします。目安は相続から半年前後です。

換価分割を選ぶなら、さらに売却にかかる期間を見込みます。

決める日を過ぎそうなら、未分割申告と「申告期限後3年以内の分割見込書」を先に準備しておきます。分割が遅れても、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を後から使えるようにしておく手当てです。

相続登記の3年の義務(不動産登記法76条の2)は、相続人申告登記(同法76条の3)で先に履行しておけば、協議がまとまるまで共有名義の登記をせずに済みます。

決める日を置くのは、兄弟・姉妹を急かすためではなく、期限に追われて安く売ったり、未分割のまま特例を失ったりしないよう、自分たちで先に日を決めておくためです。

出典: e-Gov法令検索 相続税法、e-Gov法令検索 不動産登記法、国税庁 タックスアンサーNo.4208 相続財産が分割されていないときの申告

まとめ:実家の分け方は住む人・払える人・売る同意の3つの問いで絞る

4つの方法は、実家を残すか売るかと、取り分の差額を何で埋めるかの2点で分かれ、実家が1つで預金が少ない家は、代償分割か換価分割に落ち着きます。どちらが受け取る側に多いかは、同じ評価額で代償金の額と手取りを並べて初めて分かり、費用と税金を引くと代償分割のほうが多くなることもあります。

次の一歩は、固定資産税の課税明細書に載っている土地の評価額を0.7で割り、自分で時価の目安を出すことです。この概算を飛ばして査定だけ取ると、代償金がいくら要るか誰も分からないまま協議が止まり、査定の数字に引きずられて他の方法と比べられなくなります。

目安が出たら、住み続けたい人、代償金を払える人、全員の売却同意の3つの問いを順に当てて、残った2つの候補を同じ評価額で比べてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、実家を現物・代償・換価・共有のどれで分けるかの比較も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。