抵当権や住宅ローンが残る実家の確認|残高・団信・抹消・相続と売却の条件

「実家の登記を取ったら、乙区に抵当権が載っていて、債権額の欄に数千万円の数字があった」という場面で、まず知っておきたいのは、その金額がいまの残高ではないことです。

登記には借りた当初の額や借りられる枠の上限が載り続ける仕組みなので、とっくに完済しているのに親が抹消の手続きをしなかっただけ、という実家も多くあります。

乙区のどこを見るか、残高をどこで確かめるか、団信で消えるか、抵当権を消す条件、残債が残るときに相続と売却がどう変わるかを、登記を見た人が確かめる順にまとめました。

登記の乙区で担保を確認する項目|抵当権者・債務者・債権額・共同担保目録

乙区に抵当権があることと、借金が残っていることは別の話です。

登記事項証明書は、表題部(土地や建物の広さなど)・権利部の甲区(所有者)・権利部の乙区(所有権以外の権利)に分かれていて、抵当権や根抵当権は乙区に載ります。

乙区の「債権額」や「極度額」は、いまの残高と別物です。債権額は借りた当初の額、極度額は借りられる枠の上限で、いくら返したかは登記に書かれない仕組みです。

もうひとつ、借金を完済しても、抵当権の登記は所有者側が抹消を申請してはじめて消えます(法務省)。親が完済後に抹消の手続きをしなかった、費用を惜しんで後回しにした、という理由で登記だけが残っている実家は多くあります。

乙区の各欄が示すことと示さないことは、次の表の通りです。

乙区の欄分かること分からないこと
登記の目的抵当権か根抵当権か残高
抵当権者(根抵当権者)誰に担保を差し入れたか(登記した当時の名前)現在の社名・承継先
債務者誰の借入のための担保か(親本人か、親の会社・第三者か)返済状況
債権額・極度額当初の借入額・借りられる枠の上限残高・完済の有無
受付年月日いつ担保を付けたか完済したか(古さから推測はできる)
下線下線付きの事項は抹消・変更済み―
共同担保目録同じ担保が付いている他の土地・建物目録に載らない別の借入

登記を取り寄せる手段と料金

登記は、他人の不動産でも誰でも取れます。

親が存命でも、親の同意なしに実家の登記そのものは確認できます。残高は別で、残高の確かめ方の章で扱います。

取り方は2通りです。内容を見るだけなら、インターネットの「登記情報提供サービス」が安く、全部事項が1件330円です。ただし証明文や公印が付かないため、手元で確かめる用途に限られます(一般財団法人民事法務協会)。

金融機関や裁判所に出す書類として必要なら、法務局の「登記事項証明書」が要ります。手数料は、2026年10月時点で書面請求が1通600円、オンライン請求で窓口受け取りが490円、オンライン請求で郵送受け取りが520円です(法務省。2025年4月1日改定後の額)。

手数料は改定されるので、申請時の額は公式サイトで確かめておきましょう。

注意点は、土地と建物を別々に取ることです。土地と建物は別の不動産なので、片方にだけ古い抵当権が残っていることがあります。

請求時に「共同担保目録付き」と指定すると、目録が付いてきます。目録は担保の全体像を知る手がかりになるので、必ず付けて取っておくと安心です。

まず登記情報提供サービスで1件ずつ中身を見て、提出が必要になった段階で証明書を1通取れば、兄弟・姉妹の人数分を取らずに費用を抑えられます。

出典: 法務省「登記手数料について」、一般財団法人民事法務協会「登記情報提供サービスとは」

抵当権者欄で分かる債権者と現在の承継先

抵当権者欄で分かるのは「誰に担保を付けたか」で、いま誰が債権者かは別に追うことになります。

抵当権者(根抵当権者)の欄には、担保を差し入れた相手の名前が載ります。銀行・信用金庫・農協・住宅金融公庫(現在の住宅金融支援機構)・保証会社・信販会社・勤務先の会社・個人など、種類はさまざまです。

登記には、設定した当時の名前が残ります。合併や社名変更があっても抵当権者側が自分で名義を変える例は少なく、相続で見つかる登記では、すでに存在しない銀行名や合併前の名前のままという例が多くあります。

現在の承継先を追う方法は、次の通りです。

  • 銀行は、全国銀行協会の「銀行変遷史データベース」で、設立・合併・商号変更の流れを前身から後継へたどれます(全国銀行協会)
  • 旧住宅金融公庫の抵当権は、住宅金融支援機構が引き継いでいます(住宅金融支援機構)
  • 旧住宅金融専門会社(住専)の債権は、整理回収機構が買い取って管理しています(衆議院の質問主意書に対する答弁書)
  • 保証会社や信販会社は、親会社の金融機関の名前で探すと見つかりやすいです

残高を照会する先は、この「現在の債権者」です。登記の名前のままでは問い合わせ先が決まらないので、ここで承継先まで突き止めておくと、残高の照会をすぐ始められます。

登記上の名前と現在の名前が違うときに抹消登記で何を添えるかは、抵当権を消す条件の章で扱います。

出典: 全国銀行協会「銀行変遷史データベース」、住宅金融支援機構「完済された方」、衆議院「整理回収機構・預金保険機構の債権回収業務に関する質問に対する答弁書」

債務者欄で分かる親本人の借入か物上保証か

乙区の「債務者」欄は、見落とされやすいのに、相続への影響がいちばん大きい欄です。

ここが亡くなった親本人なら、親の借入のための担保です。親の会社や、親の兄弟・知人など第三者の名前なら、実家は「物上保証」として他人の借入の担保になっている状態です。

物上保証の場合、返済義務を負うのは債務者で、実家の所有者は担保を提供しているにとどまります。親が亡くなっても、債務者の借金は相続人に移らず、債務者のもとに残ります。

ただし、債務者が返済を止めれば、担保である実家が競売にかけられる可能性は残ります。この違いの詳細と対応は、相続と売却への影響の章で扱います。

もうひとつ見るのは、「連帯債務者」の記載です。住宅ローンを夫婦や親子で借りている場合、債務者欄に2人の名前が並ぶことがあります。

ここに自分や配偶者、兄弟・姉妹の名前があれば、相続とは別に、その人自身がもともと返済義務を負っています。相続放棄をしても自分の連帯債務は残るので、名前の有無は最初に確かめておきましょう。

債権額と極度額の欄が示す借入の枠と残高の違い

金額の欄は「債権額」なら当初の借入額、「極度額」なら枠の上限で、どちらも残高とは別物です。

「登記の目的」欄が「抵当権設定」なら、金額の欄は「債権額」です。借りた当初の額で、たとえば30年前に3,000万円を借りたなら、ほとんど返し終わっていても登記には3,000万円と載り続けます。

「根抵当権設定」なら、金額の欄は「極度額」です。根抵当権は、決めた枠の中で何度でも借りたり返したりできる担保で、事業の運転資金などに使われます。

極度額は「この枠まで担保する」という上限で、実際の借入はそれより少ないこともあります(民法398条の3)。極度額5,000万円でも、いまの借入がゼロということもあります。逆に、いったん完済していても枠が生きていれば、また借りられます。

どちらの場合も、残高は登記ではなく債権者の記録にだけあります。その確かめ方は、残高の確かめ方の章でまとめます。

根抵当権の債務者が親本人だった場合、相続開始から6か月という期限が絡みます(民法398条の8)。これは相続と売却への影響の章で扱います。

利息や損害金の率も乙区に載ります。残債があって返済が遅れたときの負担を見積もるのに使えますが、まずは「抵当権か根抵当権か」「金額は枠か当初額か」を押さえれば十分です。

出典: e-Gov法令検索「民法」

受付日と下線で分かる抹消済みの担保と古い担保

乙区に複数の記載があっても、生きている担保はそのうちの一部ということがよくあります。

抹消や変更がされた事項は、消されるのではなく下線を引いた状態で残ります。下線のある抵当権は、すでに抹消済みです。「乙区に3つ載っていたが、下線を外すと生きているのは1つだけだった」という読み方ができれば、不安はかなり減ります。

下線のない抵当権は、受付年月日を見てみてください。受付日は担保を付けた日で、住宅ローンならその日から返済が始まったと考えられます。

受付日が30年以上前なら、返済期間から見て完済している可能性が高く、登記だけが残っている例を疑えます。特に旧住宅金融公庫の抵当権は、完済後に書類を受け取ったまま手続きをしていない例が多い種類です。

順位番号が複数あれば、担保が重なって付いています。1番が住宅ローン、2番が事業の借入、という組み合わせがよくあります。順位ごとに抵当権者と債務者を見ると、それぞれが誰の・いつの借入かを分けて読めます。

経験者の声:登記の金額をそのまま借金だと思い込んでいた

「登記に債権額3,000万円の抵当権が載っていて、しばらく眠れなかった。銀行に相続人として問い合わせたら、20年前に完済していて、抹消の書類は父が受け取ったまま放置していたと分かった」(父の死後に実家の登記で古い抵当権を見つけた方)

共同担保目録で分かる他の不動産への担保設定

共同担保目録は、同じ担保が付いている不動産の一覧です。

ひとつの借入に対して、土地と建物、さらに別の土地など複数の不動産をまとめて担保に入れることがあります。乙区の抵当権に「共同担保 目録(あ)第○○号」のような記載があれば、目録まで見ておきましょう。

目録に実家以外の不動産が載っていれば、実家の登記だけでは担保の全体が見えず、親の別の土地、親の会社の建物、親族の家などが出てくることがあります。逆に、実家の建物にだけ担保が付いていて土地には付いていない、という例もあり、土地と建物を両方取る理由はここにもあります。

目録は、登記事項証明書の請求書で「共同担保目録付き」にチェックを入れると付いてきます。登記情報提供サービスでも、請求時に共同担保目録を含める指定ができます。目録に載る不動産が他県にあっても、同じ方法で登記を取れます。

ここまでで、「誰に(抵当権者)」「誰の借入で(債務者)」「どの種類の担保で(抵当権か根抵当権か)」「どこまで(共同担保目録)」が読めました。残るのは「いくら残っているか」で、これは債権者の記録で確かめます。

借金の残高を確かめる方法|金融機関・信用情報機関・手元の書類

残高は、債権者(お金を貸している側)の記録にだけあります。

登記・役所・税務署のどこにも残高の記録はなく、債権者の記録にたどり着くことが「いくら残っているか」を知る手段になります。

経路は3つです。

  • 手元の書類から読む
  • 債権者である金融機関に相続人として照会する
  • 信用情報機関に法定相続人として開示を求める

この順に進めると、早く・安く・漏れなく確かめられます。どれも相続人が一人で動けて、兄弟・姉妹全員の同意がなくても進められます。

照会先は、登記の抵当権者欄の名前ではなく、乙区の読み方の章で突き止めた「現在の債権者」です。

返済予定表・年末残高証明書・通帳から残高を読む方法

最初に探すのは、親の家にある書類です。

金融機関に照会すれば正確ですが、戸籍をそろえて郵送して回答を待つまでに数週間かかります。手元の書類で先におおよその残高を知っておくと、放棄を検討するかの判断を早く始められます。

「返済予定表」(償還表・償還予定表)は、借入時や金利の見直し時に金融機関から届く表で、回ごとの返済額と返済後の残高が載っています。直近のものが1枚あれば、今月時点の残高を自分で読めます。

住宅ローン控除を受けていた親なら、毎年10月ごろに「年末残高証明書」が届いています。その年の年末時点の残高見込みを金融機関が証明した書類で、最新の1枚で残高の目安が分かります。

通帳も手がかりです。毎月同じ日に同じ額が引き落とされていれば、その引き落とし先がいまの債権者です。

注意したいのは、引き落とし先の名前が登記の抵当権者と違う場合です。保証会社や信販会社、債権回収会社の名前になっていれば、返済が滞って保証会社が代わりに返済した(代位弁済)あと、債権者が移っている可能性があります。

その場合、残高には遅延損害金が上乗せされていることがあるので、照会のときに損害金の有無も聞いておきましょう。

督促状や「期限の利益喪失」の通知が届いていれば、分割で返す約束が崩れて一括返済を求められている状態です。この場合は、金融機関への照会を急ぐ場面です。

金融機関へ相続人として残高証明書と取引履歴を請求する手順

正確な残高は、債権者である金融機関に相続人として「残高証明書」を請求して確かめます。

必要なら「取引履歴」(入出金の明細)も一緒に頼めます。残高証明書には基準日(いつ時点の残高か)が入るので、相続開始日(死亡日)を基準日にしてもらうと、相続税の申告や相続放棄の判断にそのまま使えます。

請求に必要なのは、次の3点です。

  • 亡くなった親の死亡が分かる戸籍(除籍)
  • 自分が相続人であることが分かる戸籍
  • 自分の本人確認書類

金融機関ごとに様式や手数料が違うので、ローンを組んだ支店か、金融機関の相続専用窓口(相続センターなど)に先に電話して、必要書類と送り先を確かめておくと一度で済みます。相続人の一人が単独で請求できるのが通常の扱いですが、金融機関によって運用が違うので、断られたら理由を聞いてみてください。

ここで知っておきたいことが2つあります。

ひとつは、金融機関に死亡を伝えるとその日から親の口座が凍結され、口座からの引き落としが止まることです。住宅ローンの返済が親の口座から引き落とされていた場合、止まったままだと延滞扱いになります。

死亡を伝えるときに「返済はどう続ければよいか」(相続人の口座への変更・振込への切り替え)を同じ場で聞いておきましょう。

もうひとつは、同じ窓口で団信(団体信用生命保険)の加入の有無を聞くことです。団信で残債が消えるなら、残高の数字の意味が変わります。団信の手続きは団信の章で扱いますが、問い合わせは残高照会と一度に済ませると手間が減ります。

信用情報機関3社の法定相続人開示で分かる借入と分からない借入

登記に載らない担保なしの借入は、信用情報機関への開示請求で調べられます。

登記に載っている抵当権は、担保を付けた借入だけです。親がカードローンや消費者金融から担保なしで借りていれば登記には出ず、亡くなった人の信用情報を法定相続人として開示してもらう方法で調べます。

信用情報機関は3つあり、それぞれ会員の業種が違います。1社だけ調べても全体は分からず、3社すべてに出して、初めて借入の全体像が見えます。

機関主な会員法定相続人の申込方法手数料(2026年10月時点)回答までの目安
全国銀行個人信用情報センター(KSC)銀行・信用金庫・信用組合・労働金庫・農協・保証会社など郵送2,403円(コンビニで買う利用券。開示手数料2,060円+発券手数料)現在は通常より日数がかかると案内
CICクレジットカード会社・信販会社・貸金業者など郵送1,500円(コンビニ利用券なら1,650円)法定相続情報一覧図を出せば約10日、戸籍一式なら約20日
JICC(日本信用情報機構)消費者金融・クレジット会社など郵送2,177円(コンビニで買う利用券)書類到着後7〜10日

必要書類は3社とも似ていて、次の4点です。

  • 開示申込書(法定相続人用)
  • 自分の本人確認書類
  • 親の死亡が分かる戸籍(除籍)
  • 自分が法定相続人であることが分かる戸籍

法務局で取れる「法定相続情報一覧図の写し」があれば、戸籍一式の代わりになり、CICでは回答も早くなります(各機関の公式案内)。回答は本人限定受取郵便で自宅に届くので、必ず自分で受け取ることになります。

KSCは2025年12月と2026年4月に申込書を改定しているので、申込時点の公式サイトから様式を取り、手数料と書類もそのときの案内で確かめておきましょう。

開示結果では、契約先・契約日・残債額・返済状況(入金の有無・延滞・代位弁済の事実)・完済日が読めます。「完済」の記録があれば、登記に残る抵当権が抹消漏れであることの裏づけになります。

ただし、信用情報で分からない借金があります。個人からの借入、税金や社会保険料の滞納、未払いの医療費や介護費、親が誰かの保証人になっていた保証債務は、信用情報の対象外です。

また、KSCの取引情報は契約終了日(または完済日)から5年を超えない期間で消えるので(全国銀行協会)、古い借入の記録はすでに消えていることがあります。開示結果が空でも「借金なし」と言い切れる材料にはならないので、手元の郵便物や通帳の洗い出しと並行して進めると漏れが減ります。

経験者の声:3社に出して初めて知った借入があった

「銀行の住宅ローンだけだと思っていたが、3社に開示を出したら、父が話していなかったカードローンの残債が出てきた。登記だけ見ていたら気づかなかった」(亡くなった父の借入を調べた方)

出典: 全国銀行個人信用情報センター「郵送による本人開示手続」、CIC「郵送で開示する」、JICC「法定相続人等による開示」、全国銀行個人信用情報センター「センター概要」

相続放棄を検討中に残高を調べるときの注意点

残高の照会や信用情報の開示は相続財産の調査にあたり、調べたあとでも相続放棄を選べます。

「相続放棄を考えているのに、相続人として残高を照会したら、相続を認めたことになるのではないか」。この不安は多くの人が持ちます。

民法は、相続人が承認や放棄をする前に相続財産の調査をすることができると明記しています(民法915条2項)。放棄できなくなるのは、相続財産を「処分」したとき(民法921条1号)で、調べることは処分と区別されています。

気をつけるのは、調べる過程で財産に手を付けないことです。親の預金からローンを返す、預金を引き出して使う、実家の家財を売るといった行為は処分に当たるおそれがあります。残高証明書の請求と信用情報の開示にとどめ、返済や引き出しは放棄を決めるまで控えておきましょう。

期限にも注意が要ります。放棄できるのは、自分が相続人になったことを知った時から3か月以内です(民法915条1項)。信用情報の回答に2〜3週間、金融機関の残高証明にも数週間かかるので、死亡から日がたってから調べ始めると3か月は短く感じます。

間に合わないときは、3か月が過ぎる前に家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てられます。費用は相続人1人につき収入印紙800円と連絡用の切手です(東京家庭裁判所の案内)。

法律相談の掲示板には「相続人として照会するのだから矛盾する」という趣旨の回答もあります。実際には、金融機関も信用情報機関も「法定相続人」からの開示を正式な手続きとして受け付けています。不安が残る場合や、すでに何かに手を付けてしまった場合は、放棄を決める前に弁護士に確かめてみてください。

出典: e-Gov法令検索「民法」、東京家庭裁判所「相続の承認又は放棄の期間の伸長」

親が存命中に住宅ローンの残高を確認する方法

親が存命のうちは、残高は本人か本人の同意を得た人だけが照会できます。

登記は同意なしで取れますが、残高は別です。子が親に断りなく金融機関に問い合わせても、金融機関は本人以外への回答を断ります。

現実的な方法は、親と一緒に書類を見ることです。返済予定表、年末残高証明書、インターネットバンキングの残高画面を見せてもらえば、残高・完済予定・金利が分かります。

「相続のため」と切り出しにくいなら、「登記を取ったら抵当権があったので、いまの残りを知っておきたい」と、登記を見たことから話すほうが自然です。

同時に確かめておきたいのは、契約書(金銭消費貸借契約証書)の名義です。子が連帯債務者・連帯保証人・担保提供者として名前が載っていれば、相続とは別に子自身の責任が続きます。親の住宅ローンに子が連帯保証人として入っている例もよくあり、団信の加入と有効性も、このとき一緒に確かめられます。

親に認知症の症状があり同意が取れない場合は、成年後見などの手続きが絡むため、別の記事で扱います。

団信で住宅ローンを完済させる流れ|加入の確認から請求・完済まで

団信(団体信用生命保険)に入っていれば、保険金で残りのローンが返され、相続人は住宅ローンを引き継がずに済みます。

団信は、住宅ローンを借りた人が亡くなったときに、保険金で残りのローンを返す仕組みです。

ただし、団信は自動では働きません。金融機関は、相続人からの連絡で初めて借りた人の死亡を知ります。相続人が連絡し、書類を出し、保険会社の審査を通って、初めてローンが完済されます。

そして保険金の請求権には3年という期限があります(保険法95条)。「入っていたはず」で止まっていると、ローンを払い続けたまま期限を迎えることもあります。

団信の中身は金融機関と保険会社によって違うので、親の契約そのものは契約書と借入先で確かめてみてください。

団信の加入と保障が有効かを確認する方法

加入の有無に加えて、「いまも有効か」まで確かめる必要があります。

加入の有無は、金銭消費貸借契約証書の団信に関する欄、返済予定表、団信の加入者証や保険証券、金融機関への問い合わせで分かります。残高照会のときに同時に聞くのが早道です。

加入していたのに保障が切れている例は、次の3つがよくあります。

ひとつ目は、そもそも入っていない場合です。民間の銀行の住宅ローンは団信加入を条件にするものが多いですが、住宅金融支援機構のフラット35は、健康上の理由その他の事情で団信に加入しなくても融資を受けられます(住宅金融支援機構)。

高齢で組んだ親や、持病で加入できなかった親は、未加入のことがあります。借り換えのときに健康状態で団信に入れず、団信なしで組み直した例もあります。

ふたつ目は、途中で脱退している場合です。フラット35は2017年9月以前の申込分では、団信の特約料を毎年別に払う方式でした。機構の定める期限までに特約料を払わないと脱退となり、一度脱退すると再加入できない扱いです(住宅金融支援機構)。

親が払い忘れたまま脱退していた、という例があります。2017年10月以降の申込分は団信の費用が月々の返済額に含まれているので、払い忘れによる脱退は起きない仕組みです。

三つ目は、年齢の上限です。フラット35の新機構団信の保障は、満80歳の誕生日の属する月の末日までです(住宅金融支援機構)。民間の団信でも満80歳までを目安に保障が終わる契約が多く見られます。

親が80代で亡くなり、ローンが残っていた場合、保障期間を過ぎていることがあります。

親が存命なら、ここまでを一緒に確かめておきましょう。未加入や脱退が分かれば、別の生命保険で備えているかを含めて、親と話し合う材料になります。

出典: 住宅金融支援機構「新機構団信の加入要件・保障内容」、住宅金融支援機構「特約料について」

死亡連絡から団信弁済届と死亡診断書の提出までの手順

手続きの入口は、借入先の金融機関への連絡です。

ローンを組んだ支店か、相続専用の窓口に電話し、「団信の請求をしたい」と伝えると、請求に使う書類の案内が届きます。残高照会と口座の相続手続きも、同じ窓口で一度に始められます。

中心になるのは「団信弁済届」(名称は金融機関ごとに違います)と、死亡を証明する書類です。死亡を証明する書類は、役所に出した死亡診断書の写しで済む場合と、保険会社所定の用紙に医師が記入した死亡証明書が必要な場合があります。

たとえばフラット35の新機構団信では、死亡日が保障開始から2年を超えていれば死亡診断書の写し、2年以内なら保険会社所定の死亡証明書が原則です(住宅金融支援機構)。

つまずきやすいのは、死亡診断書の扱いです。死亡診断書は死亡届と一緒に役所へ出すため、写しを取っておかないと手元から消えます。

写しがなければ、病院で再発行してもらうか、保険会社所定の用紙に医師に書いてもらうことになり、1か月単位で遅れます。葬儀の前後で死亡診断書のコピーを数枚取っておくと、団信に限らず各種の手続きで使えます。

これに加えて、相続人であることを示す戸籍や、届出人の本人確認書類を求められます。金融機関によっては提出期限の目安(「死亡から2か月以内」など)を案内しているので、案内に沿って動くと審査がそのまま進みます。

出典: 住宅金融支援機構「団信弁済パンフレット(新機構団信制度加入者用)」

審査から完済までの期間と審査中の引き落としの返還

書類を出してから完済までは、通常1か月程度が目安です。

書類を出すと、保険会社が支払いの可否を審査します。フラット35の新機構団信では、必要書類を取扱金融機関に提出してから完済まで通常1か月程度とされています(住宅金融支援機構)。民間の団信もおおむね同じくらいが目安で、保険会社が家族や主治医に確認を取る場合は、さらに日数がかかります。

審査中に避けたいのが、返済を止めることです。審査が通るまでは、ローンはまだ残っています。返済を止めると延滞になり、団信の条件に影響することもあります。

これまでどおり相続人が返済を続け、審査で完済が決まったら、死亡日以降に払った返済分は後から戻ってきます(住宅金融支援機構)。民間の金融機関でも同じ扱いが一般的です。

保険金は、保険会社から金融機関に直接支払われ、相続人の手元を通らずにローンが消えます。生命保険のように「保険金を受け取る」形とは違います。

完済が決まると、金融機関から完済の通知と、抵当権を消すための書類一式(解除証書・委任状・登記識別情報など)が届きます。団信でローンが消えても、登記の抵当権はこの書類で抹消登記をして初めて消えます。手順は抵当権を消す条件の章で扱います。

経験者の声:団信で完済されると知らず払い続けた

「父が亡くなってから半年、母の口座からローンを払い続けていた。相続登記を頼んだ司法書士に『団信は確認しましたか』と聞かれ、銀行に連絡したら加入していた。請求して1か月ほどで完済になり、半年分は戻ってきた」(父の住宅ローンが残る実家を母と相続した方)

出典: 住宅金融支援機構「団信弁済パンフレット(新機構団信制度加入者用)」

団信の請求権が消える3年の期限

保険金を請求する権利は、行使できる時から3年間行使しないと時効で消えます(保険法95条1項)。

団信も保険なので同じで、金融機関の約款でも「3年以内に請求がないと権利がなくなる」と定めるのが通常です。住宅金融支援機構も、3年以内に手続きをしないと請求権が時効となり、債務が完済されないことがあると案内しています(住宅金融支援機構)。

請求漏れが起きやすいのは、実家を放置していた場合です。親が一人暮らしで亡くなり、ローンの引き落としが親の口座から続いていた、金融機関からの郵便物を誰も開けていなかった、相続人同士で誰が手続きをするか決まらなかった。こうした状態で2年、3年と過ぎることがあります。

死亡から時間がたっている場合でも、諦めずにまず金融機関に連絡してみてください。3年を過ぎていても、金融機関の判断で請求を受け付ける例はあります。ただし受け付けられる保証はないので、期限が近いなら連絡を最優先にしましょう。

出典: e-Gov法令検索「保険法」、住宅金融支援機構「団信弁済パンフレット(新機構団信制度加入者用)」

団信が使えない条件と残債の引き継ぎ

団信で完済されない条件は、おおむね次の5つです。

  • 未加入
  • 特約料の未払いなどによる脱退
  • 保障の年齢上限を過ぎている
  • 加入時の告知義務違反(持病を申告していなかったなど)による契約の解除
  • 免責事由(加入後一定期間内の自殺など)に当たる

保障の範囲にも違いがあります。民間の団信は「死亡・高度障害」が基本ですが、フラット35の新機構団信は「死亡・身体障害者手帳1級または2級」で、高度障害は保障の対象外です(住宅金融支援機構)。親が存命で重い障害の状態にある場合、生前に請求できるかは契約の保障範囲によります。

団信が使えないと分かったら、残債は親の債務として相続財産に含まれます。団信なしの残債を相続人がどう引き継ぐか、住む人が一人で引き受けられるか、売って返すか、放棄するかは、相続と売却への影響の章で扱います。

残債の金額は残高証明書で確定させておくと、その判断をすぐ始められます。

出典: 住宅金融支援機構「新機構団信の加入要件・保障内容」

団信ありと団信なしで変わる相続税の債務控除

団信ありの残債は相続税で差し引けず、団信なしの残債は差し引けます。

相続税の計算では、亡くなった人の借入金など、支払うことが確かな債務を、相続財産の価額から差し引けます(国税庁)。住宅ローンの残債も、この債務控除の対象になりそうに見えます。

ところが、団信で完済されるローンは別扱いです。国税庁は「相続税の申告書で誤りやすい事例」として、団信で返済が免除される住宅ローンを債務として記入した誤りを挙げ、「相続人が支払う必要のない債務ですので、相続税の課税価格の計算上、債務として差し引くことはできません」と説明しています(国税庁)。

相続開始日に残高があっても、後日団信で免除される分は債務にならない、という扱いです。

逆に、団信なしの残債は、相続人が実際に引き継ぐ債務なので、債務控除の対象になります。団信の保険金そのものは金融機関に直接払われ、相続人が受け取る財産ではないため、相続財産に含めずに計算します。

実家の評価額と他の財産を合わせて基礎控除を超えそうな場合、団信の有無で申告の内容が変わります。相続税の計算そのものは税理士に確かめてみてください。押さえておくのは、「団信ありの残債は引けない、団信なしの残債は引ける」の一点です。

出典: 国税庁「相続税の申告書で誤りやすい事例13 団体信用生命保険契約により返済が免除される住宅ローン」、国税庁「No.4126 相続財産から控除できる債務」

抵当権を消す条件|完済後の抹消登記・書類の紛失・債権者が不明の場合

抵当権を消す条件は、借金が消えていること、債権者の書類がそろっていること、所有者と申請人の名義が一致していることの3つです。

  • 担保していた借金が消えている(完済・団信による完済・解除)
  • 債権者が出す書類がそろっている
  • 登記上の所有者と申請する人の名義が一致している

この3つがそろえば、抹消登記は自分でもできる種類の登記です。

逆に言えば、どれかが欠けているときは、欠けたものを補うことになります。親の名義のまま、債権者の名前が変わっている、書類をなくした、債権者がもう存在しない、といった場面ごとに、何が要るかが変わります。

残債があるうちは抹消できず、売却代金で返して決済の日に消す流れは相続と売却への影響の章で扱います。

完済後の抵当権抹消登記に必要な書類と費用

抹消登記に添える書類は、債権者から届く4点です(法務省民事局の案内)。

  • 登記原因証明情報。「解除証書」「弁済証書」など、債権者が抵当権の消滅を証明する書類
  • 登記識別情報(または登記済証)。抵当権を設定したときに債権者に通知されたもので、「登記識別情報通知」という書面か、設定契約書に「登記済」の押印があるもの
  • 債権者の委任状(代理権限証明情報)。債権者が所有者に登記申請を任せる書面
  • 債権者の会社法人等番号。金融機関からの書類に書かれていることが多く、申請書に番号を書けば履歴事項証明書の添付を省けます

これらは完済時に金融機関から一式で届きます。登記申請書は自分で作ります。

法務局は申請書の作成を代行せず、法務局での登記手続案内は予約制です(法務省)。様式は法務局のサイトにあり、抵当権抹消は記載例も公開されています。

費用は、登録免許税が不動産1個につき1,000円です(登録免許税法別表第一)。土地1筆と建物1棟なら2,000円で、収入印紙で納めます。

自分で申請すれば、登記事項証明書の取得費を含めて数千円で済みます。司法書士に頼む場合の報酬は事務所によって異なり、1万5千円から2万5千円程度が目安とされることが多いです。

届いた書類は、できるだけ早く提出しましょう。金融機関の委任状や印鑑証明書には日付があり、長く置くと取り直しになることがあります。法務省も、書類を受け取ったら紛失・汚損しないようにして速やかに申請するよう勧めています(法務省)。

出典: 法務省民事局「抵当権の登記の抹消 登記申請手続のご案内」、e-Gov法令検索「登録免許税法」

親名義のままの実家で先に必要な相続登記

親が完済していた抵当権を相続人が消すには、先に相続登記をしてから抹消登記をするのが通常の順番です。

抹消登記は、不動産の所有者(権利者)が申請します。所有者が亡くなった親のままだと、申請する相続人と登記上の所有者が一致しないため、先に所有者を相続人に変える登記が要ります。

相続登記と抹消登記は、同じ日に続けて申請できます(連件申請)。司法書士に相続登記を頼むなら、抹消も一緒に頼むと、書類の確認や法務局への提出がまとまり、別々に頼むより報酬を抑えやすい傾向があります。

相続登記は、不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請する義務があります(不動産登記法76条の2)。期限がある相続登記と、期限のない抹消登記をひとまとめに済ませると、二度手間を避けられます。

もうひとつ前提になるのが、所有者の住所です。登記上の所有者の住所が現在(死亡時)の住所と違う場合、本来は住所変更登記が先に要ります(法務省)。

相続登記をする場合は、相続登記の中で住所のつながりを戸籍の附票などで示すので、別途の住所変更登記は通常省けます。司法書士に頼むときは、この点も含めて確かめてもらえます。

出典: e-Gov法令検索「不動産登記法」、法務省民事局「抵当権の登記の抹消 登記申請手続のご案内」

抵当権者の合併や社名変更で登記と名前が違うときの扱い

合併や商号変更なら、抵当権者側の名義を変える登記なしで抹消できます。

登記上の抵当権者の名前と、いまの債権者の名前が違うことはよくあります。合併や商号変更の場合、抹消登記の申請で、変更の経緯が分かる書類(その金融機関の商業登記簿謄本など)を添えれば済みます(法務省)。

会社法人等番号を申請書に書けば、法務局が登記記録で確認できるので、添付を省けることもあります。金融機関から届く書類に、合併の経緯を示す書類が同封されているのが通常です。

注意が要るのは、合併ではなく「債権が移った」場合です。保証会社が代位弁済して債権者になった、債権が別会社に譲渡された、という場合は、登記上の抵当権者から現在の債権者へ抵当権が移転しています。

この場合は、抹消の前に抵当権の移転登記が要り、抹消書類も現在の債権者から出ます。通帳の引き落とし先が保証会社や債権回収会社になっていたなら、この可能性があります。

旧住宅金融公庫の抵当権も同じ構造です。2007年(平成19年)3月31日までに完済したものは旧公庫名義のまま抹消できますが、同年4月1日以降に完済したもので機構への移転登記が済んでいない場合は、先に旧公庫から住宅金融支援機構への移転登記が要ります。この移転登記の費用は機構が負担します(住宅金融支援機構)。

出典: 法務省民事局「抵当権の登記の抹消 登記申請手続のご案内」、住宅金融支援機構「完済された方」

抹消書類を紛失したときの再発行と登記識別情報の代替手段

解除証書や委任状は金融機関が再発行に応じ、登記識別情報だけは別の手続きで補います。

親が完済時に受け取った抹消書類を、どこにしまったか分からない、という場面は相続でよくあります。まずは書類棚や金庫、ローン関係のファイルを探してみてください。

「抵当権解除証書」「抵当権抹消についての委任状」「登記識別情報通知」といった表題の封筒や書類が、未提出のまま出てくることがあります。

経験者の声:抹消書類が未提出のまま出てきた

「父の書類棚から、銀行の封筒に入った抵当権抹消の書類一式が出てきた。日付は15年前。完済したあと、法務局に出すのが面倒で置いたままだったらしい。委任状の日付が古かったので、銀行に連絡して新しいものを出してもらった」(完済済みの抵当権が残る実家を相続した方)

見つからなければ、再発行を頼めます。解除証書や委任状は、債権者である金融機関が再発行に応じるのが一般的です。

たとえば住宅金融支援機構は「抵当権抹消関係書類再交付申請書」に相続人用の様式を用意しており、必要書類の到着から3週間程度で送付され、再交付の手数料は機構が負担します(住宅金融支援機構)。民間の銀行でも相続人からの再発行依頼を受け付けており、3〜4週間程度を案内する例があります。

金融機関の相続窓口に、完済済みの抵当権の抹消書類を再発行してほしいと伝えてみてください。

登記識別情報(登記済証)は一度しか発行されず、再発行の対象外です。なくした場合は、登記識別情報を提供できない理由を申請書に示し、法務局が債権者に「本当に抹消してよいか」を確かめる事前通知の手続きに進みます(不動産登記法23条)。

住宅金融支援機構の案内では、機構は法務局が事前通知を発送した日から2週間以内に回答し、そのあと抹消登記がされるので、通常より日数がかかります。司法書士に頼む場合は、司法書士が作る本人確認情報で代える方法もあります。金融機関側が自社の登記済証をなくしている例もあり、その場合も同じ方法で進められます。

出典: 住宅金融支援機構「融資金完済時にお渡しした抵当権抹消に必要な書類がお手元にない方」、e-Gov法令検索「不動産登記法」

債権者が不明・解散した古い抵当権を所有者側から消す手続き

債権者と連絡が取れない古い抵当権でも、所有者側から単独で消す手続きが法律に用意されています(不動産登記法70条・70条の2)。

相続で見つかる古い抵当権には、債権者が個人で連絡先が分からない、会社がすでに解散している、というものがあります。「債権者がいないから消せない」と思われがちですが、消す手段は残っています。

抵当権者の所在が分からないときの方法は、大きく3つです。

ひとつ目は、裁判所に公示催告を申し立て、除権決定を得る方法です(70条1項・3項)。決定が出れば所有者が単独で抹消を申請できますが、手続きに時間がかかります。

ふたつ目は、借金を返したことを証明する情報(弁済証書など)を添えて単独で申請する方法です(70条4項前段)。古い書類が残っていれば使えますが、残っていないことが多いのが実情です。

三つ目は、供託を使う方法です(70条4項後段)。借金の弁済期(返し終わるはずだった日)から20年以上たっていて、登記に載る元本・利息・損害金の全額に相当する金額を供託所に供託すれば、供託書を添えて単独で抹消を申請できます(法務省の供託Q&A)。

昭和の時代に数十万円を借りた抵当権なら、利息と損害金を足しても供託額は少額で済むことが多く、司法書士がよく使う方法です。利息と損害金の計算は、法務省が計算ソフトを公開しています。

債権者が法人で解散している場合、清算人がいれば清算人と共同で申請します。清算人の所在も分からないときは、弁済期から30年かつ解散から30年が過ぎていれば、供託をせずに単独で抹消を申請できる制度があります(不動産登記法70条の2)。債権者が破産していれば、破産管財人が相手になります。

どの方法が使えるかは、抵当権の設定時期・弁済期の記載・債権者の種類で変わります。この種類の抹消は司法書士の得意分野なので、登記事項証明書を持って相談するのが早道です。旧住宅金融公庫の抵当権は、この手続きではなく、住宅金融支援機構から抹消書類を取り寄せて消します。

出典: e-Gov法令検索「不動産登記法」、法務省「供託Q&A Q29 休眠担保権抹消のための供託について」、福島地方法務局「休眠抵当権抹消のための供託」

抹消登記をしないまま相続や売却を進めたときの支障

完済済みの抵当権を残したままでも相続登記はできますが、売るときに決済が止まります。

相続登記は所有者を変える登記で、乙区の抵当権とは独立しています。抵当権が付いたまま相続人の名義にすること自体は、支障なく進みます。

支障が出るのは売るときです。買主と、買主にお金を貸す金融機関は、抵当権の付いた不動産を引き受けない立場です。売買契約には「引き渡しまでに抵当権を抹消する」という条件が入るのが通常で、抹消できなければ決済が止まります。

完済済みなら書類をそろえれば消せますが、書類の期限切れや再発行で1か月単位の遅れが出て、決済日が延びることがあります。

もうひとつの支障は、時間がたつほど消しにくくなることです。債権者が合併を重ねる、担当部署がなくなる、記録の保存期間を過ぎる、個人の債権者が亡くなる。こうなると、所有者側から単独で消す手続きが要るようになり、費用と時間が増えます。

全国銀行協会も、抵当権の登記が残ったままだと新たな融資を受けにくいなどの不利益が生じる可能性があると説明しています(全国銀行協会)。

さらに、登記に抵当権が残っていると、不動産会社や買主からは「借金が残っている物件」に見えます。完済済みなのに、残債があると思われたまま話が進む不利は避けたいところです。

まとめると、完済済みの抵当権は、相続登記と一緒に消しておくのがいちばん手間が少なく済みます。残債があって消せない抵当権は、売却代金で返して決済の日に消す流れになります。

出典: 全国銀行協会「抵当権抹消」

残債がある実家が相続と売却に与える影響|引き継ぐ・売る・放棄するときの条件

残債の額と実家の価値を比べて、引き継ぐ・売る・放棄するのどれにするかを決める段階です。

残高が分かり、団信では消えないと分かった。ここから先の選択肢には、それぞれ取り返しのつかない条件があります。

  • 遺産分割で決めただけでは債権者に通じない
  • 売ってしまうと放棄できない
  • 放棄しても家の管理責任がすぐには消えない
  • 物上保証なら放棄しなくても借金は来ない
  • 根抵当権には6か月の期限がある

任意売却や競売、相続財産清算人の手続きの進め方そのものには踏み込まず、選択肢ごとの条件の整理にとどめます。

引き継ぐ売る放棄する物上保証(債務者が親以外)
前提返済を続けられる人がいる相続登記と相続人全員の合意財産を処分していない相続人に返済義務はない
債権者の承諾一人で引き継ぐなら必要(免責的債務引受)残債が売却額を上回るなら必要(任意売却)不要担保を外すなら必要
取り返しのつかない行動協議書だけで安心して返済が滞る売る前に放棄の判断をしていない放棄前に財産を処分する「担保があるから」と早合点して放棄する
期限根抵当権なら6か月放棄を選ぶなら3か月以内に判断3か月(延長の申立てができる)―
相談先債権者・司法書士債権者・司法書士・複数の不動産会社弁護士・司法書士債権者・弁護士

残債が相続人に分かれる仕組みと住む人が引き継ぐ条件

団信なしの残債は法定相続分で各相続人に分かれ、一人が引き継ぐには債権者の承諾が要ります。

団信なしの残債は、亡くなった親の債務として相続財産に含まれ、法定相続分に応じて各相続人に分かれます。債権者は、遺言や遺産分割で相続分が指定されていても、法定相続分に応じて各相続人に請求できます(民法902条の2)。たとえば母と子2人なら、残債の2分の1を母に、4分の1ずつを子に請求できる、という形です。

誤解しやすいのが、遺産分割協議で決めたことがどこまで通じるかです。「実家は長男が相続し、ローンも長男が全部返す」と協議書に書いても、それは相続人の間での約束にとどまります。

債権者の承諾がなければ、債権者は他の相続人にも法定相続分で請求できます。長男の返済が滞れば、他の兄弟・姉妹に請求が来る、ということです。

住む人が一人で正式に引き継ぐには、債権者(金融機関)の承諾を得て、その人だけが債務者になる手続き(免責的債務引受)が要ります(民法472条)。金融機関は新しい債務者の収入・年齢・健康状態を審査し、新たな団信加入を求めるのが通常です。

審査が通らないこともあり、その場合は売却に切り替えることになります。「引き継ぐ」を考えるなら、遺産分割の話し合いより先に金融機関に引き継げるかを打診しておくと、話し合いをやり直さずに済みます。

残高が少ないなら、別の方法もあります。相続人で出し合う、または遺産の預金から(相続人全員の合意のうえで)一括で返済し、抵当権を消してから住む・売るを決める方法です。抵当権が消えた状態のほうが、住むにも売るにも貸すにも選択肢が広がります。

経験者の声:兄の引き継ぎは審査で通らなかった

「母が住み続けるために兄がローンを引き継ごうと銀行に相談したが、兄の年齢と収入で審査が通らなかった。結局、実家を売って残債を返し、母は近くの賃貸に移った。遺産分割で決める前に銀行に聞いておけば、話し合いが一度で済んだ」(父の住宅ローンが残る実家を母と兄弟で相続した方)

出典: e-Gov法令検索「民法」

残高と査定額の比較で決まる売却の条件と決済日の同時抹消

抵当権が付いたままでも売ることはでき、残高と売却できる額の比較で、通常の売却か任意売却かが決まります。

売却額が残高を上回るなら、売却代金で残債を返して抵当権を消し、残りを相続人で分けます。これは通常の売却と同じ流れです。

売主が先に抵当権を消しておかなくても、売買の決済日にまとめて消せます。決済日に、買主から受け取った代金で金融機関に返済し、その場で金融機関から抹消書類を受け取り、司法書士が抵当権抹消と所有権移転を同じ日に申請します。

売主側で事前に済ませておくのは相続登記(所有者を相続人にする)で、相続人全員の合意も要ります。

残高が売却額を上回る場合は、話が変わります。差額を相続人の自己資金で補って完済できれば通常の売却ができます。補えないなら、債権者の承諾を得て、残債を下回る額で売る「任意売却」になります。

任意売却では債権者が売却の条件に関与し、売却後に残る債務の扱いや引き渡しの時期を協議します。残債が残る場合、相続放棄をしていなければ残りの返済義務は続きます。

不動産会社に相談する前にやっておきたいのが、残高証明書と複数社の査定を自分で持っておくことです。不動産会社は売却を前提に話を進める立場で、残高を知らないまま査定を頼むと、「抵当権付きでも売れます」で話が進みます。

残高と査定額を自分の手元で比べてから相談すれば、通常の売却か任意売却か、そもそも売らずに引き継ぐ方法があるかを、自分で判断できます。「任意売却に強い」と名乗る会社に最初から囲い込まれないためにも、この順番が大切です。

実家を売る前に相続放棄を判断する期限と単純承認

残債が実家の価値を大きく上回るときに守る順番は、「放棄するかを決めてから、売る」です。

残債が実家の価値を大きく上回り、他の財産でも補えないなら、相続放棄が選択肢に入ります。相続財産の全部または一部を処分すると、単純承認したものとみなされ、相続放棄ができなくなります(民法921条1号)。

実家を売る、家財を処分する、親の預金で借金を返す。こうした行為のあとでは、「やはり放棄したい」が通らなくなります。調べることは処分と区別される、その裏返しで、調べた結果を見て放棄すると決めたら、それまで実家に手を付けないことが条件になります。

期限は、相続人になったことを知った時から3か月です(民法915条1項)。残高と査定額をそろえて判断するには3か月は短いので、間に合わないときは期限内に家庭裁判所へ期間の伸長を申し立てられます。相続放棄の申述手続きそのものの詳細は、別の記事で扱います。

放棄すると、その人は初めから相続人でなかったことになり(民法939条)、相続権は次の順位(親の兄弟・姉妹など)に移ります。自分が放棄すれば終わり、ではなく、次に相続人になる親族が同じ判断を迫られます。

放棄を決めたら、その親族に残債と実家の状況を伝えておくと、相手も期限内に動けます。

もうひとつ、限定承認という方法もあります。相続人全員で行い、相続した財産の範囲でだけ債務を負う制度で、実家を残したい場合に使われることがあります。手続きが重いので、使うかは弁護士に確かめてみてください。

出典: e-Gov法令検索「民法」

相続放棄をしても残る実家の保存義務と競売

放棄したあとも、実家を現に占有している人には保存義務が残ります。

「放棄すれば実家のことは一切関係なくなる」と思われがちですが、放棄の時点でその実家に住んでいる、鍵を持って管理している、といった「現に占有している」人は、相続人または相続財産の清算人に引き渡すまで、自分の財産と同じ注意で保存する義務があります(民法940条1項)。

放棄したあとに建物が倒れて隣家に被害が出れば、責任を問われることがあります。

相続人全員が放棄すると、相続人がいない状態になります。この場合、債権者などの利害関係人が家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てます(民法952条1項)。

申立てには収入印紙800円のほか、官報公告料や相続財産の管理費用にあてる予納金が要り、金額は申立て後に裁判所が知らせます(山口家庭裁判所の案内)。予納金は申立人が納めるので、債権者が申し立てることが多いですが、保存義務から早く離れたい相続人が自分で申し立てる選択もあります。

抵当権者は、返済が止まれば担保である実家の競売を申し立てられます。落札されれば、住んでいる人は落札者から明け渡しを求められます。放棄をすると実家に住み続ける根拠がなくなるので、「放棄して住み続ける」はできません。

経験者の声:放棄したのに実家のことで連絡が来た

「相続放棄が受理されて安心していたら、半年後に市役所から空き家の管理について、銀行からは今後の手続きについて連絡が来た。放棄すれば終わりだと思っていた。鍵を持っている以上、管理の責任は残ると弁護士に言われた」(残債のある実家を相続放棄した方)

出典: e-Gov法令検索「民法」、山口家庭裁判所「相続財産清算人選任の申立てについて」

物上保証の実家で相続人が負う責任の範囲

物上保証の実家で相続人が負うのは、債務者の借金ではなく、担保が競売にかけられるリスクです。

債務者欄が親本人ではなく、親の会社や第三者だった場合、実家は物上保証です。債務者が会社なら会社が返し、第三者ならその人が返します。相続放棄をしなくても、借金は債務者のもとにとどまります。

「登記に担保があるから借金を背負う」と早合点して放棄すると、実家も他の財産も手放す結果になります。

相続人が負うのは、「債務者が返済を止めたら、担保である実家が競売にかけられる」というリスクです。確かめるのは、債務者の返済状況です。

親の会社の借入なら、会社がいまも返済を続けているか、親が会社の借入の連帯保証人になっていなかったかの2点を、会社の決算書や借入の契約書、金融機関への問い合わせで確かめられます。親が連帯保証人だった場合、その保証債務は相続の対象になるので、話が変わります。

担保を外したい場合は、債務者側が完済するか、債権者と交渉して代わりの担保を入れる・一部を返済して担保を解除してもらう、といった方法になります。所有者側だけでは外せず、債務者と債権者の両方と話すことになります。

実家を売りたいなら、担保が外れないと買主が付かないため、売却の前にこの交渉が要ります。

根抵当権の債務者が亡くなってから6か月の元本確定

根抵当権の債務者が親本人なら、相続開始から6か月で元本が確定します。

根抵当権は、相続開始の時にある債務に加えて、根抵当権者と所有者が合意で定めた相続人が相続開始後に負う債務も担保します。ただし、この合意の登記を相続開始から6か月以内にしなければ、担保すべき元本は相続開始の時に確定したものとみなされます(民法398条の8第2項・4項)。起算日は親の死亡日です。

事業を継がないなら、この登記は不要で、6か月が過ぎれば元本が確定します。根抵当権は「死亡時点の残債を担保する普通の抵当権」と同じ扱いになり、あとは確定した残債を返して、根抵当権を解除・抹消してもらう流れです。

残債がゼロなら、金融機関に解除を依頼して抹消します(抵当権を消す条件の章)。

事業を継ぐ相続人がいて、今後も同じ枠で借り続けたいなら、6か月以内に「指定債務者の合意の登記」が要ります。金融機関との協議と相続登記を含めて準備に時間がかかるので、継ぐかの判断を早めに済ませておくと間に合います。

放棄する場合も登記は不要ですが、放棄するかに関わらず、根抵当権者への死亡の連絡と残高の確認は急ぐ場面です。極度額は枠であって残高ではないので、まず「いま実際にいくら残っているか」を確定させることが、引き継ぐ・売る・放棄するのどれを選ぶ場合でも出発点になります。

出典: e-Gov法令検索「民法」

まとめ:登記の金額は残高ではなく、債権者の記録と団信で確かめてから相続と売却を決める

乙区に載る債権額や極度額は、借りた当初の額か借りられる枠の上限で、いまの残高は債権者の記録にだけあります。完済済みの抵当権が消し忘れで残っている実家も多く、登記の数字だけで相続放棄や売却を決めると、残っていない借金のために実家を手放すことになりかねません。

次の一歩は、乙区で突き止めた現在の債権者に相続人として残高証明書を請求し、同じ窓口で団信の加入を聞くことです。これを飛ばすと、団信で消えるはずのローンを払い続けたり、残高が分からないまま相続放棄の3か月の期限を迎えたりします。

残高と団信の答えがそろったら、抵当権を消せる条件と、引き継ぐ・売る・放棄するのどれにするかを確かめてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、抵当権や住宅ローンが残る実家の残高の確かめ方、団信の手続き、抵当権の抹消、残債があるときの相続と売却の判断も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。