親が亡くなった直後の実家への対応|すぐしてよい対応と待つ対応

親が亡くなった直後の実家で、すぐにしてよい対応と確認が済むまで待つ対応は、民法の「保存行為」と「処分」で分けられます。

家の価値を保つ対応と資料を確保する対応は今からできる一方で、捨てる・持ち帰る・売る・貸す・壊す・遺言書を開ける、の6つは権利と期限の確認が先です。

捨ててはいけない書類、急ぐと失う税の特例、確認の順番と期限まで、手元に残る形でまとめました。

親が亡くなった直後に実家で急ぐ対応と待つ対応の分け方

急ぐ対応と待つ対応を分ける根拠は民法にあり、急かす言い分と法律上の期限は別物です。

  • 直後に急ぐのは保存と資料の確保で処分と契約は待つ
  • 片付けを急がせる言い分と急ぐ根拠がある期限の違い

直後に急ぐのは保存と資料の確保で処分と契約は待つ

急ぐ対応と待つ対応を分ける根拠は、民法921条にあります。

相続人が相続財産の全部または一部を「処分」すると、相続を単純承認したものとみなされます。ただし同じ条文に、「保存行為」は処分に当たらないと書かれています。保存行為とは、財産の価値を保ち、減らさないための行為です。

相続放棄をするつもりがない人にとっても、この区別は役に立ちます。亡くなった直後は、遺言書が見つかる、知らなかった相続人が現れる、親の借金が後から判明する、といった展開があり得ます。どの場合にも後戻りできるのは、保存行為までで止めていた人です。

急いでよい対応は、ガスを止める、火災保険に連絡する、鍵を把握する、室内を記録する、通帳や契約書を集める、郵便受けを管理する、といった「保つ・探す」の行為です。

待つ対応は、家財の処分、貴重品の持ち帰り、売買契約、賃貸、解体、封のある遺言書の開封という「減らす・約束する・変える」の行為です。つまり、家の中身と権利の状態をいまのまま保っておけば、どの確認結果が出ても対応できます。

出典: e-Gov法令検索 民法(第921条 法定単純承認)

片付けを急がせる言い分と急ぐ根拠がある期限の違い

「遺品整理は四十九日までに」「空き家は劣化が早いので早く売却を」という言い方は、どちらも法律上の期限とは別物です。

四十九日は宗教上の区切りで、家の劣化は通水と換気で遅らせられます。急ぐ根拠がある期限は、法律と税に定められた次の5つに限られます。

  • 相続放棄は、相続の開始を知った時から3か月
  • 準確定申告は、知った日の翌日から4か月
  • 相続税の申告は、知った日の翌日から10か月
  • 相続登記は、取得を知った日から3年
  • 相続した空き家の3,000万円控除は、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで

この5つを押さえておけば、ほかの対応は急がずに進められます。

むしろ急いだ人ほど損をしやすい面があります。税の特例を失う、取得費の証拠を捨てる、ほかの相続人の信頼を失う、の3つです。どれも、確認が済んでから動けば避けられた損失だといえます。

出典: 裁判所 相続の放棄の申述/国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

死亡直後でも実家でしてよい対応

ここに挙げる対応はすべて保存行為の範囲で、相続するか決める前でもできます。

  • ガスを閉栓し電気と水道は残して実家の安全を保つ
  • 火災保険に死亡と空き家を知らせて契約を引き継ぐ
  • 鍵と合鍵の本数を数えて持ち主を把握する
  • 片付ける前に室内を写真と動画で記録する
  • 遺言書と通帳と権利証を探して一か所に集める
  • 郵便受けと近所への連絡で情報が届く体制をつくる

最初に実家へ行く日に、この順で済ませてみてください。遠方に住んでいて通える回数が限られる人ほど、1回目の訪問で「安全確保・資料集め・写真」の3つを終える段取りが効果を持ちます。

ガスを閉栓し電気と水道は残して実家の安全を保つ

ガスは止め、電気と水道は残しておくと、火災を防ぎながら片付けと内覧に備えられます。

ガスはガス会社に連絡すれば閉栓に来てくれます。東京ガスの場合、長期不在による一時停止は出張料も手続きの費用もかからず、停止中は基本料金の請求も止まります。火を使う人のいない家でガスを開けておく理由はないので、最初に止めておきましょう。

電気と水道を残す理由は、片付けと内覧のほかにもう1つあります。排水口の下には「トラップ」という水をためる部分があり、この水(封水)が下水の臭いと虫を止めています。

長く水を流さないと封水が蒸発して、臭いが家の中へ逆流します。小松市の下水道の案内にも、長期間水道を使わないと封水が蒸発して臭いが逆流すると書かれています。

実家に行くたびに、台所・洗面所・風呂・洗濯機置き場の排水口へ水を流しておくと、この逆流を防げます。

冷蔵庫の中身、生ごみ、灯油の残り、古い食品は捨てて差し支えのない品です。経済的な価値がなく、放置すると腐敗や火災の原因になるものを片付ける行為は、財産を減らす処分ではなく保つための行為と考えられています。

仏壇のろうそくと線香、電気毛布やこたつのコンセントも抜いておきましょう。

出典: 東京ガス よくあるご質問 しばらくガスを使わず一時的にガスを止めたい/小松市 排水溝からにおいがする・豪雨時に音がする

火災保険に死亡と空き家を知らせて契約を引き継ぐ

火災保険は、契約者の死亡と、人が住まなくなった事実の2つを保険会社に知らせて、相続人の名義に引き継ぎます。

東京海上日動の案内では、契約者が亡くなった場合は相続人へ名義変更をし、解約したい場合でも先に名義変更が必要とされています。保険証券か更新の案内に代理店の連絡先が書いてあるので、そこへ電話すると手続きが始まります。

人が住まなくなった事実を知らせる理由は、保険法29条にあります。契約で定められた通知事項に変更があったのに、契約者が故意または重大な過失で通知しなかったときは、保険会社が契約を解除できると定められています。

知らせないまま火事になると、保険金が出ない恐れがあります。

亡くなった直後の無人の期間は、放火と空き巣のリスクがもっとも高い時期です。名義変更と空き家の連絡は、最初の1週間で済ませておきましょう。保険料が上がる、引き受けを断られる、といった話も出てきますが、知らせずにいて保険が効かない状態のほうが損失は大きくなります。

出典: 東京海上日動 よくあるご質問【火災保険】契約者が亡くなりました。手続きは必要ですか?/e-Gov法令検索 保険法(第29条 危険増加による解除)

鍵と合鍵の本数を数えて持ち主を把握する

実家の鍵が何本あって誰が持っているかを数えておくと、遺品の持ち出しをめぐる揉め事を防げます。

数える対象は、親が持っていた分、ヘルパーや近所の人に預けていた分、兄弟・姉妹や親戚に渡していた分、物置と金庫の分です。持ち出しの揉め事は、亡くなった直後に起こります。誰かが「形見に」と持ち帰った品が、あとで遺産分割の争点になるためです。

鍵を持つ人の一覧を作り、片付けの日取りは相続人全員に知らせてから決めると、「勝手に進めた」と言われずに済みます。

合鍵の回収が難しければ、鍵の交換も財産を守る保存行為に当たると考えられています。交換した事実と新しい鍵の預け先を相続人全員に伝えておくと、疑いを避けられます。

出典: e-Gov法令検索 民法(第921条 法定単純承認)

片付ける前に室内を写真と動画で記録する

片付けに手をつける前に、全部屋、押入れ、金庫の中、通帳や現金が置かれていた状態を写真と動画で残しておくと、あとの争いを防げます。

スマートフォンで十分です。日付が自動で記録されるので、「いつの状態か」の証拠になります。

この記録が役に立つ場面は2つあります。ひとつは遺産分割で「あったはずの指輪がない」「もっと現金があったはず」という話になったとき。もうひとつは、遺品整理業者に頼んだあとで紛失や破損が疑われたときです。

片付ける前の記録があれば、言った言わないの水掛け論を避けられます。

記録は自分だけで持たず、相続人全員が見られる場所(クラウドの共有フォルダなど)に置いておくと、記録そのものへの疑いも避けられます。

遺言書と通帳と権利証を探して一か所に集める

最初の訪問日は「探す日」と決めて、見つけた書類を箱ひとつに集めておくと、後の手続きが一気に楽になります。

仏壇の引き出し、書斎の机、たんすの奥、金庫、冷蔵庫の上の封筒など、親が大事な書類を置きそうな場所を回ってみてください。集める対象は次のとおりです。

  • 遺言書(封は開けない)
  • 預金通帳とキャッシュカード
  • 不動産の権利証(登記済証または登記識別情報通知)
  • 生命保険と火災保険の証券
  • 年金手帳と印鑑
  • 固定資産税の納税通知書
  • 実家を買ったときの契約書

何を残すべきかの詳しい一覧は、「実家で捨ててはいけない書類と貴重品」の章にまとめています。

親の携帯電話とパソコンは解約せず、充電して残しておきましょう。ネット銀行、ネット証券、サブスクリプションの契約は、通帳にも郵便にも現れず、スマートフォンの通知とメールで初めて分かる例があります。

葬儀費用のために親の預金を使いたい場合は、窓口で現金を引き出す代わりに「遺産分割前の払戻し制度」が使えます。

民法909条の2により、相続人は1つの金融機関につき150万円を上限に、相続開始時の預金額の3分の1に自分の法定相続分を掛けた額まで、ほかの相続人の同意なしに払い戻せます。制度を使えば記録が残り、あとで使い道を問われる場面でも説明できます。

出典: 法務省 相続法の改正(遺産分割前の払戻し制度)/e-Gov法令検索 民法(第909条の2)

郵便受けと近所への連絡で情報が届く体制をつくる

実家の郵便受けを定期的に空ける体制を作っておくと、財産と債務の一覧が自然に手元へ集まります。

亡くなった人宛ての郵便物は、家族が転居届を出しても転送してもらえません。日本郵便の案内では、受取人本人が亡くなった場合、その人宛ての郵便物は差出人へ返還されます。誰も郵便受けを見ないと、届いた情報は差出人へ戻っていきます。

郵便受けには、固定資産税の納税通知書、保険の満期案内、証券会社の取引報告書、クレジットカードの明細、そして借金の督促状が届きます。相続放棄を判断する3か月の間にこれらを見逃すと、判断を誤る原因になります。

遠方なら、近所の人か親戚に郵便受けを空けてもらう手配をしておきましょう。

近所と自治会には、亡くなった事実と自分の連絡先を伝えておくと安心です。郵便受けのあふれ、異臭、見知らぬ人の出入りを知らせてもらえるのは、顔を合わせた近所の人です。

出典: 日本郵便 死亡した受取人あての郵便物等を家族に転送してもらえますか?

確認が済むまで実家で待つ対応と急ぐと損をする理由

待つ対応は6つあり、それぞれ「急ぐと何を失うか」と「代わりに今できる範囲」があります。

  • 遺品の処分と遺品整理業者への一括依頼は待つ
  • 封のある遺言書の開封は待つ
  • 貴金属や車の持ち帰りと形見分けは待つ
  • 売買契約と買取の申込みと解体は待つ
  • 親族の入居と賃貸は待つ
  • 母が住んでいる実家の売却は待つ

不動産会社や遺品整理業者が悪いわけではなく、確認が済んでから頼めば損をしないだけの話です。順に見ていきましょう。

遺品の処分と遺品整理業者への一括依頼は待つ

家財を捨てる、売る、業者にまとめて引き取ってもらう行為は、相続人の確認と遺言書の確認が済むまで待ちます。

これらは民法921条の「処分」に当たり得る行為です。処分をすると単純承認とみなされ、あとから親の借金が見つかっても相続放棄ができなくなります。業者に「全部処分」と頼んだ場合でも、処分したのは依頼した相続人として扱われます。

放棄するつもりがない人にとっての損は別にあります。紙類と小物の中に、売却時の税金を数百万円単位で変える証拠(実家を買ったときの契約書やローンの書類)が混ざっていて、一括処分で真っ先に失われます。

契約書を一緒に捨ててしまった例

父が40年前に2,500万円で買った家を、母の死後に3,000万円で売った兄弟・姉妹の話です。片付けは業者に「全部お願いします」と頼み、押入れの封筒は中を見ずに処分されました。

売却後、税理士から「購入時の契約書はありますか」と聞かれて初めて、あの封筒が契約書だったと気づきます。契約書がないと取得費は売却額の5%の150万円扱いになり、実際の取得費2,500万円との差額分の利益に課税されました。

通帳の振込履歴やローンの返済予定表も同じ封筒に入っていたため、代わりの証拠も一緒に失われました。業者に頼む前に紙類だけ抜いていれば、避けられた負担です。

代わりに今できるのは、腐るものの廃棄と、紙類を自分で抜き出す作業までです。業者に頼むのは、残すものを抜いてからにしましょう。

頼むときは、市区町村から一般廃棄物処理業の許可を受けた業者か、市区町村の委託業者を選ぶと安心です。

国民生活センターは、一般家庭から出る廃棄物の収集・運搬にはこの許可または委託が必要だとしたうえで、不用品回収サービスの相談が2021年度に2,231件寄せられ、無許可の業者による高額請求のトラブルが目立つと注意を出しています。

出典: e-Gov法令検索 民法(第921条 法定単純承認)/国民生活センター 不用品回収サービスのトラブル

封のある遺言書の開封は待つ

封印のある遺言書は、家庭裁判所で検認を受けるまで開けずに保管する決まりになっています。

民法1004条3項は、封印のある遺言書は家庭裁判所で相続人またはその代理人の立会いがなければ開封できないと定め、家庭裁判所の外で開封した人は5万円以下の過料に処せられます(民法1005条)。

開封しても遺言そのものは有効なままです。それでも開けないのは、ほかの相続人から「中身を差し替えたのではないか」と疑われるからです。相続人の間の信頼は、一度失うと遺産分割のすべてに響きます。

見つけた遺言書は、封を開けずに家庭裁判所へ「検認」の申立てをします。検認は遺言書の状態を記録して偽造や変造を防ぐ手続きで、有効か無効かの判断とは別物です。公正証書遺言と、法務局に保管されていた自筆証書遺言は検認が不要です。

出典: 裁判所 遺言書の検認/e-Gov法令検索 民法(第1004条・第1005条)

貴金属や車の持ち帰りと形見分けは待つ

貴金属、美術品、骨董、車、ブランド品は遺産分割の対象なので、誰が受け取るかが決まるまで実家に置いたままにします。

経済的な価値のない品を形見として分ける行為は、処分に当たらないと考えられています。一方で、価値のある品を黙って持ち帰ると、相続財産を隠したとみなされる恐れがあります。

民法921条3号は、相続財産を隠匿したり、ひそかに消費したりした相続人は単純承認したものとみなすと定めています。

現金も同じです。たんすや封筒から現金が出てきたら、写真を撮り、金額と見つけた場所を記録して、そのまま保管しておきましょう。持ち帰って「葬儀代に使った」では、ほかの相続人への説明がつかなくなります。

今できるのは、価値がありそうな品の一覧を作り、場所を動かさず、写真を相続人全員で共有するところまでです。

出典: e-Gov法令検索 民法(第921条第3号)

売買契約と買取の申込みと解体は待つ

媒介契約、買取の申込み、解体の3つは、相続人全員の合意と相続登記が済むまで待ちます。

遺産分割が終わる前の実家は、相続人全員が共同で持っている状態です。1人では売れず、売るには先に相続登記が要ります。不動産会社に「査定」を頼む行為は契約とは別で、売却の目安を知るために早い時期からできます。

解体を急ぐと税金が変わります。住宅が建っている土地は、固定資産税の課税標準が200平方メートルまで6分の1に下がる特例(地方税法349条の3の2)を受けています。

固定資産税は毎年1月1日の状態で課税されるので、更地にすると翌年1月1日の時点で住宅がなく、この特例が外れて土地の税額が上がります。

「更地にしたほうが売れやすい」という助言も聞きますが、相続した空き家の3,000万円控除は、令和6年1月1日以後の売却なら、買主が翌年2月15日までに取り壊す形でも使えるようになりました。売る前に自分の費用で壊す理由は薄くなっています。

相続税がかかる人には、もうひとつ待つ理由があります。小規模宅地等の特例は、親が住んでいた土地の評価額を330平方メートルまで80%減らせる制度です。

別居の子が使う場合、相続税の申告期限(10か月)までその土地を持ち続けることが要件になっています。10か月より前に売却すると、この8割減が使えなくなります。

出典: e-Gov法令検索 地方税法(第349条の3の2・第359条)/国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例/国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

親族の入居と賃貸は待つ

「片付けが終わるまで甥に住んでもらう」「売れるまで短期で貸す」「民泊に出す」のどれか1つで、相続した空き家の3,000万円控除は使えなくなります。

国税庁の案内では、この特例の要件のひとつが「相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと」です。空き家のまま売る前提の制度なので、一度でも誰かが住んだり貸したりした家は対象から外れます。

借家人がいる家は買い手も限られます。家賃収入より、控除が消える損失と売りにくさのほうが大きくなりがちです。貸すなら、特例を使わないと決めてからにしましょう。

出典: 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

母が住んでいる実家の売却は待つ

片方の親が亡くなり、もう片方の親(ここでは母とします)が実家に残っている場合、母には少なくとも6か月、法律で守られた居住の期間があります。

根拠は民法1037条の配偶者短期居住権です。母は、遺産分割で実家の持ち主が決まる日か、相続開始から6か月を経過する日の、どちらか遅いほうまで、無償で実家に住み続けられます。

実家を相続した子であっても、売却などによって母の使用を妨げてはならないと定められています。

急かす側にとっては、6か月は待つしかない期間です。急かされる側にとっては、「出ていけ」と言われても動かなくてよい根拠になります。遺産分割で母が実家を取得するか、配偶者居住権を設定するか、売って住み替えるかを決めてから、売却の話に進みましょう。

出典: e-Gov法令検索 民法(第1037条 配偶者短期居住権)

実家で捨ててはいけない書類と貴重品

残すべきものは、紙と小物に集中しています。

  • 購入時の契約書と住宅ローンの書類
  • 権利証と固定資産税の納税通知書
  • 通帳と保険証券と督促状
  • 測量図と建築確認済証と検査済証
  • 遺言書とエンディングノートと手帳
  • 現金と印鑑と鍵

遺品整理業者の一括処分では真っ先に失われる種類なので、業者に頼む前に自分で抜き出しておきましょう。ここでは「どんな見た目で、どこにあるか」と「何に使うか」を対にして挙げます。

購入時の契約書と住宅ローンの書類

実家を買ったときの売買契約書と領収書は、売却時の税金を数百万円単位で左右します。

実家を売ったときの税金は、売却額から「取得費」と「譲渡費用」を引いた利益にかかります。取得費が分からないと、引ける額は売却額の5%にとどまります(国税庁タックスアンサーNo.3258)。

3,000万円で売れた家なら、取得費は150万円の扱いです。親が2,000万円で買っていたなら、1,850万円分の利益が上乗せされて課税されます。

契約書は、不動産会社の名前が入った厚い封筒や、ファイルに入っていることが多い書類です。建てた家なら建築請負契約書、マンションなら分譲時のパンフレットや価格表も残す対象です。

契約書が見つからなくても、諦めるのは早すぎます。通帳の振込履歴、住宅ローンの返済予定表や金銭消費貸借契約書、登記事項証明書に残る抵当権の設定額は、実際の取得額を裏づける資料になり得ます。

国税不服審判所は平成12年11月16日の裁決で、契約書のない土地建物について、複数の客観的な資料から合理的に推定した額を取得費として認めました。一方で、取得費を確かめられる書類を示せなかった事案では、取得費の計算が認められなかった例もあります(平成20年5月19日裁決)。

認められるかは資料しだいなので、裏づけになりそうな紙は全部残しておきましょう。

リフォームや増改築の領収書も同じ箱に入れておきましょう。改良費は取得費に含まれます(国税庁タックスアンサーNo.3252)。

出典: 国税庁 No.3258 取得費が分からないとき/国税庁 No.3252 取得費となるもの/国税不服審判所 平成12年11月16日裁決(裁決事例集No.60)/国税不服審判所 平成20年5月19日裁決(裁決事例集No.75)

権利証と固定資産税の納税通知書

権利証と納税通知書は、売却と相続登記の両方で使う紙です。

権利証(登記済証、または登記識別情報通知)は、相続登記そのものには不要です。ただし売却のときに無いと、司法書士による本人確認情報の作成など、余計な費用と日数がかかります。法務局の案内でも、登記識別情報の再発行と番号の変更はできないとされていて、失うと二度と手に入らない紙です。

見た目は、法務局の名前が入った書類、または「登記識別情報通知」と書かれた目隠しシール付きの紙です。

固定資産税の納税通知書と課税明細書は、毎年春に市区町村から届く封筒に入っています。不動産の評価額、地番、家屋番号が一度に分かる紙で、相続登記の登録免許税の計算と、売却査定の両方に使います。直近の年のものだけでも残しておくと手続きが進みます。

出典: 福島地方法務局 登記識別情報って何?/e-Gov法令検索 不動産登記法(第22条・第23条)

通帳と保険証券と督促状

通帳と証券は財産の手掛かり、督促状と借用書は債務の手掛かりで、どちらも封筒ごと残す対象です。

通帳、キャッシュカード、証券会社の取引報告書、ネット銀行のIDを書いたメモは、財産の手掛かりです。配当金の計算書や株主総会の案内はがきも、親が株を持っていた証拠になります。

借用書、督促状、クレジットカードの明細、誰かの保証人になった契約書は、債務の手掛かりです。相続放棄を判断する3か月の期限に直結するので、紙くずに見える督促状ほど大事に扱います。

生命保険と火災保険の証券は、保険金の請求と相続税の計算に使います。火災保険の証券には、空き家の連絡をする代理店の電話番号も書かれています。

出典: 裁判所 相続の放棄の申述

測量図と建築確認済証と検査済証

測量図、境界確認書、建築確認済証、検査済証、図面、耐震診断の結果は、家と土地の性能と範囲を証明する書類です。

売却のときに境界が分からなければ測量の費用が別にかかり、検査済証がないと買い手側の住宅ローン審査や価格交渉で不利に働く場合があります。

相続した空き家の3,000万円控除は、昭和56年5月31日以前に建てられた家が対象で、売るときに耐震基準を満たすか、売却後に取り壊す必要があります。耐震診断や耐震工事の記録があれば、この要件の証明に使えます。

借地なら土地賃貸借契約書と地代の領収書、マンションなら管理規約と長期修繕計画も残しておくと、売却時に役立ちます。私道の持分や水道の引込みの負担について町内会と交わした書類があれば、それも売却時に必要です。

出典: 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

遺言書とエンディングノートと手帳

遺言書は封を開けずに残し、エンディングノートや手帳も同じ箱に入れておきたい書類です。

エンディングノートや親が書き残したメモには、法的な効力はなくても、口座の一覧や「誰に何を渡したいか」が書かれていて、遺産分割の話し合いの出発点になります。

手帳、住所録、年賀状の束は、財産とは別に残す価値があります。相続人の調査では親の出生から死亡までの戸籍を集めますが、前の結婚の子や認知した子の存在は、戸籍を取ってはじめて分かる場合があります。

手帳と年賀状は、その前に心構えをつくる手掛かりになります。親しかった人の中に、お金を貸していた相手や借りていた相手がいる例もあります。

出典: 裁判所 遺言書の検認

現金と印鑑と鍵

現金、印鑑、鍵は、扱いを誤るとほかの相続人から疑われる現物なので、記録を残して保管する対象です。

現金は、見つけた時点で写真を撮り、金額と場所を記録してから保管してみてください。黙って持ち帰ると、相続財産の隠匿を疑われます。金額が大きければ、相続人全員に知らせて、誰が預かるかを決めておきましょう。

印鑑は全部残しておきましょう。実印、銀行印、認印の区別は見た目ではつかず、銀行印は口座の相続手続きで照合される場面があります。

鍵は、玄関のほか、物置、金庫、貸金庫、車の分も残す対象です。金庫の暗証番号を書いたメモも探してみてください。貸金庫の鍵が出てきたら、銀行に貸金庫があり、中に遺言書や権利証が入っている可能性があります。

位牌、遺影、写真アルバム、手紙は財産とは別ですが、処分すると取り返しがつきません。最初に「誰がどこに置くか」を決めておくと、片付けの判断が速くなります。

出典: e-Gov法令検索 民法(第921条第3号)

片付けと売却に進む前に確認する権利と期限

確認するのは「意思(遺言書)」「人(相続人と住んでいる人)」「名義」「債務」「税」の5つです。

  • 遺言書の有無を自宅と法務局と公証役場で確認する
  • 相続人の範囲と実家の名義を戸籍と登記事項証明書で確認する
  • 親の借金の有無を督促状と信用情報で確認する
  • 相続税の有無で売却の時期を決める
  • 相続放棄と申告と登記と特例の期限を一覧で確認する

この順で確かめると、途中で前提が変わってやり直す手戻りが減ります。それぞれ、どこで何を使って確かめるかまで書きます。

遺言書の有無を自宅と法務局と公証役場で確認する

遺言書があれば遺産分割より遺言の内容が優先するので、最初に3か所を探します。

1つ目は自宅です。仏壇、金庫、書斎、たんすの奥、そして銀行の貸金庫。

2つ目は法務局です。自筆証書遺言を法務局に預ける制度があり、遺言者が亡くなった後は、相続人なら誰でも全国の遺言書保管所で「遺言書保管事実証明書」の交付を請求して、預けられているかを確かめられます。手数料は1通800円です。この制度で保管されていた遺言書は検認が不要です。

3つ目は公証役場です。平成元年以降に作られた公正証書遺言は日本公証人連合会が情報を管理していて、相続人は全国どこの公証役場でも、遺言の有無と保管している公証役場を検索できます。

検索の申出は無料で、亡くなった事実が分かる除籍謄本、相続人であることが分かる戸籍謄本、本人確認書類が要ります。

出典: 法務省 自筆証書遺言書保管制度 04 相続人等の手続/日本公証人連合会 遺言(7 遺言の検索、謄本の請求及び保存期間)

相続人の範囲と実家の名義を戸籍と登記事項証明書で確認する

相続人の範囲は親の出生から死亡までの戸籍で、実家の名義は登記事項証明書で確かめます。

前の結婚の子や認知した子がいれば、その人も相続人です。集めた戸籍を法務局に出して「法定相続情報一覧図」を作ってもらうと、認証文付きの写しが無料で交付され、相続登記、預金の払戻し、相続税の申告で戸籍の束の代わりに使い回せます。

登記事項証明書は、法務局の窓口、郵送、オンラインで誰でも取れます。「親の名義だと思っていたら祖父母の名義のままだった」という例は珍しくなく、その場合は祖父母の相続人全員(おじ・おばやその子)が関係してきます。確認に時間がかかるので、最優先で見ておきましょう。

実家に住んでいる人がいるなら、その人の権利も確かめます。母が残っているなら配偶者短期居住権があり、兄弟・姉妹が親と同居していたなら、無償で住み続けてきた経緯(使用貸借)をめぐって話し合いが要ります。

売却の前提として、住んでいる人の意向を先に聞いておくと話が進みます。

出典: 法務局 「法定相続情報証明制度」について/e-Gov法令検索 民法(第1037条 配偶者短期居住権)

親の借金の有無を督促状と信用情報で確認する

借金は、実家の郵便受けと通帳で手掛かりをつかみ、信用情報機関への照会で確定させます。

督促状、借用書、クレジットカードの明細、通帳の引落しをまず確かめてみてください。それでも分からない借入れは、信用情報機関に照会できます。

CICでは、亡くなった人の信用情報を法定相続人が郵送で開示請求できます。JICCは法定相続人または2親等以内の血族が郵送で、全国銀行個人信用情報センターは法定相続人が開示を申し込めます。3つに照会するとカード会社、消費者金融、銀行の借入れが分かります。

相続放棄の期限は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月」です(民法915条)。死亡日からではありません。

調査が間に合わなければ、家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てられます。裁判所の案内でも、3か月以内に調査してもなお判断の資料が得られない場合に期間を伸ばせるとされています。

借金の有無が分からないまま期限が来そうなときは、放棄を迷うより先に伸長を申し立ててみてください。

出典: CIC 亡くなった家族(被相続人)の情報開示をすることはできますか?/JICC 二親等以内の血族 法定相続人等による開示/全国銀行個人信用情報センター 本人開示の手続きについて/裁判所 相続の放棄の申述

相続税の有無で売却の時期を決める

相続税がかかる人は10か月まで売らず、かからない人は3年目の12月31日までに売る、という順番になります。

分かれ目は基礎控除で、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です(国税庁タックスアンサーNo.4152)。相続人が2人なら4,200万円、3人なら4,800万円。実家と預金を合わせた額がこれを超えなければ、相続税の申告は不要です。

超えない人は、10か月の縛りを気にせず、相続した空き家の3,000万円控除の要件だけを見ます。

  • 昭和56年5月31日以前に建てられた家であること
  • 亡くなった親が一人で住んでいたこと
  • 相続から売却まで誰も住まず、貸さず、事業に使わないこと
  • 売却代金が1億円以下であること
  • 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること

相続人が3人以上で取得した場合、令和6年1月1日以後の売却では控除は1人2,000万円になります。この特例は令和9年12月31日までの売却が対象です。

超える人は、小規模宅地等の特例を使うために、申告期限の10か月までは実家を売らずに持ち続けます。10か月を過ぎてから、相続した空き家の3,000万円控除の期限までに売る、という順番です。

相続税の申告と納税の期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です(国税庁タックスアンサーNo.4205)。

出典: 国税庁 No.4152 相続税の計算/国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例/国税庁 No.4124 小規模宅地等の特例/国税庁 No.4205 相続税の申告と納税

相続放棄と申告と登記と特例の期限を一覧で確認する

実家に関わる期限は5つで、起点はほとんどが「亡くなったことを知った日」です。

手続き期限根拠と補足
相続放棄・限定承認知った時から3か月民法915条。家庭裁判所に申し立てれば伸長できる
準確定申告知った日の翌日から4か月国税庁No.2022。親に確定申告が必要な所得があった場合
相続税の申告と納税知った日の翌日から10か月国税庁No.4205。基礎控除を超える場合。小規模宅地等の特例はこの日まで保有が要件
相続登記取得を知った日から3年不動産登記法76条の2。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料(同164条)
相続した空き家の3,000万円控除相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日国税庁No.3306。令和9年12月31日までの売却が対象

相続登記の義務化は令和6年4月1日に始まった制度で、法務省のQ&Aによれば、それより前に相続した実家で登記が済んでいないものも対象になり、その場合の期限は令和9年3月31日です。

遺産分割がまとまらなくても「相続人申告登記」で義務を果たせます。法務省の案内では、3年以内に相続登記の申請が難しい場合に、自分が相続人であることを戸籍と一緒に法務局へ申し出ることで、簡易に義務を履行できるとされています。

ただし遺産分割で実家を取得した後は、その日から3年以内に本来の相続登記が要ります。

実家が借家や借地なら、家賃と地代が止まらず、片付けを急ぐ理由が家賃という形で生まれます。借家は貸主に死亡を知らせて解約の時期を決め、借地は地主に相続を知らせておきましょう。

5つの確認が済めば、「確認が済むまで実家で待つ対応」で止めていた片付けと売却に進んでよい段階です。確認にかかる期間は、長くても3か月前後に収まります。

その3か月を「保つ・探す」に使った人と「捨てる・売る」に使った人では、手元に残る金額と、相続人の間の関係が変わります。

出典: 国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)/e-Gov法令検索 不動産登記法(第76条の2・第164条)/法務省 相続登記の申請義務化に関するQ&A/法務省 相続人申告登記について

まとめ:亡くなった直後の実家は「保つ・探す」で止め、確認が済んでから片付けと売却へ進む

いちばん重い答えは、亡くなった直後の実家で後戻りできるのは保存行為までだという点です。家財の処分、貴重品の持ち帰り、売買契約、賃貸、解体、遺言書の開封は、相続放棄の権利、税の特例、取得費の証拠、相続人の信頼のどれかと引き換えになります。

次の一歩は、最初に実家へ行く日に、室内を写真に残し、契約書・通帳・遺言書を箱ひとつに集める作業です。これを飛ばして業者に一括で頼むと、紙類が真っ先に処分され、売却時の税金が数百万円単位で変わり、ほかの相続人から「勝手に進めた」と見られる原因になります。

箱がそろったら、遺言書の有無、相続人の範囲と名義、借金、相続税の有無、期限の5つを順に確かめてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、親が亡くなった直後の実家で急ぐ対応と待つ対応の分け方も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。