田舎の実家を相続して「買い手なんて付くのだろうか」と不安になったとき、いちばん困るのは「売れない」の中身が見えないことです。
地元の不動産会社の「この辺りは難しいですね」には、本当に買い手がいない・建物が古い・値段が高い・その会社が扱いたくない、という別々の事情が混じっています。
売れにくい理由を需要・立地と法令・建物と価格・依頼先に分け、国土交通省の不動産情報ライブラリや空き家バンクなど無料の道具で自分で調べる方法と、仲介で売れなかったときの受け皿の条件と費用をまとめます。
地方の実家が売れにくい理由
「売れない」は、需要・立地と法令・建物・価格・依頼先という5つの別々の理由が重なって見えている状態です。
5つに分けると、売主側で直せるものと直せないものがはっきりします。各理由が売却可能性をどう下げるかと、売主側で解消できるかを先に見ていきましょう。
買い手の母数が少ない地域の需要不足
需要不足は、売主が変えられない理由です。
人口が減り、新しく家を探す人が少ない地域では、値段を下げても「その地域で家を買いたい人」がいてはじめて取引が成立します。地方の実家が売れにくい理由の根っこは、ここにあります。
ただし「地方だから全部売れない」は事実と違います。国土交通省の令和8年地価公示で、前年から継続して調べた地点を上昇・横ばい・下落に分けると、地方圏の住宅地は上昇47.0%、横ばい18.8%、下落34.2%でした。
札幌・仙台・広島・福岡の地方四市を除いた「その他」の住宅地でも、上昇43.6%、横ばい18.8%、下落37.6%です(令和8年1月1日時点)。同じ地方圏の中でも、上がっている地点と下がっている地点に割れているのが実態です。
つまり「地方の実家」という大きなくくりで諦めるより、実家のある町字で取引があるかを見ると、需要の有無を判断できます。
出典: 国土交通省「令和8年地価公示 上昇・横ばい・下落の地点数の推移」
建て替えを妨げる区域区分と接道の制約
立地と法令の制約は、条件次第で解消できる理由です。
買い手が「この土地に自分の家を建てられるか」を気にするのは、都市計画法の市街化調整区域に入っているかと、敷地が建築基準法上の道路に接しているかの2点で、建て替えの可否が決まるからです。
市街化調整区域は、法律で「市街化を抑制すべき区域」と定められた区域で、原則として新しく家を建てるには知事の許可が要ります。接道は、敷地が建築基準法上の道路に2m以上接していてはじめて建築確認が下ります。
どちらも、買い手が住宅ローンを組んだり古い家を壊して建て直したりする前提を崩すので、該当すると買い手の幅が大きく狭まります。
ただし、市街化調整区域でも線引き前から宅地だった土地や、自治体の条例で建築が認められる区域があり、接道も特定行政庁の認定や許可で建てられる場合があります。「調整区域」や「再建築不可」と聞いた段階で諦めず、役所の窓口で建て替えの余地を確かめてみましょう。
出典: e-Gov法令検索「都市計画法」第7条・第43条 / e-Gov法令検索「建築基準法」第43条
買い手の負担を増やす築年数と残置物
建物の古さと残置物は、売主側で直せる理由です。
古い家が売れにくいのは、建物に価値が付かないからというより、買い手が「買った後に自分で掛かる費用」を価格から引いて考えるからです。
昭和56年5月31日以前に建築確認を受けた家(旧耐震)は、買い手が耐震補強やリフォームを前提に考え、金融機関の扱いも分かれます。家財や仏壇、農機具が残ったままの家は内見で敬遠され、撤去費がそのまま値引き交渉の材料になります。
どちらも「古いから売れない」のではなく、古い分と片づけの分を価格で吸収できていないから売れ残る、という構造です。
出典: 国土交通省「マンションの耐震性等についてのQ&Aについて」
相場や買い手の費用を無視した価格設定
価格設定も、売主側で直せる理由です。
地方は取引事例が少ないため、不動産会社ごとに査定の根拠と金額が大きく開くことがあります。根拠のない高い査定に合わせて売り出すと、問い合わせが来ないまま掲載日数だけが延び、「長く売れ残っている物件」として敬遠されるようになります。
買い手は「土地の値段から、解体・撤去・修繕・上下水道の引込みに掛かる費用を引いた額」で考えます。見かけの価格が相場どおりでも、買い手から見た実質の価格は高い、ということが地方の古い家では起きやすいのです。
手間に見合わないと判断する不動産会社の事情
依頼先の事情は、売主側で解消できる理由です。
不動産会社の「売れません」には、「市場に買い手がいない」と「自社では手間に見合わない」の2つの意味が混じっています。後者なら、別の会社に当たれば受けてもらえます。
仲介の報酬は売買価格に連動して上限が決まるため、数百万円の物件では、遠方の現地調査や役所調査、残置物の段取りを含めると会社側が赤字になりやすいのです。これは会社の採算の問題で、物件の価値とは別の話です。
令和6年7月1日施行の報酬告示の改正で、800万円以下の宅地建物は媒介報酬の上限が30万円の1.1倍(税込33万円)に広がり、低額物件を受けやすくする仕組みが整えられました。
経験者からは「親の『この土地は価値がある』を信じて高値で出し、長く問い合わせがなかった」「役所に『調整区域です』と言われて諦めかけたが、調べると線引き前からの宅地で建て替えができる土地だった」という声も聞きます。どれも理由を分けずに「売れない」とひとまとめにしたことで、売主側で直せる部分まで手付かずになった例です。
出典: 国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和45年建設省告示第1552号)」
解消できる理由と解消できない理由の見分け
5つの理由を、売主側で解消できるかと確かめる場所で仕分けすると、次のようになります。
| 売れにくい理由 | 売主側で解消できるか | 確かめる場所 |
|---|---|---|
| 地域の需要不足 | できない(ただし地点で割れているので、実家の町字で確かめる) | 「実家がある地域の需要を調べる方法」 |
| 市街化調整区域・接道の制約 | 条件次第(線引き前の宅地・自治体の基準・認定や許可で建てられる場合がある) | 「立地と法令の制約を調べる方法」 |
| 築年数・残置物 | できる(片づけと費用の開示で買い手の負担を減らす) | 「建物の古さと価格が売れ残りを招く原因」 |
| 価格設定 | できる(査定の根拠を聞き、買い手の費用を引いた実質価格で見直す) | 「建物の古さと価格が売れ残りを招く原因」 |
| 不動産会社の事情 | できる(800万円以下の報酬特例を踏まえて依頼先を広げる) | 「不動産会社に断られる理由と依頼先の選択肢」 |
売主が変えられないのは需要不足と区域区分の2つで、残りは売主側で直せます。そして需要不足も「地方全体」ではなく「実家の町字」で見れば、売れる余地が残っていることがあります。
実家がある地域の需要を調べる方法
感覚の「売れない」は、無料で見られる3つの道具と自治体の窓口で、数字に置き換えられます。
どれもスマートフォンからでも見られます。見る場所ごとに、何を見るかと、見た結果をどう読むかを説明します。
不動産情報ライブラリで町字ごとの取引実績を確かめる
最初に見るのは、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」です。
不動産の取引価格、地価公示、都市計画情報、災害リスクなどを地図上にまとめて表示するサイトで、ここでは「不動産取引価格情報」と「成約価格情報」の2つを使います。
不動産取引価格情報は、国土交通省が不動産を売買した当事者にアンケート調査を行って集めた実際の取引事例です。個人が特定されないよう、所在地は町・大字のレベル、取引価格は有効数字2桁に加工されて公開されています。
成約価格情報は、不動産会社どうしのネットワークであるレインズが持つ成約データを、国土交通省が消費者向けに公表している情報です。
ナビゲーションバーの「価格情報」で不動産取引価格情報と成約価格情報にチェックを入れ、実家のある市町村と町字で絞り込んでみましょう。
ここで見るのは、自分の実家の値段ではなく、その町字で直近数年に取引が何件あるか、土地だけか建物付きか、いくら台で動いているかです。相場を当てる道具ではなく「取引の点があるか・ないか」を確かめる道具だと割り切っておくと、数字に振り回されずに済みます。
実家の町字や隣の町字に、ここ数年で土地や中古住宅の取引が数件でもあれば、価格を合わせれば動く余地があります。市町村全体で見ても取引が市街地に集中し、実家の周辺に点がほとんど無ければ、一般の住宅需要は薄いと読めます。
ただし、取引価格情報はアンケートの回答に基づくため、載っているのは実際の取引の一部です。点が無いことだけで断定せず、地価公示と空き家バンクを合わせて見ていきましょう。
出典: 国土交通省「不動産情報ライブラリ」 / 国土交通省「不動産取引価格情報提供制度」 / 国土交通省「不動産情報ライブラリ 価格情報検索ガイド」
地価公示と地価調査で近隣地点の上昇と下落を見る
次に見るのは、同じ不動産情報ライブラリに載っている国土交通省の地価公示と、都道府県の地価調査です。
地価公示は、国土交通省の土地鑑定委員会が選んだ標準地について、毎年1月1日時点の1平方メートルあたりの価格を判定して公表する制度です。地価調査は都道府県知事が毎年7月1日時点の基準地の価格を判定して公表する制度で、2つを合わせると半年ごとの動きが分かります。
地価公示も地価調査も、「標準地」「基準地」という点の情報です。実家のある集落に点が無いことはよくあります。
そのため、ここから分かるのは実家の値段ではなく、近くの点が前年より上がっているか、横ばいか、下がっているかという「方向」です。
実家に近い住宅地の点を数か所クリックし、変動率の符号を見てみましょう。近くの点が横ばいか上昇なら、その地域にまだ家を買う動きがあります。
下落が続き、幅も大きければ、価格を合わせても買い手の母数が減っている地域だと読めます。令和8年地価公示では地方圏の住宅地でも上昇と下落が半々近くに割れていますから、「地方だから下がっている」と決めつけず、近くの点の実際の符号で判断できます。
出典: 国土交通省「不動産情報ライブラリ 価格情報検索ガイド」 / 国土交通省「令和8年地価公示 上昇・横ばい・下落の地点数の推移」
全国版空き家バンクで同じ市町村の掲載と成約の動きを見る
3つ目は「全国版空き家・空き地バンク」です。
自治体ごとにばらばらだった空き家バンクの情報を横断して検索できるよう国土交通省が構築し、公募で選ばれた株式会社LIFULLとアットホーム株式会社の2社が運営しています。平成29年10月に試行運用が始まり、平成30年4月から本格運用に入りました。
規模は、令和8年8月末時点で1,151自治体が参加し、うち744自治体が物件を掲載中、自治体へのアンケート調査などによる累計の成約は約27,000件です。
掲載中の物件数は、国土交通省が公表する推移グラフの直近の月で19,804件(2社合計・物件の重複あり)です。検索はLIFULL HOME’S 空き家バンクとアットホーム 空き家バンクのどちらからでもできます。
実家のある市町村で検索し、掲載されている物件の数、掲載からの期間、成約済みの表示を見てみましょう。
同じ市町村の物件が数か月以内に成約済みになっていれば、出せば動く地域です。掲載はあるのに1年以上動いていない物件ばかりなら、価格か条件を相当下げないと動かない地域です。
実家の市町村が参加していない、または掲載がゼロなら、この経路で買い手に届く手段が今は無いと読めます(参加していない場合は、自治体独自の空き家バンクの有無も確かめておきましょう)。
出典: 国土交通省「空き家・空き地バンク総合情報ページ」 / 国土交通省「『全国版空き家・空き地バンク』について」 / 国土交通省「全国版空き家・空き地バンク参画自治体数・物件掲載件数推移」
自治体の移住窓口と空き家バンクの登録要件で買い手の経路を確かめる
空き家バンクに出せるかは、自治体の登録要件で決まります。
要件は自治体ごとに違うため、実家が該当するかを先に確かめておくと、申し込んでから断られる手戻りを防げます。
たとえば静岡市の中山間地域空き家情報バンクは、対象を「静岡市の中山間地域にあり、移住者への売却(譲渡)または賃貸ができる空き家」とし、「法令(都市計画法における市街化調整区域指定等)により売却(譲渡)や賃貸契約が困難な物件があります」と注意書きを置いています。
埼玉県幸手市は、市街化調整区域内にある物件で現在の所有者以外の者が使用することができないものを、登録できない物件に挙げています。
栃木県真岡市は、市街化調整区域内の物件は条件付きで登録できるものもあるが、登録の可否は都市計画法等を個別に調査してから判断するとしています。栃木県日光市の要綱は、登録できる所有者等から宅地建物取引業者を除いています。
要件を見るときに確かめる点は、次の3つです。
- 市街化調整区域の扱い
- 老朽化の程度
- 農地が付いていてもよいか
実家の市町村の空き家バンクの案内ページに登録要件が書かれているので、該当しそうな項目があれば担当課に電話で聞いてから登録を申し込みましょう。
あわせて、自治体の移住窓口に移住希望者の登録があるかも確かめてみてください。空き家バンクは所有者と移住希望者をつなぐ仕組みなので、利用登録している希望者がいる自治体では、掲載すれば紹介が回る可能性があります。
希望者の人数や問い合わせの状況は、移住相談の窓口で聞けば教えてもらえることがあります。
知っておきたいのは、地方の買い手は一般の住宅需要とは別の層に偏る、という点です。移住希望者、隣の土地の所有者(畑や駐車場を広げたい人)、古民家やDIYで直して住みたい人、家庭菜園や就農のために農地が欲しい人です。
国土交通省の「農地付き空き家」の手引きでも、家庭菜園規模の農地を求める移住希望者からの相談が増えている自治体の例が紹介されています。一般の住宅需要が無い地域でも、この層の需要が残っていることがあります。
出典: 静岡市「中山間地域空き家情報バンクへの登録」 / 幸手市「空き家バンク~登録・利用~」 / 真岡市「真岡市空き家バンク事業Q&A」 / 日光市「日光市空き家情報登録制度実施要綱」 / 国土交通省「『農地付き空き家』の手引き(令和6年10月改訂)」
取引実績がほぼない地域と判断する目安
3つの道具と移住窓口で見た結果は、次の表で読めます。
| 見る場所 | 売れる余地ありと読む結果 | 需要が薄いと読む結果 |
|---|---|---|
| 不動産情報ライブラリ | 実家の町字か隣の町字に直近数年の取引の点がある | 実家の周辺に取引の点がほぼ無い |
| 地価公示・地価調査 | 近くの点が横ばいか上昇 | 近くの点が下落を続けている |
| 全国版空き家バンク | 同じ市町村の物件が数か月で成約済みになっている | 同じ市町村の掲載が無い、または1年以上動かない |
| 移住窓口 | 移住希望者の登録と問い合わせがある | 登録者が無い |
「取引の点がほぼ無い」「空き家バンクに同じ市町村の掲載が無い・動かない」「移住窓口に登録者が無い」の3つが揃えば、一般の仲介で買い手を探すのは難しい地域だと判断でき、「仲介で売れない実家の受け皿と限界点」の検討に進めます。
3つが揃わないうちは、需要が無いと断定するのは早いといえます。たとえば取引の点が無くても空き家バンクで動いている地域は、移住者という特定の層に需要があります。
立地・建物・価格の側を整え、依頼先を広げてから、もう一度この表に戻ってみてください。
立地と法令の制約を調べる方法
立地と法令で見るのは、「制約があるか」ではなく「買い手が建て替えられるか」の一点です。
市街化調整区域でも、接道に不安があっても、建て替えられる土地なら買い手は付きます。逆に、建て替えられない土地は、どれだけ値段を下げても住宅用地としての買い手が付きにくくなります。
不動産会社に頼む前に、役所で「この土地に家を建てられるか」の回答を取っておくと、依頼先への説明と価格の根拠が揃います。
市街化調整区域かどうかを都市計画図と役所の窓口で確かめる
市街化調整区域は、都市計画法第7条第3項で「市街化を抑制すべき区域」と定められた区域です。
同法第43条第1項により、市街化調整区域のうち開発許可を受けた区域以外で建築物を新築するには、原則として都道府県知事の許可が要ります。買い手が気にするのは、まさにこの「許可がないと建てられない」という点です。
確かめ方は2段階です。
まず、自治体のサイトで公開されている都市計画図(多くは地図情報システムで住所から検索できます)を開き、実家の場所が市街化区域か、市街化調整区域か、区域区分のない都市計画区域(非線引き区域)や都市計画区域外かを見てみましょう。
地方の実家は、区域区分そのものが定められていない市町村にあることも多く、その場合は市街化調整区域の制限が掛からずに済みます。
次に、市街化調整区域に入っていた場合は、自治体の都市計画課または開発指導課に、登記簿の地番を伝えて事前相談をしておきましょう。聞くのは「この土地に住宅を建て替えることができるか。できるなら、どの条文や基準に基づくか」の1点です。
回答は口頭でもよいのですが、担当者名と日付を控えておくと、後で不動産会社や買い手に説明する材料になります。
線引き前の宅地や建て替えが認められる余地を自治体の基準で確かめる
市街化調整区域でも、建築が認められる土地があります。
根拠は大きく2つです。ひとつは、都市計画法第34条第11号(市街化区域に隣接・近接し、おおむね50以上の建築物が連たんする地域のうち、都道府県の条例で指定した区域)と第12号(周辺の市街化を促進するおそれがないとして、条例で区域や用途を限って定めた開発行為)です。
もうひとつは、各自治体が開発審査会の基準や条例で定める「線引きの日より前から宅地だった土地」や「既存の建築物の建て替え」の扱いです。
基準は自治体ごとに違い、線引きの日(その市町村で区域区分が初めて定められた日)も違います。全国一律に「線引き前の宅地なら建てられる」とは言い切れないので、都市計画課への事前相談のときに「線引き前からの宅地としての扱いがあるか」「既存建築物の建て替えとして認められるか」を具体的に聞いてみてください。
線引き前から宅地だったことは、古い登記簿の地目や固定資産税の課税記録、航空写真などで示すことになります。
注意したいのが「既存宅地」という言葉です。かつては、線引き前から宅地だった土地について知事の確認を受ければ許可なしで建てられる「既存宅地確認制度」がありましたが、この制度は都市計画法の平成12年改正により平成13年5月18日に廃止されています。
施行日までに確認を受けた土地には5年間の経過措置がありましたが、それも終わっています。
親の代の書類に「既存宅地確認」の通知が残っていても、それだけで今も建てられるとは限りません。現在の自治体の基準で改めて確かめておきましょう。
出典: e-Gov法令検索「都市計画法」第34条 / 福岡市「既存宅地制度の廃止(旧都市計画法第43条第1項第6号)」
接道が建築基準法43条の要件を満たすか建築指導課で確かめる
建築基準法第43条第1項は、建築物の敷地は道路に2m以上接しなければならないと定めています。
ここでいう「道路」は、同法第42条第1項で原則として幅員4m以上のものと定義されています。
幅員4m未満の道でも、同法第42条第2項により、建築基準法の規定が適用された時点で建物が立ち並んでいた道で特定行政庁が指定したものは道路とみなされ、その中心線から2mの線が道路の境界線とみなされます(いわゆる2項道路で、建て替えのときは道の中心から2m下がる必要があります)。
これらに当てはまらない敷地でも、同法第43条第2項第1号の特定行政庁の認定、または第2号の建築審査会の同意を得た許可により建築できる場合があります。
大事なのは、「道路に面している」と「建築基準法上の道路に接している」は別だという点です。田舎の実家でよくあるのは、農道、水路沿いの管理用通路、私道、里道(法定外公共物)に面しているケースで、見た目は立派な道でも建築基準法上の道路に当たらないことがあります。
この場合、現状の家は建っていても、壊して建て直すことができない「再建築不可」になります。
自治体の建築指導課(建築課・建築審査課など自治体で名前が違います)に地番を伝えて、「前面の道は建築基準法上の道路か。何条何項の道路か。この敷地に建築確認が下りるか」と聞いてみましょう。多くの自治体は指定道路図を公開しているので、先に見てから窓口に行くと話が早く進みます。
2項道路ならセットバックの幅、43条2項の認定や許可が要るなら、過去に同じ道沿いで認定や許可の例があるかも聞いておくと、買い手への説明に使えます。
農地が含まれる実家の農地法3条の許可と下限面積の廃止
実家に畑や田が付いている場合、宅地とは別の法律が掛かります。
農地法第3条第1項は、農地の所有権を移転するには当事者が農業委員会の許可を受けなければならないと定め、同条第6項は、許可を受けないでした行為は効力を生じないと定めています。つまり、畑を買主に渡す契約を結んでも、所有権が移るのは農業委員会の許可が下りてからです。
また、相続で農地を取得した人は、同法第3条の3により、遅滞なく農業委員会に届け出る必要があります。実家の農地を相続したら、売る前にこの届出が済んでいるかを確かめておきましょう。
買い手側の要件は、令和5年4月1日施行の改正で変わりました。それまでは、農地を取得した後の経営面積が都府県で50アール以上(北海道2ヘクタール以上)という下限面積要件が許可の条件のひとつでしたが、この要件は廃止されました。
ただし、取得する農地のすべてを効率的に利用すること、必要な農作業に常時従事すること、周辺の農地利用に支障がないことといった他の要件は変わらず残り、農業委員会が許可の可否を判断します。「畑は農家でないと買えない」は面積の面では過去の話になりましたが、「農業をする人でないと買えない」は今も続いています。
住宅と農地を一緒に渡したい場合は、実家の自治体に「農地付き空き家」の仕組みがあるかを確かめてみてください。国土交通省の手引きは、空き家バンク担当部局と農業委員会担当部局が連携して運営することを勧めており、空き家バンクに登録された空き家に付随する農地について農業委員会が取得を認めてきた自治体の例が載っています。
もうひとつ、知っておくと助かる扱いがあります。住宅の敷地に付随する土地で、作物の栽培がごく小面積で、住宅の敷地から独立して取引の対象になるとは認められないものは、農地法上の「農地」に該当しないとする農林水産省の通知(平成16年3月18日付経営局長通知)があります。
こうした土地は、住宅の敷地と一体で売買するときに農業委員会の許可なしで渡せます。庭先の家庭菜園程度なら農地として扱われない可能性があり、該当するかの判断は農業委員会が行うので、先に聞いておくと手続きの見通しが立ちます。
なお、農地を宅地にして売る(転用して売る)には、農地法第5条の許可が別に要ります。「農地のまま農業をする人に渡す」のと「転用して宅地として渡す」のとでは、手続きも買い手の層も違います。
出典: e-Gov法令検索「農地法」第3条・第3条の3・第5条 / 国土交通省「『農地付き空き家』の手引き(令和6年10月改訂)」 / 国土交通省 報道発表「『農地付き空き家』の手引きを改訂しました!~農地取得時の『下限面積要件』の廃止等に対応~」
上下水道の引込みと境界の確定を買い手の費用として見る
区域と接道と農地が済んだら、残るのは買い手が「買った後にいくら掛かるか」を計算する材料です。
- 上下水道が敷地まで引き込まれているか
- 下水道がなく浄化槽か
- 前面道路が私道で、持分があるか
- 隣地との境界が決まっているか
どれも建て替えの可否には直結しませんが、価格に跳ね返ります。
上下水道は、自治体の水道課・下水道課で、敷地に引込管があるか、本管が前面道路まで来ているかを聞けます。本管が遠ければ引込み費用は買い手の負担になり、その分だけ買い手の希望価格は下がります。
浄化槽の家なら、浄化槽の設置年と法定点検の記録を揃えておくと、買い手の不安が減ります。
境界は、法務局で地積測量図の有無を確かめられます。地積測量図があり、現地に境界標も残っていれば、買い手は安心して買えます。
地積測量図が無い土地は、測量と隣地所有者の立会いが必要になることがあり、その費用と時間が価格交渉の材料になります。境界が未確定なら、その分を買い手は値引きで吸収しようとする、と覚えておくと交渉の見通しが立ちます。
経験者からは「農道沿いの家で、建築基準法上の道路に接していないと契約直前に分かった」「畑は農家にしか売れないと知って、家だけ先に売る手に切り替えた」という声も聞きます。どれも、役所の回答を先に取っておけば、売り出す前に分かったつまずきです。
建物の古さと価格が売れ残りを招く原因
地方の古い実家が売れ残るのは、古いからではなく、古い分を価格で吸収できていないからです。
買い手は「土地の値段から、自分で掛かる費用(解体・撤去・修繕・引込み)を引いた額」で考えます。売主が「土地値どおり」のつもりで値段を付けても、買い手から見た実質の価格はその分だけ高くなっています。
この見え方の差が、売れ残りの原因です。
旧耐震の築年数が買い手の費用と融資の見通しを狭める
建物の古さで最初に見られるのは、建築確認が昭和56年(1981年)6月1日より前か後かです。
この日から新しい耐震基準が適用されており、国土交通省の資料でも、新耐震基準の適用(昭和56年6月1日)以前に建築確認を受けた建物は、既存の構造計算書では新耐震基準への適合を確かめられないとされています。木造の実家でも同じ日付が境になります。
旧耐震の家を買う人は、耐震補強を含むリフォームを前提に考えるか、壊して建て直す前提で考えます。住宅ローンの扱いは、金融機関によって分かれます。
旧耐震でも融資する金融機関はありますが、担保評価や条件が厳しくなることがあり、買い手の資金計画が組みにくくなる分だけ買い手の幅が狭まります。「ローンが付かない」とまでは言い切れないものの、「買い手が自己資金に近い形で買う前提になりやすい」とはいえます。
査定の面では、旧耐震の木造住宅は建物の価値をほぼ見ず、土地の値段から解体費を引く形で査定されるのが一般的です。つまり、売主が「家が付いている分だけ高い」と考えていても、買い手と不動産会社は「家が付いている分だけ安い」と見ています。
この差を埋めないまま売り出すと、問い合わせが来ないまま時間だけが過ぎます。
出典: 国土交通省「マンションの耐震性等についてのQ&Aについて」
残置物と傷みが内見と値引き交渉を悪くする
家財、仏壇、農機具、物置の中身が残ったままの家は、内見の段階で敬遠されます。
買い手は「自分で片づける手間と費用」を想像し、その分を値引き要求に回します。残置物の撤去費は、買い手が見積もると売主が思うより高くなりがちで、撤去費をめぐる交渉で話が壊れることもあります。
傷みも同じです。雨漏り、床の沈み、シロアリ、庭木の繁茂は、内見で見えた瞬間に「この家は手が掛かる」という印象を作ります。
直すかは別として、売主側が状態を把握し、分かる範囲で買い手に伝えられるようにしておくと、交渉が「分からないから安く」ではなく「これが掛かるからこの額」に変わります。
順番としては、片づけてから出すのが先です。残置物を撤去し、室内を空にしてから写真を撮って掲載すると、同じ家でも内見の反応が変わります。
仏壇や位牌は、兄弟・姉妹で誰が引き取るかを先に決めておくと、売却の直前で止まる事態を防げます。
査定の根拠を聞かずに決めた希望価格
地方の実家の査定で起きやすいのが、「根拠のない査定」です。
都市部なら近くに似た取引事例が多く、どの会社の査定も近い額に収まりますが、取引事例が少ない地域では、会社ごとに査定の根拠と金額が大きく開くことがあります。
相場から離れた「とりあえずこの額で出してみましょう」という査定もあれば、「この地域はこのくらいしか付きません」という低い額もあり、どちらが実態に近いかは査定額だけでは判断がつきにくいところです。
見分ける方法は、査定額を聞いたときに「どの事例と比べましたか」と聞くことです。精度の高い査定は、不動産情報ライブラリに載っているような近隣の取引事例や、同じ会社が扱った成約事例を示して、そこから土地の形や道路の状況、建物の解体費を加減した説明ができます。
事例を示せず「経験上このくらい」で終わる査定は、精度が低い可能性があります。不動産情報ライブラリで自分でも取引の点を見ていれば、会社が示した事例が同じ町字の実際の取引と合っているかを照らし合わせられます。
もうひとつ、複数の会社に査定を頼んだときは、一番高い額を選ばないことです。取引事例が少ない地域で一番高い査定は、根拠が薄いことがあります。
高い査定に合わせて売り出し、問い合わせが無いまま掲載日数が延びると、後で下げても「長く売れ残っている物件」として見られてしまいます。希望価格は、根拠を説明できる査定の範囲で決めておきましょう。
先に解体して古家目当ての買い手を逃す失敗
「古い家は壊してから売った方が売れやすい」と考えて、先に解体する人がいます。
都市部の住宅地ではそれが正しいこともありますが、地方では逆に買い手の幅を狭めることがあります。
地方の買い手は移住希望者、古民家やDIYで直して住みたい人、倉庫や作業場代わりに使いたい人、農地と一緒に使いたい人に偏ります。この層は建物を欲しがります。
古い家でも、構造が残っていて自分で手を入れられる家なら「土地だけ」より価値がある、と見るからです。先に解体すると、この層を逃します。
さらに、解体費は売主が先に払うことになり、その費用を価格に上乗せしても、更地を欲しがる買い手がいない地域では回収の見込みが立ちにくくなります。「解体は買い手が決まってから、買い手の希望に応じて検討する」のが、地方の実家では安全な順番です。
価格を下げる前に見直す順番
値下げは最後です。
その前にやることを順番に並べると、次のようになります。
| 順番 | やること | ねらい |
|---|---|---|
| 1 | 残置物の撤去と室内の片づけ | 内見の印象を変え、撤去費をめぐる値引き要求を無くす |
| 2 | 買い手が払う費用(解体・撤去・上下水道の引込み)の見積もりを売主側で取り、開示する | 買い手の「分からないから安く」を「これが掛かるからこの額」に変える |
| 3 | 依頼先を増やす | 「この会社では扱わない」を「市場に買い手がいない」と取り違えない |
| 4 | 価格の見直し | 1〜3を済ませても反応が無いときに、根拠のある査定の範囲まで下げる |
2の「売主側で見積もりを取る」は、地方の古い家でとくに効果があります。買い手は遠方から来ることが多く、現地の解体業者や水道業者に見積もりを頼むだけで手間が掛かります。
売主が先に見積もりを取って開示しておくと、買い手は「土地値 − この費用」で即座に計算でき、検討の土俵に乗りやすくなります。
4の値下げは、小刻みではなく一度に相場まで下げると効果が出ます。数万円ずつ小刻みに下げると、掲載日数が延び、値下げの履歴が「売れない物件」の印象を強めて、かえって敬遠されます。
根拠のある査定の範囲で、一度で動く額まで下げてみてください。それでも反応が無ければ、需要の判断の表に戻り、受け皿を検討する段階です。
不動産会社に断られる理由と依頼先の選択肢
不動産会社の「売れません」は、「この会社は扱わない」と翻訳して次へ行く言葉です。
不動産会社には、断る側の採算の事情があります。それを知っていれば「売主側でこう整えると受けてもらえる」に落とし込めます。
低い売買価格では媒介報酬が手間に見合わない事情
仲介の報酬は、宅地建物取引業法第46条に基づく国土交通省の告示で上限が決まっていて、売買価格に連動します。
原則の上限は、物件価格のうち200万円以下の部分が5%、200万円を超え400万円以下の部分が4%、400万円を超える部分が3%(いずれも消費税別)の合計です。たとえば300万円の物件なら、200万円×5%+100万円×4%=14万円に消費税を加えた15万4千円が、売主から受け取れる報酬の上限です。
一方で、地方の実家を売るときに会社側が掛ける手間は、価格が下がっても同じだけ掛かります。遠方への現地調査、役所での区域・接道・農地の調査、境界や残置物の段取り、重要事項説明書の作成は、300万円の家でも3,000万円の家でも同じ作業です。
往復の交通費と人件費を足すと、低額物件は受けた時点で赤字になりやすいのです。
「売れません」と言われたら、この構造を思い出してみてください。市場に買い手がいないのではなく、その会社の採算に乗らないだけ、という場合があります。そこで意味を持つのが、800万円以下の報酬特例です。
出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」第46条 / 国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和45年建設省告示第1552号)」
800万円以下の媒介報酬特例を知って依頼する
報酬の上限を定める昭和45年建設省告示第1552号は、令和6年国土交通省告示第949号で改正され、令和6年7月1日に施行されました。
改正後の告示は、売買代金が800万円以下(消費税等相当額を含まない)の宅地または建物を「低廉な空家等」とし、その売買の媒介に関して依頼者から受けることのできる報酬の額は、「当該媒介に要する費用を勘案して」原則の計算方法による額を超えて受け取ることができるとしています。
そのうえで「当該依頼者から受ける報酬の額は30万円の1.1倍に相当する金額を超えてはならない」と定めています。税込で33万円が上限です。
改正前(令和6年6月30日まで)の特例は、対象が400万円以下の宅地建物で、上限は18万円の1.1倍、しかも報酬を受けられる相手は「空家等の売主又は交換を行う者である依頼者に限る」と告示に書かれていました。改正後の告示はこの売主限定を外して「依頼者」とし、国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」の新旧対照表でも、買主から受ける報酬を原則の計算方法に限る旧の記述が削られています。つまり、改正後は買主側の媒介でも特例の対象になります。
告示にはもうひとつ前提があります。「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、媒介契約の締結に際しあらかじめ、特例で定める上限の範囲内で報酬額について依頼者に説明し、合意する必要があるとしています。
つまり、特例の報酬は会社が後から勝手に上乗せできる額ではなく、媒介契約の前に説明と合意が要ります。
売主側の使い方は両面あります。ひとつは、依頼するときに「800万円以下の特例で、税込33万円まで払う前提でお願いしたい」と先に伝えることです。
300万円の物件で原則の上限15万4千円しか見込めない会社も、33万円なら現地調査と役所調査を含めて採算に乗る可能性があり、断られにくくなります。
もうひとつは、逆に守る側の知識です。説明も合意もないまま33万円を請求されたら、上限が33万円であることと、契約前の説明と合意が前提であることを知っておけば、落ち着いて確認できます。33万円を超える額は、特例を使っても請求できません。
出典: 国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和45年建設省告示第1552号)」 / 国土交通省「報酬告示 新旧対照表」 / 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方 新旧対照表」 / 国土交通省「空き家等に係る媒介報酬規制の見直し」
建築の見通しを説明できない物件を嫌う事情
不動産会社が地方の実家を敬遠するもうひとつの理由は、買い手への重要事項説明で負うリスクです。
市街化調整区域、接道が建築基準法の要件を満たすか不明、農地が付いている、といった物件は、「建て替えられますか」と買い手に聞かれたときに会社が答えを持っていないと、説明の誤りが後でトラブルになります。調べる手間とリスクを天秤に掛けて「うちでは扱いません」となりやすいのです。
この理由は、役所の回答を先に取っておけば消えます。都市計画課で「線引き前からの宅地として建て替え可」、建築指導課で「前面道路は42条2項道路、セットバック○m」、農業委員会で「付属の農地は3条許可が要る」という回答を、担当者名と日付付きで持って行けば、会社は説明の材料を手に入れた状態で依頼を受けられます。
「調べてくれない会社」を責めるより、「調べ済みの物件」として持ち込む方が早く進みます。
地元の仲介会社と広域の買取再販会社を分けて当たる
依頼先は、性格の違う2種類に分けて、同じ物件を並行して当てるのがおすすめです。
ひとつは地元の仲介会社です。大手ではなく、その市町村か隣の市町村に事務所がある会社で、地縁のある買い手、隣地所有者、地元で土地を探している事業者に強みがあります。
地方の実家の買い手が「隣の人」や「同じ集落の親戚筋」であることもあり、その情報を持っているのは地元の会社です。
もうひとつは、広域で空き家の買取や再販をしている会社です。価格は仲介より下がりますが、対象地域が広く、「営業エリア外」で止まらないのが利点です。
地元で受け手が無いときの比較対象として、並行して査定を頼んでおくと、仲介で粘るかの判断材料になります。
大手の会社の「営業エリア外です」は、市場の判断ではなく、その会社の営業範囲の話です。地元の小さな会社と広域の買取再販会社の両方に当たって、はじめて「この物件に受け手がいるか」が分かります。
空き家バンクの協定業者を経路にする
自治体の空き家バンクは、所有者と移住希望者をつなぐ制度で、売買契約の媒介そのものは自治体と協定を結んだ宅地建物取引業者に委ねる形が多く採られています。
たとえば福岡市の空き家バンクでは、所有者が市に物件情報を提供すると、市が登録事業者の中から輪番制で媒介事業者を選び、所有者がその事業者と媒介契約を結んだ後に物件情報が掲載され、交渉と契約は媒介事業者が行います。
この仕組みの利点は、自分で不動産会社を探して断られる手順を省けることです。協定業者は空き家バンクの物件を扱うことを前提に登録しているので、低額や郊外という理由だけで断られにくくなります。
ただし、仕組みは自治体ごとに違い、自治体が直接マッチングだけして契約は当事者任せのところも、特定の業者団体に委ねるところもあります。登録前に自治体の案内で「契約はどこが仲介するか」「媒介報酬は掛かるか」を確かめておきましょう。
出典: 福岡市「福岡市空き家バンク」
専任媒介ならレインズの登録証明書で取引状況を確かめる
専任媒介契約か専属専任媒介契約で依頼した場合、宅地建物取引業法第34条の2第5項により、会社は国土交通省令で定める期間内に物件を指定流通機構(レインズ)に登録し、同条第6項により登録を証する書面を遅滞なく依頼者に引き渡す義務があります。
登録の期間は、宅地建物取引業法施行規則第15条の10で、専任媒介契約は契約の日から7日、専属専任媒介契約は5日(いずれも休業日を除く)と定められています。
レインズには「ステータス管理機能」があり、専任・専属専任で登録された物件の取引状況が「公開中」「書面による購入申込みあり」「売主都合で一時紹介停止中」の3種類で登録されます。
売主は「売主専用画面」で自分の物件の状況を確かめることができ、国土交通省と各不動産流通機構のチラシは、令和7年1月から、会社から交付される登録証明書の二次元コードを読み取ることで売主専用画面に簡単に入れるようになると案内しています(確認用のIDとパスワードが要ります)。
同じチラシは、取引状況が「売主都合で一時紹介停止中」になっていると買主側の会社が物件の問い合わせをできず取引が始まらないので、覚えがないのに紹介停止中になっていたら依頼した会社に問い合わせるよう案内しています。
地方の実家で専任媒介にした場合、「何か月たっても反応がない」の原因が、市場なのか登録状況なのかを切り分ける道具がこれです。登録証明書を受け取っていなければ請求し、受け取っていれば二次元コードから状況を見て、「公開中」になっているかを確かめてみてください。
経験者からは「大手に営業エリア外と言われたが、地元の小さな会社が受けてくれた」「空き家バンクに登録したら協定の業者が付いて、自分で探す手間がなかった」という声も聞きます。依頼先をひとつで止めないことが、いちばん大事な点です。
出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」第34条の2 / e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」第15条の10 / 国土交通省・各不動産流通機構「宅地や建物の(専属)専任媒介契約を締結したらレインズの『ステータス管理機能』を活用しましょう!」
仲介で売れない実家の受け皿と限界点
最後の受け皿の「条件」と「売主が払う費用」を知っていれば、仲介でどこまで粘るかを自分で決められます。
受け皿は3つあり、どれも仲介より手元に残る額は減ります。その分、受け皿の条件を知ったうえで、先に仲介と空き家バンクを当たり切る順番が大切です。
買取業者が値段を付ける物件と付けない物件
買取業者は、「自分で買い取った後に再販できるか」で判断します。
値段が付くのは、再販の見込みが立つ物件に限られます。地方の実家で、需要の判断の3つの条件が揃った地域(取引の点がほぼ無い・空き家バンクが動かない・移住希望者がいない)は、買取業者にとっても再販先が無いので、対象外になることが多いのです。
対象になる場合でも、価格は仲介で売れたときより下がります。買取業者は、再販したときの見込み価格から、自社の利益と解体・整備・残置物撤去の費用を引いた額で買うからです。
「仲介の何割」という決まった水準は無く、物件ごとに再販価格の見込みと掛かる費用で決まります。相場を知るには、複数の買取業者に当たって比べるのがいちばん確かです。
地方でも買取の対象になりやすいのは、駅、幹線道路、学校、商業施設に近い物件です。集落の奥でも、幹線道路沿いで倉庫や事業用地として使える土地は、住宅としての需要が無くても値段が付くことがあります。
建物を壊さずに当たる方が、買取業者の側でも使い道の選択肢が広がります。
有料引取サービスで国土交通省が示した留意点
買取業者が値段を付けない物件の受け皿として、近年増えているのが「引取サービス」です。
所有者が金銭(引取料など)を払い、事業者が不動産を引き受ける取引で、通常の売買とは逆向きにお金が流れます。国土交通省は令和7年2月14日の第42回社会資本整備審議会不動産部会でこのサービスを取り上げ、宅地建物取引業法等による規制が及ばない場合も多いと想定されることから、課題を注視する必要があるとしました。
国土交通省が挙げた留意点は3つです。
| 留意点 | 国土交通省が挙げた中身 |
|---|---|
| 取引の安全性 | 所有者が契約どおり金銭を払ったのに、事業者が所有権移転登記を行わないといったトラブルが起きないか |
| 適正価格での取引機会の確保 | 本来なら適正な市場価格で売れる物件まで引取サービスに回され、売る機会が失われないか |
| 引取後の管理 | 引き取った事業者が管理を続けるか、将来の管理不全土地や所有者不明土地を増やさないか |
なお同じ資料は、所有権移転と金銭授受が円滑に行われる限り特段の問題はなく、現在までに大きな被害の増加等は報告されていない、とも記しています。
事業者の実態についても調査結果が載っています。令和6年10月時点でインターネット上に引取サービスを掲げる事業者は59社、うち宅地建物取引業の免許があるのは38社でした。
一部の事業者で作る自主規制団体は、次の点を基準にしています。
- 引取に掛かる費用と条件を契約前に明示すること
- 契約不適合責任を免責とすること
- 引取料金の支払いは所有権移転登記の申請時以降とし、原則として前金を取らないこと
- 宅地や建物を扱うなら宅地建物取引業の免許があること
引取料の実績例として、国土交通省の聞き取りでは、土地約15万円/筆(2筆目以降5万円)と建物約70万円〜、約40万〜50万円、約50〜500万円といった水準が挙げられています(令和6年9〜10月の聞き取り。事業者により幅があります)。
留意点の2つ目は、売主が受け皿を使う順番に直結します。引取サービスは「売れない物件」の受け皿ですが、本当に売れないかを確かめずに使うと、売れたはずの物件にお金を払って手放すことになります。
需要の判断と依頼先を全部当たってから、はじめて検討する受け皿です。使うときは、前金を求めない事業者を選び、費用と条件を契約前に書面で確かめ、金銭を払う前に所有権移転登記が済んだことを確かめておきましょう。
もうひとつ、相続した土地を狙う古い手口があります。国土交通省は、過去に原野商法のトラブルにあった消費者やその原野を相続した消費者が再びトラブルにあう「原野商法の二次被害」が全国の消費生活センター等に寄せられていると注意を呼びかけています。
「あなたの持っている土地を高値で買い取る」という電話勧誘をきっかけに、「手続き費用」「税金対策」といった名目でお金を請求する手口です。
大阪府も、原野商法の被害者やその相続人に「土地を高く買い取る」と勧誘し、そのために必要だとして測量サービスなどの契約をさせる手口に注意を促しています。
「高く買い取る」と持ちかけながら、先に測量費や広告費を払わせる話は、受け皿ではなく手口です。前払いを求める業者は避けるのが安全です。
出典: 国土交通省「不動産の『引取サービス』について」(第42回社会資本整備審議会不動産部会 資料3) / 国土交通省「原野商法の二次被害トラブルにご注意ください!」 / 大阪府「消費生活相談FAQ(原野商法)」
相続土地国庫帰属制度が却下される要件と負担金
「売れない土地は国が引き取ってくれる」と聞いて期待する人がいますが、この制度には条件があり、建物がある実家はそのままでは対象外です。
相続土地国庫帰属制度は、相続または相続人に対する遺贈によって取得した土地を、審査を経て国庫に帰属させる制度です。共有名義の土地は、共有者全員が共同して申請します。
まず、申請の段階で直ちに却下される土地があります。
- 建物がある土地
- 担保権や使用収益権が設定されている土地
- 他人の利用が予定されている土地
- 特定有害物質により土壌汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地や、所有権の存否・範囲に争いがある土地
次に、審査の段階で不承認になる土地があります。
- 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用や労力が掛かる土地
- 管理や処分を阻害する工作物や樹木などが地上にある土地
- 除去しなければならない有体物が地下にある土地
- 隣接地の所有者等との争訟によらなければ管理や処分ができない土地
- その他、通常の管理や処分に過分な費用や労力が掛かる土地
実家の場合に大きいのは、「建物がある土地」は申請自体が却下される、という点です。つまり、国に引き取ってもらうには、先に建物を解体して更地にし、境界も確定させておく必要があります。
「売れない家は国が引き取る」のではなく、「売れない土地を、家を壊し境界を確かめたうえで、お金を払って引き取ってもらう」制度です。
費用は2つあります。ひとつは審査手数料で、土地1筆につき14,000円を申請時に収入印紙で納め、取り下げ・却下・不承認のときも戻らない費用です。
もうひとつは承認後に納める負担金で、国が10年分の標準的な管理費用を考慮して算定した額です。負担金は原則として1筆20万円ですが、市街化区域または用途地域内の宅地、市街化区域・農用地区域・土地改良事業の施行区域内の農地、森林は面積に応じて算定されます。
地方の実家の宅地は市街化区域外であることが多く、その場合は面積にかかわらず20万円です。法務省のページには負担金の自動計算シートがあります。
申請は土地のある都道府県の法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門に行い、申請前の相談も全国の法務局・地方法務局で受け付けています。
解体の前に、実家の土地が却下や不承認の要件に当たらないかを法務局で相談しておくと、壊してから引き取れないと分かる事態を避けられます。
出典: 法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」 / 法務省「相続土地国庫帰属制度において引き取ることができない土地の要件」 / 法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」 / e-Gov法令検索「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令」第5条
受け皿の費用と仲介で粘る期間の比べ方
3つの受け皿を、条件と売主が払う費用で並べると次のようになります。
| 受け皿 | 条件(建物の有無・区域) | 売主が払う費用 | 手元に残る額 |
|---|---|---|---|
| 買取業者 | 再販の見込みがある物件。建物は残したまま当たれる | 原則なし(再販の利益と解体・整備費の分だけ買取価格が下がる) | 仲介より低い額がプラスで残る |
| 有料引取サービス | 事業者が引き受ける物件(宅地・建物を扱うなら宅建免許のある事業者を選ぶ) | 引取料(国土交通省の聞き取りの実績例は土地約15万円/筆、建物約70万円〜など事業者により幅がある) | マイナス(引取料の分だけ持ち出し) |
| 相続土地国庫帰属制度 | 建物が無く、境界が明らかで、却下・不承認の要件に当たらない土地 | 解体費+審査手数料1筆14,000円+負担金(原則20万円。市街化区域等の宅地・農用地区域等の農地・森林は面積で算定) | マイナス(解体費と手数料と負担金の分だけ持ち出し) |
この表から導けるのは、「仲介で安くても売れれば、受け皿より有利」ということです。買取でプラスが残るのは再販の見込みがある物件に限られ、引取サービスと国庫帰属はどちらも売主の持ち出しになります。
たとえば仲介で安い額でしか売れない家でも、解体費と負担金を払って引き取ってもらうのに比べれば、はるかに有利です。
では、仲介でどこまで粘るか。期間を年数で決めるのではなく、次の2つの条件で決められます。
- 需要の判断で3つの条件(取引の点がほぼ無い・空き家バンクが動かない・移住希望者がいない)が揃っているか
- 依頼先(地元の仲介会社・広域の買取再販会社・空き家バンクの協定業者)を全部当たったか
この2つがどちらも「はい」になったときが、受け皿を検討する時点です。どちらかが「いいえ」なら、まだ仲介で売れる余地が残っています。
経験者からは「国が引き取ると聞いて法務局に行ったら、建物があるので申請できないと言われた」「引取業者に払って手放した後で、同じ集落の家が仲介で売れたと聞いて悔やんだ」という声も聞きます。受け皿の条件と費用を先に知っていれば、どちらも避けられた結果です。
売れにくい理由の仕分け表に戻り、売主側で直せる理由を直し切ってから、受け皿を選んでみてください。
まとめ:地方の実家は「売れない理由」を5つに分ければ、売れる余地と受け皿に切り替える時点が見える
「売れない」は、需要・立地と法令・建物・価格・依頼先の5つが重なって見えている状態で、売主が変えられないのは需要と区域区分の2つです。その需要も「地方全体」ではなく実家の町字で見れば、取引の点や空き家バンクの成約が残っている地域があります。
次の一歩は、不動産情報ライブラリで実家の町字の取引の点を見て、役所で「この土地に家を建て替えられるか」の回答を取ることです。ここを飛ばして不動産会社の「難しい」を市場の答えと受け取ると、片づけ・価格・依頼先という売主側で直せる理由まで手付かずのまま、売れたはずの家を引取サービスや国庫帰属にお金を払って手放すことになります。
需要の3つの条件が揃い、依頼先を全部当たったかを確かめてから、受け皿を選んでみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、地方や需要の少ない地域にある実家の売却可能性を無料の道具で調べる方法と、仲介で売れないときの受け皿の条件も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。

