実家には親だけが住み、名義人は自分の人が読むガイド

実家の土地と建物は自分ひとりの名義になっていて、そこには親だけが暮らしています。自分は別の家に住み、家賃は受け取っていません。売る予定も、自分がそこに住む予定も、今のところありません。

実家の相続において、名義人が自分ひとりでも、家の使い方を決められる場面と、親の暮らしを確かめてから決める場面は別です。親がどんな約束で住み始めたのかと、自分に何かあったときに誰へ記録を渡すのかを先に確かめておけば、今すぐ家を動かさないまま、必要になった日に話し合いを始められます。

実家の名義が次のようになっている方は、それぞれの記事へ。

実家には親だけが住み、名義人は自分のケースだと、今後どんな時に状況が変わるのか

状況が変わるのは親がこの家で暮らせなくなったときだけではなく、自分が家を使う必要が出たときや、自分が先に亡くなって名義人が入れ替わったときにも変わります。

きっかけは、親の側から来ることも、自分の側から来ることもあります。名義が自分ひとりだと親の側だけを気にかけがちですが、自分の事情で家を使うことになった場面と、自分がいなくなった後の場面も、同じだけ家の行方を動かします。

親が入院・施設入居で家に戻らず、空き家を自分で管理する時

親が入院や施設への入居で家を離れたら、空いた家をどう見るかは自分ひとりで決められますが、親がここに住む前提まで終わったかどうかは別に確かめます。

入院して数週間で戻る見込みがある状態と、施設へ移ってもう戻らない状態は、同じ空き家でも意味が違います。前者なら親の暮らしはまだこの家にあり、後者なら住む人がいない期間が続きます。どちらなのかは、退院や退所の見通しを病院や施設へ聞けば分かります。

名義人が自分ひとりなので、鍵の管理も、業者へ点検を頼むことも、ほかの人の同意を待たずに決められます。民法第二百六条は、所有者が法令の制限内において自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を持つと定めています。ただし、自分で決められるのは家の管理までで、親が戻りたいかどうかまでは決まりません。

決めておくのは次の四つです。鍵を誰が持つか、郵便物を誰が取りに行くか、水道を通して換気をするのを誰が何回行うか、給湯器の故障や雨漏りに誰が気づくかです。あわせて、親の荷物をどうするかを本人に聞いてください。戻る気持ちが残っているうちに片づけを進めると、あとから元へ戻せません

親が家を離れた日から、誰が何を担うかを紙に書き出してください。売る時期や施設の選び方まで、この時点で決める必要はありません。

参照: e-Gov法令検索「民法」

親が亡くなり、名義人である自分が家の使い方を決めることになった時

親が亡くなっても家の名義は自分のままなので、決めることになるのは、住む人がいなくなったこの家を自分がどう使うかです。

親はこの家に住んでいた人であって、登記に名前のある人ではありません。ですから親が亡くなっても、家そのものが相続の対象になるわけではありません。登記上の名義人が亡くなった人のままなら、名義人が亡くなって決まっていない場合を扱う記事で確かめてください。

家賃を受け取らずに親を住まわせていた場合、その約束は民法上の使用貸借に当たることがあります。民法第五百九十七条第三項は、使用貸借が借主の死亡によって終了すると定めています。借主にあたるのは住んでいた親なので、親が亡くなればその約束は終わります。ただし、家賃を受け取っていた場合や、親のほかに住んでいた人がいる場合には、同じ結論になりません。

気をつけるのは、親の遺品や親自身の財産と、自分が持っている土地と建物を混ぜないことです。家の中にある家具や現金は親の相続の話で、建物と土地は自分の財産の話です。二つを同じ場で決めようとすると、兄弟・姉妹との話し合いが長引きます。

親が亡くなった直後に、この家をどうするかまで決める必要はありません。先に確かめるのは、家の名義が自分のままであることと、家の中の物が誰のものかを分けることです。

参照: e-Gov法令検索「民法」

自分が実家の売却・居住・賃貸を考え始めた時

自分の側の事情でこの家を使いたくなったときも、先に確かめるのは、親が今どんな約束で住んでいるかと、次にどこで暮らせるかです。

きっかけになるのは、たとえばこういう場面です。転勤が決まり、家を借りるより実家へ移ったほうが安く済むと気づきます。住宅ローンの負担が重くなり、実家を貸して家賃を得たいと考えます。自分の老後の住まいとして使うつもりになることもあります。

所有者である自分には、この家を自分で使うこと、貸して家賃を得ること、売ることの三つを決める権利があります。民法第二百六条が、所有者は法令の制限内において自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を持つと定めているためです。名義人がほかにいないので、誰かの同意を待つ場面もありません。

ただし、親が家賃を払わずに住んでいるか、家賃を払って住んでいるかで、親の居住の扱いは変わります。無償で使う約束は民法第五百九十三条の使用貸借にあたり、賃料を払う約束は第六百一条の賃貸借にあたります。どちらに当たるかは、家族の間での呼び方ではなく、実際に何を払ってきたかと、住み始めたときにどんな話をしたかで決まります。

不動産会社へ査定を頼む前に、二つを確かめてください。親が今どんな条件で住んでいるかと、親が次にどこで暮らせるかです。売る値段や税金の計算は、そのあとの話になります。

参照: e-Gov法令検索「民法」

自分が親より先に亡くなって家の名義人が変わった時

自分が親より先に亡くなると、この家は自分の財産として相続の対象になり、家のことを親と話す相手は自分の相続人へ移ります。

親がそこで暮らし続けていても、この点は変わりません。登記に名前があるのは自分なので、家は自分の財産として数えられます。親が住んでいることは、家が誰の財産かという話とは別に扱われます。

誰が相続人になるかは家族の構成で変わるので、配偶者や子と決めてかからないでください。民法第八百九十六条は、相続人が相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めています。ただし、被相続人の一身に専属したものは承継されません。家についての権利と義務は、この承継の対象に入ります。

では親はそのまま住み続けられるのかというと、自動で終わるとも、同じ条件のまま続くとも言えません。民法第五百九十七条第三項が使用貸借の終了事由として定めているのは、借主が亡くなった場合です。貸主である自分が亡くなった場合の扱いは、住み始めたときの約束と、それが記録に残っているかで変わります。

そのため、自分が元気なうちに、親がどんな条件で住んでいるかを一枚に書いておく意味があります。家を引き継ぐ人がその条件を後から知る手立てを持たないと、親と相続人の間で前提が食い違ったところから話が始まります。

参照: e-Gov法令検索「民法」

【落とし穴】実家には親だけが住み、名義人は自分の人で、実際に起こりうるケースを紹介

名義人が自分ひとりでも、親がどこへ移るのか、今どんな条件で住んでいるのか、自分が先に亡くなったらどうなるのかを確かめないまま家の方針を決めると、途中で話が止まります。

どれも、書類の上では自分の判断だけで進められる場面です。止まるのは手続きではなく、親や家族との話し合いのほうです。所有権のはっきりしている家ほど、住んでいる人の側を確かめる手順が抜けます。

名義人は自分なので親の転居先を決めずに売却相談を進めていた

名義人が自分ひとりでも、親が現に住んでいる家の売却相談は、親の居住の条件と移り先を確かめる前に進めないでください。

次は、よくある形をもとにした架空の例です。

名義は自分なのだからと、まず不動産会社へ査定を頼みました。親には売値と時期が決まってから伝えるつもりで、査定の日程も自分だけで決めました。担当者が実家を訪ねた日、そこで暮らしている親が「何も聞いていない」と言いました。

名義人として売却を決める立場と、親の住まいを確かめる手順を一つにした例です。

この例から学べることをまとめます。

  • 査定前に、親が住み始めた時の条件を確かめる
  • 親の希望と移り先を聞いてから、売却相談の時期を決める

ここで分かれているのは、家を売ると決める立場と、親がこの家に住む条件を終わらせられるかどうかです。前者は名義人である自分の判断で足ります。後者は親が住み始めたときの約束によって決まるので、名義だけでは決まりません。

先に確かめるのは、親が家賃を払っているかどうか、いつまで住む話になっていたか、そして親が次にどこで暮らせるかです。移り先の当てがないまま売る話が進むと、契約の直前で止まるか、親が行き先のないまま退去することになります。

査定を頼む前に、家を売ることを考えていると親へ伝えて、住まいについての希望を聞いてください。この時点で答えが出そろわなくても構いません。親が今の家をどう考えているかが分かれば、売る話をいつから始められるかが見えます。

参照: e-Gov法令検索「民法」

家賃を受け取っていないため、必要ならすぐ退去してもらえると思っていた

家賃を受け取っていなくても、親が住み始めたときの目的や期間によっては、自分の都合だけですぐ出てもらえるとは限りません。

次も、よくある形をもとにした架空の例です。

親を無償で住まわせ、契約書は交わしていません。家賃も受け取っていないため、何の約束もないと考えています。自分が家を使うことになったら、そのときに伝えれば出てもらえると思っています。

契約書と家賃がないことを、約束そのものがないことと取り違えた例です。

この例から学べることをまとめます。

  • 書面がなくても、住み始めた時の口頭の約束を確かめる
  • 期間、目的、家賃、記録の有無を分けて整理する

書面がなくても、約束がないことにはなりません。民法第五百九十三条は、ある物を引き渡す約束と、受け取った物を無償で使ってよく契約が終わったときに返すという約束によって、使用貸借の効力が生じると定めています。家賃を受け取らずに親を住まわせている状態は、この形に当たることがあります。

終わらせられる時期は、次の四つによって変わります。

項目書き入れる欄
住んでよい期間を決めたか
何のために住むと決めたか
家賃を受け取っているか
その話が分かる記録があるか

民法第五百九十七条は、住んでよい期間を決めていればその満了によって、期間を決めずに使う目的だけを決めていれば親がその目的に従って使い終えたときに、使用貸借が終わると定めています。期間も目的も決めていなければ、第五百九十八条第二項によって貸主がいつでも解除できます。

自分の家がどれに当たるかを、この場で決めないでください。表に書き入れた内容は、弁護士や司法書士へ相談するときの材料になります。伝えるのは、いつから、どんな話で住み始め、何を払ってきたかです。

参照: e-Gov法令検索「民法」

自分が先に亡くなった場合の親の住まいを、配偶者や子へ伝えていなかった

自分が先に亡くなったときに家を引き継ぐ人へ、親がどんな条件で住んでいるかを伝えていないと、家族の前提が食い違ったところから話が始まります。

もう一つ、よくある形をもとにした架空の例を挙げます。

親が亡くなるまでここに住むのだろうと、自分も家族も思っていました。いつまで住むのか、税や修繕費を誰が出すのか、自分に何かあったらどう扱うのかは、話したことがありません。そのまま自分が先に亡くなり、家は家族へ引き継がれました。

親の居住条件を、名義人である自分だけが知る状態にした例です。

この例から学べることをまとめます。

  • 親の居住条件を、家を引き継ぐ可能性がある人へ伝える
  • 税や修繕費の負担と、約束が分かる資料の保管場所も共有する

引き継いだ人が見られるのは、登記に書かれた名義と持分だけです。親がどんな話でここに住み始めたかも、いつまで住むつもりだったかも、登記からは分かりません。親のほうは自分の家のつもりで暮らしてきたので、出ていく話が出ること自体を思ってもいません。

伝える相手を配偶者や子と決めてかからないでください。誰が相続人になるかは家族の構成で変わります。実際に家を引き継ぐ立場になりうる人へ、親が今どんな条件で住んでいるかを、自分の口から伝えておきます。

遺言を書くこと、契約を結ぶことが、どの家族にも当てはまる答えではありません。先に必要なのは、親の居住の条件を自分ひとりだけが知っている状態をやめることです。

参照: e-Gov法令検索「民法」

今のうちにできること・やっておくとよいこと

今できるのは、親がこの家に住んでいる条件を一枚に書き、自分が家を使うことになった場合と、自分が連絡できなくなった場合の備えを先に決めておくことです。

どれも家を動かす準備ではありません。今の状態を記録に変え、それを誰が引き継ぐかを決めるだけです。売るか持ち続けるかを決めていない段階でも、そのまま進められます。

親が住み始めた経緯・家賃・費用負担・確認日を一枚に記録する

親から聞いた住み始めた経緯と、家賃や費用の負担を、一枚の紙へ欄を分けて書きます。

口で聞いたままにしておくと、親と自分の記憶が少しずつ離れていきます。数年経つと、家賃なしで住み始めたのか、当初は少し入れてもらっていたのかさえ、二人で言うことが変わります。

欄は、混ぜずに分けます。

項目書き入れる欄
住み始めた経緯
家賃
固定資産税
保険料
修繕費
確認日

大事なのは、確認日を入れることです。親と自分が同じ内容をその日に確かめたという記録が、後から読む人にとっての手がかりになります。

この一枚は契約書でも遺言でもありません。法的な力を持たせるものではなく、家族の間で話が食い違ったときに、何を確かめ直せばよいかが分かる紙です。書いたら、親にも一度見てもらってください。

自分が家を使う必要が出た場合に、親の転居を話し合う時期を決める

自分が売却や自分の居住を考え始めたときに備えて、親と転居の話を始める時期を先に決めておきます。

売ると決まってから話す、という順番では、親が次の住まいを探す時間が残りません。決まったことを伝えるだけの場になり、親は反対するか、行き先のないまま受け入れるかのどちらかになります。

決めておくのは、話し始めるきっかけを一つと、その日に何を話すかです。きっかけには、転勤の内示、住宅ローンや家計の負担が重くなったとき、親が入院したときのように、家を使う可能性が高くなる出来事を選びます。

そのきっかけが起きたら、まだ売ると決めていなくても親へ伝えます。その場で結論が出なければ、次に確かめる日を置いて終わります。

今すぐ転居先や売る時期まで決める必要はありません。決めるのは、どうなったら話し始めるかの一点です。ここを決めておけば、今は動かないという選び方になります。決めないままにすると、動くと決めた日から親の住まいを探すことになります。

自分の入院・死亡時に、親の居住条件を伝える相手と保管場所を決める

自分が連絡を取れなくなったときに備えて、親の居住条件を伝える相手を一人決め、記録した一枚の置き場所を伝えておきます。

親との約束を自分だけが知っている状態が、いちばん途切れやすい形です。自分が入院すれば連絡が止まり、亡くなれば、家を引き継いだ人は登記に書かれたことしか分かりません。

相手は、配偶者、子、兄弟・姉妹などの中から、実際に連絡を担える人を一人選びます。人数を増やすほど確実になるわけではありません。誰が動くのかが決まっていないと、全員が誰かは動くだろうと思って止まります。

その人へ渡すのは、記録した紙の置き場所と、親の連絡先です。中身をすべて説明しておく必要はありません。どこを見れば分かるかが伝わっていれば足ります。

頼んだ相手は、相続人でも代理人でもありません。何かを決める権限を渡す話ではなく、親の住まいのことを知っている人を自分のほかにもう一人つくる話です。相手にもそう伝えてください。

まとめ:親の住まいは名義とは別に確かめる

自分ひとりの名義でも、この家をどうするかは所有者の判断だけでは決まりません。自分が決められるのは家の使い方で、そこに住んでいる親の暮らしは、親との約束の側で決まっています。名義がはっきりしている家ほど、この二つが同じものに見えます。

次にすることは一つです。親が家賃なしで住んでいるのか、家賃を払って住んでいるのか、そしていつまで住む話になっていたのかを、親に確かめてください。ここを飛ばすと、売るときも、自分がこの家を使うときも、自分がいなくなった後も、親の住まいをどう扱えばよいかが決まりません。

まず、親が住み始めた時の約束を親の言葉で確かめ、聞いた日も一緒に書いてください。つぐーるでは、自分名義の実家に住む親との約束を確かめる進め方も含めて、実家の将来をこれから考えるあなたに信頼できる情報を提供しています。