実家に親だけが住み、名義が親と自分の共有になっている人が読むガイド

実家には親が一人で住んでいて、土地と建物は親と自分の共同名義、つまり共有名義になっています。自分は別の家に住み、売る予定も貸す予定もありません。今すぐ困ってはいないものの、この名義のままでよいのかは決まっていません。

実家の相続において、自分の持分(登記に自分の名前で書かれた割合)について決められることと、家全体の売却を共有者の全員で決めることは別です。この2つを分けたうえで、土地と建物の名義など、後から考え直すときに要ることを先に確かめておけば、売却も名義の変更もしないまま、必要になった日に話し合いを始められます。

実家の名義が次のようになっている方は、それぞれの記事へ。

実家には親だけが住み、親と自分の共同名義のケースだと、今後どんな時に状況が変わるのか

親が家を離れたとき、親と契約の話ができなくなったとき、親が亡くなったときには、この家について話す相手が変わります。親が家を離れたときと、固定資産税や修繕費を出す人が変わったときには、お金を負担する人も変わります。

どれも、前もって知らせがあるとは限りません。起きてから話し始めると、誰に確かめればよいのかも、誰が家のお金を出すのかも決まらないまま、目の前の判断だけが先に進みます。

親が家を離れて管理方法を決める必要が出た時

親が入院や施設への入居で実家を離れると、空いた家を誰が見に行くか、空き家の間の電気代・水道代・火災保険料を誰が出すか、どうなったら売却を話し始めるかを、共有者の間で確かめることになります。

親が住んでいる間は、雨漏りも郵便受けの詰まりも、親が最初に気づきます。家を離れた日から、その役をする人がいなくなります。

自分が月に一度通って窓を開け、水を流し、郵便物を確かめることはできます。ただし、その役を引き受けても、この家をどうするかを一人で決められるようにはなりません。逆に、一度も見に行かない共有者も、どうするかを決める場には加わります。

親の入院、施設入居の見込み、施設の費用にあてる売却の検討は、同じ時期に重なることがあります。三つが重なると、家の管理をどうするかを決めないまま、売る話だけが先に立ちます。

親が家を離れる見通しが立った時点で、見に行く人、お金を出す人、売却を話し始める条件を、共有者へ一つずつ確かめてください。

親が契約について理解できずに家を動かせなくなった時

自分が共有者であっても、親が売買契約の中身を理解して決めることが難しくなると、家族だけでは親の持分を含む家全体の売却を進められなくなります。

自分ひとりで決められるのは、自分の持分の範囲までです。家そのものを売るときは、共有者の全員が売主として契約します。親がその契約の中身を理解して決められる状態でなければ、全員で契約することができません。

その後は、親の財産の管理や契約を支える人を決める、成年後見制度を使うかどうかの話になります。この制度には、親が自分で決められるうちに引き受ける人を決めておく任意後見と、判断が難しくなってきたときに家庭裁判所へ申し立てる法定後見があります。

どちらを使えるかは、そのときに親がその契約を理解して決められるかどうかで分かれます。任意後見のように、親が自分で決められるうちにしか選べない道があることを、共有者の間で先に伝えておいてください。

参照: e-Gov法令検索「民法」第二百五十一条参照: 裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要を知りたい方へ」

親が亡くなって親の持分が相続の対象になった時

親の持分は、親が亡くなった時点で相続の対象になります。ここから先は、親と自分の共有名義という前提ではなくなります。

自分の持分は、親が亡くなっても変わりません。移るのは親の持分だけです。ただし、その持分を誰が受け継ぐかは、遺言があるかどうかと、相続人の間でどう分けるかで決まります。

相続人が決まる前に、特定の人とだけ売却の話を進めると、決まった後にもう一度最初から話すことになります。話す相手が確定するまでは、この家をどうするかの結論を出さないでください。

いま実家の名義に亡くなった人の名前が残っているなら、死亡者名義が残っている状態です。その場合は名義が亡くなった親のままの方の記事で確かめられます。

参照: e-Gov法令検索「民法」第八百九十六条

固定資産税や修繕費を出す人が変わった時

固定資産税・火災保険料・修繕費を出す人や割合が変わったら、登記に書かれた持分とは切り離して、誰がいくら出しているかを確かめ直します。

共有名義にした当時と今とでは、親の収入も、自分が介護に使う時間も、家の使い方も同じではありません。親が納めていた固定資産税を自分が引き受ける、屋根の修繕費を兄弟・姉妹が立て替える、といった代わり方は、書面を交わさないまま起こります。

負担が偏っても、誰がいくら出したかを書き留めず、納税通知書や領収書も手元に残っていなければ、後から誰がどれだけ出したのかを言えなくなります。

出したお金を税の上でどう扱うかは、家族の取り決めだけでは決まりません。気になるときは、税理士か所轄の税務署へ確かめます。そのときに材料が要るので、出す人が代わった時点で、誰がいくら出すようになったかを書き留めておいてください。

【落とし穴】実家には親だけが住み、親と自分の共同名義の人で、実際に起こりうるケースを紹介

自分も名義に入っていることや、介護と固定資産税の負担を引き受けてきたことは、家全体を一人で決めたり自分の持分を増やしたりする理由になりません。親に診断が出たことも、親を話し合いから外す理由になりません。

どれも、手元にある事実から自分で決められる範囲を読み取ってしまうところから起こります。

介護を担い自分も共有者だから家の決定権があると思っていた

介護と家の管理を一人で担い、自分も名義に入っていても、親の持分を含む家全体の売却を自分だけで決めることはできません。

次は、よくある形をもとにした架空の例です。

母の通院の付き添いも、屋根の修繕の手配も、近所からの連絡も、すべて自分が引き受けてきました。母の施設入居が決まったところで、自分の判断で不動産会社に査定を頼みました。契約の話になった段階で、売主として名前を並べるのは母と自分の両方だと言われました。

負担の大きさを、家全体を決める権限と取り違えた例です。

この例から学べることをまとめます。

  • 介護や管理の負担と、登記上の持分を分けて確かめる
  • 家全体の売却は、共有者全員の意思を確かめてから進める

担ってきた負担の大きさと、所有者として決められる範囲は、決まり方が違います。介護に時間を使っても、お金を立て替えても、家全体を売ると決められる立場にはなりません。

共有している家に大きな変更を加えるには、ほかの共有者の同意が要ります。査定を頼むより先に、土地と建物の名義に誰の名前が入っているかを自分で確かめ、不動産会社へ相談するときはその内容から先に伝えてください。

参照: e-Gov法令検索「民法」第二百五十一条

固定資産税や修繕費を多く払ったため自分の持分が増えたと思っていた

固定資産税や修繕費を長く多く払ってきても、それだけで登記に書かれた自分の持分が増えるわけではないため、支払の記録と登記の持分を別々に確かめます。

次も、よくある形をもとにした架空の例です。

母の年金だけでは固定資産税を払いきれなくなり、数年前から自分が代わりに納めています。外壁の塗り替えのお金も出しました。合計すると相当な額になり、今では自分の持分のほうが大きいはずだと考えています。

支払った金額と登記の持分を同じものとして扱った例です。

この例から学べることをまとめます。

  • 支払いは領収書や振込記録で確かめる
  • 持分は土地と建物の登記事項証明書で確かめる

払った事実が分かるのは、固定資産税の納税通知書、火災保険の保険証券、工事の見積書と領収書、口座の振込記録です。持分が分かるのは、土地と建物それぞれの登記事項証明書です。持分はそこに分数で書かれています。この2つは別の書類にあり、片方が変わっても、もう片方は自動的には変わりません。

両方を手元に並べてから話し始めてください。一致していると思い込んだまま話し合いを始めると、決めたことが後から覆ることがあります。

親が認知症と診断されたため親を話し合いから外していた

親が認知症と診断されても、診断名だけを理由に親の希望を聞かず、共有者だけで家の方針を決めてよいことにはなりません。

もう一つ、よくある形をもとにした架空の例を挙げます。

母に認知症の診断が出たと聞いた日から、家の話は母のいない場所でするようになりました。母には分からないだろうと考え、共有者である自分と妹だけで売却の相談を始めました。

診断名だけで、共有者である親を話し合いから外した例です。

この例から学べることをまとめます。

  • 診断名だけで親の希望を聞く機会をなくさない
  • 契約を理解して決められるかは、具体的な契約ごとに確かめる

診断名と、日常の会話ができることと、一つ一つの契約の中身を理解して決められることは、別々の話です。厚生労働省の「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」は、認知症の症状があっても本人には意思があり、自分で決める力があることを前提にして支えるように示しています。決める力は事柄ごとに違い、あるかないかの二択でもないとされています。

まず親に聞いてください。どこで住み続けたいか、この家をどうしたいかを、親の口から聞きます。

実際に売買を進める段階では、名義の書き換えを頼む司法書士と、親がその契約を理解して決められるかどうかを確かめることになります。

出典: 厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)」

今のうちにできること・やっておくとよいこと

家に関する書類を一か所にそろえ、何かが起きたときに共有者へ連絡する順番を決め、親と共有者の希望と、固定資産税・火災保険料・修繕費の負担を一枚に記録します。

確かめた内容を一覧へ書かなければ、時間が経つと誰かの記憶だけに頼ることになります。今は売らないと決めた家でも、書類のありかと連絡の順番と確認の記録がそろっていれば、状況が変わった日にもう一度話し合いを始められます。

登記事項証明書・納税通知書・保険証券・修繕記録を一か所にそろえる

土地と建物の登記事項証明書、固定資産税の納税通知書、火災保険の保険証券、修繕の見積書と領収書を、共有者が見られる一か所にそろえます。

確かめるために取り寄せた書類を、それぞれの持ち主の引き出しへ戻すと、次に家のことを話すときに、同じ取り寄せからやり直すことになります。

共有者が離れて住んでいる以上、紙を一つのファイルにまとめても、ほかの共有者はその場では見られません。そろえた書類を写真に撮り、家族で使っているクラウドの保存先や、共有者どうしのメッセージのやり取りなど、離れていても開ける場所へ置いてください。パソコンやスマートフォンを使わない共有者には、同じものを紙で1部渡します。

原本を動かせない書類もあります。親の手元から出せないもの、保険会社や工事店に預けたままのものは、無理に集めず、持っている人と置き場所を同じ保存先へ書き足してください。

親の入院・設備の故障・費用変更を共有者へ伝える順番を決める

親の入院、雨漏りや給湯器の故障、固定資産税や修繕費を出す人の変更が起きたときに、誰が最初に気づき、どの共有者へどの順で伝えるかを、先に決めておきます。

今は売らないという選び方には、2つあります。1つは何も決めずに置くこと、もう1つは今は売らないと決めたうえで、もう一度考えるきっかけを決めておくことです。前者では、次に何かが起きたときに、その場にいた人の判断だけで話が進みます。後者なら、決めておいたきっかけが来たところで、全員が同じ話を同じときに始められます。

共有者が別々の場所に住んでいると、同じ出来事を知る時期がばらつきます。たとえば親の入院を知った人が動き出した頃に、別の共有者はまだ何も聞いていないということが起こり、後から知った人には、決まった後の報告だけが届きます。

決めるのは、出来事ごとに最初に気づく人、その人が最初に連絡する相手、そこからほかの共有者へ伝える順番です。

出来事最初に気づく人最初の連絡先ほかの共有者への連絡順
親の入院
設備の故障
固定資産税や修繕費を出す人の変更

共有者が親と自分の2人だけなら、ほかの共有者への連絡順の欄は空のままでかまいません。この表が埋まっても、家をどうするかは決まりません。次に家族が集まる機会に、その場で聞いて空欄を埋めてください。

親の希望・共有者の意向・費用負担・確認日を一枚に記録する

一枚の紙に欄を分けて、土地と建物の共有者と持分、親の住まいの希望、各共有者の希望、固定資産税・火災保険料・修繕費の負担、次に連絡するきっかけになる出来事、確認日を書きます。

この一枚は、ここまでに確かめた3つを集めたものです。登記で分かった共有者と持分、一人ずつ聞いた希望、払った人と金額を、同じ紙の上に並べます。手前の表は確かめながら書く下書きで、この一枚を家族で共有します。

口頭で確かめただけだと、時間が経つにつれて誰の希望だったのかが混ざります。母が住み続けたいと言ったのか、妹がそう言ったのかが分からなくなり、また同じことを聞くことになります。

欄は分けます。親の希望と各共有者の希望は、別々の欄です。お金は、費目・金額・払った人を書き、登記の持分とは別の欄に置きます。この2つを同じ欄に入れると、払った額が持分のように読めてしまいます。

土地・建物の共有者と持分親の居住希望各共有者の意向費用負担次に連絡する出来事確認日

最後に、確認日と、次に連絡するきっかけになる出来事を書きます。何年か経って読み返したときに、前回から何が変わったかがその紙の上で分かります。そろっている欄だけでも先に埋めて、残りは次に親と会う日に埋めてください。

※この紙は、遺言書や契約書の代わりにはなりません。正式な形にするかどうかは、共有者の希望がそろってから考えることになります。

まとめ:家全体の売却は共有者の全員で決める

自分の名前が名義に入っていても、家全体の売却を自分ひとりで決めることはできません。自分の持分と、家全体を売ることは分けて考えます。

次にすることは一つです。土地と建物それぞれについて、名義に誰の名前が入っていて、その割合がどうなっているかを、公的な記録で確かめてください。ここを飛ばすと、親に何を聞けばよいのかも、誰に確かめればよいのかも決まりません。

売るか持ち続けるかを決めるのはその先なので、今は売らないと選ぶ場合も、確かめた名義と持分を共有者の全員が見られるかを確かめてください。つぐーるでは、自分も名義に入っている家を共有者の全員でどう決めていくかも含めて、実家の将来をこれから考えるあなたに信頼できる情報を提供しています。