実家に住んでいるのは親だけで、土地と建物の名義人は親でも自分でもありません。登記に名前があるのは、別の家で暮らす兄弟・姉妹などの親族で、その人は存命で、連絡も取れます。自分にも持分がある場合は、このケースには含まれません。
実家の相続において、この家の方針は親と自分だけでは決められません。まず確かめるのは、兄弟・姉妹などの名義人が親を住まわせたときに何を約束したのかです。そのうえで名義人と親それぞれの考えを別に聞けば、誰に何を伝えればよいかが決まります。
土地と建物のどちらも自分ひとりの名義であれば、自分が単独で名義人であるケースに当たります。親にも持分があれば共同名義のケース、名義人がすでに亡くなっていれば死亡者名義のケースです。土地と建物の名義をまだ見ていなくても、ここから読み進められます。
実家には親だけが住むが、名義人は兄弟・姉妹などのケースだと、今後どんな時に状況が変わるのか
確かめる相手と伝える中身は、名義人が家を使いたいと言い出したとき、親が家を離れたとき、名義人と連絡が取れなくなったとき、名義人が亡くなったときに変わります。
どれが先に来るかは家族によって違います。名義人が生きているあいだは相手は同じ人のままで、伝える中身と急ぎ方だけが変わります。名義人が亡くなったときだけは、確かめる相手そのものが、その人の相続人へ移ります。
名義人が実家を売る・自分で使うと言い始めた時
名義人から家の使い方を変えたいと伝えられたら、その場で断るか受けるかを親と自分だけで決めず、親が住み始めたときの約束と、親の次の住まいを先に確かめます。
兄弟・姉妹などの名義人が、実家を売りたい、自分の家として使いたいと言い出すことがあります。名義人には、法令の制限の中で自分の持ち物を使い、そこから利益を得て、手放す立場があります。親が長く住んできたことも、家族が費用を出してきたことも、その立場を打ち消すものではありません。
そのうえで確かめるのが、親が住み始めたときの取り決めです。家賃を払っているのか、無償で借りているのか、住んでよい期間や目的を決めたのかによって、名義人と親のあいだで確かめるべきことは変わります。無償で貸し借りする形も、賃料を払う形も、民法にそれぞれの決まりが置かれています。
この時点では、親がすぐ出なければならないとも、このまま住み続けられるとも決まりません。決まっていないからこそ、当時の約束と、親が移れる住まいの見当を先に確かめておきます。
参照: e-Gov法令検索「民法」
親が家を離れ、空き家を見る人を名義人と決める時
親が家へ戻らないかもしれないと分かったら、家の管理を自分ひとりで引き受けず、誰が見に行くのか、費用を誰が出すのか、どこへ連絡するのかを名義人と決めます。
親が入院したり施設へ移ったりすると、その家を日ごろ見る人がいなくなります。近くにいるのが自分だけであれば、鍵を預かり、郵便を取り、庭の手入れを引き受ける流れになりがちです。ただ、修繕を頼む、火災保険を掛け直す、荷物を処分するといった判断は、名義人の持ち物についての判断です。
名義人へは、親が家へ戻れる見込み、いま壊れているところ、郵便物や庭の様子、かかっている費用を伝えます。そのうえで、次に誰が家を見るのか、その費用を誰が負担するのかを決めます。
点検の項目や回数をこの場で決める必要はありません。先に決めておくのは人と費用と連絡先で、やり方はそのあとで揃います。
名義人と連絡が取れず、売却や大きな修繕について確認できなくなった時
名義人と連絡が取れなくなったら、その沈黙を承諾と受け取って売却や大きな工事を進めず、最後に連絡できた時期と、試した連絡先を書き出して専門家へ相談します。
電話にも手紙にも返事がなく、共通の親族を通しても居場所が分からない状態があります。自分にも親にも所有権がない以上、名義人が黙っていることを同意とは扱えません。
ここで分けて考えるのが、急いで止めなければならない危険への対処と、家の行く末を決める判断です。雨漏りを止める、割れた窓をふさぐといった応急の手当ては先に必要になりますが、売る、貸す、大きく直すといった判断には名義人の意思が要ります。
所在を調べる方法や、裁判所を通す手立てには条件と費用があり、当てはまるかどうかは事情によって変わります。まず一覧へ書くのは、いつまで連絡が取れていたのかと、どの連絡先を試したのかです。
参照: e-Gov法令検索「民法」
名義人が亡くなり、その人の相続人を確認する時
名義人が亡くなったら、本人にはもう確かめられないため、その人の相続人が誰かと、遺産分割が済んでいるかどうかを確かめます。
兄弟・姉妹などの名義人が、親より先に亡くなることがあります。人が亡くなると、その人の財産に属した一切の権利義務は相続人が引き継ぎます。その人だけに属していたものは引き継がれませんが、実家の名義は引き継がれる側に入ります。
誰が相続人になるかは家族構成によって決まり、実家を誰が引き継ぐかは遺言や遺産分割の話し合いによって決まります。名義人の配偶者や子と面識がないことも、相手が複数になることもあります。
ここで相続人を推し量って話を進めることはできません。名義人が亡くなった時点で、この家は死亡者名義のケースへ移り、確かめる順番も相手も変わります。
参照: e-Gov法令検索「民法」
【落とし穴】実家には親だけが住むが、名義人は兄弟・姉妹などの人で、実際に起こりうるケースを紹介
親が住み続けてきたことも、家族が費用を出してきたことも、名義人の考えを確かめたことにはなりません。
取り違えが起きるのは、家族の中で長く続いてきた事実ほど、話がついている証拠に見えるからです。名義を一人にまとめた経緯、親が住んできた年数、修繕費を出してきた事実は、いずれもそれだけでは名義人の考えを表しません。
売却しやすいよう一人の名義にしたら、その人が売却に応じなくなった
家族の全員で売ると決めていても、手続きを進めやすくするために一人の名義へ変えただけでは、決めたとおりに売られるとは限りません。
次は、よくある形をもとにした架空の例です。
父親が亡くなったあと、母親が実家で一人暮らしを続けていました。母親と子ども二人は、実家を売って母親の生活費に充てる方針を決めました。手続きを進めやすくするため、実家の名義を姉一人に変えました。ところが姉は売らず、やがて連絡にも応じなくなりました。
名義を移す目的と、その後の取り決めを記録しなかった例です。
この例から学べることをまとめます。
- 名義が移れば、家について決める人も変わる
- 名義を移した目的と取り決めを、後から確かめられる形にする
親族の一人へ名義をまとめることはできます。ただ、名義が移った時点で、その家について決められる人は一人になります。当時の話し合いで何を決めたのかを書いたものがなければ、家族の記憶と名義人の説明だけに頼ることになります。
ここから引き出せるのは、親族の一人へ名義を移すことが危ないという話ではありません。名義を移した目的と、そのときの取り決めが残っているかどうかを確かめる必要がある、という話です。
親が長年住んでいるため、名義人に確認せず住み続けられると思っていた
親が長く住んでいても、その年数だけで今後も同じ条件で住めるとは決まりません。名義人と親のあいだにどんな約束があったのかを確かめます。
次も、よくある形をもとにした架空の例です。
親は、名義人である兄弟・姉妹の家に、家賃を払わずに二十年以上住んでいます。固定資産税は親が納め、小さな修理も親が手配してきました。住み始めた時のやり取りは口頭で、いつまで住んでよいのかは話していません。家族は、この先も同じように住めると思っています。
住んだ年数や費用の負担を、今後も住める条件と取り違えた例です。
この例から学べることをまとめます。
- 住んだ年数ではなく、住み始めた時の約束を確かめる
- 期間、目的、家賃、書面の有無を名義人と親の両方へ聞く
家賃を取らずに貸し借りする形も、賃料を払う形も、民法にはそれぞれの決まりが置かれています。無償で借りて、契約が終わったときに返すという約束と、賃料を払って借りるという約束は別のものです。どちらに当たるのか、そして住んでよい期間や目的をどう決めたのかが、この先の話し合いの土台になります。
年数の長さは、その土台を決める材料にはなりません。名義人本人と親の双方へ、住み始めた理由、住んでよいと言われた期間、家賃、書面が残っているかどうかを確かめます。
参照: e-Gov法令検索「民法」
修繕費を負担していたため、名義人に確認せず工事を決められると思っていた
親や自分が修繕費を出していても、その支払いが工事を決める権限になるわけではありません。工事の中身と費用の負担を、先に名義人へ伝えます。
もう一つ、よくある形をもとにした架空の例を挙げます。
実家の給湯器が壊れ、業者に見てもらうと雨漏りの跡も見つかりました。近くに住んでいるのは自分だけなので、見積もりを取り、そのまま契約しようとしています。給湯器の代金は自分が出すつもりです。
費用を出すことを、工事を決める権限と取り違えた例です。
この例から学べることをまとめます。
- 壊れた場所、工事範囲、見積額を名義人へ伝える
- 応急の手当てと、家の値打ちに関わる工事を分ける
費用を出す人と、登記に名前のある名義人は別です。工事は建物に手を入れる行為なので、決めるのは名義人になります。払った分がそのまま持分になるわけでも、必ず返ってくるわけでもありません。
名義人へは、どこが壊れているか、そのまま置いた場合に危険があるか、直す範囲と見積額、そして誰がいくら払うのかを伝えます。危険を取り除くための応急の手当てと、家の値打ちに関わる工事は、分けて伝えます。
今のうちにできること・やっておくとよいこと
名義人の連絡先と親の居住の条件を一枚に書き、どんな出来事が起きたら名義人へ連絡するかを先に決めておきます。
確かめた内容は、聞いた人の記憶の中にあるだけでは次に使えません。一枚へ書くこと、伝える場面をあらかじめ決めておくこと、親の転居を話し合う時期を決めておくことが、そのあとの備えになります。
名義人の連絡先・親が住み始めた経緯・家賃・費用負担を一枚に記録する
名義人の連絡先、親が住み始めた時期と経緯、家賃と税金と保険料と修繕費の負担を、一枚で見られる形にまとめます。
別々の場所にメモが散っていると、急ぎの連絡が必要になったときに、探すところから始めることになります。名義人の氏名と、電話番号や住所など今つながる連絡先を先頭に置きます。
続けて、親が住み始めた時期と、そのときの取り決めを書きます。最後に、費目ごとの支払者と金額を並べます。
この一枚は、契約書の代わりにはなりません。いつ誰から聞いた話なのかと、まだ確かめられていない項目が分かるようにするための一覧です。確かめた日付と、まだ分からない項目を書き添えておきます。
親の入院・設備の故障・家賃や修繕費の負担が変わったら名義人へ伝える
親が入院や施設入居で家を離れたとき、設備が壊れたとき、家賃や修繕費を払う人や金額が変わったときに、確かめられた事実を名義人へ伝えます。
連絡が要る場面をあらかじめ決めておかないと、伝えるかどうかをその都度迷うことになります。三つの場面はいずれも、名義人が持っている家の状態か、その家に関わるお金が動く場面です。
連絡する人は、自分、親、ほかの家族のうち一人に決めます。同じ話が別々に届くと、名義人の側で話が食い違います。伝える中身は、親が家へ戻れる見込み、壊れた箇所と危険の有無、見積額、費用を払う人と金額の変更に絞ります。
返事がないまま日が過ぎることもあります。そのときも、承諾があったものとして扱わず、伝えた日付と内容を一覧へ書きます。
名義人が家を売る・使うと言った場合に、親の転居を話し合う時期を決める
名義人が売却や自宅としての利用を言い出した場合に備えて、親に転居の話を切り出す時期を先に決めておきます。
名義人の希望を聞く時点と、親に転居を切り出す時点は分けます。名義人がまだ考えている段階で親に伝えると、決まっていない話をもとに、親が住まいを失う前提で動くことになります。
名義人が希望している時期、親が住み続けたいと考えている時期、次の住まいを見つけるのにかかる期間を並べます。この三つを見比べると、いつごろ話し始めればよいのかが決まります。
その場で出ていく日を決める必要はありません。決めておくのは、次にこの話をする日です。
まとめ:実家の方針は名義人と親の両方に確かめる
実家に住んでいるのは親でも、その家をどうするかを決められるのは、登記に名前のある名義人です。親と自分だけで話をまとめても、そのとおりには進みません。決められる人と、実際に家を支えている人が違うということを、家族の中で先にはっきりさせておきます。
次にすることは一つです。兄弟・姉妹などの名義人が、親を住まわせたときに何を約束したのかを確かめてください。ここを飛ばすと、名義人の考えを聞いても、親の希望を聞いても、どちらを土台にして話を進めればよいのかが決まりません。
まず、名義人へ、親が住み始めた時の約束を聞く日を決めてください。つぐーるでは、別居する人が名義人の実家で親の希望と名義人の意向を確かめる進め方も含めて、実家の将来をこれから考えるあなたに信頼できる情報を提供しています。

