親の実家を引き継ぐときに、土地と建物の持ち主が違うと分かって戸惑う方もいます。
他人の土地の上に親の家が建っていれば借地、親の土地の上に他人の家が建っていれば底地で、どちらも普通の持ち家とは相続・更新・売却の進め方が変わります。
住宅の普通借地権(定期借地権・事業用の借地・法人が地主の場合は除きます)を前提に、借地人側と地主側の両方の立場から、契約と相手を確かめ、更新や売却を調べる順番を自分で決められるところまで説明します。
借地と底地のどちらを引き継ぐかを見分ける方法
土地と建物で所有者が違う状態は、大きく三つに分かれます。
| 状態 | 引き継ぐもの | 立場 |
|---|---|---|
| 他人の土地に親の家が建っている | 借地権(建物と、土地を借りる権利) | 借地人側 |
| 親の土地に他人の家が建っている | 底地(人に貸している土地) | 地主側 |
| 親族の土地に親の家が建っている | 使用貸借か借地権かの見分けが先 | 判定が先 |
自分がどれに当たるかで、以降で読む立場(借地人側・地主側)が決まります。まずここを固めておきましょう。
土地と建物の登記事項証明書で所有者を照合する
土地の所有者が他人で建物の所有者が親なら借地人側、土地が親で建物が他人なら地主側です。
法務局で土地と建物の両方の登記事項証明書を取り、それぞれの所有者欄(権利部・甲区)を見比べると分かります。登記事項証明書は所有者でなくても誰でも取れ、地番・家屋番号が分かれば窓口・郵送・オンラインで請求できます。
注意したいのは、借地権(賃借権)が土地の登記に載っていないのが普通だという点です。借地借家法は、借地権の登記がなくても借地人名義で登記した建物があれば第三者に対抗できると定めているため、土地の登記に親の名前がないことと、親に借地権があることは別の話になります。借地権の存在は建物の登記と地代の支払い記録で確かめます(次の項と、2章で扱います)。
建物が未登記のこともあり、古い木造の家で見かけます。その場合は市区町村の固定資産課税台帳(名寄帳)で、建物の所有者として誰が課税されているかを確かめてみてください。未登記でも課税はされているので、台帳が手がかりになります。
出典: 法務局「不動産登記のよくあるご質問等」出典: e-Gov法令検索「借地借家法」第10条
固定資産税の納税通知書と地代の記録で立場を確かめる
登記を取りに行く前に、手元の納税通知書と通帳で立場の当たりをつけられます。
固定資産税の納税通知書は、土地と建物で別々に(または別の名義人に)届きます。親宛てに建物分しか届いていなければ借地人側、土地分しか届いていなければ地主側の見当がつきます。
次に、通帳の振込記録と領収書の控えを探してみましょう。毎月か毎年、同じ相手に同じ金額が振り込まれていれば、それが地代である可能性が高いといえます。逆に、同じ相手から定期的に入金があれば、親が地主として地代を受け取っていたことになります。
契約書が見つからない家庭では、この記録が最初の証拠になります。
賃借権か地上権かを土地の登記で確かめる
借地権には賃借権と地上権の2種類があり、どちらかで売却時の地主の承諾の要否が変わります。
宅地の借地権の大半は賃借権で、民法は賃借権の譲渡に賃貸人の承諾を求めているため、建物ごと第三者に売るときは地主の承諾が要ります。地上権は土地の登記に載っていることが多く、承諾なしで売却できる強い権利です。
見分けるには、土地の登記事項証明書の権利部(乙区)を見ます。「賃借権設定」「地上権設定」の記載があれば、その種類と内容(期間・地代など)が読めます。
ただし、賃借権は登記されていないことがほとんどです。乙区に何も載っていなくても、賃借権の借地は普通に成り立っているので、乙区の空欄だけで借地権の有無を決めずに、建物の登記と地代の記録を合わせて見ます。
地上権の記載があれば、6章の売却で承諾の手順が大きく変わります。ここで確かめておく意味は大きいでしょう。
親族の土地なら地代の水準で使用貸借か借地権かを見分ける
親の家が祖父母や親の兄弟・姉妹の土地に建っている場合は、使用貸借か借地権かの判定が先です。
この判定は、税金の扱いと権利の強さに直結します。国税庁の通達では、土地の持ち主と借り手の間にその土地の固定資産税に相当する額以下のお金の受け渡しがあるにすぎないものは使用貸借に当たるとされています。
使用貸借では、土地を使う権利の価額はゼロとして扱われます。その土地を相続するときは、人に貸している土地(貸宅地)ではなく自分で使っている土地(自用地)として評価されます。
つまり、固定資産税くらいのお金しか渡していなければ、税の上では借地権がなく、借りている側の権利は弱いということです。地主側の親族から返還を求められたときに、借地権のような保護を受けにくい立場になります。
一方、固定資産税を明らかに超える地代が継続して支払われていれば、賃貸借(借地権)と扱われる可能性があります。ただし親族間の貸し借りは個別の判断になるので、借地権の有無と相続税評価は税理士に確かめる領域です。地代の額だけで結論を出さず、税理士に相談してみてください。
出典: 国税庁「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」出典: 国税庁 タックスアンサーNo.4552「親の土地に子供が家を建てたとき」
借地契約の内容を確認する手順
立場が分かったら、次は契約の中身です。
借地の契約は数十年前に親や祖父母が結んだものが多く、契約書がない、あっても内容が今と合っていない、ということが普通に起きます。契約書の代わりになる資料、旧法か新法かの判定、次の更新時期、特約、そして取り壊しの前に確かめることが、この段階で押さえる点です。
契約書がないときに代わりになる資料を集める
契約書が見つからなくても、借地契約そのものは口約束でも成立しています。
ただし期間や地代、特約の内容で争いになりやすいので、代わりになる資料をできるだけ集めておきましょう。
| 資料 | 分かること |
|---|---|
| 地代の領収書・通帳の振込履歴 | 地代の額、支払いの時期(月払いか年払いか)、支払いが続いている事実 |
| 更新時の覚書・合意書 | 更新の時期、更新料の有無、期間の定め |
| 地主(または借地人)からの通知・手紙 | 地代改定の経緯、承諾を求めた記録 |
| 固定資産税の納税通知書 | 土地と建物のどちらが誰の名義か、面積 |
| 建物の登記事項証明書 | 新築年月日(契約の開始時期の推定に使う) |
最短の方法は、相手側に契約書の写しを求めることです。借地人側なら地主に、地主側なら借地人に「相続で引き継ぐので契約内容を確かめたい」と伝えれば、相手が控えを持っていることは多いでしょう。地主が管理会社に任せている場合は、管理会社が契約書を保管していることもあります。
契約の開始時期で旧借地法か借地借家法かを判定する
平成4年(1992年)8月1日より前に始まった借地は旧法、それ以降に始まった借地は新法です。
借地には古い「借地法(旧法・大正10年法律第49号)」と、平成3年10月4日に公布され平成4年8月1日に施行された「借地借家法(新法)」の2つがあり、どちらが適用されるかで期間や更新の扱いが変わります。借地借家法の附則は、施行前に設定された借地権の更新・朽廃・再築については従前の例によると定めているため、平成4年8月1日より前に始まった借地は、更新を重ねていても旧法のままです。
判定の基準は、直近の更新日ではなく、最初の契約が始まった時期です。たとえば昭和50年に始まった借地を平成20年に更新していても、旧法の借地です。ここを取り違えると、期間の数え方を間違えます。
開始時期が分からないときは、建物の登記事項証明書に載っている新築年月日や、親が入居した時期から推定します。建物が建った時期より前に借地は始まっているはずなので、新築年月日が平成4年8月1日より前なら、旧法の借地と考えてほぼ間違いないでしょう。
出典: e-Gov法令検索「借地借家法」附則第4条〜第7条出典: 国土交通省「定期借地権の解説」出典: 東京地方裁判所「第1 借地非訟とは」出典: 国立国会図書館 日本法令索引「借地法(大正10年法律第49号)」
存続期間と次の更新時期を確かめる
開始時期と建物の種類が分かれば、次の更新時期を自分で計算できます。
旧法は建物が堅固(鉄筋コンクリート造など)か非堅固(木造など)かで期間が分かれ、新法は建物の種類を問わず同じ期間です。
| 区分 | 最初の期間(定めがない場合) | 最初の期間(合意で定める場合) | 更新後の期間 |
|---|---|---|---|
| 旧法・堅固な建物 | 60年 | 30年以上 | 30年 |
| 旧法・非堅固な建物(木造など) | 30年 | 20年以上 | 20年 |
| 新法(建物の種類を問わない) | 30年 | 30年以上 | 最初の更新は20年、以後は10年(より長い期間を定めればその期間) |
旧法の期間は廃止前の借地法の定めで、新法の期間は借地借家法3条・4条の定めです。
当てはめ方の例を挙げます。木造の実家で、契約書に期間の定めがなく、昭和50年に借地が始まったとします。旧法・非堅固なので最初の期間は30年で、平成17年に1回目の更新を迎えています。
更新後は20年なので、次の更新は令和7年、その次は令和27年です。契約書に期間が書かれていれば、その期間を使います。
計算した次の更新時期は紙に書き出しておきましょう。9章で、相続税の申告期限と並べて優先順位を決めるときに使います。
出典: e-Gov法令検索「借地借家法」第3条・第4条・附則第6条出典: 国立国会図書館 日本法令索引「借地法(大正10年法律第49号)」
増改築・譲渡・更新料・更地返還の特約を読み取る
契約書や覚書があれば、次の五つの特約の有無を確かめておきましょう。
| 特約 | 確かめること |
|---|---|
| 増改築禁止(または承諾が必要) | 建て替え・増築に地主の承諾が要るか |
| 譲渡承諾 | 第三者に売るときの承諾の条件や承諾料の定め |
| 更新料 | 更新時に支払う定めがあるか、金額や割合が書かれているか |
| 地代改定 | 改定の時期や基準(固定資産税の何倍など) |
| 更地返還(原状回復) | 契約終了時に建物を壊して返す約束があるか |
借地借家法には、存続期間・更新・対抗力・建物買取請求に関する規定に反する特約で借地人に不利なものを無効とする規定があります(借地借家法9条・16条)。ただし、どの特約がどこまで無効になるかは個別の判断で、裁判で争われている分野です。
「特約があるから必ず従う」でも「不利だから無効」でもなく、特約があっても鵜呑みにせず、弁護士に有効性を確かめる余地があると考えておきましょう。
とくに「契約終了時は更地にして返す」という特約は、5章で説明する建物買取請求権と関係します。見つけたら印をつけておくと、後で探す手間が省けます。
建物を取り壊す前に借地権が消える条件を確かめる
相続した実家を「とりあえず壊して更地に」するのは、借地では一番危ない行動です。
取り壊しの前に、次の点を確かめてみてください。
旧法の借地で期間の定めがない場合、建物が朽廃(古くなって使えない状態)になると借地権は消滅します。借地借家法の附則は、施行前に設定された借地権の朽廃による消滅については従前の例によると定めているので、旧法の借地では今もこの扱いが続きます。一方、更新のときに期間を定めた借地なら、期間満了前に建物が朽廃しても借地権は消滅しないとした裁判例があります。
借地人が自分の意思で建物を取り壊すことも、法律上は建物の「滅失」に含まれます(借地借家法7条1項)。滅失そのもので借地権がすぐ消えるわけではないものの、建物がない状態では第三者への対抗力が弱まり(4章)、再築には制約がかかります。
新法では、最初の更新の後に地主の承諾なしで残りの期間を超えて残るような建物を建てると、地主は借地契約の解約を申し入れることができ、申入れから3か月で借地権は消滅します(借地借家法8条2項・3項)。増改築禁止の特約がある借地で承諾なく建て替えると、契約違反として解除を求められるおそれもあります。
取り壊しは、契約の特約と地主の意向(再築を承諾するか、条件は何か)を確かめた後に回しましょう。地主が承諾しない場合でも、裁判所に承諾に代わる許可を求める制度(借地非訟)があるので、承諾が取れないからといってすぐ諦めずに済みます。
空き家の換気や通水、防犯といった管理は、取り壊しと違ってそのまま進められます。
出典: e-Gov法令検索「借地借家法」第7条・第8条・附則第5条出典: 裁判所 裁判例検索 東京高等裁判所 昭和44年12月19日判決(期間を定めた借地権と朽廃)出典: 東京地方裁判所「第1 借地非訟とは」
地主や借地人を確認する方法
契約の次は「相手が誰か」です。
借地も底地も、相手がいてはじめて成り立つ権利なので、交渉の相手を間違えると承諾も売却も止まります。親の代の相手がそのまま今の相手とは限らず、相手側でも相続が起きていることがよくあります。
登記の所有者欄と地代の振込先で現在の相手を特定する
登記上の名義人と地代の振込先の名義が一致していれば、その人が現在の相手と考えてよいでしょう。
借地人側は土地の登記事項証明書、地主側は建物の登記事項証明書を取り、所有者の氏名と住所を控えます。これを、地代の振込先(口座名義)や領収書の発行者名と突き合わせてみてください。
地主が管理会社や不動産会社に集金を任せている場合、振込先は会社名義になります。相続の通知や契約の相談は地主本人の判断が要るので、会社に「地主本人に連絡を取りたい」と伝えて、集金窓口とは別に地主本人への連絡経路を確かめておきましょう。
相手側にも相続が起きていないかを確かめる
次のいずれかに当てはまれば、相手側で相続が未了か、完了した直後の可能性があります。
| 兆候 | 考えられる状態 |
|---|---|
| 登記上の名義人が明らかに故人(高齢で連絡が取れない人)のまま | 相手側の相続登記が未了 |
| 振込先の口座名義が登記上の名義人と違う | 相続人が口座だけ引き継いでいる、または管理を任せている |
| 固定資産税の通知が登記と別の人宛てになっている | 相続人の代表者が納税している |
相手側の相続人が複数いて、土地(または建物)を共有名義で引き継いでいると、承諾や売却の交渉相手がその人数分に増えます。1人が賛成しても他の共有名義人が反対すれば進まないので、相手が何人いるのかを早めに把握しておくと、6章・7章の交渉の見通しが立ちます。
相手の代替わりは、口約束が消える瞬間でもあります。相手側の相続を確かめたら、これまでの約束で書面になっていないものがないかを合わせて洗い出しておきましょう。
地代の支払先が決まらないときは供託で滞納を防ぐ
地代の受取人が決まらないときは、法務局に地代を供託すると支払ったのと同じ扱いになり、滞納を防げます。
借地人側で、地主が亡くなって相続人が誰か分からない、相続人同士でもめていて受取人が決まらない、あるいは地代の値上げをめぐって受け取りを拒まれた、という状態になることがあります。
法務省の案内では、地代・家賃の弁済供託ができる例として、受領拒否(値上げや明渡し要求を理由に受け取りを拒まれた)、受領不能(地主が行方不明)、債権者不確知(地主が亡くなり相続人が誰か分からない)が挙げられています。民法も、供託をした時にその債務は消滅すると定めています。
なぜここまでするかというと、地代の滞納は信頼関係を壊したとして契約解除の理由になり得るからです。解除が認められるかは滞納の期間や金額、これまでの経緯で裁判所が判断するので、滞納の状態を長く続けるほど借地人側の立場は弱くなります。
「払いたいのに払えない」状態を放置せず、供託で記録を残しておくと、滞納と扱われる心配が減ります。供託の細かな手続き(必要書類・記載方法)は、管轄の法務局か弁護士に確かめてみてください。
出典: 法務省「供託制度の概要」出典: e-Gov法令検索「民法」第494条
借地人が亡くなり相続人が分からないときの調べ方
地主は他人の戸籍を自由には取れないので、相続人の調査は弁護士か司法書士に依頼します。
地主側で、借地人が亡くなり、誰が引き継いだのか分からないことがあります。建物の登記が故人名義のまま、地代も止まっている、という状態です。弁護士や司法書士なら職務上の請求で戸籍をたどり、相続人を特定してもらえます。
並行して、地代の滞納があれば内容証明郵便で支払いを求め(催告)、記録を残しておきましょう。後で解除や交渉をするときに、「きちんと求めていた」という証拠になります。
相続人の全員が相続放棄していて引き継ぐ人がいない場合は、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てられます。利害関係人(地主も含みます)が申し立て、清算人が故人の債務の支払いなどを行います。ただし予納金などの負担があるので、進める前に弁護士と費用対効果を確かめておくと安心です。
注意したいのは、滞納があるからといって直ちに契約を解除できるわけではない点です。解除は、滞納の期間や金額、これまでの経緯から信頼関係が壊れたと裁判所が判断してはじめて認められます。催告の記録を積み重ねたうえで、弁護士に判断を仰いでみてください。
出典: 裁判所「相続財産清算人の選任」
相続で借地権や底地を引き継ぐ手続き
借地権も底地も相続の対象で、遺産分割・相続登記・相手方への連絡という流れは普通の不動産と同じです。
ただ、借地ならではの落とし穴が二つあります。「共有名義にしてしまう」ことと、「地主から求められた承諾料や名義変更料を、義務だと思って払ってしまう」ことです。
遺産分割では借地権も底地も共有を避けて引き継ぐ
借地権と底地は、相続人の一人が単独で引き継ぐと扱いやすくなります。
相続人が複数いるとき「とりあえず兄弟で共有名義に」としがちですが、借地権と底地では避けたほうがよい選び方です。承諾を求める・売る・更新の条件を決める、といった場面のたびに共有名義人全員の合意が必要になるからです。
底地は地代の受け取りや借地人への対応を一人が担うので、単独で取得すると後の対応が楽になります。借地権も同じ理由で、建物に住む人か売却を進める人が単独で引き継ぐほうが扱いやすくなります。
他の相続人には、預貯金など別の財産で調整する(代償分割)のが一般的です。
建物または土地の相続登記を3年以内に自分の名義にする
相続登記は3年以内が法律上の義務で、借地人側は建物、地主側は土地を自分の名義にします。
借地権(賃借権)は土地の登記には載らないのが普通ですが、借地人が登記された建物を持っていれば、借地権を第三者に主張(対抗)できます(借地借家法10条1項)。地主が土地を第三者に売っても、登記された建物があれば借りている土地だと主張できるのは、この規定のおかげです。
建物の登記が故人名義のままだと、問題になり得ます。最高裁は、借地人が自分の意思で同居の長男名義で建物を登記していた場合、その登記では借地権を第三者に対抗できないと判断しています(最高裁大法廷 昭和41年4月27日判決)。
相続で故人名義のまま放置した場合に同じ結論になるかは、この判決が直接扱った事案と違うため断定できないものの、名義が自分と違う状態に不安が残ることは確かです。早めに自分の名義にしておく意味は大きいでしょう。
建物の相続登記は地主の承諾書なしで法務局で進められます。2024年(令和6年)4月1日以降、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが法律上の義務になりました。
それより前に相続した未登記のものも、2027年(令和9年)3月31日までに登記が必要で、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になり得ます。地主側の底地(土地)の相続登記も、同じ3年の義務の対象です。
出典: e-Gov法令検索「借地借家法」第10条出典: 裁判所 裁判例検索 最高裁判所大法廷 昭和41年4月27日判決出典: 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」
相続では地主の承諾も名義変更料も不要と知る
相続は譲渡と違い、地主の承諾なしに借地権を引き継げます。
借地権を第三者に売る(譲渡する)ときは民法612条により地主の承諾が要りますが、相続人は民法896条により故人の財産に属した一切の権利義務をまとめて引き継ぐ(包括承継)ため、相続では承諾が不要です。
承諾料や名義変更料(名義書換料)の支払い、土地の返還、契約書の作り直しも、相続を理由に義務になるものはありません。故人の名前が書かれた契約書は、そのまま有効です。
とはいえ、地主から「名義が変わるので名義変更料を」と言われることは実際にあります。地主にも「相続なら不要」という知識がないだけのことが多いので、悪意と決めつけずに根拠を聞いてみてください。
「相続による承継なので承諾料は不要と理解していますが、何を根拠に求めておられますか」と尋ね、必要なら弁護士に確かめる、という対応なら関係を荒らさずに済みます。
一方で、内容を確かめたうえで自分の名前で新しい契約書を交わすこと自体には利点があります。2章で見たように契約書がない・古い借地では、期間・地代・特約を書面にできる機会は貴重です。対応の分かれ目は次のとおりです。
| 求められたこと | 対応 |
|---|---|
| 相続を理由とする承諾料・名義変更料・名義書換料 | 支払う義務はない。根拠を聞き、専門家に確かめる |
| 土地の返還・契約の打ち切り | 相続を理由に応じる義務はない |
| 契約書の作り直し | 義務はないが、内容を確かめたうえで交わせば後の証拠になる。不利な特約が足されていないかは確認する |
地主や借地人へ相続を知らせて地代の支払先を整える
引き継ぐ人が決まったら、書面で相続の事実と新しい連絡先を相手に伝え、地代の振込名義を整えておきましょう。
相続を地主に知らせることを義務づけた条文は借地借家法になく、関係を保つための行動です。ただ、知らせないままだと地代の支払先や更新の連絡が滞り、相手との関係も悪くなります。手紙で十分なので、遺産分割で引き継ぐ人が決まった時点で伝え、地代の振込名義を自分に変えてもらうと以後の支払いが滞らずに済みます。
地主側は逆に、借地人に対して相続の事実と、地代の新しい振込先を知らせます。振込先が変わったことを伝えないと、故人の口座が凍結されて借地人が払えなくなり、3章で見た供託の話になります。
相続があったこと自体は、借地契約の解除の理由にならないと覚えておきましょう。相手から「代替わりしたので契約は終わり」と言われても、契約はそのまま続きます。
更新と地代の確認方法
相続のあと最初に話題になりやすいのが、更新と地代です。
「更新料を払ってほしい」「地代を上げさせてほしい」と言われたとき、どこまでが義務でどこからが交渉なのかを知っていれば、払う金額も関係の作り方も変わります。この章で確かめることは次の五つです。
- 期間満了後も建物があれば法定更新される仕組み
- 更新料は契約書の定めの有無で支払義務が分かれる
- 更新を断られたときは正当事由と建物買取請求権を確かめる
- 地代の増額や減額は請求と協議の手順を踏む
- 更新時に契約書を整える
期間満了後も建物があれば法定更新される仕組み
借地は、期間が満了しても建物が建っていれば、前と同じ条件で更新されたものとみなされます。
借地人が更新を求めるか土地を使い続けることで更新され、地主がこれを止めるには、遅滞なく異議を述べ、しかもその異議に「正当事由」が必要です(借地借家法5条・6条)。これを法定更新といいます。旧法の借地の更新は借地借家法附則6条により従前の例によるとされ、同じように建物があれば更新される仕組みです。
借地人側から見ると、期間が満了しても自動的に出ていく必要はなく、何もしなくても契約は続きます。地主側から見ると、正当事由なしには更新を断れない、ということです。
正当事由は、地主と借地人のそれぞれが土地を必要とする事情、これまでの経過、土地の利用状況、立退料の申し出などを総合して判断されます(借地借家法6条)。「相続したので自分で使いたい」「息子に家を建てさせたい」という地主側の事情だけでは認められにくいのが実情です。
出典: e-Gov法令検索「借地借家法」第5条・第6条・附則第6条
更新料は契約書の定めの有無で支払義務が分かれる
更新料は借地借家法に定めのない支払いで、契約書に定めがある場合に限って支払う約束になります。
借地借家法のどの条文にも更新料の規定はなく、契約書や覚書に更新料の定めがなければ、支払いの根拠は当事者の合意以外にありません。慣習として払う例があることをもって義務になる、という考え方は裁判で広く認められているものとはいえず、定めがなければ払わない選択ができます。
契約書に定めがあれば、原則として支払う義務があります。金額は借地権価格の5〜10%程度と言われることがありますが、法律の基準ではなく、慣行から生まれた目安です。
| 契約書の状態 | 支払義務 |
|---|---|
| 更新料の定めがある(金額や割合が書かれている) | 原則として支払う |
| 定めがない、または口約束だけ | 法律上の支払義務はない |
| 定めはあるが金額が書かれていない | 争いになりやすい。弁護士に確認 |
この声のように、払う義務の有無を確かめてから、払うか、払う代わりに何を書面にしてもらうかを考える、というのが順番です。義務がなくても、地主との長い付き合いを考えて慣習どおり払う選択は、関係維持の判断として十分あり得ます。
払うなら、その機会に譲渡や建て替えの承諾など、将来の交渉を楽にする条件を書面にしてもらう交渉をしてみてください。
出典: e-Gov法令検索「借地借家法」
更新を断られたときは正当事由と建物買取請求権を確かめる
地主から「更新しません、出ていってほしい」と言われても、正当事由がなければ応じる必要はなく、契約が終わる場合でも建物を時価で買い取るよう請求できます。
まず、相手の理由が正当事由に当たるかを弁護士に確かめてみてください。
それでも契約が終わる場合、借地人は地主に対し、建物を時価で買い取るよう請求できます(借地借家法13条1項)。これを建物買取請求権といい、借地人に不利な特約で排除できない権利です(同法16条)。2章で見た「更地にして返す」という特約があっても、この権利を奪う方向の特約は無効になり得るということです。
ただし、地代の滞納など借地人の債務不履行で契約が解除された場合には、この権利は失われます。最高裁は、借地人の債務不履行により契約が解除された場合には建物の買取請求権を有しないと判断しています(最高裁 昭和37年6月26日判決。昭和35年2月9日判決を踏襲)。3章で供託まで勧めた理由の一つがここにあります。
時価の算定は争いになりやすい部分です。建物自体の価値に、場所的な利益を加えて評価するのが一般的とされ、金額の根拠として不動産鑑定士の評価が材料になります。
出典: e-Gov法令検索「借地借家法」第13条・第16条出典: 裁判所 裁判例検索 最高裁判所第三小法廷 昭和37年6月26日判決
地代の増額や減額は請求と協議の手順を踏む
地代は、契約の条件にかかわらず、将来に向かって増額・減額を請求できます(借地借家法11条1項)。
固定資産税などの公課の増減、土地の価格の変動、近隣の地代との比較で不相当になったときが要件です。地主側は増額を、借地人側は減額を求められる、双方向の仕組みで、手順は次のとおりです。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1 請求 | 相手に書面で増額(減額)を求める。効力は請求が届いた時から将来に向かう |
| 2 協議 | 金額を話し合う。根拠(固定資産税の推移、近隣の地代)を示し合う |
| 3 調停 | 協議が調わなければ、裁判の前に簡易裁判所の調停を申し立てる |
| 4 裁判 | 調停が不成立なら、地代の額を確認する訴訟になる |
「地代は固定資産税の何倍が相場」という話をよく聞きますが、これは参考にすぎず、法律上の基準とは別です。個別の土地の地代はその土地の事情で決まり、固定資産税が上がっても地代が据え置かれる例もあります。
借地人側が覚えておきたいのは、増額請求を受けても、裁判で確定するまでは自分が相当と考える額を払えば済むということです。地主がその額の受け取りを拒めば供託します。確定後に不足があれば、不足額に年1割の利息を付けて精算します(借地借家法11条2項)。
つまり、言われた額をすぐ払う必要はなく、払わない状態を作ってもいけない、という二つを守れば滞納にならずに済みます。
地主側は、「一定期間は増額しない」という特約があればそれに従う必要があります(同条1項ただし書)。過去の地代改定の経緯(長く据え置いてきた、前回の改定の根拠)が協議や裁判で考慮されるので、改定の記録を残しておくと後で役立ちます。
更新時に契約書を整える
更新は、期間・地代・特約を書面にできる数少ない機会です。
契約書がない、あるいは古くて今の実態と合わない借地では、借地人側も地主側も、更新のタイミングで次の点を書面にすることを考えてみてください。
| 書面にしたいこと | 借地人側の意味 | 地主側の意味 |
|---|---|---|
| 期間と次の更新時期 | 計算の手間と争いを減らす | 同じ |
| 地代の額と改定の基準 | 増額の予測が立つ | 据え置きの固定化を防ぐ |
| 譲渡承諾・建て替え承諾の条件 | 将来の売却・再築の交渉が楽になる | 承諾料の基準を書面にできる |
| 更新料の有無と額 | 次回の争いを防ぐ | 次回の請求根拠になる |
借地人側が更新料を払う交渉の中で、譲渡承諾や建て替え承諾の条件を契約書に入れてもらえる余地があります。ただし、これは地主の合意があってはじめて成立する話で、「交渉できる」にとどまります。書面に入れてもらえるとは限らないことを前提に、持ちかけてみましょう。
借地権の実家を売却する選択肢
借地人側が実家を手放すときの売却は、建物を残したまま進めるのが前提です。
先に取り壊すと借地権の立場が弱くなります(2章)。買い手が決まってから、買い手や地主と解体の段取りを決めれば十分です。
| 選択肢 | 相手 | 地主の承諾 | 当てはまる状況 |
|---|---|---|---|
| 地主に買い取ってもらう | 地主 | 不要(地主自身が買い手) | 地主が土地をまとめたい意向がある |
| 借地権付き建物として第三者に売る | 第三者 | 必要(賃借権の場合) | 地主が承諾に前向き、または承諾料で折り合える |
| 借地非訟で裁判所の許可を得て売る | 第三者 | 裁判所の許可で代える | 承諾が得られない・承諾料で折り合わない |
| 底地と同時に売る | 第三者 | 地主と共同で売る | 地主も手放したい |
| 等価交換で所有権にしてから売る | 地主と交換 | 地主の合意 | 土地に分けられる広さがある |
地主に借地権を買い取ってもらう
借地権は一般の市場で流通しにくいので、最も現実的な買い手は地主です。
地主にとっても、借地権を買い戻せば土地が完全な所有権に戻り、自由に使える・高く売れるという利点があります。話を持ちかける価値は十分あるでしょう。
ただし、借地人には「地主に買い取らせる権利」がなく、価格も含めてすべて交渉次第で、地主が買わないと言えばそれまでです。価格は更地価格の3〜5割程度と言われることがありますが、法律や税の基準ではなく、地主に買取義務がない分、市場相場より低くなることが多い点を頭に置いておきましょう。
地主の承諾を得て第三者に借地権付き建物として売る
賃借権の借地を第三者に売るには、地主の承諾が必要です(民法612条)。
承諾なしに売ると契約を解除されるおそれがあるので(同条2項)、必ず先に承諾を取っておきましょう。地上権の借地なら承諾は不要です(1章)。
承諾の引き換えに支払うのが譲渡承諾料で、借地権価格の10%程度と言われることがありますが、法律の基準ではなく慣行の目安です。承諾料は法律上の義務や請求権として定められたものではなく、地主の側にも承諾する義務がない、という関係です。相場に根拠を求めるより、承諾料の根拠を示してもらって交渉するのが通常の進め方です。
借地権価格の見積もり方は二つあります。一つは、借地権の取引に慣れた不動産会社の査定(実勢価格)です。もう一つは、相続税の路線価に借地権割合を掛けた評価額(8章)です。
後者は税金の計算のための数字で、実際の取引価格とは別物ですが、承諾料の交渉で「どの価格を基準にしているか」を確かめる材料になります。
承諾が得られないときは借地非訟で裁判所の許可を求める
地主が承諾しない、または承諾料で折り合わないときは、裁判所に地主の承諾に代わる許可を求められます(借地借家法19条1項)。
借地非訟事件といい、裁判所は、第三者に譲渡しても地主に不利になるおそれがないと認めれば許可を出し、その際に承諾料に当たる金銭(財産上の給付)の支払いを条件にすることができます。
一方、地主側には、この申立てがあったときに「それなら自分が建物と借地権を買い取る」と裁判所に申し立てられる権利があります(借地借家法19条3項。介入権と呼ばれます)。裁判所が定めた期間内に申し立てれば、原則として地主が裁判所の定める価格で買い取ることになります。
借地人側から見ると、非訟を申し立てた結果、第三者ではなく地主に売ることになる場合もある、ということです。非訟は時間も費用もかかる最後の手段なので、まず協議で承諾料の根拠を示し合い、落としどころを探してみてください。
出典: e-Gov法令検索「借地借家法」第19条出典: 東京地方裁判所「第1 借地非訟とは」
底地と同時に売るか等価交換で所有権にしてから売る
地主も土地を手放したい意向なら、借地権と底地を一緒に第三者に売ると、双方の手取りが上がりやすくなります。
買い手から見れば完全な所有権の土地として買えるので、借地権だけ・底地だけで売るより高く売れます。売却代金は、借地権割合などを参考に地主と借地人で分けます。
もう一つが等価交換です。敷地を二つに分け、借地人は一方の底地を、地主はもう一方の借地権を互いに交換して、それぞれが完全な所有権の土地を持つ方法で、借地人はその後、自分の土地として自由に売れます。
国税庁は、借地権の一部と底地の一部の交換も「土地と土地の交換」として、他の要件を満たせば固定資産の交換の特例の対象になるとしています。要件には、交換する資産の時価の差が高い方の20%以内であること、1年以上所有していたことなどがあります。
等価交換は、分けた後の土地がそれぞれ建物を建てられる広さと形であることが前提なので、面積の小さい敷地では難しくなります。税の判断(特例が使えるか、譲渡所得がどうなるか)は税理士の領域で、計算は税理士に任せる部分です。
出典: 国税庁 タックスアンサーNo.3502「土地建物の交換をしたときの特例」出典: 国税庁 タックスアンサーNo.3505「借地権と底地を交換したとき」
借地権の取引に慣れた不動産会社を選ぶ
借地権の売却は、借地権や底地の取引実績がある不動産会社に頼むと進めやすくなります。
一般の不動産会社に査定を頼むと、借地権は扱いに不慣れで断られたり、極端に低い査定が出たりすることがあります。会社が悪いというより、借地権の取引には地主との協議や承諾料の交渉という、普通の売買にない工程があるからです。
選ぶ基準は三つです。借地権や底地の取引実績があること、地主との協議に同席して進めてくれること、査定額の根拠(借地権割合・残存期間・承諾料の見込み)を説明できることです。借地人が一人で地主と交渉するより、借地権に通じた会社に交渉を任せたほうが条件の話を進めやすくなります。
買取業者の提示は、仕入れが目的なので相場より低くなることがあります。それでも、早く手放したいときには合理的な選択です。複数の会社から査定を取り、根拠を比べたうえで選んでみてください。
なお、相続した借地権を売る場合、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの売却なら、払った相続税の一部を取得費に加えられる特例があります(8章で触れます)。売る時期を決めるときに頭に置いておきましょう。
出典: 国税庁 タックスアンサーNo.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
底地を引き継いだあとの選択肢
地主側が底地を引き継いだときの基準は「持ち続けて地代を受け取る」ことです。
地代収入と、固定資産税・都市計画税、借地人への対応の手間を並べて、持ち続けるかを決めます。地代が固定資産税と変わらないほど低いなら、5章の増額請求を先に検討してみてください。
そのうえで知っておきたいのは、底地は誰に売るかで価格が大きく違う財産だということです。同じ土地でも、借地人に売るのと買取業者に売るのとでは、大きな差がつきます。
| 選択肢 | 価格の傾向 | 当てはまる状況 |
|---|---|---|
| 持ち続けて地代を受け取る | 地代収入が続く | 地代が税負担を十分に上回る |
| 借地人に売る | 最も高くなりやすい | 借地人に買う意向と資金がある |
| 買取業者・第三者に売る | 大きく下がる | 早く現金化したい |
| 借地権を買い取って完全な所有権にする | 支出が先に要る | 借地人が手放したい、土地を自分で使いたい |
| 借地人と同時に売る・等価交換 | 双方の手取りが上がりやすい | 借地人も手放したい、または土地を分けられる |
| 相続税の物納に充てる | 評価額で納付できる | 金銭納付・延納が難しく、条件を満たす |
借地人に底地を売る
底地を最も高く買えるのは借地人です。
借地人が底地を買えば土地は完全な所有権になり、自由に建て替え・売却できるようになるので、第三者より高い価格を出す理由があります。底地を専門に買い取る業者の価格を上回りやすく、まず借地人に声をかける価値があります。
ただし、借地人に買う意向と資金があるとは限らず、借地人自身が高齢で、むしろ借地権を手放したいと考えていることもあります。
この声のように、まず借地人の意向を聞く、というのが順番です。買いたいのか、手放したいのか、現状維持なのかで、次に選ぶ方法が変わります。
底地の買取業者や第三者に売る
借地人以外に売る場合、価格は大きく下がります。
底地を専門に買い取る業者の価格は、更地価格の1〜2割程度と言われることがあります。法律や税の基準ではなく、取引の目安として語られる数字です。
一方、相続税の評価では、底地は自用地評価額から借地権割合の分を引いた額になるので、借地権割合が60〜70%の地域なら更地の3〜4割程度になります。つまり、業者に売ると相続税評価額の半分以下になることが多く、評価額で売れるとは見込まずに計画を立てましょう。
業者の提示を比べるときは、借地権割合、契約の残りの期間、地代の水準、更新料や承諾料の定めの有無で価格が変わることを頭に置きます。地代が高く、契約書が整っている底地ほど、業者から見た収益性が高く、価格も上がります。
業者の価格が低いのは、借地人がいる限り土地を自由に使えず、地代以外の収益が見込めないためで、不当な買い叩きとは言い切れない面があります。複数の業者に当たって、根拠を聞き比べてみてください。
出典: 国税庁 タックスアンサーNo.4613「貸宅地の評価」
借地権を買い取って完全な所有権にする
借地人が借地権を手放したがっている場合は、地主が借地権を買い取って土地を完全な所有権に戻す選択があります。
建物が古くて住む人がいない場合も同じです。所有権に戻れば、自分で使うことも、更地として高く売ることもできます。
買い取り価格の目安は借地権割合(8章)ですが、実際は建物の解体費を誰が持つか、借地人の引っ越し先の事情などで交渉になります。借地権割合はあくまで相続税の計算のための数字で、取引価格を決める基準とは別であることは、6章と同じです。
借地人と同時に売るか等価交換で分ける
地主側から同時売却や等価交換を持ちかけると、借地人にとっても手取りが上がる提案になります。
借地権と底地を一緒に第三者に売る方法と、敷地を分けて借地権と底地を交換し、それぞれが完全な所有権を持つ方法があります。仕組みと交換特例の条件は6章で説明したとおりです。
借地権だけを売るより、底地と一緒に売ったほうが借地人の手取りも増えるので、応じてもらいやすくなります。借地人が売却に乗り気でないときも、「一緒に売れば双方が得をする」という形で提案してみる価値があります。
相続税の物納に充てる条件を確かめる
底地は物納の第1順位の財産(不動産)に入りますが、条件を満たした場合に限って受け付けられます。
相続税は金銭で納めるのが原則で、金銭での納付も延納も難しい場合に、相続した財産そのもので納める物納が認められます。次のような土地は「管理処分不適格財産」として物納の対象から外れます(相続税法施行令18条)。
| 物納できない例 | 底地で起きやすい状況 |
|---|---|
| 借地権を有する者が不明である土地 | 借地人が亡くなり相続人が分からない(3章) |
| 境界が明らかでない土地 | 古い借地で測量・境界確認をしていない |
| 二以上の者の共有名義に属する不動産 | 兄弟で底地を共有名義にした(4章) |
| 権利の帰属について争いがある不動産 | 借地人と範囲や契約内容でもめている |
実際には、借地人の特定、契約内容(面積・期間・地代)が分かる契約書、地代の滞納がないこと、境界の確定が求められます。契約書がない底地は、物納を考えるなら更新時などに書面を整えておく必要があります(5章)。
なお、地上権が設定されている土地は「物納劣後財産」として、他に適当な財産がない場合に限り物納が認められる扱いになります(相続税法施行令19条)。
物納は、金銭納付も延納も難しい場合の制度です。使えるかは、申告期限(10か月)から数えて早い段階で、税理士と税務署に確かめておきましょう。
出典: 国税庁 タックスアンサーNo.4214「相続税の物納」出典: e-Gov法令検索「相続税法施行令」第18条・第19条
借地権と底地の相続税評価の確認方法
相続税の申告では、借地権も底地も財産として評価します。
計算そのものは税理士に任せるとしても、「どの数字を使うか」「自分の立場ではどちらの式か」「評価どおりに売れるのか」を自分で確かめられると、納税の見通しが大きく変わります。
路線価図の記号で借地権割合を確かめる
路線価図の路線価の後ろに付いたアルファベットが、借地権割合です。
国税庁の路線価図では、道路ごとに「300C」のように路線価(千円単位)とアルファベットが書かれています。国税庁の「路線価図の説明」では、A=90%、B=80%、C=70%、D=60%、E=50%、F=40%、G=30%と示されています。
| 記号 | A | B | C | D | E | F | G |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 借地権割合 | 90% | 80% | 70% | 60% | 50% | 40% | 30% |
路線価が付いていない地域(倍率地域)では、評価倍率表に町名ごとの「借地権割合」の欄があり、「40」「50」のようにパーセントの数字で書かれています。借地権割合は、借地事情が似ている地域ごとに定められ、路線価図や評価倍率表に表示されています。
出典: 国税庁「路線価図の説明」出典: 国税庁 タックスアンサーNo.4611「借地権の評価」
借地権と底地の評価額の求め方
同じ土地の評価額を、借地権割合の分は借地人側、残りは地主側で分け合う構図です。
土地を自分で使っている場合の評価額(自用地評価額)を100として計算します。
| 立場 | 評価の式 | 借地権割合60%の例(自用地評価額5,000万円) |
|---|---|---|
| 借地人側(借地権) | 自用地評価額 × 借地権割合 | 5,000万円 × 60% = 3,000万円 |
| 地主側(底地) | 自用地評価額 × (1 − 借地権割合) | 5,000万円 × 40% = 2,000万円 |
被相続人が借地人なら上の行、地主なら下の行を使います。立場が逆なら使う式も逆になるので、1章で確かめた立場がここで使う式を決めます。自用地評価額の計算手順(路線価方式・倍率方式、形状による補正)は別の記事の領域なので、ここでは借地権割合の当てはめに絞ります。
出典: 国税庁 タックスアンサーNo.4611「借地権の評価」出典: 国税庁 タックスアンサーNo.4613「貸宅地の評価」
使用貸借や取引慣行のない地域では評価が変わる
例外は二つあります。
一つは、借地権の取引慣行がない地域です。路線価図に借地権割合の記号が付いていない地域がこれに当たり、底地(貸宅地)を評価するときは借地権割合を20%として計算します。借地権側の評価の扱いもこうした地域では通常と変わるので、記号がない地域の借地は税理士に確かめる領域です。
もう一つは、1章で見た親族間の使用貸借です。地代が固定資産税に相当する額以下なら使用貸借とされ、借地権は生じず、土地は自用地として評価されます。借りている側に借地権の評価は立たず、貸している側(地主)の評価は更地と同じになる、ということです。
いずれも扱いが個別で、地代の水準や地域の慣行をどう見るかで結論が変わります。自分で決めず、税理士に確かめてみてください。
出典: 国税庁 タックスアンサーNo.4613「貸宅地の評価」出典: 国税庁 タックスアンサーNo.4552「親の土地に子供が家を建てたとき」
小規模宅地等の特例が借地権や底地に使える条件を確かめる
小規模宅地等の特例は、借地権にも底地にも使える可能性があります。
一定の条件を満たす宅地の評価額を大きく減らす制度で、対象の「宅地等」は土地または土地の上に存する権利とされています。つまり借地権も対象になり得ます。底地も、貸付事業用の宅地として対象になり得ます。
| 立場 | 当てはまり得る区分 | 主な条件 | 減額の割合と面積の上限 |
|---|---|---|---|
| 借地人側(借地権) | 特定居住用宅地等 | 被相続人が住んでいた家の敷地で、取得する人の要件(配偶者、同居の親族など)を満たす | 330平方メートルまで80%減額 |
| 地主側(底地) | 貸付事業用宅地等 | 相当の対価を得て継続的に貸し付けていること、相続開始前3年以内に新たに貸し始めたものでないことなど | 200平方メートルまで50%減額 |
地主側で注意したいのは「相当の対価」です。国税庁の説明では、貸付事業には相当の対価を得て継続的に行う貸付け(準事業)が含まれるとされており、親族間で固定資産税程度の安い地代にしている底地がこれに当たるかは、個別に税理士に確かめる必要があります。使えない前提で納税資金を考えておくと、後で慌てずに済みます。
適用できるかの判断は、取得する人の要件や申告の手続きも絡むので、税理士の領域です。
出典: 国税庁 タックスアンサーNo.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
底地は評価額と売れる価格の差を前提に納税を考える
底地を相続した人が一番見落としやすいのが、評価額と売れる価格の差です。
底地の相続税評価額は、借地権割合60〜70%の地域なら更地の3〜4割程度になります。一方、7章で見たように、第三者や業者に売れる価格は更地の1〜2割程度と言われることがあり、評価額の半分以下になる例も珍しくないとされます。
| 底地(借地権割合60%の地域の例) | 更地価格に対する割合 |
|---|---|
| 相続税評価額 | 約40%(国税庁の評価の式による) |
| 業者・第三者への売却価格 | 1〜2割程度と言われることがある(法律や税の基準ではない) |
| 借地人への売却価格 | 第三者より高くなりやすい |
つまり、評価額が2,000万円でも、売れば納税できるとは限りません。評価どおりには換金できない前提で、納税資金をどこから出すかを、申告期限(10か月)より前に決めておく必要があります。
借地人に売れる見込みがあるか、持ち続けて地代と手持ちの資金で納めるか、物納の条件を満たせるか(7章)を並べて考えてみてください。
なお、相続で取得した借地権や底地を売る場合、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの売却なら、納めた相続税のうち一定額を取得費に加えて譲渡所得を減らせる特例があります。使える条件や金額は税理士に確かめておきましょう。
出典: 国税庁 タックスアンサーNo.4613「貸宅地の評価」出典: 国税庁 タックスアンサーNo.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
更新や売却を調べる順番
実際に動く順番は、次の7段階です。
| 段階 | やること | 参照章 | 主な相談先 |
|---|---|---|---|
| 1 | 立場を見分ける(登記・納税通知・地代の記録) | 1章 | 法務局・市区町村 |
| 2 | 契約を確かめる(旧法か新法か・期間・特約・次の更新時期) | 2章 | 弁護士(解釈に迷うとき) |
| 3 | 相手を特定する(相手側の相続の有無・連絡経路) | 3章 | 司法書士・弁護士(相続人調査) |
| 4 | 相続登記をし、相手に相続を知らせる | 4章 | 司法書士 |
| 5 | 更新時期と申告期限を並べ、先に動くほうを決める | 2章・5章・8章 | 税理士 |
| 6 | 相手の意向を聞き、売却・保有・買い取りの方向を決める | 6章・7章 | 借地権・底地に慣れた不動産会社 |
| 7 | 取り壊しや大きな修繕は、特約と地主の意向を確かめた後に回す | 2章 | 弁護士(承諾が取れないとき) |
立場・契約・相手方の確認を最初に終える
立場(1章)・契約(2章)・相手(3章)の確認を飛ばして交渉に入ると、具体的な損につながります。
契約書の有無を確かめずに更新料を払えば、義務のない支払いをすることになります(5章)。承諾の要否を確かめずに売却を進めれば、承諾料の交渉を後手で受けます(6章)。旧法で期間の定めがない借地だと知らずに建物を朽ちるまで放置すれば、借地権そのものが消えます(2章)。
この三つの確認は、お金をかけずに自分でできる部分がほとんどです。専門家に相談する前にここまでを揃えておくと、相談も短く済みます。
相続登記と相手方への連絡を済ませてから交渉に入る
更新・地代・売却の交渉は、相続登記(3年以内の義務)と相手方への連絡(4章)を済ませてから始めると進めやすくなります。
建物の登記が故人名義のままでは、借地権の対抗力に不安が残ります(4章)。地主側も土地の登記が故人名義のままでは、借地人から見て交渉相手が定まらないままになります。
相手方から見ても同じで、交渉相手が確定してはじめて、承諾も売買も書面にできます。登記と連絡は、交渉の前提を整える工程と考えておきましょう。
取り壊しや大きな修繕は地主の意向を確かめた後に回す
建物の取り壊し、建て替え、構造に関わる大きな修繕は、契約の特約(増改築禁止・再築の承諾)と地主の意向を確かめた後に回します(2章)。
先に壊すと借地権の立場が弱くなり、承諾なしの再築は解約や解除の理由になり得るからです。
一方で、空き家の管理は続けておきましょう。換気・通水・雨漏りの応急処置・防犯・草刈りといった管理は、借地権に影響しないので進められます。建物を使える状態に保つこと自体が、旧法の朽廃による消滅を防ぎ、売却のときの価値も守ります。
更新時期と相続税の申告期限を並べて優先順位を決める
2章で計算した次の更新時期と、相続税の申告期限を紙に並べると、先に動くほうが決まります。
申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。
| 先に来るもの | 先に進める内容 | 参照章 |
|---|---|---|
| 更新時期が近い | 更新料の義務の有無、契約書の整備、地代の確認 | 5章 |
| 申告期限が近い | 借地権割合の確認、評価額の見積もり、特例の可否 | 8章 |
| どちらも近い | 両方を税理士と弁護士に分けて同時に進める | 5章・8章 |
底地を引き継いだ場合は、評価額だけを先に固めずに、売却の見込みと並べて見ておきましょう。評価額と売れる価格には大きな差があるので(8章)、両方を並べて見ないと納税資金の計画が狂います。
出典: 国税庁 タックスアンサーNo.4205「相続税の申告と納税」
相手の意向を聞いてから売却の相談先を選ぶ
売却を考えるなら、不動産会社に行く前に、相手(地主または借地人)の意向を聞いておきましょう。
相手が「買い取る」「売却を承諾する」「一緒に売る」のどれなのかで、依頼先も進め方も変わるからです。
| 相手の意向 | 進め方 | 主な依頼先 |
|---|---|---|
| 相手が買い取る | 価格の根拠(借地権割合・実勢)を示し合う | 借地権・底地に慣れた不動産会社、価格の根拠に不動産鑑定士 |
| 相手が承諾して第三者に売る | 承諾料の根拠を確かめ、買い手を探す | 借地権の取引実績のある不動産会社 |
| 一緒に第三者に売る・等価交換 | 代金の配分や分け方を決める | 同上、税の判断は税理士 |
| 相手が承諾しない | 協議を尽くし、借地非訟を検討 | 弁護士 |
相談先は段階で分かれます。契約の解釈・更新拒絶・承諾料の争いは弁護士、相続登記は司法書士、評価・特例・物納は税理士、売却は借地権や底地の取引に慣れた不動産会社です。
最初から全員に当たらず、1〜3章の確認を自分で済ませ、今の段階で必要な一人に相談するところから始めてみてください。
まとめ:借地も底地も、立場・契約・相手を確かめてから動く
借地・底地の実家でいちばん重いのは、立場(借地人側か地主側か)・契約(旧法か新法か・期間・特約)・相手(今の地主や借地人は誰か)を確かめる前に動かないことです。この三つを飛ばして更新料を払う、売却を進める、建物を壊すと、義務のない支払いや借地権の消滅という取り返しのつかない損につながります。
次の一歩は、土地と建物の両方の登記事項証明書を法務局で取り、親の通帳で地代の振込記録を探すことです。ここを飛ばすと、契約書の有無も相手の代替わりも分からないまま、地主や借地人からの請求に後手で応じることになります。
立場と契約が見えたら、次は相続税の申告期限と次の更新時期を紙に並べて、先に動くほうを決めてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、借地・底地の実家の相続・更新・売却の調べ方も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。

