親が亡くなった実家に兄弟・姉妹や親の再婚相手が住み続けているとき、実家に住んでいない相続人がまず知りたいのは「どんな約束で住んでいるのか」「本人はこれからどうしたいのか」の2点でしょう。
聞き方を誤ると相手は「出て行けと言われた」と受け取って話が止まり、何も確かめずに家賃を受け取ると、後で実家を売れなくなったり税の特例を使えなくなったりする例もあります。
住んでいる人の権利の仕分け方から、契約書がないときに集める資料、費用負担と本人の希望の確認、整理表と書面に残す手順まで、「確認して整理する」ところまでをまとめました。
実家に住んでいる人が持つ権利の種類と今後への影響
住んでいる人の権利は、次の3つの質問でおおむね仕分けできます。
| 質問 | 「はい」なら | 「いいえ」なら |
|---|---|---|
| 親は住んでいる人から家賃を受け取っていたか | 賃貸借の可能性が高い | 次の質問へ |
| 住んでいる人は親と同居していた相続人か | 遺産分割が終わるまで無償で住める同居相続人 | 次の質問へ |
| 住んでいる人は親の配偶者(再婚相手を含む)か | 配偶者短期居住権・配偶者居住権を確認する | 使用貸借か、根拠のない居住 |
権利の強さを一列に並べると、配偶者居住権が最も強く、賃貸借、遺産分割前の同居相続人、使用貸借と続き、何の根拠もない居住が最も弱い順になります。この順番は、出てもらえるか、家賃を取れるか、売れるかの答えにそのままつながります。
家賃を受け取っていれば賃貸借として借地借家法で守られる
賃貸借とは、物を使わせる代わりに賃料を払う約束です(民法601条)。
親が住んでいる人から毎月お金を受け取り、その額が近所の家賃と同じくらいなら、相手が親族でも賃貸借と評価されることがあります。決め手になるのは契約書の有無より、お金の受け渡しの実態です。
賃貸借になると、住んでいる人は借地借家法で守られます。貸主から更新を断ったり解約を申し入れたりするには「正当の事由」が必要で(借地借家法28条)、貸主と借主のどちらがその建物を必要としているか、これまでの経過、建物の状態などを合わせて判断されます。いわゆる立ち退き料は、この正当事由を補うためのお金です。
さらに、建物の賃貸借は登記がなくても、建物の引渡しを受けていれば後から建物を買った人にも主張できます(借地借家法31条)。つまり実家を売っても賃借人は残り、貸主の立場は買主に移ります(民法605条の2)。賃貸借に当たるかは、そのまま「売れるか」の答えになります。
出典: e-Gov法令検索 民法 第605条の2(不動産の賃貸人たる地位の移転)
出典: e-Gov法令検索 借地借家法 第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
出典: e-Gov法令検索 借地借家法 第31条(建物賃貸借の対抗力)
無償か固定資産税程度の負担なら使用貸借として扱われる
使用貸借とは、物を無償で使わせる約束です(民法593条)。
親が「家賃はいらない」と言って住まわせていた場合はこちらに当たります。
使用貸借の終わり方は3つあります。
- 期間を決めていれば、その満了
- 期間はなく「使う目的」だけ決めていれば、目的に従った使用が終わったとき
- 期間も目的も決めていなければ、貸主がいつでも解除できる
根拠は民法597条1項・2項と598条1項・2項です。借主が亡くなった場合も使用貸借は終了します(民法597条3項)。賃貸借と違って買主には主張できないため、実家を売るなら先に出てもらうことが前提になります。
相続の相談で最も多い誤解は、「固定資産税をずっと払ってきた以上、自分には借家権がある」という主張です。民法595条1項は、使用貸借の借主が「通常の必要費」を負担すると定めており、固定資産税はこの必要費の代表例とされています。
最高裁も、建物の借主がその建物の租税公課を負担していても、使用の対価としての意味を持つと認められる特別の事情がない限り、使用貸借と認めることを妨げないと判断しました(最一小判昭和41年10月27日)。
つまり、固定資産税程度の負担は「家賃」ではなく「無償で借りる人が当然に負う費用」と見られやすく、それだけで借家権が生まれるという主張は通りにくいといえます。ただし、負担している額が固定資産税の年額をはるかに超え、近所の家賃に近いなら、賃貸借に寄っていきます。賃貸借か使用貸借かは、額と経緯の両方で決まります。
出典: e-Gov法令検索 民法 第595条(借用物の費用の負担)
出典: e-Gov法令検索 民法 第597条(期間満了等による使用貸借の終了)
出典: e-Gov法令検索 民法 第598条(使用貸借の解除)
出典: 裁判所 裁判例検索 最高裁判所第一小法廷 昭和41年10月27日判決(昭和41(オ)527 家屋明渡請求)
親と同居していた相続人は遺産分割が終わるまで無償で住める
親の許しを得て同居していた相続人には、遺産分割が終わるまで無償で住める使用貸借が推認されます。
根拠は最高裁の判例です(最三小判平成8年12月17日)。
共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右の相続人との間において、右建物について、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される。
この事件では、他の相続人が「家賃相当額を払え」と不当利得として請求しましたが、退けられています。遺産分割が終わるまで実家は相続人全員の共有で、住んでいる相続人にも持分に基づいて使う権利があるためです。
実家に住んでいない相続人がこの判例から読み取れるのは、「先に遺産分割を終えると、家賃や退去の話を始められる」ということです。同居していた相続人に家賃を求めたり出てもらったりできるのは、原則として遺産分割で建物の帰属が決まった後で、帰属が決まればこの推認による無償使用は終わります。
なお、親が生前に「ずっと住んでいい」と口で言っていた、という話はよく出てきます。この口約束は、遺産分割までの無償使用の裏づけにはなっても、終身の権利があることの証明としては弱いと考えられます。約束の内容や経緯で評価は変わるため、契約書がないときに集める資料と合わせて確かめてみてください。
出典: 裁判所 裁判例検索 最高裁判所第三小法廷 平成8年12月17日判決(平成5(オ)1946 建物明渡等請求)
親の配偶者には配偶者短期居住権と配偶者居住権がある
住んでいる人が親の配偶者(再婚相手を含む)なら、2つの居住権から確認を始めます。
1つ目は配偶者短期居住権です(民法1037条)。配偶者が相続開始のときにその建物に無償で住んでいれば、遺産分割で建物の帰属が確定した日か、相続開始から6か月を経過する日の、いずれか遅い日まで無償で住み続けられます。この権利は登記の制度がなく、法律上当然に生じます。
2つ目は配偶者居住権です(民法1028条)。遺産分割か遺贈によって設定される権利で、原則として配偶者が亡くなるまで続き、登記ができます。設定されていると、建物の所有者であっても退去や家賃の請求は認められず、配偶者が亡くなるまで無償の居住が続きます。
親の再婚相手が住んでいる場合は、遺言や遺産分割でこの権利が設定されているか、設定されそうかを最初に確かめておきましょう。
内縁の相手(婚姻届を出していない配偶者)は、この2つの権利の対象外です。ただし、相続人からの明渡し請求が権利の濫用に当たるとして退けられた例があります(最三小判昭和39年10月13日)。法律上の権利がない人でも、出てもらうには事情の検討が要る、と押さえておきましょう。
出典: e-Gov法令検索 民法 第1037条(配偶者短期居住権)
出典: e-Gov法令検索 民法 第1028条(配偶者居住権)
出典: 裁判所 裁判例検索 最高裁判所第三小法廷 昭和39年10月13日判決(昭和37(オ)885 家屋明渡等請求)
権利の種類で変わる売却・空き家特例・立ち退き料の扱い
4つの型を横に並べると、確認を急ぐ理由がはっきりします。
| 権利の型 | 出てもらえるか | 家賃を取れるか | 売るときの扱い |
|---|---|---|---|
| 賃貸借 | 正当事由がないと難しい | 取れる(すでに取っている) | 賃借人付きの物件(オーナーチェンジ)として売る |
| 使用貸借 | 期間・目的の終了か解除で出てもらえる | 取れない(取ると賃貸借に寄る) | 退去が前提 |
| 遺産分割前の同居相続人 | 遺産分割が終わるまでは原則できない | 遺産分割まで原則取れない | 遺産分割を先に終える必要がある |
| 配偶者短期居住権・配偶者居住権 | 短期は期限まで不可、居住権は原則終身で不可 | 取れない | 居住権付きの建物として扱われる |
確認を急ぐ理由は、売却、税の特例、立ち退き料の3つです。
1つ目は売却です。住んでいる人がいる家は買主が付きにくく、賃貸借なら賃借人付きの物件として売る形になり、使用貸借なら退去が前提になります。「誰がどんな権利で住んでいるか」が分かって初めて、不動産会社も査定できます。
2つ目は税の特例です。相続した空き家を売ったときの3,000万円の特別控除(いわゆる空き家特例)は、「相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと」が要件の1つです。親と誰かが同居していた時点でこの特例は対象外になり、税額の差が大きいため、同居者の有無を早い段階で把握しておくと売却の計画を立てやすくなります。
3つ目は立ち退き料です。立ち退き料は賃貸借の正当事由を補うお金で、法律上必要になるのは賃貸借の場合です。ただし、使用貸借でも引越し費用などを渡して円満に出てもらう例があります。
出典: 国税庁 タックスアンサー No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
出典: e-Gov法令検索 借地借家法 第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
契約書がないときに住む約束を確かめる方法
親族が住んでいる実家で契約書が残っている例はまれで、資料は次の5つの問いに合わせて集めます。
| 問い | 主な資料 |
|---|---|
| 家賃の受け渡しはあったか | 親と本人の通帳、親の確定申告書 |
| 費用負担の実態はどうか | 固定資産税の納税記録、光熱費の名義、火災保険の証券 |
| 登記上の権利はどうなっているか | 登記事項証明書 |
| いつから、どんな経緯で住んでいるか | 住民票、戸籍の附票、郵便物 |
| 親はどう考えていたか | 遺言書、親の手帳やメール |
全部が揃わなくても、5つの問いに答えが出れば十分です。集める目的は裁判の証拠というより、相続人同士が同じものを見て納得するための材料づくりです。
親と本人の通帳と確定申告書で家賃の入金があったかを調べる
最初に見るのは親の通帳です。
住んでいる人から毎月同じ額の入金があれば、家賃の有力な手がかりになります。入金があれば、その額を固定資産税の年額を12で割った額と比べてみてください。同じくらいなら必要費の負担、近所の家賃に近いなら賃料に寄る、という見方ができます。
本人側の通帳や振込明細も見ます。振込の名目が「家賃」か「生活費」かで、本人がどう認識していたかが分かります。現金で手渡していた場合は、親の家計簿やメモに記録が残っていることがあります。
最短の近道は、親の確定申告書の控えです。不動産所得が計上されていれば、親自身が「貸している」と自覚していた証拠になります。控えが見当たらなければ、相続人は税務署の申告書等閲覧サービスで親の申告書を閲覧できます。
相続人全員の戸籍と、申請しない相続人の委任状や印鑑証明が必要になるため、事前に税務署へ確認しておきましょう。
住んでいるのが親族ではなく第三者なら、管理会社や仲介会社に契約書の控えと入金記録を聞くのが早道です。管理を任せていたなら、契約内容を最もよく知っているのはその会社でしょう。
出典: 国税庁 申告書等閲覧サービスの実施について(事務運営指針)
固定資産税の納税記録と光熱費の名義で費用負担の実態を調べる
固定資産税を誰が払ってきたかは、納税通知書、領収書、口座振替の記録で確かめます。
親の口座から引き落とされていたのか、住んでいる人が納付書で払っていたのかで、費用負担の実態が見えてきます。
生活費は、電気・ガス・水道・NHK・固定電話の契約名義と引き落とし口座を確認します。名義が親のままで引き落としも親の口座なら、住んでいる人は生活費を負担していなかったことになります。
火災保険の証券では、契約者が誰か、建物の用途が「自己居住」か「賃貸」かを見ます。親が賃貸用として保険を掛けていれば、貸している自覚があったことの手がかりになります。
ここで確かめるのは「これまでの実態」までで、これからの負担をどう決めるかは費用の確認項目のところで整理します。住んでいる人が固定資産税を払っていたとしても、それだけでは賃貸借にならない点は、使用貸借の説明のとおりです。
出典: e-Gov法令検索 民法 第595条(借用物の費用の負担)
登記事項証明書で所有者・共有者・配偶者居住権の登記を調べる
登記事項証明書は、法務局の窓口、郵送、オンライン(登記・供託オンライン申請システム)で取れます。
内容を画面で確かめるだけなら登記情報提供サービスも使えます。証明書が要る場面では、登記事項証明書のほうを取ります。
見る箇所は2つです。
- 甲区では、所有者が親単独か、誰かとの共有名義か
- 乙区では、配偶者居住権の登記と抵当権の有無
注意したいのは、建物の賃借権が原則として登記されていないことです。借地借家法31条により、賃借人は建物の引渡しを受けていれば登記がなくても権利を主張できるため、わざわざ登記する人はごく少数です。登記に賃借権が見当たらない場合でも、借りている権利が存在する可能性は残ります。
もう1つ、法定相続分どおりの共有登記は相続人の1人でも申請できます。取り寄せてみたら、住んでいる相続人がすでに共有登記を済ませていた、という例もあります。登記の現状を知るためにも、早めに取っておく価値があります。
出典: 法務局 登記事項証明書(土地・建物)、地図・図面証明書を取得したい方
出典: e-Gov法令検索 借地借家法 第31条(建物賃貸借の対抗力)
住民票と戸籍の附票でいつから住んでいるかを調べる
住んでいる人がいつからその住所にいるか、親と同一世帯だったかは、住民票(世帯全員・続柄入り)と戸籍の附票で確かめます。
戸籍の附票には住所の履歴が載るため、転入した時期が分かります。これは「親の許諾を得た同居」の裏づけになり、同居の開始が親の介護の始まった時期と重なるなら、同居の経緯も見えてきます。
ただし、住民票を移さずに実家に住んでいる親族もよくいます。住民票だけで「住んでいない」と判断せず、郵便物の宛先、光熱費の使用量と突き合わせてみてください。年賀状の宛名が親との連名になっている年から、同居の開始時期が分かることもあります。
遺言書と親の手帳やメールで親の意思を調べる
遺言書に「実家は同居の長男に相続させる」「妻に配偶者居住権を遺贈する」といった記載があれば、それが権利の答えになります。
探し方は遺言の種類で異なります。
自筆証書遺言は、自宅や貸金庫のほか、法務局の遺言書保管所に預けられていることがあります。相続人は「遺言書保管事実証明書」の交付を請求して預けられているかを確かめ、あれば「遺言書情報証明書」の交付を請求して内容を確認します。保管所に預けられていた遺言書は家庭裁判所の検認が不要で、自宅などで見つかった自筆証書遺言は、開封せずに家庭裁判所の検認を受けます。
公正証書遺言は、公証役場の遺言検索システムで調べられます。相続人は亡くなった人の除籍謄本、自分が相続人であることを示す戸籍謄本、本人確認書類を持って公証役場に行けば、全国の公証役場で作られた遺言の有無を無料で照会できます。
遺言がなくても、親の手帳、日記、メール、LINE、手紙に「〇〇に家を任せる」「家賃はいらない」といった記録があれば、法的な効力は限定的でも、相続人同士が合意するための材料になります。同居の理由(親の介護など)が分かる記録は、使用貸借の「目的」を示す手がかりにもなります。
出典: 法務省 自筆証書遺言書保管制度 04 相続人等の手続
固定資産税・修繕費・光熱費・保険の負担を確認する項目
費用の確認は、費目ごとに次の表を埋める形で進めると整理しやすくなります。
| 費目 | これまで誰が負担 | 契約名義 | 引き落とし口座 | これから誰が負担 |
|---|---|---|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | ||||
| 電気・ガス・水道 | ||||
| NHK・固定電話・インターネット | ||||
| 火災保険・地震保険 | ||||
| 小さな修繕・消耗品 | ||||
| 屋根・外壁・給湯器などの大きな修繕 |
先に洗い出しておきたいのは、親の口座が凍結されて止まる支払いです。親名義の口座から引き落とされていた光熱費や保険料は、金融機関が死亡を知った時点で止まります。「これまで誰が負担」の列を埋めながら、親の口座に頼っていた費目に印を付けておきましょう。
固定資産税の納税義務者と納税通知書の届け先
固定資産税の納税義務者は、毎年1月1日時点の登記上の所有者です。
所有者が亡くなっていて相続登記がまだなら、その不動産を「現に所有している者」、つまり相続人が納税義務者になります。市区町村は条例で現所有者に住所・氏名などを申告させることができ(地方税法384条の3)、多くの自治体で「相続人代表者指定届」とあわせて提出する扱いです。
申告を怠ると条例で過料を定めている自治体もあるため、期限(知った日の翌日から3か月以内とする例が多い)を確かめておきましょう。相続放棄をした人は届出が不要で、代わりに相続放棄申述受理通知書や受理証明書の写しを出します。
納税通知書は代表者1人にだけ届きます。他の相続人は課税額も課税明細も見えないままになるため、課税明細のコピーを相続人全員で共有しておくと、負担の話し合いを同じ数字から始められます。
代表者はあくまで書類の受け取り窓口です。負担は相続人全員で、遺産分割前は共有物の管理費用として持分に応じて負担するのが原則です(民法253条1項)。
住んでいる人が固定資産税を払っていた場合も、税そのものは所有者である相続人全員にかかっています。「住んでいる人が払ってきたから、これからも住んでいる人が払う」と自動的に決まるわけではなく、これからの負担は相続人全員で話し合う項目に残しておきます。
出典: e-Gov法令検索 地方税法 第384条の3(現所有者の申告)
出典: e-Gov法令検索 民法 第253条(共有物に関する負担)
出典: 大阪狭山市 「相続人代表者指定届 兼 現所有(代表)者届」の説明書(自治体の例・PDF)
光熱費と火災保険の契約名義と引き落とし口座
光熱費の契約名義が親のままだと、口座凍結で引き落としが止まり、督促、そして停止へと進みます。
住んでいる人の名義に変えるのが自然な流れでしょう。ただし、名義変更を「その人の家だと認めた」と受け取られないよう、「費用は住んでいる人が負担する」という合意とセットで進めます。合意があれば、名義は支払いの窓口という扱いにとどまります。
火災保険は、契約者が亡くなると名義変更が必要です。居住者がいるため空き家扱いにはならないものの、「所有者と居住者が別」「賃貸に出している」といった事情は告知事項になることがあり、黙っていると事故のときに保険金が出ないおそれがあります。相続が始まったら保険会社に連絡し、契約者の変更と現状の告知をしておきましょう。
住んでいる人の家財は、本人が自分で家財保険を掛けます。
親名義の火災保険が更新できず、気づかないまま無保険の期間ができていた、という事故は実際にあります。保険の満期日を確認項目に入れておくと、この空白期間を防げます。
修繕費の負担は使用貸借と賃貸借で分かれる
使用貸借では借主が「通常の必要費」を負担し(民法595条1項)、賃貸借では貸主に修繕義務があります(民法606条1項)。
使用貸借で借主が負うのは、小さな修繕、消耗品の交換、固定資産税です。屋根や外壁、給湯器の交換といった大きな修繕は法律に定めがなく、話し合いで決めることになります。
賃貸借では、家賃を取ると大きな修繕が所有者側に回ってきます。家賃を受け取る前にこの点を頭に入れておくと、判断を誤らずに済みます。
困りやすいのは、住んでいる人が自費で大きな修繕や改装をしてしまった場合です。後で「かけた費用を返してほしい」という精算(有益費)の問題が出るうえ、本人の中に「自分の家だ」という意識が強まり、話し合いが難しくなります。「大きな修繕や改装の前に相続人全員に相談する」という約束を、できるだけ早い段階で作っておきましょう。
出典: e-Gov法令検索 民法 第595条(借用物の費用の負担)
出典: e-Gov法令検索 民法 第606条(賃貸人による修繕等)
住んでいる人が立て替えてきた費用の精算
精算の話は、住んでいる人からと、住んでいない相続人からの2方向で出てきます。
- 住んでいる人が「これまで払ってきた固定資産税や修繕費は立て替えだから相続財産から返してほしい」と言う場合
- 実家に住んでいない相続人が払った固定資産税を、住んでいる人に負担してほしい場合
どちらの場合もやることは同じで、領収書と通帳で金額を確定し、遺産分割の中で扱います。確認の段階では請求まで進まず、「金額を確定すること」までが確認の仕事です。
なお、立て替えた費用と、無償で住んだ利益を相殺するという考え方もあります。どう扱うかは事情で変わるため、金額を確定したうえで弁護士に確認してみてください。
これから受け取る家賃や費用の金額で権利の性質が変わる
これから住んでいる人から受け取る金額によって、権利の性質そのものが変わります。
損得が最も大きいのはこの項目です。固定資産税相当額以下なら必要費の負担にとどまり、使用貸借のままです。
ところが、近所の家賃に近い額を受け取ると賃貸借と評価され、借地借家法の保護が付きます。そうなると、後から出てもらうには正当事由が必要になり、売るときも賃借人付きの物件になります。「家賃代わりに少し受け取る」という軽い気持ちの取り決めが、将来の選択肢を大きく狭めることがあるのです。
税務の面でも違いが出ます。使用貸借なら受け取る金額は不動産所得にならず、修繕費などで赤字が出ても給与との損益通算の対象外です。逆に、無償で住まわせることによる経済的な利益は贈与税の論点になり得ますが、年110万円の基礎控除の範囲内なら課税されないという一般的な整理があります。
どちらも個別の事情で変わるため、税理士に確認しておきましょう。
出典: 国税庁 タックスアンサー No.4402 贈与税がかかる場合
住んでいる本人の希望を聞き取る方法
本人への聞き取りは、聞く項目を先に決め、書面で渡し、対立に見えない順序で進めると、話がこじれずに進みます。
聞き取った希望をもとに家賃の額や退去の条件をどう決めるかは、別の記事に譲ります。
聞き取る項目を先に決める
質問票としてそのまま使える形で、聞き取る項目を挙げます。
| 区分 | 聞く項目 |
|---|---|
| 1 経緯 | いつから住んでいるか/なぜ住み始めたか(親の介護、離婚、失業、親の希望など)/親と何を約束したか(期間、家賃、将来の相続) |
| 2 今の負担 | 何を払ってきたか/自費で直した箇所とその金額 |
| 3 希望 | 住み続けたいか、その期間/買い取りたいか/出る予定があるか、その時期/条件次第なら、その条件 |
| 4 相続についての認識 | 自分が相続すると思っているか/遺言の存在を知っているか/他の相続人の希望を知っているか |
| 5 困りごと | 収入、健康、転居先の有無、介護の負担 |
| 6 荷物と鍵 | 親の遺品をどう扱うか/合鍵は何本あり、誰が持っているか |
5の「困りごと」には、「出たくても出られない事情」が隠れていることが多くあります。収入が少ない、持病がある、転居先の当てがない、といった事情が分かれば、本人の希望の裏にあるものが見えてきます。
相手によって追加する項目もあります。第三者の賃借人には、契約書の控え、更新の時期、敷金の認識、退去の意向、連絡窓口(管理会社経由でよいか)を聞きます。内縁の相手や親の介護をしていた人には、親との関係、生活の基盤、転居先の見込みを聞きます。
関係を壊さない順序と言い方で聞く
まず、連絡の窓口を相続人の中の1人に決めます。
別々の相続人がばらばらに連絡すると、本人は「包囲されている」と感じやすくなります。
目的の伝え方は言葉を選びます。「出て行ってほしい」ではなく、「今後を決めるために、今の状況を相続人全員で把握したい。同じことを全員に聞いている」と伝えると、本人も答えやすくなります。
先に質問票を渡し、回答の期限を置き、その後に面談する順序にすると、本人は自分のペースで答えを整理できます。面談は日時、同席者、話した内容をメモし、本人にも控えを渡します。録音するなら、録音すると告げてから始めます。
感情的になったら、その場で結論を出そうとせず、中断して日を改めましょう。
関係がすでに悪い場合は、最初から第三者の同席を頼みます。共通の親族、司法書士、弁護士など、どちらの味方でもない人がいると、話が前に進みやすくなります。ただし、弁護士名の通知をいきなり送ると、その時点で「確認」ではなく「対立」になり、本人は身構えます。
聞き取った本人の言い分は、集めた資料と並べて見ます。信じすぎも疑いすぎもせず、資料と合う部分、合わない部分、資料では確かめようがない部分に分けておくと、整理表にそのまま移せます。
希望の型ごとに次に確認する項目
本人の希望はおおむね4つの型に分かれ、型ごとに次に確認する項目が決まります。
| 希望の型 | 次に確認する項目 |
|---|---|
| 住み続けたい | いつまでか/家賃や費用をどうするか/遺産分割でその人が実家を取得する案(代償金を払えるか)か、共有名義のまま使用貸借にするか/将来売るときに協力するか |
| 買い取りたい | 価格の決め方(固定資産税評価額ではなく、複数社の査定による時価)/資力/名義変更の時期 |
| 出る予定 | 時期/引越し費用の扱い/残す荷物/鍵の返却/原状回復の範囲 |
| 条件次第 | その条件を書面にしてもらう |
「条件次第」で出てきた条件が「相場より安い家賃で終身」のようなものなら、権利の分類で賃貸借に寄っていくことを本人にも伝えておきましょう。本人にとっても相続人にとっても、後の「そんなつもりではなかった」を防げます。
第三者の賃借人には「契約は相続人が引き継ぐ」と伝えます。家賃の振込先の変更は、相続人全員で代表者と受取口座を決めてから通知します。
聞き取りの間にしてはいけない行為
確認の段階で避けるのは、自力で出てもらおうとする行為と、1人だけの判断による約束や請求です。
鍵の交換、荷物の搬出、光熱費の停止、玄関への貼り紙は、相手に権利がない場合でも「自力救済」として違法になり、損害賠償や刑事の問題になり得ます。どんなに正当な理由があっても、出てもらう手続きは裁判所を通す決まりです。
一方的な家賃請求の通知も避けます。親と同居していた相続人に家賃相当額を請求できるのは、原則として遺産分割が終わった後です。
他の相続人に無断で「住んでいい」「出て行け」と約束することも避けます。貸主の立場は相続人全員が引き継いでおり、1人の約束が他の相続人を拘束することはなく、後の争いの種になります。
本人が住み続ける前提で自費のリフォームを進めているのを放置すると、後の精算と話し合いが難しくなります。「修繕の前に相談する」約束を、聞き取りの機会に取り付けておきましょう。
第三者の賃借人は、オーナーの死亡を知ると家賃の振込を止めたり、法務局に供託したりすることがあります。相続人側から早めに連絡し、「相続が始まったこと」「振込先は追って全員で決めて通知すること」を伝えておくと、家賃の流れが途切れずに済みます。
出典: 裁判所 裁判例検索 最高裁判所第三小法廷 平成8年12月17日判決(平成5(オ)1946 建物明渡等請求)
遺産分割が終わるまでの間に確認する項目
遺産分割が終わるまで実家は相続人全員の共有で、誰も単独では動けない期間です。
1人の相続人が勝手に決めたことは、他の相続人にも住んでいる人にも効力が及ばず、やり直しになります。
この期間に固有の確認は、貸主の立場、第三者からの家賃、同居相続人への家賃、配偶者の居住権の4つに、遺産分割の案に関わる税の特例を加えた5つです。
貸主は相続人全員で一人では請求も約束もできない
親が貸主だった場合、賃貸人や使用貸借の貸主としての立場は、相続人全員が引き継ぎます。
相続人の1人が解除を通知しても、家賃を請求しても、「住んでいい」と約束しても、他の相続人を拘束しません。確認の段階で誰かが先走ると、後で「そんな約束は知らない」という争いの種になります。
登記の現状も早めに確認します。相続登記は2024年4月1日から義務になり、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請が必要です。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になり得ます。
2024年4月より前に始まった相続も対象で、2027年3月31日までに登記します。
法定相続分どおりの共有登記は相続人の1人でも申請できます。気づかないうちに共有登記が入っていることがあり、理論上はその相続人が自分の持分だけを第三者に売ることもできます。実際にはまれですが、登記事項証明書を取っておく理由の1つです。
遺産分割がすぐにまとまらず3年の期限が気になるなら、「相続人申告登記」という方法があります。相続人であることを法務局に申し出るだけで義務を果たしたことになり、1人でも申し出ができ、登録免許税も不要です。ただし権利関係を公示するものではないため、売却や抵当権の設定には別途相続登記が必要です。
出典: 法務省 相続人申告登記について
第三者からの家賃は法定相続分で各相続人に帰属する
相続開始から遺産分割までの家賃は、各相続人が法定相続分に応じて取得します。
実家の一部や別棟を第三者に貸していた場合、この期間の家賃は誰のものでしょうか。最高裁は、この期間に生じた賃料債権は各共同相続人が相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、後でされた遺産分割の影響を受けないと判断しました(最一小判平成17年9月8日)。
これは、実家を取得しない相続人にとって有利な事実です。遺産分割で実家を取得した人が過去の家賃まで全部受け取れるわけではなく、実家を取得しない相続人にも、遺産分割までの家賃を法定相続分で受け取る権利があります。
税務でも同じ扱いで、遺産分割が確定するまでの不動産所得は、特定の相続人が収益を管理していても、各相続人が法定相続分に応じて申告します。後で遺産分割が確定しても、過去の申告はそのままで、やり直しの対象外です。
段取りは次のとおりです。
- 相続人全員の合意で代表者と受取口座を決める
- 賃借人に「賃貸人が死亡したこと」「相続人全員が賃貸人の地位を引き継いだこと」「新しい振込先」を書面で通知する
親の口座は凍結されるため振込先の変更は避けて通れず、1人の判断で変えると他の相続人との争いになります。代表者がまとめて受け取り後で精算するという合意は構いませんが、その合意があっても家賃の帰属は法定相続分で各相続人のものという扱いのままです。
敷金の返還義務は、賃貸人の地位を引き継ぐ人が負うという考え方が有力ですが、見解が分かれる部分があります。第三者の賃借人がいる場合は、専門家に確認してみてください。
出典: 裁判所 裁判例検索 最高裁判所第一小法廷 平成17年9月8日判決(平成16(受)1222 預託金返還請求)
出典: 国税庁 タックスアンサー No.1376 不動産所得の収入計上時期(未分割遺産から生ずる不動産所得の帰属)
同居していた相続人には遺産分割まで家賃を請求できない
親と同居していた相続人への、遺産分割までの家賃相当額の請求は、原則として認められません。
遺産分割までは無償で使わせる合意があったと推認されるためです(最三小判平成8年12月17日)。この期間の出口は遺産分割を進めることで、家賃を請求する準備をするより、遺産分割の協議を前に進めるほうが早道になります。
なお、無償で住んだ利益を「特別受益」として遺産分割で持ち戻すべきだ、という主張もあります。裁判例ではこの主張は認められにくい傾向があると言われていますが、同居の経緯や期間、建物の使い方など個別の事情で変わります。主張するかは弁護士に確認してみてください。
出典: 裁判所 裁判例検索 最高裁判所第三小法廷 平成8年12月17日判決(平成5(オ)1946 建物明渡等請求)
配偶者短期居住権の期限と配偶者居住権の設定
住んでいる人が親の配偶者なら、配偶者短期居住権の期限を確認します。
相続人同士で遺産分割をする場合、期限は遺産分割で建物の帰属が確定した日か、相続開始から6か月を経過する日の、いずれか遅い日です(民法1037条1項1号)。遺言で建物を取得した人がいる場合など、遺産分割をしない場合は、建物の取得者が消滅の申入れをした日から6か月を経過する日までです(同条1項2号・3項)。
その間、建物の取得者には、第三者への売却などで配偶者の使用を妨げない義務があります(同条2項)。「とりあえず売却の準備を進める」という動きも、この期間は配偶者の権利と衝突します。
配偶者が住み続けることを前提にするなら、遺産分割協議で配偶者居住権(民法1028条)を設定するかを検討項目に入れます。配偶者居住権は遺産分割か遺贈でしか設定できず、設定すれば登記ができます。
この権利には、相続人全員にとっての利点があります。配偶者居住権の評価額は所有権より低く見積もられるため、配偶者は住む権利を確保しつつ、他の相続人が預貯金などを多く取る、という調整に使えます。
国税庁の計算例では、建物の評価額2,000万円のうち配偶者居住権が約1,329万円、残りの所有権が約671万円と分かれています。評価は年齢や建物の築年数で変わるため、具体的な数字は税理士に確認してみてください。
出典: e-Gov法令検索 民法 第1037条(配偶者短期居住権)
出典: e-Gov法令検索 民法 第1028条(配偶者居住権)
出典: 国税庁 タックスアンサー No.4666 配偶者居住権等の評価
同居親族が取得すると小規模宅地等の特例の対象になり得る
相続税の申告が必要な規模の相続なら、住んでいる人が誰かで税額が大きく変わる特例があります。
小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4)です。親と同居していた親族がその宅地を取得し、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)まで所有と居住を続けると、330㎡まで評価額が80%減額されます。たとえば評価額3,000万円の土地なら、600万円として計算できます。
住んでいる人が親と同居していた親族なら、「誰が実家を取得するか」で相続税が大きく変わります。遺産分割の案を作る前に、この特例の対象になり得るかを把握しておきましょう。
相続税の総額が下がるという意味で、相続人全員にとって有利になり得る材料です。ただし「同居親族に取得させるべきだ」という結論に直結する話ではなく、遺産分割の案を比べるための判断材料の1つです。
なお、同居していなかった親族が取得する場合の要件(いわゆる家なき子の要件)は、これとは別の制度です。要件は細かく改正も重ねられているため、適用できるかは税理士に確認してみてください。
出典: e-Gov法令検索 租税特別措置法 第69条の4(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
出典: 国税庁 タックスアンサー No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
出典: 国税庁 タックスアンサー No.4205 相続税の申告と納税
確認した結果を整理して書面に残す手順
確認の着地は、一覧にする、相続人全員と本人で共有する、暫定の使用条件を書面にする、必要なら専門家に渡す、の4つの手順です。
覚書の条項をどう書くか、文言の作り方は別の記事に譲ります。
一枚の整理表にまとめる項目
確認結果は、一枚の整理表にまとめます。
項目はそのまま写して使えます。
| 項目 | 書く内容 | 参照する見出し |
|---|---|---|
| 住んでいる人 | 氏名・続柄・連絡先 | 本人の希望の聞き取り |
| 居住の経緯 | いつから・なぜ住み始めたか・親との約束 | 資料の確認・本人の希望の聞き取り |
| 権利の種類 | 賃貸借/使用貸借/同居相続人/配偶者の居住権のどれか | 権利の種類 |
| 根拠資料 | 通帳・申告書・登記・住民票・遺言など、何を確認したか | 資料の確認 |
| 費用負担の現状 | 費目ごとの表 | 費用の確認項目 |
| 本人の希望 | 住み続けたい/買い取りたい/出る予定/条件次第 | 本人の希望の聞き取り |
| 相続人それぞれの希望 | 各相続人の考え | 本人の希望の聞き取り |
| 遺産分割前に固有の事項 | 貸主の代表者・家賃の受取口座・登記の現状 | 遺産分割前の確認項目 |
| 関係する期限 | 配偶者短期居住権の6か月・相続税申告の10か月・相続登記の3年 | 遺産分割前の確認項目 |
| 未確認の項目と担当者 | 何が分かっていないか・誰がいつまでに確認するか | 全体 |
書き方で守りたいのは、各項目を「裏が取れたこと」「本人の言い分」「未確認」の3つに分けて書くことです。相続の争いの多くは、誰かの言い分を事実として扱ったところから始まります。「兄は親に任されていた」は本人の言い分、「親の通帳に兄からの入金はない」は裏が取れたこと、と分けておけば、後で読み返しても混乱せずに済みます。
整理表には日付を入れ、遺産分割、売却、家賃の開始など節目のたびに更新します。古い版も残しておくと、何がいつ分かったかの記録になります。
相続人全員と本人で同じ整理表を共有する
整理表と資料のコピーは、相続人全員に同じものを送ります。
「自分だけ知らされていない」という不満は、それ自体が争いの火種になります。この整理表は、そのまま遺産分割協議の前提資料になります。
住んでいる本人にも整理表を見せます。特に「事実の認識」の部分、つまりいつから住んでいるか、何を払ってきたかといった項目は、本人に確認を取っておきましょう。本人の言い分と相続人の認識がずれている箇所は、「言い分」欄に本人の主張をそのまま残し、「裏が取れたこと」とは分けておきます。
口約束を書面にするときに入れる項目
しばらくは今のまま住んでもらう流れになったら、口約束のままにせず書面にします。
入れる項目は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 当事者 | 貸す側は相続人全員か、遺産分割後の所有者か。全員にしないと、後で「知らない」が出る |
| 対象 | 建物と土地、使う範囲(全部か、一部か) |
| 無償か有償か | 有償なら金額と支払方法(受け取る金額で権利の性質が変わる点を踏まえる) |
| 期間または終了条件 | 「遺産分割の確定まで」「売却の決定まで」「〇年〇月まで」など |
| 費用負担 | 固定資産税・光熱費・保険・小修繕・大修繕を、それぞれ誰が負担するか |
| 修繕・改装の前の相談 | 大きな修繕や改装の前に相続人全員に相談する約束 |
| 退去時の扱い | 原状回復の範囲と荷物の扱い |
| 本人が亡くなった場合 | 使用貸借は借主の死亡で終了する(民法597条3項)。同居家族の扱いをどうするか |
| 売却する場合の協力 | 内覧への協力、退去の時期など |
| 署名・日付 | 相続人全員と本人 |
書面の形は「覚書」や「確認書」で十分です。使用貸借契約書や賃貸借契約書という形にするかは、権利の分類と本人の希望で決めます。
遺産分割が終わる前でも、「確定までの間の使用条件」として、相続人全員と本人で暫定の確認書を交わせます。期間を「遺産分割の確定まで」としておけば、終了時期で揉めずに済みます。遺産分割がまとまったら、その結果に合わせて改めて書面を作り直します。
公正証書にすることは必須ではなく、対立が予想される場合の選択肢です。なお、使用貸借契約書も建物の賃貸借契約書も印紙税の課税文書に当たらないため、収入印紙は不要です。
出典: e-Gov法令検索 民法 第597条(期間満了等による使用貸借の終了)
出典: 国税庁 タックスアンサー No.7106 建物の賃貸借契約書
出典: 国税庁 タックスアンサー No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで
専門家に相談する判断基準と相談先
整理表ができたら、専門家に渡すかを判断します。
| 状況 | 相談先 |
|---|---|
| 本人が権利を主張して争いになりそう/第三者の賃借人がいる | 弁護士(相続・不動産を扱う事務所) |
| 登記の現状の確認、相続登記、相続人申告登記 | 司法書士 |
| 家賃の額の妥当性、小規模宅地等の特例、贈与税 | 税理士 |
| 実家の査定、売却できるかの確認 | 不動産会社 |
無料で相談できる窓口もあります。法テラス、自治体の法律相談、弁護士会や司法書士会の相談会などです。いきなり事務所を探すより、まずこうした窓口で方向を聞くと、どの専門家に頼むべきかが見えてきます。
相談に行くときは、整理表と資料一式を持っていきましょう。専門家は「何が分かっていて、何が分かっていないか」を最初に知りたがります。整理表があれば1回の相談で方向が決まり、相談の回数が減る分、費用も抑えられます。
不動産会社には、「査定と売却の可否の確認」としてのみ頼みます。住んでいる人がいる家をどう扱うかは権利の整理が先で、その整理は法律の専門家の領域です。
まとめ:住んでいる人の権利の種類を確かめてから、家賃や名義の話を始める
所有者以外の人が住む実家で最初に確かめることは、住んでいる人が賃貸借、使用貸借、遺産分割前の同居相続人、配偶者の居住権のどれで住んでいるかです。この仕分けで、出てもらえるか、家賃を取れるか、売れるかが決まり、「家賃代わり」に受け取る金額ひとつで権利の性質まで変わります。
次の一歩は、親の通帳と確定申告書、登記事項証明書、住民票と戸籍の附票、遺言書を集め、一枚の整理表に「裏が取れたこと」「本人の言い分」「未確認」を分けて書くことです。この手順を飛ばして誰かの言い分を事実として扱ったり、1人の判断で家賃を受け取ったりすると、相続人同士の争いや、売却の行き詰まりにつながります。
整理表ができたら、本人の希望の聞き取り、遺産分割までの家賃の受け取り方、配偶者短期居住権の期限、相続登記の3年の期限を順に確かめてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、所有者以外の人が住む実家の契約や約束の確認も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。

