実家を共有名義で相続するかの判断|後から困る売却・費用・税金と期限の守り方

親が残した実家を誰が引き継ぐか決められず、「とりあえず共有名義にしておこう」で話し合いが落ち着く家は多くあります。

ただし共有名義は先送りではなく、全員の同意がないと売れず壊せず、固定資産税を全員で連帯して負う状態を、自分たちの手で確定させる選択です。

一方で「決めない」と「共有名義で決める」は別の選択で、何も確定させないまま相続登記と相続税の期限を守る方法があります。協議書に「共有とする」と書く前に、その違いを確かめておきましょう。

共有名義の実家の売却・賃貸・修繕・解体に必要な同意の範囲

売る・壊す・建て替える・長く貸すは、2023年4月の民法改正後も共有者全員の同意が必要です。

改正民法(令和3年法律第24号、2023年4月1日施行)で、持分の過半数で決められる範囲は広がりました。それでも実家の行き先を決める行為は全員同意のままで、行為ごとに必要な同意の数は次のとおりです。

行為必要な同意根拠
実家全体の売却・建物の解体・建て替え・大規模な改修・3年を超える建物の賃貸共有者全員民法251条1項・252条4項
3年以内の建物の賃貸・軽微な修繕や設備更新・管理方法の決定持分の価格の過半数民法252条1項・4項
雨漏りの応急修理・清掃・草刈り・固定資産税の納付各共有者が単独で可民法252条5項
自分の持分だけの売却・贈与各共有者が単独で可民法206条

共有者全員の同意が必要な売却・解体・建て替え・長期の賃貸

実家の形や使い方を大きく変える行為は、共有者全員の同意がそろってはじめて動かせます。

具体的には、実家全体を売ること、建物を解体すること、建て替えや増築、間取りを変える大規模な改修、そして3年を超える建物の賃貸です。

根拠は民法251条1項です。共有物に「その形状又は効用の著しい変更」を加えるには、他の共有者全員の同意が必要と定めています。

実家全体を売ることは共有物そのものを処分する行為なので、全員の合意が必要と解釈されています。解体や建て替えは、形状の著しい変更にあたります。

賃貸については、民法252条4項が「過半数で決められる賃貸の上限」を建物は3年と定めています。この上限を超える賃貸は変更行為の扱いになり、全員の同意が必要です。

注意したいのは、普通の借家契約です。契約期間を2年にしても、借地借家法の法定更新で借主が望めば契約が続くため、結果として3年を超える可能性があります。そのため、普通借家で貸すなら全員の同意を取るのが安全だとされています。

「反対する人がいる」ときだけ止まるわけではなく、1人が「今は考えられない」と保留しただけでも止まります。全員同意とは、全員が同じ時期に「はい」と言う状態のことです。

売却の手続を知っておくと、この重さが分かります。不動産会社との媒介契約、買主との売買契約、代金の決済の各段階で、共有者全員の署名・実印・印鑑証明書・本人確認・登記識別情報(権利証)が必要です。

1人でも遠方に住んでいる、入院している、多忙で連絡が取りにくいとなると、不動産会社は売り出しを引き受けにくくなります。買主の住宅ローンの審査には期限があり、決済日に1人の印鑑がそろわなければ契約自体が流れるからです。

全員の意思と動きがそろっていることを示せる売主であれば、買主も不動産会社も安心して進められます。

「あとで売るときに話せばいい」という考え方は、その時点で全員の事情と意見が一致しているという前提に立っています。相続の時点で一致していても、数年後に同じ意見でいられるかは、それぞれの家庭の事情しだいです。

出典: e-Gov法令検索 民法、e-Gov法令検索 借地借家法、青森地方法務局 民法、不動産登記法等一部改正法及び相続土地国庫帰属法に関するお知らせ

持分の過半数で決められる3年以内の賃貸と軽微な修繕

3年以内の賃貸と軽微な修繕は、共有者全員でなくても「持分の価格の過半数」で決められます。

2023年4月の改正で、この範囲がはっきりしました。ここでいう過半数は人数ではなく持分の割合で、この点は「2人で2分の1ずつだと過半数が成立しない持分割合」で詳しく説明します。

過半数で決められる行為は次のとおりです。

  • 建物を3年以内の期間で貸す賃借権の設定(民法252条4項3号)
  • 形状や効用の著しい変更を伴わない「軽微な変更」(民法251条1項かっこ書・252条1項)
  • 共有物の管理方法の決定

軽微な変更の例として、法務省の資料では私道の舗装の修復や樹木の伐採が挙げられています。実家であれば、外壁の塗り直しや給湯器などの設備の更新がこれにあたると考えられています。

改正前の民法251条は「変更」をすべて全員同意とし、軽微な変更の区別も、何年までの賃貸なら全員同意が不要かの区切りも条文になく、慎重に全員の同意を取るのが通例でした。改正で、持分の過半数で動かせる範囲が条文の上ではっきりしたわけです。

共有名義の実家を貸すなら、過半数で進められる形は「3年以内の定期借家契約」です。定期借家は契約期間の満了で終わる契約なので、上限3年に収まります。

ただ現実には、3年で退去が決まっている一戸建ての借主は見つかりにくく、家賃も抑えざるを得ません。制度上できることと、借り手がいることは別です。

もう1つ、見落とされやすい条文があります。民法252条3項は、過半数で決めた内容が「共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきとき」は、その人の承諾が必要と定めています。

たとえば兄弟・姉妹の話し合いで「とりあえず兄が住む」と決めたあと、他の共有者が過半数で「貸し出す」「売る準備をする」と決めようとしても、住んでいる兄の承諾が要ります。誰かを住ませる決定が、将来の決定を縛る仕組みです。

住む人が他の共有者に払う使用料は、「住んでいる共有者が負う持分を超える使用の対価」で扱います。

出典: e-Gov法令検索 民法、青森地方法務局 民法、不動産登記法等一部改正法及び相続土地国庫帰属法に関するお知らせ

各共有者が単独でできる保存行為と自分の持分の売却

実家の現状を保つ行為と、自分の持分の処分は、共有者が1人で行えます。

1つは保存行為です。民法252条5項により、雨漏りの応急修理、清掃、草刈り、固定資産税の納付のように実家の現状を保つ行為は、他の共有者の同意なしに各共有者が行えます。

もう1つは、自分の持分の処分です。所有権は自由に処分できる権利なので(民法206条)、共有者は自分の持分だけを、他の共有者の同意なしに売ったり贈与したりできます。

ただし「単独でできる」と「もめない」は別です。応急修理を1人が手配しても、その費用を他の共有者に分担してもらえるかは、別の問題として残ります。

自分の持分だけを売れるということは、他の共有者も同じことができるという意味です。兄弟・姉妹ではない第三者が共有者に入ってくる入口になります。

出典: e-Gov法令検索 民法

2人で2分の1ずつだと過半数が成立しない持分割合

兄弟・姉妹2人で2分の1ずつの共有名義は、意見が割れた瞬間に過半数が成立しなくなります。

民法252条1項は「各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する」と定めています。人数の多数決ではなく持分の割合で、しかも「半分」ではなく「半分を超える」必要があります。

2人で2分の1ずつなら、どちらかが賛成しても持分はちょうど半分で、過半数には届かないままです。

つまり2人の意見が割れると、3年以内の賃貸も外壁の塗り直しも、本来は過半数で済む行為まで全員一致と同じ重さになります。

  • 3人で3分の1ずつなら、2人の賛成で3分の2となり成立します。
  • 4人で4分の1ずつなら3人の賛成が必要で、2人では半分にとどまります。
  • 母と子2人で、母が2分の1・子が4分の1ずつなら、母と子1人で4分の3となり決まります。

持分は、遺産分割協議で決めなければ法定相続分(民法900条)で決まります。配偶者と子なら配偶者2分の1・子は残りを等分、子だけなら等分です。

つまり共有名義にすると決めた時点で、誰と誰が組めば物事が決まるのか、あるいは誰も決められないのかも決まっています。

持分の割合は「公平さ」より「誰が決めるか」で見る

共有名義を選ぶとき、多くの人は「公平に分ける」ことだけを見ています。しかし持分の割合は、そのまま「誰が実家について決める権利を持つか」を決めます。

2人で半分ずつの共有名義は、公平に見えて「2人が一致しないと何も決まらない」形です。相談でよく出るつまずきに、「多数決で決めればいいと思っていたら、2人では多数決そのものが成立しなかった」というものがあります。

共有名義にするかを考えるときは、持分の割合を、物事を決める仕組みとして見てみてください。

出典: e-Gov法令検索 民法

返事をしない共有者がいるときに裁判所の決定で進められる範囲

返事をしない共有者がいても、賃貸や修繕などの「管理」は裁判所の決定で進められます。

共有名義の実家が止まる原因は、はっきりした「反対」よりも「返事がない」ことのほうが多いと言われます。書類を送っても押印して返してくれない、電話に出ない、会うと「反対はしていない」と言うが動かない。経験者からは「反対はしていないが書類を返してくれない、が一番困った」という声が多くあります。

この問題には、2023年4月の改正で新しい仕組みが入りました。民法252条2項2号により、他の共有者に相当の期間を定めて賛否を明らかにするよう催告できます。

期間内に返事がない場合、裁判所の決定を得れば、返事をしない共有者を除いた共有者の持分の過半数で、管理に関する事項を決められます。3年以内の賃貸や軽微な修繕などが対象です。

ただし使えるのは「管理」の範囲までで、売却や解体のような「変更」は対象外です。変更について裁判所の決定で進められるのは、共有者が誰か分からない、またはどこにいるか分からない「所在等不明」の場合に限られます(民法251条2項)。

連絡先は分かっているのに返事をしない人がいるとき、実家を売ることや壊すことは、その人の同意を得てはじめて動きます。

所在が分からない共有者の持分を取得したり、第三者に譲渡する権限を得たりする裁判(民法262条の2・262条の3)もありますが、これらはすでに共有名義になった後に使う手段です。詳しくは「共有名義の実家の整理方法」の記事で扱います。

まとめると、共有名義の実家は「持ち続ける」ための決定は過半数や裁判所の決定で動かせますが、「終わらせる」ための売却や解体には、どうしても全員が必要です。

出典: e-Gov法令検索 民法

共有名義の実家に住む人と住まない人に生じる負担

共有名義にすると、費用の分担は持分で決まる一方、お金を払う窓口は代表者1人に集まります。

法律上の分担の割合(持分)と、実際にお金を払う仕組み(代表者1人に請求が届く)は別の仕組みです。そして実家に住む人と住まない人の両方に、義務と権利が同時に発生します。

代表者1人に届く固定資産税の納税通知と連帯納税義務

固定資産税と都市計画税は、共有名義の不動産では共有者全員が全額について連帯して納める義務を負います(地方税法10条の2第1項)。

「自分の持分は3分の1だから3分の1だけ払う」という扱いについて、市区町村は持分ごとの分割納付を受け付けず、全額を1通の納税通知で請求します。

納税通知書は共有名義1つにつき1通で、代表者1人に送られます。川崎市は「納税通知書は共有名義ひとつにつき一通を代表者の方に送付します」と案内し、鹿児島市は「共有名義の土地、家屋の固定資産税を持分ごとに応じて課税することはできません」と明記しています。

代表者を変えたいときは、自治体に「代表者変更申告書」などを届け出ます。代表者の決め方は自治体ごとに扱いが違い、届出がなければ持分の多い人や市内に住む人が選ばれることが多いようです。

共有者の内部では、民法253条1項により、各共有者が持分に応じて管理の費用やその他の負担を負います。代表者が全額を納めたあと、他の共有者に持分分を請求(求償)できます。

ただし、その回収は自力です。市区町村は代表者から全額を受け取れば終わりで、兄弟・姉妹の間の精算は当事者に任されます。

ここで起きるのが「毎年の請求の苦痛」です。「公平に分けたはずなのに、なぜ自分だけが払っているのか」と感じる代表者は多くいます。

経験者からは「固定資産税の通知が届くたびに兄弟・姉妹へ振込をお願いするのが苦痛で、数年で請求をやめた。未回収のまま固定化した」という声が多くあります。相手に悪意がなくても、年に1回数万円の送金を頼み続ける関係は負担になります。

なお、共有名義にしても固定資産税の額そのものは同じです。変わるのは「払う仕組み」が1人に集まることで、税額については「実家を共有名義で相続する税金のデメリット」で扱います。

出典: e-Gov法令検索 地方税法、川崎市 共有不動産の固定資産税の納税通知書についてのFAQ、鹿児島市 共有名義の固定資産税についてのFAQ、e-Gov法令検索 民法

住んでいる共有者が負う持分を超える使用の対価

実家に住む共有者は、他の共有者に対して、自分の持分を超える使用の対価を払う義務を負います(民法249条2項)。

共有者は、持分の割合に応じて共有物の全部を使えます(民法249条1項)。持分3分の1の人が実家に1人で住むこと自体は、法律上認められた使い方です。

ただし2023年4月の改正で249条2項が新設され、「共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う」と明文化されました。改正前はこの義務が条文になく、判例の不当利得の考え方で処理されていました。

具体的には、実家に住む共有者は、家賃相当額のうち他の共有者の持分にあたる金額を払う義務を負い、住まない共有者はそれを請求する権利を持ちます。

家賃相当額が月10万円で、兄が住み、兄・弟・妹が3分の1ずつの共有名義なら、兄は弟と妹にそれぞれ月約3万3千円を払う義務があるという計算です。月10万円は仮の数字で、実際の家賃相当額は近所の似た一戸建ての募集家賃を目安に置き換えてみてください。

「別段の合意」があれば別で、兄弟・姉妹で「兄は無償で住んでよい」と取り決めれば(使用貸借)、対価の支払いは不要になります。

問題は、多くの家でこの取り決めをしないことです。「とりあえず兄が住む」と決めただけで使用料の有無を話していないと、住む側は「自分が管理しているのに後から請求された」、住まない側は「兄だけが実家を使って得をしている」と、双方に「自分だけ損をしている」感覚が残ります。

使用料の請求の手続や時効、訴訟の流れは「共有名義の実家の整理方法」の記事で扱います。ここで知っておきたいのは、共有名義で誰かが住むと決めた時点で、この義務と権利が自動的に発生する仕組みです。

出典: e-Gov法令検索 民法

親と同居していた子に遺産分割まで家賃を請求できない判例

親と同居していた子には、遺産分割が終わるまで原則として家賃相当額を請求できず、「共有名義で確定」した瞬間から請求できるようになります。

「親と同居していた弟に、今すぐ家賃相当額を請求できるのか」と思った人もいるでしょう。ここには知っておきたい判例があります。

最高裁判所の平成8年12月17日判決は、被相続人(亡くなった親)と同居していた相続人について、遺産分割によって建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、その相続人に無償で使用させる合意があったものと推認されると判断しました。

つまり、親が生きている間に許諾を得て同居していた子は、親が亡くなった後も、遺産分割が終わるまでは原則としてそのまま無償で住めるという考え方です。

したがって、住まない側の「同居していた弟に家賃を請求したい」は、遺産分割が終わる前は原則として通らない扱いです。ただしこれは「推認」なので、親と同居していた事情や親が生前に示していた意向など、反対の事情があれば結論は変わります。

ここに、共有名義の判断に関わる逆転があります。遺産分割協議で「共有名義とする」と確定させると、遺産分割は終わったことになります。その瞬間から同居していた子は民法249条2項の対象になり、他の共有者の持分分の使用の対価を払う義務を負います。

つまり「とりあえず共有名義で確定」は、同居していた子の立場を変える場合があります。住む側にとっては確定を急がないほうが有利に見え、住まない側にとっては、確定しない限り家賃相当額を求めにくいという事実でもあります。

どちらの立場でも、「共有名義で確定する」という手続が使用料の有無を切り替えることを知ったうえで判断しておきましょう。

出典: e-Gov法令検索 民法

近くに住む人に偏る修繕・保険・草刈りの費用と手間

保存行為は各共有者が単独でできる一方、費用と手間は実家の近くに住む人に偏ります。

雨漏りの応急修理や草刈りのような保存行為は各共有者が単独でできます(民法252条5項)。しかし費用は持分に応じて分担するのが原則で(民法253条1項)、ここで近くに住む人と遠方の人の間に偏りが生まれます。

まず費用です。修繕が必要になったとき、業者の選定と金額で意見が分かれます。近くの人が見積りを取ると、遠方の人から「高い」「もう1社取ってほしい」と返ってきます。

「見積りが高いと言われているうちに雨漏りが広がり、結局もっと高くなった」と振り返る人もいます。全員の了解を待つ間に劣化が進むのは、空き家の修繕でよく起きることです。

次に保険です。誰も住まなくなった実家の火災保険は、保険会社によっては「住宅」ではなく「一般物件」としての扱いになり、保険料が割高になったり、引き受けの条件が厳しくなったりすることがあります。

契約者は代表者1人、被保険者は共有者全員とするのが通例です。保険料も持分で分担することになりますが、固定資産税と同じく、代表者が払って回収する形になります。

そして手間です。月に1回の見回り、窓を開けて風を通す、郵便物の確認、庭の草刈り、台風の後の点検。これらは誰かがやらなければ家は傷みます。

近くに住む人が引き受けることになりますが、その交通費と時間は「共有物に関する負担」として分担の対象になりにくいのが現実です。経験者からは「遠方の兄弟・姉妹に交通費を伝えたら『頼んでいない』と言われた」という声もあります。頼まれていない負担と言われると、法律上の請求も難しくなります。

維持費の年額は家によって大きく違います。ただ、固定資産税・火災保険・最低限の修繕・光熱費の基本料金・交通費を合わせれば、空き家でも年に十数万円から数十万円の支出が続くと考えておきましょう。

共有名義で誰も主導しない状態が続くと、この支出は「誰も喜ばない支出」になります。

出典: e-Gov法令検索 民法

放置した実家で全員が負う管理不全空家の増税と賠償責任

共有名義で誰も主導せず実家が放置されると、増税・過料・賠償責任の3つが共有者全員に及びます。

1つ目は固定資産税の増税です。2023年12月13日に施行された改正空家法(空家等対策の推進に関する特別措置法)で「管理不全空家等」の区分が新設されました。

そのまま放置すれば特定空家等になるおそれがある空き家に対して、市町村長が指導し、改善されなければ勧告できるようになりました(同法13条1項・2項)。

勧告を受けると、住宅用地の固定資産税を軽くしている特例の対象から外れます(地方税法349条の3の2第1項)。この特例は、200平方メートルまでの小規模住宅用地なら課税標準を6分の1に、それを超える部分は3分の1にする仕組みです。

特例が外れると、計算上は土地の固定資産税が最大で6倍相当になります。倒壊しそうな「特定空家等」になる前の段階で増税されるようになった点が、改正の大きな変化です。

2つ目は過料と費用です。特定空家等について市町村長の命令(空家法22条3項)に違反すると、50万円以下の過料が科されます(同法30条1項)。命令に従わなければ行政代執行で市町村が解体や修繕を行い、その費用は所有者の負担になります(同法22条9項)。

3つ目は第三者への賠償責任です。屋根の瓦が落ちて通行人がけがをした、塀が倒れて隣の車を壊したという場合、土地の工作物の所有者は損害を賠償する責任を負います(民法717条1項)。

共有名義なら、共有者全員がこの所有者です。「自分は遠方に住んでいて管理に関わっていない」という事情があっても、責任は全員に及びます。

危険になった建物を解体すれば責任は消えますが、解体は変更行為で、共有者全員の同意が必要です。放置が進んだ実家ほど、解体の合意も取りにくくなります。

負担を払わない共有者の持分を取得できる民法253条2項

固定資産税や修繕費を1年以内に払わない共有者がいるとき、他の共有者は「相当の償金」を払って、その人の持分を取得できます(民法253条2項)。あまり知られていない、払わない共有者に対する法律上の対抗手段です。

注意点は2つあります。「1年以内」をどこから数えるかの解釈には幅があること、そして無償ではなく償金が必要なことです。相手が任意に応じなければ裁判で争うことになるため、実際に使うなら専門家に相談してみてください。

出典: e-Gov法令検索 空家等対策の推進に関する特別措置法、国土交通省 空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報、e-Gov法令検索 地方税法、総務省 地方税制度 固定資産税、e-Gov法令検索 民法

共有名義の実家で年数が経つほど大きくなるリスク

相続の時点で兄弟・姉妹の仲が良くても、共有名義のリスクは時間とともに大きくなります。

共有者は、持分の売却・差押え・死亡で入れ替わり、意見はそれぞれの家庭の事情で変わるからです。

共有者の1人が同意なしに持分だけを売却できる仕組み

実家全体を売るには全員の同意が必要なのに、持分だけなら1人で売れます(民法206条)。

この非対称が、共有名義の実家に第三者が入ってくる入口です。

実家の持分だけを買う一般の人はまれで、買い手になるのは主に持分の買取を専門にする業者です。持分だけでは実家を自由に使えないため、買取価格は市場価格に持分をかけた額よりかなり低く、一般に市場価格の5割から7割程度と言われています。

それでも、お金が必要な共有者にとっては「今すぐ現金になる」数少ない出口です。

業者が持分を買って共有者になると、次に起きるのは残った共有者への打診です。「あなたの持分も買い取ります」か「全体を売って代金を分けましょう」のどちらかを提案されます。

応じなければ、業者は共有物分割請求(民法256条1項)を裁判所に申し立てられ、現物で分けられず価格賠償も難しいと判断されれば、競売が命じられる可能性があります(民法258条3項)。

ここで変わるのは交渉相手です。昨日まで兄弟・姉妹と話していたのが、明日からは不動産を事業として扱う会社と話すことになります。

業者は法律が認めた権利を事業として使っているので、話は感情ではなく法律と価格の交渉になります。業者が入ってきた後の対応は「共有名義の実家の整理方法」の記事で扱います。

共有名義を選ぶとは、「共有者の誰か1人の判断で、第三者を実家に迎え入れることを許す選択」でもあります。

出典: e-Gov法令検索 民法

共有者の借金で実家の持分が差し押さえられる可能性

共有者の1人に借金があり返済が滞ると、債権者はその人の持分を差し押さえ、競売にかけられます。

持分は財産なので、債権者から見れば回収の対象です。持分を自分の意思で売らなくても、持分が他人の手に移る場面です。

注意したいのは、遺産分割協議が終わる前でも、これが起きることです。相続が開始すると、実家は法定相続分の割合で相続人の共有になっています(民法898条)。債権者は、法定相続分にあたる持分を差し押さえられます。

その後に兄弟・姉妹で「実家は兄が単独で相続する」と協議しても、民法909条ただし書により、遺産分割は第三者の権利を害することができず、先に差押えの登記をした債権者の権利が優先します。兄が単独で取得したはずの実家に、弟の債権者の差押えが残ります。

そして、借金は本人が隠します。「弟に借金があるなら共有名義にしなかった」と思っても、相続の話し合いの時点でそれを知る方法はほとんどないといえます。

経験者の声:弟の借金を、実家の持分の差押えで初めて知った

「母が亡くなって3人で共有名義にしました。2年ほどして、実家の登記簿に見たことのない会社の差押えが入っていると司法書士から連絡があり、弟に借金があることをそのとき初めて知りました。弟は家族にも言えなかったそうです。」(兄弟・姉妹3人で実家を共有名義で相続した方)

共有名義は、兄弟・姉妹それぞれの家計のリスクを実家に持ち込む選択でもあります。相手を疑う必要はなく、「知らないこともある」を前提に判断すると、後の驚きを小さくできます。

出典: e-Gov法令検索 民法

転勤・離婚・病気で崩れる「残す」の一致

「実家は残しておこう」という一致は、兄弟・姉妹それぞれの家庭の事情で変わります。

配偶者の意見、子どもの教育費、住宅の購入、転勤、離婚、病気。どれも相続の時点では予測できない事情です。

経験者からは「5年後に妹の離婚で、持分を現金にしたいと言われた」という声が多くあります。相続で得た財産は、離婚のときの財産分与の対象にならない特有財産(民法762条1項)とされていますが、離婚後の生活のために現金が必要になる事情はそのまま残ります。

1人でも「売りたい」「現金にしたい」に変われば、全員同意は成立しなくなり、実家は「売れないが持ち続ける」状態になります。

もう1つ、年数が経つほど現実味を増すのが、共有者の判断能力の問題です。共有者の1人が認知症などで判断能力を失うと、その人は売買契約を結べなくなります。

売るには家庭裁判所で成年後見人を選んでもらう必要があり、さらにその実家がその人の居住用の不動産であれば、売却に家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。

成年後見人は本人の利益のために動くので、「兄弟・姉妹のために安く売る」「相場より安く兄に譲る」という判断はできない立場です。親の相続で共有名義にした実家が、兄弟・姉妹の誰かが高齢になる頃まで残っていると、この問題に直面します。成年後見の手続そのものは別の記事で扱います。

出典: e-Gov法令検索 民法

相続開始から10年で消える寄与分と特別受益の主張

相続開始から10年を経過すると、原則として寄与分と特別受益を主張できず、法定相続分で分けることになります(民法904条の3)。

「とりあえず」が誰に有利かは、時間で変わります。その区切りが、2023年4月1日に施行された民法904条の3の10年です。

寄与分と特別受益を反映した取り分を「具体的相続分」といいます。10年経過後の遺産分割ではこれを主張できず、例外は10年を経過する前に家庭裁判所へ遺産分割の請求をしていた場合などに限られます。

これは双方向に働きます。親の介護を長く担った子は、寄与分で取り分を増やせる立場を失います。一方、生前に親から住宅資金などの贈与を受けていた子は、特別受益として取り分を減らされる立場を免れます。

どちらの立場の人も、「決めないまま10年」が自分に有利か不利かを知らずに先送りしている家が多くあります。

施行前に開始した相続にも、この規定は適用されます。ただし経過措置があり、相続開始から10年を経過する時か、施行から5年を経過する時(2028年3月31日)のいずれか遅い時まで猶予されます(令和3年法律第24号附則3条)。

たとえば2015年に親が亡くなり、実家が未分割のままの家では、2025年に10年を迎えていても2028年3月31日までは具体的相続分を主張できます。

もう1つ、所在不明の共有者の持分を取得する裁判も、遺産分割をすべき財産については相続開始から10年を経過していないと使えない決まりです(民法262条の2第3項)。10年は、遺産共有のまま置いておける「期限感」として、確定させない選択肢のところでもう一度使います。

出典: e-Gov法令検索 民法、青森地方法務局 民法、不動産登記法等一部改正法及び相続土地国庫帰属法に関するお知らせ

共有者の死亡で配偶者や甥姪に持分が移る次の相続

兄弟・姉妹の誰かが亡くなると、その人の持分は配偶者と子に移り、共有者の顔ぶれが変わります(民法887条・890条・900条)。

共有名義の実家で、避けられない形で起きるリスクが「共有者の死亡」です。

兄が亡くなれば、兄の妻(あなたとは血縁のない人)と兄の子(あなたの甥・姪)が共有者になります。実家への思い入れも、連絡の取りやすさも、兄とは違います。

兄の妻にとっては夫の実家で、甥・姪にとっては「父の実家」です。固定資産税の分担や修繕の相談を持ちかけられても、関わる動機は薄くなります。

これが2世代進むと、共有者は10人を超えることもよくあります。相談例として、相続登記をしないまま代替わりが重なり、共有者が15人になっていたという話も紹介されています。人数が増えるほど、全員同意は現実には取れなくなっていきます。

登記の面でも負担が重なります。相続登記は2024年4月1日から義務になり、相続で所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請しないと、正当な理由がなければ10万円以下の過料の対象です(不動産登記法76条の2第1項・164条1項)。亡くなった共有者の持分についても、その相続人に同じ義務がかかります。

さらに2026年4月1日からは、住所や氏名が変わったときの変更登記も義務になり、変更から2年以内に申請しないと5万円以下の過料の対象です(同法76条の5・164条2項)。施行前の変更も対象で、2028年3月31日までに登記する必要があります。

共有者が増えれば、この義務を負う人も、連絡を取り合う相手も増えていきます。相続が重なった実家の戸籍の集め方や整理の進め方は「相続が重なって相続人が増えた実家の整理」の記事で扱います。

要するに、共有者は選べません。共有名義にするかの判断は「兄弟・姉妹と共有するか」ではなく、「持分を買った業者、差押えをした債権者、兄弟・姉妹の配偶者や甥・姪、誰が入ってきても構わないか」の判断です。

出典: e-Gov法令検索 民法、e-Gov法令検索 不動産登記法、法務省 相続登記の義務化、法務省 住所等変更登記の義務化について

実家を共有名義で相続する税金のデメリット

共有名義にしても相続税の総額・登録免許税・固定資産税は変わらず、変わるのは特例の使える範囲と、後から1人にまとめるときの税金です。

「共有名義にすれば税金が安くなる」という話を聞くことがありますが、これは俗説です。

共有名義でも変わらない相続税の総額・登録免許税・固定資産税

相続税の総額、相続登記の登録免許税、固定資産税の3つは、共有名義でも単独名義でも同じ額です。

相続税は、遺産の総額から基礎控除を引き、法定相続分で取得したと仮定して計算した「相続税の総額」を、実際に取得した財産の割合で各相続人に割り振る仕組みです(相続税法16条・17条)。

実家を1人が取っても3人で共有名義にしても、遺産の総額は同じなので相続税の総額は同じです。変わるのは誰がいくら払うかの配分だけです。

相続登記の登録免許税は、相続による所有権の移転なら不動産の固定資産税評価額の1,000分の4(0.4%)で、共有名義でも単独名義でも同じです(登録免許税法別表第一)。

「登記費用を兄弟・姉妹で平等に分けられる」のは共有名義の利点のように見えますが、総額は同じままです。なお、固定資産税評価額が100万円以下の土地なら、2027年3月31日までの相続登記は登録免許税が免税になる措置があり、これも名義の形に関係なく使えます。

固定資産税は、物件の評価額と面積で決まります。名義が1人でも3人でも税額は同じです。

経験者からは「共有名義にすれば固定資産税が安くなると人から聞いて共有名義にしたが、何も変わらなかった」という声があります。変わるのは「誰に請求が届くか」だけです。

出典: e-Gov法令検索 相続税法、国税庁 タックスアンサーNo.4152 相続税の計算、e-Gov法令検索 登録免許税法、国税庁 タックスアンサーNo.7191 登録免許税の税額表

共有名義で取得すると持分にしか適用されない小規模宅地等の特例

相続税がかかる家庭では、共有名義にすると小規模宅地等の特例の減額が持分ごとに判定され、相続税が増えることがあります。

小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4)は、亡くなった人が住んでいた土地(特定居住用宅地等)について、330平方メートルまで相続税の評価額を80%減額する制度です。実家の土地の評価額が3,000万円なら、600万円として計算できる大きな特例です。

ただし、この特例は土地そのものではなく「取得した人」ごとに要件を判定します。

  • 配偶者が取得すれば無条件で適用されます。
  • 亡くなった人と同居していた子が取得する場合は、申告期限まで住み続け、かつ土地を持ち続けることが要件です。
  • 別居の子でも、いわゆる「家なき子」の要件(亡くなった人に配偶者も同居の相続人もいない、相続前3年以内に自分や配偶者などの持ち家に住んでいない、相続開始時に住んでいる家を過去に所有したことがない、など)をすべて満たせば適用されます。

共有名義で取得すると、この判定は持分ごとに行われます。同居していた長男と、別居で持ち家に住む次男が2分の1ずつ共有名義で取得した場合、80%減額が使えるのは長男の持分の2分の1だけです。

次男の持分部分は減額なしで評価されます。同居の長男が単独で取得していれば、土地全体に80%減額が適用されていたはずです。

「公平に共有名義」が相続税を増やす

相続税がかかる家庭では、同居していた子が実家を単独で取得するのが、相続税の総額を最も小さくする形です。公平さを優先して別居の子と共有名義にすると、別居の子の持分部分だけ減額が消え、相続税の総額が増えます。

経験者からは「同居していた自分の持分の分しか減額されず、公平に分けたことで相続税が増えた」という声があります。

この論点が関わるのは、相続税がかかる家庭に限られます。遺産の総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下の家庭には、そもそも相続税がかからないため、この不利とは無縁です。

なお、配偶者と同居の子の共有名義なら、双方の持分に特例が適用されます。この形は共有名義が成り立つ条件の1つとして、「配偶者と同居の子で一時的に共有名義にする場合の小規模宅地等の特例」で改めて取り上げます。

出典: e-Gov法令検索 租税特別措置法、国税庁 タックスアンサーNo.4124 小規模宅地等の特例、国税庁 タックスアンサーNo.4152 相続税の計算

後から持分を売買して1人にまとめるときの譲渡所得税と不動産取得税

共有名義にした実家を後から兄弟・姉妹の間で売買してまとめると、相続の時点で決めていれば生じなかった税金が、売る側と買う側の両方にかかります。

相続の時点で取得者を決めた場合、かかる税金は登録免許税の0.4%だけです。相続による取得には不動産取得税がかからない決まりです(地方税法73条の7第1号)。

後から持分を売買した場合、売る側には譲渡所得税がかかります。相続で取得した不動産の取得費は、親が買ったときの金額を引き継ぎます(所得税法60条1項)。

親が何十年も前に安く買った実家は、今の価格との差がそのまま譲渡益になります。所有期間が5年を超える長期譲渡なら、所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて20.315%の税率です。

マイホームを売ったときの3,000万円特別控除や、相続した空き家の3,000万円特別控除は、親子や兄弟・姉妹など「特別の関係がある人」への売却には使えない決まりです(租税特別措置法35条・国税庁タックスアンサーNo.3302・No.3306)。

買う側には不動産取得税がかかります。税率は本則4%ですが、住宅と土地の取得については2027年3月31日まで3%です(地方税法附則11条の2)。宅地の課税標準の特例などの軽減もあるため、実額は都道府県税事務所で確認が必要です。

さらに持分の移転登記の登録免許税は、売買による移転なので税率が上がります。土地は2029年3月31日までの登記で1,000分の15(1.5%)、建物は1,000分の20(2%)です。

登録免許税だけで比べると、どれくらい違うかを仮定の数字で見てみましょう。固定資産税評価額は土地1,500万円、建物300万円(合計1,800万円)、兄弟・姉妹は3人で3分の1ずつ、最終的に弟が1人で持つとします。

  • 相続時に弟が単独で取得すると、1,800万円×0.4%=7万2,000円。
  • 共有名義で登記した後、弟が兄2人の持分(合計3分の2)を買うと、共有名義の相続登記7万2,000円に加えて、土地1,500万円×3分の2=1,000万円×1.5%=15万円、建物300万円×3分の2=200万円×2%=4万円。合計26万2,000円。

登録免許税だけで約3.6倍、ここに不動産取得税と、兄2人の譲渡所得税が加わります。経験者からは「相続のときに決めていれば0.4%で済んだと、後から司法書士に言われた」という声が多くあります。

自分の実家で試すときは、固定資産税の納税通知書に付いている課税明細書の評価額を土地と建物に分け、相続の登記は合計に0.4%、売買の登記は土地に1.5%・建物に2%をかければ、同じ比べ方ができます。実際の税額は、登記を申請する法務局か司法書士に確かめてみてください。

もう1つ、見落とされやすいのが住宅ローンです。兄弟・姉妹の間の売買(親族間売買)には、価格の妥当性を確認しにくく、相続税や贈与税の問題が絡むため、金融機関が住宅ローンを出しにくい傾向があります。

買う側は自己資金で用意する前提になります。持分の価格をどう決めるか、代償金をどう工面するかは別の記事で扱います。

出典: e-Gov法令検索 地方税法、e-Gov法令検索 所得税法、国税庁 タックスアンサーNo.3208 長期譲渡所得の税額の計算、国税庁 タックスアンサーNo.3302 マイホームを売ったときの特例、国税庁 タックスアンサーNo.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例、国税庁 タックスアンサーNo.7191 登録免許税の税額表

低い価格での売買や持分放棄で発生する贈与税

「安く売る」「ただで譲る」「持分を放棄する」のどれも、受け取る側に贈与税の問題を招きます。

まず、安く売る場合です。個人から著しく低い価額で財産を譲り受けると、時価と支払った対価との差額は、譲渡した人から贈与により取得したものとみなされます(相続税法7条・国税庁タックスアンサーNo.4423)。

土地や家屋の時価は「通常の取引価額」、つまり実勢価格です。固定資産税評価額は実勢価格の7割程度を目安に付けられているため、固定資産税評価額を基準に兄弟・姉妹の間で売買すると、差額について贈与と指摘される可能性があります。

「著しく低い」の基準は相続税法に数字がなく、所得税法の低額譲渡の基準である時価の2分の1が目安として語られます。ただし、2分の1以上なら安全という意味ではなく、個別の判断になります。

次に、ただで譲る場合です。持分を無償で渡せば、受け取る側に贈与税がかかります(相続税法21条の2)。

そして、持分の放棄です。共有者が持分を放棄すると、その持分は他の共有者に帰属します(民法255条)。これは贈与ではなく法律の規定による移転ですが、税務上は、他の共有者が放棄した人から贈与で取得したものとして扱われます(相続税法基本通達9-12)。

「いらないから放棄する」は、受け取る側に申告の義務を生む行為です。経験者からは「兄が『実家の持分はいらない』と放棄したら、残った共有者に贈与税の申告が必要だと税務署から連絡が来た」という声があります。

贈与税の基礎控除は年110万円なので、実家の持分の価額がこれを超えれば申告と納税が必要になります。

出典: e-Gov法令検索 相続税法、国税庁 タックスアンサーNo.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき、e-Gov法令検索 民法、国税庁 相続税法基本通達 第9条《その他の利益の享受》関係

確定した遺産分割をやり直すと贈与や売買として課税される理由

確定した遺産分割を全員の合意でやり直すことは民法上できますが、税務上は贈与や売買として課税されます。

「共有名義で確定したけれど、後から話し合いでやり直せばいい」と考える人もいます。民法の上では、相続人全員の合意があれば、成立した遺産分割協議を解除して改めて分割協議をすることができます(最高裁平成2年9月27日判決)。

しかし税務上は違います。相続税法基本通達19の2-8は、当初の分割で各相続人に分属した財産を「分割のやり直しとして再配分」した場合、その再配分で取得した財産は遺産分割により取得したものにはならないとしています。

つまり、当初の分割が有効である限り、やり直しによる財産の移動は、相続ではなく贈与(無償なら)や交換・売買(対価があれば)として課税されます。

したがって「共有名義で確定し、後で単独名義に戻す」は、相続としては戻れず、譲渡所得税・不動産取得税・贈与税のいずれかを払ってまとめ直すことになります。

取得者を決められないなら、「確定させない」という選択肢を知っておく必要があります。

出典: 国税庁 相続税法基本通達 第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》関係

取得者を決められないときに実家の共有名義を確定させない選択肢

「とりあえず共有名義」には、何も決めずに置く遺産共有と、協議書で確定させる物権共有の2つがあり、前者は後からやり直せます。

後者は相続としては戻れず、贈与や売買の課税を受けます。そして相続登記や相続税の期限は、確定させなくても守れます。

協議書で共有名義を確定する場合と決めずに置く遺産共有の違い

親が亡くなった瞬間から実家は相続人全員の共有(遺産共有)になっていて、協議書に「共有とする」と書いた瞬間に通常の共有物(物権共有)へ変わります。

民法898条1項は、相続財産は相続人の共有に属すると定めています。2023年4月の改正で、この共有の持分は法定相続分(遺言で指定があれば指定相続分)であることが条文に明記されました(同条2項)。つまり、何もしなくても実家はすでに「共有」の状態です。

一方、遺産分割協議書に「実家は長男・次男・長女が各3分の1の割合で共有とする」と書き、全員が実印を押した瞬間に、遺産分割は終わります。見た目は同じ「3分の1ずつの共有」でも、法律上の性質がまったく違います。

決めずに置く(遺産共有)協議書で確定(物権共有)
解消の手続遺産分割(話し合い・家庭裁判所の調停・審判)共有物分割(話し合い・地方裁判所の訴訟)
寄与分・特別受益10年以内なら反映できる(民法904条の3)反映されない(分割は終わっている)
後から1人の名義にする遺産分割として可能。相続の課税のまま贈与・売買として課税
期限相続登記3年・相続税10か月を、相続人申告登記・法定相続分の登記・分割見込書で守る同じ

確定しなければ、話し合いがまとまらなくても家庭裁判所の遺産分割で、介護した子の寄与分や生前贈与の特別受益を反映した取り分を求めることができます。確定すると、その後の解消は地方裁判所の共有物分割(民法256条)になり、寄与分も特別受益も考慮の外になります。

ここで1つ、確かめておきたいことがあります。専門家から「相続登記の期限があるので、いったん法定相続分で登記しましょう」「申告期限が来るので法定相続分で申告しましょう」と提案されたとき、それが「共有名義で確定する」ことなのか「遺産共有のまま期限を守る手段」なのかを聞いてみてください。

法定相続分での登記や申告は、遺産共有のまま期限を守る手段として使えます。しかし、遺産分割協議書に「共有とする」と書いて登記すると、それは確定です。

経験者の声:協議書に「共有とする」と書いたのが確定だと知らなかった

「兄と妹と3人で、実家は決めきれないから『3人で3分の1ずつの共有とする』と協議書に書いて登記しました。あとで妹が『介護をしていた自分の取り分を増やしてほしい』と言ったとき、司法書士から『遺産分割はもう終わっているので、寄与分の話にはならない』と言われました。『とりあえず』と思って書いた1行が、確定だとは知りませんでした。」(兄弟・姉妹3人で実家を共有名義で相続した方)

出典: e-Gov法令検索 民法

持分を登記せずに相続登記の義務を果たす相続人申告登記

相続人申告登記(不動産登記法76条の3)を使えば、共有名義で登記しなくても相続登記の義務を果たせます。

相続登記は2024年4月1日から義務になりました。相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しないと、正当な理由がなければ10万円以下の過料の対象です(不動産登記法76条の2第1項・164条1項)。2024年4月1日より前に相続した実家も対象で、その期限は2027年3月31日です。

「3年以内に決めなければならないから、とりあえず共有名義で登記する」という判断は、この義務を背景にしています。

相続人申告登記は、登記官に「登記名義人に相続が開始したこと」と「自分がその相続人であること」を申し出る手続です。3年以内の申出なら、相続登記の義務を履行したものとみなされます(同条2項)。

特徴は3つです。

  • 相続人の1人が単独で申し出ることができ、他の相続人の協力も、法定相続人の範囲や相続分の確定も不要です。
  • 登録免許税は0円です。
  • 登記されるのは申出をした人の氏名と住所で、持分は登記されない仕組みです(同条3項、法務省「相続人申告登記について」)。

つまり、相続人申告登記をしても実家は「共有名義」にならず、遺産共有のまま期限だけを守れます。

ただし限界もあります。法務省の案内にあるとおり、相続した不動産を売却したり抵当権を設定したりする場合には、別途相続登記が必要です。「相続人申告登記で済ませたが、売るときにもう一度登記が必要と言われた」という体験談もあります。

また、その後に遺産分割がまとまったときは、分割の日から3年以内に取得者が相続登記を申請する義務があります(同条4項)。相続人申告登記は「決めるまでの時間を、過料の心配なく確保する」ための手段です。申出の手順と必要書類は「相続人申告登記の使い方」の記事で扱います。

出典: e-Gov法令検索 不動産登記法、法務省 相続人申告登記について、法務省 相続登記の義務化

法定相続分で登記しても分割後に1人で申請できる更正登記

法定相続分の割合でいったん相続登記をしても、後で取得者が決まれば、その人が単独で更正登記を申請して単独名義にできます。

法定相続分の相続登記は、登記の手続上、相続人の1人が全員分をまとめて申請することが認められています(保存行為として扱われます)。

ただし、この方法には弱点があります。全員の持分が登記簿に公示されるため、共有者の1人に借金があれば、債権者がその持分を見つけて差し押さえやすくなります。登録免許税0.4%もこの時点でかかります。

一方で、この方法は「確定」とは別です。法定相続分での登記は遺産共有の状態を登記しただけで、遺産分割はまだ終わっていない状態です。

従来は、その後に「実家は長男が取得する」と協議がまとまったとき、長男を登記権利者、他の相続人を登記義務者とする共同申請で持分移転登記をする必要がありました。持分が減る側の登記識別情報(権利証)や印鑑証明書が要るため、非協力な相続人がいると登記が止まる問題がありました。

2023年4月1日以降は、この扱いが変わりました。法定相続分で登記した後に遺産分割が成立した場合、取得者が単独で「遺産分割」を原因とする所有権の更正登記を申請できます(令和5年3月28日法務省民二第538号通達)。

登録免許税は、更正登記として不動産1個につき1,000円です(登録免許税法別表第一)。土地1筆と建物1棟なら2,000円で済み、移転登記の0.4%よりはるかに小さい負担です。経験者からは「全員の印鑑が要ると思っていたが、更正登記で1人でできた」という声があります。

つまり、法定相続分で登記した後に取得者が決まれば、他の相続人の協力がなくても単独名義にでき、税負担も小さく収まります。この点でも、法定相続分の登記は「共有名義で確定」とは違います。相続登記の手順そのものは「実家の相続登記の進め方」の記事で扱います。

出典: e-Gov法令検索 不動産登記法、e-Gov法令検索 登録免許税法

申告期限に間に合わないときの仮申告と3年以内の分割見込書

相続税の申告期限10か月に分割が間に合わなくても、法定相続分で仮に申告し「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えれば、確定せずに特例を取り戻せます。

ここは相続税がかかる家庭向けの話です。遺産の総額が基礎控除以下で相続税がかからない家庭なら、守る期限は相続登記の3年だけです。

相続税の申告と納税の期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条)。「10か月では決められないから、共有名義で確定して申告する」と考える人がいますが、これも確定しなくて済みます。

分割がまとまっていない財産は、各相続人が法定相続分で取得したものとして相続税を計算し、申告と納税をします(相続税法55条)。これは「仮の申告」で、遺産分割を確定させる手続とは別です。

ただしこの時点では、小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減は使えず、分割された財産にしか適用されない仕組みです。

ここで必ず出しておきたいのが「申告期限後3年以内の分割見込書」です。申告書と一緒に税務署へ提出すると、申告期限から3年以内に分割がまとまったとき、分割後に小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4第4項)と配偶者の税額軽減(相続税法19条の2第2項)を適用できます。

払い過ぎた相続税は、分割があったことを知った日の翌日から4か月以内に更正の請求をして取り戻します(相続税法32条1項)。この見込書を出し忘れると、後で分割がまとまっても原則として特例は使えないままです。

経験者からは「期限に間に合わないので共有名義で確定して申告した。分割見込書を出せば3年待てると、後から知った」という声が多くあります。相続税がかかる家庭ほど「期限」に追われて共有名義を確定しがちですが、10か月は決める期限ではなく、仮に納める期限です。

出典: e-Gov法令検索 相続税法、e-Gov法令検索 租税特別措置法、国税庁 タックスアンサーNo.4205 相続税の申告と納税、国税庁 タックスアンサーNo.4208 相続財産が分割されていないときの申告、国税庁 相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続

先送りの期限になる相続開始から10年と預貯金だけの一部分割

確定させずに置ける期限感は相続開始から10年で、その間に預貯金だけを先に分ける一部分割もできます。

相続開始から10年を経過すると、寄与分や特別受益を主張できず、法定相続分で分けることになります(民法904条の3)。施行前に開始した相続は、2028年3月31日までの猶予があります。

10年を超えても遺産分割はできますが、取り分の調整の余地がなくなります。遺産共有のまま置くなら、この10年を期限感として持っておきましょう。

「決めない」は「何もしない」とは違います。実家以外の財産は先に分けられます。民法907条1項は、遺産の「全部又は一部」を協議で分割できると定めています。

預貯金や有価証券のように分けやすい財産だけを先に分割し、実家だけを保留にするのが一部分割です。葬儀費用の精算や、生活費が必要な相続人への配分を済ませたうえで、実家の結論を待てます。

話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることができます(民法907条2項)。調停でもまとまらなければ審判に移ります。

審判では、現物分割、代償分割(1人が取得して他の相続人に金銭を払う)、換価分割(売って代金を分ける)が優先され、共有とする分割は他の方法が取れないときの最後の手段とされています。裁判所の審判でも、共有のまま残す分割は解決の形としては最後に回されるわけです。

取得者を1人にできる見込みがあるなら、代償分割や換価分割の形を検討してみてください。4つの分割方法の比較は「実家の遺産分割方法の比較」、誰が取得するかの決め方は「実家を誰が相続するかの決め方」の記事で扱います。

出典: e-Gov法令検索 民法

実家を共有名義で相続する選択が成り立つ条件と事前の取り決め

共有名義が成り立つのは、全員が売却で一致していて、誰も住まず、相続から3年目の年末までに売る「全員で売るまでの預かり」の形です。

ここまで読むと、専門家が「共有名義は避けたほうがいい」と言う理由が分かるでしょう。それでも成り立つ条件はあり、共有名義で確定するなら書面に残しておく項目もあります。

全員で3年目の年末までに売る場合に有利な空き家特例

相続した実家を全員で売るときは、空き家の3,000万円特別控除が売主ごとに適用されるため、共有名義が有利に働きます。

被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの3,000万円特別控除(租税特別措置法35条3項・国税庁タックスアンサーNo.3306)は、売主である相続人ごとに適用されます。

兄弟・姉妹2人で共有名義にして売れば、控除は合計6,000万円になります。相続人が3人以上の場合は1人あたり2,000万円になりますが(2024年1月1日以後の譲渡)、3人なら合計6,000万円です。

1人が単独で取得して売ると、控除は3,000万円1回だけです。親が昔に安く買った実家で譲渡益が大きい場合、この差は譲渡所得税の有無を分けます。

要件は細かいので、主なものを挙げます。

  • 建物が1981年(昭和56年)5月31日以前に建築されたこと
  • 区分所有建物(マンション)でないこと
  • 相続の直前に親が1人で住んでいたこと(親以外に住んでいた人がいないこと)
  • 相続から売るまでの間、事業・貸付・居住に使っていないこと
  • 売却代金が1億円以下であること(共有者それぞれの売却額を合計して判定)
  • 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
  • 2027年(令和9年)12月31日までの譲渡であること

建物は耐震基準を満たすか解体して売る必要がありますが、2024年1月1日以後の譲渡では、買主が売却の翌年2月15日までに耐震改修か解体をする場合も対象になりました。

「相続から3年目の年末まで」は、長いように見えて短いことがあります。親の遺品の片付け、仏壇や家財の処分、解体の見積りと近隣への挨拶、境界が確定していなければ測量と隣地との立会い。これらで1年以上かかる例はよくあります。

売却前提で共有名義にするなら、登記や申告と並行して、相続直後から売却の準備に動く必要があります。

問題が起きるのは「いつ、どう終わるか」を決めていない共有名義

ここまでに見てきた問題のほとんどは、「いつ、どう終わるか」が決まっていない共有名義で起きます。全員が売ると決めていて、期限があり、誰も住まない共有名義は、空き家特例で税を抑えながら代金を公平に分ける手段として成り立ちます。

経験者からは「3人で共有名義にして売ったら、各2,000万円の控除で譲渡所得税がかからなかった」という声がある一方、「片付けと解体に1年半かかって、3年目の年末に間に合わなかった」という声もあります。出口を決めること、そして出口に向かってすぐ動くことの両方が条件です。

空き家特例の細かい要件や手続は売却の記事で扱います。なお、この特例は兄弟・姉妹の間の持分売買には使えず、第三者に売るときに限られます。

出典: e-Gov法令検索 租税特別措置法、国税庁 タックスアンサーNo.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

配偶者と同居の子で一時的に共有名義にする場合の小規模宅地等の特例

相続税がかかる家庭で、配偶者(残された親)と同居していた子が共有名義にする形は、双方の持分に小規模宅地等の特例が適用されるため成り立ちます。

小規模宅地等の特例は取得者ごとに判定します。配偶者は無条件で、同居の子は申告期限まで住み続けて土地を持ち続ければ、それぞれの持分に80%減額が適用されます(租税特別措置法69条の4)。別居の子を入れた共有名義と違い、減額が欠けずに済みます。

さらに配偶者には、法定相続分か1億6,000万円のいずれか多い金額まで相続税がかからない配偶者の税額軽減(相続税法19条の2)もあります。

この形は、残された親が亡くなる二次相続までの「一時的な共有名義」として成り立ちます。親が住み続ける家に同居の子も住み、二次相続で子が単独名義になる見通しがあるなら、売却の全員同意・住む人の使用料・持分の分散といった共有名義の問題は表に出にくいからです。

経験者からは「母と同居の兄で共有名義にしたら、両方の持分に特例が適用された」という声があります。

ただし、ここに別居の子を加えると、その持分部分の減額が消えます。配偶者と同居の子だけで構成することが条件です。

出典: e-Gov法令検索 租税特別措置法、国税庁 タックスアンサーNo.4124 小規模宅地等の特例、e-Gov法令検索 相続税法、国税庁 タックスアンサーNo.4158 配偶者の税額の軽減

誰かが住む・意見が割れる・2人で2分の1ずつなら成り立たない理由

次の6つの条件のどれかに当たるなら、共有名義は成り立ちにくいと考えておきましょう。

理由はここまでに見てきたものなので、要点だけ添えます。

  1. 誰かが住む、または使う。住む人は他の共有者に使用の対価を払う義務を負い、住む人の承諾がないと貸す・売るの決定ができず、修繕の負担も住む人に偏ります。住む人がいるなら、その人が単独で取得して他の相続人に代償金を払う形で解決できます(「実家の遺産分割方法の比較」の記事へ)。
  2. 残したい人と売りたい人がいる。全員同意が最初から成立せず、売る・壊すのどちらも止まります。
  3. 2人で2分の1ずつ。過半数が成立せず、賃貸や修繕まで全員一致と同じ重さになります。
  4. 共有者に高齢の人、持病のある人、借金のある人、海外在住の人がいる。判断能力・差押え・書類のやり取りの問題が近い将来に起きます。
  5. 売却が3年を超える見通し。空き家特例を外れ、維持費だけが続きます。
  6. 相続税がかかり、同居の子がいる。同居の子が単独で取得すれば土地全体に特例が適用されるので、共有名義は相続税を増やします。

このうち1つでも当たるなら、共有名義ではなく、取得者を1人にする方法か、確定させずに置く方法を選ぶほうが、後の負担を小さくできます。

共有名義にする前に書面で決める売却の期限・費用の精算・居住のルール

共有名義で確定すると決めたなら、遺産分割協議書とは別に、共有者の間の取り決めを書面に残しておきましょう。

口約束の「売るときに話そう」は、話す時期も価格も決めていないのと同じです。経験者からは「『売るときに話そう』と決めただけで期限も価格も決めず、5年経った」という声が多くあります。書面に入れる項目は次の7つです。

  1. 売却の期限と方法。相続から3年目の年末を期限にし、複数の不動産会社から査定を取ること、最低売却価格の決め方、媒介契約を誰が代表して結ぶか(全員の署名か、代表者への委任状か)を決めます。期限を書くことで、「まだ売りたくない」の先送りに歯止めがかかります。
  2. 売却代金と費用の精算。代金は持分で分けること、仲介手数料・測量費・解体費・残置物の処理費を誰が立て替え、いつ精算するか、各人が自分の確定申告をすることを決めます。建物を解体すると住宅用地の特例が外れ、翌年の土地の固定資産税が上がる点も書いておくと、解体の時期を調整できます。
  3. 固定資産税の代表者と口座。誰を代表者にするか、固定資産税用の口座を1つ作って持分で入金するか、精算の時期、払わない人がいたときの扱い(民法253条2項の持分取得を使うか)を決めます。
  4. 居住・使用のルール。誰も住まないと決めるか、住むなら使用料の額と期間(民法249条2項の対価にあたります)を決めます。鍵の管理と見回りの担当も入れます。
  5. 持分を手放す前の打診。持分を売る・贈与する前に、必ず他の共有者に先に打診する約束です。第三者が入るリスクを減らします。
  6. 連絡先の更新と住所変更登記。引っ越しや改姓を他の共有者に知らせること、2026年4月から義務になった住所変更登記(不動産登記法76条の5)を各自が2年以内に済ませることを書きます。
  7. 持分の行き先の遺言。各共有者が自分の持分を誰に相続させるかを遺言で指定します。配偶者や甥・姪への持分の分散を防ぐ手段です。

この書面(協定書)は、不動産会社から見ても意味があります。全員の意思がそろっていて、期限と最低価格と代表者が決まっている売主は、売り出しの準備が早く、買主との契約も安心して進められます。

共有名義の売却で不動産会社が慎重になるのは、全員の意思を確認できないことが原因なので、協定書はその懸念を先に解いておく道具になります。条項の雛形は別の記事で扱います。

出典: e-Gov法令検索 民法、e-Gov法令検索 不動産登記法、法務省 住所等変更登記の義務化について

持分を手放す前の打診を約束しても第三者に対抗できない協定書の限界

協定書は署名した共有者の間だけで効力を持つ契約で、持分を買った業者や差押えをした債権者には対抗できないという限界があります。

協定書は登記できず、効力は署名した共有者の間にとどまります(債権的効力)。たとえば「持分を手放す前に他の共有者へ打診する」と約束していても、共有者の1人がそれを破って持分を業者に売れば、売買そのものは有効です(民法206条)。

約束を破った共有者に損害賠償を求めることはできても、業者に「協定書があるから無効だ」とは言えない立場です。差押えをした債権者や、相続で新しく入ってきた共有者にも同じです。経験者からは「協定書を作っていたが、弟が持分を業者に売り、業者には効力がないと言われた」という声があります。

一方で、「共有名義にしたら永久に抜けられない」も誤りです。各共有者はいつでも共有物の分割を請求できます(民法256条1項)。

話し合いがまとまらなければ裁判所に分割を請求でき、裁判所は現物分割、1人が取得して他の共有者に金銭を払う方法(価格賠償)、どちらも難しければ競売を命じます(民法258条2項・3項)。

ただし裁判所の分割は時間がかかり、競売になれば価格は市場で売るより低くなりがちです。思い通りの価格と時期で抜けられるとは限らず、出口を取り決めで先に決めておけば、こうした遠回りを避けられます。

なお、5年以内の期間なら「分割しない」特約を結ぶこともできますが(民法256条1項ただし書)、売却前提の共有名義には不要です。

そして、条件が崩れる兆しが見えたとき、つまり誰かが実家に住み始めた、売却に迷いが出た、連絡が滞り始めたときは、協定書の期限を待たずに、単独名義にまとめるか売却に動くことをおすすめします。

共有名義は「成り立つ条件」が崩れた瞬間から、ここまでに見てきた問題が始まります。すでに共有名義になった実家を単独名義にする手続や売却の進め方は「共有名義の実家の整理方法」の記事で扱います。

出典: e-Gov法令検索 民法

まとめ:実家の共有名義は、全員で売る出口を決めた場合に限って確定する

共有名義で確定した実家は、売る・壊す・建て替えるのすべてに共有者全員の同意が要り、後から1人にまとめるには贈与や売買の税金がかかります。協議書に「共有とする」と書いた1行で遺産分割は終わり、相続としてはやり直せなくなるため、成り立つのは全員が売ると決めて相続から3年目の年末までに売る形に限られます。

取得者を決められないなら、次の一歩は協議書に「共有とする」と書かずに期限を守ることです。相続登記の3年は相続人申告登記で、相続税の10か月は法定相続分の仮申告と分割見込書で守れます。これを飛ばして期限に追われたまま共有名義で確定すると、介護した子の寄与分も、分割後に取り戻せたはずの小規模宅地等の特例も失います。

専門家から「いったん法定相続分で登記しましょう」と言われたら、それが確定なのか、遺産共有のまま期限を守る手段なのかを確かめてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、実家を共有名義で相続するかの判断も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。