親名義の実家を兄弟・姉妹と分けきれないまま「3年」や「2027年3月31日」が近づいてきたとき、相続人申告登記は、戸籍1〜2通と様式1枚、費用は実費だけで、自分の分の相続登記の義務を済ませられる手続きです。
ただし、この登記で得られるのは過料の対象から外れる効果だけで、実家を売る・担保に入れる話は一歩も進まず、分割後3年・10年・空き家の控除といった期限も止まらずに動き続けます。
自分の家が使うべき状況か、戸籍は何通でどこへ出すか、出した後に何が残るかまで、「とりあえず安心」で終わらせない使い方をまとめました。
相続人申告登記の効果と限界(相続登記との違い)
相続人申告登記は「義務を果たした」という効果だけを得る手続きで、不動産の権利はそのままです。
ここを押さえておかないと、「申告登記をしたのだから実家の話は一区切り」という誤解が家族の中で広がります。誤解を防ぐ要点は、申告登記が「誰の」「どの義務」を果たすかと、登記簿に何が載るかの2つです。
相続人申告登記で果たせる義務と効果が及ぶ範囲
申告登記で果たせるのは「知った日から3年以内」の相続登記の義務で、効果は申し出た本人の分に限られます。
相続登記の義務の中身は、「自分のために相続が始まったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内」に所有権移転の登記を申請することです(不動産登記法76条の2第1項)。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象になります(同法164条1項)。
相続人申告登記は、この3年の間に「登記上の所有者に相続が始まったこと」と「自分がその相続人であること」を法務局に申し出ると、相続登記の申請義務を履行したものとみなす制度です(同法76条の3第1項・2項)。つまり、申し出た時点で過料の対象から外れます。
2024年4月1日より前に始まった相続で、まだ登記をしていない実家も対象です。その場合の期限は2027年3月31日で、実家が親名義だと知ったのが2024年4月以降なら、知った日から3年になります(法務省)。
効果の範囲で大事なのは、「申し出た相続人についてだけ」義務を果たしたことになる点です(法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」)。あなたが申し出ても、兄弟・姉妹の義務は各自の「知った日から3年」のまま残ります。
家族全員の義務を済ませるには、全員分の申出が要ります。1人が代理でまとめて出す方法と、連名で1枚にする方法があり、やり方は「兄弟・姉妹の申出をまとめて行う方法」で扱います。
もう一つ、申出の前に遺産分割が成立していた場合、その分割で取得した分の義務は申告登記の効果の対象外です(同法76条の3第2項のかっこ書き)。分割が済んでいる人の扱いは「相続人申告登記が不要または使えない状況」で改めて触れます。
出典: e-Gov法令検索 不動産登記法、法務省 相続登記の申請義務化について、法務省 相続登記の申請義務化に関するQ&A
登記簿に付記される項目
申し出ると、登記官が職権で、登記簿の所有権の欄(甲区)に申出人の氏名と住所を付記します(不動産登記法76条の3第3項)。
法務省の手引きにある記録例では、親の名義の下に「付記1号 相続人申告」として、申出の年月日、相続開始年月日、「○○の相続人として申出があった者」という表示と、申出人の住所・氏名が載ります(法務省「相続人申告登記手続のご案内」)。
載らないものを知っておくほうが役に立ちます。持分(取り分の割合)は記載の対象外で、所有者の欄は親のままです。
複数の相続人がいても、載るのは申し出た人の名前だけです。「相続によって権利を取得したこと」までは公示されない、というのが法務局の説明です。
登記簿は登記事項証明書として誰でも取れるので、申出人の氏名と住所は第三者にも見える状態になります。引っ越したときの直し方は「引っ越し・改姓したときの変更の申出」で扱います。
その後に正式な相続登記がされると、親名義の登記が効力を失うため、この付記は現在の権利関係を示す証明書(現在事項証明書)に載らなくなります。付記を職権で消すのではなく、証明書に表示されなくなるという扱いです(法務省通達)。
出典: 法務省 相続人申告登記手続のご案内(登記手続ハンドブック・PDF)、法務省 相続人申告登記関係の民事局長通達(PDF)、仙台法務局 相続人申告登記(PDF)
相続人申告登記ではできない行為
実家を売る、担保に入れるといった権利を動かす行為には、申告登記とは別に相続登記が要ります(法務省)。
申告登記は権利関係を公示する登記とは違うため、相続した不動産を売却する場合や抵当権を設定する場合は、相続登記を済ませてからになります。言い換えると、申告登記は「自分の相続分を第三者に主張する」手段にはなりません。
申告登記のままでは進められない行為を、実家の場面に置き換えると次のとおりです。
- 実家の売却(買主へ名義を移す登記ができるのは相続登記の後)
- 解体後の土地の売却(建物を壊しても、土地の名義は親のまま)
- 建て替えやリフォームのローンで、実家を担保に入れること
不動産会社に「いくらで売れそうか」と査定を頼むこと自体は、名義と関係なくできます。ただ、売買契約から引き渡し(決済)までには買主へ名義を移す登記が必要で、その前段として相続登記を済ませるのが通常です。
売る予定がある人は、申告登記を出しても売却の準備は一歩も進まない、と考えておきましょう。選び方は「実家を売る予定がある場合の選び方」で扱います。
出典: 法務省 相続人申告登記について
相続人申告登記では果たせない義務と手続き
申告登記で済むのは「知った日から3年」の義務だけで、分割後の相続登記と税の手続きは別に動きます。
その後に遺産分割が成立すると、分割の日から3年以内に、分割の内容どおりの相続登記を申請する義務が別に生じます(不動産登記法76条の3第4項)。これは申告登記の効果の外にあり、怠れば過料の対象です(同法164条1項)。手続きは「遺産分割が成立したときの相続登記の期限と手続き」で扱います。
税の手続きも別に動きます。固定資産税は、登記簿上の所有者が亡くなっているときは、1月1日時点で「現にその不動産を所有している者」に課されます(地方税法343条2項)。
相続登記が終わるまでは相続人全員がこの立場になり、たとえば船橋市は「相続人全員が現所有者となり、連帯して納税義務を負う」と案内しています。市区町村は条例で、現所有者と知った日の翌日から3か月を目安に「現所有者申告書」の提出を求めることができ(同法384条の3)、この申告は相続登記とも申告登記とも別の手続きです。
相続税がかかる世帯では、申告と納税の期限(亡くなったことを知った日の翌日から10か月)も申告登記とは無関係に進みます(国税庁)。中身は「相続税がかかる場合の特例の期限」で扱います。
出典: e-Gov法令検索 不動産登記法、e-Gov法令検索 地方税法、船橋市 所有者が亡くなられた場合、国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
相続登記(法定相続分・遺産分割)との違い
比べる相手は、分割前でも1人で申請できる「法定相続分での相続登記」と、分割後にする「遺産分割による相続登記」の2つです。
| 相続人申告登記 | 法定相続分での相続登記 | 遺産分割による相続登記 | |
|---|---|---|---|
| 目的 | 義務の履行だけ | 権利の公示(共有名義) | 権利の公示(最終形) |
| 登記簿の記載 | 親名義のまま、申出人を付記 | 相続人全員が持分つきで所有者に | 取得した人が所有者に |
| 確定が必要なこと | 自分が相続人の一人であること | 相続人の範囲と法定相続分 | 分割の内容(協議書など) |
| 戸籍の量 | 自分が相続人だと分かる分だけ | 親の出生から死亡までの全部 | 親の出生から死亡までの全部 |
| 登録免許税 | かからない | 固定資産税評価額の0.4% | 固定資産税評価額の0.4% |
| できる行為 | なし | 共有者全員でなら売却可 | 取得者が単独で売却可 |
| 分割後の扱い | 分割の日から3年以内に相続登記 | 持分が動けば分割の日から3年以内に登記 | 完結 |
※登録免許税の0.4%は「相続」による所有権移転の税率です(国税庁)。相続による土地の登記は、2027年3月31日までの申請に限り、不動産の価額が100万円以下の土地と、相続した人が登記をしないまま亡くなった場合の登記について免税措置があります(法務省)。
金額の感覚を持っておくと、「申告登記は無料で軽い」が何と比べて軽いのかが分かります。固定資産税評価額1,000万円の実家なら、相続登記の登録免許税は4万円です。
評価額100万円以下の地方の土地なら、土地の分は2027年3月までは0円です。費用の差はこの程度なので、申告登記の軽さの中身は、「戸籍を全部集めなくてよい」ことと「分割を待たずに1人で出せる」ことにあります。
出典: 国税庁 No.7191 登録免許税の税額表、法務省 相続登記の申請義務化について
相続人申告登記を使うか決める判断基準
決め手は「期限までに遺産分割と相続登記が終わる見込みがあるか」と「実家をどうしたいか」の2つです。
申告登記が役に立つのは、遺産分割がまだで、しかも期限までに終わりそうにない場合に限られます。自分の家はどれに当たるでしょうか。
判断の起点になる期限
起点は、自分が相続人になったこと、かつ、その不動産を相続で取得したことを知った日で、そこから3年が期限です。
2024年4月1日より前に始まった相続は、2027年3月31日が期限になります(法務省)。多くの家では「親が亡くなった日」と「実家が親名義だと知った日」がほぼ同じなので、親の死亡日から3年と2027年3月31日の早いほうと考えておくと、実際の期限とほぼ重なります。
判断は「期限までに、遺産分割の成立と、その内容での相続登記の両方が終わるか」で行います。分割が決まっても、登記にはそこから書類集めが要ります。
親の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍や印鑑証明書、協議書の作成と全員の押印を考えると、分割が決まってから登記の申請までに1〜3か月ほどかかるのが一般的な目安です。期限まで半年を切った時点で分割の目処が立っていなければ、申告登記を先に出しておくと、過料の心配を外したうえで話し合いを続けられます。
申告登記そのものに要する日数は「費用と所要期間」で示します。
相続人申告登記がおすすめの状況
遺産分割が期限までに終わらない理由には型があり、どれか1つでも当てはまる家には申告登記がおすすめです。
- 相続人どうしが対立している(売りたい人と残したい人、介護した人とそうでない人)
- 相続人が多く、戸籍集めや相続人の把握に時間がかかる(親の兄弟姉妹やその子まで相続人になる場合など)
- 連絡が取れない、所在が分からない相続人がいる
- 未成年の相続人がいる、認知症などで判断能力が落ちた相続人がいて、家庭裁判所での後見などの手続きが先に要る
- 遺言の有効性や、何が遺産に当たるのかで争いがある
法務省が「正当な理由」の例として挙げる事情(相続人が極めて多数で戸籍集めに時間を要する、遺言の有効性や遺産の範囲が争われている、など)と重なりますが、違いがあります。正当な理由は過料の手続きの中で後から考慮される事情であるのに対し、申告登記は出した時点で義務が済みます(違いは「法定相続分での相続登記・正当な理由との使い分け」で扱います)。
申告登記が持つ一番の強みは、相続人の中に1人でも協力しない人がいても、自分の分だけで完了することです。遺産分割は全員の合意があって初めて成立しますが、申告登記は本人が自分の戸籍を添えて出すだけで済みます。
相続人申告登記が不要または使えない状況
次の4つのどれかに当たる人には、申告登記は不要か、出しても空振りになります。
- 期限内に遺産分割と相続登記が終わる見込みがある。申告登記を出しても、分割後にもう一度登記が要るので二度手間になります。
- 遺産分割がすでに成立している。分割で取得した分の登記義務は「分割の日から3年」のものに変わっており、申告登記の効果の対象外です(不動産登記法76条の3第2項・4項)。この場合は分割の内容での相続登記を進めることになります。
- 遺言で実家を取得する人が決まっている。遺言による相続登記は取得する人が1人で申請でき、戸籍も遺産分割のときより少なくて済むのが通常です。申告登記を挟むのは遠回りです。
- 相続放棄をする予定である。放棄をした人は初めから相続人でなかったものとみなされ(民法939条)、相続登記の義務からも外れます。
2の「分割済み」は意外と見落とされます。親が亡くなった直後に兄弟・姉妹で「実家は長男が」と協議書を作って押印したまま、登記だけしていない家もあります。
出典: e-Gov法令検索 不動産登記法、e-Gov法令検索 民法、法務省 相続人申告登記について
実家を売る予定がある場合の選び方
実家を売ると決めているなら、申告登記は過料を避けるための保険にとどめ、力を入れる先は遺産分割の成立と相続登記です。
申告登記のままでは売却が進まないことは「相続人申告登記ではできない行為」のとおりです。査定を頼んで相場を把握するところまでは申告登記のままでも進められるので、「査定は今、分割の話は並行して、登記は分割が決まり次第」という順番になります。
自分が住み続ける予定なら、話は変わります。申告登記で義務を済ませておけば、分割はじっくり話し合えます。
ただし、住み続けるための建て替えやリフォームで実家を担保にしたローンは組めないままなので、大きな工事の予定がある人は、分割を急ぐ理由がもう一つ増えると考えておきましょう。
どちらの場合も、申告登記を出したことを家族にどう伝えるかで、その後の話し合いの進みが変わります。「登記はやっておいた」とだけ伝えると、「じゃあ実家の件は終わりだね」と受け取られ、分割の話がそこで止まった例があります。売るには別に登記が要ることまで添えて伝えておくと、後から説明し直す手間を省けます。
法定相続分での相続登記・正当な理由との使い分け
申告登記以外にも、分割が決まる前に取れる手が2つありますが、どちらにも代償があります。
1つ目は、法定相続分での相続登記です。相続人全員が法律上の割合(配偶者2分の1・子が残りを等分、など)で共有名義にする形の登記で、相続人の1人が全員分を申請できます。権利の登記なので、全員でなら売却もできます。
代償は4つあります。
- 親の出生から死亡までの戸籍が全部要る
- 登録免許税が評価額の0.4%かかる
- 各相続人の持分が公示されるため、兄弟・姉妹の誰かに借金があれば、その債権者がその人の持分を差し押さえる余地が生まれる
- 分割で持分が動けば登記をもう一度して、費用も二度かかる
申告登記は持分を載せないので、この露出を避けられます。
2つ目は、何もせず「正当な理由」で過料を免れる道です。法務省が挙げる正当な理由は、相続人が極めて多数で戸籍集めに時間がかかる、遺言の有効性や遺産の範囲が争われている、本人が重病、DVで避難中、経済的に困窮して費用を出せない、の5つの類型です。
ただし、正当な理由に当たるかを法務局が事前に認めてくれる仕組みはなく、判断は過料の手続きの中で後から行われます。登記官が義務違反を職務上知ったときに催告が来て、それでも登記をしなければ地方裁判所に通知され、過料を決めるのは裁判所です(法務省)。無料で、出した時点で義務が済む申告登記のほうが、結果の読めない道より手堅い選択です。
現実的な組み合わせは、「まず申告登記で義務を済ませる、分割が進んだら遺産分割による相続登記へ」です。法定相続分での登記は、分割が長期化して共有名義のまま使う(たとえば全員で貸す)と決めた家におすすめできます。
出典: 法務省 相続登記の申請義務化について、国税庁 No.7191 登録免許税の税額表
相続人申告登記を自分で申し出る手順・必要書類・費用
自分で申し出る手続きは、「戸籍を1〜2通取る、様式1枚を書く、法務局に出す」で完結します。
登録免許税はかからず、費用は戸籍の実費だけです。つまずきやすいのは、自分のケースで戸籍が何通要るか、申出書に何を書いてどこへ出すか、兄弟・姉妹の分をどうまとめるか、提出手段をどう選ぶかの4点です。
申出の流れ4ステップと提出手段
法務省の手引きでは、申出は戸籍の取得、申出書の作成、提出、完了通知の受け取りの4ステップで進みます(法務省「相続人申告登記手続のご案内」)。
- 戸籍の証明書の取得(自分が相続人であることの証明)
- 申出書の作成(法務省の様式をダウンロードして記入)
- 申出書の提出(法務局へ)
- 登記完了(法務局から職権登記完了通知の交付)
提出の手段は、法務局の窓口への持参、郵送、オンラインの3つです。郵送のときは封筒の表に「相続人申出書在中」と書いて書留で送ります。
オンラインは、ソフトをインストールしなくてもWebブラウザ上で申出書を作って送れる「かんたん登記・供託申請」が使えます。ステップ2から4までがブラウザ上で済み、電子署名は不要です。
押印も、紙・オンラインのどちらでも不要です(法務省)。初めて使うときは申請者情報の登録(IDとパスワードの取得)が要ります。戸籍の原本は紙なので、オンラインで送った後に郵送か持参で法務局へ届ける扱いになる点は、画面の案内に従いましょう。
遠方の実家でも、戸籍を最寄りの役所で取り(取り方は「ケース別の必要書類と添付を省く方法」)、郵送かオンラインで出せば、一度も法務局へ行かずに終えられます。書き方に不安があれば、法務局の登記手続案内(予約制)で申出書を見てもらえます。
出した後に補正(直し)が必要なときは、申出書に書いた電話番号に法務局から連絡が来ます。平日の日中に出られる番号を書いておきましょう。
完了通知は、窓口で受け取るか郵送で受け取るかを選べます。郵送なら、宛名を書いた返信用封筒と書留分の切手を申出書と一緒に出します。返信用封筒を入れ忘れると通知は届かず、登記事項証明書を取って付記が入っているのを確かめて済ませた人もいます。
窓口受け取りで3か月を過ぎると通知書は廃棄されますが、登記事項証明書を取れば登記が入っていることは確認できます(法務省)。
出典: 法務省 相続人申告登記手続のご案内(登記手続ハンドブック・PDF)、法務省 相続人申告登記について
ケース別の必要書類と添付を省く方法
基本の書類は、申出書、自分が相続人であることを示す戸籍、住民票の写し、代理で出す場合の委任状の4つです。
戸籍は、相続登記のように親の出生から死亡までを全部集める必要はなく、「自分が相続人の一人だと分かる分」で済みます(法務省)。法務省がケース別に示している戸籍は次のとおりです(法務省「相続人申告登記について」)。
| ケース | 申出人 | 必要な戸籍 |
|---|---|---|
| ア | 子 | 親の死亡日が分かる戸籍/自分が親の子だと分かる戸籍/親の死亡日以後に発行された自分の戸籍 |
| イ | 配偶者 | 亡くなった人の死亡日と、自分が配偶者だと分かる戸籍 |
| ウ | 配偶者と子(一括) | アとイを合わせたもの。1通の申出書でまとめて出せる |
| エ | 親 | 自分が亡くなった人の親で、亡くなった人に子がいないことが分かる戸籍/死亡日以後に発行された自分の戸籍 |
| オ | 兄弟姉妹 | 自分が兄弟姉妹で、亡くなった人に子がいないことが分かる戸籍/亡くなった人より先に父母・祖父母が亡くなっていることが分かる戸籍/死亡日以後に発行された自分の戸籍 |
| カ | 数次相続の子(祖父母名義で、親も亡くなっている) | 祖父母の死亡日が分かる戸籍/親が祖父母の子だと分かる戸籍/親の死亡日が分かる戸籍/自分が親の子だと分かる戸籍/親の死亡日以後に発行された自分の戸籍 |
| キ | 一次・二次の両方で相続人に当たる子(父名義で、母も亡くなっている) | カと同じ考え方で5種類 |
同じ内容を1通で満たせる場合は、その1通で済みます。たとえば子のケースで、自分が未婚のまま親の戸籍に残っていれば、親の死亡の記載がある戸籍1通に「親の死亡日」「自分が子であること」「死亡日以後の自分の戸籍」の3つが収まり、1通で済むことがあります。
どの戸籍が要るか判断がつかない場合は、親の出生から死亡までの全戸籍と自分の現在の戸籍を出しても差し支えない、と法務省は案内しています。
添付を省く方法は3つあります。
- 住民票の省略(ふりがなと生年月日を申出書に書く)
- 戸籍の省略(法定相続情報一覧図の番号か、戸籍電子証明書提供用識別符号を書く)
- 戸籍の取り方の工夫(広域交付で最寄りの役所から取る)
住民票は、申出書に住民票どおりの氏名のふりがなと生年月日を書けば、法務局が住基ネットで住所を確認するので添付が不要になります。国内に住所がない人はこの省略を使えず、日本国籍なら在外公館の在留証明書などが要ります(法務省)。
戸籍は、すでに法定相続情報一覧図を作ってあれば、その写しを出すか、一覧図の右上の法定相続情報番号を申出書に書くだけで添付に代えられます。戸籍電子証明書提供用識別符号を取得していれば、その符号の記載でも代えられます(法務省)。ただし、一覧図を新しく作るには親の出生から死亡までの全戸籍が要るので(法務局)、申告登記のために一覧図から作るのは本末転倒です。
戸籍の取り方は、2024年3月1日に始まった広域交付が使えます。本人・配偶者・直系(親・子・祖父母・孫)の戸籍は、本籍地と違う最寄りの市区町村窓口でまとめて請求でき、子が親の戸籍を取るケースはこの範囲に入ります。窓口に本人が行き、顔写真つきの身分証を示す必要があり、郵送や代理人による請求と、兄弟姉妹の戸籍は対象外です(法務省)。
追加で要る場合が1つあります。親の本籍と、登記簿に書かれた親の住所が違うときは、戸籍上の親と登記上の所有者が同じ人だと示すために、親の住民票の除票の写しか、本籍の記載がある戸籍の附票の写しを添えます(法務省)。
実家の登記簿上の住所が、親が最後に住んでいた住所と違う(昔の住所のまま)例もあるので、登記事項証明書を取ったときに住所欄を確かめておきましょう。
出典: 法務省 相続人申告登記について、法務省 戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)、法務局 法定相続情報証明制度の具体的な手続について
申出書の記載項目と申出先の法務局
申出書は法務省の様式(Word・PDF)をダウンロードし、記載例を写せば書けます。
書く項目は次のとおりです(法務省「相続人申告登記手続のご案内」)。
- 申出の目的(「相続人申告」と書く)
- 亡くなった人の氏名と、相続開始年月日(戸籍に記載された死亡日)
- 申出人の住所・氏名(住民票どおりに正確に。押印は不要)
- 氏名のふりがなと生年月日(書けば住民票の添付を省略できる)
- 連絡先の電話番号(補正の連絡用。平日の日中に出られるもの)
- 添付情報(「申出人が登記名義人の相続人であることを証する情報」。住民票を添える場合は「住所証明情報」も)
- 申出の年月日と申出先の法務局
- 不動産の表示(登記事項証明書のとおりに。不動産番号〔13桁〕を書けば、土地の所在・地番、建物の所在・家屋番号は省略できる)
不動産の特定で迷ったら、毎年届く固定資産税の課税明細書で地番と家屋番号を確かめ、法務局で登記事項証明書を取るか登記情報提供サービスで不動産番号を調べられます。実家の前の私道に持分を持っている場合、その私道は別の不動産なので、申出書に加える必要があります。
課税明細書に載らない非課税の私道もあるので、親名義の不動産に漏れがないか気になるときは、2026年2月2日に始まった所有不動産記録証明制度で親名義の不動産を一覧にして確かめられます(法務省)。登記簿のない未登記建物は、申告登記の対象外です。
申出先は、申出人や親の住所地ではなく、不動産の所在地を管轄する法務局(登記所)です。実家の土地と、別の市にある山林のように、管轄が分かれる不動産があるなら、それぞれの法務局へ別々に申し出ることになります。管轄は法務局のホームページの「管轄のご案内」で調べられます。
戸籍などの原本は、申出のときに還付を請求すればあとで返してもらえます。コピーに「原本に相違ありません」と書いて記名したものを一緒に出す方法のほか、相続関係説明図を出せばコピーなしで戸籍と住民票の還付を受けられます(法務省)。
出典: 法務省 相続人申告登記手続のご案内(登記手続ハンドブック・PDF)、法務省 相続登記の申請義務化について
兄弟・姉妹の申出をまとめて行う方法
兄弟・姉妹の分も済ませるには全員分の申出が要り、やり方は代理申出と連名申出の2つです。
申告登記の効果が申し出た人にしか及ばないことは、「相続人申告登記で果たせる義務と効果が及ぶ範囲」のとおりです。
1つ目の代理申出は、あなたが他の相続人の代理人になってまとめて出す方法で、代理される人ごとに委任状が要ります。2つ目の連名申出は、相続人が連名で1枚の申出書を作って出す方法で、委任状は不要です(法務省)。法務省の記載例は、各ケースに「単独申出」と「連名申出」の2種類が用意されています。
遠くに住む兄弟・姉妹と委任状をやり取りするより、申出書を作って連名で名前を書いてもらうほうが手間は少なくて済みます。押印が不要なので、郵送で回して署名してもらうだけで完成します。
連名の場合、戸籍は申出人それぞれが相続人だと分かる分を添えます。子どうしの連名なら、親の死亡の記載がある戸籍は共通で、各人の現在の戸籍を足す形です。
兄弟・姉妹が非協力的で連名も委任状も望めないときは、自分の分だけ出しておきましょう。その人の義務は未履行のまま残りますが、それは本人の問題であって、あなたの申告登記の効果はそのまま保たれます。
出典: 法務省 相続人申告登記について
費用と所要期間
登録免許税はかからず(法務省)、実費は戸籍の手数料と郵送料だけです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 戸籍謄本(全部事項証明書) | 1通450円 |
| 除籍謄本・改製原戸籍謄本 | 1通750円 |
| 住民票の写し | 自治体により1通300円前後から(ふりがなと生年月日を書けば不要) |
| 郵送料 | 書留の送料と、完了通知を郵送で受け取るための返信用の書留分 |
戸籍の手数料は国の政令で標準額が決まっており、全国ほぼ同じです。子のケースで戸籍が1〜2通なら、全部で2,000円に収まることが多い計算です。
司法書士に頼む場合の報酬は、1件1万5,000円から3万円程度が相場とされています(法律事務所の解説による目安)。相続登記の依頼と比べれば安いですが、申告登記は記載例を写せば自分で書ける手続きなので、費用をかけない選択が現実的です。
頼む価値があるのは、兄弟姉妹が相続人になるケース(オ)や数次相続(カ・キ)のように戸籍の組み立てが複雑な場合です。
所要期間は、書類の収集と作成に1〜2週間、法務局の処理は混み具合しだいという目安です。2027年3月31日が期限の人は、年度末に申出が集中して処理が遅れることが見込まれるので、期限の数か月前には出しておくのがおすすめです。
出典: 法務省 相続人申告登記について、e-Gov法令検索 地方公共団体の手数料の標準に関する政令
相続人申告登記の後に残る義務と手続き
申告登記が止めるのは「最初の3年」だけで、出した後に起きる出来事ごとに次の手続きがあります。
中でも「遺産分割が成立した日から3年以内の相続登記」は過料つきの新しい義務で、これを知らないと申告登記の効果を誤解したまま時間がたちます。ほかに、引っ越し・改姓、相続放棄、申出人の死亡という3つの出来事に対応する申出があります。
遺産分割が成立したときの相続登記の期限と手続き
申告登記を出した人が、その後の遺産分割で実家を取得したときは、分割の日から3年以内に相続登記(所有権移転の登記)を申請する義務を負います(不動産登記法76条の3第4項)。
起算日は分割の日であって、申告登記を出した日ではありません。協議なら協議が成立した日(通常は協議書に相続人全員が署名・押印をそろえた日)、家庭裁判所の調停なら成立した日、審判なら確定した日です。
義務を負うのは、分割で不動産を取得した相続人だけです。取得しなかった兄弟・姉妹は、その不動産についての義務から外れます。実家だけを先に分けて預金は後回しにする一部分割でも、実家については分割の日から3年が始まると考えておきましょう。
手続きと費用は、申告登記を経ていない普通の相続登記と同じです。遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書、親の出生から死亡までの戸籍、取得する人の戸籍と住民票をそろえ、登録免許税は評価額の0.4%(免税措置の対象なら0円)です。
申告登記で省けた戸籍や住民票は、ここでは省けず、全部そろえることになります。申告登記は分割後の登記を軽くする制度ではなく、あくまで期限の義務を済ませる制度だと割り切っておくと、分割後の書類集めで慌てずに済みます。登記が入れば、申告登記の付記は現在事項証明書に出なくなります。
法定相続分での登記をしていた人が分割で持分を増やした場合も、分割の日から3年という同じ期限です(同法76条の2第2項)。遺言が後から見つかって遺言で取得する人が決まった場合は、取得者が遺言による相続登記を申請します。
ここで一番多い失敗は、分割がまとまった安心感で登記を忘れることです。分割の話し合いは何年もかかるのに、登記の期限は分割の日から静かに動き出します。
防ぎ方は単純で、協議書に押印したその日に、相続登記の予定(誰が、いつまでに、司法書士に頼むか自分でやるか)を決めてしまうことです。あわせて、兄弟・姉妹に「申告登記で全部終わった」と思わせないよう、分割後に登記が残ると最初から伝えておきましょう。
出典: e-Gov法令検索 不動産登記法、法務省 相続登記の申請義務化について
引っ越し・改姓したときの変更の申出
申告登記の完了後に申出人の住所や氏名が変わったときは、「相続人申告事項の変更」の申出で登記簿の記載を直せます(法務省)。
法務省には住所変更と氏名変更の記載例があり、申出の目的に「○番付記○号名義人住所変更」、原因に住民票上の住所移転の日、変更後の住所を書きます。住民票どおりの氏名のふりがなと生年月日を書けば、住所の変更を証する書面(住民票の写しや戸籍の附票)の添付は省略できます。
この申出はオンラインでもできますが、申告登記のときに使えた「かんたん登記・供託申請」(Webブラウザ)は対象外なので、紙で出すのが簡単です。
2026年4月1日からは、所有権の登記名義人の住所・氏名の変更登記も義務になりました。変更の日から2年以内、怠ると5万円以下の過料で、施行前の変更分は2028年3月31日までです(不動産登記法76条の5・164条2項、法務局)。
この義務の対象は「所有権の登記名義人」で、申告登記で付記された申告相続人は登記名義人とは別の立場なので、条文の読み方としては直接の対象から外れると考えられます。ただし、申告相続人を対象外と明記した法務局の案内は確認できなかったので、ここでは「変更を申し出ることができる」にとどめ、義務の有無は法務局に確かめてみてください。
変更の申出をするかの考え方は、「分割後の相続登記までどのくらい間が空くか」です。分割が近く、相続登記をすれば付記が現在事項証明書から消えるなら、そのときにまとめて整理する選択もあります。
分割の目処がなく何年も申告登記のままになりそうなら、登記簿に古い住所が残り続けることになるので、直しておくほうが後の照合の手間を省けます。
出典: 法務省 相続人申告登記について、法務省 相続人申告登記の住所変更の申出書記載例(PDF)、名古屋法務局 住所・名前の変更登記に関する手続のご案内【令和8年4月から義務化】、e-Gov法令検索 不動産登記法
自分や他の相続人が相続放棄したときの義務
相続放棄をした人は、その相続については初めから相続人でなかったものとみなされ(民法939条)、相続登記の義務からも外れます。
これから放棄する予定の人は、申告登記そのものが不要です(「相続人申告登記が不要または使えない状況」)。
申告登記を出した後に相続放棄をした場合は、相続人でなくなったことを理由に、申告登記の抹消を申し出ることができます(法務省通達・不動産登記規則158条の28)。抹消を申し出られるのは付記された本人だけで、放棄したことを証する書面(家庭裁判所が出す相続放棄申述受理証明書など)を添えます。
様式や添付書類の詳しい扱いは、管轄の法務局で確かめておきましょう。放置しても過料の対象にはならないものの、相続人でない人の名前が登記簿に残り続けると、後の相続登記や売却のときに説明の手間が増えます。
他の相続人が放棄したときは、残る相続人の立場が変わります。たとえば子の全員が放棄すると親の兄弟姉妹が相続人になるように、放棄によって新たに相続人になった人は、自分が相続人になったことと不動産を取得したことを知った日から3年が期限です(不動産登記法76条の2第1項の読み方)。
もともと相続人だった人は、取り分が増えるだけで期限が改めて始まるとは限らないので、自分の期限がどうなるかは法務局で確かめておきましょう。放棄の手続き自体は別のテーマなので、ここでは期限の話に絞ります。
出典: e-Gov法令検索 民法、法務省 相続人申告登記関係の民事局長通達(PDF)
申出人が亡くなったときの再申出
申告登記を出した人が亡くなっても、その申出の効果は相続人に引き継がれません。
たとえば父名義の実家について母が申告登記を出し、その後に母が亡くなった場合、子は「父の相続人」としての自分の分と、「母の相続人」としての分の両方で、改めて自分の名前で申し出る必要があります。母の申出の翌年に母が亡くなり、父の死亡から母の死亡までの戸籍をそろえて子が自分の名前で出し直した、という例もあります。
法務省は、このような数次相続のケースを想定した記載例(ケースカ・キ)を用意しています。添える戸籍は、名義人(父)の死亡日が分かる戸籍、中間の相続人(母)が名義人の相続人だと分かる戸籍、母の死亡日が分かる戸籍、自分が母の子だと分かる戸籍、母の死亡日以後に発行された自分の戸籍、の5種類が基本です(法務省)。
父名義のまま二代にわたって登記が止まっている実家は、このケースに当たります。
出典: 法務省 相続人申告登記について
相続人申告登記をしても止まらない期限
申告登記で止まるのは、過料の対象になる「知った日から3年」だけです。
実家に関わるほかの期限は、申告登記を出した日でも遺産分割の日でもなく、相続開始の日(戸籍上の死亡日)から数えて動き続けます。しかも、税の特例は「分割→相続登記→売却」を期限内に終えて初めて使えるので、申告登記でしのいでいる期間は、そのまま猶予を消費している期間になります。
特別受益・寄与分を主張できなくなる10年の期限
相続開始から10年を過ぎた後の遺産分割では、特別受益と寄与分による取り分の調整が原則としてできなくなり、法定相続分で分けることになります(民法904条の3)。
遺産分割では、生前に親から家の購入資金などの援助を受けた相続人の取り分を減らしたり(特別受益)、親の介護や家業への貢献で財産の維持に寄与した相続人の取り分を増やしたり(寄与分)して、法定相続分を調整できます。10年の期限は、この調整を求める権利を失う期限です。
不利になるのは、実家で親を介護してきた人と、兄弟・姉妹の誰かが生前に大きな援助を受けていた家です。逆に、援助を受けた側は10年たてば取り分が守られるので、話し合いを先延ばしにする動機が生まれます。「申告登記で義務は済んだから急がなくていい」と家族が受け取ると、この10年を静かに越えます。
例外は3つです。10年が過ぎる前に相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求(調停・審判)をしたとき、10年の満了前6か月以内に請求できないやむを得ない事由があって、その事由がなくなってから6か月以内に請求したとき、そして相続人全員が合意したときです(民法904条の3、法務省)。つまり、話し合いがまとまらないまま10年に近づいたら、止める手は家庭裁判所への申立てだけです。
2023年3月31日以前に始まった相続にもこのルールは適用され、その場合の期限は「相続開始から10年」と「2028年3月31日(改正法の施行から5年)」の遅いほうです(民法附則)。たとえば2015年に親が亡くなった家は、10年は2025年に過ぎていますが2028年3月31日までは調整つきの分割ができます。2020年に亡くなった家は2030年です。
出典: e-Gov法令検索 民法、法務省 遺産分割に関する民法改正の概要(PDF)
空き家の3,000万円特別控除の期限
親が一人で住んでいた実家を相続して売ると、一定の要件で譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります(被相続人の居住用財産を売ったときの特例。国税庁)。
主な要件は次のとおりです。
- 昭和56年5月31日以前に建てられた家屋であること
- マンションのような区分所有建物でないこと
- 相続の直前に親が一人で住んでいたこと(老人ホームなどに入っていた場合も一定の要件で可)
- 売却代金が1億円以下であること
- 売るときに耐震基準を満たすか、家屋を取り壊して土地だけを売ること(2024年以降の売却は、売った翌年の2月15日までに耐震改修か取り壊しを済ませる形でも可)
市区町村で「被相続人居住用家屋等確認書」を取り、確定申告で適用を受けます。
期限は2つあります。相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること、そして現行法の適用期間が2027年12月31日までであることです(租税特別措置法35条3項、国税庁)。
| 親が亡くなった時期 | 売却の期限 |
|---|---|
| 2023年中 | 2026年12月31日 |
| 2024年以降 | 2027年12月31日(現行法の適用期限) |
※2024年以降の相続は、3年経過日の属する年末が2027年以降になるため、現行法では2027年12月31日が上限になります。適用期間はこれまで延長を重ねてきましたが、延長の有無は執筆時点では未定です。
申告登記のままでは売却に進めないので、この期限までに「遺産分割の成立→相続登記→売買契約と引き渡し」を全部終える必要があります。兄弟・姉妹と揉めて3年目の年末を越えると、控除は使えなくなります。
控除額は相続人ごとなので、共有名義のまま全員で売れば各自が控除を受けられますが、2024年1月1日以後の売却で相続人が3人以上いると、一人あたり2,000万円に減ります(国税庁)。
出典: 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例、e-Gov法令検索 租税特別措置法、国土交通省 空き家の3,000万円特別控除の案内(PDF)
相続税がかかる場合の特例の期限
相続税がかかる世帯では、取得費加算の特例と未分割で申告する場合の特例に、申告登記とは別の期限があります。
基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の範囲に遺産が収まる家は、読み飛ばして大丈夫です。
1つ目は取得費加算の特例です。相続税を納めた人が、相続税の申告期限の翌日から3年以内(相続開始から3年10か月以内)に相続した不動産を売ると、納めた相続税の一部を取得費に足して譲渡所得を減らせます(国税庁)。
これも、申告登記のままでは売れないので、分割と相続登記を先に終える必要があります。空き家の3,000万円控除とこの特例は同じ不動産に重ねて使えず(租税特別措置法35条3項)、どちらが有利かは売却益の額で変わるので、税理士に試算してもらう領域です。
2つ目は、未分割のまま申告期限を迎える場合の扱いです。相続税の申告と納税の期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月で、分割の遅れとは関係なく固定です。
その場合は、法定相続分で取得したものとして、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使えないまま申告・納税します(国税庁)。申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えて出しておき、申告期限から3年以内に分割が成立すれば、分割を知った日の翌日から4か月以内の更正の請求でこれらの特例を適用して税金を取り戻せます。
3年以内に分割できない事情(訴訟中など)があるときは、3年を経過する日の翌日から2か月以内に、やむを得ない事由がある旨の承認申請書を税務署に出す必要があります(国税庁)。
ここでも、申告登記が止めるのは登記の期限だけです。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、実家の相続税を大きく左右する特例です。申告登記で登記の義務を済ませたあとも、相続税の側では「申告期限から3年」という別の期限が進んでいることを、税理士と共有しておきましょう。
出典: 国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例、国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告、国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告(Q&A)
まとめ:相続人申告登記で済むのは最初の3年の義務だけで、売却と分割後の期限は別に動く
相続人申告登記が済ませるのは、申し出た本人の「知った日から3年」の義務だけです。実家の名義は親のままで、売却や担保には別に相続登記が要り、兄弟・姉妹の義務は各自に残ります。
期限まで半年を切って分割の目処がなければ、自分の戸籍を1〜2通取り、法務省の様式に記入して、実家の所在地を管轄する法務局へ出しておきましょう。これを飛ばして期限を越えると、10万円以下の過料の対象になったまま話し合いを続けることになります。
出した後は、遺産分割が成立した日から3年の相続登記と、相続開始から10年の特別受益・寄与分、空き家の3,000万円控除の年末の期限を、自分の家の日付に置き換えて確かめておきましょう。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、相続人申告登記の効果と限界、自分で申し出る手順、出した後も残る期限も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。

