祖父母など昔の名義のままの実家への対応|登記を1件にまとめ免税も使う手順

親が亡くなって実家の登記簿を取ってみたら、名義が祖父や曾祖父のままだった。

住んでいる間は困らずに済んだ家が、売る・壊す・貸すとなった途端に、古い名義で手続きが止まります。

名義人と相続人の確かめ方から、家督相続や中間省略登記で申請を1件にまとめる方法、2027年3月までの免税、司法書士に渡す資料まで、登記簿の読み方から順に整理します。

祖父母名義のままの実家で起きる問題と放置の代償

住んでいる間は困らずに済んだ実家も、売る・壊す・貸すと動いた瞬間に古い名義が壁になります。放っておいた年数の分だけ、相続人の数と失われる書類が増えていきます。

  • 売却・解体・担保・補助金が相続人全員の同意まで止まる
  • 相続人が代ごとに増えて協議が難しくなる
  • 固定資産税と空き家の管理責任は名義に関係なく相続人に来る
  • 祖父の代の相続も相続登記の義務の対象になる

売却・解体・担保・補助金が相続人全員の同意まで止まる

売る・壊す・貸す・担保に入れる・補助金に申し込む、のどれかをした瞬間に、名義人である祖父の相続人全員の同意が要ります。

住み続けるだけなら、名義が祖父のままでも困る場面はほとんどありません。親の代が放っておけたのはそのためです。ところが、売却・解体・賃貸・担保・空き家バンクや解体補助金の申し込みは、どれも祖父の相続人全員の同意がそろって初めて進みます。

不動産会社は、売主が決まらない実家の売却契約を組めない立場です。登記簿を取られて「名義が祖父のままなので、相続人全員の同意がないと売れません」と言われ、その日は話が終わった、という声があります。

これは意地悪ではなく、売主が決まらないと契約が組めないという当然の対応です。買取業者が「名義もまとめて引き受ける」と言う場合は、その手間の分だけ価格が下がります。

建物を壊すときも同じです。建物の名義が祖父なら、建物の滅失登記(建物が無くなった届け)を出すのは相続人で、壊した日から1か月以内に申請する義務があります(不動産登記法第57条)。解体の補助金も、所有者である相続人の同意が要る場合がほとんどです。

見落としやすいのが、親の遺言です。父の遺言に「実家は長男に」と書いてあっても、実家は祖父の遺産で、父はその相続人の一人という立場です。

父の遺言で決められるのは父の持分だけです。父の遺言だけでは、祖父名義の実家を長男名義にする登記は受け付けてもらえず、祖父の相続人全員での話し合いに戻ります。親が「自分の家」と思い込んでいた家で起きます。

経験者の声:親の遺言があっても祖父名義は動かせなかった

「父の遺言で実家は自分がもらうことになっていた。ところが登記簿は祖父の名前で、司法書士に『この遺言では登記できず、祖父の相続人全員で話し合う必要があります』と言われた」(父の遺言を頼りに祖父名義の実家を引き継ごうとした方)

出典: e-Gov法令検索 不動産登記法

相続人が代ごとに増えて協議が難しくなる

相続人は、代が変わるたびに掛け算で増えます。

祖父の子が5人いて、それぞれに子が2〜3人いれば、孫の代で10数人。そこに配偶者が加わればさらに増えます。曾祖父名義の土地で相続人が35人になり、連絡先の分からない人もいて、処分するまでに21年かかった例が報じられています(週刊現代の記事)。

人数が増えるのと同時に、顔ぶれも変わります。相続人が亡くなるたびに、その配偶者、つまり血のつながらない他家の人が協議に加わります。「親戚だから話せば分かる」が通じにくい相手が増えていきます。

高齢の相続人が認知症になると、実印を押せなくなります。その場合は家庭裁判所で成年後見人を選んでもらう必要があり、費用と時間がかかります。

後見人は本人の財産を守る立場なので、原則として本人の法定相続分を確保した分け方だけを受け入れます。「おじは実家は要らないと言っていた」という話は、後見人がつくと通らなくなります。おじやおばが元気なうちに動く理由はここにあります。

時間がたつほど失われる書類もあります。古い戸籍は保存期間が過ぎると廃棄され、権利証は見つかりにくくなり、登記簿の住所をつなぐ附票も消えていきます。つまり、書類は今が一番そろえやすい状態です。

最後に、分かれ道を一つ挙げます。自分の代で名義を直すことと、子の代に回すことの2つです。子の代に回せば相続人はさらに増え、子は会ったこともない親戚のハンコを集めることになります。今すぐ売る予定がなくても、相続人が少ないうちに名義を直しておくと、手間も費用も小さく済みます。

固定資産税と空き家の管理責任は名義に関係なく相続人に来る

固定資産税は、名義人が亡くなっていれば「現に所有している者」、つまり相続人に課されます(地方税法第343条第2項)。

市区町村に「相続人代表者指定届」や「現所有者申告書」を出して、通知の宛先になる代表者を決めるのが一般的な手続きです(秋田市・佐倉市の案内)。

誤解しやすい点が二つあります。一つは、この届が納税のための手続きで、登記とは別だという点です。佐倉市の案内にも、届を出しても登記簿上の所有権は移らない旨が書かれています。届を出しても相続登記の義務は残ります。払う義務だけ先に来て、売る権利はまだ無い、という状態です。

もう一つは、納税通知の宛名が登記簿の名義人とは限らない点です。宛名は代表者です。「固定資産税の通知が父宛に来ていたので父の家だと思っていた。登記簿を見たら祖父の名前だった」という声は、この誤解から生まれます。名義は登記簿の甲区で分かります。

管理が悪い空き家の責任も、名義に関係なく相続人に来ます。放置して市区町村から「管理不全空家」や「特定空家」として指導を受け、それに従わず勧告を受けると、固定資産税の住宅用地の特例(200㎡以下の部分は課税標準が6分の1)が外れます。土地の税額が大きく上がります(国土交通省の空家法の解説、地方税法第349条の3の2)。

出典: e-Gov法令検索 地方税法、秋田市 よくある質問「父名義の固定資産税はどのようになるのでしょうか」、佐倉市 固定資産現所有者について、国土交通省 空き家対策 特設サイト「空き家のこと、知っていますか」

祖父の代の相続も相続登記の義務の対象になる

2024年4月1日から義務になった相続登記の申請は、施行日より前に始まった祖父の代の相続にも及びます(法務省)。

「祖父の代の話だから自分には関係ない」とはならず、義務の対象です。

ただし、焦らずに済む仕組みもあります。期限の数え方には経過措置があり、過料(10万円以下)の前には法務局からの催告があります。間に合わないときに義務だけ先に果たす手段(相続人申告登記)もあります。数え方と手段は、費用と期限の章で詳しく書きます。

法務局が先に動くこともあります。長い間相続登記がされていない土地について、法務局が戸籍で法定相続人を調べ、登記簿に「長期相続登記等未了土地」である旨を付記し、相続人の一人に通知を送る事業が行われています。

この通知には費用の振込を頼むような記載が一切なく、詐欺とは別物です(名古屋法務局・岡山地方法務局)。むしろ、法務局が相続人の調査を終えた合図で、その調査結果をもらえば戸籍集めが大幅に省けます。「詐欺だと思って放っておいたら、あとで本物と分かった」という声もあります。

最後に、少し気持ちが軽くなる事実があります。国土交通省の調査では、所有者が分からなくなった土地の原因の3分の2近くが相続登記の未了です。昔の名義のまま残った実家は全国どこにでもある、ありふれた状態です。

ここで書き出しておくものは1行です。「自分が今しようとしている行為(売る・壊す・貸す・手放す)と、それが名義のどこで止まるか」を書き出しておきましょう。

出典: 法務省 相続登記の申請義務化について、名古屋法務局 長期相続登記等未了土地解消作業、岡山地方法務局 「長期間相続登記等がされていないことの通知」を受け取られた皆様へ、長崎地方法務局 相続登記と空き家対策に関する講演会資料

登記簿で名義人と相続の発生順を確かめる方法

最初に確かめるのは、登記簿に書かれた名義人と、その人から今までに何代の相続が重なったかです。この2つで、集める戸籍の範囲と、登記を1件にまとめられるかが決まります。

  • 登記事項証明書の甲区で名義人と取得原因を読む
  • 土地と建物・筆ごと・持分ごとに名義人を書き出す
  • 名義人と相続人の死亡日を並べて相続の発生順を整理する
  • 長期相続登記等未了土地の付記登記と法定相続人情報を確かめる
  • 権利証・古い遺産分割協議書・遺言を実家で探す

登記事項証明書の甲区で名義人と取得原因を読む

名義は課税明細の宛名ではなく、登記簿(登記事項証明書)の甲区で分かります。

取り方は姉妹記事「実家の名義の調べ方」で、ここでは読む場所に絞ります。

登記事項証明書には、表題部(土地や建物の説明)と、権利部の甲区(所有者)・乙区(抵当権など)があります。甲区には所有者の移り変わりが順位番号つきで並び、最後の順位番号に書かれている人が登記上の名義人です。

名義人の右側にある「原因」欄で、その人がどうやって土地を手に入れたかが分かります。「相続」や「家督相続」なら、祖父自身も相続で取得した土地です。この場合でも、調べる起点は原則として最後の名義人(祖父)で、曾祖父まで遡らずに済みます。「売買」なら祖父が買った土地で、やはり祖父が起点です。

甲区の住所欄も見ておきましょう。「○○村大字○○」のような旧表記で、今の住所とつながらないことがよくあります。この住所が、あとで戸籍とつながるかを左右します。

名前が旧字体や異体字(﨑・髙など)で戸籍と違うこともあります。同一人物として扱えますが、申請のときに補足が要ります。

乙区には、明治・大正の抵当権や質権が残っていることがあります(休眠担保権と呼ばれます)。売却の前に別の抹消手続きが要るので、ここでは有無を見ておけば十分です。

登記簿は誰でも取れます。「祖父名義のままだ」という事実を紙で見せられるので、兄弟・姉妹に最初に見せる材料になります。

土地と建物・筆ごと・持分ごとに名義人を書き出す

土地と建物は別々の登記簿なので、両方を取って筆ごと・持分ごとに名義人を書き出しておきましょう。

建物は父名義に直してあっても土地は祖父名義、またはその逆があります。「建物は父名義に直してあったので安心していたら、土地だけ祖父名義のままだった」という声もあります。片方だけ見て安心せず、両方を見ておきましょう。

建物には登記簿が無い(未登記)こともあります。固定資産税の課税明細に家屋番号が無ければ、未登記の可能性があります。

登記簿があっても表題部だけで権利部が無く、表題部所有者が祖父になっていることもあります。解体や売却のときに別の手続きになるので、把握だけしておきましょう。

土地が複数の筆(宅地・畑・山林・私道の持分)に分かれていることも多く、筆ごとに名義人の代が違うことがあります。「宅地は祖父名義だったが、名寄帳を取ったら畑と山林は曾祖父名義で、関係者が倍になった」という声があります。

名寄帳(その市区町村にある同じ人名義の不動産の一覧)で全部の筆を出し、筆ごとに名義人と持分を書き出しておくと漏れを防げます(名寄帳の取り方は姉妹記事へ)。

名義が共有名義(祖父と祖父の兄弟など)なら、持分ごとに相続関係が別になります。甲区の「持分」の記載を見てみてください。

名義人と相続人の死亡日を並べて相続の発生順を整理する

次に、死亡日を1枚の時系列にしておきましょう。

名義人(祖父)の死亡日 → 祖父の相続人のうち亡くなった人(父・おじなど)の死亡日 → さらにその相続人の死亡日、という順です。戸籍を集める前でも、家族の記憶や位牌・過去帳で下書きは作れます。

この時系列で、二つのことが見えます。一つは、名義人の後に相続人が亡くなった「数次相続」か、名義人より先に子が亡くなった「代襲相続」かの区別です。もう一つは、何代の相続が重なっているかです。これで、集める戸籍の範囲と、1件の登記にまとめられるか(中間省略登記)が決まります。

死亡日そのものも大事です。「昭和22年5月2日以前」「昭和22年5月3日〜12月31日」「昭和23年以降」「昭和55年12月31日以前」のどれに当たるかで、相続人の範囲や持分が変わります。判定の仕方は、相続人の範囲の章にある家督相続の項で触れます。

長期相続登記等未了土地の付記登記と法定相続人情報を確かめる

甲区に「長期相続登記等未了土地」の付記があれば、法務局が作った相続人の一覧図「法定相続人情報」を無料でもらえます。

この付記は、法務局が既にその土地の登記名義人の戸籍を集めて法定相続人を探索し、生存が確認できた相続人の一覧図を作ったしるしです(岡山地方法務局)。対象になるのは、名義人の死亡後、長期間(目安として30年以上)相続登記がされていない土地です。

古い名義の実家を引き継ぐ人にとって、最も得をする情報です。付記登記に書かれている作成番号を控えて、法務局に「法定相続人情報を出力した書面の提供依頼書」を出すと、無料で一覧図がもらえます。

全国どこの法務局(支局・出張所を含む)でも依頼できます。依頼できるのはその一覧図に載っている相続人本人で、運転免許証やマイナンバーカードなどの本人確認書類が要ります(岡山地方法務局)。

法務局からの通知は、相続人のうち1人(不動産の近くに住む人や名義人と親等の近い人など)にだけ届きます(岡山地方法務局)。自分に届いていなくても、登記簿を見れば付記の有無は分かります。兄弟・姉妹やおじに「法務局から手紙が来なかったか」と聞いてみる価値もあります。

経験者の声:法務局が先に相続人を調べてくれていた

「登記簿に法務局の付記があったので問い合わせたら、相続人の一覧を無料で出してもらえた。自分で集める戸籍がほとんど要らなくなり、司法書士に頼む範囲も小さくなった」(曾祖父名義の畑を引き継いだ方)

法定相続人情報の番号を申請書に書くと、登記申請の戸籍添付の代わりに使える扱いが各法務局で案内されています。ただし、法務局が探索した時点の情報なので、その後に亡くなった人や生まれた人がいれば、その分の戸籍は別に要ります。

出典: 岡山地方法務局 「長期間相続登記等がされていないことの通知」を受け取られた皆様へ、静岡地方法務局 長期相続登記等未了土地解消作業により判明した法定相続人への通知について

権利証・古い遺産分割協議書・遺言を実家で探す

最後に、実家の仏壇・金庫・親の書類箱を探してみてください。

探すものは次のとおりです。

  • 登記済権利証(登記済証)。祖父が土地を取得したときに法務局からもらった書類で、「登記済」の朱印があります
  • 祖父が亡くなったときの遺産分割協議書
  • 遺言
  • 相続関係説明図
  • 司法書士の領収書や書簡(過去に途中まで進めた形跡)
  • 親が銀行の手続きで作った法定相続情報一覧図

権利証があると、登記簿の住所と戸籍がつながらないときに、上申書などの書類を省けます。古い協議書に、おじ・おばの実印と印鑑証明書が付いていれば、当時の合意をそのまま使える場合があります。

「父の書類箱に祖父の相続の協議書が入っていて、おじ・おばの実印が押してあった。それがそのまま使えた」という声もあります。使えるかは中間省略登記の条件に関わるので、司法書士に現物を見せて確かめてみてください。

ここまでで2枚そろいます。①不動産の一覧(筆・建物ごとの名義人と持分)、②相続の発生順の時系列(名義人と相続人の死亡日)です。この2枚が、戸籍の範囲を決める土台と、司法書士に渡す資料になります。

相続人の範囲の決まり方|代ごとに違う法律と戸籍のさかのぼり方

法務局の法定相続人情報が手に入っていれば、戸籍集めは大半を省けます。

自分で集める場合の分かれ目は、何代遡るか、どの代にどの法律が当たるか、取れないときどうするか、の3つです。戸籍の請求手順の一般論は姉妹記事「相続人確認に必要な戸籍の集め方」へ譲ります。

戸籍の範囲は最後の名義人と亡くなった相続人の出生から死亡まで

起点は登記簿の最後の名義人で、曾祖父まで遡るのは名義が曾祖父のときに限られます。

必要な戸籍の範囲は次のとおりです。

  • 名義人(祖父)の出生から死亡までの戸籍
  • 名義人の後に亡くなった相続人(父など。数次相続の中間の人)それぞれの出生から死亡までの戸籍
  • 名義人より先に亡くなった子(代襲相続の元になる人)の出生から死亡までの戸籍
  • 生きている相続人全員の現在の戸籍

相続人が兄弟・姉妹になる代があれば、その被相続人の両親の出生から死亡までの戸籍も要ります(兄弟・姉妹が他にいないことを示すため)。

見落としやすい相続人も挙げておきます。古い戸籍で「庶子」「私生子」と書かれた子(非嫡出子)、養子(婿養子を含む)、前妻の子、認知した子はいずれも相続人です。

非嫡出子の相続分は、2013年9月5日以後に始まった相続では嫡出子と同じです(法務省)。それより前の相続では2分の1だった時期があるので、死亡日ごとに確かめておきましょう。

出典: 法務省 嫡出でない子の相続分に関する民法改正

昭和22年5月2日以前の死亡は家督相続で相続人が1人になる

古い名義で最初に見る分かれ道が、家督相続です。

明治31年7月16日から昭和22年5月2日までの間に「戸主」が亡くなった(または隠居した)場合、旧民法の家督相続が起きます。家督相続では、家督相続人1人が家の財産を全部引き継ぎます。その代の遺産分割協議も、おじ・おばの印鑑も不要です。

祖父がこの時期に亡くなった戸主なら、関係者は一気に減ります(現行法令の検索では旧民法の原文に当たれないため、司法書士の解説で確認)。

見分け方は、名義人の除籍にある「家督相続」の記載の有無です。家督相続人は長男とは限らず、戸籍の「家督相続届出」の記載で誰が引き継いだかが分かります。

注意点が三つあります。一つ目、昭和22年5月3日から12月31日までの死亡は、日本国憲法の施行に合わせた応急措置法の期間で、家督相続は起きず、今に近い共同相続になります。

二つ目、戸主でない人(戸主の妻など)の死亡は、旧民法の時代でも遺産相続(共同相続)です。三つ目、家督相続の届出がされていない場合は扱いが分かれるので、専門家に確かめてみてください。

昭和23年以降でも、昭和55年12月31日以前の死亡では配偶者の法定相続分が3分の1(子が合わせて3分の2)など、持分の割合が今と違います(昭和56年1月1日施行の改正前)。協議に加わる人は変わらず、法定相続分で計算するときの数字だけが変わります。協議で1人が単独取得すると決めれば、この持分計算は不要です。

経験者の声:除籍の「家督相続」で関係者が一気に減った

「祖父の除籍に『家督相続』とあり、父が一人で引き継いでいた。おじ・おばの印鑑は要らず、関係者は自分の兄弟・姉妹だけで済んだ。先に除籍を見ておいてよかった」(戦前に亡くなった祖父名義の実家を引き継いだ方)

祖父母の戸籍は広域交付で取れるがおじ・いとこは本籍地へ請求

祖父母・曾祖父母の戸籍は最寄りの市区町村でまとめて取れ、おじ・おば・いとこの戸籍は本籍地への郵送請求になります。

2024年3月1日から、戸籍証明書の広域交付が始まりました。本人・配偶者・直系尊属(父母・祖父母など)・直系卑属(子・孫など)の戸籍・除籍は、本籍地でなくても最寄りの市区町村の窓口でまとめて請求できます(法務省)。祖父母・曾祖父母は自分から見て直系なので、昔の戸籍のために遠方の本籍地へ行かずに済みます。

条件もあります。請求できる本人が窓口に行く必要があり、郵送や代理人による請求は対象外です。運転免許証やマイナンバーカードなど顔写真付きの本人確認書類が要ります。

コンピュータ化されていない戸籍も対象外です(法務省のリーフレット)。古い除籍の一部はこれに当たることがあり、その場合は本籍地への請求になります。

一方、おじ・おば・いとこ(傍系)の戸籍は広域交付の対象外で、リーフレットにも兄弟・姉妹の戸籍は請求できない旨が書かれています。本籍地の役所へ郵送で出す第三者請求になります。

「自分が法定相続人で、遺産相続の手続きのために必要」という権利行使が理由なら委任状は不要で、名義人と自分のつながりを示す戸籍のコピーを添える形です(自治体の案内で確認)。必要書類は役所ごとに違うので、事前に電話で聞いておくと二度手間を防げます。

取り寄せの順番は、広域交付で直系を一度に取り、そこで判明した傍系の本籍地へ同時に郵送請求、です。傍系は時間がかかるので先に出しておきましょう。「祖父の戸籍は最寄りで取れたが、おじの戸籍は郵送で2週間かかった。先に出せばよかった」と振り返る人もいます。

古い戸籍は手書き・旧字・縦書きで、「分家」「廃家」「入夫婚姻」などの語が出てきます。読めない箇所があるのは普通で、読み取りだけを役所の窓口や司法書士に確かめる方法もあります。戸籍の収集だけを行政書士や司法書士に頼むこともできます。

出典: 法務省 戸籍証明書等の広域交付リーフレット、中央区 相続などで生まれたときからの戸籍の証明書がほしいとき

除籍や附票が廃棄済みでも証明書と権利証で登記できる

古い戸籍が廃棄済みでも、役所の証明書を添えれば相続登記はできます。

「古い戸籍は廃棄されていて取れないから、もう登記できない」。これは誤解です。

除籍の保存期間は現在150年です(戸籍法施行規則第5条第4項)。ただし平成22年6月1日より前は80年で、それまでに期限が来た明治〜昭和初期の除籍は廃棄済みのことがあります。

廃棄済みなら、役所が「除籍等の謄本を交付することができない」旨の証明書を出してくれます。この証明書を添えれば相続登記はできます。

以前は、これに加えて「他に相続人はいない」という相続人全員の上申書(印鑑証明書付き)を求められていました。平成28年3月11日の法務省通達(民二第219号)で、この上申書は不要になり、市町村長の証明書があれば登記して差し支えない扱いになりました(法務省の通達の原文で確認)。戦災や災害で戸籍が焼失した地域も、同様の証明書で代えられます。

もう一つの壁が、登記簿の住所と戸籍がつながらない問題です。登記簿の名義人と戸籍の被相続人が同じ人だと示すには、登記簿上の住所が載った住民票の除票や戸籍の附票が要ります(法務局の記載例にも明記)。ところが附票の保存期間は、令和元年の法改正で150年になる前は5年で、古い名義人の附票はほとんどの場合すでに廃棄されています。

つながらないときの代わりは二つです。

  1. 登記済権利証がある場合。平成29年3月23日の法務省通知(民二第175号)以降、権利証を添えれば不在籍証明・不在住証明や相続人全員の上申書を省略できる扱いです(司法書士の解説で確認)。実家で権利証を探す理由はここにあります
  2. 権利証がない場合。役所の不在籍証明・不在住証明に加え、相続人全員の上申書(印鑑証明書付き)や固定資産評価証明書などで同一性を補います。何が要るかは法務局ごとに確かめておきましょう

「登記簿の住所が昔の村名で附票も残っていなかったが、仏壇から出てきた権利証で上申書なしで済んだ」という声があります。相続人が多いほど、上申書に全員の実印をもらう手間は重いので、権利証の有無は費用と時間に直結します。

出典: e-Gov法令検索 戸籍法施行規則、法務省 除籍等が滅失等している場合の相続登記について(平成28年3月11日民二第219号通達)、e-Gov法令検索 住民基本台帳法施行令、法務局 相続登記の申請書記載例(数次相続)

相続放棄の照会と関係者一覧で協議に加わる相手を確定する

範囲が決まったら、相続関係説明図(手書きで十分)と関係者一覧を作っておきましょう。

関係者一覧に、氏名・続柄・住所・年齢・連絡の可否・協力の見込み・判断能力の心配(認知症など)を入れておくと、協議の相手が一目で分かります。相続人の現住所は、その人の戸籍の附票で分かります。

会ったことのない相手に連絡する前に、家庭裁判所で「相続放棄・限定承認の申述有無についての照会」ができます。被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に、相続人として書面で照会すると、既に相続放棄をしている人がいるかが分かり、その人は協議から外れます(各家庭裁判所の案内)。「いとこに手紙を出す前に家裁に照会したら、相続放棄済みと分かって連絡せずに済んだ」という声があります。

ただし、被相続人の死亡から30年を過ぎているものは原則として回答されない扱いの裁判所があります(水戸家庭裁判所)。祖父の相続は無理でも、父の相続については有効です。

連絡の順番は、近い親族(おじ・おば)から登記簿を見せて話し、遠い親族(いとこ)はおじ・おばを通すと話が通りやすくなります。協議の進め方は姉妹記事「相続が重なって相続人が増えた実家の整理」へ譲ります。

もう一つ、注意があります。古い名義を調べる過程で、祖父の借金が見つかることがあります。その相続を放棄できる期限は、父が亡くなった時からではなく、「自分が祖父の相続人の地位を引き継いだと知った時」から3か月です(民法第916条、最高裁令和元年8月9日判決)。気づいたら、すぐ弁護士か司法書士に相談してみてください。

手元に残るのは、相続関係説明図と関係者一覧です。協議の相手を決めるときと、司法書士に依頼するときの土台になります。

出典: 水戸家庭裁判所 相続放棄・限定承認の申述の有無の照会、e-Gov法令検索 民法、裁判所 最高裁判所第二小法廷 令和元年8月9日判決(平成30年(受)第1626号)

古い名義を今の相続人に移す登記の流れ

流れは5段で、昔の名義ならではの分かれ目は「何件の申請になるか」と「誰と協議するか」の2つです。

  1. 名義人と相続人の確定
  2. 協議の形を決める(1件にまとめられるか・誰の名義にするか)
  3. 遺産分割協議書と法定相続情報一覧図を作る
  4. 申請(1件か、2件を続けて出すか)
  5. 完了(完了後の書類は姉妹記事「実家の相続登記の進め方」へ)

誰の名義にするかは、売るなら代表者1人、住む人がいればその人、共有名義は避ける、が基本です。決め方は姉妹記事「実家を誰が相続するかの決め方」「実家の遺産分割方法の比較」へ譲ります。

原則は亡くなった順に相続登記を重ねる

原則は、祖父から父へ(1件目)、父から自分へ(2件目)と、亡くなった順に相続登記を重ねることです。

2件は同じ日に続けて(連件で)出せるので、法務局へ行くのは1回で済みます。

順に重ねる場合、1件目(亡父を名義人にする登記)の土地には登録免許税の免税措置があります。費用の面では、2件になっても土地の分は実質1件分で済みます。

申請人になるのは不動産を取得する人だけです。おじ・おば・いとこは、遺産分割協議書に実印を押して印鑑証明書を出せばよく、法務局へ行かずに済みます。

遺産分割協議書に添える印鑑証明書には有効期限がないので(法務局の案内)、遠方の相続人から郵送で集めた印鑑証明書が古くなっても使えます。

出典: 法務局 相続登記の登録免許税の免税措置について、法務局 相続登記ハンドブック 必要書類一覧

中間の相続人が1人なら中間省略登記で1件にまとめられる

中間の相続(祖父→父)で不動産を取得した人が1人なら、祖父から直接いまの相続人へ、1件の申請で登記できます。

登記の現場で「中間省略登記」と呼ばれる扱いで、昭和30年12月16日の法務省民事局長回答(民事甲第2670号)が根拠とされています(司法書士の解説で確認)。

法務局の数次相続の記載例にも、「最終の相続以外の相続について、共同相続人数名が権利を取得している場合には、一件の申請では登記することができません」と明記されています。裏返せば、中間が1人なら1件で済みます。

この場合、申請書の登記原因は「平成2年3月21日法務春夫相続 令和7年6月20日相続」のように、祖父の死亡日と父の名前、父の死亡日を2行で併記します。最終の相続人(自分と兄弟・姉妹)は複数でも差し支えない扱いです(記載例は持分2分の1ずつの2人)。

中間が1人になるのは、次の3つのどれかです。

  1. 家督相続で父が1人で引き継いでいた
  2. 祖父の遺産分割で父が単独で取得した
  3. 父以外の相続人全員が相続放棄をしていた

このうち②は、今から協議で作れます。ただし条件があります。

場合中間省略必要なこと
(a) 祖父の相続人の地位を引き継いだ人が2人以上残っている(存命のおじ・おば、または自分・兄弟・姉妹・母など)できるこの全員で「祖父の実家は亡父が単独で取得した」と遺産分割協議をする。中間が1人になり、1件で登記できる
(b) 祖父の相続人の地位を引き継いだ人が自分1人しか残っていない(例えば、祖父の相続人が父と自分の2人で、父が死亡し、父の相続人も自分だけ)原則できない1人では「協議」が成立しない。「亡父が単独取得」とする決定書を添えても却下される(東京高裁平成26年9月30日判決)。祖父→亡父と自分の共有名義、亡父の持分→自分、の2件になる(1件目の土地は免税)
(c) 中間の相続人が複数で、持分が残る(おじ・おばが祖父の実家を共有名義で取得したまま)できない亡くなった順に重ねる

(a)が、古い名義で最も大きな近道です。父が亡くなっていても、祖父の相続人だった存命のおじ・おばと、父の相続人である自分たちが全員で「祖父の遺産は父が相続した」と協議すれば、1件で登記でき、登録免許税も1件分です。検索上位の解説記事にはほとんど書かれていない方法です。

(b)にも例外があります。父の生前に、祖父の相続人の間で実際に「実家は父が取る」という遺産分割協議が成立していた事実があれば(口頭でも可)、残った自分が作る「遺産分割協議証明書」(印鑑証明書付き)で直接登記できる扱いです。根拠は平成28年3月2日の法務省通知(民二第154号)です(司法書士の解説で確認、通知の原文は未確認)。実家で古い協議書や司法書士の書簡を探す理由の一つです。

自分が(a)か(b)かは、関係者一覧を見れば分かります。迷ったら、法務局の登記手続案内で「中間省略できるか」を聞いてから協議に入ってみてください。

経験者の声:おじ・おばとの協議で登記が1回で済んだ

「祖父→父→自分で2回登記が要ると思っていた。おじ・おばに事情を話して『祖父の実家は父が相続した』という協議書を作ったら1回で済み、登録免許税も1回分だった」(祖父名義の実家を父の死後に引き継いだ方)

出典: 法務局 相続登記の申請書記載例(数次相続)

遺産分割協議の参加者と「相続人兼被相続人」の協議書の書き方

協議に参加するのは、祖父の相続人のうち存命の人と、亡くなった相続人(父など)の相続人全員です。

取り忘れやすいのが母(父の配偶者)です。母は祖父の相続人ではなく、父の相続人として父の立場を引き継いで祖父の協議に加わります。「母が祖父の協議に入ると知らず、母の実印を取り忘れて法務局から電話が来た」という声があります。

協議は「祖父の遺産について」と「父の遺産について」の2段です。1通の協議書にまとめる書き方と、分ける書き方のどちらも使えます。1通にまとめると、同じ人が何度も押印せずに済み、郵送の往復が減ります。

肩書きの書き方に決まりがあります。亡くなった父は「相続人兼被相続人 ○○」、父の相続人は「相続人 ○○の相続人 △△」と書きます(行政書士の解説で確認)。

協議書に書く不動産は、登記事項証明書どおりに全部の筆を列挙します。畑・山林・私道の持分が1筆でも漏れると、その筆だけ協議をやり直すことになります。名寄帳で全部の筆を出しておく意味はここにあります。

昭和55年以前の死亡や家督相続が混ざっていて持分の計算が複雑でも、協議で単独取得と決めれば持分の計算は不要です。協議がまとまるなら、法定相続分の計算より協議書づくりを先に進めておきましょう。

法定相続情報一覧図は、亡くなった人ごと(祖父用・父用)に作ります(家庭裁判所の案内)。法務局の記載例では、一覧図の写しを出すか、その番号を申請書に書けば、戸籍の添付に代えられます。祖父名義の預金が残っていれば銀行でも使えます。

作り方は姉妹記事「法定相続情報一覧図の作成と使い方」へ、申請書の書き方は「実家の相続登記の進め方」へ譲ります。

出典: 神戸家庭裁判所 法定相続情報一覧図の提出について、法務局 相続登記の申請書記載例(数次相続)

法定相続分の共有登記を近道にしない

「協議がまとまらないから、とりあえず法定相続分で登記しておこう」は、やってはいけない近道です。

法定相続分での登記は、相続人の1人が全員分をまとめて申請でき、他の相続人のハンコも不要です。一見すると楽です。

しかし、祖父の相続人が20人いれば、20人の共有名義が登記簿に固定されます。売却・解体には全員の同意が要る状態が続き、あとで1人の名義にするには再度の登記が要ります。遺産分割によらず持分を移すと贈与や売買の扱いになり、税もかかります。

「急いで法定相続分で登記したら12人の共有名義になり、売るときに全員の同意が要って結局やり直した」という声があります。「とりあえず義務を果たしたい」のが目的なら、相続人申告登記がおすすめです(費用と期限の章)。

相続人が多い・連絡が取れないときの選択肢

相続人が多い・連絡が取れないときは、先に「抜ける人」を固めてから、残った近い親族で協議する順が進めやすい形です。

手段の名前と使い分けは次の表のとおりで、進め方の詳細は姉妹記事「相続が重なって相続人が増えた実家の整理」「連絡が取れない・海外にいる相続人への対応」へ譲ります。

困りごと手段要点
参加者が多すぎる相続分の譲渡・相続分の放棄遠い親族に「協議に加わらず抜ける」形を用意する。譲渡証書・放棄証書に印鑑証明書を添える。債務は免れない(弁護士の解説)
抜けてもらう代わりに謝礼を渡すハンコ代相場はなく、数万円〜数十万円が目安(税理士の解説)。法定相続分に近い額なら実質は遺産分割(代償分割)なので、協議書に代償金として書く。無償の譲渡は税の扱いがあるので、額が大きければ税理士へ
7年以上生死不明失踪宣告家庭裁判所に申し立て、死亡したものとみなす(民法第30条)
所在不明だが生きている不在者財産管理人家庭裁判所が管理人を選ぶ。管理人が協議に応じるには、不在者の法定相続分が確保された案が要り、予納金もかかる(札幌家庭裁判所の案内)
海外在住サイン証明・在留証明現地の日本領事館でサイン証明を取り、協議書に加われる
話がまとまらない遺産分割調停・審判家庭裁判所へ。祖父の遺産分割として、相続人の地位を引き継いだ人全員が当事者
協力しない相続人がいて、長年住み続けている時効取得最後の手段。相続人の協力か判決が要る

段取りは、先に「抜ける人」(譲渡・放棄・ハンコ代)を固めて参加者を絞り、残った近い親族で「父の単独取得 → いまの名義人」を決める、という順です。遠い親族に分け方の議論を持ち込まないのがコツです。

「海外のいとこには相続分譲渡証書を送ってもらい、残りで協議した」「遠縁にはハンコ代を包んで抜けてもらい、金額は司法書士に法定相続分を出してもらって決めた」という声があります。

メモにしておくのは、協議の形(中間省略の(a)/(b)/(c)のどれか・参加者・抜ける人)です。

出典: e-Gov法令検索 民法、札幌家庭裁判所 不在者財産管理人選任事件手続案内シート

費用の内訳と期限の数え方|登録免許税の免税措置と相続人申告登記

古い名義の費用は「申請の件数」と「相続人の数」で決まり、期限は2027年3月31日が一つの目安になります。免税と相続人申告登記を知っていれば、費用も過料の不安も小さくできます。

  • 登録免許税は申請の件数分かかる
  • 亡くなった相続人名義の登記と100万円以下の土地は2027年3月まで免税
  • 戸籍の実費と司法書士報酬が上がる要因
  • 期限は知った日から3年で過料の前に催告がある
  • 相続人申告登記は孫の代から自分の分だけで出せる

登録免許税は申請の件数分かかる

相続登記の登録免許税は、固定資産評価額の0.4%(1000分の4)で、申請1件ごとにかかります(法務局の記載例)。

祖父→父→自分と順に重ねれば2件分、中間省略で1件にまとまれば1件分です。評価額1,000万円の実家なら、1件で4万円、2件で8万円の差になります。

「古い名義は何十万もかかる」と言われる正体を分解すると、次のようになります。

項目目安
戸籍の実費1〜3万円(通数しだい)
登記事項証明書・名寄帳・固定資産評価証明書数千円
登録免許税評価額×0.4%×件数(免税で0円になる筆もある)
司法書士報酬(頼む場合)内訳と加算要因は「戸籍の実費と司法書士報酬が上がる要因」の項

つまり、動く金額の大半は登録免許税と司法書士報酬で、どちらも「件数」と「相続人の数」で決まります。

出典: 法務局 相続登記の申請書記載例(数次相続)

亡くなった相続人名義の登記と100万円以下の土地は2027年3月まで免税

法務局が案内する免税措置は2種類あり、古い名義の実家ではどちらも使える場面が多くあります(法務局「相続登記の登録免許税の免税措置について」)。

1つ目は、相続で土地を取得した人が、相続登記をしないまま亡くなった場合です。その人(亡父)を名義人にする登記は、2027年(令和9年)3月31日まで登録免許税が免税です。

順に重ねる2件のうち1件目がこれに当たるので、中間省略できなくても土地の登録免許税は実質1件分で済みます。対象は土地のみで、建物は対象外です。

2つ目は、不動産の価額が100万円以下の土地の相続登記で、こちらも2027年3月31日までです。持分の場合は、土地全体の価額に持分の割合を掛けた額で判定します。畑・山林・私道の持分はこれに該当しやすく、祖父名義の筆が多いほど免税になる筆も増えます。

どちらも、申請書に免税の根拠となる条文を書いて初めて免税されます。法務局のページには「記載がない場合は、免税措置は受けられません」と明記されています。執筆時点の法務局の表記は次のとおりです。

  • 1つ目は「租税特別措置法第84条の2の2第1項により非課税」
  • 2つ目は「租税特別措置法第84条の2の2第2項により非課税」

以前は条番号が違っていた時期があるので、自分で出すときは法務局ページの最新の文言を写しておきましょう。払った登録免許税は、あとから「免税だった」と気づいても原則として戻ってこない扱いです。

経験者の声:条文を書き忘れた筆だけ課税された

「畑と山林は評価額が100万円以下で免税だと分かっていたのに、申請書に条文を書き忘れた筆だけ課税された。払い直しはできないと言われ、数千円だが悔しかった」(祖父名義の宅地と畑を引き継いだ方)

出典: 法務局 相続登記の登録免許税の免税措置について

戸籍の実費と司法書士報酬が上がる要因

古い名義では、戸籍の通数と司法書士報酬の加算要因がどちらも増えます。

戸籍の実費は、戸籍謄本が1通450円、除籍・改製原戸籍が1通750円です(手数料の標準を定める政令)。附票は自治体ごとに違い300円前後が多いようです。

古い名義は亡くなった人が複数いるので通数が20〜40通になり、郵送請求では定額小為替の手数料も重なります。「戸籍が38通になり、小為替の手数料だけで数千円かかった」という声があります。法定相続情報一覧図と、法務局の法定相続人情報は無料です。

司法書士の報酬は自由化されていて事務所ごとに違います。日本司法書士会連合会の2024年3月のアンケートでは、土地1筆・建物1棟(評価額合計1,000万円)、法定相続人3名、戸籍5通の取得を含む相続登記で、報酬の平均は74,888円でした。これがふつうの相続登記の目安です。

古い名義は、この目安を押し上げる要因に全部当たります。

  • 被相続人の数(数次相続では亡くなった人1人ごとに加算する事務所が多い)
  • 相続人の数(1人ごとに加算)
  • 戸籍の通数(1通ごとに加算)
  • 不動産の筆数
  • 遠方の法務局への申請

そのため、一般の相続登記より上がることが多く、相続人が10人を超えるような事案では20〜30万円を超えることもあります(事務所の料金表から見た目安で、統計は未確認)。抑え方は依頼のコツの章で書きます。不在者財産管理人の予納金や調停の費用は、この内訳とは別にかかります。

出典: e-Gov法令検索 地方公共団体の手数料の標準に関する政令、日本司法書士会連合会 司法書士の報酬に関するアンケート結果(2024年3月実施)

期限は知った日から3年で過料の前に催告がある

相続登記の義務の期限は、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日」から3年です(不動産登記法第76条の2第1項)。

2024年4月1日より前に始まった相続には経過措置があり、期限は2027年3月31日です。ただし、不動産を相続で取得したことを知った日が2024年4月以降なら、その日から3年以内になります(法務省)。実家が祖父名義だと最近知った人は、「知った日から3年」の方が当たります。

遺産分割がまとまったら、成立の日から3年以内に、その内容の登記を申請する義務が別にあります。この義務は相続人申告登記では果たせず、相続登記そのものが要ります。

期限に間に合わなくても、「正当な理由」があれば過料の対象から外れます。法務省が示す類型は5つで、その1つ目が「相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合」です。

ほかに、遺言の有効性や遺産の範囲の争い、重病、DV被害、経済的困窮があります。古い名義の実家は、1つ目に当たりやすい事情を抱えています。

過料(10万円以下)までの順も決まっています。登記官が義務違反を把握しても、まず相当の期間を定めて申請するよう催告し、それでも正当な理由なく申請しないときに裁判所へ通知し、裁判所が過料を決めます。

催告に応じて申請すれば過料の通知はされず、いきなり過料になる仕組みとは違います(法務省)。「過料が怖くて焦っていたが、法務局に聞いたら催告が先と知り、落ち着いて協議を進められた」という声があります。

よくある不安にも触れておきます。「祖父の相続税を今から払うのか」という不安です。数十年前の相続は、税務署が更正できる期間を過ぎているため、今から相続税を課されない扱いが原則です。個別の事情は税理士に確かめてみてください。税の話はここまでにとどめます。

出典: e-Gov法令検索 不動産登記法、法務省 相続登記の申請義務化について、法務省 相続登記の申請義務化の施行に向けたマスタープラン(概要)

相続人申告登記は孫の代から自分の分だけで出せる

協議がまとまらないまま期限が近づいたときの手段が、相続人申告登記です。

「登記名義人について相続が始まったこと」と「自分がその相続人であること」を法務局に申し出るだけで、相続登記の義務を果たしたことになります(不動産登記法第76条の3)。

古い名義の実家にとって大事な点が三つあります。

1つ目、数次相続でも出せます。法務省の申出書の記載例に、登記名義人(祖父)の相続人(父)が亡くなった後に、その子(自分)が「祖父の相続人」かつ「父の相続人」として申し出る形が載っています。法務省の通達では、さらに代が重なった場合(第三次相続人)の申出も扱われています。

2つ目、ほかの相続人を把握せずに出せます。自分が相続人だと分かる範囲の戸籍で済み、祖父の出生から死亡までの全部の戸籍も不要です(広島法務局のQ&A)。相続人の1人が単独で出せます。

3つ目、登録免許税は0円です。書面でも、Webブラウザ上(かんたん登記申請)でも出せ、電子署名も不要です(法務省の案内)。

ただし限界もあります。相続人申告登記は権利関係を公示する登記とは違うので、売却や抵当権の設定には使えず、別途相続登記が要ります。遺産分割後の登記義務も別です。

免税の期限と経過措置の期限は、どちらも2027年3月31日です。分かれ道は次の3つです。

  • 協議がまとまる見込み → 1件目(亡父名義)か、中間省略の1件を2027年3月31日までに出す。土地の免税が使え、義務も果たせる
  • まとまらない → 相続人申告登記で義務だけ先に果たし、協議は落ち着いて進める
  • 相続人が極めて多数で把握に時間がかかる → 正当な理由に当たりうるが、相続人申告登記を出しておく方が安全

手順は姉妹記事「相続人申告登記の使い方」へ譲ります。

3行のメモにしておきましょう。「自分の起算日と期限」「免税が使える筆」「概算の費用」です。司法書士の見積もりと突き合わせる材料になります。

出典: e-Gov法令検索 不動産登記法、法務省 相続人申告登記手続のご案内、法務省 相続人申告登記の申出書記載例(数次相続)、法務省 相続人申告登記関係通達(令和6年3月15日民二第535号)、広島法務局 相続登記の申請義務化(相続人申告登記Q&A)

司法書士に渡す資料の一覧と報酬を抑える依頼のコツ

ここまでで作った資料は、そのまま司法書士に渡す資料になります。何を渡し、どこまで頼み、見積もりをどう比べるかで、報酬は変わります。

  • 司法書士に渡す資料のチェック表
  • 頼む範囲の切り分けと士業の持ち場
  • 見積もりは内訳付きで複数取り加算要因を減らして渡す
  • 自分で進める目安と司法書士に頼むべきサイン

司法書士に渡す資料のチェック表

ここまでで作ったものが、そのまま司法書士に渡す資料になります。

番号渡す資料出てくる場所
①登記事項証明書(土地・建物・全筆)登記簿の確認
②名寄帳または課税明細登記簿の確認
③相続の発生順の時系列登記簿の確認
④集めた戸籍(直系分)と、あれば法務局の法定相続人情報の作成番号登記簿の確認・相続人の範囲
⑤相続関係説明図相続人の範囲
⑥関係者一覧(氏名・続柄・住所・連絡の可否・協力の見込み・判断能力の心配)相続人の範囲
⑦登記済権利証登記簿の確認
⑧古い遺産分割協議書・遺言・過去の法定相続情報一覧図登記簿の確認
⑨固定資産評価証明書費用と期限
⑩家庭裁判所の相続放棄照会の結果相続人の範囲
⑪「家督相続」の記載がある除籍相続人の範囲
⑫起算日と期限・免税の筆・概算費用の3行メモ費用と期限
⑬協議の形(中間省略(a)/(b)/(c)・参加者・抜ける人)のメモ登記の流れ

この中で最優先は④の法定相続人情報の作成番号です。これがあれば、戸籍を集める分の報酬と実費がほぼ要らなくなります。「番号を渡したら、戸籍の実費も収集の報酬もほとんど要らなくなった」という声があります。

全部そろう前でも相談できます。あるものだけ持って行き、無いものは「ここで止まった」と伝えれば、司法書士が続きを引き取れます。

頼む範囲の切り分けと士業の持ち場

頼む範囲は、全部・戸籍収集だけ・協議書と申請だけ、の3段から選べます。

  1. 全部(戸籍収集から申請まで)
  2. 戸籍収集だけ(行政書士・司法書士。職務上請求で傍系の戸籍もまとめて取れる)
  3. 協議書の作成と申請だけ(戸籍と関係者一覧は自分で)

古い名義は、傍系の戸籍を郵送で何通も集める工程が重いので、②の価値が高いです。逆に、関係者が自分の兄弟・姉妹だけなら③で十分なことが多いです。

誰に何を頼めるかは、士業ごとに決まっています。

士業できることできないこと
司法書士登記、戸籍収集、協議書の作成、不在者財産管理人などの申立書類の作成相続人との交渉・説得
弁護士相続人との交渉・説得、調停・審判の代理特になし
行政書士戸籍収集、協議書の作成登記の申請
税理士相続税古い名義では出番が少ない

「おじを説得してほしい」と司法書士に頼んだら「交渉は弁護士の仕事です」と断られた、という声があります。先に知っていれば、頼む相手を間違えずに済みます。

一方で、司法書士に頼むと進みやすくなる場面もあります。遠い親族への最初の連絡は、本人の手紙より司法書士名義の文書(経緯の説明+協議書案+返信用封筒)の方が返事が来やすいことがあります。

「自分の手紙では返事がなく、司法書士からの文書に替えたら1週間で押印が返ってきた」という声があります。押印の取りまとめを依頼の範囲に入れるかで、報酬が変わります。

途中からでも頼めます。傍系の戸籍で止まった、補正の電話が来た、中間省略の可否が分からない、という段階で入ってもらう方が、最初から丸投げするより安く済みます。

見積もりは内訳付きで複数取り加算要因を減らして渡す

見積もりは、内訳付きで2〜3か所から取っておきましょう。

比べる欄は次のとおりです。

  • 基本報酬
  • 被相続人の加算(亡くなった人1人ごと)
  • 相続人の加算(1人ごと)
  • 戸籍1通あたりの単価
  • 筆数の加算
  • 登録免許税と実費が含まれているか
  • 押印の取りまとめ(郵送)の費用
  • 相続人申告登記を先に出す場合の費用

見積もりを頼むときに、「戸籍は○通集めてある」「関係者一覧がある」「法定相続人情報の番号がある」と先に伝えて、報酬がどう変わるかを聞いてみてください。下がる事務所と、定額で変わらない事務所があります。

経験者の声:同じ資料を渡しても事務所で差が出た

「戸籍を自分で集めて関係者一覧も作って渡したら、報酬が数万円下がった事務所と、まったく変わらない事務所があった。2か所から見積もりを取ってよかった」(曾祖父名義の土地を複数筆引き継いだ方)

不動産会社に紹介された司法書士は、報酬を相見積もりで確かめつつ、「決済に合わせられる価値」を含めて比べると選びやすくなります。売却の決済日に、相続登記と買主への所有権移転登記を同じ日に続けて入れられるのは、紹介された司法書士ならではの利点です。「報酬が高く感じたが、決済日に相続登記と売買の登記を同じ日に入れてくれたので結局そこに頼んだ」という声があります。

事務所は、不動産の所在地や自宅の近くでなくても選べます。オンライン申請と郵送で全国に対応している事務所が多く、数次相続の実績を聞いて選ぶ方が大事です。

無料で先に聞ける場所もあります。司法書士会の無料相談と、法務局の登記手続案内(完全予約制、1回20分以内、事前審査や法的判断はしない)です(各法務局の案内)。ここで「中間省略できるか」「免税の対象か」「正当な理由に当たるか」の3点を聞いてから依頼範囲を決めると、見積もりの精度が上がります。

費用を誰が払うかも、依頼の前に決めておきましょう。不動産を取得する人が払う形が多く、売却するなら代金から精算する旨、兄弟・姉妹で割るなら割合を協議書に書いておくと、あとでもめずに済みます。決めずに見積もりを見ると、そこで止まります。

出典: 名古屋法務局 登記手続案内、大阪法務局 登記手続案内のご利用について

自分で進める目安と司法書士に頼むべきサイン

自分で進めやすいのは次の条件がそろったときで、古い名義ならではの頼むべきサインも別にあります。

自分で進めやすい条件は次のとおりです。

  • 家督相続で中間が1人、または相続人が自分の兄弟・姉妹だけ
  • 戸籍がそろった
  • 協議がまとまっている
  • 平日に動けるか、郵送で申請できる

逆に、古い名義ならではの頼むべきサインは次のとおりです。

  • 相続人が10人を超える
  • 傍系の戸籍が多い
  • 連絡が取れない、認知症の心配がある、海外在住の相続人がいる
  • 廃棄証明書や上申書が要る
  • 登記簿の住所と戸籍がつながらない
  • 中間省略の(a)(b)の判定に迷う
  • 売却の期日がある

頼む前に、兄弟・姉妹へ共有しておくものが三つあります。登記簿、関係者一覧、見積もりです。この順で見せておけば、「勝手に進めた」と言われずに済みます。

費用が厳しいときは、法テラスの民事法律扶助(収入と資産が基準以下の人への弁護士・司法書士費用の立替)が使える場合があります。相続登記の申請そのものが対象になるかは事案によるので、法テラスに確かめてみてください。一般的な報酬相場と途中依頼の一般論は姉妹記事「実家の相続登記の進め方」へ譲ります。

チェック表がそろえば、登記と相続関係を確かめ、必要な戸籍や関係者の情報を専門家へ渡せる状態です。あとは渡す相手と範囲を決める段階です。

出典: 法テラス 民事法律扶助業務

まとめ:祖父名義の実家は相続人が少ないうちに登記を1件にまとめて直す

祖父名義のままの実家でいちばん重いのは、代が変わるたびに相続人が掛け算で増え、協議に加わる顔ぶれも書類の残り方も悪くなっていく点です。中間の相続人が1人なら祖父から直接いまの相続人へ1件で登記でき、存命のおじ・おばとの協議でその形を今から作れます。

次の一歩は、土地と建物の登記事項証明書を全筆取り、甲区の名義人と「長期相続登記等未了土地」の付記の有無を見て、名義人と相続人の死亡日を1枚の時系列にすることです。ここを飛ばすと、畑や山林の筆が協議書から漏れたり、法務局が無料で出す法定相続人情報に気づかず戸籍を何十通も集め直したりします。

2027年3月31日までは、亡父名義の登記と100万円以下の土地の登録免許税が免税で、相続登記の義務の経過措置の期限も同じ日です。登記簿と時系列を手に、法務局の登記手続案内で「中間省略できるか」「免税の対象か」を確かめてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、祖父母など昔の名義のままの実家の名義を今の相続人へ移す手順も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。