親が亡くなって実家をどうするか話し合おうとしたとき、最初につまずくのが「そもそも誰が相続人なのか」です。
同居していた兄が全部引き継ぐのか、嫁いだ姉は関係ないのか、亡くなった弟の子はどうなるのか、家族の中の「なんとなくの常識」と民法の答えはかなり違います。
相続人は民法の順位と戸籍に書かれた家族関係だけで決まるので、その順位を自分の家に当てはめれば、相続人の候補と「誰の戸籍を見れば確かめられるか」まで絞り込めます。
実家の相続人を決める順位と、同居や介護が関係ない理由
実家の相続人は、誰が同居していたか、誰が介護したかではなく、民法が定めた順位で決まります。
順位は配偶者と血族で分かれ、上の順位に一人でもいれば下の順位の出番はなくなります。同居・介護・長男・嫁いだ娘といった事情は資格と無関係で、介護の苦労は「寄与分」「特別寄与料」という別の制度が受け持ちます。
配偶者は常に相続人で、血族は子・親・兄弟姉妹の順
亡くなった人の夫または妻(配偶者)は、必ず相続人になります。
そのうえで、血のつながった親族(血族)は、次の順位で相続人になります。
| 立場 | 誰が当てはまるか | 相続人になる条件 |
|---|---|---|
| 配偶者 | 亡くなった人の夫・妻(婚姻届を出している人) | 常に相続人 |
| 第1順位 | 子 | 子が一人でもいれば、この順位で決まる |
| 第2順位 | 直系尊属(親。親がいなければ祖父母) | 子も孫もいないとき |
| 第3順位 | 兄弟姉妹 | 子も孫も、親も祖父母もいないとき |
この順位は民法887条から890条に書かれています。第2順位は「親」ではなく「直系尊属」と定められていて、ここに注意が要ります。
直系尊属には祖父母や曽祖父母も含まれ、親が亡くなっていても祖父母が存命なら、祖父母が第2順位の相続人になります。
高齢で亡くなった人の祖父母が存命ということはまれでしょう。それでも兄弟姉妹が相続人になるかを判断するときは、「祖父母も亡くなっているか」まで確かめることになります。
子や兄弟姉妹が先に亡くなっているときに、代わりに孫や甥姪が相続人になる仕組み(代襲相続)は、第2章で整理します。
上の順位に一人でもいれば下の順位は関わらない
この順位は「全員が少しずつ関わる」のではなく、上の順位に一人でもいれば下の順位は完全に無関係になる仕組みです。
子が一人でもいれば、亡くなった人の親も兄弟姉妹も相続人から外れます。
実家の相続に当てはめると、たいていは次のどちらかで決まります。
- 片方の親が亡くなった場合は、残った親(配偶者)と子全員
- 両親とも亡くなった場合は、子全員
兄弟姉妹(亡くなった人から見た兄弟姉妹。子の立場から見れば叔父・叔母)まで話が及ぶのは、亡くなった人に子も孫もおらず、親も祖父母もいない家に限られます。
ここで知っておくと楽になるのが、「兄弟姉妹側の確認に手を広げる必要があるかは、子がいるかで即決まる」という点です。
亡くなった親に子(自分や兄弟・姉妹)がいるなら、親の兄弟姉妹やその子どもの戸籍まで調べずに済みます。逆に子のいない叔父・叔母の相続では、確認の範囲が一気に広がります。
また、相続登記をする法務局や預金を解約する銀行は、相続人全員を戸籍で確認します。「たぶんこの人たち」ではなく、顔ぶれを正確に押さえておく必要があります。どの戸籍をどこまで集めるかは、別記事「相続人確認に必要な戸籍の集め方」で説明します。
同居・介護・長男・嫁いだ娘は相続人の資格に関係しない
相続人になるかは、戸籍上の身分関係(配偶者か、子か、親か、兄弟姉妹か)だけで決まります。
同居していたか、介護をしたか、長男か、結婚して姓が変わったか、遠くに住んでいるかは、資格と無関係です。
実家で親と同居していた兄弟・姉妹も、相続人の一人であり、ほかの子と同じ立場です。
「長男が家を継ぐ」という家督相続の仕組み(戸主の地位と財産を長子が一人で引き継ぐ制度)は、1947年(昭和22年)12月公布の民法改正で廃止され、改正後の民法は1948年(昭和23年)1月1日に施行されました。
それ以降、子は全員が同じ立場の相続人です。結婚して姓が変わった娘も、何十年も実家に帰っていない子も、相続人です。
このため、「母がそのまま実家に住み続けるから母の名義にする」という自然に見える話でも、母一人では決められず、子全員の合意(遺産分割協議)が要ります。
経験者からは、年上の親族から法律と違うことを言われて戸惑ったという声をよく聞きます。
出典: 国税庁 税務大学校 NETWORK租税史料「相続税の解説書」、e-Gov法令検索 民法(附則 昭和22年法律第222号)
介護の報いは寄与分・特別寄与料という別の制度
「介護したのだから多くもらえるはず」という気持ちは自然ですが、これは「誰が相続人か」ではなく「相続人の取り分をどう決めるか」の話です。
民法はこれを別の制度として用意しています。
相続人(たとえば子)が親を介護した場合は、「寄与分」(民法904条の2)という仕組みで取り分の上乗せを求めることができます。
ただし親の療養看護は、子として当然に負う扶養義務の範囲とみなされやすく、特別の寄与として認められるのは難しいとされています。
審判例でも、通院の付き添いや入院時の世話は扶養の範囲とされたものがあります。介護の事実があっても、相続人としての立場は他の子と同じままです。
相続人でない人、多くは子の配偶者(嫁・婿)が介護した場合は、寄与分の対象から外れます。その代わり、2019年7月に始まった「特別寄与料」(民法1050条)という制度で、相続人に対して金銭を請求できます。
ただしこれは金銭を請求する権利であって、請求しても相続人にはならず、遺産分割協議にも加わらない立場です。
この請求には短い期限があります。特別寄与料を家庭裁判所に求めることができるのは、相続の開始と相続人を知ったときから6か月以内、かつ相続開始から1年以内です。
「介護した嫁は相続人ではないが、特別寄与料という請求の手段だけはある。ただし期限が短い」と覚えておきましょう。金額の目安や計算方法は、相続人の特定とは別の話になるため省きます。
出典: e-Gov法令検索 民法(第904条の2・第1050条)
家系図で相続人の候補を整理する手順と、よくある家族の型
第1章の順位を自分の家に当てはめ、紙1枚と鉛筆で相続人の候補を漏れなく挙げる作業です。
亡くなった人(被相続人)を中心に家族を書き出し、先に亡くなった人・後に亡くなった人の扱いを押さえると、候補が出そろいます。
登記や銀行に出す正式な「相続関係説明図」は戸籍を集めたあとで作る書類で、作り方は別記事「相続人確認に必要な戸籍の集め方」で扱います。
中心に置くのは実家の名義人として亡くなった人
家系図の中心に置くのは、「実家の名義人として亡くなった人」です。
父名義の家で父が亡くなったなら中心は父です。母が亡くなった場合でも、名義が父のままなら、整理すべき相続は父の相続です。
見落としやすいのが、名義が祖父のままになっている家です。この場合、中心に置くのは父ではなく祖父になります。
祖父の相続人は、祖母と、父を含む祖父の子全員(父の兄弟姉妹)です。そのうち亡くなっている人がいれば、さらにその人の相続人へと広がるため、叔父・叔母はもちろん、従兄弟やその配偶者まで関係者になることがあります。
名義が誰かで中心人物が変わるので、確認のいちばん最初に名義を確かめておきましょう。名義の調べ方は、別記事「実家の名義の調べ方」で説明します。
家系図を書いて相続人を特定するやり方は、自治体の担当者も使っています。
埼玉県の空き家対策連絡会議が市町村の担当者向けに作った「相続人の調査方法マニュアル」でも、家系図に似た相続関係説明図を作ると相続人の見落としを防げ、調査の範囲がはっきりする、と説明しています。
出典: 埼玉県 空き家対策連絡会議「相続人の調査方法マニュアル」
配偶者・子・親・兄弟姉妹の生死と亡くなった順を書き込む
中心人物を決めたら、その人から見た4つの続柄を書き出しましょう。
| 続柄 | 書くこと |
|---|---|
| 配偶者 | 存命か、亡くなっていれば何年に亡くなったか |
| 子(全員) | 一人ずつ名前と、存命か、亡くなった年 |
| 親 | 存命か、亡くなった年(親が亡くなっていれば祖父母も) |
| 兄弟姉妹(全員) | 一人ずつ名前と、存命か、亡くなった年 |
ポイントは「生死」に加えて「亡くなった年」を書くことです。中心人物より前に亡くなったのか、後に亡くなったのかで、代わりに誰が入るかが変わるためです(代襲相続と数次相続の見出しで説明します)。
書き終えたら、第1章の原則を当てはめてみてください。子が一人でもいれば親と兄弟姉妹の欄を、子がおらず親(または祖父母)が存命なら兄弟姉妹の欄を消していくと、相続人の候補が残ります。
たとえば父が亡くなり、母が父より先に亡くなっていれば、残るのは子全員です。
被相続人より先に亡くなった相続人は子が代わる
中心人物より先に亡くなっていた子や兄弟姉妹がいる場合、その人の子が代わりに相続人になります。
これを代襲相続といいます。たとえば父より先に弟が亡くなっていて弟に子がいれば、その子(父から見れば孫)が弟の代わりに相続人になります。
代襲には、系統によって届く範囲に違いがあります。
| 先に亡くなった相続人 | 代わりになる人 | どこまで続くか |
|---|---|---|
| 子 | 孫 | 孫も先に亡くなっていればひ孫、と何代でも続く |
| 兄弟姉妹 | 甥・姪 | 甥・姪で止まる。甥・姪の子には行かない |
子の系統は何代でも下に続きますが、兄弟姉妹の系統は甥・姪までで止まります(民法887条2項・3項、889条2項)。
子のいない叔父・叔母の相続で「甥の自分が亡くなっていたら、その子(叔父から見て甥の子)に行くのか」と心配する人もいますが、代襲は甥・姪で止まります。
相続放棄をした人の子が代襲しない点は、第3章で説明します。
被相続人より後に亡くなった相続人は配偶者も含めて代わる
中心人物が亡くなった「後」に、遺産分割が済まないうちに相続人が亡くなった場合は、扱いがまったく違います。
これを数次相続といいます。亡くなった相続人が持っていた「協議に参加する立場」は、その人の相続人全員がそっくり引き継ぎます。
相続人には配偶者が必ず含まれるので、亡くなった相続人の妻や夫、つまり実家から見れば嫁や婿が、実家の相続の関係者に入ってきます。
実家でよくあるのは、次の2つです。
- 父の相続を何年も放置しているうちに母が亡くなった。母が持っていた父の相続の立場は、母の相続人(子全員)が引き継ぐ
- 父の死後、遺産分割が終わる前に兄が亡くなった。兄の立場は、兄の妻と兄の子が引き継ぐ
ここが、実家の相続で関係者がもっとも増える分かれ目です。同じ「兄が亡くなっていた」でも、父より先なら代わるのは兄の子だけ(代襲)、父より後なら兄の妻も兄の子も入ります(数次)。
先か後か、たった1日の違いで、嫁・婿が協議の当事者になるかが変わります。亡くなった年を家系図に書き込むのは、このためです。
実家でよくある5つの家族の型ごとの相続人の早見表
実家でよくある5つの家族の型ごとに、関わる人と関わらない人を1つの表にまとめました。
自分の家がどの型に近いかを探してみてください。
| 型 | 関わる人 | 関わらない人 | 注意する点 |
|---|---|---|---|
| ① 父が先に亡くなり、母は存命 | 母+子全員 | 父の親・兄弟姉妹 | 子全員の合意がなければ、母の名義にもできない |
| ② 両親とも亡くなった | 子全員 | 親の兄弟姉妹(叔父・叔母) | 先に亡くなった子がいれば、その子(孫)が代わる |
| ③ 子の一人が親より先に亡くなっていた | 残った親(存命なら)+存命の子+先に亡くなった子の子(孫) | 先に亡くなった子の配偶者 | 孫が複数いれば、その全員が相続人になる |
| ④ 子のいない叔父・叔母が亡くなった | 配偶者(存命なら)+叔父・叔母の兄弟姉妹。兄弟姉妹が先に亡くなっていれば甥・姪 | 甥・姪の子 | 叔父・叔母の親と祖父母が亡くなっていることを確かめないと、兄弟姉妹が相続人とは言えない |
| ⑤ 実家の名義が祖父のまま | 祖父の相続人(祖母・祖父の子全員)から出発し、亡くなっている人はその相続人へ | (型によって変わる) | 配偶者も含めて数次でたどるため、叔父・叔母・従兄弟・その配偶者まで関係者になる |
④の型は、本人に心当たりがないまま突然連絡が来ることが多い型です。子のいない叔父・叔母の相続では、第1順位も第2順位もいないことを確かめたうえで、兄弟姉妹(と、先に亡くなった兄弟姉妹の子である甥・姪)が相続人になります。
相続人にならない続柄と、相続放棄で外れた相続人の確かめ方
第2章で書き出した候補から、「相続人ではない人」を引いていく作業です。
身近な家族でも相続人にならない続柄があり、「要らないと言っている」人は相続人のままです。本当に相続人から外れた人(相続放棄が受理された人)は、家庭裁判所への照会で確かめます。逆に、家族が把握していない相続人を「足す」作業は第4章で扱います。
相続人にならない6つの続柄と養子縁組による例外
家族として一緒に暮らしていても、法律上は相続人にならない続柄があります。
実家の相続でよく問題になるのは、次の6つです。
| 相続人にならない続柄 | 理由 | 例外(相続人になる場合) |
|---|---|---|
| 内縁の配偶者(婚姻届を出していない夫・妻) | 「配偶者」は婚姻届を出した人だけ | なし |
| 離婚した元配偶者 | 離婚で配偶者でなくなる | なし(ただし元配偶者との間の子は相続人。第4章) |
| 養子縁組していない連れ子 | 血縁も縁組もなければ子ではない | 養子縁組をしていれば子として相続人 |
| 子の配偶者(嫁・婿) | 血族でも配偶者でもない | なし(介護の報いは第1章の特別寄与料) |
| 義理の親・配偶者の兄弟姉妹 | 亡くなった人の血族ではない | なし |
| 子が存命の孫・代襲でない甥姪 | 上の順位の人が存命なら、その代わりにはならない | 養子縁組をしていれば孫も子として相続人 |
養子縁組の有無は、戸籍の続柄で分かります。養子縁組した人は、養親の戸籍に続柄「養子」「養女」と記載されます。連れ子や孫を養子にしていれば、実子と同じ第1順位の相続人です。
内縁の配偶者には「特別縁故者」として財産を受け取れる制度がありますが、これは相続人が一人もいないときに限って使える制度です。子や兄弟姉妹が一人でもいれば対象外です。
出典: e-Gov法令検索 民法(第809条・第887条〜第890条・第958条の2)
「遺産はいらない」と言っただけでは相続人のまま
「兄は『実家は要らない』と言っているから、兄抜きで話を進めればいい」と考える人は多いのですが、これは通りません。
口約束はもちろん、「相続を放棄します」と書いた念書を交わしていても、法律上の相続放棄とは別物です。
相続放棄は、家庭裁判所に申述し、それが受理されたときにだけ成立します(民法938条)。家庭裁判所を通さない「放棄」は相続人の間の約束にとどまり、その人は相続人のままです。
したがって、要らないと言っている兄弟・姉妹も、遺産分割協議に相続人として参加し、協議書に署名と実印の押印をする必要があります。その人の取り分をゼロにする内容で協議をまとめると、法律上も通る形になります。
法務局や銀行がその人を相続人から外して扱うのは、家庭裁判所の受理を示す書類があるときに限られます。
生前の相続放棄という制度はないため、親が存命のうちに「自分は相続を放棄する」と約束しても無効です(遺留分の放棄とは別の話です)。
相続放棄の手続きや3か月の期限は、別記事「実家の相続放棄を検討するときの確認」で説明します。押さえておきたいのは、「要らないと言っている人も相続人として判子が要る。家庭裁判所の受理がなければ外せない」という一点です。
相続放棄は戸籍に出ないので家庭裁判所に照会して確かめる
相続放棄をしても戸籍の記載は何も変わらないため、「弟は放棄したと聞いている」という話は家庭裁判所への照会で確かめます。
亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会」を出すと、誰の放棄がいつ受理されたかを回答してもらえます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 照会できる人 | 相続人と、亡くなった人に対する利害関係人(債権者など) |
| 照会先 | 亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所 |
| 手数料 | 無料 |
| 主に必要なもの | 照会書、相続人目録、亡くなった人の住民票の除票(本籍記載)、照会者が相続人だと分かる戸籍、相続関係図(手書きで可) |
| 受理証明書が必要なとき | 別途申請。1件につき収入印紙150円 |
この照会は無料で、相手の兄弟・姉妹に知られることなく、放棄の有無を確かめられる手段です。「放棄したと聞いたけれど、本当か聞きにくい」という場面で役に立ちます。
注意点が1つあります。照会書には、亡くなった人の氏名・最後の住所・死亡年月日と、照会する相続人の氏名を、戸籍の記載どおり正確に書く必要があります。
裁判所は書かれた氏名で検索するため、一字でも違うと人物の同一性が確認できず、「申述なし」として回答されることがあります。結婚や養子縁組で姓が変わった人は旧姓も書き、照会する前に戸籍で表記を確かめておきましょう。
必要書類や調査できる期間は家庭裁判所によって少しずつ違うため、照会先の裁判所のウェブサイトで案内を確かめてみてください。
出典: 横浜家庭裁判所「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会をされる方へ」、広島家庭裁判所「相続放棄・限定承認の申述の受理の有無の照会について」
放棄で相続権は子に代わらず次の順位へ通知なく移る
相続放棄が受理されると、その人は「初めから相続人でなかった」ものとして扱われます(民法939条)。
このため、第2章の代襲相続と違って、放棄した人の子は代わりに入らず、兄が放棄しても甥は相続人の外にとどまります。
一方で、放棄した人がいた順位の全員が放棄すると、相続権は次の順位へ移ります。子全員が放棄すれば親(親がいなければ祖父母)へ、親も祖父母もいなければ兄弟姉妹へ、兄弟姉妹が先に亡くなっていれば甥・姪へ、という順です。
気をつけたいのは、相続権が次の順位へ移っても、家庭裁判所から次の順位の人に「あなたが相続人になりました」という知らせが届く仕組みはない、という点です。
家庭裁判所の案内も、先順位の相続人全員の放棄が受理されてから次順位の人が放棄できると説明するにとどまり、次順位への通知には触れていない書き方です。次の順位の人が自分で気づかなければ、知らないまま相続人になっています。
実家に借金や負債があって子が全員放棄した場合、亡くなった人の兄弟姉妹(子の立場から見れば叔父・叔母)や甥・姪が、知らぬ間に相続人になります。放棄する側になったら、次の順位の親族に自分で伝えておくと、親族の関係を壊さずに済みます。
逆に、叔父・叔母の子が全員放棄していないかは、家庭裁判所への照会で確かめられます。放棄の期限(3か月)は、別記事「実家の相続放棄を検討するときの確認」で扱います。
出典: e-Gov法令検索 民法(第939条)、仙台家庭裁判所「相続放棄の申述をされる方へ」
家族が知らない相続人の種類と、戸籍での確認先
第2章で書き出した候補に、家族が把握していない人を足す作業です。
相続人が一人でも欠けた遺産分割協議は無効で、相続登記も、その先の売却も止まります。家族が知らないことの多い相続人の種類と、「誰の戸籍に出てくるか」という確認先を押さえておきましょう。
その戸籍をいつからいつまで何通集めるか、どう取り寄せるかは、別記事「相続人確認に必要な戸籍の集め方」で扱います。
前婚の子・認知された子は亡くなった親の過去の戸籍に出る
経験者がもっとも驚く相続人が、親の前の結婚で生まれた子(前婚の子)と、結婚していない相手との間に生まれて認知された子です。
どちらも、今の家族の子と同じ第1順位の相続人です。
今の戸籍だけを見ても、この人たちは出てきません。再婚後に作られた戸籍には、前の配偶者も前婚の子も載らないためです。離婚のときに子が母親の戸籍に移っていても、父と子の親子関係はそのまま続いています。
認知された子も同じです。認知は父の戸籍の身分事項欄に「認知」として記載されますが、子本人は母の戸籍に入っています。父の家族が知らないまま、戸籍の上では相続人になっています。
戸籍は、結婚・離婚・転籍(本籍地の移動)・法改正による作り直し(改製)のたびに新しく作られます。そのとき、前の戸籍に書かれていた離婚や認知などの身分事項には、新しい戸籍に移されないものがあります。
このため、亡くなった親の「今の戸籍」ではなく「過去の戸籍」までさかのぼって見る必要があります。どこまでさかのぼるかは、別記事「相続人確認に必要な戸籍の集め方」で扱います。
養子に出た兄弟姉妹も実家の相続人に残る
「弟は子どもの頃に親戚の家に養子に行ったから、実家とは関係ない」と考える家族は多いのですが、たいていは誤りです。
養子縁組には2種類あります。一般的な養子縁組(普通養子縁組)では、養親との親子関係ができても、実の親との親子関係はそのまま残ります。
つまり養子に出た兄弟姉妹は、養親の相続人であると同時に実家の親の相続人でもあり、実家に残った兄弟姉妹と同じ立場です。
実親の相続人でなくなるのは、特別養子縁組の場合に限られます。特別養子縁組は原則として幼い子を対象とした制度で、実親との法律上の親子関係が終了します。
戸籍での見分け方は、続柄の書き方です。普通養子は養親の戸籍に「養子」「養女」と書かれますが、特別養子は「長男」「長女」のように実子と同じ続柄で書かれ、身分事項に特別養子縁組であることが分かる記載(民法817条の2による縁組)が入ります。
養子に出た兄弟姉妹が実家の親より先に亡くなっている場合は、第2章のとおり、その子(甥・姪)が代襲して相続人になります。実親との血のつながりは縁組で消えないので、その子が縁組の前に生まれていても後に生まれていても代襲します。
逆の向き、つまり実家の親が他家から養子を迎えていた場合は、親の戸籍に続柄「養子」「養女」で載っています。家族が知らない養子がいないかも、親の戸籍で確かめられます。
ただし、迎えた養子については別の決まりがあります。迎えた養子が親より先に亡くなっていた場合、養子縁組より前に生まれていた養子の子は、養親との血族関係が生じないため、養子を代襲する相続人から外れます。
2024年11月12日の最高裁判決も、養子縁組前に生まれた養子の子は代襲相続人にならないという考え方を前提に判断しています。縁組の後に生まれた子だけが代襲します。
出典: e-Gov法令検索 民法(第727条・第809条・第817条の2・第817条の9)
兄弟姉妹が相続人なら両親それぞれの戸籍で確かめる
子のいない人の相続(第2章の④の型)では兄弟姉妹が相続人になり、確かめる戸籍の範囲が、子が相続人の場合とは違ってきます。
まず見るのは、亡くなった人の父の過去の戸籍と、母の過去の戸籍の両方です。父が前の結婚でもうけた子、母が前の結婚でもうけた子は、亡くなった人から見れば異母・異父の兄弟姉妹で、相続人です。
父の戸籍で分かるのは父側の兄弟姉妹までで、母側の兄弟姉妹は母の戸籍で初めて分かります。
次に、兄弟姉妹の中に先に亡くなった人がいれば、その子(甥・姪)が代襲相続人です。絶縁して何十年も会っていない兄弟・姉妹でも、その子が相続人になります。
さらに、兄弟姉妹が相続人だと言えるためには、亡くなった人の親に加えて祖父母も亡くなっていることを確かめる必要があります。第1章の順位どおり、直系尊属が一人でも存命なら、相続人はその直系尊属で止まるためです。
兄弟姉妹・甥姪の戸籍は、自分の直系(親・祖父母・子・孫)ではないため、本人や直系の家族の戸籍より取るのに手間がかかります。
2024年3月に始まった、全国どこの市区町村でも戸籍を取れる広域交付制度も、本人・配偶者・直系尊属・直系卑属の戸籍だけが対象で、兄弟姉妹の戸籍は対象外です。
それだけに、「誰の戸籍を確かめればよいか」を先に絞っておくと、集める手間を減らせます。取り方は、別記事「相続人確認に必要な戸籍の集め方」で扱います。
出典: 法務省「戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)」
相続人の種類ごとの確認先一覧
家族が知らないことの多い相続人を、「誰の戸籍に・どの記載で出てくるか」で1つの表にまとめます。
| 相続人の種類 | 出てくる戸籍の持ち主 | 見る記載 |
|---|---|---|
| 前婚の子 | 亡くなった親(過去の戸籍まで) | 婚姻・離婚の記載と、その間に生まれた子の記載 |
| 認知された子 | 亡くなった親(父)の過去の戸籍 | 身分事項欄の「認知」 |
| 養子(迎えた養子・出した養子) | 養親の戸籍と実親の戸籍の両方 | 続柄「養子」「養女」。特別養子は実子と同じ続柄+特別養子縁組の記載 |
| 異母・異父の兄弟姉妹 | 亡くなった人の父の戸籍と母の戸籍それぞれ(過去の戸籍まで) | 子の記載 |
| 絶縁した兄弟姉妹の子(甥・姪) | 先に亡くなった兄弟姉妹の戸籍 | 子の記載 |
この表で確かめた結果、「自分は相続人ではなかった」と分かることもあります。たとえば、音信不通だった兄が亡くなって自分が相続人だと思っていたら、兄の戸籍に養子がいて、第1順位の相続人がいるため自分は相続人ではなかった、という例があります。
面倒な相続に巻き込まれずに済んだという意味で、これも確かめる価値のある結果です。「自分が相続人か」も、相手の戸籍を確かめるまで決めつけずにおきましょう。
親が存命のうちに相続人を確認する方法と限界
親が存命のうちにできる確認は、親の戸籍から分かる血族関係の把握までです。
親が存命で「先のことを考えておきたい」段階の人に向けた章です。生前に取れるのは親の戸籍で、兄弟姉妹の戸籍と法定相続情報一覧図は手に入らず、確かめた相続人も「見込み」にとどまります。遺言や生前対策は、相続人の特定とは別の話になるため省きます。
親の戸籍は子が存命中でも取れる
子は親の直系卑属なので、親の戸籍を「本人等」として請求できます。
親の同意も委任状も要らず、本人確認書類があれば、親が存命でも子が自分の判断で取れます。
親の今の戸籍に加えて、過去の戸籍(除籍謄本・改製原戸籍謄本)までさかのぼって取れば、第4章で説明した前婚の子・認知した子・養子縁組の有無が分かります。
親が亡くなった後に初めて知って動揺するよりも、生前に家族関係を把握しておけるのは大きな違いです。
ここで得をするのが、過去の戸籍の扱いです。過去の戸籍(除籍・改製原戸籍)はすでに閉じられた戸籍で、記載はそのまま固定されます。
相続の手続きでは戸籍に法律上の有効期限はなく、生前に取った過去の戸籍は、相続が始まった後の手続きにもそのまま使える可能性が高いのです。相続開始後に取り直すのは、死亡の記載が入る最後の戸籍だけで済みます。
ただし、提出先によっては独自に「発行から何か月以内」と期限を設けることがあるので、使う前に提出先に確かめてみてください。
請求先・持ち物・全国どこでも取れる広域交付の使い方は、別記事「相続人確認に必要な戸籍の集め方」で扱います。
出典: 法務省「戸籍の窓口での『本人確認』が法律上のルールになりました」
親の同意は要らないが伝えてから取る
法律上、子が親の戸籍を取るのに同意は要らず、親に知られずに取ることもできます。
ただ、「黙って取れる」と「黙って取るべき」は別です。
まず、親に知られる可能性です。「本人通知制度」という、本人以外の第三者に戸籍が交付されたことを本人に知らせる制度を持つ自治体があります。
これは国の法律で全国一律に決まった制度ではなく、導入している自治体と導入していない自治体があり、運用も自治体ごとに違います。
多くの自治体では、本人や同じ戸籍に載っている人からの請求は通知の対象外です。ただし「同一戸籍に記載されている人からの請求」だけを対象外とし、結婚して別の戸籍になった子からの請求を通知対象に含めると読める自治体もあります。
つまり自治体によっては、子が取った事実が親に通知されることがあり得ます。
それ以上に大事なのは、親との関係です。相続の準備は親から見れば「自分の死後の話」であり、「財産を狙っているのか」と受け取られやすい話題です。
「相続のとき相続人が誰になるのか、家族関係を確認しておきたい」と目的をはっきり伝えてから取ると、親との関係を壊さずに進められます。
もう1つ、戸籍の外にある情報があります。疎遠な親族の今の連絡先や、親の兄弟姉妹の家の事情、前の結婚のいきさつは、戸籍のどこにも書かれていない事柄です。
親が元気なうちなら、こうした事情を本人に直接聞けます。生前に動くいちばんの利点は、ここにあります。
出典: 参議院「戸籍謄抄本等の不正請求事件並びに本人通知制度に関する質問に対する答弁書」、総務省 行政相談事例「戸籍の証明書が第三者に取得された」
兄弟姉妹の戸籍と法定相続情報一覧図は生前には手に入らない
一方で、生前には取れないものが2つあります。
1つ目は、兄弟姉妹の戸籍です。兄弟姉妹は直系ではないため、「本人等」としての請求の枠から外れます。
本人等以外が戸籍を請求するには、「自分の権利を行使するために戸籍の記載を確認する必要がある」などの正当な理由を示す必要があります。
親が存命のうちは相続はまだ始まっておらず、兄弟・姉妹は「将来の相続人の見込み」にすぎないため、この理由は立たないと考えられています。
親が亡くなった後であれば相続人同士として互いの戸籍を請求できる場合がありますが、生前は原則として取れない前提で動きましょう。
兄弟姉妹の戸籍で確かめたいこと、たとえば兄弟・姉妹に養子がいないか、兄弟・姉妹の子が何人いるか(兄弟・姉妹が先に亡くなった場合の代襲相続人)といった確認は、相続が始まった後に持ち越すことになります。
2つ目は、法定相続情報一覧図です。これは法務局が相続関係を証明してくれる書類ですが、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍をもとに作る書類なので、作れるのは相続が始まった後です。
詳しくは別記事「法定相続情報一覧図の作成と使い方」で扱います。
出典: 法務省「戸籍の窓口での『本人確認』が法律上のルールになりました」、法務局「法定相続情報証明制度について」
生前に確認した相続人は見込みにすぎない
生前に確認できる相続人は法律上「推定相続人」と呼ばれる見込みの人で、確定するのは親が亡くなった時点の家族関係によってです。
生前の確認のあとで顔ぶれが変わる原因は、主に4つあります。
- 親の再婚で、新しい配偶者が相続人に加わる
- 養子縁組で、親が孫や子の配偶者を養子にすれば相続人が一人増える
- 認知で、親が子を認知すれば相続人が増える
- 相続人の先死亡で、子が親より先に亡くなればその子(孫)が代襲する
この中で実家の相続で実際に起きやすいのが、養子縁組です。親が晩年に同居している子の配偶者や孫を養子にしていて、他の子が知らないまま相続人が一人増えていた、という例があります。
養子縁組は当事者だけで届け出ができるので、他の家族が知らないまま成立していることがあります。
したがって、生前の確認は「一度やれば終わり」ではなく、定期的に見直す前提で考えておきましょう。相続が始まったら、死亡の記載がある最後の戸籍で改めて相続人を確定させます。生前の確認は、そのときの驚きを減らすための準備です。
まとめ:実家の相続人は同居や介護ではなく、民法の順位と戸籍で決まる
実家の相続人は、同居・介護・長男といった事情ではなく、民法の順位と戸籍に書かれた家族関係だけで決まります。上の順位に一人でもいれば下の順位は関わらず、「要らない」と言っている兄弟・姉妹も、家庭裁判所で相続放棄が受理されていない限り相続人のままです。
次の一歩は、実家の名義人として亡くなった人を中心に家系図を書き、亡くなった年まで書き込んで候補を挙げることです。これを飛ばして「たぶんこの人たち」で遺産分割協議を進めると、前婚の子や代襲相続人が一人欠けていただけで協議は無効になり、相続登記も売却も止まります。
候補がそろったら、亡くなった人の過去の戸籍までさかのぼり、家族が知らない相続人がいないかを確かめてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、相続人の順位や家系図での候補の整理、相続放棄の照会や前婚の子・養子の確かめ方も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。

