実家についての家族の話し合いの進め方|事実・希望・費用・期限の順に話す

実家のこれからを家族で話したいのに、何から切り出せばよいか分からず、帰省のたびに先送りしている人は多くいます。

親子で実家の処分について話したことがある人は29.5%にとどまり、進まない原因は切り出し方の上手下手より、「何をどの順番で話すか」が決まっていないことにあります(すむたす調べ)。

議題を「事実→希望→費用→期限」の順に分けて進める形から、兄弟・姉妹への連絡、親への切り出し方、先延ばしにできない3つの期限、合意メモと役割分担の残し方まで、話し合いが止まらずに続く進め方をまとめました。

実家の話し合いは「事実→希望→費用→期限」の流れで進める

「何から話せばいいのか」への答えは、議題を4つに分けて、感情が入りにくい順に並べることです。

この4つを1枚の紙にして持ち込むと、第1回の話し合いが雑談で終わらず、次につながる形で閉じられます。

「売る・残す」は最後に回し、感情が入りにくい順に話す

いちばん多いつまずきは、「この家、売るの? 残すの?」という二択から入ってしまうことです。

2026年のすむたす調査で、兄弟・姉妹の意見が割れた人に対立の中身を聞くと、1位は「売却するか残すか」で62.5%でした(回答者8人の参考値)。

結論から入ると、材料がそろわないうちに立場だけが決まり、あとは意地の張り合いになります。

そこで、議題を次の4つに分けましょう。

順番議題話すことまだ話さないことこの段階の到達点
1事実名義・ローンの有無・評価額の桁・書類の置き場所評価額の使い道、売る/残す全員が同じ情報を持つ
2希望親の希望・子それぞれの希望・譲れない線希望への賛否、実現できるか希望が3列で紙に並ぶ
3費用住み続ける/空き家で持つ/手放すの費用の桁誰が払うか、見積もり3通りの桁が見える
4期限いつまでに何を決めるか売る/残すの結論期限と次回日程の合意

なぜこの順番かというと、感情が入りにくい順だからです。

事実は書類に書いてあることなので、誰の意見でもなく、全員が同じものを見られます。希望は気持ちの話ですが、「聞くだけ」にすれば衝突せずに済みます。

費用は数字なので、気持ちより先に進めます。期限は「決め方の約束」なので、中身を決めなくても合意できます。「売る・残す」は、この4つがそろって初めて話せる議題です。

言葉の選び方も1つ決めておきましょう。親の前では「相続」という言葉を使わず、「この家のこれから」で通します。理由と言い方の例は3章にまとめています。

経験者の声:議題を紙にせず集まると雑談で終わる

「せっかく兄弟・姉妹がそろったのに、何を聞けばいいか分からず、結局は昔話と近況報告で終わりました。次に集まれたのは1年後でした」(母の実家のこれからを兄弟・姉妹で話し合い始めた方)

事実: 登記事項証明書と課税明細書で揃える項目

事実の段階でそろえるのは、「誰の名義か」「ローンは残っているか」「評価額はいくらの桁か」「重要な書類はどこにあるか」の4つです。

親に頼らなくても子が自分で確認できる方法を知っておくと、情報の差が一気に縮まります。

1つ目は登記事項証明書(昔の言い方では登記簿謄本)です。所有者でなくても、誰でも法務局で取れます。

手数料は2025年4月1日に改定されました(法務省)。

  • 窓口で請求すると600円
  • オンラインで請求して窓口で受け取ると490円
  • オンラインで請求して郵送してもらうと520円

改定前は、オンラインで請求して窓口で受け取ると480円、郵送してもらうと500円でした。窓口で請求する600円は、改定の前後で変わっていません(法務省)。

この1枚で、家と土地の登記上の名義人と、「抵当権」が付いているか(住宅ローンなどの借入が残っている可能性)が分かります。

実は、ここで驚く人もいます。実家の名義が親ではなく、亡くなった祖父母のままになっている家があるからです。

その場合、将来の手続きには祖父母の相続人全員が関わることになり、手間が何倍にもふくらみます(マネーポスト)。親が「全部わかっている」と言っていても、書類で確かめる価値は十分あります。

2つ目は固定資産税の課税明細書です。毎年4〜6月ごろ(東京23区は6月、多くの自治体は4〜5月)に、納税通知書と一緒に所有者の元へ届きます。

土地と家屋の評価額(「価格」の欄)と年間の税額が載っているので、「この家はいくらの桁か」「毎年いくら税金がかかっているか」が一度に分かります。

ただし、この書類が届くのは所有者である親だけです。親が存命のうちは、不動産の一覧である名寄帳も子は原則として取れず(取れるのは本人・相続人・代理人)、課税明細書は親に「見せてもらう」書類になります。

「毎年来る固定資産税の紙、今年の分どこにある?」と聞くだけで十分です。

3つ目は、住宅ローン・火災保険・権利証などの重要書類です。中身まで見る必要はなく、「ある/ない」と「置き場所」だけ分かれば十分です。

親の通帳や金庫を勝手に開けるのは避けましょう。親からは「財産を探った」と受け取られ、以後の話し合いが全部疑われます。

そして、この段階では不動産会社の無料査定を取らずにおきます。査定を頼むと売却前提の連絡が続きますし、親に知られれば「もう売る気なのか」と見えます。

評価額の桁は課税明細書で分かります。査定を取るタイミングは6章にまとめています。

経験者の声:親の「わかっている」を書類で確かめてよかった

「父は『この家のことは全部わかってる』と言っていましたが、登記事項証明書を取ったら名義は亡くなった祖父のままでした。先に分かったので、相続が起きる前に手を打てました」(父の実家の名義を兄弟・姉妹で確認した方)

出典: 法務省 登記手数料出典: 法務省民事局 各種証明書等の手数料が変わります(PDF)出典: 横浜市 固定資産税・都市計画税の課税明細書

希望: 親・子それぞれ・譲れない線の3列に分けて並べる

事実がそろったら、次は希望を聞いて紙に並べます。

ここで大事なのは、親の希望を先に聞くことと、出てきた希望を否定も採点もしないことです。

親の希望は、1つにまとまっていないのが普通です。「この家に住み続けたい」「いずれ子どもに住んでほしい」「子どもに迷惑はかけたくない」が同時に混ざっています。

調査でも、親世代の75.9%が今の家に住み続けたいと答える一方、30.6%が自分の死後は子や親族に住んでほしいと望み、実際に住みたい子は13.5%にとどまりました(すむたす調査、幻冬舎ゴールドオンライン)。

この「ずれ」は悪いことではなく、紙に書いて見えるようにすることが希望の段階の目的です。

書き方は、次の3列です。

親の希望子それぞれの希望譲れない線
住み続けたい/子に住んでほしい/迷惑はかけたくない、など親の言葉のまま住む予定はあるか、管理に通えるか、どれくらいなら費用を出せるか親が元気なうちは住み続けること、特定の子に負担を集中させないこと、など

子の希望は「住む/住まない」「管理に通える距離か」を正直に出してみてください。「住まないけれど、手放すのは寂しい」でもかまわず、それも希望の1つとして書きます。

「譲れない線」は、これだけは守りたいという条件です。親なら「自分の目が黒いうちは住む」、子なら「月に1回以上の管理は無理」のように書き出しておくと、後で費用や役割を決めるときの判断の基準になります。

この段階で「それは無理だよ」「現実的じゃない」と言うのは禁止です。聞いて書くにとどめます。親への聞き方は3章、兄弟・姉妹への聞き方は2章にまとめています。

費用: 住み続ける・空き家で持つ・手放すの3通りで桁を揃える

希望が並んだら、費用の桁をそろえます。

「住み続ける」「空き家で持つ」「手放す」の3通りについて、毎年かかるものと一度にかかるものを分け、金額の「桁」だけを並べます。見積もりは取らず、「誰が払うか」も5章まで持ち越します。

選択肢毎年かかるもの一度にかかるもの
住み続ける固定資産税、火災保険、光熱費修繕(屋根・外壁・水回り)、介護に合わせた改修
空き家で持つ固定資産税、火災保険、通う交通費、管理を頼むなら委託費傷んだ所の修繕、片付け
手放す(手放した後はかからない)解体費、仲介手数料、譲渡所得にかかる税金、片付け

固定資産税の年額は、事実の段階で見た課税明細書にそのまま書いてあります。修繕や解体は家の大きさや地域で大きく変わるので、「十万円の単位か、百万円の単位か」まで分かれば十分です。

金額をきっちり出そうとすると、調べる人の負担が増え、数字の正しさをめぐって別の争いが起きます。費用を細かく出した途端に、話し合いが止まった例もあります。

経験者の声:費用を細かく出したら全員が黙った

「解体費の見積もりを取って金額を出したら、兄弟・姉妹が全員黙ってしまいました。『誰が払うの』という空気になって、その日はそこで終わりでした。桁だけ共有して、払い方は別の日に話せばよかったと思います」(実家の維持費を兄弟・姉妹で整理した方)

期限: 「いつまでに何を決めるか」の合意で第1回を終える

第1回の話し合いは、結論を出さずに終えます。

到達点は「希望が3列で並んだこと」と「いつまでに何を決めるかの合意」の2つです。

期限の置き方は、「お盆までに全員の希望をそろえる」「年内に住む・持つ・手放すの方針を決める」のように、日付と決める中身をセットにします。

相続に詳しい専門家も、その場で全部決めようとせず「お盆までの宿題」のように期限を区切って親に考えてもらう進め方を勧めています(オールアバウト専門家プロファイル)。

期限が必要な理由は、実家のこれからに「決めないと勝手に決まってしまう」制度上の期限が3つあるからです。その中身は4章、決めたことと決まっていないこと、次回の日程の残し方は5章にまとめています。

一度で全部決めようとすると、全員が疲れて、次の機会を作れなくなりがちです。「今日はここまで」と区切る勇気が、話し合いを続けるいちばんの近道です。

経験者の声:一度で決めようとして二度と開けなくなった

「最初の帰省で売る・残すまで一気に決めようとして、全員がくたびれて険悪になりました。それから3年、誰もこの話を持ち出せませんでした。期限だけ決めて終わる形を知っていれば、と思います」(実家のこれからの話し合いをやり直した方)

兄弟姉妹と先に足並みを揃えるコツ

親に切り出す前に、兄弟・姉妹と足並みをそろえておきます。

といっても、「まだ誰も話していない」のが普通です。

2026年のすむたす調査では、実家について兄弟・姉妹と話したことがある子世代は20.0%にとどまり、話した人のうち40.0%は意見が割れた経験がありました(回答者が少ない参考値です)。

足並みをそろえる手順は、次の5つです。

  • 親より先に全員へ連絡し、疎遠でも事後報告にしない
  • 最初の連絡は事実と質問だけにし、金額と分け方は書かない
  • 参加は法定相続人だけにし、配偶者には各自が家で伝える
  • 介護の負担は相続の分け方と切り離して話す
  • 売る・残すより先に、住めるか・通えるか・出せるかを聞く

親より先に全員へ連絡し、疎遠でも事後報告にしない

最初の連絡は、親より先に、兄弟・姉妹の全員へ送ります。

順番を間違えると、中身がどれだけ正しくても「勝手に決めるな」で揉めます。

よくあるのが、親と同居している子や近くに住む子が、親と二人で方針を決めてから遠方の兄弟・姉妹に知らせる形です。

相続問題に詳しい弁護士も、同居・近居の子だけで決めると遠方の兄弟・姉妹が取り残されて揉めやすいと指摘しています(北村真一弁護士、マネーポスト)。

疎遠な兄弟・姉妹も外さずに入れておきましょう。親の子である限り、将来の手続きでは最後まで関わる相手で、今連絡しなくても必ず後で戻ってきます。そのときに「聞いていない」と言われると、それまでの合意が白紙になります。

疎遠な相手には、電話よりメールやLINEなどの文字で短く送り、「○日までに返事がほしい」と期限を添えると、相手も返しやすくなります。

経験者の声:疎遠な弟に連絡しなかったら全部やり直し

「弟とは10年近く連絡を取っていなかったので、姉と二人で親と話を進めました。あとで弟に伝えたら『聞いてない』の一言で、決めたことが全部白紙に戻りました」(姉弟3人で実家のこれからを話し合った方)

経験者の声:事後報告の一度で提案が全部疑われるようになった

「兄が親と決めた後に報告してきたことがあって、それ以来、兄が何を提案しても『また決めてから言ってるんじゃないか』と疑うようになってしまいました」(兄と実家の管理を分担している方)

最初の連絡は事実と質問だけにし、金額と分け方は書かない

最初の連絡に書くのは、1章で確認した事実(名義・ローンの有無)と「親に聞きたい質問」の2つです。

評価額や維持費の金額、「売る・残す」の意見は書かずにおきます。

金額を書かない理由は、数字だけが一人歩きするからです。「評価額2,000万円」とだけ書かれたメッセージを見た兄弟・姉妹は、その数字を「分け前」として読みます。親に転送されれば「もう売る気なのか」になります。

金額の話は、全員で顔を合わせて桁をそろえるとき(1章の費用の段階)まで取っておきます。

文面は、「親の希望を聞くための相談」という形にします。

実家のこれからについて、父さん・母さんの希望を一度ちゃんと聞いておきたいと思っています。その前に、みんなで何を聞くかそろえたいです。登記を確認したところ、家と土地の名義は父さんで、ローンの抵当権は付いていませんでした。親に聞いておきたいことがあれば、○日までに返事をもらえると助かります。売る・残すを決める相談ではなく、まず希望を聞くための準備です。

事実の中身のそろえ方は1章のとおりで、ここでは「全員に渡す」ことだけが目的です。

経験者の声:グループLINEに評価額を書いたら炎上した

「兄弟・姉妹のグループLINEに固定資産税の評価額をそのまま書いたら、『それを3人で割るってこと?』『勝手に売る話をするな』と返事が来て、収拾がつかなくなりました」(兄弟・姉妹3人で実家のこれからを相談し始めた方)

参加は法定相続人だけにし、配偶者には各自が家で伝える

話し合いの席に着くのは、親と、その子(将来の法定相続人)だけにします。

兄弟・姉妹の配偶者は同席させず、各自が家に持ち帰って伝えます。

理由は2つあります。親は「外野」がいると口を閉じること、そして兄弟・姉妹も配偶者の前では本音を言わないことです。「本当は住みたくない」「管理に通うのは無理」といった正直な希望は、配偶者が隣にいると出てきにくくなります。

これは隠し事ではなく、決まったことと決まっていないことを各自が家で正確に伝える、という分担です。5章の合意メモを使えば、伝え漏れも防げます。

なお、兄弟・姉妹の配偶者が親の介護を担っている場合は、別の配慮が要ります。

相続人でない親族が無償で介護をした場合、将来「特別寄与料」(民法1050条)を請求できる可能性があります。

ただし請求できる期間は、相続の開始と相続人を知ったときから6か月、相続開始から1年と短く定められています(e-Gov法令検索)。

手続きの中身は省きますが、「介護してくれている人の立場をどう守るか」は、席に着かなくても議題には入れておきます。

経験者の声:兄嫁が同席して兄が本音を言えなかった

「兄が奥さんを連れてきた回は、兄がずっと奥さんの顔色を見ていて、本音が全然出ませんでした。次から『家族だけで』とお願いしたら、兄から『実は住むつもりはない』と初めて聞けました」(兄と実家のこれからを話し合った方)

出典: e-Gov法令検索 民法 第1050条(特別の寄与)

介護の負担は相続の分け方と切り離して話す

親の介護をしている兄弟・姉妹がいる場合、その不満を「相続で取り返す」という方向に流さないよう先に手を打ちます。

知っておくと得をする、少し厳しい事実があります。

介護をした相続人が多くもらえる仕組みとして「寄与分」がありますが、認められるには「特別の寄与」であることが必要です。

親子として通常期待される範囲の世話(扶養の範囲内)は寄与にあたらず、同居や家事の負担だけでも特別な寄与とはいえないとされています(相続税専門の税理士法人の解説)。

法律事務所の解説では、親が要介護2以上に相当する状態だったことや、介護の内容を記録で証明できることが目安として挙げられています(法律上の要件ではなく目安です)。

実際に、再雇用を断念して母親を介護した長男が、弟たちに「介護は当然」と言われ、家庭裁判所の調停でも介護の実態を証明できず寄与分を認められなかった例があります(マネーポスト)。

さらに、2023年4月1日施行の民法改正で、相続開始から10年を過ぎると、原則として寄与分や特別受益を反映した分け方ができなくなりました(民法904条の3、e-Gov法令検索)。

つまり、「介護したぶんは相続のときに」という期待は、要件が厳しいうえに時間切れもあります。

そのため、介護している兄弟・姉妹の負担は、今の費用分担や、親の財産からの手当て(5章)で解消する方が現実的です。

話し合いの入口では、まず「私ばかり」という気持ちを受け止めておきましょう。「ずっと一人でやってくれていたんだね」と言われるだけで、家の話と介護の話を分けて考えられる人は多くいます。

経験者の声:介護の恨みが家の話を飲み込んだ

「介護を一人でしてきた姉が話し合いの途中で爆発して、家をどうするかの話が『あなたたちは何もしなかった』という話になりました。先に姉の負担をちゃんと聞いておくべきでした」(姉と実家の管理を話し合った方)

出典: e-Gov法令検索 民法 第904条の3出典: 法務省 遺産分割に関する民法改正の概要(PDF)

売る・残すより先に、住めるか・通えるか・出せるかを聞く

兄弟・姉妹の間で聞き合う議題も、結論の「売る・残す」ではなく、その手前の3つにします。

「この家に住む予定はあるか」「管理に通える距離に住んでいるか」「費用をどのくらい出せるか」です。

兄弟・姉妹の対立の上位は、結論(売却か維持か)62.5%、役割(誰が管理・対応するか)50.0%、費用負担37.5%でした(すむたす2026、参考値)。

結論は、住む人がいるか・通える人がいるか・出せる人がいるかで、ほぼ自動的に絞られます。

順番を逆にして結論から入ると、「残したい」と言った人が「じゃあ、あなたが管理してね」と言われて黙る、という流れになります。

ここでは聞くにとどめます。「じゃあ兄さんが管理ね」と役割を決めるのも、「費用は3等分」と決めるのも、5章の段階まで持ち越しましょう。

親が心を閉ざさない切り出し方のコツ

兄弟・姉妹と足並みがそろったら、親に切り出します。

ただし、いきなり家族会議を開くのは避け、まず親一人と二人で話し、家族会議は親から招集してもらいます。この順番にすると、親のプライドが守られ、子は「お金目当て」と疑われずに済みます。

親に切り出すときのコツは、次の5つです。

  • 「相続」「処分」を使わず「この家のこれから」で切り出す
  • 子の不安を主語にして、親の希望を先に聞く
  • まず親一人と二人で話し、家族会議は親から招集してもらう
  • 帰省・法事・体調の変化・テレビの特集をきっかけにする
  • 家の歴史と困りごとから聞くと、親の希望が言葉になる

「相続」「処分」を使わず「この家のこれから」で切り出す

親に対しては、「相続」「処分」「実家じまい」という言葉を使わずに切り出します。

親の耳には、どれも「自分が死んだ後の話」に聞こえるからです。

ファイナンシャルプランナーは、いきなり「家の処分をどうしようか」と切り出すと、親に「カネがほしいのか」「死んでくれと言っているのか」という拒否反応が起きて話が進まなくなる、と指摘しています(マネーポスト)。

この2つの反応を、言葉選びで先回りして潰します。

避ける言い方使う言い方
「この家の相続についてなんだけど」「この家、これからどうしたい?」
「家の処分、どうする?」「この家で困っていることない?」
「実家じまいの話をしたい」「お母さんはこれからこの家をどうしたいの?」

「この家の相続についてなんだけど」は、専門家がNG例として挙げている言い方です(ファイナンシャルフィールド)。

逆に「お母さんはこれからこの家をどうしたいの?」は、親の意向を尊重する聞き方として勧められています(マネーポスト)。

主語を「家」に、時間を「これから」にするだけで、同じ内容でも親の受け取り方が変わります。1章で「相続の語を使わない」と書いた理由はここにあります。

経験者の声:「相続」と口にした瞬間に顔色が変わった

「軽い気持ちで『相続のことも考えておかないとね』と言ったら、父の顔色が変わって、その日は一言も話してくれませんでした。次からは『この家、これからどうしたい?』に変えたら、少しずつ話してくれるようになりました」(父と実家のこれからを話した方)

子の不安を主語にして、親の希望を先に聞く

切り出すときの主語は「子の不安」にします。

「もしものとき、何も知らなくて困るのが怖い」。この言い方は、親を責めず、お金にも触れずに、自分の不安を正直に出す形です。そのため親も構えずに済みます。

そして、親の希望を先に聞きます。実家の話し合いを円滑に進めるコツの1位は「親の意見を聞く」32.0%でした(AlbaLink調査)。子の希望や提案は後回しにしましょう。

お金の話は、親の口から出るまで待ちます。親が「ローンはもう終わってるから」「固定資産税が毎年きつくてね」と自分から言い出したら、そこで初めて「毎年いくらくらい?」と聞けます。

子から「いくらの家なの?」と切り出すのは、この段階ではまだ早いといえます。

親の希望は「住み続けたい」「子に住んでほしい」「迷惑はかけたくない」が混ざっていることが多い、と1章で触れました。混ざったまま聞いて、混ざったまま書き留めておけば十分で、整理するのは家族会議のときです。

まず親一人と二人で話し、家族会議は親から招集してもらう

全員の前で切り出すのは避け、最初は話しやすい方の親と二人で話します。

母が話しやすければ母に、「お父さんにも聞いておいてほしい」と頼み、母から父へ伝えてもらう形でも進められます。

そして、家族会議は親から招集してもらいます。弁護士が勧める言い方は、親から子へ「次にみんな来たときに相続とかいろいろ相談したいから、希望があれば考えておいてくれ」と伝えてもらう形です(北村真一弁護士、マネーポスト)。

親が声をかけた体裁なら、子は「親が言うなら」と納得しやすく、言い出した子が「金目当て」と疑われる場面も避けられます。

実は、親も話したがっていることがあります。AlbaLinkの調査では、実家の話し合いを切り出した人は親が34.8%、子(自分)が32.2%、兄弟・姉妹が12.8%で、親が最多でした。

「親は嫌がるはず」という思い込みは、半分くらい外れています。

親の招集という形には、もう1つ利点があります。「子どもに決められた」ではなく「自分が集めた」という体裁になり、親のプライドが守られることです。この違いが、話し合いの最後まで親の態度を左右します。

経験者の声:正月に全員の前で切り出したら父が席を立った

「正月に親戚も集まっている席で『そろそろこの家のこと決めない?』と言ったら、父が黙って席を立ってしまいました。後で母と二人で話し、母から父に伝えてもらって、やっと翌年の盆に家族だけで集まれました」(両親と実家のこれからを話し合った方)

帰省・法事・体調の変化・テレビの特集をきっかけにする

切り出すきっかけは、作るより拾う方がうまくいきます。

AlbaLinkの調査で挙がった実際のきっかけは、次の4つです。

  • 親が高齢になった
  • 法事などで家族が集まった
  • 親に病気が見つかった
  • 親がテレビで見て関心を持った

帰省や法事は、全員がそろっていて、親も「家」や「この先」を意識しやすい場です。体調の変化は、親自身が「このままではいられない」と感じるときです。

テレビで空き家や実家の特集が流れた後は、親の方から「うちもどうするかねえ」と言い出すことがあります。そのときに「どうしたい?」と返せれば、それが第1回です。

親が「まだ早い」と言ったときは、言い争わず、期限表を一枚見せてみてください。制度上の期限を日付と「過ぎたらどうなるか」だけで並べた紙で、中身は4章にまとめています。

「今決めて」ではなく「決まったときにすぐ動けるように知っておきたい」と添えれば、親も身構えずに済みます。

認知症の兆しが見えたときは急ぎますが、詰めるのは逆効果です。親の判断能力が落ちると法律上できなくなることがある(4章)ので時間は限られる一方、急かされた親は口を閉じます。「少しずつ、何回かに分けて」が原則です。

経験者の声:テレビの空き家特集のあとに聞けた

「母がテレビで空き家の特集を見て『うちもこうなるのかねえ』と言ったので、『どうしたい?』と聞いたら、初めて『あんたたちに迷惑はかけたくない』と話してくれました」(母と実家のこれからを話した方)

家の歴史と困りごとから聞くと、親の希望が言葉になる

希望を直接聞いても親が言葉にできないときは、家の歴史と今の困りごとから入ります。

不動産の専門家は、「なぜここに家を建てたのか」「家にどんな思いを持っているのか」を親に話してもらえば、実家をどうすべきかが見えてくると言います(マネーポスト)。

建てた経緯、引っ越してきた年、子どもが生まれた部屋。語っているうちに、親の希望が「思い入れがあるから残したい」なのか、「古いし誰も住まないなら手放していい」なのか、自然と出てきます。

聞く順番は、重い話を後ろにします。専門家が勧める流れは次のとおりです(ファイナンシャルフィールド)。

  1. 家の不便な所、困っていること(段差、修繕が必要な場所)
  2. 防災用品や備蓄品の確認
  3. かかりつけ医、町内会長、民生委員などの連絡先
  4. 住まいの希望(住み続けたいか、引っ越しを考えているか)
  5. 住宅ローンの残りや、保険の加入状況
  6. 重要書類や貴重品の置き場所

最初の3つは「親の安全のための確認」なので、親も答えやすい項目です。そこから住まいの希望へ、お金へ、書類へと進みます。

一度に全部聞き切ろうとせず、何回かの帰省に分けて、話の流れに沿って少しずつで十分です。そろえる項目は1章の事実の段階にまとめてあるので、ここでは「聞く順番」だけ押さえておきましょう。

経験者の声:「建てたとき大変だった?」から話が止まらなかった

「『この家、建てたとき大変だった?』と聞いたら、父が当時のローンの話から近所づきあいまで1時間くらい話してくれて、最後に『でもお前たちに迷惑はかけたくない』と言いました。それが父の希望だったんだと分かりました」(父と実家の歴史を話した方)

実家の話し合いを先延ばしにできない3つの期限

1章で「いつまでに何を決めるか」を合意して第1回を終える、と書きました。その根拠が、次の3つの期限です。

どれも「決めないと勝手に決まる」性質を持っています。

  • 相続登記の義務(相続を知ってから3年以内)
  • 空き家の3,000万円特別控除(2027年末と相続から3年の年末の早い方)
  • 認知症による判断能力の低下(親が元気なうち)

期限表は「売る前提」ではなく選択肢を残すために見せる

期限表を親や兄弟・姉妹に見せる目的は、「売らせるため」ではなく「選択肢を残すため」です。

決めないまま期限を過ぎると、残す・貸す・売るのどれを選ぶにしても手間と費用が増え、選べる道が減ります。

見せる紙は、日付と「過ぎたらどうなるか」だけの一枚にします。

期限いつまで過ぎるとどうなるか期限の起点
相続登記の義務相続を知ってから3年以内(2024年4月より前の相続は2027年3月31日まで)10万円以下の過料の可能性。放置すると相続人が増える相続が起きた日
空き家の3,000万円特別控除2027年12月31日まで、かつ相続から3年を経過する日の属する年の12月31日まで(早い方)譲渡益に20.315%の税金がそのままかかる相続が起きた日
認知症による判断能力の低下親が元気なうち本人も家族も売却・賃貸の契約ができなくなる今(親が存命のうち)

ここで押さえておきたい区別があります。上の2つ(登記と特例)は、相続が起きた日から数え始める期限です。3つ目(認知症)は、親が存命の今、すでに進んでいる期限です。

この区別を押さえると、親に伝える言葉が変わります。「今決めろ」ではなく、「いざというときにすぐ動けるように、今のうちに希望だけ聞いておきたい」と言えます。

親に「売らせたいのか」と言われたときも、「売るか売らないかは父さん母さんの希望次第。ただ、決まったときに期限に間に合うように準備しておきたいだけ」と答えられます。

経験者の声:期限表を見せたら父が座った

「『売らせたいんだろう』と言われたとき、日付だけ書いた紙を見せて『決めるのは父さん。ただ、決まった後に困らないようにしたい』と言ったら、『そういうことなら』と父が椅子に座り直してくれました」(父と実家のこれからを話した方)

経験者の声:期限を出した途端に「売らせたいのか」と言われた

「空き家の特例の期限を先に出したら、母に『あんたは売らせたいのね』と言われて、しばらく口をきいてもらえませんでした。期限は『選択肢を残すため』と先に言うべきでした」(母と実家のこれからを話した方)

相続登記は3年以内、2024年4月より前の相続は2027年3月末まで

1つ目は相続登記です。

2024年4月1日から、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務になりました(法務省)。それより前に起きた相続も対象で、期限は2027年3月31日です。

正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります(法務省)。

遺産分割がまとまらない場合でも、「相続人申告登記」という簡単な手続きで、ひとまず義務は果たせます(法務局)。ただし家を売るには相続登記そのものが必要なので、申告登記は時間稼ぎにとどまります。

この期限を家族に見せる意味は、過料よりも「放置すると相続人が増える」ことにあります。登記しないまま相続人の誰かが亡くなると、その配偶者や子が新しい相続人として加わります。1章の「祖父母名義の家」は、こうして生まれます。

親が存命の今なら、相続人は親の子だけです。この人数のうちに希望をそろえておくことが、いちばんの備えになります。

経験者の声:登記しないまま兄が亡くなり、甥と姪が相続人になった

「祖父名義のまま放っておいたら、相続人だった兄が先に亡くなって、会ったこともない甥と姪が相続人に加わりました。連絡先も分からず、家の話は何年も止まっています」(祖父名義の実家を整理している方)

出典: 法務省 相続登記の申請義務化出典: 大阪法務局 相続登記の申請義務化について

空き家の3,000万円特別控除は2027年末と相続から3年の年末の早い方

2つ目は、相続した実家を売ったときの税金の特例です。

親が一人で住んでいた家を相続して売る場合、条件を満たせば、売って得た利益(譲渡所得)から最大3,000万円を差し引けます。相続人が3人以上なら上限は2,000万円です。この2,000万円の上限は、2024年1月1日以後の売却から適用されています(国税庁タックスアンサーNo.3306)。

期限は2つあり、早い方が適用されます。

  • 制度そのものの期限は、2027年12月31日までの売却
  • 個別の期限は、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで(国税庁)

相続が2026〜2027年に起きると、2つの期限が重なって猶予が極端に短くなります。使うには市区町村で「被相続人居住用家屋等確認書」を取る必要があり、それにも時間がかかります。

使えなかった場合の差は、桁で覚えておきましょう。長期保有の不動産を売った利益には、所得税15%・住民税5%に復興特別所得税を加えて合計20.315%の税金がかかります(国税庁タックスアンサーNo.3208)。

控除の3,000万円をまるごと使えた場合と使えなかった場合では、最大で約600万円の差になります。家族で分けるはずのお金が、期限を1つ過ぎただけでこれだけ減る、ということです。

なお、昔の耐震基準の家であることや売却額の上限など、ほかにも細かい要件があります。要件の細部は省き、「相続が起きたら期限が動き出す制度がある」とだけ期限表に載せておきましょう。

経験者の声:期限を知らずに4年目に売って兄弟が揉めた

「相続してからしばらく放っておいて、4年目に売りました。後から特例の期限を知って、税金の差を『誰のせいだ』と兄弟・姉妹で言い合いになりました。親が元気なうちに期限だけでも知っていれば」(相続した実家を売った方)

出典: 国税庁 タックスアンサーNo.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例出典: 国税庁 タックスアンサーNo.3208 長期譲渡所得の税額の計算

認知症で判断能力を失うと、本人も家族も売却と賃貸ができない

3つ目は、親が元気なうちにしか動かせない期限です。

親が認知症などで意思能力を失うと、親本人は家を売る・貸す契約ができなくなります。意思表示のときに意思能力がなかった法律行為は無効と、民法に定められています(民法3条の2、e-Gov法令検索)。

子が代わりに契約することもできなくなります。委任状を書いてもらおうにも、委任すること自体に判断能力が要るからです。結果として、「施設の費用にあてるために家を売りたいのに、売れない」という事態が起きます。

この状態で家を動かすには、家庭裁判所に申し立てて成年後見人を選んでもらう法定後見という制度を使うことになります。後見人は家庭裁判所が選ぶので、家族ではなく司法書士や弁護士が選ばれることもあります(三井のリハウス)。

さらに、本人が住んでいた家を売るには、家庭裁判所の許可が別に必要です(民法859条の3、e-Gov法令検索)。空き家の維持が大変という理由だけでは許可が下りない場合もあります(オールアバウト)。

元気なうちの備えとしては、任意後見や家族信託といった仕組みがあります。手続きや費用は省き、名前だけ挙げておきます。相談先の司法書士の持ち場は6章で一言触れます。

この期限だけは日付が決まっていない分、期限表の一番上に「親が元気なうち」と書いて、家族で共有しておく価値があります。

出典: e-Gov法令検索 民法 第3条の2・第859条の3

合意メモの残し方と役割分担の決め方

第1回の話し合いを終えたら、何を残し、誰が何を担うかを決めます。

ここをきちんとやると、次回が「振り出し」ではなく「続き」になります。

残し方と決め方は、次の5つです。

  • 合意・未決・担当・次回日程の4項目をメモにして全員へ送る
  • 異議は修正して再同意し、録音だけで済ませない
  • 役割は管理・連絡・記録・費用の4つに分け、遠方は費用で担う
  • 管理する人の交通費と手間を費用分担に換算する
  • 親が存命なら費用は親の財産から精算し、立替えは台帳に残す

合意・未決・担当・次回日程の4項目をメモにして全員へ送る

正式な議事録は要らず、誰か一人がメモを取り、その日のうちにメールやLINEで全員に送ります。

弁護士も、正式な議事録でなくてよいので合意内容や親の財産の情報を誰かがメモし、メールなどで全員に送ることを勧めています(北村真一弁護士、マネーポスト)。

メモに入れるのは次の4項目です。

  • [ ] 合意したこと(父が元気なうちは住み続ける、お盆までに全員の希望を出す、など)
  • [ ] 決まっていないこと(誰も住まなくなった後の方針、管理に通う頻度、など)
  • [ ] 担当(登記事項証明書は長男が取る、課税明細書は母が次回持ってくる、など)
  • [ ] 次回の日程(8月13日の夕方、実家で、など)

「決まっていないこと」を書くのがコツです。未決がそのまま次回の議題になるので、話が途切れずに済みます。

親の希望は、親の言葉のまま書きます。「迷惑はかけたくない」を「売却希望」と要約して書くと、親は「そんなつもりはない」になります。要約は子の解釈であって、親の希望ではありません。

もう1つ知っておきたいのは、親が存命のうちの家族の合意には、法的な拘束力がないことです。相続が起きた後に作る遺産分割協議書とは別物です。

それでも、拘束力がないからこそ、「言った・言わない」を防ぐ記録として残す価値があります。

次回の日程は、その場で決めて閉じます。決めずに別れると、実家の話は「重要だけれど緊急ではない」ことなので、必ず先延ばしになります。

経験者の声:決めたはずが次の帰省で「聞いてない」

「口頭で合意したつもりが、次の帰省で弟に『そんなこと聞いてない』と言われて、同じ話をもう一度やりました。その場でLINEに流しておけば済んだことでした」(弟と実家のこれからを話し合った方)

経験者の声:次回を決めずに別れたら3年空いた

「『また今度話そう』で別れたら、次に話せたのは3年後でした。その間に父の足が弱って、話せる時間も短くなっていました」(両親と実家のこれからを話した方)

経験者の声:「売却で合意」と書いたら母が「言ってない」

「メモに『実家は売却で合意』と書いて送ったら、母から『そんなこと言ってない。迷惑をかけたくないと言っただけ』と怒られました。母の言葉のまま書き直しました」(母の希望をメモにまとめた方)

異議は修正して再同意し、録音だけで済ませない

メモを送った後に「ここは違う」という異議が出たら、その項目を直して、もう一度全員の同意を取ります。

できれば、最終版には全員が「確認した」と返事をするか、署名を残します。弁護士は、異議や誤解のある項目は修正して再度同意を得て、できれば全員の署名まで取るとよいと述べています(北村真一弁護士)。

こうしておくと、その後の話し合いで各自が意見を曖昧にしにくくなります。

録音だけで済ませるのは避けましょう。録音は後から該当箇所を探すのが大変で、「あのときの言い方はそういう意味じゃなかった」という言い回しの争いに発展します。録音は補助にして、文字のメモを正本にします。

役割は管理・連絡・記録・費用の4つに分け、遠方は費用で担う

役割は、次の4つに分けると漏れが出にくくなります。

  • [ ] 管理(見回り、換気、草刈り、郵便物の確認)
  • [ ] 連絡(親、役所、業者、近隣との窓口)
  • [ ] 記録(合意メモの作成と送付、書類の保管)
  • [ ] 費用(支払いと精算の取りまとめ)

兄弟・姉妹の対立の上位には、「誰が管理・対応するか」50.0%、「費用負担」37.5%が入っていました(すむたす2026、参考値)。最初の合意で役割を決めておけば、対立のおよそ半分は起きる前に消えます。

遠方に住む兄弟・姉妹は管理には通えないので、遠方は費用で担う、と最初に決めておきます。誰も通えない場合は、管理を業者に委託して、その費用だけを全員で分担します。

自治体の空き家対策のパンフレットでも、誰が管理するかを親族で話し合って決めることや、自分で管理できない場合は専門業者に頼む方法が案内されています(稲沢市)。サービスの比較や相場は省きます。

2章で聞いた「住めるか・通えるか・出せるか」の答えが、ここでそのまま役割になります。通える人が管理、出せる人が費用、まめな人が記録と連絡というように、本人の得意と事情に合わせて決めてみてください。

管理する人の交通費と手間を費用分担に換算する

実家に通う兄弟・姉妹の交通費と時間を金額に置き換え、費用分担で相殺します。

管理を担う人を守るための決め事です。

たとえば、月に1回、往復1万円かけて通い、半日を使うとします。これを「交通費1万円+手間の分」として費用の台帳に載せ、その分だけ管理する人の費用負担を減らします。

手間を時給に置き換えるのが難しければ、交通費だけでも載せておきましょう。大事なのは、金額の正確さより「評価されている」という事実です。

これをしないと、2章で触れた「私ばかり」が再燃します。管理している人は黙って通い続け、ある日、相続の場面で不満が噴き出します。

そのときにはもう、2章で説明した寄与分の要件の厳しさが壁になります。今のうちに費用分担の中で評価しておく方が、後で揉めずに済みます。

経験者の声:毎月草刈りに通った兄に何の評価もなかった

「兄が毎月実家の草刈りに通っていたのに、そのことは誰も金額にしていませんでした。後で相続が均等になったとき、兄が『俺の交通費と時間はどこに行ったんだ』と言ったのは当然だったと思います」(兄と実家の管理を分担していた方)

親が存命なら費用は親の財産から精算し、立替えは台帳に残す

親が存命のうちは、固定資産税・修繕費・管理費は親の財産から出すのが原則です。

親の家の費用だからです。

子の誰かが払い続ける形にすると、それが不公平の種になります。「自分が払ってきたのだから多くもらえるはず」と思う人と、「頼んでいない」と思う人に分かれるからです。

自治体の資料でも、相続人の一人だけが固定資産税を負担してきたからといって当然に相続分が増えることはなく、遺産分割協議で考慮すべき事柄になる、とされています(長野県の空き家対策資料)。

加えて、子が払った分の扱いが後で贈与や特別受益の問題になることもあります。

税務の細かい話は省き、「不公平の種になる」とだけ覚えておきましょう。

どうしても立替えが必要なときは、領収書を残し、台帳に「いつ・誰が・何に・いくら」を書いて、親の財産から精算します。台帳は、記録担当が合意メモと一緒に全員に共有します。

経験者の声:立替えがうやむやで誰がいくら出したか分からない

「修繕のたびに手の空いている人が払っていて、気づいたら誰がいくら出したか誰も分からなくなっていました。領収書もばらばらで、精算は諦めました」(兄弟・姉妹で実家の費用を立て替えていた方)

家族だけで進まないときに頼れる第三者の選択肢と限界

ここまでの順番で進めても家族だけでは動かないときの選択肢を、軽い順に4つ並べます。

  • 親が信頼する中立な人に同席を頼む
  • 自治体の空き家相談窓口に相談する
  • ADRで話し合いの場を整える
  • 不動産会社の査定を複数社で取る

先に押さえておきたいのは、第三者は「結論を出す人」ではなく「場を整える人」だということです。結論まで専門家に委ねると、不動産会社なら売却へ、法律家なら手続きへと、その人の得意な領域へ話が寄っていきます。

実家の話し合いを円滑に進めるコツで「第三者に相談する」は25.0%で3位でしたが(AlbaLink調査)、使い方を間違えると逆効果になります。

親が信頼する中立な人に同席を頼み、口を出す親戚は入れない

親が子の前では構えてしまうときは、親が落ち着いて話せる人に同席や橋渡しを頼みます。

年長の親戚、民生委員、かかりつけ医、町内会長などです。

親の判断に影響力のある近隣の親族がいるなら、先にその人の考えを聞いておく方がよい、という助言もあります(PRESIDENT Online)。親が「あの人がこう言っていた」で意見を変えることは、実際によくあります。

限界もあります。中立でない人は逆効果です。本家・分家の意識が強い地域では、親戚が「家は長男が継ぐもの」と口を出して、親の判断をゆがめることがあります。

相続人でない配偶者が維持費の不安から口をはさみ、まとまりかけていた話が崩れた例も紹介されています(幻冬舎ゴールドオンライン)。同席を頼むのは「聞く人」であって「決める人」ではない、と最初に伝えておきます。

費用はかからない代わりに、お礼と報告は丁寧にしておきましょう。

経験者の声:叔父が「長男が継ぐもんだ」と言い出して崩れた

「父が信頼している叔父に同席してもらったら、『家は長男が継ぐもんだ』と言い出して、せっかく出てきていた父の希望が引っ込んでしまいました。中立な人を選ぶべきでした」(父の実家のこれからを親戚を交えて話した方)

自治体の空き家相談窓口は無料で、相続前でも相談できる

話し合いの材料がほしいときや、何から手をつけるか整理したいときは、自治体や都道府県の空き家相談窓口が使えます。

多くは無料です。東京都には、空き家の管理や活用の相談に無料で応じるワンストップ相談窓口があります(文京区の案内)。

岩手県の窓口は、空き家の所有者に加えて「将来的に空き家となることが予想される物件の所有者」や「相続等により空き家の所有・管理が予定される方」も対象で、窓口への相談は無料です(岩手県)。

大阪市のパンフレットも、空き家になる前に家族と話し合うことが大切だと呼びかけています(大阪市東成区)。つまり、親が存命で、まだ空き家になっていなくても相談してよい窓口があります。

限界は、窓口の中身が自治体ごとに違うことです。民間事業者と連携した窓口は、売却や活用の橋渡しまで含むことがあるので、「話し合いの進め方を相談したい」のか「売却先を紹介してほしい」のか、目的を最初に伝えておきましょう。

費用は、窓口への相談なら無料が基本です。専門家の個別相談につながる場合は有料になることがあり、その際は事前に案内されます(岩手県)。

経験者の声:相続前でも市の窓口で聞いてもらえた

「市の空き家相談窓口に『親はまだ元気で空き家ではないのですが』と電話したら、『そういう方の相談も受けています』と言われて、家族で何を決めておくべきかを整理してもらえました」(親の実家について自治体に相談した方)

出典: 文京区 空き家の相談窓口出典: 岩手県 「空き家相談窓口」について(PDF)出典: 大阪市東成区 空き家対策パンフレット(PDF)

相続開始前は法律相談よりADRで話し合いの場を整える

兄弟・姉妹の感情のもつれで話し合いの場そのものが持てないときは、ADR(裁判外紛争解決手続)が選択肢になります。

先に知っておきたいのは、親が存命のうちに無料の法律相談に行っても、空振りになりやすいことです。

「まだ相続が始まっていないので、今なにか法的に解決できることはない」と言われて30分が終わり、不安だけが残った姉弟の例があります(現代ビジネス)。

相続が起きる前は、法律で動かせることが少ないからです。法律相談を使うなら、「権利はどうなるか」ではなく「話し合いの進め方」を聞く、と目的を変えてみてください。

話し合いの場を作る道具としては、ADRが使えます。法務省が認証した機関を「かいけつサポート」で探せます。

相続に関する紛争を扱う機関の中には、「親族間における感情的対立や親などの財産の管理に関する紛争」を扱うと明記した機関もあります(法務省かいけつサポート)。つまり、相続が始まる前の、感情のもつれの段階でも使えます。

費用は機関によって違います。目安として、申立て時の手数料が数千円から1万円程度、期日ごとに1万円前後です。

例えば、家族の紛争を専門にするある認証機関では、非会員の場合、事務手数料11,000円と期日手数料11,000円で申立てでき、2回目以降は期日ごとに双方が11,000円ずつ負担します(法務省の認証事業者情報)。

原則オンラインで、平日夜間や土曜に対応する機関もあります。各機関の料金表で確かめてから申し込みましょう。

限界は、合意に強制力がなく、相手が応じなければ始まらないことです。また、家庭裁判所の遺産分割調停は相続が始まった後の手続きなので、親が存命のうちは使えません。

経験者の声:弁護士しか思いつかず「訴える気か」と言われた

「兄との話がこじれて、弁護士に相談しようとしたら、兄に『訴える気か』と言われて余計に険悪になりました。後でADRという話し合いの場があると知って、最初からそちらにすればよかったと思いました」(兄と実家のこれからで対立した方)

出典: 法務省 かいけつサポート 相続に関する紛争を取り扱う認証紛争解決事業者出典: 法務省 かいけつサポート 認証紛争解決事業者の情報(手数料・取扱範囲)

不動産会社の査定は方針が売却に寄ってから複数社で取る

不動産会社の査定を取るのは、家族の方針が「手放す」に寄ってからです。

1章の事実の段階で「まだ査定は取らない」と書いたのは、ここと対になっています。

無料査定は、売却前提の連絡が続くことを前提に使う道具です。これは不動産会社が悪いのではなく、無料査定がそういう仕組みだからです。

売る方針が固まった後なら、売れる家か(道路に接しているか、境界ははっきりしているか、など)を知るうえで頼れる相手になります。その段階では、1社ではなく複数社で取ってみてください。

限界は、方針が寄る前に取ると話し合いが壊れることです。親に知られれば「もう売る気か」になり、兄弟・姉妹には「勝手に進めている」と映ります。査定額が一人歩きして、2章の「評価額を書いたら炎上した」と同じことが起きます。

費用は、査定自体は無料です。その代わり、電話やDMが続くことは織り込んでおきます。

専門家の持ち場も一言だけ添えます。名義の確認や、親が元気なうちの備え(任意後見・家族信託)は司法書士、すでに紛争になっている場合は弁護士です。名義の確認だけなら、1章の登記事項証明書で間に合います。

経験者の声:査定を1社取ったら母が「売るのね」と泣いた

「方針が決まる前に、相場を知りたくて1社だけ査定を頼みました。そこから電話とDMが続いて、母が『あんたたち、売るのね』と泣きました。方針が固まるまで待てばよかったです」(母の実家の査定を先に取ってしまった方)

まとめ:実家の話し合いは「事実→希望→費用→期限」の順に分け、第1回は期限の合意で終える

実家の話し合いが止まる原因は、切り出し方の上手下手より、「売る・残す」から入ってしまうことと、親と子の持つ情報に差があることです。議題を事実→希望→費用→期限の順に分けて1枚の紙にすれば、第1回は結論を出さずに「いつまでに何を決めるか」の合意で閉じられます。

次の一歩は、法務局で実家の登記事項証明書を1通取り、登記上の名義人と抵当権の有無を確かめることです。ここを飛ばすと、兄弟・姉妹への最初の連絡に書く事実がそろわず、名義が祖父母のままだった場合に気づくのが相続の後になります。

あわせて、兄弟・姉妹の誰に最初の連絡を送るか、親の判断能力という日付のない期限がどこまで来ているかを、帰省の前に確かめてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、実家のこれからを家族で話し合う順番や、兄弟・姉妹への連絡、親への切り出し方、合意メモの残し方も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。