古い実家を売る前に、仲介会社から「インスペクションはどうしますか」と聞かれて迷う人もいるでしょう。
建物状況調査は、売値を上げるより、売ったあとの修理代の請求や契約直前の値引きを防ぐために役立つ調査です。
受けたほうがよい実家と受けなくてよい実家は、売り方と建築確認を受けた時期、今の傷み具合でおおよそ見分けられます。
建物状況調査の対象部位と限界
建物状況調査は、国の講習を修了した建築士が、建物の劣化の兆候を目で見たり測ったりして記録する調査です。
欠陥の有無の判定や、建物の値付けは調査の対象外です。この性格を先に知っておくと、調査に何を期待できるのかが見えてきます。
建物状況調査とホームインスペクションの違い
「建物状況調査」は、宅建業法の条件を満たす調査に限った呼び名です。
「ホームインスペクション」や「住宅診断」は、専門家が建物を調べるサービスの広い呼び名です。名前に決まりは無く、中身も依頼先によって違います。
これに対して建物状況調査は、宅地建物取引業法(宅建業法)で決められた調査です。
国土交通省の「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」(令和6年4月1日現在。以下「国交省Q&A」)は、次の2つを満たす調査だと説明しています。
- 国の登録を受けた講習を修了した建築士(既存住宅状況調査技術者)が行う
- 国が定めた「既存住宅状況調査方法基準」(国土交通省告示)に沿って行う
講習を修了していない建築士や検査会社が行う調査は、宅建業法上の建物状況調査に当たらないとされています(国交省Q&A A1-2)。
「インスペクション」という名前が付いていても、この条件を満たすかは、サービスごとに確かめる必要があります(同A1-14)。
なぜこの違いが大事なのでしょうか。
売却で意味を持つのは、仲介会社が契約前に買主へ行う「重要事項説明」(物件の大事な点を説明する手続き)で取り上げられる調査結果だからです。
宅建業法35条は、建物状況調査をしたかと、その結果の概要を、説明しなければならない事項にしています。条件を満たさない調査は、原則としてこの説明の対象から外れます(国交省Q&A A5-12)。
重要事項説明で建物状況調査を説明する決まりは、改正された宅建業法が施行された平成30年(2018年)4月1日に始まりました。
頼む前に「既存住宅状況調査技術者が行う、宅建業法上の建物状況調査ですか」と一言確かめておきましょう。調査の当日は、技術者が持っているカード型の修了証を見せてもらえば資格を確認できます(同A1-2)。
以下、「建物状況調査」は、この条件を満たす調査を指します。
出典: 国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」、e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」、国土交通省「既存住宅流通について(建物状況調査(インスペクション)活用に向けて)」
調査する部位と劣化の判定の目安
調べる部位は国の基準で決まっていて、オプションを頼まない限り、どこに頼んでも同じです(国交省Q&A A2-1)。
部位は大きく2つの系統に分かれます(国交省Q&A A2-1、既存住宅状況調査方法基準 第5条・第6条)。木造の戸建てなら、次のとおりです。
| 系統 | 主な部位(木造戸建て) |
|---|---|
| 構造耐力上主要な部分(家の重さや地震・風を支える部分) | 基礎、土台・床組、床、柱・梁、外壁・軒裏、バルコニー、内壁、天井、小屋組(屋根を支える骨組み) |
| 雨水の浸入を防止する部分 | 外壁(窓などの開口部を含む)、軒裏、バルコニー、内壁、天井、小屋組、屋根 |
調べ方は、目で見る(目視)、道具で測る(計測)、たたいて音を聞く(打診)、手で触る(触診)が中心で、壁をはがしたり穴をあけたりせずに進めます。
床の傾きはレーザー水平器、基礎のひび割れはクラックスケール(ひびの幅を測る定規)などで測ります(同A2-2)。
「劣化あり」とする目安は、方法基準の本文に具体的に書かれています。木造の場合の主なものは次のとおりです。
| 部位 | 「劣化あり」とする主な目安 |
|---|---|
| 基礎 | 幅0.5mm以上のひび割れ、深さ20mm以上の欠け、さび汁がにじむひび割れ、鉄筋が見えている状態 |
| 床 | 1000分の6以上の傾き(約3m離れた2点を結んで測る。3mで約18mmの高低差)、目立つ沈み |
| 柱・内壁 | 1000分の6以上の傾き(2m程度以上の長さで測る) |
| 外壁 | 下地まで届くひび割れ・欠け・浮き・はがれ、複数の仕上げ材にまたがるひび割れ |
| 外壁の継ぎ目や窓まわり | シーリング(すき間を埋めるゴム状の材料)の切れや欠け、建具まわりのすき間、開け閉めが著しく悪い建具 |
| 軒裏・内壁・天井・小屋組 | 雨漏りの跡 |
| 屋根 | 屋根材の目立つ割れ・ずれ・はがれ |
| 各部位と床下 | シロアリの通り道(蟻道)や食害、木の腐れ(キノコやカビ状の菌糸を含む) |
木造の戸建てでは、床下のシロアリ被害と腐れも調べる対象です(国交省Q&A A2-5)。
ここで知っておきたいのが、床下の見方です。
国土交通省の「既存住宅状況調査方法基準の解説」(令和6年10月25日)は、床下の調査として「点検口から顔や上半身の一部を入れて見る程度」やカメラの利用を想定しています。
床下にもぐって奥まで見るのは「可能なら有効」という扱いです。つまり、基本の調査で床下のどこまで見てもらえるかは、依頼先によって違います。
見積もりの段階で、床下にもぐるのか、点検口からのぞくだけなのかを聞いておくと安心です。
出典: 国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」、国土交通省「既存住宅状況調査方法基準の解説」
建物状況調査では分からない範囲
建物状況調査は範囲を絞った調査なので、設備や地中、耐震性などは別の手当てが要ります。
対象外になるものと、気になる場合の手当ては次のとおりです。
| 分からないこと | 気になる場合の手当て |
|---|---|
| 給排水管・給湯器などの設備の状態 | オプション調査として頼める場合がある(国交省Q&A A2-1) |
| 敷地の地中(地盤や埋まっている物) | 建物状況調査の対象外(同A2-1)。必要なら別の調査を検討する |
| 耐震性が十分か | 調査で確かめるのは「耐震性に関する書類があるか」まで(方法基準 第11条)。性能を知るには別に耐震診断が要る |
| 省エネ性能や、建てた当時の法令に合っているか | 調査の対象は劣化の有無だけ。必要なら別の専門家に相談する |
| 見つかった劣化が「欠陥(瑕疵)」に当たるか | 判定は調査の対象外。扱いは売主・買主の話し合いと契約で決める |
| 高い所や、家具で隠れた所 | 足場を組まず、歩いて行ける位置から調べる。動かせない家具の裏などは「調査できなかった」と記録される(方法基準 第4条と解説) |
特に見落としやすいのが最後の行です。
調査は「歩いて移動できる位置から」行う決まりで、足場を組んで屋根に上る調べ方は基準の外です。2階の屋根などは、地上や窓から見える範囲での確認になります。
そして一番大事なのは、建物状況調査は「瑕疵がないことを保証するものではない」という点です(国交省Q&A A1-1)。
令和6年4月から使われている国の標準媒介契約約款(仲介を頼むときの契約書のひな形)にも、調査結果は瑕疵の有無を判定するものでも、瑕疵がないことを保証するものでもない、という注意書きが入りました。
「劣化なし」という結果が出ても、壁の中や床下の見えない部分に不具合が残っている可能性はあります。調査結果は「見える範囲の記録」として受け止めておきましょう。
出典: 国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」、国土交通省「既存住宅状況調査方法基準の解説」、国土交通省「標準媒介契約約款」
調査結果の示され方
調査の結果は、「建物状況調査の結果の概要」という書面にまとめられます(国交省Q&A A5-1)。
部位ごとに、劣化事象等が「有」「無」「調査できなかった」のどれかに印が付く形式です(方法基準 第4条第6項、国土交通省の結果の概要の参考様式)。
「調査できなかった」は、点検口が無い、動かせない家具がある、雨や雪で見えない、といった理由で付きます(国交省Q&A A2-4)。
荷物が多く残る実家では、押入れの天井や床下収納がふさがっていて、この印が並びやすくなります。防ぐための準備は「調査日までに実家で整えておく準備」で説明します。
結果は、あくまで「調査した日の記録」です。重要事項説明で取り上げられるのは、調査から一定の期間内のものに限られます(宅建業法35条、同法施行規則16条の2の2)。
- 戸建ては調査から1年以内
- 鉄筋コンクリート造などのマンションは調査から2年以内(令和6年4月1日から。それまでは戸建てと同じ1年以内)
調査のあと、売主は2種類の書類を受け取ります。1つは「結果の概要」、もう1つは写真やチェック表が付いた詳しい「報告書」です(方法基準の解説)。
仲介を頼んでいる場合、「結果の概要」は仲介会社に渡す流れです(国交省Q&A A1-16)。どちらも重要事項説明で使うので、売却が終わるまで手元に保管しておきましょう。
出典: 国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」、国土交通省「建物状況調査の結果の概要(重要事項説明用)」参考様式、国土交通省「既存住宅状況調査方法基準の解説」、e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」、国土交通省「宅地建物取引業法施行規則の一部を改正する省令(令和6年国土交通省令第4号)」
売主が先に調査を受けるメリットと注意点
売主が先に調査を受ける利点は、売値を上げることより、売ったあとの請求と契約直前の値引きを防ぐことにあります。
その一方で、調べて分かった不具合は買主に伝える必要が生じます。利点と負担の両方を見たうえで決めましょう。
引渡し後に責任を問われる範囲を絞れる
調査結果を買主と確認したうえで契約すると、確認した劣化について、あとから「契約と違う」と言われにくくなります。
前提になるのが、売主が負う責任の中身です。
民法では、引き渡した家が「契約の内容に合っていない」とき、買主は売主に次のことを求められます(民法562条〜564条)。これを「契約不適合責任」といい、売主が個人でも同じです。
- 直してほしい(修補)
- 代金を下げてほしい(代金減額)
- 損害を払ってほしい(損害賠償)
- 契約をやめたい(解除)
このうち修補や代金減額は、売主がその不具合を知らなかった場合でも求められます。損害賠償だけは、売主に責任があるとは言えない事情があれば免れることがあります(民法415条)。
さらに注意したいのが期限です。民法566条は、買主が不具合を「知った時から1年以内」に売主へ知らせればよい、と定めています。
数え始めは「引き渡した日」ではなく「買主が気づいた日」です。売買契約で責任を負う期間を決めておかないと、引渡しからしばらくたって連絡が来ることもあり得ます。
ここで、実家ならではの弱点が出てきます。
売主は、知っている不具合を「告知書」(物件の状態を売主が書いて買主に伝える書面)に書きます。ところが、相続した実家に住んでいない人には、雨漏りの有無も床下の状態も分からないことが多いでしょう。
告知書が「不明」だらけになると、買主から見れば「分からない家」になってしまいます。
建物状況調査の結果があれば、この「不明」を第三者の記録で埋められます。仕組みは次のとおりです。
- 調査結果の概要が、重要事項説明で買主に説明される(宅建業法35条)
- それを踏まえて契約すると、結果の概要が契約書面に「当事者の双方が確認した事項」として書かれる(宅建業法37条1項2号の2、国交省Q&A A7-2)
- 買主が知ったうえで納得した劣化は「契約の内容」になる
- 契約の内容になった劣化について、あとから「契約と違う」と言われにくくなる
見落とされがちなのが、告知書の扱いです。告知書の内容は、原則として「当事者の双方が確認した事項」に入らないとされています(国交省Q&A A7-7)。
専門家による調査をしていなければ、契約書面には「確認した事項無し」と書かれるのが一般的です(同A7-10)。売主の記憶に第三者の調査結果が加わることで、売主と買主が何を確認し合ったかが書面に残ります。
兄弟・姉妹の共有名義で実家を売る場合は、この利点がさらに大きくなります。売主は共有名義人の全員なので、あとから請求が来れば全員が当事者になるからです。
売る前に「どこまで伝えて売ったか」を書面で固めておけば、家族の間のもめごとも防ぎやすくなります。
出典: e-Gov法令検索「民法」、e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」、国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」
買主側の調査による値引き交渉に先回りできる
売主が先に調べておけば、劣化を織り込んだ価格で売り出せるので、値引きを求められても根拠を示して話せます。
建物状況調査は、買主も頼めます。ただし、買主が調べるには売主の承諾が必要です(国交省Q&A A1-10)。買主が頼んだ調査の結果の概要と報告書は、依頼者である買主の手元に渡ります(同A4-11)。
契約の直前に買主側の調査で劣化が見つかると、どうなるでしょうか。
売主は準備がないまま、「値引きしてくれるなら買う」「この内容なら見送る」という判断を迫られます。修理にいくらかかるのかも分からない状態での交渉になりがちです。
しかも、見つかった劣化の情報は、その取引が流れたあとも残ります。
仲介会社が劣化の確認された調査結果を知っている場合、次の購入希望者にもその結果を説明するのが適当だとされています(国交省Q&A A5-10・A5-12)。
売主が先に調べておけば、流れが変わります。劣化があれば、それを売り出し価格に織り込んだうえで売り出せます。
値引きを求められても、「その点は調査で分かっていて、価格に反映済みです」と根拠を示せます。要するに、誰が先に建物の情報を持っているかで、交渉の主導権が変わるということです。
出典: 国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」
既存住宅売買瑕疵保険を付けられる場合がある
劣化が無いと確認された家は、引渡し後の欠陥に備える既存住宅売買瑕疵保険を付けられる場合があります。
既存住宅売買瑕疵保険は、中古住宅の売買のときに加入できる保険です。
引渡しのあとに、構造耐力上主要な部分や雨水の浸入を防止する部分に欠陥(瑕疵)が見つかったとき、補修の費用などが支払われます(国交省Q&A A3-1)。
個人どうしの売買では、国の登録を受けた検査会社が家を検査して買主に保証を付け、その保証を保険が裏打ちする仕組みが基本です(国土交通省「住まいのあんしん総合支援サイト」)。主な内容は次のとおりです。
| 項目 | 内容(検査事業者保証型の場合) |
|---|---|
| 保険期間 | 1年、2年または5年(商品による) |
| 保険金額 | 500万円または1,000万円(商品による) |
| 支払われるもの | 修補費用、調査費用、仮住まい・引越しの費用など |
| 保険料 | 保険法人ごとに設定。戸建てで5万円程度から |
加入できるのは、条件を満たした家に限られます。保険法人に登録した検査会社の検査を受け、劣化が無いと確認されることが必要です(国交省Q&A A3-2)。
結果に「劣化事象等有り」や「調査できなかった」があれば、劣化を直して再検査を受けるか、調べられなかった部位を調べ直すことが加入の条件になります(同A3-3)。
この保険には、買主のお金に関わる利点もあります。
中古住宅で買主が住宅ローン控除(所得税の減税)を受けるには、登記上の建築日が昭和57年1月1日以後であることが基本です(国税庁タックスアンサーNo.1211-3)。
それより前の家では、耐震基準に合うことの証明が必要です。その方法の1つが「取得の前2年以内に結んだ既存住宅売買瑕疵保険の付保証明書」なので、保険が付いていれば買主の減税につながる可能性があります。
一方で、この保険を使える実家は限られます。保険の加入には、耐震性に関する書類があることも条件になっているからです(既存住宅状況調査方法基準の解説)。
具体的には、昭和56年(1981年)6月1日以降に建築確認を受けた家(いわゆる新耐震基準の家)か、それより前でも耐震基準に合うことを書類で示せる家です。
古い実家の場合は、ここが最初の分かれ目になります。建てた時期の確かめ方は「調査を受けるべき実家を見分ける判断基準」で説明します。
出典: 国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」、国土交通省 住まいのあんしん総合支援サイト「既存住宅売買瑕疵保険(個人間売買タイプ、検査事業者保証型)」、国税庁「No.1211-3 中古住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」、国土交通省「既存住宅状況調査方法基準の解説」
見つかった不具合は隠して売れない
調査で見つかった不具合は、売るときに隠せません。
調査を受ける前に、この点は家族で共有しておきましょう。
売買契約で「売主は責任を負わない」という特約(免責特約)を付けることはできます。
しかし民法572条は、免責特約があっても、売主が「知りながら告げなかった事実」については責任を免れない、と定めています。調査で劣化を知った以上、それを伝えずに売れば、特約があっても責任を負うことになります。
調査をやり直しても、前の調査で見つかった劣化は買主に伝わる可能性があります。
国交省Q&Aは、直近の調査とは別に劣化が確認された調査があり、仲介会社がそれを知っている場合には、購入希望者にも説明するのが適当だとしています(A5-10)。
裏返して考えると、別の選び方も見えてきます。調べずに売る場合、売主が本当に知らない不具合については、免責特約で責任を外せます。
そのため、「調べずに、今の状態のまま、責任を負わない条件で売る」という選び方にも理屈は通ります。
ただし、この選び方にも弱点があります。国交省Q&Aは、調査をしないことのリスクとして、引渡し後に不具合が見つかって訴訟などのトラブルになる可能性を挙げています(A1-4)。
国土交通省の「建物状況調査(インスペクション)活用の手引き」には、買主からの調査の希望を断ったところ、引渡し後に「隠していたのでは」と疑われてもめた、という例も載っています。
つまり、調べるか調べないかは、次の2つの守り方から1つを選ぶことになります。
- 開示して範囲を決める守り
- 現況のまま責任を外す守り
前者は、調べて分かったことを伝え、そのうえで契約する方法です。後者は、調べずに、知らない不具合については責任を負わない条件で売る方法です。
どちらを選ぶかは、売り方や建物の状態で変わります。判断の目安は「調査を受けるべき実家を見分ける判断基準」にまとめています。
出典: e-Gov法令検索「民法」、国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」、国土交通省「建物状況調査(インスペクション)活用の手引き」
調査しても売却価格が上がるとは限らない
建物状況調査を受けたことで売却価格が上がる、という公的なデータは見当たりません。
国交省Q&Aが挙げる利点も「住宅の状況に見合った売買価格で取引できること」で、高く売れることとは別の話です(A1-3)。
国土交通省の令和4年度の実態調査では、調査をした人の78.5%が「とても満足」か「満足」と答えています(回答205人)。ただ、この数字も売値が上がったことを示すデータとは別物です。
築年数の古い木造住宅では、建物にほとんど値段が付かず、土地の値段で取引されることもあります。その場合、調査で建物の状態を示しても、価格への影響は小さいと考えられます。
費用の面でも注意が必要です。調査費は、売れなかった場合も売主の持ち出しになります。
また、重要事項説明で使えるのは戸建てなら調査から1年以内なので、売れ残ると結果を使えなくなります。
それでも調査を受ける価値があるのは、「値引きの幅を小さくすること」と「売ったあとの請求を防ぐこと」に役立つからです。調査費と、この2つの守りの価値を比べて決めましょう。
出典: 国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」、国土交通省「建物状況調査(インスペクション)活用の手引き」、e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」
調査を受けるべき実家を見分ける判断基準
受けるかの判断は、「売り方 → 建てた時期 → 今の状態」の順に確かめると決めやすくなります。
前のものほど、受けるかの判断を大きく左右するからです。3つの基準をまとめた表もあるので、自分の実家がどのケースに当たるか照らし合わせてみてください。
売り方によって調査の要否が分かれる
最初に決めるのは実家をどう売るかで、売り方によって調査の意味が大きく変わります。
1. 解体して土地として売る場合
建物状況調査は不要です。
国交省Q&Aは、取り壊すことが決まっている空き家など、将来住む見込みのない建物は、そもそも建物状況調査の対象となる「住宅」に当たらないとしています(A1-15)。
解体の前に必要になる調査は、建物状況調査とは種類が異なります。
2. 不動産会社に買い取ってもらう場合
買主が不動産会社なら、会社が自分で建物を見て、修理や解体の費用を見込んだうえで価格を決めるのが普通です。
売主の責任を負わない条件で合意することもできます(民法の契約不適合責任は、知りながら告げなかった事実を除き、特約で外せます。民法572条)。この場合、売主が自分で調査費をかける必要性は低くなります。
ただし責任の扱いは会社ごとに違うので、契約の前に確かめておきましょう。
3. 建物を残して、仲介で個人の買主に売る場合
調査の利点が一番大きいのがこの売り方です。買主は建物に住むつもりで買うので、建物の状態を気にします。
売主が先に調べることで得られる守りが、そのまま生きます。
建物を残して売れるかは、地域によって違います。
査定を頼むときに、仲介会社へ「この地域で、古い家を直して住みたい買主はいますか」と聞いてみてください。答えから、建物を残すか、土地として売るかの見当がつきます。
出典: 国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」、e-Gov法令検索「民法」
1981年6月以降に建築確認を受けた実家は調査の効果が大きい
建物を残して個人に売るなら、1981年6月以降に建築確認を受けた実家は、調査を受ける価値が高いといえます。
昭和56年(1981年)6月1日以降に建築確認(工事の前に、図面が法律に合っているかを役所などが確かめる手続き)を受けた家は、今の耐震基準のもとになっている「新耐震基準」の家です。
既存住宅状況調査方法基準も、耐震性に関する書類の確認として、この日付以降に確認済証を受けた家かを見ることにしています(第11条)。
この時期の家は、劣化が見つからなければ既存住宅売買瑕疵保険を付けられる可能性があります。保険を含めて、先に調べる利点をほぼすべて使える家です。
建てた時期は、次の書類で確かめられます。
| 書類 | 分かること | 注意点 |
|---|---|---|
| 確認済証 | 建築確認を受けた日 | 新耐震かは、この日付で判断する |
| 検査済証 | 工事が終わって検査を受けた日 | 完了検査を受けておらず、無い家もある |
| 登記事項証明書(建物) | 登記上の新築の日付 | 完成した時期なので、確認の日とはずれる |
気をつけたいのは、確認の日と完成の日がずれることです。確認を受けてから工事をするので、1981年の秋に完成した家でも、確認は6月より前ということがあります。
1981〜1982年ごろに完成した家は、完成日ではなく確認済証の日付で判断しましょう。
ちなみに、買主の住宅ローン控除で使う基準日は「登記上の建築日が昭和57年1月1日以後か」です(国税庁タックスアンサーNo.1211-3)。
新耐震で確認を受けていても、1981年中に完成した家はこの基準日より前になります。
こうした家では、瑕疵保険の付保証明書があれば、買主が減税を受けられる可能性が出てきます。
確認済証が見つからないときは、建物のある自治体で「台帳記載事項証明書」(確認を受けた日付などを証明する書類)を出してもらえる場合があります(国交省Q&A A6-8)。ただし、古い家ほど取れないことがあります。
- 東京都は、台帳が残っていない場合は発行できないことがあり、申請には建てた当時の地名・地番が必要だと案内しています。
- 名古屋市は、令和8年7月1日以降、平成4年4月1日以降に確認申請された建物を発行の対象としています。
1981年ごろの実家だと、書類で確認の日付を示せないこともあり得ます。調査を頼む前に実家の書類を探し、無ければ自治体の建築の窓口に問い合わせておくと、依頼先との相談が早く進みます。
出典: 国土交通省「既存住宅状況調査方法基準の解説」、国税庁「No.1211-3 中古住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」、国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」、東京都都市整備局「台帳記載事項証明書の発行」、名古屋市「『建築確認台帳記載事項証明書』の形式変更をします」
1981年5月以前の実家は建物を残すかを先に決める
昭和56年(1981年)5月以前に建築確認を受けた家(旧耐震基準の家)は、調査を頼む前に、建物を残して売るか、壊して土地として売るかを決めておきましょう。
建物状況調査は、耐震性を判定しないからです。旧耐震の家は、状況調査を受けただけでは、瑕疵保険にも買主の減税にもつながりにくくなります。
どちらも、耐震基準に合うことを示す書類(耐震診断の結果報告書や耐震基準適合証明書など)が別に必要になります(既存住宅状況調査方法基準の解説、国税庁タックスアンサーNo.1211-3)。
国土交通省の空き家向けの資料「売却・賃貸の前には調査を」も、1981年の建築基準法改正より前に建てられた住まいは、専門家の耐震診断で耐震性能を確認するよう勧めています。
相続した空き家を売るときの「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(いわゆる3,000万円控除)も、この判断に関わります。
昭和56年5月31日以前に建てられた家が対象で、建物を耐震基準に合わせるか、取り壊すことが条件の1つになっています(国税庁タックスアンサーNo.3306)。
令和6年1月1日以後の売却からは、売ったあと、売った年の翌年2月15日までに耐震基準に合わせるか取り壊す場合も、特例の対象に加わりました(同No.3306)。
この特例を使えるかで「残す・壊す」の答えが変わることもあります。調査費をかける前に税務署や税理士に確かめておけば、無駄な出費を避けられます。
建物を残すと決めたら、耐震診断と建物状況調査を同じ時期に頼めるか、依頼先に相談してみてください。2つの調査を別々の日に行うより、立会いや片付けの手間が1回で済みます。
出典: 国土交通省「既存住宅状況調査方法基準の解説」、国税庁「No.1211-3 中古住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」、国土交通省「売却・賃貸の前には調査を」、国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
空き家期間が長い実家は劣化の兆候で判断する
空き家の期間が長い実家は、建てた時期に加えて、今見えている劣化の兆候で調査の要否を判断しましょう。
人が住まなくなった家では、窓を開けての換気や、水道の使用が止まります。湿気がこもりやすくなり、カビやシロアリ、木の腐れが進みやすい環境になります。
空き家の期間が長いほど、建てた時期と実際の傷み具合がずれやすくなります。
実家を訪ねたときに、次のような兆候がないか見ておくとよいでしょう。床下にもぐるような点検は要らず、目と鼻で分かる範囲で十分です。
- 天井や壁に雨染みがある
- 床がきしむ、歩くと沈む感じがある
- 戸や引き戸の開け閉めが重い、閉まりきらない
- 家に入るとカビ臭い
- 羽アリを見た、土台のまわりに土の筋(シロアリの通り道)がある
- 外壁や基礎に目立つひび割れがある
兆候が1つでもあり、建物を残して個人に売るつもりなら、調査を受けておきましょう。
兆候に気づいていながら調べずに売ると、あとで「知っていたのに告げなかった」と言われかねないからです(民法572条)。
反対に、兆候が見当たらず、建てた時期も比較的新しいなら、「現況のまま責任を外す守り」と比べて選ぶ余地があります。
ここまでの3つの基準をまとめると、次の表になります。
| ケース | 売り方 | 建築確認の時期 | 状態の兆候 | 調査の要否 | 先にやること |
|---|---|---|---|---|---|
| A | 解体して土地として売る | 問わない | 問わない | 不要 | 解体費の見積もりを取る |
| B | 不動産会社の買取 | 問わない | 問わない | 必要性は低い | 責任の扱いを契約前に確認する |
| C | 建物を残し、仲介で個人に売る | 1981年6月以降 | あり | 受ける | 瑕疵保険の検査ができる依頼先を選ぶ |
| D | 建物を残し、仲介で個人に売る | 1981年6月以降 | なし | 受ける価値が高い(保険の可能性) | 瑕疵保険の検査ができる依頼先を選ぶ |
| E | 建物を残し、仲介で個人に売る | 1981年5月以前 | 問わない | 方針を決めてから | 残すか壊すかを決め、耐震診断の要否を確かめる |
| F | 建物を残し、仲介で個人に売る | 分からない | 問わない | 時期を確かめてから | 確認済証を探す。無ければ台帳記載事項証明書を問い合わせる |
出典: e-Gov法令検索「民法」
調査を依頼する流れと費用
受けると決めたら、次の順番で進めると無駄なく調査を受けられます。
- 調査を受ける時期を決める
- 依頼先を選ぶ
- 見積もりを取り、自治体の補助が使えるか確かめる
- 調査日までに実家を整える
- 当日に立ち会う
- 結果を受け取り、「結果の概要」を仲介会社に渡す
調査を受ける時期の目安
調査を受けるなら、売り出しの直前、仲介会社と媒介契約(仲介の依頼の契約)を結ぶ前後が、一番無駄の少ない時期です。
理由は2つあります。
1つ目は、使える期間に限りがあることです。重要事項説明で取り上げられるのは、戸建てなら調査から1年以内の結果です(宅建業法施行規則16条の2の2)。
瑕疵保険に入るための検査も、木造の戸建てなら有効期限は1年です(国交省Q&A A1-3)。早く受けすぎると、売れ残ったときに期限が切れてしまいます。
2つ目は、遅すぎると先回りの利点が消えることです。購入希望者が現れてからでは買主側の調査と時期が重なり、「先に情報を持つ」利点がなくなります。
時期を決めるうえで知っておきたいのが、媒介契約書の欄です。
宅建業法34条の2により、媒介契約書には「建物状況調査を実施する者のあっせんの有無」を書く決まりがあります。
さらに令和6年4月から、国の標準媒介契約約款では、あっせんを「無」とするときに理由を書く欄が設けられました(国交省Q&A A4-2)。
つまり、媒介契約を結ぶときには、調査について仲介会社と話す機会が用意されています。このときに「調査を受けたい」「依頼先を紹介してほしい」と伝えれば十分です。
出典: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」、国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」、e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」、国土交通省「標準媒介契約約款」
依頼先の探し方と選ぶ条件
依頼先は、仲介会社のあっせんと、国の補助事業の検索サイトの2通りで探せます。
1. 仲介会社にあっせんしてもらう
あっせんは仲介の仕事の一部なので、仲介手数料とは別のあっせん料はかからないとされています(国交省Q&A A4-14)。
紹介してもらう依頼先の数にも制限は無いので(同A4-4)、2〜3か所を紹介してもらい、見積もりを比べることもできます。
2. 自分で探す
国土交通省の補助事業として、一般社団法人住宅リフォーム推進協議会が「既存住宅状況調査技術者検索サイト」を開いています。都道府県や建物の種類から、調査できる技術者を探せます。
売主が自分で依頼先を選んで頼むこともできます(国交省Q&A A4-15)。その場合は、受け取った「結果の概要」を仲介会社に渡しておきましょう。
どちらの方法でも、依頼先は次の3つの条件を満たすところを選ぶと、結果を売却に使いやすくなります。
- 既存住宅状況調査技術者である
- 建築士事務所の登録を受けた事務所に所属している
- 取引に利害の無い立場である
技術者であることは、当日に修了証の提示を頼めば確認できます(国交省Q&A A1-2)。建築士が報酬を受けて調査するには、建築士事務所に所属している必要があります(同A4-3)。
仲介会社自身が調査をするのは、売主と買主の同意がない限り適当ではないとされています(同A4-5)。結果の客観性を保つためです。
瑕疵保険まで考えるなら、条件がもう1つ加わります。保険法人に登録した検査会社の検査員に頼むことです(国交省Q&A A3-2・A4-3)。
そうすれば、建物状況調査と保険用の検査を1回で済ませやすくなり、別々に頼んで費用を二重に払うことを避けられます。先ほどの検索サイトでは、調査の種類として「既存住宅売買瑕疵保険の検査」を選んで技術者を探せます。
あっせんを受けたあとも、調査を受けるかは売主が決められます。見積もりの金額や調査の内容について詳しい説明を受けてから決めればよいとされています(国交省Q&A A4-12)。
出典: 国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」、住宅リフォーム推進協議会「既存住宅状況調査技術者検索サイト」
費用の目安と自治体の補助
建物状況調査の費用は、国交省Q&Aが示す目安で「6万円程度から」です。
国が決めた料金の基準は無く、この金額は標準的な検査内容の場合の目安です(A1-8)。戸建てとマンションでは調べる部位や箇所の数が違うので、費用も変わることがあります。
費用は、頼んだ人(売主か購入希望者)が払うのが一般的です(同A1-11)。
基本の調査に、床下や屋根裏に入って見る調査、給排水管の調査などのオプションを足すと、そのぶん費用は上がります。
瑕疵保険を付ける場合は、調査費とは別に保険料もかかります(戸建てで5万円程度から。国土交通省「住まいのあんしん総合支援サイト」)。
見積もりは、金額と一緒に次の中身を見比べておくと、調べる範囲の狭い依頼先を安さで選んでしまう失敗を防げます。
- 基本の料金に、どの部位の調査まで含まれているか
- 床下と屋根裏(小屋裏)に「入って」見るのか、「点検口からのぞく」だけか
- 基礎にひび割れが見つかったとき、鉄筋の調査(機械で鉄筋の本数や間隔を調べる)は追加料金になるか
- オプション(給排水管、シロアリなど)の内容と料金
- 写真付きの報告書をもらえるか
- 「調査できなかった」部位を後日調べ直すときの料金
- 瑕疵保険の検査を兼ねられるか、その場合の保険料と手続き
鉄筋の調査は見落としやすい項目です。方法基準では、一般的な戸建てなどの小規模な住宅は、基礎に劣化が見つかったときに限って鉄筋の調査を行うことになっています(第5条第4項)。
依頼者が同意しなければ、行わなかった旨を報告書に書けばよいとされています(方法基準の解説)。追加料金になるかを先に聞いておくと、当日に判断を迫られずに済みます。
費用の一部を自治体が補助している例もあります。
| 自治体 | 対象 | 補助の内容 |
|---|---|---|
| 滋賀県(令和8年度) | 県内の中古住宅の売主または買主(個人) | 費用の2分の1。上限5万円(空き家バンク登録住宅など)、それ以外は2万5千円。調査は交付決定日以降に行う必要がある |
| 和歌山県 | 県の住まいのポータルサイトに登録された空き家について、売買または賃貸の契約を結ぼうとする人 | 調査費用の2分の1、最大5万円 |
和歌山県のページには年度や受付期間の記載がないため、今年度も受け付けているかは県の地域振興課で確かめておきましょう。
滋賀県のように、補助の決定が出る前に調査をすると対象外になる例があります。
依頼先と契約する前に、実家のある県や市町村の窓口で補助の有無と手順を確かめておけば、補助を取りこぼさずに済みます。
出典: 国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」、国土交通省 住まいのあんしん総合支援サイト「既存住宅売買瑕疵保険(個人間売買タイプ、検査事業者保証型)」、国土交通省「既存住宅状況調査方法基準の解説」、滋賀県「令和8年度 既存住宅状況調査(インスペクション)に対する補助金」、和歌山県「わかやま既存住宅状況調査補助金について」
調査日までに実家で整えておく準備
空き家の実家は、点検口の前を空けておけば「調査できなかった」の印を減らせます。
ほかにも、住んでいる家の調査とは違う準備が要ります。
点検口の前を空ける
押入れの天井(天袋の上)、床下収納、洗面所や台所の床などに点検口があることが多いです。
荷物でふさがっていると、その部位は「調査できなかった」になり、そのままでは瑕疵保険の加入条件を満たせなくなります(国交省Q&A A2-4・A3-3)。
電気と水道を使えるか確かめる
空き家で電気や水道を止めている場合は、当日に使える必要があるかを依頼先に聞いておくと、当日の手戻りを防げます。
晴れの日を選ぶ
雨や雪で見えない部位は「調査できなかった」になります。その場合に後日もう一度調べてもらえるかも、事前に確かめておきましょう(国交省Q&A A2-4)。
書類を探す
設計図書、確認済証・検査済証、住宅性能評価書などがあれば、調査の前に用意しておきます(国交省Q&A A1-12)。見つからない場合は、依頼のときにそのことを伝えて相談してみてください。
立会いの段取りをつける
調査は建物の大きさによりますが1〜3時間ほどで(同A1-7)、所有者が立ち会うのが一般的です(同A2-3)。
実家が遠い場合は、鍵の受け渡しや立会いを仲介会社に頼めるか、早めに相談しておくと安心です。
共有名義人と決めておく
兄弟・姉妹の共有名義の場合は、調査を頼むことと、費用を誰がどう負担するかを、事前に共有名義人の間で決めておきましょう。
出典: 国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」
調査結果に応じた売り方の選択肢
結果を受け取ったら、次の4つの型のどれに当たるかを見て、売り方を決めましょう。
| 結果の型 | 売主が取る手 | 費用の考え方 | 書面で残す内容 |
|---|---|---|---|
| 劣化なし | 報告書を売却に生かし、瑕疵保険を検討する | 保険料が別にかかる | 結果の概要、報告書、保険の書類 |
| 軽い劣化 | 直して売るか、価格に織り込むかを比べる | 修繕費と、修繕後に上乗せできる価格を比べる | 劣化の内容と、直したか・価格に反映したか |
| 重い劣化 | 劣化を伝えたうえで、責任の範囲を決めて売る | 大きな修繕より、売り方の変更を比べる | 劣化の内容と、責任を負う範囲・期間の特約 |
| 調査できなかった部位がある | 片付けて再調査する。難しければ、その部位を明示して売る | 再調査の費用 | 調べられなかった部位とその理由 |
劣化が見つからなかったときは報告書と保険を売却に生かす
劣化が見つからなかった結果は売却の資料として使え、瑕疵保険の加入も検討できます。
まずは「結果の概要」と報告書を仲介会社に渡し、物件の紹介資料や広告に「建物状況調査済み」と載せてもらいましょう。購入を考える人にとって、建物の状態が分かっていることは安心材料になります。
報告書は、買主に渡すことが望ましいとされています(国交省Q&A A5-8)。買主が住み始めたあとのリフォームや手入れの計画に役立つからです。
調査をしたのが保険法人に登録した検査会社なら、既存住宅売買瑕疵保険の申込みに進めます。
保険の手続きは引渡しの前に済ませる流れなので、仲介会社と時期を合わせておくと手続きが滞らずに済みます(国土交通省「建物状況調査(インスペクション)活用の手引き」)。
保険に入るための検査は、木造の戸建てなら有効期限が1年です(国交省Q&A A1-3)。売り出しが長引きそうなときは、期限にも気を配っておく必要があります。
なお、「劣化なし」は、不具合が無いことの保証とは別です。告知書には、自分が知っていることを正直に書いておきましょう。
出典: 国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」、国土交通省「建物状況調査(インスペクション)活用の手引き」
軽い劣化は直して売るか価格に織り込むかを比べる
軽い劣化なら、修繕費を売値の上乗せで取り戻せるかを見て、直して売るか価格に織り込むかを決めると、取り戻せない修繕費をかけずに済みます。
軽い劣化には、たとえば次のような例があります。
- 外壁の継ぎ目や窓まわりのシーリングの切れ
- 天井の一部の雨染みの跡(今は雨漏りしていないもの)
- 戸や窓の開け閉めの不具合
比べるときの手順は次のとおりです。
- 修繕の見積もりを取る
- 仲介会社に「直した場合、いくらで売り出せそうか」を聞く
- 直さない場合の売り出し価格との差を、修繕費と比べる
直す場合は、修繕のあとに再検査を受け、劣化が無いと確認されれば瑕疵保険の加入を申し込めます(国交省Q&A A3-3)。
直さない場合は、劣化の内容を告知書で伝え、重要事項説明と契約書面の「当事者の双方が確認した事項」に入れてもらうと、あとから請求される範囲を狭められます。
買主が引渡し後に自分で直すつもりなら、「既存住宅売買瑕疵保険(引渡し後リフォーム型)」という仕組みもあります。
引渡し前に申込みと検査を済ませることで、リフォームした部分に加えて、構造や雨水を防ぐ部分も保険の対象になります(国交省Q&A A3-4)。
兄弟・姉妹の共有名義なら、「修繕にいくらまでかけるか」「いくらまでなら価格を下げてよいか」を、共有名義人の間で先に決めておきましょう。
買主との交渉が始まってから話し合うと、返事が遅れて話がまとまらなくなりがちです。
出典: 国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」
重い劣化は告知したうえで責任の範囲を決めて売る
重い劣化は大がかりに直しても費用を売値に上乗せしきれないことがあるため、劣化を伝えたうえで「どう売るか」を選びましょう。
重い劣化には、たとえば次のような例があります。
- 基礎の大きなひび割れ
- 床や柱の大きな傾き
- 今も続いている雨漏り
- 広い範囲のシロアリ被害や木の腐れ
選択肢は3つです。
(a) 劣化を書面で伝え、責任の範囲を決めて今の状態のまま売る
劣化の内容を書面で示したうえで、契約不適合責任を負わない特約、または責任を負う期間を短くする特約を付けて売る方法です。
知りながら告げなかった事実には特約が使えないので(民法572条)、劣化をはっきり伝えておいてはじめて、特約で責任の範囲を区切れます。
もう1つ知っておきたいのが、民法566条のただし書きです。
買主は不具合を知ってから1年以内に知らせればよいのが原則ですが、売主が引渡しのときにその不具合を知っていた場合には、この1年の制限が外れます。
知っている劣化を契約の中で扱っておかないと、「1年以内の通知」という区切りを使えず、問題が長く残るおそれがあります。
(b) 不動産会社の買取に切り替える
建物の状態を見込んだ価格で、会社に買い取ってもらう方法です。責任の扱いは会社ごとに違うので、契約の前に確かめておきましょう。
(c) 解体して土地として売る
解体費の見積もりを取り、「建物付きで売った場合の手取り」と「解体して土地で売った場合の手取り(解体費を引いた額)」を比べる方法です。
どの方法でも、劣化の内容を書面で買主に伝えておけば、売主はあとからの請求を防ぎやすくなります。特約の内容や期間は、仲介会社と相談して契約書に書いてもらうと安心です。
出典: e-Gov法令検索「民法」
調査できなかった部位は片付けてから再調査する
「調査できなかった」の印は、片付けてその部位だけ調べ直してもらえば、あとから消せます(国交省Q&A A2-4・A3-3)。
この印が残ると、重要事項説明では、その部位の状態が分からないまま買主に伝わります。買主から見れば「分からない部分がある家」です。瑕疵保険の加入にも、この部位の調べ直しが必要です(国交省Q&A A3-3)。
荷物を片付けたり、点検口の前を空けたりしてから、その部位の再調査を頼みましょう。
そもそも点検口が無い場合は、保険に入るには点検口を付ける工事や、より詳しい調査が必要になることがあります(既存住宅状況調査方法基準の解説)。
調べ直しの費用は、最初の見積もりのときに確かめておくと、あとで慌てずに済みます。
片付けがどうしても難しい場合は、次善の手として、どの部位が調べられなかったのかを告知書と重要事項説明ではっきり示して売る方法があります。
分からない部分を分からないと伝えておけば、あとで「聞いていない」と言われる余地を小さくできます。
出典: 国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」、国土交通省「既存住宅状況調査方法基準の解説」
まとめ:建物を残して個人に売る実家なら売り出し前に受ける
建物状況調査は、売値を上げるより、売ったあとの修理代の請求と契約直前の値引きを防ぐために受ける調査です。建物を残して仲介で個人に売る実家ほど、受ける意味が大きくなります。
まずは確認済証を探し、建築確認を受けた日を確かめておきましょう。この日付を確かめないまま頼むと、旧耐震の家では瑕疵保険にも買主の減税にもつながらない調査に費用を払うおそれがあります。
売り方と建築確認の時期の見当がついたら、査定を頼む仲介会社に、依頼先のあっせんと自治体の補助の有無を聞いてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、実家を売る前の建物状況調査の判断も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。

