家賃を取らずに実家へ住むことを認めていた家族が亡くなり、住み続けてもらってよいのかを誰に確かめればよいのか、決めかねてはいないでしょうか。
実家の相続において、生前の許可の中身と、家を誰が引き継ぐのかという話は、別々に確かめる必要があります。どちらか一方の答えだけでは、住み続けてもらうかどうかは決められません。
この記事では、生前の許可の中身と、許可した家族が亡くなった後の所有・相続の関係を分けて確かめる進め方と、返事がそろうまでに整えておけることをお伝えします。
無償居住・許可者死亡後の承継整理中のケースだと、今後どんな時に状況が変わるのか
状況が変わるのは、家を引き継ぐ人が決まったときと、相続人や家を引き継いだ人(ここでは今の権利者と呼びます)から返事が届いたときの二つです。そのときに、確かめる相手と、住み続けてもらえるかどうかの見通しを見直します。
- 相続人と遺産分割が決まって「家を引き継ぐ人が決まった時」
- 今の権利者から「住み続けてよいかの返事があった時」
相続人と遺産分割が決まって「家を引き継ぐ人が決まった時」
遺産分割の話し合いがまとまり、実家を引き継ぐ人が決まったときが、最初の見直しのタイミングです。
このとき、誰がいつ引き継ぐと決まったのかを日付とともに書き留め、住み続けてもらってよいかどうかを、引き継いだ人へあらためて聞きます。複数の人が共有名義で引き継いだのなら、聞く相手はその全員になります。
家の権利を持つ人が変わるため、確かめる相手も切り替わります。民法896条は、遺言などに別の定めがある場合を除き、亡くなった方の財産に属した権利や義務を相続人が引き継ぐと定めています。相続人が複数いるときの相続財産は、共同相続人の共有に属します。遺産分割で家を引き継ぐ人が決まれば、その人へ改めて返事を聞きます。
ただし、生前の許可がその後どう扱われるのかは、約束の中身によって変わります。引き継ぐ人が決まった段階では、住み続けてもらうかどうかをまだ決めないでおきましょう。生前の約束の中身を書き起こしたものと、新しい返事をそろえてから判断してください。
参照: e-Gov法令検索「民法」
今の権利者から「住み続けてよいかの返事があった時」
二つ目のタイミングは、相続人や、家を引き継いだ人から、住み続けてもらってよい、あるいは出てほしいという返事が届いたときです。
返事を受け取ったら、誰が、どの立場で、いつ、どこまで答えたのかを書き留めます。これまでに書き留めた約束の中身や、集めた回答は、そのまま置いておきます。新しい返事は別に書き、前のものを消して書き直さないでください。
前のものを消さないのは、いつの時点の話なのかが後からたどれなくなるためです。相続人の一人だけが答えたのか、家族側の方針として確かめた返事なのかは書き分けます。誰の返事でどこまで決められるかは、相続や遺産分割の状況によって異なります。返事一つで継続や退去を決めず、ほかに確認が必要な人がいないかを専門家へ確かめてください。
【落とし穴】無償居住・許可者死亡後の承継整理中の人で、実際に起こりうるケースを紹介
「許可した人が亡くなったので居住許可も直ちに消えたと思った」「一人の相続人の回答を全員の合意だと思った」という二つの思い込みは、どちらも契約・許可・権利の結論を出す根拠になりません。
- 許可した人が亡くなったので居住許可も直ちに消えたと思った
- 一人の相続人の回答を全員の合意だと思った
許可した人が亡くなったので居住許可も直ちに消えたと思った
許可した人が亡くなったので、住んでよいという許可も直ちに消えたと考えてしまう落とし穴にハマった例を紹介します。
ここでは、父が知人へ家賃を取らずに貸していた架空の家で、何を確かめないまま退去の話が出たのかをたどります。
父は生前、親しい知人に「空いているのだから住んでいい」と実家を貸していました。家賃はなく、書面もありません。父が亡くなったあと、相続人の長男は、許可した本人がいなくなった以上、住んでよい理由も消えたと考えました。そこで知人へ、荷物をまとめて出てほしいと伝えました。
ところが知人からは、「お父さんからは、庭木の手入れを続けてくれるなら、そのまま住んでいてよいと言われていました」という返事がありました。長男の手元には、約束の中身を確かめられる資料が何もありません。話し合いは止まり、次に何を確かめればよいのかも分からなくなりました。
許可は消えたと思い込んだまま動いたために、確かめるべき約束の中身が相手の記憶の中にしかないまま、退去の話だけが先に出てしまいました。
この例から学べることをまとめます。
- 許可が消えたかどうかを、亡くなった事実だけで決めない
- 先に確かめるのは、生前の約束の中身
- 約束を確かめる前に退去の話を出すと、話し合いの前提が食い違う
法律では、亡くなった方の財産に属した権利や義務は、相続の開始とともに相続人へ引き継がれるとされています。ただし、亡くなった方その人だけに属するものは引き継がれないという例外もあります。また、物を無償で貸し借りする約束については、借りた人が亡くなったときに終わるという条文があります。貸した人が亡くなったときに終わるという定めは、そこにはありません。
そのため、許可した人が亡くなったという事実だけでは、許可が消えたとも続いているとも言い切れません。目の前の約束がどの契約にあたり、これからどう扱われるのかは、書き起こした約束の中身と集めた資料を持って、弁護士などへ確かめてから判断してください。
参照: e-Gov法令検索「民法」
一人の相続人の回答を全員の合意だと思った
一人の相続人の回答を全員の合意だと考えてしまう落とし穴にハマった例を紹介します。
ここでは、母が知人へ家賃を取らずに貸していた架空の家で、誰の返事をもって家族の方針としたのかをたどります。
母が亡くなり、長女・二男・三男の3人が相続人になりました。知人への連絡役を引き受けた二男は、自分の考えをまだ決めないまま、長女へ電話で意向だけを確かめました。「私は住み続けてもらって構わない」という返事をもらった二男は、これで家族の方針が決まったと考え、知人へ「これまでどおり住んでください」と伝えました。
数か月後、遺産分割の話し合いの席で、三男が家を売って分けたいと考えていることが分かりました。知人への説明と相続人の間の話し合いが食い違い、二男は、知人へ伝えた内容をどう訂正すればよいのか分からなくなりました。
長女一人の返事を全員の答えとして先に外へ出したために、家族の中の話し合いと、住んでいる方への説明が別々の内容で進みました。
この例から学べることをまとめます。
- 一人の返事だけで家族側の方針としない
- 誰の確認が必要かを相続の状況に合わせて確かめる
- 住んでいる方へ伝える前に、誰の確認が必要かを確かめる
民法898条は、相続人が複数いるとき、相続財産は共同相続人の共有に属すると定めています。誰の返事でどこまで決められるのかは、相続や遺産分割の状況によって変わります。
住んでいる方へ何かを伝える前に、誰の確認が必要かと、誰の返事を家族側の方針として伝えられるかを専門家へ確かめましょう。
参照: e-Gov法令検索「民法」
今のうちにできること・やっておくとよいこと
今のうちに進められることは四つあり、上から順に進めます。
- 生前の許可範囲・期間・費用・終了条件を復元する
- 相続人と現在の権利者の回答を一人ずつ確かめる
- 生前の連絡・支払・鍵の資料を保存する
- 相続人ごとの返事を確かめた日と一緒に書く
生前の許可範囲・期間・費用・終了条件を復元する
まず、亡くなった方が生前にどんな許可を出していたのかを復元します。復元するとは、手元に残っている資料を集め、そこから約束の中身を書き起こすことです。
書き起こすのは、次の四つです。
- 誰に、どこまでの利用を認めていたのか
- いつまでという期間があったのか
- 費用を誰がどう負担する約束だったのか
- どうなったら終える約束だったのか
資料に書かれていないことは、書かれていないまま書き留めてください。想像で埋めると、あとから確かめた事実と見分けがつかなくなります。
先に許可を復元するのは、相続人や今の権利者へ何を聞くかが、書き起こした中身で決まるためです。その約束がどの契約にあたるのか、法律の上でどう扱われるのかまでは、ここで決めなくて構いません。その評価は、集めた資料を持って専門家へ確かめてください。
相続人と現在の権利者の回答を一人ずつ確かめる
次に、相続人と、今の権利者にあたる人へ、住み続けてもらってよいと考えるかどうかを一人ずつ確かめます。聞く内容を、書き起こした約束を前提にしてよいかどうかと、続ける場合の費用や期間の考えの二つに絞ると、相手が答える範囲がはっきりします。
答えは人によって割れることがあります。誰か一人の返事で全体を代表させると、家族の中の話し合いと、住んでいる方への説明が食い違います。一人ずつ聞いておけば、誰がどこまで答えたのかが後から分かります。
伝える文面の作り方や通知のしかた、法的な手続きが必要かどうかは、回答の集まり方を見ながら専門家へ相談してください。
生前の連絡・支払・鍵の資料を保存する
三つ目に、読み取ったあとの資料そのものを捨てずに保管し、どの資料から何が分かったのかを一覧にします。次の表は、1行が、手元にある資料か、これから探す資料1つを表します。あなたの家の資料に置き換えて作ってみてください。
| 資料 | 生前の許可者 | 許可範囲 | 期間 | 費用 | 終了条件 | 作成・確認日 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 父と住んでいる方のLINEの画面 | 父 | 実家の建物に住むこと | 書かれていない | 書かれていない | 書かれていない | 2026年8月10日 |
| 父の通帳(電気代の引き落とし) | 父 | 書かれていない | 2020年4月から亡くなる直前まで続いている | 電気代は父の口座から支払い | 書かれていない | 2026年8月12日 |
| 住んでいる方から父へ届いた手紙 | 父 | 庭の物置も使ってよいと読める | 書かれていない | 書かれていない | 書かれていない | 2026年8月14日 |
| 父の手帳のメモ(合鍵2本を渡した記録) | 父 | 書かれていない | 2019年3月に始まったことが分かる | 書かれていない | 決めていない | 2026年8月16日 |
| 住んでいる方が持っているという覚書 | 父と聞いている | まだ確かめていない | まだ確かめていない | まだ確かめていない | まだ確かめていない | まだ確認していない |
空欄は、まだ調べていないという印です。「書かれていない」は、その資料を読んだうえで載っていなかったこと、「決めていない」は、決めなかったことがその資料から確かめられたことを指します。この三つを書き分けておくと、次に調べる資料が表の上に残ります。原本は捨てずに、評価が終わるまで手元に置いたまま保管してください。
相続人ごとの返事を確かめた日と一緒に書く
最後に、確かめる相手ごとの回答と確認日を一覧にします。次の表は、1行が確かめる相手1人を表します。
| 相続人・権利者候補 | 回答日 | 継続への回答 | 未回答の項目 | 根拠資料 | 次の確認 |
|---|---|---|---|---|---|
| 相続人と分かっている人(1人目) | 2026年8月21日 | 遺産分割が決まるまでは今のままでよい | 引き継いだ後に続けるかどうか | 8月21日の電話の記録 | 遺産分割がまとまった後にもう一度聞く |
| 相続人と分かっている人(2人目) | 2026年8月21日 | 住み続けてもらってよい | 庭の物置の扱いと費用の負担 | 同じ日の電話の記録 | 2026年9月に費用の考えを聞く |
| 連絡がつかない相続人 | なし | まだ返事がない | 住み続けてよいかどうかを含めた全部 | なし | 電話がつながらないため手紙で連絡する |
| 家を引き継ぐ人(まだ決まっていない) | なし | まだ決まっていない | 全部 | なし | 遺産分割が決まった日に確かめる相手を切り替える |
継続への回答の欄と未回答の項目の欄を分けているのは、「返事はもらったが、費用の話はまだ」という状態が一目で分かるようにするためです。連絡がつかない相手も行へ入れて、どうやって連絡を試みるのかを次の確認の欄へ書きます。表へ書き込んだだけで、合意や権利関係が決まるわけではありません。返事が変わったときは前の行を消さずに新しい行を足すと、いつ何が変わったのかを後からたどれます。
まとめ:生前の許可と今の権利者の返事を分けて確かめる
生前の許可の中身と、許可した家族が亡くなった後の所有・相続の関係は、別々に確かめてください。誰の確認が必要かを確かめ、必要な返事がそろうまでは、住み続けてもらえるかどうかを決めないでおきましょう。
次の一歩は、生前にどこまでの許可を出していたのかを復元することです。ここを飛ばすと、相続人や今の権利者に何を確かめればよいのかが定まらず、もらった返事も判断の材料にできません。
まずは手元にある資料を一つ選び、そこから読み取れる許可の中身と、いつ確かめたのかを書き留めるところから始めてください。つぐーるでは、家賃なしで住むことを認めた家族が亡くなった後の許可の確かめ方も含めて、実家の将来をこれから考えるあなたに信頼できる情報を提供しています。

