実家の土地は親の名義、建物は子の名義。あるいは土地だけが亡くなった祖父の名義のまま。こうした名義が割れている実家は、売却や相続の場面で、誰の同意が要るのかが急に問題になります。
登記事項証明書と固定資産税の書類で登記上の名義人と担保を確かめ、土地の利用関係が使用貸借か賃貸借かを見分けると、場面ごとに必要な同意が分かります。
売却・建て替え・明渡し・相続で起きる問題を先に知っておくと、専門家へ相談する前に、聞くことを自分の言葉で書き出せます。
土地と建物の名義が違う実家でまず確認する書類
名義の違いは「親から聞いた話」で済ませず、法務局の登記事項証明書と市区町村の固定資産税の書類の2系統で確かめられます。
どちらも、親や兄弟・姉妹に切り出す前に、子が自分で取り寄せられます。
土地と建物それぞれの登記事項証明書の取り方
登記事項証明書は、土地の分と建物の分で2通必要です。
土地と建物は、法律上は別々の不動産として登記されています。土地は「地番」、建物は「家屋番号」で特定します。
ここで多くの人がつまずくのは、郵便が届く住所(住居表示)では請求できないことです。地番と家屋番号は、毎年春に届く固定資産税の納税通知書に付いている「課税明細書」に載っています。
先にこの明細書を手元に置いてから法務局へ請求すると、窓口で地番を調べ直す手間が省けます。
登記事項証明書は、所有者本人でなくても、誰でも請求できます。親の同意も親への説明も要らず、子が1人で取れます。
何人も、登記官に対し、手数料を納付して…交付を請求することができる(不動産登記法119条1項)
費用は次のとおりです。
| 取り方 | 手数料(1通) | 備考 |
|---|---|---|
| 法務局の窓口で請求 | 600円 | 収入印紙で納める |
| オンライン請求・郵送で受取 | 520円 | 郵送料込み |
| オンライン請求・窓口で受取 | 490円 | 最寄りの法務局で受け取れる |
| 登記情報提供サービス(画面閲覧) | 330円 | 全部事項1件あたり。証明書の代わりにはならず、内容の確認だけに使える |
請求するときは「現在事項証明書」ではなく「全部事項証明書」を選んでおきましょう。全部事項には過去の名義の移り変わりが残っているので、「建物は父が新築し、土地は祖父から父へ相続した」といった経緯が読み取れます。
この経緯が、土地の利用関係(使用貸借か賃貸借か)を判定する材料になります。
もう1つの注意点は、実家の敷地が2筆・3筆に分かれていたり、母屋のほかに離れや倉庫が別棟として登記されていたりすることです。課税明細書に載っている地番と家屋番号をすべて書き出し、全部そろえておきましょう。
1筆だけ取って「土地は親名義」と結論づけると、残りの筆が祖父名義のまま、という見落としが起きます。
出典: e-Gov法令検索 不動産登記法
出典: 法務局 登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続が便利です
甲区と乙区で読み取る所有者と担保
証明書の「権利部」は甲区と乙区に分かれていて、甲区が所有権、乙区が所有権以外の権利(担保や借地権)です。
甲区で見るのは、登記上の名義人の氏名、持分(「持分2分の1」のように書かれていれば共有名義)、登記の原因(相続・売買・贈与・新築)とその日付です。
たとえば土地の甲区に「昭和55年 相続」で父の名前があり、建物の甲区に「平成10年 新築」で子の名前があれば、父の土地の上に子が家を建てたという構図が読み取れます。亡くなった人の名前が名義人の欄に残っていれば、3年以内の相続登記の義務に直結します。
乙区で見るのは、抵当権・根抵当権・地上権・賃借権です。特に抵当権は「債務者」の欄に目を向けてみてください。
親名義の土地に、子の住宅ローンの抵当権が付いていることがあります。この場合、債務者は子で、親は自分の土地を担保に差し出した「物上保証人」です。
逆に債務者が親なら、親自身の借入の担保で、売却や相続の場面で引き受ける負担が変わります。
乙区に賃借権や地上権の登記があれば、土地の利用関係は賃貸借型だと分かります。ただし賃借権の登記は実際にはまれで、登記がなくても賃貸借は成立します。
登記がないことを「賃貸借ではない」の根拠にするのは早計で、地代の支払い記録もあわせて見る必要があります。
納税通知書は「税金を払っている人」宛てに届く書類で、所有者を証明する書類とは別物です。
出典: e-Gov法令検索 不動産登記法
課税明細書と名寄帳で見つける未登記建物と漏れた土地
登記簿に載らない不動産を見つけるのが、税の書類の役目です。
固定資産税の課税明細書で、家屋の「家屋番号」欄が空欄になっている建物は、未登記の疑いがあります。増築した離れや作業小屋だけが未登記、という例はよくあります。
未登記でも固定資産税は課税されています。市区町村が現地調査で建物を把握し、「家屋補充課税台帳」に載せて課税しているからです。
法務局に家屋番号なしで請求しても「該当なし」で返ってくるので、課税明細書との突き合わせが要ります。
納税通知書の宛名にも落とし穴があります。土地が共有名義の場合、宛名は「○○ 外○名」のように代表者1人にだけ届きます。宛名の人のほかにも名義人がいる可能性を、登記簿で確かめておきましょう。
もう1歩進めるなら、市区町村の税務課で「名寄帳」を取る方法があります。名寄帳は、所有者ごとに、その市区町村内の土地・建物を一覧にした台帳です。
実家の敷地以外に、私道の持分、昔の畑、山林などが親名義で載っていることがあります。未登記の建物もここに出ます。
存命の親の分を子が取るには親の委任状が要り、亡くなった親の分は、相続人であることを戸籍で示せば取れます。必要書類は市区町村ごとに違うので、窓口に確認してみてください。なお、非課税の土地は名寄帳に載らない市区町村があります。
相続の対象を数え漏らすと、遺産分割のやり直しにつながります。
出典: e-Gov法令検索 地方税法
名義が違う実家の土地の利用関係の種類
子が親の土地を使う権利は、タダ同然で使わせてもらう「使用貸借」と、地代を払って借りる「賃貸借」の2つです。
どちらに当たるかで、税金の扱いも、権利の強さも、相続や売却のときの立場もまったく違います。
無償か固定資産税程度なら使用貸借
親子間で地代のやり取りがない、または子が土地の固定資産税に相当する金額を負担しているだけなら、法律上も税務上も「使用貸借」として扱われます。
使用貸借とは、物をタダで借りて使い、契約が終わったら返す約束のことです(民法593条)。
税務の根拠は、国税庁の通達「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和48年11月1日付 直資2-189)です。この通達の1項は、土地の固定資産税など「公租公課に相当する金額以下の金額の授受があるにすぎないもの」は使用貸借に当たると定めています。
つまり、子が親に固定資産税分だけ渡していても、それは地代ではなく、使用貸借のままです。
親の土地にタダで家を建てて住んでいると、贈与税を取られるのでしょうか。同じ通達の1項は、使用貸借による土地の使用権の価額を「零として取り扱う」と定めています。
使う権利の値段がゼロなので、贈与された財産もゼロ。贈与税はかかりません。
ただし、その裏返しがあります。親が亡くなったときの相続税では、この土地は「自用地」、つまり親自身が使っている更地と同じ評価になります(同通達3項)。
子の家が建っていても、評価は更地のままです。「子の家があるから土地の評価は下がるはず」という思い込みは、相続税の見積もりを狂わせます。
なお建物の方は、子が自分で住んでいるか、人に貸しているかの区分に応じて評価します(同通達4項)。
権利の強さという点では、使用貸借は弱い権利です。登記できず、借地借家法の保護(30年以上の存続期間、更新、建物の登記で第三者に対抗できる力)も受けられず、この弱さが売却や明渡し、相続の場面で響いてきます。
出典: e-Gov法令検索 民法
出典: 国税庁 使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて
固定資産税を超える地代を払っているなら賃貸借
子が親に、固定資産税を明らかに超える金額を「地代」として払っているなら、賃貸借です(民法601条)。
建物を所有する目的で土地を借りる賃貸借には借地借家法が適用され、その権利は「借地権」と呼ばれます。
借地権は強い権利です。存続期間は30年以上(借地借家法3条)、期間が来ても正当な事由がなければ更新を拒めず、土地の上に借主名義で登記された建物があれば、土地が第三者に売られても借地権を主張できます(借地借家法10条1項)。
相続税でも違いが出ます。親の土地は「貸宅地」として、自用地の価額から借地権割合分を差し引いて評価します(国税庁タックスアンサー No.4613)。
借地権割合は、国税庁の路線価図で路線価の末尾に付くA〜Gの記号(Aが90%、以下10%刻みでGが30%)で示されます。たとえば記号Dなら60%なので、土地の評価は更地の40%まで下がります。
ここに落とし穴があります。「それなら地代を払えば相続税が下がる」と考えて、権利金を払わずに地代だけ払い始めると、借地権相当額を親から子へ贈与したと認定されるおそれがあります。
根拠は、国税庁の通達「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和60年6月5日付 直資2-58)の2項です。権利金を払う慣行のある地域で、権利金なしに「相当の地代」に満たない地代で借りた場合、借地権者が土地の所有者から利益の贈与を受けたものとして扱うと定めています。
境目の目安は次のとおりです。
| 金銭のやり取り | 税務上の扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| なし、または固定資産税相当額以下 | 使用貸借(使用権の価額は零) | 昭和48年通達1項 |
| 更地価額のおおむね年6%程度の地代(相当の地代) | 借地権の設定による利益なし | 昭和60年通達1項 |
| 固定資産税を超えるが相当の地代に満たない地代 | 権利金がなければ借地権相当の利益を贈与と認定されるおそれ | 昭和60年通達2項 |
固定資産税を超えてから年6%に届くまでの間はグレーです。「固定資産税の○倍までなら安全」という基準は法令にも通達にも書かれておらず、子が親に払う金額を増やす前に税理士へ確認する場面です。
出典: e-Gov法令検索 民法
出典: e-Gov法令検索 借地借家法
出典: 国税庁 タックスアンサー No.4613 貸宅地の評価
出典: 国税庁 路線価図・評価倍率表
出典: 国税庁 相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて
使用貸借か賃貸借かを判定する手がかり
親子間で土地の契約書を交わしている家はまれですが、契約書がなくても次の材料から判定できます。
| 手がかり | 見るところ |
|---|---|
| 地代の振込記録 | 金額と、振込の名目(「地代」か「生活費」か) |
| 固定資産税の納付書 | 宛先は誰か、実際に払っているのは誰か |
| 権利金の有無 | 建築時にまとまった金銭を親に渡したか |
| 土地使用承諾書・物上保証の書類 | 子が住宅ローンを組んだなら、金融機関に親が出した承諾書や抵当権設定契約書がほぼ存在する |
| 建築確認の書類 | 土地所有者の承諾欄 |
| 建築時の経緯 | 誰の資金で建てたか、親が何と言っていたか |
特に住宅ローンを組んだ子の場合、金融機関の書類に「土地使用承諾書」や「使用貸借契約書」が綴じられていることが多く、そこに「無償」と書かれていれば使用貸借の有力な証拠になります。
揉めやすいのは、子が親に毎月渡していたお金の名目が曖昧なケースです。
地代なら賃貸借で相続税評価が下がり、生活費なら使用貸借のままなので、相続人の間で主張が割れやすい場面です。親が元気なうちに、名目を一筆でも書面に残しておくと、後の争いを避けられます。
もう1つ、古い実家で注意する点があります。昭和48年11月1日の通達より前は、無償で土地を借りた時点で借地権相当額の贈与税が課された例がありました。
通達の6項はそうした場合の経過的な取扱いを定めていて、土地や建物の評価が通常と変わります。昭和40年代以前から親の土地に子が家を建てて住んでいる家は、当時の課税の有無を税理士に確認しておきましょう。
出典: 国税庁 使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて
土地と建物の名義が違うと同意が必要になる場面
売る・建て替える・担保に入れる・出て行ってもらうのどの場面でも、土地の名義人と建物の名義人のどちらの同意が要るかで結果が変わります。
同意がなくても法律上できてしまうことも知っておくと、相手の出方に備えられます。
土地か建物の一方だけを売るとき
法律の建前では、土地の名義人は土地を、建物の名義人は建物を、それぞれ相手の同意なしに単独で売れます。
所有者は自分の物を自由に処分できるからです。ところが実際には、一方だけではまともな値段で売れず、理由は2つあります。
1つ目は、土地だけを売る場合です。他人の建物が建ったままの土地(底地)を買う人は、その建物をどかせないまま土地を持つことになります。
使用貸借の底地は、業者の買取で更地価格の1〜2割程度と言われることが多く、一般の買い手を見つけるのは難しい水準です。この割合は取引の目安であり、法令で決まった数字とは違います。
2つ目は、建物だけを売る場合です。使用貸借の借主が第三者に借用物を使わせるには、貸主の承諾が要ります(民法594条2項)。
つまり、子が建物を第三者に売っても、買主は親の土地を使う権利を引き継げず、親(土地の名義人)の承諾、できれば買主との新しい契約があってはじめて建物は売り物になります。
賃貸借(借地権)の場合は、建物を売るには地主の譲渡承諾が要ります。承諾料は、東京の裁判所の運用では借地権価格の10%程度が目安とされてきました。
地主が不当に承諾しない場合は、裁判所に承諾に代わる許可を求める道もあります(借地借家法19条)。
逆に、土地だけが第三者に売られたらどうなるか。ここが建物側にとって最も怖い場面です。
借地借家法10条が第三者への対抗を認めているのは、登記された建物を持つ「借地権者」で、借地権とは地上権または賃借権のことです。
使用借権はここに含まれていないため、使用貸借で親の土地に家を建てている子は、土地の新しい所有者に「使わせてもらう約束がある」と主張できず、明渡しを求められるおそれがあります。
土地側から見れば「同意なしで売れる」話でも、建物側にとっては生活の基盤が懸かっています。
一方で、土地の名義人にできることにも限度があり、他人名義の建物の解体には建物の名義人の同意が要ります。
また、建物が亡くなった親の名義のままで相続人の共有名義になっている場合、建物を売るには名義人全員の同意が要ります(民法251条)。1人でも反対すると、売却は止まります。
出典: e-Gov法令検索 民法
出典: e-Gov法令検索 借地借家法
土地と建物を一体で売るとき
最も高く売れるのは、土地と建物をそろえて、完全な所有権として一般の市場に出す方法です。
買主は土地も建物も自分の物にできるので、通常の中古住宅や更地として値段が付きます。
不動産会社に相談すると「名義が違うので買取になります」と言われることがあります。買取が悪いわけではなく、早く現金化したい事情があれば選択肢の1つです。
ただ、土地の名義人と建物の名義人が同時に売主になれば、一般売却は可能です。先に名義を一方にそろえてから売る方法もあります。
買取の提示額と、一体で一般売却した場合の査定を、複数の会社で比べてから決めると、売主側が損をしにくくなります。
一体で売るときの段取りは、次のように組み立てます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 契約 | 土地と建物で売買契約が2本(または売主2人の連名で1本)。買主は1人 |
| 決済・引渡し | 同じ日にそろえる。片方だけ先に渡すと、残った方が売れなくなる |
| 抵当権の抹消 | 土地と建物のどちらに付いているかを登記簿で確認し、決済当日に抹消 |
| 遠方・高齢の名義人 | 委任状で代理が可能。司法書士が本人確認を行う |
意外に知られていないのが、売却代金の分け方です。土地と建物の代金配分を決める法律はなく、当事者の合意で決まります。
賃貸借なら借地権割合を目安に、土地側と建物側で分けるのが一般的です。使用貸借の場合、裁判や鑑定の場では使用借権を更地価格の1〜3割程度(借地権価格の3分の1、または更地価格の20%といった目安)と見る考え方があり、建物側はその分を主張できます。
この目安は裁判所や鑑定の現場で使われてきた経験則で、法令で決まった数字とは違います。建物側がこの目安を知っているかで、取り分が変わります。
配分は、売りに出す前に決めておくと、決済の直前で話が止まる事態を防げます。
建て替えや住宅ローンの担保に入れるとき
子が親の土地の上で家を建て替えるとき、建築確認の申請やローンの審査で、土地所有者の承諾書を求められます。
使用貸借の目的が「建物の所有」である以上、建て替えは目的の範囲内と考えられます。ただし口約束のままだと、後で「建て替えまでは認めていない」と言われて明渡し請求の火種になるので、承諾は書面に残しておきましょう。
賃貸借(借地権)の場合は、契約に増改築を制限する条件があれば地主の承諾が要り、承諾料(東京の裁判所の運用では更地価格の3%程度が目安とされます)を求められることがあります。承諾が得られなければ裁判所に許可を求める制度もあります(借地借家法17条2項)。
住宅ローンでは、金融機関はほぼ例外なく、建物と土地の両方に抵当権を付けることを求めます。土地の名義人である親は、自分の土地を子の借金の担保に差し出す「物上保証人」になります。
物上保証人の責任は土地を失う範囲にとどまり、連帯保証人のように自分の財産全部で借金を返す義務とは別です。契約書で、親が「物上保証人」なのか「連帯保証人」なのかを確かめておきましょう。
親の相続では、この抵当権が付いたまま土地が相続人に承継されます。
もう1つ、知っておきたい仕組みがあります。土地と建物の所有者が同じ場合に、片方だけに抵当権が付いて競売になると、建物のために「法定地上権」が成立し、建物は残れます(民法388条)。
ところが、抵当権を設定したときに土地と建物の所有者が違っていた場合、法定地上権は成立しないとされています(最高裁昭和44年2月14日判決)。親の土地だけが親の借金で競売にかかると、子の建物は敷地を使う権利を失いかねないということです。
出典: e-Gov法令検索 借地借家法
出典: e-Gov法令検索 民法
土地の名義人が明け渡しを求めるとき
親が「出て行ってほしい」と言い出す、あるいは土地を相続した兄弟・姉妹が明渡しを求めるとき、使用貸借の終わり方が結果を左右します。
民法597条は、使用貸借が終了する場面を、期間が満了したとき、定めた目的に従って使用収益を終えたとき、借主が死亡したとき、と定めています。また598条1項は、目的を定めた使用貸借で、目的に従った使用収益に「足りる期間」が過ぎたときは貸主が解除できると定めています。
では、建物を所有する目的で親の土地を借りている場合、「足りる期間」はいつ過ぎるのでしょうか。
裁判例では、建物が使える間は使用収益を終えていないと見る考え方が一般的で、数十年にわたる親族間の使用貸借でも、借主が現にその建物に住んでいる以上は終了していないとした判断があります。貸主の側からは、年数だけを理由に「もう十分使っただろう」とは言いにくいということです。
ただし、例外があります。最高裁昭和42年11月24日判決は、父母を貸主、子を借主とする返還時期の定めのない土地の使用貸借で、借主が老父母の扶養をやめ、当事者間の信頼関係が失われた事案について、民法の規定を類推して貸主の解約を認めました。
親子関係の悪化そのものが、明渡し請求の根拠になりうるということです。
防御になるのは、親が元気なうちに作る書面(使用貸借の目的と期間、建て替えの承諾)と、相続のときに土地が誰に行くかの手当てです。
出典: e-Gov法令検索 民法
出典: 裁判所 裁判例検索 最高裁判所第二小法廷 昭和42年11月24日判決(建物収去土地明渡請求事件)
相続で名義の違いが引き起こす問題
名義の違いが本当に問題になるのは、親が亡くなって土地が建物を持つ子以外の相続人に渡ったときです。
建物を持つ子が土地を相続すれば名義はそろいます。別の相続人に渡ると、「土地の名義人が明け渡しを求める」場面が家族の中で起きます。
相続の場面で名義の違いが引き起こす問題は、次の5つです。
- 建物を持つ子以外が土地を相続したときの立ち退きリスク
- 遺産分割で争点になる使用借権の評価と特別受益
- 相続税の自用地評価と小規模宅地等の特例の可否
- 建物の名義人が親より先に亡くなったときの使用貸借
- 亡くなった親の名義が残る建物の相続登記の義務
建物を持つ子以外が土地を相続したときの立ち退きリスク
親(貸主)が亡くなっても、使用貸借は続きます。
使用貸借は、借主の死亡によって終了する。(民法597条3項)
終了の原因として挙がっているのは「借主の死亡」で、貸主の死亡とは区別されています。土地を相続した人が親の権利義務を引き継ぎ(民法896条)、貸主の地位に立ちます。
問題は、その相続人が誰かです。建物を持つ子が土地を相続すれば、名義はそろい、問題は消えます。
別の兄弟・姉妹が相続すると、その人は貸主として解約を主張でき、土地を第三者に売ることもできます。使用借権は登記できず、第三者に対抗できないので、建物を持つ子は立場が弱くなります。
建物を持つ子に有利な手当ては2つあります。親が存命なら、「土地は建物を持つ子に相続させる」と遺言で指定してもらうことです。
公証人が関与する公正証書遺言(民法969条)にしておくと、形式の不備や偽造を疑われる争いを避けやすくなります。
親がすでに亡くなっているなら、遺産分割の協議で建物を持つ子が土地を取得し、その代わりに他の相続人へ金銭(代償金)を払って調整します。これを代償分割といいます。
遺産分割では、次の2点も織り込んでおきましょう。親の土地に子の住宅ローンの抵当権が付いている場合、土地を取得する相続人は、物上保証の負担ごと引き受けます。
建物を持つ子が取得するのが自然ですが、他の相続人が取得するなら、その負担を代償金の計算に反映させる必要があります。また、土地が親と叔父の共有名義だった場合、親の持分を相続しても、土地全体を売るには叔父の同意が要ります。
出典: e-Gov法令検索 民法
遺産分割で争点になる使用借権の評価と特別受益
遺産分割で土地の値段をどう見るかは、代償金の額を直接左右します。
ここで知っておきたいのは、相続税の評価と遺産分割の評価は別物だということです。
相続税では、使用貸借の土地は自用地として減額なしで評価します。しかし遺産分割では、裁判所や鑑定の現場で、使用借権の負担が付いた土地として更地価格から1〜3割程度(借地権価格の3分の1、または更地価格の20%といった目安)を差し引いて評価する考え方があります。
建物を持つ子が土地を取得する場合、この減額分だけ代償金が下がります。逆に言えば、知らなければ更地価格のまま計算され、払いすぎることになります。
この割合は法令で定められた数字ではなく、事案ごとに鑑定や協議で決まります。
もう1つの争点が特別受益です。他の相続人から「長年タダで親の土地を使ってきた利益は、生前贈与と同じ特別受益(民法903条1項)だ」と主張されることがあります。
使用借権の設定そのものを特別受益と見る解説はあります。ただし、「毎年の地代相当額を年数分積み上げて持ち戻せ」という主張は、使用貸借がそもそも無償の契約である以上、裁判の場では採用されにくいとされています。
親が存命なら、この争点を消す方法があります。民法903条3項は、被相続人が特別受益の持戻しをしない意思を表示したときはそれに従うと定めています。
遺言に「土地の無償使用について持戻しを免除する」旨を書いておけば、特別受益の主張は封じられます。
相続人の間に知識の差があると、その差がそのまま金額の差になります。
出典: e-Gov法令検索 民法
相続税の自用地評価と小規模宅地等の特例の可否
相続税の計算では、親名義の土地は、子の建物が建っていても自用地として評価します(昭和48年通達3項)。
借地権割合による減額は使えず、その代わりに検討するのが「小規模宅地等の特例」です。
亡くなった人の居住用の宅地を一定の親族が取得した場合、330平方メートルまで評価額を80%減らせる制度です(租税特別措置法69条の4)。土地の評価が5分の1になるので、相続税への影響が大きい特例といえます。
土地が親の所有で建物が子の名義でも、適用の余地はあります。条文は、特例の対象を「被相続人等」の居住の用に供されていた宅地とし、この「被相続人等」には「被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族」が含まれます。
つまり、次のどちらかなら検討できます。
| 居住の実態 | 考え方 |
|---|---|
| 親が子の建物に同居していた | 親自身の居住用宅地。同居していた親族が取得し、申告期限まで住み続けて保有するなどの要件を満たせば対象 |
| 子が親と生計を一にし、親の土地に建てた自分の建物に住んでいた | 生計を一にする親族の居住用宅地。その子が取得し、申告期限まで住み続けて保有すれば対象 |
注意したいのは、同じ敷地に親の母屋と子の家が別棟で建っている場合です。この場合、別棟に住む子は「同居」に当たらないのが原則です。
親子の生計が一つ(生活費を共通にしている)でなければ、特例は使えない可能性が高くなります。「生計を一にする」かは、生活費や光熱費の負担の実態で判断されます。
80%減の有無で相続税は大きく変わります。相続が起きてから居住の実態を変えることはできないので、親が存命のうちに、居住の状況と名義を税理士に示して適用の見込みを確認しておくと、申告の段階で慌てずに済みます。
出典: 国税庁 使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて
出典: 国税庁 タックスアンサー No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
建物の名義人が親より先に亡くなったときの使用貸借
建物を持つ子が親より先に亡くなっても、裁判例では敷地の使用貸借は当然には終わらないと見る考え方があります。
土地は親、建物は子で、その子が親より先に亡くなったらどうなるでしょうか。民法597条3項を文字どおり読むと、使用貸借は「借主の死亡によって終了」します。
すると、子の配偶者や孫は土地を使う権利を失い、建物を取り壊して親に土地を返すことになりそうです。
しかし、建物を所有する目的の土地の使用貸借については、裁判例の考え方は条文の文字どおりとは違います。
建物の使用が続いている間に借主が死亡しても、特段の事情がない限り、敷地の使用貸借は当然には終了せず、借主の相続人が地位を引き継ぐとした判断があります(大阪高裁昭和55年1月30日判決などが解説で引かれます)。
建物は相続で配偶者や孫のものになるのに、敷地だけ返せというのは当事者の意思に合わない、という理屈です。条文だけを読んで「子が先に死ねば土地は親に戻る」と判断するのは早計です。
一方で、「借主の生存中に限って貸す」という合意があった事案では、借主の死亡で終了を認めた裁判例もあります(東京高裁平成30年5月23日判決などが解説で引かれます)。分かれ目は、当事者の合意の有無と、貸した経緯です。
もう1つの注意点として、子の配偶者や孫と親との間に信頼関係がなければ、最高裁昭和42年判決の筋で、親から解約を主張される余地があります。
親と子の配偶者の関係が良くない家では、子が自分の死後のことを考えて、使用貸借の相続について親と書面を交わしておく意味があります。
出典: e-Gov法令検索 民法
亡くなった親の名義が残る建物の相続登記の義務
建物や土地が亡くなった父や祖父の名義のままなら、2024年(令和6年)4月1日に始まった相続登記の義務化の対象です。
遺産分割が終わっていない限り、その不動産は相続人全員の共有名義の状態で、そのまま放置できなくなりました。
不動産登記法76条の2は、相続で不動産を取得した人に、自分が相続人であることと不動産を取得したことを知った日から3年以内に、所有権移転の登記を申請する義務を課しています。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象です(同法164条1項)。
義務化より前に起きた相続も対象で、令和6年4月1日より前に相続を知った不動産は、令和9年(2027年)3月31日までに登記する必要があります(法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」)。
「正当な理由」として法務省が例に挙げるのは、相続人が極めて多数で戸籍の収集や相続人の把握に多くの時間を要する場合、遺言の有効性や遺産の範囲が争われている場合などです。ただし個別の判断で、数次相続だから自動的に免れるという扱いとは違います。
遺産分割がまとまらないときの逃げ道が「相続人申告登記」です(不動産登記法76条の3)。自分が登記名義人の相続人であることを法務局に申し出るだけで、期限内の申出なら登記の義務を果たしたとみなされます。他の相続人の協力は要らず、1人でできます。
ただし、これは「誰が相続人か」を記録するだけで所有権は移らず、売却や担保設定をするには、あらためて遺産分割に基づく相続登記が必要です。
未登記の建物については、相続登記の義務(登記名義人の相続が前提)は直接には及ばず、代わりに、表題登記のない建物の所有権を取得した人に、取得から1か月以内に表題登記を申請する義務があります(不動産登記法47条1項)。
手続の流れは、まず市区町村へ未登記家屋の所有者変更の届出を出して固定資産税の名義を整え、売却するなら土地家屋調査士に依頼して表題登記を入れ、その後に所有権の登記をする順になります。
相続人は世代が進むほど増えます。亡くなった人の名義を見つけたら、早く手を付けるほど楽になります。
出典: e-Gov法令検索 不動産登記法
名義が違う実家を専門家に相談する前の準備
誰に何を聞くか、何を持っていくか、何を書き出しておくかで、相談1回の密度が変わります。
登記上の名義人と担保、利用関係、場面ごとの同意、相続で起きる問題の順にそろえた材料を、そのまま相談に持ち込めます。
司法書士・税理士・弁護士・不動産会社の持ち場
名義が違う実家の相談は1人の専門家では完結せず、持ち場を分けて考えると聞き漏らしが減ります。
| 専門家 | 聞くこと |
|---|---|
| 司法書士 | 登記事項証明書の読み方、相続登記・相続人申告登記、名義をそろえる登記の手続と登録免許税 |
| 税理士 | 相続税の評価(自用地評価)、地代を払った場合の贈与認定、小規模宅地等の特例の可否、名義をそろえる経路ごとの税負担 |
| 弁護士 | 兄弟・姉妹間の争い、明渡し請求への対応、使用貸借の解釈、遺産分割での使用借権の評価と特別受益 |
| 不動産会社 | 一体で売る場合と一方だけ売る場合の査定の差、底地・借地権の価格感 |
不動産会社は、1社の話だけで決めずに比べてみてください。買取を前提にした提案が出てきたら、一体売却での一般市場の査定を他の会社にも聞き、比べてから判断できます。
会社によって得意分野が違うだけで、どちらが正しいという話とは違います。
費用をかける前の入口の確認には、無料の窓口があります。法務局の登記手続案内(予約制、1回20分程度)、自治体の無料法律相談、税務署の相談窓口です。
「使用貸借か賃貸借か」「相続登記の期限はいつか」といった確認なら、ここで済みます。
相談に持ち込む書類と記録
登記と税の書類、支払いの記録、相続関係図をそろえて持ち込むと、相談が速く進みます。
| 書類・記録 | 何が分かるか |
|---|---|
| 土地と建物の全部事項証明書(全筆・全棟) | 登記上の名義人、持分、名義の経緯、抵当権の債務者 |
| 固定資産税の課税明細書・名寄帳 | 未登記建物、敷地以外の土地、評価額 |
| 地代や固定資産税の支払い記録 | 使用貸借か賃貸借かの判定材料 |
| 土地使用承諾書・契約書・ローン契約書 | 使用の条件、物上保証か連帯保証か |
| 建築時の経緯のメモ | 誰の資金で建てたか、親が何と言ったか |
| 相続関係図(手書きで可) | 相続人の範囲、代襲や数次相続の有無 |
兄弟・姉妹がいるなら、事実確認の段階から情報を共有し、登記事項証明書のコピーを渡しておくと、「勝手に動いた」と疑われずに済みます。
登記簿は誰でも取れる公開情報ですが、取ったことを隠すと、情報そのものより隠した事実が争いの種になります。
相談前に書き出しておく論点
相談で聞くことを自分の言葉で書き出しておくと、次の6項目を埋めるだけで相談事項の一覧ができます。
| 番号 | 論点 | 添える材料 |
|---|---|---|
| 1 | 土地の利用関係は使用貸借か賃貸借か | 支払い記録、承諾書 |
| 2 | 親の相続で土地を誰が取るのが合理的か、代償金の目安はいくらか | 使用借権の減額の目安、抵当権の有無 |
| 3 | 相続税の評価はいくらか、小規模宅地等の特例は使えるか | 居住の実態、生計が一つか |
| 4 | 売るなら一体か一方か、代金はどう分けるか | 複数社の査定 |
| 5 | 名義をそろえるなら相続・贈与・売買のどれが税負担が少ないか | 下の比較表 |
| 6 | 亡くなった名義人の建物・土地の相続登記の期限はいつか | 登記簿の名義人と死亡日 |
5番目の「名義をそろえる経路」は、親の存命中に動くかの判断に直結するので、比べる材料を示しておきます。
| 経路 | 登録免許税 | ほかにかかる税 |
|---|---|---|
| 相続(親の死亡時) | 固定資産税評価額の0.4% | 相続税(基礎控除内なら0) |
| 贈与(存命中) | 2% | 贈与税(年110万円を超える部分に高い税率) |
| 売買(存命中) | 2%(土地は令和11年3月31日まで1.5%) | 親に譲渡所得税。親族間で時価より著しく低い価額なら、差額が贈与とみなされる(相続税法7条) |
相続が最も安く見えますが、親が存命のうちに名義をそろえないと、立ち退きリスクや遺産分割の争いが残ります。安さと争いの少なさのどちらを取るかが、相談で詰める論点です。
親が存命なら、相談の結果を親に戻し、公正証書遺言に落とし込むところまでが到達点です。土地を建物を持つ子に相続させること、特別受益の持戻しを免除すること、この2つを遺言に書いておくだけで、相続で起きる争点の多くが消えます。
親の判断能力が落ちると、遺言も贈与も売買もできなくなります。早く動く理由はそこにあります。
急ぐことと、経路を選ばずに動くことは違います。6項目を埋めてから相談に行けば、その違いが見えてきます。
出典: 国税庁 タックスアンサー No.7191 登録免許税の税額表
出典: 国税庁 タックスアンサー No.4423 著しく低い価額で財産を譲り受けたときの贈与税
出典: e-Gov法令検索 相続税法
まとめ:名義が違う実家は使用貸借か賃貸借かを確かめ、土地の行き先を親の存命中に決めておく
名義が違う実家で最も重いのは、親子間の土地は使用貸借である家が多く、その権利は登記できず第三者に主張できないことです。親が亡くなって土地が建物を持つ子以外の相続人に渡ると、明渡しや地代の請求が家族の中で起きます。
次の一歩は、土地と建物の全部事項証明書を全筆・全棟そろえ、地代や固定資産税の支払い記録と並べて、使用貸借か賃貸借かを判定することです。これを飛ばすと、相続税の評価も、遺産分割の代償金も、売却代金の分け方も、前提がずれたまま進みます。
親が存命なら、土地を建物を持つ子に相続させる遺言と、特別受益の持戻しを免除する一文を、相談の結果として親に戻すところまで進めてみてください。実家と相続の地図帳「つぐーる」では、土地と建物の名義が違う実家の書類の確かめ方や、使用貸借と賃貸借の見分け方も含めて、相続や実家について悩むあなたに経験に基づいた情報を提供しています。

