実家に親だけが住み、名義も親だけの人が読むガイド

実家で暮らしているのは親だけで、土地と建物の名義人も親だけです。自分は別の家で暮らしていて、親の入院や家の傷みが気になり始めています。

実家の相続において、今すぐ家を売るか持ち続けるかを決める必要はありません。先に確かめるのは、土地と建物の登記上の名義と、親が今の家でいつ頃まで暮らしたいと考えているかの二つです。そのうえで、実家の話をもう一度持ち出すきっかけを家族で決めておけば、今の家族に合う次の動き方を選べます。

土地か建物に親以外の名義人がいる場合や、登記上の名義人がすでに亡くなっている場合は、このケースには当たりません。名義をまだ確かめていない場合は、先に土地と建物の登記事項証明書を確認してください。

実家には親だけが住み、名義人も親のみのケースだと、今後どんな時に状況が変わるのか

実家のことで家族が動くきっかけは、親が家を離れるとき、親が契約の内容を理解して決めにくくなるとき、建物に修繕が必要になるときの三つです。

どれが先に来るかは家族によって違います。親が家を離れたら家を見に行く人を決め、親が契約を理解して決めにくくなったら本人の名前で進められるかを確かめ、建物が傷んだら直す箇所と見積額を確認します。

親が家から出ることになった時(入院・施設入居・子との同居)

親が実家を離れると、空いた家を誰が見に行くかと、住まないまま維持するかどうかを決める必要が出てきます。

今の実家は、親が毎日そこで暮らしているから手入れが続いています。親が入院した日、施設へ入った日、子の家で暮らし始めた日から、家を見る人がいなくなります。誰も住まない家で先に決めておくのは、換気と通水、郵便物の確認をする人です。電気と水道を止めるかどうかは各事業者へ確認します。火災保険は保険会社または代理店へ、家を空ける予定を伝えて、今の契約のまま続けられるかを聞きます。

ここで初めて、住まないまま維持するのか、売却を考えるのかを決めることになります。親が退院して戻る見込みがあるなら、維持する期間を区切って考えられます。戻る時期が決まっていないなら、維持にかかる費用と手間を誰が引き受けるかが先に問題になります。

実家に当てはめて、「親が施設へ入ったら」「親が自分の家で暮らし始めたら」と考えてみてください。親が家を離れる日が決まったら、その日までに家を見に行く人と頻度を決め、電気・水道・火災保険の扱いを事業者へ確認しておきます。

親が家の売却や契約の内容を、理解して決められなくなった時

実家の売却や任意後見契約のように親本人の意思表示が要る手続きは、親がその内容と結果を理解して決められる間にしか、本人の契約として進められません。

本人の契約として進められるかどうかは、日常会話ができるかどうかでは決まりません。決め手になるのは、その契約が何を意味し、結果として何が起こるかを本人が理解できるかどうかです。民法第三条の二は、法律行為の当事者が意思表示をしたときに意思能力(その行為の結果を判断できる力)を有しなかった場合、その法律行為は無効になると定めています。この力は、後見の制度では判断能力と呼ばれます。

成年後見制度には、本人に十分な判断能力があるうちに将来任せる人と事務を契約で決める任意後見と、判断能力が不十分になった後に家庭裁判所へ申し立てる法定後見があります。どの制度や支援が使えるかは、親の状態と考えている行為によって異なります。時間が経つほど、親自身が選べる方法は減ることがあります。

書類をそろえたり役所へ出向いたりするのに手助けが要ることと、契約の内容と結果を理解して決められないことは別です。家族が親の判断能力を判定するわけでもありません。

診断名がついた日を期限のように扱わず、売却や任意後見契約など具体的な話が出た時点で、その話を扱う相手へ親の状態を伝えて、確認の進め方を聞いてください。売買なら相談している不動産会社の担当者、登記や契約書なら相談中の専門家へ伝えます。

参照: e-Gov法令検索「民法」

参考: 法務省「Q1~Q2 『成年後見制度について』」

雨漏りや設備の故障で修繕が必要になった時

実家をどうするか決めていない間も建物の傷みは進むため、雨漏りや設備の故障が起きたら、直す場所と見積額を確認します。

家族が気づける故障は、雨漏り、給湯器の不具合、水回りからの漏水などです。天井のしみ、お湯が出ないこと、床の湿りなどで気づきます。見つかったら修理業者に来てもらい、危険があるか、応急処置が要るかを聞きます。

親が実家に住み続けているなら、どこまで直すかは名義人である親と相談して決めます。親が家を離れていても、漏水を止めるような急を要する対応を除いて、家族だけで工事の範囲を決めないでください。親が工事の内容を理解して決めにくい状態なら、危険を取り除く処置だけを先に行い、残りの工事は急がずに置きます。急がない工事なら、複数の業者から見積書をもらうと、工事の範囲と金額の違いも比べられます。

建物の傷みが売却額や買い手の反応にどう関わるかは、この段階では分かりません。今できるのは、故障した場所の写真と見積書を保管し、直した箇所と支払った人を書き添えておくことです。

【落とし穴】実家には親だけが住み、名義人も親のみの人で、実際に起こりうるケースを紹介

実家のことは、名義人である親の意思と今の暮らしから考え始めないと、選んだ進め方が親の希望と合わず、組み直しになることがあります。

避けたい形が三つあります。親の希望を聞く前に家族が売却や制度を決めること、診断名だけで親が自分では決められないと思い込むこと、次に話すきっかけを決めないまま先延ばしにすることです。

家族信託や売却の話を進めていたら、親の希望があとから分かった

次は、よくある形をもとにした架空の例です。

子が先に実家の売却を相談し、親の財産の管理を家族へ任せる家族信託についても調べ始めました。その後で、親が「できるだけ今の家で暮らしたい」と話しました。進めていた相談も家族信託の検討も、いったん止めることになりました。

家族が先に選んだ方法と、親が望む暮らしが食い違った例です。

この例から学べることをまとめます。

  • 名義人である親の希望を、方法を選ぶ前に聞く
  • 親の希望と合わない方法は、いったん止めて組み直す

連絡も書類の準備も子が担っていても、土地と建物の名義人は親です。民法第二百六条は、所有者が法令の制限内で自由にその所有物を使い、利益を得て、処分する権利を持つと定めています。家族が全員賛成していることは、その権利を親から移す理由になりません。

家族信託も、親が契約の内容を理解して決められる間にしか結べません。先に決めた進め方は、親の希望と合わなければ組み直しになります。売却の相談先へは親の希望を確かめてから改めて連絡すると伝え、家族信託や任意後見の比較は親の話を聞いた後に回してください。

参照: e-Gov法令検索「民法」

親が認知症と診断されたため、親は何も決められないと思い込んでいた

次も、よくある形をもとにした架空の例です。

認知症と診断された親が、実家について希望を聞かれても「もう自分では何も決められない」と答えました。家族もその言葉を受け入れて、希望を聞くこと自体をやめました。

診断名だけで、親の希望を聞く機会までなくした例です。

この例から学べることをまとめます。

  • 診断名と、一つのことを理解して決める力を分ける
  • 親が話せる場面では、今の家でどう暮らしたいかを聞く

厚生労働省のガイドラインは、認知症の症状にかかわらず本人には意思があり、決める力を持っていることを前提に支援するとしたうえで、その力は行為の内容ごとに判断されるものだと述べています。診断名は、どの契約についても決められないと判断する材料にはなりません。

ここで家族がすることは、親の決める力を測ることではありません。診断があっても、親が今の家でどう過ごしたいかを話せる場面は残ります。家族が先に決めつけず、親が話せる状態のときに実家のことを話題にしてください。

出典: 厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)」

「まだ元気だから」と話し合いを先延ばしにして、見直す時期も決めなかったら

もう一つ、よくある形をもとにした架空の例を挙げます。

親が元気に暮らしているので、家族は「実家のことはまだ先でいい」と話を終えました。次にいつ話すかは、誰も決めませんでした。

今は動かないという判断と、話を先送りした状態が混ざった例です。

この例から学べることをまとめます。

  • 今すぐ売却や契約を決めなくてもよい
  • 次に話すきっかけだけは、その場で決める

今すぐ売却や契約を決めないこと自体は、失敗ではありません。問題になるのは、次にこの話を持ち出すきっかけが決まっていないことです。実家のことを考え直させる出来事は、家族の都合とは関係なく起こります。そのときにきっかけを決めていなければ、家族の誰も口火を切れません。

何も決めずに時間が過ぎるのと、今は動かないと決めるのは違います。今は動かないと決めたと言えるのは、次にこの話を持ち出すきっかけを家族が口に出して決めたときだけです。

今のうちにできること・やっておくとよいこと

確かめた内容は、書類と金額、担当する人、確認した日付を同じ一覧へ書くと、状況が変わったときに前回との違いが分かります。

実家のことは、状況が変わってから同じ話をやり直すことになりがちです。前回何を確かめ、誰がどこまで知っているかが手元に残っていれば、次は変わったところだけを見れば済みます。

家に関する書類をそろえ、税金・保険料・修繕費の金額を確認する

登記事項証明書、固定資産税の納税通知書、火災保険の保険証券など、家に関する書類を一か所にそろえます。あわせて固定資産税、火災保険料、直近の修繕費として実際に支払った金額を確認します。

方針を考えるたびに書類を探し直していると、そのたびに話が止まります。どこに何があるかが決まっていれば、家族の誰が確認しても同じ数字を見られます。

以下は記入例です。金額と日付は、手元の書類を見て書き入れてください。

項目種類保管場所金額基準日・更新日未確認点
登記事項証明書書類自宅の書類箱取得日取得日が古くなっていないか
固定資産税支払い納税通知書と同じ場所年額通知の年度支払う人
火災保険書類・支払い保険証券の保管場所保険料更新日空き家になった場合の扱い
修繕書類・支払い見積書と領収書の保管場所支払額工事日次に確認する箇所

金額が分からない項目は、推測で埋めずに空欄にしておきます。埋めた数字が独り歩きすると、後から比べたときに何が変わったのかが分からなくなります。

次に実家のことを考えるときは、この一覧を前回と見比べて、増えた負担と足りない書類だけを確かめます。

親への連絡、書類の保管、専門家への相談を誰が担うか決める

親へ連絡する人、家の書類を保管する人、必要になったときに専門家へ相談する人を、それぞれ決めます。

決めるのは親でも、連絡と書類の管理と相談は、別居する子の誰か一人へ寄りがちです。三つとも同じ人が担う必要はありません。「長男だから」で決めず、実家までの距離、親と連絡を取る頻度、書類の扱いに慣れているかで分けます。たとえば、連絡は親の近くに住む兄弟・姉妹、保管は書類の扱いに慣れた人という分け方です。

兄弟・姉妹がいない場合は、相談先の候補だけを書き出しておきます。名義や登記の疑問なら司法書士、売却の見通しなら実家の近くの不動産会社、税金なら税理士か所轄の税務署が窓口です。

今の段階で依頼まで進める必要はありません。名前と連絡先を控えておけば、必要になった日に探すところから始めずにすみます。

親の希望・実家の名義・話し合うきっかけ・連絡役・確認日を一枚に記録する

親の希望、土地と建物の名義人と持分、話をもう一度持ち出すきっかけを一枚に書きます。あわせて書き添えるのは、声をかける人と確認した日です。書いたものは、家族が見られる場所へ置きます。

口頭の会話だけで終えると、後から家族の間で言った言わないの食い違いが起こることがあります。書くのは、登記事項証明書で確かめた名義人と持分、そして親が実際に話した言葉です。契約書を作る段階ではないので、形式は問いません。

以下は架空の記入例です。

土地・建物の名義人と持分親の希望もう一度話すきっかけ連絡役確認日
土地・建物とも母(持分の記載なし)今の家で暮らしたい親の入院または屋根の修繕長女2026年8月21日

名義人と持分は、登記事項証明書で確かめた内容をそのまま書き写します。親の希望の欄には、子が考えていることを要約して入れません。確認日には、親から実際に聞いた日を書きます。

この一枚は、遺言や家族信託の契約書に代わるものではなく、家族が確認した内容の控えです。正式な契約が必要になったときは、その時点の親の希望と状態をもとに、契約を扱う専門家へ確認します。確認した日が残っていれば、次に話すときに前回から何が変わったかを確かめられます。内容を書き換えた人は、日付も直してください。

まとめ:親が今の家で望む暮らしを聞く

実家をどうするかを決められるのは、名義人である親です。売るか持ち続けるかを家族が先に決めても、親の望む暮らしと合わなければ、その相談も準備もやり直しになります。

次の一歩は、親に、いつ頃まで今の家で暮らしたいかを聞くことです。名義は書類を取り寄せれば確かめられますが、親の希望は聞かなければ分かりません。ここを飛ばすと、家族は親の望みが分からないまま売却や制度だけを比べることになります。

売却や契約を具体的に予定しているなら、親がその内容と結果を理解して決められるかも、話を扱う相手へ確認してください。つぐーるでは、名義人が親だけの実家で親の希望を先に確かめる進め方も含めて、実家の将来をこれから考えるあなたに信頼できる情報を提供しています。