制度情報は2026年10月時点で確認しています
あなたの実家は、今どんな状況か
あなたは、まだ実家の相続が起きておらず、その実家には親1人だけが住んでいる。実家の名義は親1人ということですね。
親が1人で暮らしている実家は珍しくありません。ただ、親に希望を聞ける状況が続くうちは、「この家をどうするか」を親に切り出すきっかけがなかなかありません。実家に住んでいないあなたからは、親の暮らしぶりや家の傷み具合も見えにくくなります。
この状況で大事なのは、「親が入院や施設への入所などでこの家に住めなくなったとき、この家に住む人が誰もいなくなる可能性がある」ということです。
誰も住まない家は傷みやすく、見回りや固定資産税などの管理と費用を誰が担うかを決める必要が出てきます。そのうえ名義は親1人なので、家を売る・貸すと決めて契約できるのは親本人だけです。子が代わりに決めることはできません。
今の段階で大切なのは、子が先に結論を出さないことと、親の希望を親の言葉で聞いておくことです。親に希望を聞ける状況なら、それがこの状況のいちばんの強みになります。
いま決めなくていいことは?

相続が起きていない今は、実家をどうするかを急いで決める必要はありません。今の段階で結論を出しても、親の状況や家族の事情が変われば、前提ごと変わる可能性があるからです。
そのうえで、「いま決めなくていいこと」には2つの種類があります。
ひとつは、そもそも親が決めることで、子が先回りしなくてよいこと。もうひとつは、いずれ相続人の間で決めることになるけれど、今はまだ判断材料が足りないことです。
子には決める権限がないこと
親が決めることで、子が先回りしなくてよい事があります。
- 誰が家をもらうか
- 家をどうするか
- 親がどこで暮らすか
- 名義・贈与・遺言などの親の財産をどうするか
実家は今、親の財産です。誰に家を渡すか、売るか残すか、遺言を書くか、生前に贈与するか、名義を変えるか。これらを決めるのは親であって、子の側で先に話をまとめても、法律上の効力はありません。
施設に入るか、子の家に移るか、この家に住み続けるかも、親の暮らしそのものなので、親が決めることです。
親が施設に入ったら家は要らなくなる、誰も住まないなら売ることになる、と思っていても、今の時点では、どちらもまだ決まっていないことです。
親の財産をどう動かすかは、親の意向を聞いたうえで、必要なら専門家に確認して進めることです。
相続人の判断だが今は時期尚早なこと
判断材料が揃ってから決めるべきことで、相続前に決めても意味のないものもあります。
- 分け方・代償金
- 相続するかしないか
- 親の1人暮らしを支える負担の清算
- 誰かが実家に移り住むか
家と預金などの財産をどう分けるか、家をもらう人がほかの相続人にお金を払う「代償金」が要るかどうかは、相続が起きたあとに、相続人の間で話し合って決めることです。今の段階では、家の価値も、誰が相続人になるかも、確定していません。相続人があなた1人なら、分け方の話そのものがなくなります。
自分が相続するかしないかも同じです。相続放棄は、相続が起きたあとにしか手続きできません。今「自分はいらない」と言っても法律上の効力はなく、口約束として残るだけです。
親のもとへ通う手伝いや見守り、家の修繕費を誰がどれだけ負担しているかを、お金に換算して清算するかどうかも、負担の中身が分かってから考えることです。今の段階で金額の話を始めると、事実の確認より先に感情のぶつかり合いになりやすくなります。
親の介護や家の管理のために、あなたや家族の誰かが実家に移り住むかどうかも、今決める必要はありません。親の状態や、その人の仕事と家族の事情が分かってから決めることです。移り住むとしても、家の持ち主を誰にするかは別の話です。
今のうちにやっておきたいこと

親が病気や認知症で考えを話せなくなると、遺言を残すことも、家の名義を変えることも困難になります。また、相続が起きたあとは、手続きの期限に追われて、落ち着いて話す余裕もなくなります。
親に希望を聞ける状況なら、今やっておくべきことは、親がこの家に住めなくなったときに、家族が慌てずに動ける準備をしておくことです。
具体的には、「親が住まなくなったあと、この家をどうするか」を親の言葉で聞き、親が判断できるうちに必要な手を打てるようにしておくことです。
親の希望を聞いておく
親が住まなくなったあと、この家に誰かが住むのかどうかが大きな分岐になります。家を「誰かが住む前提で考える」か「空ける前提で考える」かです。家の持ち主は親なので、先に親の希望を聞きます。
まずは親に、「1人で暮らすのが大変になったら、どこで暮らしたい?」と聞いてみましょう。家の話から入るより、親の暮らしの話から入る方が答えやすくなります。
そのうえで、「そのとき、この家はどうしてほしい?」と聞きます。親の気持ちは、相続のあとには聞けません。はっきりした希望があれば、遺言という書面に残す方法があります。
あなた自身の答えも用意しておきましょう。自分がこの家に住むつもりがあるのか、空いたあとの管理を担えるのか。自分の考えを言わずに親にだけ聞くと、話し合いではなく尋問のようになります。
ほかに相続人になる人がいれば、聞いた内容をその人とも共有しておきます。
親が判断できなくなったときに備える
親が判断できなくなっても、家をどうするかで家族が動けなくならないようにするためです。親が認知症などで判断できなくなると、子が代わりに売ることはできません。
判断できなくなったあとに家を売るには、家庭裁判所が選ぶ「成年後見人」の手続きが必要です。親の住まいを売るには家庭裁判所の許可が要り、許可なしで売っても無効になります。時間がかかるうえ、親の希望どおりに動かせるとも限りません。
将来、財産の管理を任せる人を親自身が選んでおく「任意後見契約」という方法があります。親が判断できるうちにしか結べません。細かい決まりがあるので、司法書士か弁護士に確認しましょう。
家と費用のことを知っておく
家が空いたとき、管理にどれだけ手間と費用がかかるかの見通しを持っておくためです。見通しがないまま親が住めなくなると、誰が何を担うかが決まらず、家が傷んでいくおそれがあります。
毎年届く固定資産税の通知で、税額と家の評価額の目安が分かりますが、これは固定資産税の評価額であり、相続税の評価や売却価格とは異なります。屋根や水回りの傷み、権利証・保険証券・鍵の保管場所も、親に聞ける状況なら聞いておきます。
家を建てた年は、法務局で取れる登記事項証明書(家の登記の記録)で分かり、「空き家を売ったときの特例」に関わります。
親が亡くなる直前まで1人で住んでいた家を、相続したあと誰も住まないまま売ったとき、利益から最大3,000万円を差し引ける制度で、1981年5月31日以前に建てた家が対象です。2027年12月31日までに売る必要があります。
ほかに相続人がいれば、今、親のところへ通うことや手伝い、家の費用を誰が担っているかも知っておきましょう。見えないまま相続を迎えると、「あの人だけ得をしている」という誤解が生まれやすくなります。
あわせて、親の財産がおおよそいくらあるかも知っておきます。家の評価額の目安に、預金などを合わせて見ます。
相続税がかかりそうかを知る
相続税がかかるかどうかで、誰が家をもらうのが得かが大きく変わります。相続のあとに知ると、手遅れになることがあります。
親の財産のおおよそが分かったら、相続税の「基礎控除」(相続税がかからない上限の金額)と比べてみます。超えそうなら、相続税がかかる可能性があります。
具体的には、まず相続税の基礎控除は次のように計算します。
基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 相続人の数
相続人の数は、法律で決まる相続人の数です。例えば、相続人が子ども2人なら、基礎控除は4,200万円です。
基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 2人
= 4,200万円
それに対して、例えば実家の評価額が2,500万円、預金が2,000万円なら、財産の合計は4,500万円です(借金や葬式の費用があれば差し引きます)。
基礎控除(例 4,200万円) < 財産(例 4,500万円)
→ 超えた300万円は基礎控除を超えた金額であって、納める相続税の額ではありません
※この数字は特例などを適用する前の概算で、相談が必要かどうかの目安です
このケースでは相続する財産が基礎控除を超えるので、相続税がかかる可能性があるのです。
相続税がかかりそうなら知っておきたいのが、親が住んでいた家の土地の評価額を最大8割減らせる「小規模宅地等の特例」です。この家には親と一緒に住んでいる家族がいないので、子が家をもらっても原則として使えません。
持ち家に住んでいない子は使える可能性がありますが、親の配偶者(もう一方の親)が生きている場合は、離れて暮らす子は使えません。
親が住まなくなったあとに家を貸したり誰かが住んだりすると、この特例も空き家を売ったときの特例も使えなくなることがあります。親が子の家に移った場合も、原則として使えません。急いで名義を変える、形だけ住民票を移す、といったことも、特例が使えなくなる原因になります。
どちらも細かい条件があるので、当てはまりそうなら、この段階で一度、税理士に確認しましょう。
【落とし穴】やらない方がいい行動
次の4つは、一度やると家族の信頼を壊してしまう可能性があります。良かれと思って行動して後悔する人もいるため、注意しましょう。
- 親に知らせずに、不動産会社に査定や売却の相談をする
- 親に、遺言の内容を自分に都合よく誘導する
- 親の住まいを、親抜きで子だけで決めて進める
- 実家は「自分はいらない」「自分がもらう」と今約束する
査定や売却の相談を黙って進めると、親には「家を売って自分を追い出す気でいる」と映ってしまいます。家の評価額の目安は固定資産税の通知で分かるので、今の段階で査定は要りません。
また、親に「どうしてほしいか」を聞くのはよいことです。でも、答えを自分に都合のよい方へ誘導すると、あとで「本当に親の意思だったのか」と争いの種になります。
施設への入所や子の家への呼び寄せを、親の希望を聞かずに子だけで決めて進めると、親は「家から出される」と受け取りやすくなります。
「実家はいらない」「自分がもらう」と今約束することもやめましょう。今それを言っても、法律上の効力はありません。あとから考えが変わる事もあるので、決めるのは相続が発生してからにしましょう。
あなたは将来的にどうするのが良いか
親が1人で暮らす実家では、この先、親の入院や介護、施設への入所や子の家への転居、そして相続と、家の行き先を左右する出来事が順に起こります。
それぞれの場面で何が起きやすく、どう動けばよいかをまとめました。
専門家に相談するタイミング
相続税がかかりそう → 税理士
財産のおおよそと、誰が家をもらう予定か、親が施設に入る可能性があるかを伝えれば、誰が家をもらうと税金がどうなるかを教えてもらえます。
親が「こうしたい」とはっきり決めた → 司法書士か弁護士
遺言は公証役場で作る「公正証書遺言」にすると確実です。ほかに相続人がいれば、その人の最低限の取り分(遺留分)への配慮も、ここで確認できます。
親の物忘れが増えてきた → 司法書士か弁護士
任意後見契約は、親が判断できるうちにしか結べません。気になり始めた時点で相談しておけば、成年後見の申立てが必要になったときの相談先にもなります。
聞いたことを確かめ直すタイミング
親が入院や施設への入所で、家に住めなくなる
家が「住む前提」から「空ける前提」に変わる可能性があります。見回り、郵便、庭の草木、固定資産税などの手間と費用を誰が担うかを、親と、ほかに相続人がいればその人と確かめます。
家族の誰かが実家に移り住みたいと言い出す
誰かが住むと、家の使い方も、相続のときの話し合いの前提も変わります。親の希望と合っているかを、親に確かめ直します。
家に大きな修理が必要になる
屋根や水回りなど数百万円かかる修理は、「誰が払うか」の問題になります。
親が払えるか、あなたや家族の誰かが払うなら家の取り分にどう関わるか、修理せずに手放す選択はあるか。「この家をどうしてほしいか」の親の答えが変わるきっかけになるので、確認し直します。
相続が起きたら
親が亡くなると相続が発生し、期限のある手続きが始まります。
3か月(相続放棄をするかの判断、自分のために相続が始まったと知った時から)、10か月(相続税がかかる場合の申告、亡くなったと知った日の翌日から)、3年(名義変更の登記、相続で所有権を得たと知った日から)と、時期によってやることが変わります。
根拠にした制度・手続き
- 相続税の基礎控除 — 国税庁「No.4152 相続税の計算」
- 小規模宅地等の特例 — 国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」
- 空き家を売ったときの特例 — 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
- 成年後見人(住まいの売却に家庭裁判所の許可) — 裁判所「成年被後見人(被保佐人,被補助人)の居住用不動産の処分についての許可」
- 任意後見契約 — 日本公証人連合会「任意後見契約」
- 相続税の申告期限(10か月) — 国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」
- 相続放棄の期限(3か月) — 裁判所「相続の放棄の申述」
- 相続登記の義務(3年) — 法務省「相続登記の申請義務化について」
- 公正証書遺言 — 日本公証人連合会「遺言」

