制度情報は2026年10月時点で確認しています
あなたの実家は、今どんな状況か
あなたは、親が亡くなってから3か月を過ぎ、まだ10か月はたっていない。相続の手続きを進めているところか、まだ手を付けていないところ、ということですね。
葬儀や役所への届け出がひと段落し、実家や預金の相続の手続きが残っている時期は、多くの家が通る段階です。ただ、相続人の意見が分かれやすい時期でもあります。
実家の分け方の話し合いと、相続税の申告の期限が、同じ時期に重なるからです。「期限が近いから」と話し合いを急ぐと、納得しないまま合意し、あとで「あのときは仕方なく判を押した」と揉める家があります。
この状況で大事なのは、「相続税の申告の期限は、分け方がまとまっていなくても延びない。ただし、分け方がまとまっていなくても申告はできる」ということです。期限と話し合いは、別々に進められます。なお、相続税の申告が要るかどうかは財産の額で決まり、すべての家に申告が必要なわけではありません。
今の段階で大切なのは、残っている期限を確かめることと、分け方は期限に合わせて急がないことです。期限が気になって落ち着かなくても、まず何がいつまでかを知るのが先です。
今のうちにやっておきたいこと

親が亡くなって3か月を過ぎると、相続放棄をするかどうかを決める期限は、多くの場合すでに過ぎています。いま走っている主な期限は、相続税がかかる場合の申告期限(亡くなったことを知った日の翌日から10か月)です。資料を集め、税理士とやり取りして申告書を作るには、数か月かかることがあります。
やっておくべきことは、残っている期限を過ぎないようにすることと、分け方がまとまらなくても申告できるように準備しておくことです。
具体的には、「いつまでに、何を出すか」を、相続人の間で同じように分かっている状態にしておくことです。
過ぎた期限と、残っている期限を確かめる
何がもう選べず、何がまだ間に合うかで、やることが変わります。
- 3か月 相続放棄(過ぎていることが多い)
- 4か月 準確定申告(親に所得税の申告が必要な所得があった場合)
- 10か月 相続税の申告と納税(相続税がかかる場合)
相続放棄は、自分が相続人になったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申し出る手続きです。親が亡くなったことをその時に知り、期間を延ばす申立てもしていなければ、相続放棄の期限は過ぎています。過ぎると、相続を受け入れたものとみなされ、借金があればそれも含めて相続することになります。
準確定申告は、親が亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの所得について、相続人が代わりに行う所得税の申告です。期限は、相続があったことを知った日の翌日から4か月以内です。過ぎていて出していなければ、早めに税務署か税理士に相談しましょう。
10か月の期限は、例えば1月6日に亡くなったなら11月6日です。その日付をカレンダーに書き込み、相続人全員に伝えておきましょう。
相続税の申告が要るかを確かめる
申告が要るかどうかで、10か月までにやることの量が大きく変わります。
親の財産のおおよそが分かったら、相続税の「基礎控除」(相続税がかからない上限の金額)と比べてみます。超えそうなら、相続税がかかる可能性があります。
家の評価額の目安は固定資産税の通知で分かりますが、相続税の計算では土地が通知の額より高く評価されることがあるので、基礎控除に近いときは税理士に確かめましょう。
具体的には、まず相続税の基礎控除は次のように計算します。
基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 相続人の数
相続人の数は、法律で決まる相続人の数です。例えば、相続人が2人なら、基礎控除は4,200万円です。
基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 2人
= 4,200万円
それに対して、例えば実家の評価額が2,500万円、預金が2,000万円なら、財産の合計は4,500万円です(借金や葬式の費用があれば差し引きます)。
基礎控除(例 4,200万円) < 財産(例 4,500万円)
→ 超えた300万円は基礎控除を超えた金額であって、納める相続税の額ではありません
※この数字は特例などを適用する前の概算で、相談が必要かどうかの目安です
このケースでは相続する財産が基礎控除を超えるので、相続税がかかる可能性があるのです。財産が基礎控除以内に収まるなら、申告も納税も要りません。
相続税がかかりそうな場合に知っておきたいのが、「小規模宅地等の特例」です。実家の土地の評価額を最大8割減らせる制度で、申告書を出して初めて使えます。
親と同居していたあなたが家をもらい、申告期限まで住み続けて持ち続ければ使える可能性があり、親と離れて暮らしていたあなたがもらう場合は、原則として使えません。
申告が要りそうなら、早めに税理士に相談しましょう。
分け方がまとまらないときの申告を知る
相続人の話し合いが10か月に間に合わなくても、申告と納税の期限は延びないので、その場合の進め方を知っておきます。
- 法律で決まった割合(法定相続分)で分けたものとして申告する
- 小規模宅地等の特例は、その時点では使えない
- 「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書と一緒に出しておく
分け方がまとまっていないときの申告は、特例を使わずに計算するので、特例を使える家では、税金がいったん多めになります。
申告期限から3年以内に分け方がまとまれば、そのときに特例を使って税金を計算し直し、払いすぎた分を返してもらう手続きができます。分割見込書は、3年以内に分けて特例を使うつもりだと税務署に届け出る書面です。
納税のお金も、分け方が決まる前に用意できます。亡くなった親の預金は、「預貯金の払戻し制度」で、相続人が1人で一部を引き出せます。引き出せる額には上限があり、1つの金融機関で最大150万円です。
実家の登記上の名義人を確かめる
登記上の名義人が誰かで、相続登記(名義の書き換え)で誰から誰に書き換えるかが変わります。
法務局で「登記事項証明書」を取り、登記上の名義人と持分を見ます。誰でも請求でき、オンラインで請求して郵送で受け取ることもできます。固定資産税の通知の宛名は、登記上の名義人と同じとは限りません。
亡くなった親1人の名義なら、その親の相続として登記します。両親の共有名義なら、亡くなった親の持分だけが今回の相続の対象です。祖父母など前に亡くなった人の名義のままなら、その人の相続の登記もしておく必要があります。
いま決めなくていいことは?

相続税がかかる場合の申告期限が近づいていても、実家をどうするかを急いで決める必要はありません。分け方がまとまっていなくても、相続税の申告はできるからです。
そのうえで、「いま決めなくていいこと」には2つの種類があります。
ひとつは、申告の期限に合わせて決めなくてよいこと。もうひとつは、判断する材料がそろってから決めることです。
申告の期限に合わせなくていいこと
期限が迫って急いで決めたいと思っていても、期限とは切り離してよいことがあります。
- 分け方・代償金
- 誰が家をもらうか
- 共有名義にするかどうか
遺産の分け方の話し合い(遺産分割協議)に、法律上の期限はありません。相続人があなた1人なら、分け方の話し合いそのものが要りません。
家をもらう人がほかの相続人にお金を払う「代償金」が要るかどうかも、家の価値と相続税の額が分かってから考えることです。
話し合いがまとまらないからと、「とりあえず」相続人全員の共有名義にするのも急がないでください。共有名義にすると、将来家全体を売るときに名義人全員の同意が要り、1人でも反対すれば、話し合いでは売れなくなります。
材料がそろってから決めること
相続人の間で決めることですが、家の価値や費用が分かるまで決められないことがあります。
- 実家を売るか残すか
- 誰がここで暮らすか
- 介護や立て替えた費用の清算
売るか残すかは、家の価値、修理にかかる費用、固定資産税などの維持費、そして住みたい人がいるかが分かってから決めることです。
誰がここで暮らすかも同じです。実家に住んでいる人がいるなら、その人の暮らしをどうするかを決めないと、売ることも分けることもできません。
親の介護や生活費、葬儀の費用を立て替えた分の清算は、領収書やメモをそろえてから話しましょう。金額の裏付けがないまま話を始めると、事実の確認より先に感情のぶつかり合いになりやすくなります。
【落とし穴】やらない方がいい行動
次の4つは、一度やると家族の信頼を壊したり、余計な税金がかかったりする可能性があります。良かれと思って行動して後悔する人もいるため、注意しましょう。
- 分け方がまとまるまで、相続税の申告を待つ
- 申告に間に合わせるためだけに、納得していない分け方に合意する
- 特例を使うつもりなのに、申告期限より前に実家を売ったり、住むのをやめたりする
- ほかの相続人に知らせずに、親の預金を引き出したり、実家の片付けや売却の相談を進めたりする
分け方がまとまるのを待って申告が遅れると、加算税や延滞税(期限に遅れたことで上乗せされる税金)がかかる場合があります。
また、一度まとめた分け方を、あとから1人の考えで変えるのは難しいものです。
親と同居していたあなたが家をもらって特例を使うなら、申告期限より前に売ったり引っ越したりすると、特例が使えなくなります。
預貯金の払戻し制度で1人で引き出せる場合でも、ほかの相続人に知らせずに進めると、「財産を隠しているのでは」と疑われ、その後の話し合いができなくなる可能性があります。片付けや売却の相談も同じで、黙って進めると「売る気でいる」と映ってしまいます。
あなたは将来的にどうするのが良いか
この先も、分け方の話し合い、名義の書き換え、実家を売るかどうかと、家の行き先を左右する出来事が続きます。
それぞれの場面で何が起きやすく、どう動けばよいかをまとめました。
専門家に相談するタイミング
相続税の申告が要りそう、または分からない → 税理士
財産のおおよそと、誰が家をもらいそうかを伝えれば、申告が要るか、特例が使えるかを確かめてもらえます。資料が全部そろう前でも相談できます。
相続人の話し合いがまとまらない → 弁護士
相続のあとは、家庭裁判所の遺産分割調停(話し合いの場を裁判所に移す手続き)を使う段階に入ることがあります。
実家の名義を書き換える → 司法書士
登記上の名義人が祖父母のままなど、手続きが込み入っている場合に頼みます。
あとから借金が見つかった → 弁護士
督促状が届いて初めて親の借金を知る、ということがあります。相続放棄の期限が過ぎていても、自分で判断せずに相談してください。
進み具合を確かめ直すタイミング
申告期限が近づいても、分け方がまとまらない
話し合いと申告の準備を切り離し、税理士に、まとまっていない状態での申告を頼みます。
申告のあとで、分け方がまとまった
税金が減るなら、分け方がまとまったことを知った日の翌日から4か月以内に、更正の請求(払いすぎた税金を返してもらう手続き)ができます。増えるなら修正申告(足りない税金を足して出し直す申告)をします。
実家を売る話が出た
小規模宅地等の特例を使う人は、売る時期を税理士に確かめてから決めます。
亡くなった親が1人で住んでいた家なら、「空き家を売ったときの特例」で、売ったときの税金が軽くなる場合があります。相続があった日から3年がたつ年の年末までに売ることが条件で、制度としても2027年12月31日までに売る必要があります。細かい条件は税理士に確認しましょう。
10か月のあとに来る期限
10か月を過ぎても、期限のある手続きが残ります。
実家の名義を書き換える相続登記は、相続で家を取得したことを知った日から3年以内が期限です。正当な理由なく過ぎると、10万円以下の過料(国に払うお金)を払うことになる可能性があります。
話し合いが長引いて登記できないときは、相続人申告登記(自分が相続人であることを1人で法務局に申し出る手続き)をしておけば、いったん義務を果たしたことになります。
根拠にした制度・手続き
- 相続放棄の期限(3か月) — 裁判所「相続の放棄の申述」
- 準確定申告(4か月) — 国税庁「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」
- 相続税の申告期限(10か月) — 国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」
- 相続税の基礎控除 — 国税庁「No.4152 相続税の計算」
- 小規模宅地等の特例 — 国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」
- 分け方がまとまっていないときの申告 — 国税庁「No.4208 相続財産が分割されていないときの申告」
- 申告期限後3年以内の分割見込書 — 国税庁「B1-5 相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続」
- 預貯金の払戻し制度 — 法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」
- 登記事項証明書 — 法務局「登記事項証明書(土地・建物)、地図・図面証明書を取得したい方」
- 相続登記の義務(3年) — 法務省「相続登記の申請義務化について」
- 遺産分割調停 — 裁判所「遺産分割調停」
- 相続人申告登記 — 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」
- 空き家を売ったときの特例 — 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」

